魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
魔法世界。
それはこの世界に対となって存在するもう一つの世界である。
魔法の国と呼ばれ・・・・・・まあ、よくわからんがもう一つの世界である・・・
「・・・って感じっすか?」
シスター服に身を包んだ少女が冷や汗を流しながら引きつった笑みで己の最低限の知識を口にした。
しかしその答えを聞いた瞬間、一人の長い金髪の女性がプルプルと震えながら怒声を上げる。
「美空さん! あなたは今まで何の勉強をしていたのですか!? ってゆうかその程度の知識で魔法世界に行くつもりなのですか!?」
「いや~~、高音さん、申し訳ないっす。私が勉強したのは・・・・・・文化の基本法則!」
―――ブチッ!
ニヤリと自信満々の笑みで答える美空に対して言葉にならないほどの怒声が響き渡る。
その二人のやり取りを恥ずかしそうにしながら宥めようとする少女と、呆れ顔で見ている少女が居た。
「あう~、お姉さま・・・ここはエコノミーですよ~、他のお客さんもいる中で魔法の話はちょっと・・・」
「美空・・・恥ずかシイカラ静かにスル」
「だってさ~、つまんねーじゃん。移動に何時間かかるんだっつうの~」
愛衣とココネは周りの迷惑と常識を踏まえた注意を入れるが、美空の不真面目な態度にキレた高音には届かず、機内の中に少女たちの声が響き渡った。
空の旅を10時間以上。それは一般人には苦痛でしかない。
精神力はあるようで、何もせずにジッとしているということを、普段から落ち着きの無い彼女なんかに出来るはずはない。
しかも彼女たちの目的地はそこから更に何時間も移動しなければならないのである。
何もしないのに知らず知らずに疲労が蓄積され、だらしなくなるのも仕方の無いことではあったが、その度に高音の注意が飛んできた。
目的は遊びに行くわけではない。学園から与えられた栄誉ある仕事である。
そのことに誇りを感じる高音にとって、ただでさえ不真面目に見える美空のだらしのない態度は見過ごすことはできなかったのである。
だが注意されただけで態度を改める女ではない。あくまで美空は美空のままだった。
「ふあ~~~あ、それにしても退屈っすね~。ジッとしてるのも疲れたっすよ~~。しかもエコノミー・・・」
己に割り当てられた座席にて大あくびをする美空。
その隣の席ではココネがエコノミークラスのシートにスッポリその小さな体が入り、眠そうにしている。どうやらココネの小さな体にも疲労が溜まっているようだ。
「もう直ぐ着きますわ、美空さん。そして空港からゲートの場所までまた移動です。今の内に顔を洗ってシャキッとなさい!」
「はいは~い、分かりましたよ~。(相変わらず頭が固いっすね~、この人は・・・)」
「お姉さま、まだ空港に着いても魔法世界までは時間が掛かりますし、今からそんなに気をつけなくても・・・「甘いですわ、愛衣!」は、はい!」
「我々は麻帆良の代表なのですから、決して恥ずかしくないようにしなければならないのですよ!」
もう何度同じ言葉を聞いたか分らない。飛行機の中どころか出発前から高音は同じ言葉を繰り返していた。
美空、ココネ、愛衣、高音の四人が今日本を離れ、地球の裏側へと空の旅を続けていた。
麻帆良学園の魔法生徒の代表として文明の利器を利用して、魔法世界とのゲートが繋がるイギリスへ向かっていた。
(まあ、代表つっても、ネギ君たちやアスナたちも、私達より少し遅れて行くんだけどね~、いいな~、向こうのグループは自由で)
飛行機の窓から外を見ると、ヨーロッパの大地が広がっていた。それは徐々に自分達の目的地が近づいていることを意味していた。
(今頃アスナたちは修行の合間に夏休みも満喫して遊んでるんだろうな~。そして私は楽しむ間もなく、魔法世界・・・、厳しいっすね~~)
美空は隣に眠るパートナーをさすって起こす。すると起こされた少女はまだ開かない目を擦りながら欠伸をする。
それを微笑みながら見て、美空はもう一度窓の外を見る。
「まあ、高音さんの言うとおり、ちゃ~んとやることもやんないとね。あとお土産も買わないと・・・薫ちん達だけでも・・・ダメだ・・・多すぎる・・・」
「兄貴にも買わなクチャダメ・・・」
「んっ、そうだね~、兄貴のことだから多分私達が帰る頃にはもういるんじゃない?」
「・・・ウン・・・・・・早く帰リタイ」
眠そうだったココネだが、シモンの事を聞き、すぐに落ち着きのない態度で体がウズウズしていた。
(あ~あ、まだ何もして無い内に帰りたいって、よっぽど兄貴に会いたいんだね~、まあ分かんなくもないけどさ~)
美空がココネの落ち着き無い様子に微笑んでいると機内アナウンスが流れた。
それを聞き美空とココネは一度シートベルトを締める。そして機体はゆっくりと下降していき、着陸態勢に入る。
「美空さん、もう一度言いますけど、向こうに付いたら・・・「大丈夫、分かってますって」・・・・・・・・・本当ですか?」
また同じ言葉の繰り返しだった。
しかし今度は違う。
今まで耳から入ってそのまま抜けていた高音の言葉を、美空は頭の中に入れて、力強く頷いた。
それはようやく自身も新たな世界へ近づいているという実感が沸いたのだろう。その証拠に、あれほど退屈でだらしの無かった美空の表情も変わり、疲労など全て吹き飛んでしまったようである。
一瞬、美空らしからぬ頼もしく思える表情に高音は呆けてしまった。そんな高音に向けて美空はもう一度頷いた。
「大丈夫、私を誰だと思ってるんすか?」
そして美空は自分の足が震えていることに気付いた。
それは未知なる世界への恐怖か? それとも緊張か? その答えはどちらでもない。美空の早く外へ飛び出したいと言う表情を見れば一目瞭然だった。
(近づいてきたね、いきなりゾクゾクしてきたかも・・・退屈は・・・しそうにないかもね)
それは興奮だった。
退屈だった長時間も終わりが近づき、目的地に近づくにつれて美空の中にあるワクワクが高鳴っていたのだった。
日本から地球の裏側までの道のりは長いようで、僅か半日ほどで着いてしまうのは文明の利器ならではである。
今度はここから世界地図の乗っていない場所を目指して移動するのである。
目的地はまだ遠くだが、着実に新たな世界に一歩ずつ近づいていることに美空は実感した。
そう、ついにこの時が来たのである。
魔法世界に足を踏み入れる日。
それは仕事だから仕方がなくではない。決めたのは自分の意思である。
更なる飛躍をパートナーと背中の誇りに誓った美空とココネは、それぞれの修行を終えて、ついに旅立ったのである。
ここにネギやクラスメートたちは居ない。
シモンという魂の兄弟も、師匠のシャークティも、そして新生大グレン団の仲間たちも居ない。
パートナーとグレン団の誇りと共に、美空とココネは、高音と愛衣と一緒に新たなる道へと進むこととなったのだった。
そしてその影響は地球の裏側にまで影響を及ぼしていた。
美空とココネが旅立だった麻帆良学園。
いつもは静かな教会に、学園祭以来の騒がしい音が響き渡っていた。
「なんでだよ~、美空ちゃん、ココネちゃん!? 夏休みは皆で海に行けると思ったのによーー!?」
「夏祭りの計画がーー!? 綿飴を頬張るココネちゃんを見たかったーー!」
「美空ちゃんの紹介で、でこぴんロケットとの合コンはーー!?」
むさ苦しい男達が袖を濡らしながら泣いていた。
「申し訳ありません、あの子達も忙しくて皆さんに伝えることが出来ず・・・」
「「「「うお~~~ん、せめて・・・・せめてヨーコさんがいれば・・・・」」」」
「ふっふっふっ、私だけでは不服ですか(怒)」
「「「「め、滅相もありません!」」」」
美空とココネが日本を離れたことを知り、豪徳寺や達也といった新生大グレン団の面々が涙を流しながら残念がっているのをシャークティが呆れながら一人で慰めていた。
夏休みに皆で遊ぶつもりだった豪徳寺だったが、リーダーのシモン、ヨーコ、美空とココネも不在の状況に彼らは皆、激しいショックを受けていた。
「夏休み中には帰って来ますよ。それにひょっとしたら、シモンさんもその間に帰ってくるかもしれませんし」
「うう~、そうっすけど・・・せっかく新メンバーも入ったんすから・・・」
そう言って、涙を流す豪徳寺の後ろからメガネを掛けた少女が現れた。
「残念ですね~、私もグレンラガンの構造についてシモンさんにお聞きしたかったんですが」
眼鏡を指で動かしながら呟く白衣を着た少女。どうやら彼女は本当に残念がっているようだ。
そんな彼女にエンキが突っ込みを入れる。
「ハカセ、超サント同ジ過チハイケマセン」
「分かってるって、エンキ。でも科学者として憧れる気持ち分からない? 気合で動くメカを作ったらノーベル賞級の大発明じゃない?」
((((((既にエンキが気合で動いてる気がするけど・・・))))))
心の中で一同は新メンバー、ハカセに向けて突っ込みを入れた。
そう、学園祭では敵側だったハカセも、壊れたエンキを修復した繋がりで、グレン団のブレーン的メンバーとして入団することになった。
このことをシモンは一切知らない。
これは学園祭でロボットをメンバーの中で一番倒して副リーダーの座を掴んだ豪徳寺の決定だった。
「申し訳ありませんね、ハカセさん。美空まで出かけていて・・・」
「別にいいですって、その代わり今度はシモンさんも交えて色々教えてもらいますから♪」
豪徳寺たちの勧誘に意外なほどアッサリとハカセは頷いた。
ハカセ自身も、超の側で戦っている内に、研究以外で胸が熱くなったグレン団をもっと側で見続けたいという願望があったからである。
「ふふ、アナタも伝染したのですか?」
「しますよ~、あの空間の向こうから現れたスペシャルなメカ! 科学で明かせぬ不屈の気合。私なりにそれをもっと知りたいと思ってしまいましたよ~」
ハカセは興奮しながら学園祭最終日を思い出す。
あの時は敵味方を忘れて胸が高鳴った。
あの超ですらあれほど興奮していたのである。それはハカセも例外ではなかった。
それをうれしく思うシャークティ、しかし一つだけ気になった。それはハカセがどこまで事情を掴んでいるかだった。
だが・・・
「ハカセさん、あの・・・「分かってます!」・・・えっ?」
「グレンラガンはスゴイ! ですけど本当にすごいのはメカの力ではなくグレン団の気合! 私だって分かっていますよ♪」
「・・・・はい!」
ハカセの純粋な言葉にシャークティは微笑みながら頷いた。
そして遠い空の向こうに居る自分の教え子に心の中で呟いた。
(美空・・・ココネ、・・・グレン団の力がメカだけの力ではなく、無理を通す気合だということを忘れてはいけませんよ)
新たな仲間を歓迎しつつ、この場に居ない仲間へ向けて、シャークティは言葉を送った。
そして同じ空の下にて美空と同じ場所を目指そうとするものたちが、学園の屋上に集まっていた。
「良し、整列だ! 点呼右から!」
「イチ!!」
「ニ!」
「サン!」
「よんー」
「5!!」
「ろぉく!!」
「なな!」
「は、は、はちー!」
「きゅッ!!」
「じゅー」
「11!」
「じゅ・・・ーに?」
エヴァンジェリンの号令でネギ、明日菜、木乃香、刹那、のどか、夕映、ハルナ、古、楓、千雨、茶々丸、小太郎、が一斉に点呼をかける。
「よし!! これでお前らネギま部(仮)は学園に正式に認可された!! 麻帆良学園の正式倶楽部として認可があるというコトは、今後の情報収集、国内・海外活動に於いて多大なアドバンテージを得るコトになるだろう。これで満足か、ガキども!? 満足なら返事をせんかぁ!!」
「「「「「「「ハイ!!」」」」」」」」
エヴァの意外とノリノリな言葉に茶々丸と巻き込まれた千雨以外が元気良く返事をする。
「いやー、皆、いいねいいね。カッコイイよん♪」
「きゃー」
華やかで、全員揃うと壮観な姿に感動した朝倉やさよが興奮しながら写真を取り、調子に乗ったメンバーは大はしゃぎ。
実際、多少の悪ふざけは過ぎるかもしれないが、彼らの戦闘力や魔法の精度、アーティファクトのレベルも確実に上がり、それなりの自信が身についていた。
その様子にエヴァは多少あきれているものの、それなりに彼女たちのことを認めているために、あまりうるさく言う気は無さそうである。
「やれやれ。ガキどもが大はしゃぎだな」
「何にしても皆さんが前向きに努力しているのは嬉しいです」
「出発はいつだ?」
「8月12日の予定です」
「後2週間と少しか。無理をすれば、更に3,4ヶ月の修行は可能だな」
「えっ・・・」
「だが、どうせ首都を訪れるだけなんだろう?」
「ハイ。首都メガロメセンブリアで情報集めと、遠出をしても付近の観光地巡りぐらいで・・・僕もまさかこの休みで父さんの行方が判明するとは思っていません」
ネギが予定より多いメンバーの魔法界行きにそれほど悩まないのも、それが原因である。
こうして部員たちが夏休みを惜しんで切磋琢磨しているものの、首都のみを訪れるだけなら、それほど危険に会うこともないという判断だった。
それに関してはエヴァも同じ考えである。
「ま・・・あっちも文明国だ、治安もいい。首都を離れねばそれほど危険もなかろう。学園側もそれを知っているからこそ、魔法生徒を今回仕事で数人向かわせているからな」
エヴァは遠く空を見つめた。今頃その代表のものが、ネギま部より先に魔法世界へ足を踏み入れようとしている頃なのかどうか、考えていた。
そしてエヴァの言葉にネギも気づいた。
「そういえば、美空さんも、ココネさんも既に出発しているんですよね・・・向こうで会えるでしょうか・・・」
「さあな、お前たちと違って奴らは仕事で行っているからな、なかなか難しいのではないか? しかし首都に向かっているようだから、運がよければ会えるだろう、まあ、ひとまず観光気分で魔法の国を楽しんで来るがイイさ」
美空とココネも修行途中ではあるものの、学園の仕事である以上日程の変更は出来なかった。そのため、ネギたちよりも少し早くの出発となってしまった。
そのことにアスナやネギたちも残念がっていたが、目的地が一緒である以上ひょっとしたら向こうでも会えるかもという考えと、向こうがそれほど危険ではないという情報、そして何より、もう少ししたらシモンが帰ってくるかもしれないという期待があった。
もしシモンが帰ってきたら是非一緒に行きたいと思い、ネギたちも予定を変更することをしなかった。
「よぉーし、皆ーー! イギリスへ行きたいかー!?」
「「「「「「「オーーー!!!」」」」」」
「何が何でも行きたいかーーーー!?」
「「「「「「「オォーーー!!!」」」」」」
「修行を終わらせてウェールズへGOーーーーーッ!!」
「「「「「「「GOーーーーーー!!!」」」」」」」
声を一つにして大はしゃぎする部活動メンバー、その表情に不安は無い。
今はただ、己の思うがままに進んでいる。
だが、彼らは誰一人として予想もしていなかった。
この数週間後に遭遇する困難も、そして美空を含め、彼らが望んでいるシモンとの再会、その日がまだ当分先になることを分っていなかった。
それぞれが自分の選んだ夏の時間を過ごしていく。
そこにシモンという影響力を持った男が居なくとも、全員が己の意思で自身のやりたいことを過ごしていた。
そしてその中で一番早くに目的地に到達したのが美空とココネだったのである。
日程の関係という理由もあるが、美空たちは誰よりも早く、新世界に足を踏み入れることになった。
魔法世界に到着した美空たちを迎えたのは、巨大なゲートポート、そして見渡す限りの広大な都市だった。
都市といっても東京や大阪などの町並みなどとは大きく違う。
それは建物の違いではなく世界そのものの違いを感じるものだった。
視界に入る光景には、現実世界の海洋生物と似た形の物体がいくつも空に浮かんでいた。
見渡す限りの新世界に美空は両手を広げて興奮を抑えきれずに叫んだ。
「ファンタジィーーーーー!!」
ようやく出会った新世界に美空は人の目を気にせずに叫んだ。
「みっともないですよ、美空さん! 恥ずかしい真似は止めなさい」
「美空、落ち着ク・・・」
「高音さんも、ココネも何言ってるんすか!? ホラ、鯨とか鯱みたいのが浮いてるじゃん!」
美空は鼻息荒く、宙に浮いている物体を指差すが、魔法世界出身の高音やココネの反応は薄い。
むしろ興奮しているのは美空だけだった。
「あ~もう、これだからアンタたちは!? いいっすか、高野さん?」
「高音です!」
お堅い高音に対してわざとらしいくらいのため息をついた美空はわざとらしい名前の間違え方をして、高音に拳を握り熱く語りだした。
「高野さん、私はこう思ってるんです、旅は素晴らしいものだと。その土地にある名産、遺跡! 暮らしている人々との触れ合い! 新しい体験が人生の経験になり得難い知識へと昇華する! しかし目的地までの移動時間は正直面倒です、その行程この私なら・・・・・」
「何ですかそれは!? だらしが無いのか熱血なのかスピード狂なのか、ワケが分らない人ですね!?」
「だあ~~、噛まずに言えてたのに何で邪魔するっすか~~~~!? つうか高音さんこのネタ知ってるんすか!?」
「・・・・ココネちゃん、美空さんは何の話をしているんですか?」
「・・・・兄貴ネタ・・・・」
「兄貴って・・・・・・シモンさん・・・って方のことですか?」
「ううん、違う・・・・三大兄貴・・・・」
二人の騒ぎを一歩下がって傍観しているココネと愛衣だった。
「いいですか、私たちの今回の仕事には相応の責任と義務を負っているからですよ!! それが果たせないようなら帰っていただきますよ!!」
「堅いっすね~」
『立派な魔法使い』を志す高音は美空とはある意味真逆の堅くて超がつくほどのまじめな性格である。
美空が軽く冗談を言おうものなら、即座に説教に入る辺り、自信過剰なところを除けば、昔のシャークティと少し似ているところがあるかもしれない。
「でも、いくらなんでも固すぎじゃないっすか~? こっから、首都をちょっと見て回ってまた移動でしょ? え~とたしか・・・アリ・・・アリ・・・・」
「美空、アリアドネー」
「そうそう、北の方にある学術都市の学生と交流でしょ? まだそんな気を張る任務じゃないでしょ?」
「そうですね、そこからまた首都に戻ってオスティァ終戦記念祭に首都の方たちと移動、むしろメインはこっちですから、まだ時間は・・・・」
彼女たちのメインの仕事は旧世界の魔法使いとして魔法世界の終戦記念式典の場に立ち合うという仕事である。
最初はドラゴン退治などの血が滾るような任務を期待していた美空には少しつまらないものである。
そしてその前に行う仕事は、本場の魔法学園の生徒と短い交流をすることである。
高音やココネのように魔法世界の育ちでも、旧世界に留学をする生徒も居る。逆に旧世界の魔法使いが将来的に魔法世界で仕事をする者もいる。その逆に魔法世界から出て仕事をする者もいる。
今回の交流は、これからも両世界の繋がりを絶たないためにと設けられた場である。
だがどちらにせよ命がけの修行をしてきただけに美空には割に合わない仕事だと少し拍子抜けな気がしていた。
特に重要でないと思っているだけに愛衣やココネも美空の態度を咎めようとはしない。
だが高音は違った。
「何を言っているのですかァーーーー!? 今回の交流がどれほど重要なのか分っているのですかーーーッ!?」
「「「うッ!?」」」
「学術都市アリアドネーにて我々が交流する学生は別名魔法騎士団候補生! 毎日過酷な訓練を乗り切っている精鋭です! 絶対に旧世界の魔法使いの恥になるようなことはしないでもらいますわよ!」
火山の噴火のごとく、高音は気合の入らない一同に活を入れる。その様子はいつも以上の熱さを感じた。
「お、お姉さま落ち着いて下さい」
「そ、そうっすよ。別にただの交流っしょ? 別に戦うわけじゃ・・・・」
「甘いですわ!? 表向きはただの交流でも、必ずちょっかいを出されます! ええ、あの子なら必ず出してきますわ!」
「あの子~~?」
「ええ! あのプライドの高いエミリィならきっと喧嘩を売って来ます!」
突如拳を握り締めて聞き覚えのない人物の名を口にする高音。美空たちはその人物を知らないが、メラメラと炎を燃やして唸る高音の様子から、あまり仲の良い人物ではないということは分った。
「お姉さま、エミリィって誰ですか?」
「そういえば教えていませんでしたね。私の小さい頃からのライバルですわ」
「高音さんのライバルっすか?」
「ええ・・・・ことあるごとに張り合ってきて、・・・・仕切り屋で、偉そうで、どっちが上だとか、立派な魔法使いとしての議論や、どっちがサウザンドマスターのファンだとかで揉めていましたわね」
昔を思い出しながら眉間に皺を寄せていく高音。
どうやら犬猿の仲のようである。だが話を聞いているだけなら美空たちにはそうは感じなかった。
「「「(同属嫌悪・・・・かな?)」」」
話の印象からエミリィという少女は高音のようにプライドの高い真面目なイメージしか浮かんでこなかった。高音、もしくは美空のクラスメートの委員長のようなイメージが浮かんだ。どちらにせよ美空には面倒臭い相手に感じた。
すると背中に炎を燃やした高音が立ち上がり美空たちに叫んだ。
「いいですか! たとえ相手が実践訓練を積んだ猛者とはいえ、麻帆良学園の代表の我々が遅れをとるわけにはいきません! 絶対に舐められてはいけませんよ!!」
「「「お・・・・おお~~~」」」
「声が小さいです、もう一度!!」
「「「お、おおおお!!」」」
「さあ、ではアリアドネーへ向けていざ出陣!!」
ゲートポートで人目も憚らず号令を上げる高音。
美空や愛衣たちは少し恥ずかしそうに拳を振り上げて号令に応えた。
高音を先頭に首都メガロメセンブリアから、かなり離れた学術都市アリアドネーへ向けて美空たちは再び移動を始めた。
高音たちが気合を入れて意気込む中、その目的地の都市で一人の少女がくしゃみをしていた。
「へっくしゅ!」
「・・・風邪ですか、お嬢様?」
「なんでもありませんわ、ベアトリクス。どうせ高音さんが私の噂でもしているんですわ」
くしゃみをした亜人のツインテールの少女エミリィを感情の読み取れぬ無表情で話しかける黒髪の少女のベアトリクス。
アリアドネーの空の下で、二人並んで遠くの方角を見ていた。
「もうすぐ高音さんが来ますね、久しぶりに会えるのが楽しみですね」
「ふっ、そうですね、ベアトリクス。今度こそどちらが上かをハッキリさせるいいチャンスですわ」
ベアトリクスの言葉に、不気味な笑みを浮かべてエミリィは頷く。するとベアトリクスは表情こそ変えないがあきれたような声を出した。
「せっかく幼馴染と会えるのですよ? それに高音さんの方が年上・・・・・・」
「甘いですわ! あの人は少し年上だからっていつもお姉さんぶって自分が上だと思っているのですよ!? それに私のほうがナギ様ファンだというのに、噛み付いてきて~~」
「どっちもどっちですよ・・・・・」
「とにかく! 長年旧世界のぬるま湯に浸かってきた高音さんに今の私の実力を教えるいいチャンスですわ! ふっふっふ、会う日が楽しみですわ!」
高らかに笑い高音を待ち受けるエミリィ。どうやら高音の予想通り、こちらも臨戦態勢のようだった。
そして麻帆良の代表者と彼女たちは直ぐに一騒動を起こすことになる。
だが、その時彼女が戦う相手は高音ではない。
彼女が戦うのは、魔法使いとしての志の違いで対立する、お調子者のシスターだった。
世界は止まらず進んでいた。
そこにシモンが居なくても美空たちだけでなく様々な者たちがそれぞれの今日を過ごしている。
それが明日に繋がる彼らの今日だった。
その明日にシモンがいつ飛び込んでくるかはまだ分らない。
その頃シモンは魔法世界でも麻帆良でもない己の故郷の世界で未だに旧友と共にいた。
「うおおおおおおおおお」
「ま、まて、ヴィラル!? 話を最後まで聞け!」
「待つかものか! 貴様、やっぱり腑抜けているではないかァ!!」
英雄たちの眠る地にて、シモンの話を聞いていたヴィラルは話の途中で立ち上がり、再び剣を持ちシモンに襲い掛かった。
シモンはドリルを片手になぎ払い、必死にヴィラルを止めようとするが、ヴィラルは止まらない。
ものすごい形相で本気でシモンを切り裂かんばかりの勢いである。
「何が新たな世界の物語だァ! さっきから女の話ばかりではないか! しかも告白だとっ!? プロポーズを受けただと!? 木乃香とやらが誰かは知らんが、貴様の不滅の愛はどうなったァ!」
最初は良かった。
特に京都で鬼の大群やスクナと戦った話などは、ヴィラルの毛を逆立たせ、血が沸き滾るような興奮だった。
しかしそこから少し雲行きが怪しくなり、とうとう木乃香の告白話を聞いたヴィラルはガマン出来なくなり、シモンに襲い掛かっていた。
「だから断ったって言っただろ!? 俺はニアが好きだから、気持ちには応えられないって・・・」
「黙れエ! 大体その断り方も気に食わん、告白したものに対する礼儀もなっていない! ヤダ・・・・・・・とは貴様何様のつもりだ!」
「それはニアに昔言われたことを思い出して・・・いや、この後! そう、この海に遊びに行った数日後に緊迫したバトルがあったんだ。悪魔が来て大変だったんだ! ここからは軟弱な話は一切無い!」
ヴィラルに恋愛話はご法度のようだった。
このヴィラルも硬派なようで、心の中では甘い夢を見たりする男である。
シモンはそのことを知らないが、命の危険を感じ取り慌てて話題を変えようと必死である。
「本当だろうなァ? これ以上あったら次は斬らせてもらうぞ!」
「あ、・・・・ああ。お前の信じる俺を信じろ! (・・・もう・・・大丈夫・・・だった・・・かなあ?)」
ようやくヴィラルが剣を鞘に戻して、シモンもホッと一息ついて座りなおす。
しかし刹那の話になってまたヴィラルが直ぐに切りかかって来たりと、静かなようでたまに騒がしい光景が墓場に響き渡っていた。
語り続けて日はまた沈む。