魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第104話 帰還突破

「ありがとう、二ア、アニキ・・・皆・・・。俺は幸せな出会いをした。これはみんながくれた明日だ・・・」

 

いったいどれだけの時間そこにいたのかは分からない。

数時間、数日、数週間、男は二つの墓の前で語り続ける。

まるで物語を話しているかのように耐えることの無い笑顔で二つの墓に語りかけていた。

今はいない大切な者たち。

返ってくる言葉は無い。

だが、シモンには見えた。

最愛の女も、かけがえのない仲間達も、笑顔を返してくれたような気がした。

 

風が吹く。

 

その風は最愛の彼女自身で、自分を抱きしめてくれたように思えた。

そして、しばらくしてシモンは立ち上がった。

それは旅立ちと再会、そして新たなる出会いを意味していた。

そして振り向くとそこにはヴィラルがいた。

 

「・・・行くのか?」

「帰るんだ。ここも・・・そして向こうも俺にとっては帰る場所だ」

 

英雄達の眠る地で、二人の男が向かい合う。

自分の語った物語を目の前の男、ヴィラルは最後まで聞いてくれた。

寂しいなどと思わせてくれなかった。

そんな男に心の中で感謝しながら、シモンは物語の続きを見るために、旅立とうとした。

するとヴィラルは服の胸元に手を入れて何かを取り出し、それをシモンに向けて投げた。

 

「ヴィラル?」

「餞別だ。テッペリン・・・いや・・・政府の建物を漁っていたら見つけた」

「こ、これは・・・」

 

投げられたものは手のひらに入るほどの小さなものである。

しかしそれを手に取った瞬間、ズッシリとした重みを手の中に感じた。

シモンが何かと思い手の中のものを見ると、驚いた。小さなドリルがそこにあった。

 

「これは・・・コアドリル!? なんで?」

 

グレンラガンのコアドリルは既にヨーコを通じてギミーの手に返されたはずである。

それが何故ここにあるのかとシモンが疑問に思うと、ヴィラルが首を横に振った。

 

「それは大グレン団の物ではない」

「えっ?」

 

ヴィラルが指を指しながらシモンの手の中にあるドリルに向かって言う。

 

「それは恐らく・・・螺旋王・・・もしくはかつての螺旋戦士たちのコアドリルだ」

「!?」

「アークグレン同様、地下の施設を漁っていたら見つけた。恐らく遥か昔の戦いに使われたコアドリルだろう」

 

螺旋力により生み出された螺旋族の象徴とも言うべきコアドリルは、この世で一つなわけではない。

現に螺旋王ロージェノムもラガンタイプのガンメン、ラゼンガンを六つのコアドリルで動かしていた。

シモンも膨大な螺旋力を使いこなし、これまで多くの力を生み出してきた。

やろうと思えばコアドリルを生み出すことも出来るだろう。

さらにアンチスパイラルとの戦いで、デススパイラルマシンに囚われたときに、敗れ去った多くの螺旋戦士達のラガンタイプのガンメンの残骸を見つけた。

そう考えるとコアドリルが幾つあっても不思議ではない。

 

「そうか・・・ここに・・・俺たちと同じ螺旋族が眠っているのか・・・」

 

かつて運命に抗いながらも敗れた戦士たちの魂を握り締めシモンは目を瞑った。

敗れたとはいえ、自分たちと同じように抗おうとした者達の魂の鼓動を、カミナやニアたちの魂と一つにして、螺旋族の象徴を握り締めながら感じ取った。

するとヴィラルが口を開いた。

 

「キサマらグレン団の創ってきた道は預かった。後はまかせろ! だから今度はキサマ自身の道を創れ!!」

「ヴィラル・・・」

「そしてグレン団の誇りを失わずに、穴掘りシモンとして・・・そして一人の螺旋族として、失った仲間や、女、そして貴様らの先祖たちに、掴んだ明日とまだ見ぬ世界を見せてやれ! それが貴様の役目だ!」

 

獣人の男はそう言って拳を前に出した。

 

 

「行って来い、ハダカザル!」

 

 

シモンは掴んだ明日を見守りながら、まだ見ぬ世界を見続けるために生きていく。

ヴィラルは掴んだ明日を守り続けるために、生きていく。

それが二人の道である。

 

 

「ああ、行ってくるぜ」

 

 

シモンはそれに応えて、ヴィラルの突き出した拳に自分の拳を軽くぶつけた。

 

 

「「どこまでも!!」」

 

 

男たちはニヤリと笑みを浮かべながら、信念と意思と誓いを込めた拳を互いにぶつけ合う。

進む道はそれぞれ違うかもしれないが、想いは同じだと言っているように見えた。

ぶつけた拳をゆっくりと降ろし、シモンは背を向けようとした。

そしてその時だった。

 

「ブゥゥ!」

 

シモンの肩に乗っていたブータが突然鳴きだした。

その声に反応して、シモンもヴィラルもこの地に感じるもう一つの気配の存在に気づいた。

シモンとヴィラルが気配の感じる方向へ振り向くと、そこには見知った人物が現れた。

 

「むっ、貴様は・・・」

「あっ、・・・なんでここに・・・」

 

現れた人物は自分たちの見知った人物だった。

この八年で多くのものが成長し変わっていく中で、ブータとヴィラルを除いて、この人物は八年前から何一つ変わっていない。

 

「ココ爺!」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

8年前、突如グレン団の中に紛れ込んだ老人。

細かいことを気にしないグレン団たちは、いかにも怪しいこの老人の素性を気にしたりはしなかったが、その正体は実は執事として作られた獣人で、姫だったニアをとても大切にしていた者だった。

 

「・・・ココ爺・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

ココ爺は相変わらず表情の読み取れない顔で無言のままシモンの前に立ち尽くす。

口数も元々少なく、正直何を考えているかはよく分らない。

分っていたのは、彼はニアをとても大切に思っていたことだった。

正直シモンも久しぶりに会った彼になんと言っていいか分からない。

ニアに仕えることを生きがいとしていたこの男に一年前の別れから何があったのかはとても聞くことは出来なかった。

するとココ爺は背中に背負っていたリュックサックを降ろし、中をゴソゴソと漁りだした。

そして中からきれいに折り畳まれていた一枚の服をシモンに黙って差し出した。

 

「あっ・・・ココ爺・・・これって・・・」

「・・・・・・・・」

「ほう、流石だな。気が利くではないか」

「ブウウ!」

 

受け取った服を広げてみるとシモンだけでなく、ヴィラルとブータも声を上げる。

そして受け取った衣服を広げながらココ爺を見ると、ココ爺は小さく頷いた。

それがとてもうれしくて、シモンは受け取った衣服に袖を通した。

 

「ふん、やはり貴様にはソイツが似合っているな」

「ブム!」

 

ココ爺から受け取った衣服に袖を通したシモンの背中には、当然グレン団のマークが描かれている。

超鈴音に別れの際にグレン団の歴史と魂を受け継がれたコートを渡した。

そして今、ココ爺の手により新たな歴史を刻むためのコートを手渡された。

 

「ありがとう、ココ爺。こいつを背負えば、俺はどんな壁にも止まらずに突き進める」

 

背負った背中のマークが自分をどこまでも後押ししてくれる。

何度背負っても降ろす気になれない背中の誇り。

そして・・・

 

「・・・・・・・・・・」

「ココ爺?」

 

ココ爺はもう一度無言でリュックサックを漁り、もう一つのものを取り出し、シモンに差し出した。

それは服ではなく、四角いプラスチック状のもの。

 

「・・・・・・・・・・」

 

相変わらず無言のココ爺。

そしてシモンはココ爺が渡してくれたものを見ると、体中に衝撃が走った。

 

「あっ・・・・・・」

 

手渡されたのは一つの写真たて。

その中には少し恥ずかしがっているシモンの腕に、ニアが美しい笑顔で抱きついているツーショット写真だった。

 

「ニア・・・・・・」

 

こみ上げそうになる涙を必死に堪えながら、シモンは一枚の写真を強く握り締める。

最愛の女性と撮った生前の幸せだった日常の中の一枚の写真。

もう二度と一緒に写真を撮ることも過ごすことも、話すことも出来ない人とのありふれた筈だった一枚の日常の光景。

今では懐かしく、とても愛おしい日々だ。

写真を見てヴィラルもブータも何も言わない。

するとココ爺がシモンのすぐ傍まで近づき、口を開く。

 

「お体に・・・気をつけて」

 

たった一言だった。短くとも、そのたった一言がシモンの心に突き刺さる。

それはほんの僅かだった。

他人なら決して気づかずに見逃してしまっただろうが、シモンも、ヴィラルもブータも、ココ爺が僅かに微笑んだことに気づいた。

 

「ありがとう・・・・・・ココ爺もまたな!」

 

写真を服の内側の胸ポケットにしまい、シモンはいつも通りにココ爺に笑顔を見せる。

 

「俺は必ずまたここに帰ってくる。それまで・・・・ここを頼んだぞ!」

 

荒れた荒野に立つ二つの墓。

そこが再び自分がもう一度帰ってくる場所である。

そんな場所を預けられるのはココ爺以外にはありえない。

そしてココ爺もこの場所を守り続けることを、己の最後の使命と心に決めて、シモンの言葉に頷いた。

 

「行ってくるよ」

 

友から受け取った螺旋族の象徴、ココ爺から貰った誇りと、愛しい者との思い出。

そして・・・

 

「今度は・・・お前も一緒だ・・・ニア・・・。もう、ほったらかしにしたりはしない」

 

シモンはニアの墓前に飾られている一つの指輪を掴み取り、それに紐を通して自分の首に飾った。

 

「シモン・・・貴様・・・」

 

シモンが首に飾ったのはニアの墓に飾られていたニアの結婚指輪だった。

 

「今度はいつ帰るか分からないからな。だったら一緒に連れて行くことにした。これで・・・どこまでも一緒だ!」

 

寂しがらせたのなら一緒に連れて行こう。

ニアの想いと思い出と共に、シモンは旅立つことを決めた。

そのことにココ爺もうれしそうに頷いた。

そしてシモンはコートを翻して背を向け、この地で最も高い場所へ登る。

歩きながら小さく「ありがとう」と言い、体から緑色に輝く光を流した。

 

「ブゥゥ!」

 

シモンの肩にいるブータが小さく鳴いた。

それを見ながらシモンはヴィラルから貰ったコアドリルを天に向かって突き刺した。

 

(シャークティ・・・)

 

自分を救ってくれた女性を心の中に思い描く。

そして自分の大切な二人の妹分を思い浮かべる。

そこが自分の向かうべき、もう一つの帰る場所である。

 

 

「さて、行くか!! 一緒に行くぞ、ニア、そして螺旋の同胞たちよ!! お前たちの知らない明日と世界を見せてやる!!」

 

 

光の中、男と小さな生物は共に消えた。

仲間たちの魂と誇りと共に旅立った。

 

(美空、ココネ! 今、帰るぞ!)

 

しかしこの時シモンは予想も出来なかった。

 

自分が向かう先、つまり自分がワープするべき先を、場所ではなく人を頭の中に思い浮かべたのが全ての原因だった。

 

ワープをする瞬間に美空とココネを思い描いたのが失敗だった。

 

この時、シモンが麻帆良学園の教会、またはシャークティだけを思い描いていれば、違った結果になっただろう。

 

シモンは知らなかった。3人一緒だと思っていたが、美空もココネも既に麻帆良学園にいないのである。

 

シモンは帰る家ではなく、家族を思い描いてしまったことにより、これから先、多くの混乱を招くことになるとは、この時点では予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ美空、また会おうね!」

「おう! コレットもまた今度ね!」

 

交流期間など僅かなものだった。

パーティーでお互いの情報交換や親睦を深めた彼女たち。

だが、いつまでも暇なわけではない。美空たちも仕事、そしてコレットたちにも授業がある。

今日は交流を終えてメガロメセンブリアに一旦戻る美空たちを見送りに数人の生徒たちが、アリアドネーの空港に駆けつけていた。

 

「美空の気合、かっこよかったよ。私も少し気合入れて、マジになるよ!」

「おっ、いいね~。気合が伝染するのはうれしい限りだ!」

 

僅かな期間だったが、美空とコレットは直ぐに仲良くなった。

もともと二人とも打ち解けやすい性格のうえに、ネギの話題や、エミリィとの決闘から、彼女たちはとても親しくなった。

 

「では、ベアトリクスもまた」

「はい、高音さんも気をつけて」

 

旧友の二人もあっという間の別れだが、寂しそうなそぶりも見せずに爽やかに互いに別れを告げる。

しかし少し物足りない。なぜなら一人足りないからである。

 

「それでベアトリクス・・・その、エミリィは?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

高音の問いにベアトリクスは少し難しい顔になる。

そう、何人かの生徒が見送りに来る中で、高音の旧友のエミリィはここに来ていなかったのである。

 

「その・・・・まだ・・・・自室に篭っているようです」

 

ベアトリクスの少し言いづらそうな様子から、高音も察した。

 

「そうですか。・・・やはり・・・・ショックだったようですね・・・」

「・・・・ええ・・・」

 

二人の会話を聞いて、愛衣もココネも、そしてコレットたちも美空を見る。

 

「えっ・・・・私の所為すか?」

 

美空は己を指差し、少し顔が引きつってしまった。その言葉に全員が無言で美空を見つめた。

エミリィは美空との決闘から、部屋に篭りきりの様子である。

それは決闘で負った傷の所為ではない。

いや、ある意味デカイ傷かもしれない。

 

「やはり・・・自信家のお嬢様に敗北は大きな傷になったのでしょう・・・」

 

魔法使いとしての誇りを、いい加減な美空に思い知らせるためにエミリィは杖を取った。

しかし結果はエミリィの大敗だった。

それはエミリィのこれまでのプライドを粉々に打ち砕く出来事だった。

 

「美空さんの所為ではありませんわ。あれは紛れも無く決闘だったのですから、勝者の美空さんが気に病む必要もありません」

「いや、別に気に病んじゃいないけど、気になるっつうか・・・面倒くさいっすね~、プライド高い魔法使いってのも。喧嘩に負けたら次は十倍返しって意気込んで気合入れりゃいいじゃないっすか~」

 

少なくとも自分は楓に敗北した時はそうだった。

その時の意気込みが先日の勝利に繋がったのである。

 

「美空さん・・・・・・。たしかに・・・そう・・・かもしれませんね」

 

美空は相変わらずの軽口だが、高音は少し考えながら頷いた。

口は軽くても、先日の戦いで、美空の譲れぬ信念を感じ取ったからこそ、今の言葉を深く考え取った。

 

「壁にぶつかるにしろ、どん底に落ちるにしろ、そこから動けぬものが三流で終わり、這い出したものが一流へ一歩近づくと思います。エミリィが自身の魔法使いとしての目標を口だけにしないためにも、自分自身でどうにかするしかありませんわね」

 

高音はそう感じ取ったからこそ、心配ではあるが無理にエミリィに決闘後に干渉しようとはしなかった。

 

「立ち直れるでしょうか・・・・お嬢様は・・・」

「立ち上がれないのなら・・・・この道に進むのはあきらめたほうがいいでしょう」

「お姉さま、・・・・それは厳しすぎではありませんか? 幼馴染なのでしょう?」

 

冷たく言う高音に愛衣は口を挟むが、高音は首を横に振った。

 

「一人で立つことの出来ない者が、この道にしがみ付くことはできません。それに・・・詳しい事情は知りませんけど、美空さんは立ち上がったのでしょう?」

 

高音に言われて、自然と皆の視線が美空に集中する。

 

「あなたも本気になって、叩きのめされて、そこから這い上がって今のあなたになったのでしょう?」

 

図星を言われて少しドキリとした。だが、隠すようなことではないので、美空は黙って頷いた。

それを見て、高音は視線を逸らして、真剣な表情になった。

 

「今回のエミリィの姿は、・・・いつか私がどん底に落ちたときの姿かもしれません」

 

たとえ普段いがみ合っていても、高音もエミリィも根っこは同じである。

そのエミリィの敗北が、いつか来る自身の敗北のように思えてならなかった。だからこそ、高音は新たに誓った。

 

「私も・・・今以上に本気になるべきでしょうね・・・・」

 

高音の決意は、ベアトリクスやコレット、そして愛衣の心にも突き刺さった。

そして高音は一度小さく笑って、ベアトリクスたちに振り返る。

 

「今度会う時は更に成長していることを誓います。ですから、ベアトリクスやコレットたちも、・・・そして・・・エミリィにもそう伝えて置いてください!」

 

その言葉にコレットは勢いよく頷いた。

ベアトリクスも無表情ではあるが、しっかりと頷いた。

そしてやがて空港にアナウンスが流れる。それは美空たちが乗る艦だった。

 

「時間・・・・・」

 

ココネの言葉に高音、美空、愛衣は頷きあってその場に背を向ける。

 

「また会いましょう!」

「コレットもまったね~~」

「マタ会う!」

「今度はこっちの世界にも来てくださいね~~!」

 

四人がそれぞれの荷物を抱えて、別れの言葉を残して機内へ進んでいく。

 

「またねーー! 私もがんばるからねーーーッ!」

 

そして四人の後姿が見えなくなるまで、コレットたちはその場でずっと手を振っていた。

 

しかし彼女たちの再会までの時はそれほど長くは無かった。

 

だが、現時点でそのことを知らない彼女たちは精一杯の声で、友への別れの言葉を叫んでいた。

 

 


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