まだ夏は終らない、始まったばかりなのだから当たり前だが。
人で賑わう商店街を、買い物袋をぶら下げて歩く。親から頼まれた品は全部買ったので、後は家に帰るだけだ。
「福引券とか貰ったが、2枚だけじゃ回せないしな」
買い物をして貰った福引券片手に家を目指す。回すには3枚必要なので、後一枚足りない。元よりやりたいわけでもないので、気にはしてないが。
ちらと福引の会場を見る、折りたたみテーブルにカラカラが置いてあり、商品一覧の板が立ててある至って普通の会場には、長蛇とまでは行かないが、そこそこの列があった。もしかしたら知り合いでもいるのかも知れないと思ったが、知り合いはチームメンバー程度しかいないので、その可能性も
『おじさん!うちの福引券1枚を三等分に切って3枚ということにならんやんね!?』
『それ結局福引券1枚だから・・・』
いた・・・出来れば今この場でもっとも会いたくな奴だった・・・。
人の少ない、いない所なら、周りから黄名子の奇行のせいで変な目で見られることはないのでいいのだが、商店街は人通りが多いし、嫌でも人の目につく。現に今の黄名子は道行く人々が決まって目を向けているし、出来る限り接触は避けたい・・・。というわけで、俺はすぐに回れ右をして黄名子から距離をとる。
「・・・よし、帰るか」
「・・・はっ!剣城のにおいがするやんね!左斜め後ろ49度距離約7メートル!」
「お前犬か!?いやそれ以上か!?」
人ごみの中だというのに、それでいてこちらの姿を見ずに、においで位置と距離まで割り出したのかっ!?
「えーっとー・・・あっ!つーるぎー!こっちこっちー!」
見つかった以上、特に抵抗するわけにも行かないので、しぶしぶ黄名子の元へ歩いた。
「はぁ、で、お前はさっきから何やってるんだ」
「お腹空いたから散歩がてらアイス買いにきたやんね。で、アイス買った時に福引券を1枚貰ってー、回そうとしたら3枚必要だったんよー。だから3等分にして」
「店の人も言ってたが、それ結局1枚だからな。ほら、俺の持ってる2枚やるから、それで引けよ」
「おおー!剣城ありがとーやんねー!」
ポケットから2枚の福引券を取り出し、黄名子に渡すと、きらきらとした笑顔でそれを受け取った。
「おじさーん!これで回すやんね!」
「あいよー。優しいね彼、彼氏?」
「彼氏より良い人やんねー」
「ごふっ!何言ってる黄名子!!!」
結果、当たったのはポケットティッシュだった。
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「ティッシュにも価値はあるやんね!」
「ほんと前向きだなお前・・・」
戦利品を握り締めた手を掲げる黄名子。こいつのことだから結果に文句はないだろうが、もっと上のものが欲しかったのには変わりないだろう。
「お前何か欲しいのあったのか?」
「遊園地のチケット欲しかったやんねぇー・・・オープンしたばっかりの奴だから行ってみたかったやんね!」
「それペア券だろ。誰といくつもりだよ」
「つーるーぎー♪」
「だと思ったが・・・」
黄名子からしてみれば、いつも遊んでくれてる友達を誘ってるだけだろう、人の気も知らずに・・・。
「じゃあ俺は用事済んだから帰る、お前も早く課題でも進めろよ」
そういって黄名子と別れようとしたが、返事が無かったので気になり振り返ってみると、壁に貼ってあったポスターを見ていた。
「何見てるんだ?・・・・・稲妻町主催、町内レース?町内会のイベントか。これがどうかしたのか?」
「ここの景品欄!うちの欲しかったチケットがあるやんね!」
そういって黄名子が指差すのは、ゴール時に貰える景品欄。そこには確かに、黄名子の欲しがっているペアチケットがあった。
「へぇ、今までこんなの無かったような気がするが、今年になってやりはじめたのか?」
「それはこの際どうでもいいやんね!これは出るしかないよ!うち頑張るやんね!」
黄名子が両手を体の前で握り、やる気を露にしている。参加するのは黄名子の意思だし、俺が何かいう必要もないな。
「じゃあ頑張れよ、俺も観客席くらいで応援はしてる」
「何行ってるやんね。剣城も一緒にやる!」
「な!?俺も?」
「だってこれペアで参加って書いてあるやんね。だから剣城一緒にー!」
よく見ると、参加条件にペアで参加ということが書いてある。つまりこいつがやる気になった時点で俺の参加も決まっていたってことか・・・。
「あぁ・・・分かったよ・・・俺も参加してやるから、ただそのペアチケットを使って一緒に行くわけじゃないからな」
「むー。まっ、それは後で考えるやんね。ありがとー剣城♪」
参加する以上は全力を尽くさなければ黄名子に悪いだろうし、そんなにチケットが欲しいなら俺も渡してやりたい、一緒に行くことについてはまだ迷っているが、持っている分には問題ないだろう。
日時は5日後。4日前までが受け付け締め切りと書いてあったし、レースというのだから体力は使いそうだ。しっかりコンディションを整えて挑もう。
その日は、お互い頑張ろうと拳をあわせ、受付を済まして解散した。その後、家に帰って買い物袋を見ると、俺の買っておいたアイスだけが無くなっていることに気づいた。
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ーイベント当日ー
時刻は、レース開始時間の夕方6時ちょっと前。少し薄暗さはあるが、まだ十分明るい時間帯だ。参加者は50人くらいだろうか、中々人数がいるように感じるが、ペアの参加であるため参加チームは25チーム程度ということになる。
レースの内容は、道中にさまざまな試練や障害があり、それらを突破できなけばその場で失格、それらを全て乗り越えゴールすることが出来れば、景品欄の中から先着で選んでいけるというものらしい。目当てのものを確実にゲットするのであれば、目指すは1位だろう。
「剣城は体調大丈夫やんね?」
「あぁ、やるからには優勝するぞ」
「その意気やんね!うちも全力でやる!」
二人やる気十分。これならきっと優勝は・・・
「優勝は可能。そう思ってるだろう剣城、だが無理だ。優勝し、ペアチケットを手に入れるのは俺達だからな」
「っ!その声は・・・井吹・・・!」
声がしたほうを振り返ると、自信に満ちた井吹が神童さんを背負って立っていた。・・・・・・神童さん・・・?
「おい井吹、ひとつ教えてくれ、なんで神童さんが生気の無い顔でお前に背負われているんだ。意識がないように見えるのは気のせいか」
「ペア参加してくれと頼みに行ったら、絶対に嫌だと断られたから、サッカーバトルしたんだ。勿論勝って今日こうして参加したわけだが、朝からこの様子らしく、仕方なく背負ってきた。開始前にはきっと目を覚ますさ」
よっぽど嫌だったんだろうな、神童さん。
「という訳で黄名子、俺は絶対に優勝してペアチケットを手に入れる。手加減はしないが、お互い頑張ろう」
「分かったやんね!うち達も絶対負けないやんね!」
火花を散らす二人、井吹と神童さんが参加するとなると、優勝できるかどうかは分からない。持てる限りの力を全て使って向かわなければ・・・。
「そろそろ開始となります!参加者はスタート地点に集まってください!」
係員の声が聞こえ、俺達はスタートラインに立つ。
すぐ隣にいるライバルに負け時と、ホイッスルと同時に、優勝目指し、俺達のレースは始まった。
読んでいただきありがとうございました。まだ続きますので、次もよろしくお願いします。