ペルソナ3 招かれし者   作:パステルいろ

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2.a transfer student/彼女

 

月光館学園、講堂にて。今現在、俺は始業式の真っ最中である。

生徒を収めきってなお余裕を見せる講堂に響く、校長の長話を聞き流しつつ、周囲に視線を滑らせる。

幾つかの視線がこちらに向いているのを確認しつつ、それは転校生の物珍しさからくるものと斬り捨てる。

俺が探しているのはそれと同質ながらこちらに向いていない視線だ。

注意深く辺りを探ると、主に男子生徒の視線がそちらへと向かっているのがわかる。

複数の視線を追ったその先に、俺の探していた、全てを決定付ける人物が座っていた。

「……。」

楚々とした表情で背筋を正し、パイプ椅子に深く腰掛けているポニーテールの女子生徒。

こちらから見える横顔だけでも端正な顔立ちであることが窺える美少女。

何より、その身から感じる同種のアルカナの気配こそが、彼女の正体を決定付けていた。

……間違いない、彼女こそがこの世界の主人公である少女だろう。

早くに登校して先んじて講堂に入ったために、職員室では遭遇しなかったが、俺と同じ転校生である彼女。

面と向き合って確認することが怖くて、先に講堂へ向かっておくという手段を取ったが、

いざ確認してしまえば、それほど特別に何かを感じるということは無かった。

ただ、その身から煙のように立ち昇っている気配だけが、少し怖かった。

死神のアルカナに属する、強力無比なペルソナ、タナトス。

そして、それ以上に深いところに眠る全ての原因も。

俺の所持するペルソナでは手に負えないもの達であるからか、無用に心が騒ぐのだ。

加速する心音を感じながら、俺は彼女から視線を外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初から、気にはなっていたのだ。

寮で知り合った同級生、岳羽ゆかりに連れられ、迷うことなく登校初日に間に合った月光館学園。

岳羽と別れた彼女は自分の所属を知るために、組み分けの張り出された掲示板を目で浚っていた。

そのときに、追加で張り出されていた紙の上にあった自分の名前のすぐ上にも、名前が一つあったこと。

それが最初に目を惹いた。それに、職員室で自身の担任に挨拶をしたときも、気になる発言を聞いていた。

「……あら、転入生クンの次は、転入生ちゃんか。ええと、名前は何ていったかしら……」

こんな発言を聞かされ、気にならない方がどうかしている。

名前はあれど、気配はあれど、姿は見えず。

得体のしれない〝謎の転入生〟に、自身も転入生である彼女は興味津々であった。

唯一知れている情報は名前のみ。そこから推測されることは、おそらく男性という点だけだ。

2年F組、春日郁人。いったい彼がどんな人物なのか、彼女は憶測を巡らせて楽しんでいた。

校長の長い無駄話をBGMに、謎の人物や新しいクラスについて考える彼女は、それだけで多くの衆目を集めていた。

彼ら彼女らは、本人が生産性の無い思考で意識を宙に浮かせていることに気付かず、噂話に花を咲かせる。

どうして転校してきたのか、可愛いけど彼氏いるんだろうか、朝、岳羽と歩いてるの見たぜ、など、

様々な話が彼女の周囲を飛び交う。しかして本人はそれを完全に無視、思考を遊ばせている。

この程度の視線の多さなど、彼女は慣れきってしまっていた。

度重なる転校にはすっかり慣れ、その度に友人をつくり周囲に溶け込む。

噂も放っておけばいずれ収まる。そういった処世術が身に付くくらいには彼女は慣れていたのだ。

今もそう、隙の無い表情をしていれば、そう悪い噂のマトにされたりはしない。

両親と死別し、親戚に盥回しにされた彼女は、敵を作らない術を学んだ。

そうして彼女は深い海のごとき内面へと埋没する。

明るさも、気安さも、今現在の無駄な思考に耽る呑気さも、全ては彼女の仮面でしかない。

だからこそ、その名前に抱いた好奇心も、仮面の活動の一部でしかないと、彼女は考えていたのだ。

しかしてそう遠くない未来にて、春日郁人という名の不確定要素は思いのほか深く、彼女の中に食い込むこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

思いの他あっさりとした一方的ファーストコンタクトが終わり、次いでに始業式も終わり。

次にクラス初のホームルームを行うに当たって、転入組は教室外で待機しているように鳥海先生からお達しを受けたのだが。

「……。」

「へぇ…………。」

居心地が、悪い。

一度確認しておいたおかげで、ボロを出すことなくスムーズにセカンドコンタクトを済ませたのだが。

『あ、初めまして。君と同じ転入生で春日郁人っていうんだ、よろしく。』

『うん、初めまして!私、結城理。よろしくねっ!』

ここまでは、いたって普通の自己紹介だった。

予想に反して元気な感じだったのに驚いたが、ゲーム本編でも元気系な選択肢が多かったのを思い出して気を落着ける。

そこからは特に会話も無く、呼ばれるのを待つだけだと思っていたのだが。

「……。」

「う~ん…………。」

見られてる。めっちゃ見られてる。

まるで俺を視線で貫かんとするかのように、凝視してくる結城さん。

可愛い女の子に見つめられるのは嬉しいが、それと関係なく滲み出る〝死〟の気配に汗が噴き出す俺。

両者に取って益の無い時間が流れ、ようやく鳥海先生の声が聞こえた時には、俺は疲労すら感じていた。

いったい何故、俺のことを見ていたのだろう。疑問は尽きぬまま、自己紹介をさせられる。

「どうも、春日郁人っていいます。ここには親の仕事の都合で来ました。一年間、よろしくお願いしまーす。」

疲れが滲む声での自己紹介。怪訝な顔で見られてしまったが、これが今の俺の精一杯なんだよ許してください……マジで。

そして、そんな俺をよそに、元気いっぱいに自己紹介する結城さん。いやぁ、笑顔が眩しい。

今ので男子連中には、結城さんの存在は刻みこまれただろう。女子受けも良いようだし、結城さんスゲぇな。

と、そんなことを考えている内に、指定された席に着くことに。お隣さんに挨拶してから、ようやく人心地ついた感がある。

転校って疲れるのね。椅子の背もたれに大いにもたれながら、俺は深くため息を吐いた。

そこからは色々と注意事項やらカリキュラムの説明やらを聞いた気がするが、あんまり覚えていない。

ぼんやりしていたら、何時の間にか放課後だったという心境だ。

じゃあな、と声を掛けてくるクラスメイトに軽く挨拶を返しつつ、俺も鞄を持って立ち上がる。

と、おもいきや。

「よっ、転校生!今帰りかー?」

前方に人影。顔を上げてみれば、そこには顎ヒゲが特徴的な一人の男子生徒がいた。

彼は野球帽のツバを軽く上げると、人懐こそうな笑顔で喋り掛けてきた。

「えーっと、誰?」

「おいおい、自己紹介なら今するトコだって!てなわけで、オレ、伊織順平ってんだっ。よろしくな、転校生その一!」

なかなかに軽快な語り口で話しかけて来たのは伊織順平、彼はゲーム本編にも登場した人間である。

といっても、現実では初対面なわけで。

「ああ、よろしく、伊織。」

「っはー!!かてぇなー、オレのことは順平でいいって、そんかわり、お前のことも郁人って呼ぶわ、オーケー?」

「お、おう。」

順平はゲームでもそうだったが、なかなかにアグレッシブな奴だった。

いきなり名前呼びになったわけだが、なぜか強引でも嫌味を感じない、明るい気安さ。

気付けばそれなりに話が弾み、そして何故かもう一人の転校生にも挨拶しよーぜっ!!ということになり、俺たちは結城さんの近くへと。

……空気感に流された。そう気付いたときには既に手遅れ。流れ矢のように飛んでくる結城さんの視線を受け続けることになっていた。

コイツもそうだけど、転校したてって色々あるじゃん?と話す伊織に返答しながらも、結城さんはこちらを気にする。

……よもや、俺のペルソナに反応しているのだろうか。そう考えると、こちらを気にすることに理由がつけられる。

自身が内包している〝モノ〟の影響を受けて、死神のアルカナに反応している……とか?

所詮、知識の浅い俺では、こじつけに近い理由しか思いつかないが。しかし、何かしらの理由でペルソナに反応しているという考えはいい線だと思う。

と、そんなことを考えていると、新たな人物が現れた。順平を呆れた様子で窘める彼女は、

「……まったく、女の子とみれば誰にでも声かけて。結城さんも、それと春日くんも、迷惑なら迷惑ってはっきりいいなよー?」

「えー、そりゃ無いぜゆかりッチ~……。」

岳羽ゆかり。彼女も登場人物の一人だ。毛先を緩く巻いた薄い茶髪のショートヘアに、利発そうな目が印象的な女の子である。

一言でいうなら今風のコ、だろうか。結城さんとは別タイプの美少女である。

そんな彼女も交えて、会話はなかなかに弾んだ。主に順平をイジる方向で。ヤツは嬉々とした表情でボケと突っ込みをこなしていた。

その後、弓道部の用事があるという岳羽さんと別れてから、三人で帰ることに。

その後は特に何事もなく。途中で結城さんたちと別れてから、俺はさっさと帰宅した。

今日、明日は早く休んで、明後日、来るべき日に備えるのだ。

……それに、慣れない転校で疲れてしまったというのもあったが。

転校に際し両親が借りてくれたアパート、そのフローリングに転がって息を吐く。

たっぷり呼吸三つ分、目をつむって肩の力を抜いた。

明後日、彼女に最初の試練が降りかかる。

俺はそのときにあの場所、巌戸台分寮に潜り込んでペルソナ能力を見せる予定だ。

そうして特別課外活動部、S.E.E.Sに潜り込み、最初の目的である幾月の調査を行う。

奴が何を考えているのか、何を研究していたのか、また、アイギスについての資料を持っているのか。

まずはその辺りを調べる。最悪、何も分からなくても最後にはどうにかしてしまえる。

そのための切り札を、俺は持っている。使ったら最後、どうなるかは予想できないモノだが。

色々と考えること、問題は山積みだが、まあ、あまり先のことを考えてもしょうがない。

俺に今できることは、地道に努力して地力を上げることだけである。

そこまで考えてから思考を打ち切り、財布を掴んで起き上がる。

料理ができないワケじゃないが、疲れていて面倒だったのだ。

せっかくポートアイランドに来たのだから、噂のラーメン屋、はがくれにでも行ってみるか。

思い立ったが吉日、俺は私服に着替えるとアパートを出るのであった。

 

 

 

 

……はがくれの〝特製〟は、まことに美味でございました。

 

 

 

 

 

 




読了、ありがとうございます。以下、毒にも薬にもならない解説です。













ハム子/結城 理
ゆうき まこと。映画版ペルソナ3からの流用です。


アルカナの気配
結城のアルカナは愚者を基本としたワイルドなのですが、その根底にデスの影響があり、また、オルフェウスのなかからタナトスが出てくるムービーがありましたので、それらを踏まえて、死神のアルカナを持つオリ主から見れば、その上位に位置する結城のペルソナの気配は、威圧感として薄らと感じられる。という屁理屈です。何いってるかわかんないですね。また、オリ主はペルソナを通して、シャドウや危険などの死を感じさせるものに反応できるという設定が微かにあります。本文に書かねえとわかんねえよって話ですが。申し訳ありません…



オリ主が気になる……?
結城がオリ主を気にしているのは、単純に同種のアルカナを薄ら感じ取り、奇妙な懐かしさを感じているから、という設定です。増えるオレ設定、ごみ屑SSここに極まれり。ごめんなさい。

幾月の調査
幾月は謎多き人物ですが、確かなことが一つ。彼は桐条で研究者をしていたということです。つまり、デスの誕生に関して何かしらの関わりを持っているということ。オリ主はそれをとっかかりに、各アルカナの巨大シャドウやデスに関する情報を集めようとしているのです。
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