タルタロス内部、一階エントランス。
チェス盤の様なツートーンの床に、荘厳かつ細緻な装飾を施された、西洋の神殿に似た壁や柱。
その中央を分断するように伸びた緋色の絨毯の先には、巨大な時計を模した入口がある。
あまりにも異質、あまりにも無機質。
およそ人の住む世界から隔離されているような内装に、目を奪われてしまう。
「オォ、スゲー。中はこうなってんのか……。」
ため息交じりの声に、意識が引き戻される。
特別課外活動部の面々は、先輩方を覗いてそれぞれが、この異様な空間を観察していた。
順平は驚きつつ、岳羽さんは怖がりつつ、結城さんは……。
「……。」
何と評せばいいのだろうか、強いて言うならば不思議そうに、だろうか。
普段の様子と違う、感情が薄い表情に戸惑ってしまう。
「さて、機材の設置も終わった。これから探索の概要について説明するぞ。」
桐条先輩の声が、広いホールに反響して響く。
「今日の探索もそうだが、明彦の怪我が完治するまでは、お前たち四人だけで探索を行ってもらう。」
「え!?」
新人のみに探索を任せるという桐条先輩の言葉に、岳羽さんが喰いついた。
「私達だけでですか!?」
非難するようなニュアンスの込められた言葉に、桐条先輩はまったく動じずに返した。
「だが、深入りさせるつもりは無い。私は通信で、ここからお前たちをバックアップする。」
「真田先輩は怪我だし……二人とも、来られないと?」
「ああそういうことだ。」
一応は納得したようで、引き下がる岳羽さん。
その表情には非難よりも、不安の色が濃いように見受けられる。
そういえば、まだまともにペルソナの召喚、してないんだっけか。
そう考えると、岳羽さんの不安も分かる気がする。
ペルソナ無しでシャドウと戦うなんて、自殺行為に等しいことだし。
そう思考している間にも、説明は続いている。
「……それと、探索にあたり現場でのチーム行動を仕切る、リーダーを決めておこうと思う。」
桐条先輩の何気ない提案に、とある人物が激しく反応した。
「リーダー?それってつまり、探検隊の隊長?ハイ、ハイハイッ!!オレオレッ!!」
その瞬間、順平を見ながらでも、真田先輩の表情が歪むのが見て取れた。
先輩は自然に順平から視線を逸らし、そして何故かこちらを見た。
「春日、お前がやれ。」
不意打ちだったんで、本気でびっくりした。
俺が驚いていると、その間に順平が真田先輩に向かって不満を口にしていた。
「何でコイツッスか!?俺とそんな変わんないッスよ!?」
「だが、少なくともペルソナに関しては、お前たちより大きなアドバンテージがある。そうだろ?」
こちらを見る真田先輩。その言葉を裏付けるように、岳羽さんも先輩の発言に追従する。
「あのね、春日くんはもう実戦経験者なの。」
「え……マジ?」
こちらを見る二人に向けて、軽く頷く。
確かに、この場に居る新人の中では、俺が一番ペルソナを上手く扱えるだろう。しかし……。
「あの、ちょっと待って貰っていいですか?」
「ん?どうした、拒否権は無いぞ。」
さらっと横暴な真田先輩の発言をスルーしつつ、俺はずっと考えていた提案を述べた。
「確かに、ペルソナの扱いに関しては他のみんなより出来るつもりですけど、俺がリーダーになるのは無理です。」
「ほう何故だ?少なくとも、君の適正が低いようには見えないが。」
疑問を口にした桐条先輩に向き直り、意見を続ける。
「単純に、現時点で比べてみると、男の俺と順平の方が、体力があります。なら、俺と順平を前衛に回して、他の二人に指揮を執ってもらう方がいいと思うんです。
そこで武器の種別を考えると、遠くからでも攻撃できる岳羽さんには攻撃に専念してもらって、結城さんに指揮を執ってもらう、という形がいいと思うんですけど。」
どうですか?と聞くと、桐条先輩は少し考えこんでから頷いた。
「そういう考えならば、まずはその通りやってみよう。彼女のペルソナには不可解な点があるが……まずは、試してみるのも良いかも知れない。」
そう言って先輩は俺の提案を飲んでくれた。
……というか、結城さんが選ばれなかったのって、俺が中途半端に介入したからか。
先輩たち、結城さんのペルソナが暴走するとこしか見てないもんな。
そりゃ、俺の方が選ばれるわ。あぶねー。
先輩には話さなかったが、俺がリーダーを断った理由はもう一つある。
燃費の悪さだ。
マハムドはブースターも相まって雑魚相手には強力なスキルだが、消費SPが属性魔法より多い。
何発も使っていると息切れは必至だし、肝心な時に外れることもある。
つまり、命を大事にするなら、安定性のある結城さん中心のパーティーが一番いいのだ。
提案が上手くいって、ホントに良かった。リーダーとか柄じゃないし。
俺はホッとしながら、不満げな空気を漂わせている順平の元に赴き、声を掛ける。
「ま、仲良く盾になろうぜ、肉壁二号よ。」
「そんな名前イラネェー!!!!」
全力で拒否されてしまった。まあ、自分でもこのネーミングはどうかと思うが。
「いいじゃん別に。あ、岳羽さんは移動砲台一号とミス自走砲、どっちがいい?」
「どっちもイヤに決まってるでしょ!!」
馬鹿なことを言いつつ、場を弛緩させる。正直、このまま進んでは順平が無茶しかねない。
オレだって……やれるっつーの!とか言って、敵に突っ込んだり?
シャドウの強さを知ってる身としては、隊列を乱されるのは勘弁願いたいし。
後に起こる喧嘩イベントも、出来れば回避したい。
結果、俺は場を和ますことに成功したが、〝ネーミングセンスゼロってかマイナス〟の称号を頂いてしまった。
……あーあ、視線が冷たい。
『四人とも、聞こえるか?』
通信が繋がり、桐条先輩の声が聞こえてくる。
「おっ、先輩。中の様子が分かるんスか?」
「ああ、私のペルソナの特性でな。ここからは私が声でバックアップする。では、進んでみてくれ。」
「了解。……はぁ、勝手なんだから。」
「じゃ、とりあえず進もっか?」
各々がリアクションをとりつつ、武器を握って慎重に進む。
ちなみに、武器は先ほどエントランスで支給された。幾月の計らいだとか。
岳羽さんが弓、順平が刀、結城さんが薙刀で、俺は長剣。
両刃のロングソードは、結構な重さでその存在を主張している。
ま、ペルソナで補正が効いてるから、これぐらいなら振り回せるが。
『前方にシャドウの反応がある。気付かれないように背後から仕掛けてみろ。』
「了解!……みんな、準備はいい?」
緊張した空気がその場に流れる。隊列を作戦通りに組み直し、指でカウントを取る。
3、2、1、今だっ!!
走りながら突きこんだ長剣の切っ先が、シャドウの流体じみた体を突き破る。
くぐもった不快な鳴き声を上げるシャドウを放置して下がると、声に反応してか、シャドウが二体ほど集まってきていた。
「行くぜっ、ペルソナァァアアア!!」
緊張している体に活を入れるかのように、順平が雄叫びと共に引き金を引いた。
硝子を砕くような破砕音と共に、金の兜に金属質の翼を持つ、伝令神のペルソナが姿を現す。
「〝ヘルメス〟、行けえッ!!」
命令を受けたヘルメスは、風の速さで戦場を駆け、直線上に居たシャドウに裂傷を刻む。
物理スキル、スラッシュを受けてダメージを受けたシャドウに追撃を加えたのは結城さんだ。
「〝オルフェウス〟!!」
長髪を靡かせて現れた竪琴の名手は、その身の丈ほどの竪琴を振り下ろし、シャドウを叩き潰した。
残るは二体。両方が傷ついている今、速攻で仕掛けるっ!!
長剣を両手で握り直し、全力で真直ぐ接近する。こちらに気付いたシャドウが下がろうとするが、
「遅いッ!」
残る距離を跳躍して縮め、自重と剣の重さで圧し斬る。
ふざけた表情の仮面を真っ二つにしてシャドウを仕留めたが、着地の隙を突くように、もう一体が迫ってきていた。
「くっ……。」
咄嗟に剣を構えたが、間に合わずに左腕を抉られる。傷は浅いものの、熱っされるような痛みで剣が握れない。
ノロマはどっちだよ。心中で自分に毒づくと、片手で剣を振ってシャドウを牽制する。
そのままの勢いで剣から手を離し、すっぽ抜けて飛んでいく剣に構わず召喚器を握る。
どうやら敵はこちらの武器の喪失を隙と見たようで、即座に接近してくる。が。
「甘ェんだよッ!!」
召喚器を振り下ろし、シャドウを思いっきり殴打する。以外な反撃に怯んだ敵を、
「おらァ!!」
順平が唐竹に斬り捨てた。戦闘が終わり、皆がこちらに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫!?ごめんね、敵と近かったから弓が撃てなくて……。」
岳羽さんが謝りながら近寄ってくるが、不意に何かに気付いた風に立ち止まる。
彼女は召喚器を抜くと、自分の額に押し当てて引き金を引いた。
「来て……〝イオ〟」
牝牛の頭部を模した椅子に繋がれた、祈りを捧げる女神官が現れる。
彼女が淡い光を発すると、それは俺の傷口へと吸い込まれ、元通りに腕を癒して消えた。
静寂を取り戻したその場に、安堵するような空気が流れる。
「今のが、私のペルソナ……。」
確かめる風に紡いだ言葉に、他の面々もそれぞれの反応を見せた。
「ス、スゲー。オレたち、バケモンと戦って勝っちまったぜ……!」
順平は興奮した様子で刀を掲げている。よっしゃー!!やったぜー!!などと、はしゃぎすぎだろお前。
一方、結城さんは落ち着いたものだ。
『初戦闘だったが、君としては、シャドウをどう感じた?』
「そうですね……接近する前にペルソナで攻撃できれば、かなり有利に戦えると思います。
今のところ、敵には遠距離攻撃の手段は無いみたいですし。それと……。」
桐条先輩に戦闘の所感を報告している。
貫禄たっぷりな感じ、ホントにマルチな才能をお持ちのようで。
……しかし、今の戦闘で分かったが、ゲームでの情報は過信できないな。
今回戦った敵、臆病のマーヤは、言ってみれば最弱の雑魚だ。
しかし、俺たちが四人がかりで不意打ちしても、倒すまでにゲーム換算で二ターンほどの時間を要するが分かった。
これはつまり、ゲームよりも体感的、数値的に強いということでは無いのか。
それに、俺たちにも問題がある。
一つは、武器の攻撃圏。岳羽さんの弓は、乱戦になると撃てないことが分かった。
それは、近接武器にも当て嵌まる。
リーチの長い武器を持つ順平と結城さんは、乱戦ではその長所が逆に弱点となる。
それらを踏まえて戦うなら、ペルソナの遠距離攻撃を主体にして、武器はやむなく接近されたときのみ使うのが無難か。
それから数回の戦闘があったが、マハムドを使用した最後の戦い以外は、どれも時間のかかる戦いとなった。
前衛の俺と順平は息切れ気味になり、スキルを多用する所為か、結城さんと岳羽さんもバテ気味だ。
帰還ポイントの緑光に包まれながら、俺は頭を抱えたくなった。
……満月戦、ホントに大丈夫だろうか?
読了、ありがとうございます。以下、不必要な解説。
・オリ主の武器
長剣です。THE☆スタンダード。カテゴリ的には斬撃属性。基本的にはキタローが本編で使っていた片手剣を持たせる予定。
・オリ主の役立たずっぷりww
そ、その内活躍するから(震え声)。冗談はさておき、彼は現時点でも強いスキルもってます。……使うとSP切れますけど。ぼ、ボス戦では活躍しますよ、絶対!!
・シャドウ強化?
タグの難易度マニアクスがこれに当たります。基本的にプレスが主体のP3戦闘で、おおよその敵が繰り出すスキルと弱点を知っているオリ主がいると、戦闘が陳腐化しかねません。なので、敵は弱点はそのままに、全体的にステータスがあがってる感じです。