魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第23話 だって俺、結婚しているし

激戦を乗り越えた少年少女は夜明けとともに帰ってきた。

彼らは友を救出し全員無事という快挙だった。

本山にて待機をしていた詠春は木乃香の姿を見つけるや否や、西の長である立場を忘れ一人の父親として娘を力強く抱きしめた。木乃香は決して嫌がることなどせずに詠春の腰に回し「ただいま」と笑顔で答えた。

詠春はその笑顔を見てもう一度強く娘を抱きしめた。

 

「木乃香のお父さん本当にホッとしてたわね~」

「娘への溺愛ぶりは相変わらずだったな」

「これもアスナたちのおかげやな、ウチほんまにうれしいよ」

「それにしても昨晩はいろいろな方に来ていただきましたね」

 

朝一番の温泉に入るのはアスナ、エヴァ、刹那、木乃香の4人。

傷は木乃香が治したとはいえ体はかなり汚れていたため、朝ごはんの準備の前に風呂に入ることを木乃香が提案したのだ。

 

「それにしても一番驚いたのは美空ちゃんよ!龍宮さんとかくーふぇとかは雰囲気的になんとなく分かるけど美空ちゃんだよ」

「確かに私も春日さんとは同じクラスでしたがまったく気づきませんでした」

 

謎のシスターこと美空が魔法関係者だったことに一番の衝撃を受けたアスナたち。

当の本人の美空、そして助っ人に来た楓、龍宮、古の4人は本山にいかず、身代わりを用意していないからと旅館に帰ってしまった。

自分たちだけ歓迎されて申し訳ないような気もしたが、楓が気にするなと笑って言ったため、無理強いはせずに4人は旅館に帰った。

 

「エヴァンジェリンさんは全部最初から知ってたん?」

「まあ私が知ったのもつい最近のことだがな。だが木乃香よ、これでおまえもこちらの世界に来るのか決めなくてはならないぞ」

 

木乃香の魔力はサウザンドマスターをも凌駕すると詠春のお墨付きである。

その証拠にアスナたちのボロボロだった体は木乃香の力によって完全に治ってしまった。

窮地に追い詰められ覚醒した木乃香の力により皆無事にいることが出来たのだ。

木乃香が危険な世界に足を踏み入れるのは刹那も臨むものではないが、ここまで来たら詠春の言うとおり本人の意思を尊重するべきだと思い、決断は木乃香にまかせた。

 

 

「ウチも大まかにわかったんやけど、ネギ君やエヴァンジェリンさんが魔法使いでそのパートーナーがアスナ、せっちゃんは呪術師か~・・・シモンさんはどうなん?」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 

それには全員押し黙った。

龍宮のような傭兵、楓のような忍者、古のような武道家と違いシモンは正直分類不能な人間だったからである。

 

 

「ウチ魔法使いになるんやったらパートナーはせっちゃんとシモンさんがええな~」

 

「「「ぶーーっ!?」」」

 

 

木乃香の爆弾発言に3人が噴出す。

 

「こここ・・・このちゃん!?」

「刹那さんは分かるけど何でシモンさんなわけ!?」

「ん~~昨日な、ハルナと話して気づいたんよ・・・ウチはシモンさんに惚れてるゆうこと」

 

「「「んなっ!?」」」

 

 

それはある程度予想していたことだった。

木乃香のシモンに対する感情は何となく皆気づいていた。

しかしそれを本人の口から言うことまでは予想しなかったため、アスナたちは口をあけたまま固まってしまった。

 

 

「バ・・・・バカなことを言うなーー!キサマには刹那がいるだろうが、パートナーとは本来一人だけだ!」

 

「じゃあ、せっちゃんが魔法使いのパートナーでシモンさんが人生のパートナーや!」

 

「「「ぶほーー!?」」」

 

 

さっきの数倍の威力で3人は噴出した。

 

 

「こここここのか?アアアアンタいつの間にそこまで?」

 

「くっ、まずい・・・・じじいもこういう話には真っ先に食いついてしまう・・・詠春のシモンへの評価は低くないだろうし・・・」

 

「・・・・・このちゃん・・・・」

 

 

木乃香のお見合いが一つの趣味となっている学園長にとって、木乃香自らの意思で結婚を示唆するのならば、シモンとの仲が認められてしまうかもしれない。

そして詠春も今回のことでシモンを高く評価しているはず。

エヴァはそのことを考え急にあせりだしてしまった。

刹那は親友の思いに少し複雑な感情を持ってしまい、少し悲しい表情を浮かべた。

しかしその時、温泉の扉が開く音がした。

 

「朝から温泉なんて贅沢だよね~カモ君、ブータ君」

「ぶひぶひ」

「兄貴の風呂嫌いも温泉ならいいみたいだな・・・・ってむほっ!?」

 

するとこの状況に一人の少年と二匹の小動物が入ってきた。

そして4人と目が合った。

 

「・・・・このエロガキー!入ってるか確かめなさいよ!」

「だだだだって夕映さん達は部屋にいたので、長が入ってきていいって・・・・」

「まあまあアスナ落ち着こうな~ネギ君も知らなかったんやしええやないか~」

 

そう言って木乃香たちはタオルで体を隠しそれ以上咎めようとはしなかった。

 

「ブータ君もカモ君も気持ちええかえ?」

「ぶひっ」

「おうよ!キレイな姉さんと入れるなんて天国だぜ!」

「それにしてもシモンさんがこんなペット・・・じゃなかった相棒だっけ?いたなんてぜんぜん知らなかったわ」

「確かに私も最初相棒と教えられたときピンと来ませんでしたが、昨日のシモンさんとともに戦った姿は正に相棒でしたね」

 

ブータとカモとネギを囲みながら談笑する乙女たち。そんな様子に、エヴァは内心ではかなり焦っていた。

 

(まずいな・・どんどん情報のアドバンテージが無くなっている・・・シモンの事情を知っているとはいえ、おそらくそれもシャークティよりも劣っているだろうし・・・・もっと詳しい話をシモンから聞きださねば!)

 

数名しか知らなかったシモン情報がどんどん広がっていく。

ここでシモンが異世界の住人であることまで知られたら差が無くなってしまうことにエヴァは慌てた。

 

「ってまずいですよー!」

 

ほのぼのしだした途端ネギが叫んだ。

 

 

「もうすぐシモンさんと長も来ますよー!」

 

「「「それはまずい!?!?」」」

 

 

ネギは子供ゆえ許されるかもしれないがシモンと長が一緒に入ることは絶対まずい!

女性たちはあわてて風呂を出ようとしたが扉が開く音がした。

 

「おーいネギー、ブーター、ちゃんと浸かってるかー?・・・ってあれ?いない」

「おや?もうあがってしまったのかな?」

 

シモンたちが風呂に入る一瞬にアスナたちは温泉の中にある、でかい岩の後ろに身を隠した。

 

 

『はあ、はあ、はあセーフ』

 

『なんで僕まで隠れるんですか?』

 

『しょうがないでしょ!あわててたんだから!』

 

『とにかく長とシモンさんが出るのを待つしかありませんね・・・・・』

 

 

全員岩の後ろに隠れ小声でこのままやり過ごすことを決めた。

しかしこの行為が原因で彼らはシモンの過去を知ることになる。

 

「温泉って気持ちいいな~」

 

シモンが肩まで浸かり極楽の表情を浮かべる。

 

「ははは、これで喜んでくれるなら幸いだ。ネギ君たちもそうだが、君にも本当に世話になったからな」

 

詠春はシモンに礼を言う。

 

 

「我々が作った問題を君たちは解いてくれた。娘の命まで救っていただき感謝しきれないぐらいだ。刹那君も木乃香と仲直りできたみたいだしね」

「そういえば桜咲、昨日カッコイイ羽が生えてたな・・・・ひょっとしてあれが原因なのか?」

「かっこいいですか・・・ええ、彼女はあの翼をコンプレックスに思いずっと隠してきました。木乃香にも拒絶されたくなかったがゆえでしょう」

 

詠春はその刹那を拒絶していた関西呪術協会の長としてずっと申し訳なく思っていたようだ。

するとシモンは風呂につかりながら指を空に向かって指す。

 

 

「バカだよな・・・・翼は隠すためじゃない・・・・翼は天を翔けるためのものじゃないか。周りの奴らが持っていないからって周りの真似することなんて無いのにな」

 

「・・・・・ふふ、そうですね」

 

 

シモンの言葉は岩陰に隠れる刹那にも響いた。

 

 

『私の翼は・・・天を翔けるものか・・・・まったくシモンさんはよくそんな言葉が簡単に出る・・・』

 

『天を翔ける翼、いいじゃない刹那さん!今度からそう名乗れば?』

 

 

人のコンプレックスをあっさり魅力にするシモンの言葉。上辺だけでない重みを詠春は感じ取った。

 

 

「君は魔法使いや陰陽術や人外などの枠組みにとらわれない自由な男だ。ネギ君だけでなく刹那君やエヴァンジェリンもそれに救われたようですね・・・・」

 

「似たようなことをエヴァにも言われたな・・・・・・」

 

 

すると詠春は

 

 

「そんな君のような男が、新たな時代に必要なのかもしれない・・・・・・・シモン君!」

 

「はい?」

 

「木乃香の婿となって皆を導いてくれないか?」

 

「えっ?」

 

『『『『『なにーーーー!?』』』』』

 

 

詠春の爆弾発言にシモンはあっけに取られ、アスナたちは思わず大量に噴出して、隠れているのがバレるところだった。

 

 

「いや~~俺と近衛は歳離れているよ、無理無理、ネギの方が適任だよ」

 

シモンはてっきり冗談だと思って笑ってごまかした、すると詠春の顔つきが真剣になった。

 

 

「木乃香もあと数年で大人になる・・・・・・実は私の義父の趣味で木乃香は見合いを多くさせられている・・・・・それこそ肩書きだけは人一倍の男たちだ」

 

「はあ・・・」

 

「このままつまらない男に渡すぐらいなら私が認め、そしてあの子が思う相手がいい。あの子が思う相手は・・・・君だと思う」

 

 

詠春の真剣な思い。

どうやらふざけてではなく本当に木乃香と未来を託そうとしているようだ。

昨日初めて出会った男を詠春はわずかな間にそこまで信頼していた。

そして岩陰では

 

 

『ここここのかさんとシモンさんが結婚!?』

 

『おのれ~詠春め~、余計なことを~~』

 

『う~~どないしよ~~~でも・・・・お父様ナイスや~~!!』

 

『長・・・・・いきなりすぎます・・・・・・・・シモンさん・・・・』

 

『どうすんのこれ・・・・・』

 

『ぶひ~~』

 

 

もはや完全に全員テンパッていた。

木乃香は如何しようなどと言っているが、顔は明らかにニヤけていた。

しかしブータだけが悲しい目をしてシモンを見ていた。

シモンも詠春が真剣であるということを察した。

だから自分も真剣に答えることにした。

 

「詠春さん、俺は近衛とは結婚できない・・」

「・・・・・不満があるのかね?」

「だって俺・・・・・・・・・結婚してるし・・・・・・」

「!?」

『?』

『『『!?』』』

 

一瞬間を置いて

 

 

『『『『『○ぶ×ぶーーーー△■!?(本日一番の衝撃)』』』』』

 

『か・・・・・えっ・・・・?』

 

『う・・・・・嘘・・・』

 

『けっ・・・・こん・・・している・・・だと?』

 

 

全員が知らなかった。

まさかシモンがすでに結婚しているなどと誰も予想もしていなかった。

もはや全員何がなんだか分からず、口をパクパクさせていた。

 

「結婚・・・・・していたのかい・・・・・君・・・・」

 

詠春もこれには衝撃を覚えた、完全に動揺しまくっていた。

 

 

「はい・・・・ネギには言ったけど俺はこれまで二度恋をした。初恋はヨーコっていう女、そして二度目の恋こそ俺が最も愛した女・・・・ニア・・・それが俺の妻の名前です」

 

 

シモンは少し恥ずかしそうに指で自分の頬をポリポリ掻く。

 

「そうだったのか・・・・・はは・・・まったくそんなふうに見えなくて・・・・あわててしまったよ・・・・」

 

詠春もまったくの予想外の展開に苦笑するしかなかった。

 

 

「二アは俺が一番辛かったとき、いつも見捨てず俺のそばにいてくれた。でっかい困難が立ちふさがっても俺なら出来るといつだって信じてくれた・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「いつも言葉に突拍子が無くて、たまに意味が分かんなかったりしたけど、ものすごく温かくて・・・俺の一番大切な人」

 

 

シモンが二アのことを話し出した。

その言葉に未だにアスナたちは衝撃から抜け出せないでいた。

 

 

『まさかシモンさんが結婚していたなんて・・・・・』

 

『でもおかしいですよ!シモンさんはヨーコさんって人の次に恋をした人とは一年前に別れたって・・・』

 

『た・・・・確かに・・・そう言っていましたが・・・・このちゃん?・・・』

 

『・・・えっ・・・あっ・・・・うん・・・・・・・・』

 

 

シモンが依然言っていたことに辻褄が合わないと感じたネギ。

しかし木乃香の耳には入らない。先ほどとは打って変わって呆然としていた。

それはエヴァンジェリンも同じだった。

しかしシモンは衝撃の言葉をさらに言う。

 

 

「俺が二アと出会ったのは今の近衛たちと同じぐらいのとき、それから7年間ずっと好きだった。そして1年前俺のプロポーズを受けてくれました」

 

「もはやなんと言ってよいやら・・・・ではもう子供もいるのですか?」

 

 

その言葉にシモンは静かに首を横に振った。

 

 

「ネギたちには一年前に別れたといっているけど、それは正しくない・・・・正確には・・・・死に別れた・・」

 

「!?」

 

『『『『『!?』』』』』

 

「二アは・・・・・一年前に、俺の前で・・・」

 

 

シモンは遠くを見るような目で空を見上げた。

その言葉に詠春もアスナたちも誰も声を発せずにいた。

 

「二アはもういない・・・・でも俺はニアを今でも愛している。あいつがいなくなって一年、その思いは今でも変わらない、むしろ強くなっている」

 

一緒にいるのが当たり前だった。もう二度と会えなくなるとは思わなかった。

シモンは一年前のニアが死ぬ前に行った結婚式では二アの死を割り切っていた。

しかし時がたつにつれ、ただの強がりだと実感していた。

 

「あいつは、俺の背中に・・・・この胸に・・・・今でも鮮明に生きているんです・・・死んだけど・・・生きているんだ・・・・これからもずっと」

 

今でもこんなに想っているのだから。

 

「だから、俺が他の誰かを好きになることは無い。この先、一生だ。・・・・・だからごめんなさい」

 

シモンは湯船に浸かりながら詠春に頭を下げた。

詠春も申し訳なさそうな顔で首を横に振った。

 

それからお互いに気まずい雰囲気が流れた。

詠春もそれ以上のことは聞こうとせず、シモンもそれ以上は話さなかった。

結局互いにそのまま、頃合を見て風呂から上がり出て行った。

 

シモンと詠春が風呂から上がったのを確認し、ネギたちはようやく岩から顔を出した。

相当長湯だったため全員少し顔が赤くなっていた。

だが5人とも今のシモンの話に相当ショックに感じたようで、誰も言葉を発せ無かった。

 

ネギもアスナも刹那もエヴァンジェエリンも木乃香もそしてカモも知らなかったシモンの悲しみ。

ブータだけが知っていた。

 

ネギは少し前シモンに恋と愛について少し教えてもらったことがある。

自分にはまだよく分からないことだったが、その自分に対してシモンは自身の過去を少し教えてくれた。

実はシモンは昔はまったく駄目な男だったと自分で言っていた。それがネギにはとても信じられなかった。きっとそんなシモンを支えたのがニアなんだとネギは思った。

 

アスナはまだ誰かを愛したことは無い、

アスナは高畑のことを好きだがそれはまだ好きの領域である。

嫉妬が恋の知らせで、その人のためなら世界の果てまで飛んでいくのが愛だとシモンは言っていた。

そんなシモンが愛した人。きっとニアという女のためなら世界の果てまで飛んで行ったんだろうとアスナは思った。

 

 

エヴァンジェリンはかつてシャークティに言われた言葉を思い出していた。

 

―――それが恋愛感情なら・・・・今のシモンさんには重荷にしかならないはずです・・・

 

(あの女・・・・このことを言っていたのか・・・・ちっ・・・・)

 

自分の気持ちに素直になると決意した日、その想いが恋愛感情ならばやめろとエヴァはシャークティに言われた。

その時は何のことを言っているのか分からなかった。大して気にも留めなかった。それが今ようやく分かった。

それがエヴァには悔しかった。シモンの事を知った気になっていたのが悔しかった。

実は自分はシモンをまったく知らなかったことが悔しかった。

 

 

刹那はとても苦しかった。

徐々に自分でも自覚してきたシモンへの憧れや思い。しかしその人物は親友の思い人である。

応援しなければと思う自分とシモンへの憧れの気持ち、事情を知るエヴァンジェリンへの嫉妬、自身の中で様々な思いが交錯する中で知ってしまったシモンの過去の一部。しかしその一部だけで十分だった。

 

(・・・・ニアさんか・・・・・)

 

死してなお思い続けるシモンの愛。

自分もエヴァンジェリンも、親友の木乃香も何も伝えないままシモンの気持ちを知ってしまった。

 

そして、

 

 

「・・・・・・・木乃香?」

 

 

アスナが何かに気づいた。

その言葉に全員が木乃香に注目した。

 

「こ・・・木乃香さん・・・・」

「このちゃん・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

全員の反応に木乃香が顔を上げる。

するとそこには呆然とただ涙を流す木乃香がいた。

 

「えっ?・・・・あれっ?・・・・なんでウチ・・・泣いてるんやろ・・・はは・・」

 

皆に注目されてようやく自分が涙を流していたことに気づいた木乃香。

あわてて涙を拭おうとするが、その涙は決して止まらなかった。

 

「このちゃん・・・」

「なんでもあらへんってせっちゃん・・・・・・・でもおどろいたなー、シモンさん結婚してたんか~」

 

涙は流れているが木乃香は無理矢理明るく振舞って誤魔化そうとしたが、その姿に刹那やアスナは痛々しいような目で見ていた。

 

「ウチ・・・カッコ悪いな~・・・告白せんと振られてもうたわ~・・・うっ・・・・ぐすっ・・・・」

 

友に諭されてようやく気づいた気持ち。

それを友の前で口にしたことによって新たに決意した。

自分も、のどかのようにがんばると、刹那やアスナにもついさっき教えたばかりである。

自分のシモンに対する思いを、これからがんばると。

しかし、これからなんて無かったのだ。

今シモンはハッキリと口にしたのだ。

木乃香と一緒になることは無いと。

 

始めようとした矢先に終わってしまった恋。木乃香はもう何も考えられなくなっていった、

 

「うっ・・・・はは涙止まらんわ~・・・・ひっく・・・・うっ~」

「このちゃん・・・ええんやよ、泣いても・・・・・」

 

本当は刹那も泣きたかった。しかし出来なかった。

シモンのことで木乃香の前で泣くことは絶対に出来なかった。

刹那は自身の涙をこらえながら、そっと木乃香の肩を抱きしめた。

 

「うっ・・あっ・・うわああ~ん」

 

生まれて初めての失恋。今はただ、木乃香は親友の腕の中で泣いた。

シモンは自分の過去を木乃香たちに聞かれていたとは夢にも思わなかったが、風呂上りのアスナたちとは少し気まずい雰囲気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・そういうわけだから事後処理は詠春さんがしてくれるみたいで後は気にするなってさ」

「ふ~ん、まっそれなら別にいいんだけどね~・・・・でもとうとう正体がアスナたちにバレちゃったよ~」

「ぶひ~」

「はは・・いいよブータ。私がボイチェンジするの忘れたのが原因なんだし・・・・」

 

修学旅行最終日、シモンは美空と茶屋で合流し報告をしていた。

昨晩のお礼ということでシモンは美空に好きなものを奢っていたが、隠していた正体がバレタ美空はうな垂れていた。

 

「でも神楽坂たちなら黙っててくれるって。それにそのお陰で俺は助かったんだ、本当に感謝してるよ美空」

 

そう言ってシモンはメニューをうな垂れている美空の前に置いた。

もっと好きなもの頼んでいいよという意味の表れである。

美空はメニューをチラッと見てからうな垂れたまま店員に2、3品和菓子を追加で注文していたが、それでもまだショックでうな垂れていた。

 

「はあ~~・・でもさ~シモンさんここにいていいの~?」

 

シモンを見上げて美空が尋ねた。

 

「んっ?なんで?」

「今日確かネギ君のお父さんの隠れ家に行くんじゃなかったけ?」

「ん~俺も最初そのつもりだったんだけど、あいつらなんか余所余所しくてさ~、なんか気まずかったから先に帰ることにしたんだ」

 

シモンは風呂から上がった後のネギたちの態度が気にかかった。

なぜか居心地の悪い雰囲気を感じて自分は旅館に帰ることにした。

ネギたちの態度の理由は当然シモンの過去を盗み聞きしたのが原因であるが、シモンはそのことにまったく気づいていなかった。

ブータはネギたちが余所余所しかった理由を知っているが、それをシモンに教えなかった。

美空もいる手前シモンにこれ以上ニアのことを話すことはすべきではないと判断したのである。

 

「まあ、ネギも知らない父親を俺が知っても仕方ないし、シャークティやココネのお土産も買ってなかったからこっちに来たんだ」

「ふ~ん、シモンさんって意外とクールに割り切ったりするんだね~、まあシモンさんがそれでいいならいいけど・・・・」

 

そう言って美空はゆっくり体を起こし急に真面目な顔になった。

 

「それでシモンさん・・・・修学旅行から帰ったらどうするの?」

「帰ったら?」

「シモンさん、今はバイトって形でここにいるけど、教会にこのまま残るなら私たちも歓迎するよ。それに元の世界への帰り方も無いんでしょ?」

 

美空の問いかけにシモンは少し考えてから答えた。

 

「帰る方法があるかもしれない・・・・・・」

「えっ!?どうやってさ!?そんな魔法聞いたことも無いよ!?」

「魔法使いと戦っているうちに、以前グレンラガンで出来ていたことが生身で出来るようになった。つまり気合があれば何でも出来るってことだ」

「グレンラガン?シモンさんとアニキのガンメンの事?異世界へ行く方法なんてあったの?」

「異世界かどうかは分からないけどワープが使えた。相手を思えば気合で飛んでいくことが出来たんだ、それが使えるかもしれない」

 

螺旋界認識転移システム。

簡単に言えば気合さえあれば宇宙の果てまでだって飛べる。

その力をもし使うことが出来るなら帰ることが出来るかもしれない。シモンはそう思っていた。

 

「まあ、もし試すとしてももう少し先の話さ。簡単に行ったり来たり出来るとも思えないし、まだ俺やグレン団のことを美空たちに教えるって約束が残っているからな」

 

美空はその言葉に目を丸くした。

シモンの帰る方法よりもシモンがまだここに残る理由が自分たちにあったからだ。

たしかに自分たちはシモンの物語を教えてくれといったが、元の世界に帰るよりもそのことをシモンが優先していることに驚いた。

 

「いいの?シモンさん仲間に会いたいんじゃないの?」

 

それはこの修学旅行中にシモンが何度か思っていたことだった。

自分の常識が当てはまらない世界においての孤独が何度もシモンの心を締め付けた。

シャークティにも美空と同じことを聞かれた。

しかし、今はブータがいる。自分の話を信じてくれる人がいる。命を懸けて共に戦った者達がいる、それだけで十分だった。

 

「そうだけど美空やシャークティ、ココネには知って欲しいんだ。こことは違う世界で無理を通した者達のことを。この世界はそのことを知らないけど美空たちには知って欲しいんだ!俺を助けてくれたおまえたちに。俺はおまえたちのことを家族だと思っているからな!」

 

それがシモンの思いだった。

誰も自分のことを知らない世界で受け入れてくれた彼女たちにもっと自分達のことを知って欲しかった。

美空はその言葉がとてもうれしかった。

知らない世界に急に放り込まれてシモンは不安だっただろう。自分の常識を周りの人間に疑われていただろう。その証拠に自分も最初はそうだった。

しかし、今ではシモンは自分達のことをここまで信頼してくれている。

一緒に戦場で戦ったネギや刹那たちは大グレン団も異世界のことも知らない。事情を多少知っているエヴァンジェリンも自分よりは知らない。つまり意外なことにシモンのことを一番知っているのは美空やシャークティだったのだ。

 

「家族か~、そっか~私たちシモンさんに信用されてたんだね~。なんかいいなーそういうの!」

「ああ、美空とココネが妹でシャークティが姉貴って感じだな!」

「そっか~じゃあシモンさんは今度から兄貴って呼ばせてもらうよ!」

「えっ・・・・それは・・・・・」

 

アニキという言葉にふさわしい男は一人しかいない。シモンは美空の提案に少し顔を曇らせたが

 

「アニキさん・・・カミナさんのことは知んないけど私やココネから見たらシモンさんこそ兄貴だよ、だ・か・ら今度からシモンさんは私たちの兄貴!ブータもそれでいいよね~」

 

「ぶひっぶひっ」

 

 

ブータも美空の提案に賛成した。

まさか自分がそう呼ばれる日が来るとは思わなかったが悪い気はしなかった。シモンは黙って頷いた。

 

「へっへー、よしっ兄貴っ!帰る前にちゃっちゃっと土産買いに行こう!」

 

先ほどまでうな垂れていた時とは打って変わって美空はうれしそうにシモンの手を引いて外に出た。

シモンも少し苦笑しながら美空についていった。

 

寂しさを忘れ、今は新たな世界で出来た家族との時間を楽しむことにした。

 


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