「うーん」
飛行機が着陸した衝撃が愈々終わると、薫は大きく唸りながら伸びをし、窓から景色を見る。
キューバと日本――名古屋の空港の景色にはあまり違いはないように感じてくる。屹度、空港の発着場というのは何処の国でも同じなのだろうと思いながら、薫は飛行機からぞろぞろと客が出ていくのを見送る。
その間、肩の凝りを覚えて自ら手を回して揉みしだく。ずっしりとした吐き気を催すような気怠さがある。身体の芯から這い出てくる微睡が、瞼を引き下ろそうとしてくる。シートに体が縫い付けられているかのように体が動かない。また、動きたいとも思えない。
「おろ?」
図らずも間抜けな声が上げると、薫はやっと自分が疲れているのを認識した。
メキシコシティ経由でキューバから中部国際空港までは、トータルで凡そ15時間のフライトとなり、それだけでも疲労は相当なものになる。
加えて薫には疲れを溜めこんでしまうだけの理由があった。三日ほど警察署に拘留されていたのだ。
あのハイジャックの後、薫を乗せた飛行機はキューバに引き返し、エシュロスに昏倒させられたテロリストもどきは敢え無く御用となった。が、これにて一件落着、あとは日本へ帰るだけ――とはならなかった。
彼等の鎮圧の為に薫とエシュロスが起こしたことの数々があまりに派手すぎた為に事情聴取を受ける羽目になったのである。危機的状況の打破にのみ頭が一杯になり、その後のことを薫はまるで考えていなかったのだ。キューバの警官による、根掘り葉掘りの取り調べ。それら全てに上手い言い訳を考えながら返すことは、薫にとって多大な苦痛となった。
エシュロスはというと、事が片付くや否や、貨物室に逃げ込みまた石像に化けた為に、何を逃れることに成功していた。仮に警察に捕まり事情聴取でも受けようものならば、入国ビザ無しの不法滞在者、さらに戸籍無しの胡乱な存在として大問題になっていただろう。その過程で人間ではないこともばれるかもしれない。そういう意味でエシュロスの判断はまさしく英断であった……その所為で証拠物扱いを受け、警察署に領置されることになってしまったが。
「おっと、うっかりエシュロスのことを忘れかけるところだった」
薫は思い出したように呟き、億劫そうに立ち上がると、到着出口にのらりくらりと向かう。
そこに着くと、飛行機に乗せた乗客の荷物がベルトコンベヤーに乗って流れてくる、空港では馴染の光景が広がっていた。
彼女の荷物は大き目の麻袋で包まれた石像が縄で括りつけられた、ピンクのトランク。無論、麻布に入っているのがエシュロスである。
薫が見る限り、それはまだ流れて来てはいなかった。
――結構無茶をさせちゃったからな。何か奢ってあげよう。
中部国際空港――通称セントレア内のショッピングモールは相当な広さであり、一日そこで遊んでいられると評判である。中部国際空港に行って帰ってくるだけのツアーなどというものが存在している程だ。
大人ぶりたい年頃で、また実際大人びているエシュロスにも気に入る物があるだろう。
色々と見て回るのも悪くないかもしれない。
そんなことをかんがえていると――。
とるるるるぅ……――とるるるるぅ……――。
と、手提げ鞄から音がして薫はそこに手を伸ばした。
携帯が着信を告げていたのだ。
一体、誰だろうと名前を見た瞬間、
「あ」
薫は脱力した声を漏らす。
携帯の着信に気を取られている間に、エシュロス付きの薫の荷物はベルトコンベヤーを一周し、闇へと吸い込まれてしまったのだ。
†
日本の三大都市といえば、東京、大阪、そして名古屋である。そんな三大都市の一つにあり、また海外への窓口となっている場所ということもあり、セントレアのショッピングモールは海の砂より多くの人が行き交っていた。そんな中で一際目立つ少年がベンチに座っている。
絹のような白い肌、“黄金”と名状されるべき美しいブロンドの髪、蒼穹色の瞳、あからさまな程に整った顔――を不機嫌そうに歪めた十代ばかりの育ちが良さそうな少年である。
然も、その隣にどう見ても親や姉には見えない、コケティッシュでありながらアンニュイな見目の如何にも東洋人と美女がいるものだから、その注目はより強烈なものとなってしまっている。
「ねぇ、エシュロス」
そんな雰囲気を全く以て察していないのか、物憂げな雰囲気の美女――薫は気にせず少年に呼び掛ける。併し、少年――エシュロスは相も変わらず顰め面のまま女の顔も見ずに、“沈黙”を返すばかりだった。
「もう、ごめんってば。スルーしちゃったのは、あれはワザとじゃないんだ。だからさ、機嫌治して、ね?」
その言葉に、エシュロスはちらりと薫の方を向くと、
「……私がどれだけ辛かったか、貴女に分かるか?」
と冷たく言い放った。
薫は、あはははと乾いた笑声を上げる。
エシュロスが不機嫌なのは、漸く終えると思われた変身を続けることになった所為であった。長時間の変身は多大な疲労を伴うのである。
エシュロスにしてみれば、フルマラソンを死に身の思いで完走したと思ったら、『あと百メートル走って貰います』と告げられるようなものだ。
「うん、よく分かるよ。だから、ねぎらってあげる」
薫はエシュロスに微笑みかけた。
エシュロスはまた振り向きつつ、薫の顔を見て、
――こういう笑顔は素敵なのだが。
と、感想を抱く。
二度の戦いの時に浮かべた笑みと比べて。
「エシュロス?」
「……なんでもない。それより、ねぎらうというのは?」
「なんか好きなものを買ってあげよう。服でもアクセサリーでも、なんでも構わないよ」
その提案にエシュロスは、否と、首を横に振った。
「折角だが、丁重に断らせていただく。淑女(レディ)にそこまでして貰うのは、私の主義(ポリシー)に反する」
薫は内心で『やっぱりそうきたか』と納得していた。
キューバや空港で薫に食事を奢って貰うことすら、『魔物は食事を採らなくて良い』『腹の調子が優れない』などとあれこれ理由を付けて断ろうとした程だ。最終的に、『薫が食べきれなかったものを処理して貰う』という体で食事をさせたが、それでも『いつかこの施しに対する埋め合わせはきちんとさせて貰う』などと言い出す始末だ。
エシュロスは女性に対して極端に甘え下手であったのだ。
「じゃあ、男の財布なら良いわけだね」
そこで薫は逆に考えた。
――男なら良いさ、と。
「おいおい、リーサ。来て早々、オレに奢らせようってのかよ」
そんな彼女の提案に横合いから物言いが入る。
テノールながらに落ち着いた、若い男の声であった。
エシュロスは其方を振り向く。
二人の座るベンチの前に背の高い細身の男が立っていた。
銀縁の眼鏡を掛けたインテリジェンスを感じさせる美男子であった。真ん中できっちりと分けた黒髪は整髪料で艶めいていて、見る人が見れば、出世街道を歩む官僚と見えただろう。けれど、モード系の細身のダークスーツ、紫色のシャツ、チャコールグレーのナロウタイといった格好が、彼から連想できる職業をぼやけさせていた。
「てか、なんだその餓鬼は。手前の知り合いか?」
その男性は、あけすけに薫に訊ねる。それも気にせず薫は、
「いろ?」
と笑顔で返す。
男は呆れた顔をした。
「……分かり易い嘘をつくなっつーの。てか、それがホントならオレは善良な市民としてお前を通報しなきゃならなくなるだろ」
「それ、やの付く自由業って立場、分かって言ってるの?」
「職業差別はいかんだろ、リーサ」
憎まれ口を叩き合い乍らも、そこに和を感じさせる二人に、エシュロスは一人蚊帳の外に置かれ、プルプルと身震いし、
「いきなり来てなんなんだ! 貴方は!」
と怒鳴り声を上げた。
すると、男は目と口を丸くしてoopsと呟く。
「すまんな、自己紹介がまだだった」
そして、彼はエシュロスに手を差し出す。
「檀龍一。コイツの……まぁ、なんだ。あれこれ世話を焼いてやってる親切なお兄さんってところだ。よろしくな」
柔和な笑みを浮かべる男――檀龍一の手を取るとエシュロスは、
「ダン氏……成程、話には聞いていた。カオルを拾った女衒の男性だろう?」
と快活な笑みを返した。
「女衒って、お前……」
苦笑するダンに薫は、
「その言い方も間違ってないでしょ。実際、私をそっちの世界に案内したのはダンさんなわけだしね」
と追撃を入れる。
がくりと、ダンはあからさまなほど項垂れる。
「お前ら、仲良く性格悪いな」
二人に対して率直な感想を述べると、ダンは顔を覆うようにして右手の中指を眉間に当てる。沈黙が流れる。
そして、その手が外れる。
「……なんか余計にその餓鬼が気になって来た」
ダンの瞳はじっとエシュロスを見下ろしていた。
エシュロスは何やら喉に引っ掛かるものを覚える。一体それがなんであるのか。
それに思い至れぬまま、
「そこで飯でも食いながら話そうか」
とダンに促され、フードコートの一角へと案内される。
†
「……おい、カオル。それはなんだ?」
最後に給された薫のオーダーした料理を見て、エシュロスは絶句した。
ダンに案内されたのは“我道”という名のラーメン屋であり、魔界から人間界に来てまだ間もないエシュロスはラーメンを見るのも食べるのも初めてである。
だが、それでも。自分が頼んだ醤油ラーメンや、龍一が頼んだ味噌ラーメンと、薫が頼んだモノが全く別の類の代物であるのは手に取るように分かった。
「担々麺っていうんだよ、エシュロス」
隣に座る薫がそう説明した物体は、エシュロスにとっては食べ物というよりも魔道兵器に感ぜられた。まず、色が違う。赤い。スープも、麺も、具の一つ一つに至るまで総てがルビーよりも紅蓮に染まっている。思わずエシュロスは目を瞑り、鼻を塞いだ。それがあるだけで、鼻と目の粘膜を抉られるような異常な痛みを起こしだしたからだ。危険だ。ボコボコと不自然な沸騰を繰り返しながら、真っ赤な瘴気を漂わせるこれが食べ物で良い筈がない。
兵器だ。食ったら食われる。エシュロスは本能でそれを理解した。
――おい、ダン。担々麺ってなんだ。人間はこんなものを食べているのか?
エシュロスは向かい合うように座っているダンに目で訴える。
「驚いたか? まぁ、普通驚くよな。こんなマグマみてぇな食いモン見せられたらよ……」
げんなりとした表情でそう弱弱しく語るダンはエシュロスの訴えを半分も理解していなかった。
だが、エシュロスは安堵した。人間の感性でも、これが異常だということに。自分の中で湧き上がる恐怖が、正常だということに。
「ダンさん、大丈夫? 顔色、悪いよ?」
そう訊ねつつも薫は、何処からか取り出した“DEATH SAUCE”と書かれた赤い液体の入った瓶を取り出し、それを丸々一本ぶち込んだ。
「ぎゃあああああ! ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ! それは流石にグロイぞ!」
ダンの断末魔が店内に木霊する。
それを尻目に薫は、グロテスクとまで評された超魔道兵器“担々麺”を嬉々として啜っている。
まさしく、地獄絵図だ。
エシュロスはそう思いながらラーメンを啜った。
舌の中に広がる旨味とコクの調和が見事であるということのみが、エシュロスにとって唯一の救いだった。
「……あのさ、いい加減慣れたら? というか、私の好み、知っててこの店選んだんだよね?」
「我ながら本気で後悔してる」
じっとりと湿った視線を薫に送られるダンは最早気の毒としか言いようがなかった。
そもそも、ダンはハイジャックに巻き込まれた薫を心配し空港まで迎えに来たのである。勿論、食事も奢るつもりで。
それがこの正気を保てなくなるような席である。然も予め、こうなることも覚悟した上でこうなっているのだから、エシュロスは彼を本気で哀れに思う。
加えて、これが薫の食事の常態であるという事実に頭痛を覚える。エシュロスの前で薫は飲みこそすれ、食べはしなかったから、エシュロスは彼女がどのような味覚の持ち主か知り得る機会はなかった。
というよりも、別段と気に掛けるようなことでもないと考えていたのだ。
――それがどうだ、この惨劇だ。
エシュロスは心の中で毒づいた。
「……というか、これからずっと、この有様を見続けなきゃならないのか」
ラーメンと一緒に頼んだ餃子に手を伸ばしながら、エシュロスは知らず知らずのうちにそんな言葉を零す。
「これから?」
何気ない言葉に反応し、ダンがラーメンから顔を外した。
「なんか聞き捨てならない言葉を聞いた気がするが……。というか、リーサ。このエシュロスつー餓鬼は何者なんだよ?」
薫の食事に気を取られていたダンは、漸く本題に切り込む。
エシュロスはそぞろ気に薫を見つめた。
魔物のことも、王を決める戦いのことも部外者に話せるようなことではない。そもそも信じられるような話ではない上、真実であることを証明してみせたとしても、薫の周りの人間は戦いから遠ざけるかもしれない。
王を決める戦いでもなければ――魔物は、愛する者を戦から遠ざけようとする者がマジョリティだろう。
畢竟、そういうことなのだ。この戦いは魔物の子達からすれば“名誉”であるが、巻き込まれる人間からすれば御免被りたい“災害”でしかないのだから。
「うーん、そうだね。なんと言ったら良いか……」
言い淀む薫に、エシュロスは大きな不安を覚える。
無論のこと、このような場面に対する上手い言い訳を話し合う――などということをしている筈もない。
バクバクとした、厭な胸の高鳴りの中、エシュロスが聞いた答えは、
「うん。さっき言った通り、“いろ”っていうのが正しいかも」
というラーメンのスープにうっかり顔を付けてしまいそうな、斜め上の回答であった。
ダンも胡乱そうに右眉を吊り上げている。
「それ、マジで言ってんの?」
エシュロスもダンと同じことを言いたい衝動に駆られたが、薫は満面の笑みで、
「勿論」
と迷いもなく返した。
成人した大人の女性が年端もいかない少年を愛人として囲う。魔物であるエシュロスにも、それが途轍もなく拙いことだと理解した。
実際、法制度が整った多くの国で犯罪とされる事案である。
だから、龍一は顔を歪めたのだ。
「そもそも、どうやって出会ったんだよ、その餓鬼と」
「聞きたいの?」
「……赤道直下(キューバ)まで行ってそんな色の白い良いとこのボンっぽいのを拾ってくりゃ気にもなるだろうが」
その追及に対する“設定”は出来ているのかと、エシュロスは気にかかる。
しかし、それは杞憂に終わった。
「捨てられてた」
薫は間髪入れずに言葉を繋ぐ。
「捨てられてたって……」
「そのまんまの意味。向こうの街の……パン屋さんの前だっけか? そこで蹲ってたの。と……」
あまりの内容に眩暈を覚えるダンに薫は身を乗り出して耳を傾けるように促す。
「なんだ?」
と、言った通りに身を乗り出すダンに薫は耳打ちした。
「この子、家族旅行の序でに置き去りにされたみたいなんだ」
「なっ⁉」
言葉を失い、目を見開くダンから薫は顔を離すと、口角を和らげる。
「で、顔とか肌とか綺麗だし、将来有望そうな感じなので……そういう事情ならば囲ってしまおうかと」
「その流れで如何してそうなった」
傍で聞いていたエシュロスもダンと同意見である。
如何してそうなったのか、と。
「はぁ」
ダンは呆れたような溜息を吐くと、薫に向き直る。
「リーサ……いや、薫、お前さ……」
その顔は実に神妙であった。
一体何を言い出すのかとエシュロスが思っていると――
「勝手にペット拾って来たら駄目……ってのは常識だぞ?」
ヤクザの若頭が素っ頓狂なことを言い出した。
「おい、ちょっと待て! 俺の扱い!」
エシュロスはダンの言葉に訴えを起こす。
「ペットというととてもいかがわしい響きだから、やめてくれないかな?」
「そこじゃねぇよ! 突っ込むべきところは!」
「エシュロスのア×ル? ごめん、そういうのはちょっと……。こっちが、だったら吝かでないのだけれど」
「いや、それも違うから! というか、ア×ルってなんだよ!?」
「えっとね……」
「やっぱり言わなくて良いです!」
ぜぇと、エシュロスは荒く息継ぎをした。
自分のペースでその上、恐らく猥談。相当に堪えるものがあった。
「前だの後ろだの、そこまで進んでんのな」
器を盃のように持って、ダンは豪快にラーメンのスープを啜る。
「うん。こういうの自分で言うのは恥ずかしいけど、とても仲睦まじいです。私、かなり本気です。この人と添い遂げたいと思っています」
薫は真剣な顔をしてダンを見つめた。
くしゃりと、ダンは髪を毟るように頭を抑える。
「拾った餓鬼、ねぇ……」
そう感慨深げに呟くと、ダンは暫し押し黙る。
長い、長い、沈黙の後、
「……まぁ、捕まらねぇように愛し合ってくれれば此方としては別に良いって感じなんだがな。ホント、マジでウチの組には迷惑かけんなよ」
素っ気なく、けれど優しさの籠った柔らかい声色でダンはそう返答した。
菩薩のような、幽かな微笑みを浮かべて。
「有難う御座います、お父さん!」
「それがホントなら、俺は幼稚園児の時に女を孕ませてたことになるな」
「少し早熟な子だったんだね。ところで有難う序でにもう一つ良い?」
「少しのレベルか、それは。何だ言ってみろ」
薫はエシュロスの肩に手を回して、
「この子の為に、一寸戸籍を見繕ってくれないかな?」
と願い出た。
エシュロスにとって一番欲しいものであった。魔界の王を決める戦いは人間界の全土で行われる。
積極的に候補者を消しに行こうと思えば、必然、飛行機に乗る機会は増えるわけだ。パスポートの申請には、当然“身分証”が必要であるため人間界での戸籍は必定となる。
……正直、エシュロスは荷物として渡航するのはもうあれで終わりにしたいと思っていた。肩が凝るのである。
「あ? 戸籍? 別に用意できるが、如何して?」
「私、この子を離したくないんだ。……平気で子供を手放す親の元になんて返したくない」
「詰り、もし親が世間体かなんか気にして連れ戻しに来た時に、“この子はアナタ達の子供じゃないですよ”と言い切れるだけの免罪符が欲しい、と。そういうわけかい?」
「流石、ダンさん。よくぞ察してくれた」
ダンは再び深いため息をした。
そして、肩をこきりと鳴らすと、
「……分かった。近いうちに用意してやる」
とやけくそ気味に言い放つ。
「有難う……うん、本当にいつも世話になりっぱなしだね」
「気にすんな。ビジネスへの投資は惜しまない主義でな。店で働く女の世話もその一環ってやつだ」
それらしい返し方をしているが、その中には、確かに薫に対する情があった。
エシュロスはそれを見て取って、知らず知らずのうちに微笑みを浮かべていた。
――“大事な人はいない”か……。だが、貴方のことを大事な人はちゃんといるんだな。
そう、安心して。