「おのれェ、ロウキマンッ!!」
「違法残業、サービス出勤! そんな悪は見逃さない!」
「くっ、このホワイト野郎がァ!」
「成敗!」
決めポーズと共に軽い爆発。
煙が晴れると、ステージからはブラック将軍パワハランの姿は無く。悪は滅びた。
ヒーローが去ると同時に、会場からは歓声と拍手*1が巻き起こった。
こうして、今日のヒーローショーは幕を閉じた。
舞台後、子供たちはヒーローに駆け寄り、一緒にポーズを取って写真を撮ったり、握手をしたりと大はしゃぎしていた。
――その裏で。
「今日も大盛況で良かった」
悪役の被り物を外し、掌仙術で治療を終えたジライヤ(本体)がうんうんと頷いていると、商工会の役員がやって来た。
「ああ、大塚さん。お疲れさまです。本日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
大塚はジライヤの本名だ。今世の名前が分からないため、前世から引き続き使っている。
「急な依頼でしたが、引き受けてくれて助かりましたよ。地元の子供たちからヒーローショーを見たいってせがまれまして……」
「はは、我々もありがたいですよ。一時は大きく減ってどうしようかと思っておりましたが、今は出演依頼が増えて生活できるようになりましたし……」
「ああ、そうなんですか。ヒーローショーを見て育った世代としては信じられませんが……」
「時代ですかねぇ。娯楽も増えましたし、今は映像配信もありますから」
「成程。ああでも、先ほどのショーを見てウチにも出演してくれないかと、隣町の役員から聞かれまして……」
「本当ですか? ありがたい話ですね」
「もしよろしければ、あちらにいますので話をして頂けませんか?」
「ああ、大丈夫ですよ。着替えたら向かいますね」
ジライヤは次の打ち合わせに向かい、影分身たちは舞台の片付けを始めた。
写真撮影や握手会が終わったところで、全員で見送る。
親子でバスに乗っていき、窓際では子どもたちがまだ興奮冷めやらぬ様子でこちらへ手を振っていた。衣装から着替えた影分身たちも、笑いながら大きく手を振り返した。
バスが道を曲がり、大通りへ向かっていったのを見送って、ジライヤたちは笑顔で再び片付けに入った。
――十数分後。
ドン、と遠くで爆発音が響き渡った。続けて、人々の悲鳴がここまで届いた。
「なんだ?」
「事故か?」
困惑するスタッフたちをよそに、ジライヤの下へ“声“が届いた。心伝心の術だ。
(本体、聞こえるか?)
(どうした?)
(さっきのバスがヴィランに襲われた。ハイジャックだ)
「――は?」
思考が一瞬、停止した。
(……おい、本体。殺気が漏れてるぞ。周りのスタッフがビビってる)
(あ、すまん)
落ち着け。鏡を使って自分に幻術をかける。よし、落ち着いた。うん。
声を掛けるとスタッフたちも何だったんだ、と腕をさすりながら動き始めた。そうこうしているうちにプロヒーローが飛んできて、現場へ急行していった。警察による避難誘導も始まる。
「プロヒーローが行ったなら問題ないが……」
自分が出る必要はない。ここは彼らの仕事だ。
だが、それはそれ。ヒーローショーを見て楽しく帰っていたのを台無しにしたのは、舐め腐った真似した奴はどこのどいつだ?
「……影分身、任せた」
「おう、こっちは適当なところで怪我人の救助に当たるわ」
「頼んだ」
誰もいないことを確認し、追加の影分身を置いていく。
そのままジライヤ本体だけが現場へ向かった。
(状況は?)
(運転手を拘束して、そのままバスごと逃走してる。子どもも親も全員乗ったままだ)
(進行方向は?)
(南西。湾港の工業地帯へ向かってる)
どうやらパトカーやプロヒーローが追跡しているようだが、待ち伏せしているヴィランが手当たり次第に暴れ、道路を破壊しているために容易に近付けていないようだ。
身代金目的なのか、はたまた子供の個性が目当てか。いずれにせよ、あまり時間はかけられない。
ヴィランを制圧するだけなら簡単だ。いつもの忍術と体術で制圧できる。
だが、周囲にはプロヒーローと警察が集まり始めている。余計な注目を集めて、考えなしのプロヒーローが来たら子どもを巻き込んでしまう。
よってジライヤとして救出は不可。
かといって、いつものようにヒーローとして現れるのも問題だ。手加減なしのヴィランと戦闘は、子どもには刺激が強すぎる。また近くで劇団木ノ葉としてヒーローショーをしていた人物が、今度は本物の事件現場に現れる。余計な詮索を受けたくない。
となれば、もっとも相応しい姿がある。
子どもが泣いて、怖い思いをしている時。真っ先に駆け付け、笑顔に変えてしまうみんなのヒーロー。
(廃工場に入った。人質を降ろしている)
「あいよ。柄じゃないが、なってみるか」
ジライヤは、ある姿に変身した。
* * *
廃工場。
子どもが一か所に集められ、ただひたすら声を殺して縮こまっている。
目の前で悪魔のような形相のヴィランに怒鳴られ、見せしめに親が何度も蹴り飛ばされていた恐怖が今でもあった。
「ママ……パパ……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
子どもたちは大人に抱きしめられた中で、懸命に息を殺している。
――そこに。
「やめるんだ、ヴィラン!」
「ああ?」
ヴィランたちが一斉に振り向く。
降り立ったのは、誰もが聞き覚えのある声に、丸い顔の正義のパンの英雄を思わせる姿だった。
「アンパンマン*2……?」
子どもの一人が呟く。
「アンパンマンだ!」
「アンパンマンが来てくれた!」
震えていた子どもたちの声に、少しだけ明るさが戻った。
「アンパンマンかよ」
「なんだぁ、ふざけやがって……」
「テレビの中へ帰れや」
「みんな怖がっている。解放するんだ!」
「はっ、帰すわけねぇだろ!」
巨漢のヴィランが能力を発動しながら駆けだす。増強系なのか、上半身だけが異様に巨大化していた。
「邪魔なんだよ!」
巨大な拳が打ち下ろされるのを、ふわりと避ける。続く連撃をくるり、くるりと空を飛んで軽やかに、まるでアニメのワンシーンのように避けていく。
「まだ間に合う。悪いことはやめるんだ!」
「うるせぇ!」
「ぶっ飛ばしてやる!」
頭に血が昇ったヴィランたちが人質から離れ、一斉に固まりとなって襲いかかった。
その瞬間だった。
黄色い拳を、真っ直ぐに振り抜いた。
「アーンパーンチ!」
『ぶべぇ!?』
次の瞬間、ヴィランたちが宙を舞い、そのまま窓の外へと吹き飛ばされていった。
突き出したままの拳を降ろし、残心を解く。よし、ヴィランにかけた催眠は最後まで破綻しなかった。
「みんな、もう大丈夫だよ」
「アンパンマンー!」
「アンパンマン、助けに来てくれたの!?」
「アンパーンマーン!」
「みんな、少しだけ静かにね」
そう言いながら、頭の一部をちぎって渡した――そう見えるように幻術を重ねながら、口寄せした一口大の焼きたてのアンパンを子供たちへ配っていくと、嬉しそうに食べ始めた。忘れずに一緒に紙パックのジュースも配っていく。
(どうだ、他に子どもや人質はいるか?)
(こちらA班、誰も見当たらないな)
(こちらB班、車や部屋は見つけたが、もぬけの殻だ)
(C班、敵を見つけた。鎮圧したが、なんか妙だな)
(どうした?)
(どうも、こいつらヤクザっぽい)
(ヤクザ? 今どきか?)
(大方、よさげな個性持った子どもを売り払って、という感じか?)
(ちとわからんね。ちょっと残って調べてみるわ)
(あいよ、頼んだ)
「さあ、おうちまで帰ろう。お友達を呼ぶから、ちょっと待っててね」
その丸い手で印を組む。ボフン、と軽い音と共に煙が現れた。
煙が晴れると、そこにいたのは巨大で、不思議で、でもなぜか怖くない生き物だった。
「ヴォア?」
「ナーオ」
「……トトロ?」
「トトロ*3だぁ!」
「トトロもいた!」
「猫バス*4もいる!」
「おっきいにゃんこー!」
子どもたちだけが歓声を上げるが、大人たちは先ほどの動きと煙に見覚えがあった。
「今の、は」
「……忍術?」
「もしかして……」
(すみませんが、今だけは目を瞑っていただけませんか? 必ず無事に帰しますので)
その言葉に、大人たちも小さく頷いた。ついで聞くと、ここにいる者で全員と答えてくれた。
「ドゥオ、ドゥオ、ヴォロー」
「さあ、みんな乗って。トトロと一緒に帰ろう」
『はーい!』
「ママー、猫バスに乗ろー!」
「そうね、乗りましょうか」
短いけれど、ちょっとした夢のバス旅の出発だ。
猫バスは、大きく鳴いて跳び上がった。
* * *
特撮忍者ジライヤを語るスレPart XXX
114:名無しのマニアさん ID:GRAPEJUICE
やっぱジライヤはオイラにハーレムの術を見せるべきなんだ
115:名無しのマニアさん ID:GAqQKDDaZ
本人クッソ嫌がってるじゃん
116:名無しのマニアさん ID:7Gctlg+Ma
ここ特撮スレだからエロスレにいけカス
117:名無しのマニアさん ID:VoFmwZj/0
なんかエロばっかに粘着するやつ多いなあ
118:名無しのマニアさん ID:DUBBtP7Lv
【速報】 ジライヤさん、誘拐事件に遭遇してヒーローになって全員を救助するwww
119:名無しのマニアさん ID:WZSIk2KX2
ジライヤは既に俺たちの息子のヒーローだぞ
120:名無しのマニアさん ID:ArB839Pso
は?ソースは?
121:名無しのマニアさん ID:eOdBeG2oJ
醤油はあるぞ
122:名無しのマニアさん ID:UWm52VeIF
ケチャップなら
123:名無しのマニアさん ID:mJHjTmiNN
>>120 ほい
20××年3月、××県××市で開催された商工会主催の祭りに参加していた児童らを乗せた送迎バスが、ヴィランによって襲撃される事件が発生した。バスは爆発によって大破し、現場に駆け付けたプロヒーローによって乗客の救助が行われたものの、児童十数名と一部の成人が連れ去られた。プロヒーローによる懸命な捜索が行われていたが、事件発生から約1時間後、児童らは近隣の小学校グラウンドにて発見され、無事保護された。
救出された児童らは、アンパンマンやトトロ、猫バスに乗って助けられたと証言している。その正体はジライヤではないかと、一部報道されている。
124:名無しのマニアさん ID:dmZo7bhmR
マジでした
125:名無しのマニアさん ID:u4S7Y16rv
え、どうゆうこと? アンパンマンやトトロになって助けたってこと?
126:名無しのマニアさん ID:WzhyUxLLf
夢だけどー!
127:名無しのマニアさん ID:pWOSzoH7q
夢じゃなかった―!
128:名無しのマニアさん ID:8iegGzi1q
アンパーンマーン!
129:名無しのマニアさん ID:eMEAS8bgi
え、猫バスに乗ったの?裏山
130:名無しのマニアさん ID:qU9m1NAqj
割と笑えない事件なのに証言だけファンタジーなんだが
131:名無しのマニアさん ID:LTwYNS6HT
ヴィラン「アンパンマン!?」
132:名無しのマニアさん ID:2nXN3oKdX
プロヒーロー:アンパンマンwww
133:名無しのマニアさん ID:fIMs4NJLP
つよい(つよい
134:名無しのマニアさん ID:JUjQK66zh
つよすぎるっピ!
135:名無しのマニアさん ID:DLcwoQAZQ
頭ちぎってアンパン配ったって証言まであるの笑う
136:名無しのマニアさん ID:Qy2Llkz5w
泣いてる子供の前でアンパンマンになる判断力よ
137:名無しのマニアさん ID:hEuqm/dYY
オールマイトもアンパンマンが好きだとかなんとか
138:名無しのマニアさん ID:Toshinori
素晴らしい判断だ。恐怖に震える子供たちを安心させることを最優先したのだろう。私もその場にいたかったよ。
139:名無しのマニアさん ID:cWN+6zxYN
校庭で記念撮影とかwww俺もやりたい
140:名無しのマニアさん ID:1IFnnweZp
ジライヤー!俺も猫バス乗せてくれー!
141:名無しのマニアさん ID:tZQ5EWF7c
トトロの腹に飛びついて空飛びたいです……
142:名無しのマニアさん ID:0miOrwdVe
>>135 アンパン配ったらしいぞ
143:名無しのマニアさん ID:NTlNFRw6F
しかもジュース付きである
144:名無しのマニアさん ID:mTEZ9GZ/x
>>137 そうなの?言われてみればなんか似てるな
145:名無しのマニアさん ID:5baX+afor
ものすごく手厚いサービス
146:名無しのマニアさん ID:fQZKYiO1X
ジライヤってこういう発想ほんと好き
147:名無しのマニアさん ID:mghOhfSO0
なんで結構な事件でオールマイトいないのかと思ったら、地方に行ってたのか…
148:名無しのマニアさん ID:onrlRsqJI
動画あがった
つ[猫バスがビルの屋上を走っていく動画]
149:名無しのマニアさん ID:HtSMwznm1
これ子供一生忘れんやろ
150:名無しのマニアさん ID:FI/i/2pLI
最高のヒーロー体験だな
151:名無しのマニアさん ID:j2CF/uPli
うおおおうらやましいいい
152:名無しのマニアさん ID:WDUvitAy/
記念撮影
153:名無しのマニアさん ID:fsBlbWI7z
つ[子どもとアンパンマンとのツーショット写真]
154:名無しのマニアさん ID:Toshinori
いいなあ
155:名無しのマニアさん ID:lrvRvBC+m
アンパンチ喰らったヴィラン、捕まる。いつものショッカー戦闘員が縛り上げてたからジライヤ確定
156:名無しのマニアさん ID:EUqslWcic
ここでショッカー戦闘員www
157:名無しのマニアさん ID:cU2NQObnn
もはや特撮というより子供の夢全部担当してるだろ
158:名無しのマニアさん ID:O19NxVKGc
ジライヤすげーな。なんでヴィランやってんだろ
159:名無しのマニアさん ID:DTTSnRF9C
泣いてた子供を笑顔にしたなら、それはもうヒーローなんよ
感想評価、誤字脱字がありましたらお願いします。
なーんかこんな感じで良いのかなぁと思いつつ投稿。まだ引っかかるのですけど、それが分からないので、あとで加筆修正します。
いつもお世話になっております。 短編置き場の小説をいくつか独立させようか、迷っております。独立させるなら、皇国の守護者とバッソマンになるかと思います。よろしければ、ご意見をお聞かせいただけませんでしょうか?
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独立させて再投稿
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独立しないでそのまま
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章管理で分ける