魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第45話 それがダチってもんだ

「あ~あ、私は一回戦アスナか~、こりゃ負けたな~」

 

まほら武道会選手控え室にて、顔を覆面で覆ったシスターが体育座りをして愚痴を零していた。

 

「そんなの分からないじゃない」

「いや~、アスナは好戦的な暴力女だからね~、私じゃ無理だって~」

 

始まる前からやる気が失せている美空。

普段修行を疎かにしている彼女は最近まで素人だったアスナにも勝てる気がしなかった。

 

「まあ1000万は諦めて超の様子見ってことで、正体バレルのヤダし賞金は兄貴とヨーコさんのどっちかに任せるよ~」

 

その言葉を聞いてシモンとヨーコはお互いを見た。

 

「俺達の・・・・」

「・・・どちらかに・・・ね・・」

 

美空も自分で言ってようやく気付いた。そもそもシモンとヨーコは一回戦から戦う組み合わせになっている。

 

「ライフル使っちゃダメなんだぜ?」

「ドリル使っちゃダメなのよ?」

 

お互い笑みを浮かべあう。

そう、出会ってから初めて今日シモンはヨーコと戦うのだ。それは少し妙な感覚だった。

そもそも女と殴りあうなんて絶対にお断りだ。しかしシモンは少し心のどこかでヨーコとの戦いを楽しみにしていた。

ヨーコも同じ気持ちである。

憎しみも無い、理由も無いただの戦い。しかしその戦いを心待ちにする両者の目から火花か飛び散っていた。

 

時間が少しずつ経過していく。

すると徐々に本戦出場者が姿を現してきた。

龍宮や楓といった参加者や初めて見る顔もいる。

しかし皆が只者でないオーラを出していることは理解できた。

 

そして遅れてネギたちもようやく現れた。

 

 

「シモンさん!おはようございます!」

 

「よう、おはよう」

 

 

昨日の夜とは違い、その顔つきは逞しかった。

ネギも一晩自分なりに考えて今日ここに来たのかもしれない。

少なくとも今のネギの表情に迷いが見られない。シモンもその様子に安心した。

 

「アスナもおはよう、・・・・あれっ?刹那は?」

 

ネギと一緒に来たのはアスナと小太郎だけである。

一緒に刹那が来ていないことに少し疑問に思っていたら、アスナが首をかしげながら口を開く。

 

「実はね・・・朝もういなくて・・・それともう一つ木乃香なんだけど・・・・」

「木乃香がどうしたんだ?」

「帰ってきてないのよ・・・・昨日から・・・」

「えっ?・・・でもアイツら昨日一緒に帰ったよな・・・」

 

木乃香は昨日ネギたちより早くに刹那を連れて帰った。その木乃香が帰ってない?

少しおかしいなと思っていたら、その張本人の二人が遅れてやってきた。

 

「あっ・・・何よ二人共~、心配したじゃない!」

 

二人の姿を見て駆け寄るアスナ。しかしこの時アスナも、そしてネギやシモンも異変に気付いた。

刹那と木乃香、並んで歩く二人の間の距離が微妙に離れている。

そして二人の間の空気は明らかにいつもの二人とは違った。

 

「おはよ~アスナ、ネギ君も心配掛けたな~、シモンさんもおはよ~」

「あ・・ああ」

 

木乃香は笑っている。しかしそれは明らかに無理をしていた。言葉にも抑揚が無い。そしてそれは刹那も同じである。

 

「・・・おはようございます・・・皆さん・・・」

 

無表情の刹那、それだけ告げ刹那は龍宮たちの下へと向かった。

シモンはこの時思った。今の刹那の表情は修学旅行の時に初めて刹那と会った時の表情に似ていることに。

 

 

「何かあったの・・・木乃香?(十中八九シモン絡みなんだろうけど・・・)」

 

「そうよ、木乃香・・・昨日刹那さんと何を話したの?(シモンさんのことだろうけど・・・)」

 

「そうですよ、なんか・・・いつもと違う気がします・・・(シモンさんのことかな・・・)」

 

 

ヨーコもアスナもネギもシモンが話しに絡んでいることは予想できた。

しかし昨日の木乃香の態度からまさかこれほど深刻な空気になるとは思っていなかった。

すると木乃香は一度刹那をチラッと無表情で見て、すぐに首を返した。

 

 

「別に・・・何もあらへん・・・・」

 

「何もって・・・そんなふうには見えないよ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

微妙な空気が流れる。まさか木乃香と刹那に限って喧嘩したとも思えない。

しかし昨日は笑って済みそうかと思っていた事態が今日になって思いのほか深刻な状況になっていた。

 

「はあ~、何かこの世界の女の子の友情とか恋愛とか結構複雑なのね~」

 

ヨーコがため息つきながら言う。さすがの彼女もお手上げといった表情である。

 

 

「くっくっく、最近腑抜けた面になったと思っていたが刹那の奴め、今日は一段と腑抜けた面をしているじゃないか」

 

「あっ・・エヴァ」

 

 

今日の刹那の対戦相手エヴァンジェリンも姿を現した。その口元はつり上がり、邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 

「ちょっとエヴァちゃん!」

 

「木乃香よ、今日はお前の親友をイジメるが文句は無いなぁ?」

 

「・・・・・・・」

 

 

エヴァの宣言に木乃香は何も言わずに振り返りシモンの下へ歩み寄り、顔を見上げたかと思えば、直ぐに視線を逸らした。

 

「木乃香?・・・」

 

少し黙ったかと思えば笑顔を見せる。しかしそれが作り笑いであることは誰の目にも明らかだった。

 

「ウチ・・観客席に行ってるわ~、ほな皆がんばってな~」

 

木乃香は急に話を逸らすかのように皆に告げ、観客席へ向かう。

 

「お・・・おい、木乃香・・・急にどうしたんだ?」

「木乃香・・・アンタ・・・」

 

皆の言葉を無視して木乃香は観客席へ向かう。その表情を伺うことは出来なかった。

しかし今日の彼女はいつものようにほんわかした彼女ではなかった。

そして一度刹那と木乃香の目が合った。しかしお互い直ぐに視線を逸らして木乃香は通り過ぎていった。

この事態にアスナたちも呆然と見ているしかなかった。

 

「何よ・・・まさか本当に刹那さんと喧嘩したのかな・・・」

「ってことはシモンの旦那絡みか?親友の間で起こった三角関係ってか?」

「えっ・・・俺のせい?」

 

カモはこの事態に少し喜んでいるような口調だった。

刹那も何も言う様子はない。それはまるで肯定しているように見えた。しかし

 

「そんなわけないじゃない」

 

ヨーコはカモの予想を否定した。

 

「ヨーコさん・・・でも二人共いつもと違う様子でしたよ・・・やっぱりシモンさんのことで・・・」

「俺の所為なのか?」

 

ネギの言葉にヨーコは首を横に振る。

どうやら彼女は何となくだが二人の間で何があったか理解したようだ。

 

「そもそもシモンは現時点で木乃香たちを恋愛対象として見てないんだし、告白断ってるんだから丸も三角も四角もないでしょ?」

「まあ・・・そうだけどね・・」

「キッカケはシモンかもしれないけど・・・多分二人の心の中にある問題は違うことよ」

 

「「「???」」」

 

立ち去る木乃香の背中を見つめてヨーコは軽いため息をついた。

 

「こういうことを・・・わだかまりって言うのよ・・・本当にめんどくさいわね男と違って女の友情は・・・」

「?」

 

シモンやカミナ、男達は一度喧嘩したり酒を飲み交わせば直ぐに友達になるし、簡単に仲直りする。

しかし女はそうもいかない。ヨーコも昔はそうだった。

ヨーコは瞼の裏にニアの姿を思い浮かべた。

ニアがグレン団に入った日、ニアは直ぐに仲間と打ち解けた。

しかし螺旋王の娘であるニア。カミナを失ったばかりだったために、ヨーコはニアと簡単に打ち解けることは出来なかった。

 

「ほら、アンタは追いかけなさい!気持ちはどうあれアンタに想いを告げた子でしょ?」

 

ヨーコはバシンとシモンの背中を叩き、木乃香の後を追わせた。

シモンも原因が自分にあるようなので仕方なく木乃香の後を追った。

ヨーコはフッと笑いエヴァを見た。

 

「エヴァ、刹那をイジメて本音を引き出してやんなさい!そうすれば雨降って固まるかもしれないわ♪」

「むっ、よく分からんが、イジメてやる事に変わりわないさ」

 

ヨーコは見抜いていた。昨日の時点で刹那がシモンに想いを寄せている事は明らかだったにもかかわらず木乃香は怖い顔をしていたものの、別に怒ったりなどしていなかった。

ではなぜ今日になって微妙な空気が流れているのか?それはすごく単純な問題だった。

 

 

『ご来場の皆様お待たせしました!!只今より、まほら武道会第一試合に入らせて頂きます!!』

 

 

朝倉のマイクを通した声が響き渡る。それを聞いて観客達の歓声が上がる。

 

「さっそく始まったか~、よ~し、やるでー」

「がんばってねコタローくん!」

 

朝倉のアナウンスを聞いて第一試合を戦う小太郎が屈伸運動をしながら気合を入れなおす。

学園祭においてこのイベントだけを楽しみにしていただけあって、その表情はとても生き生きとしている。

 

腕を振り上げて会場のリングへ向かう。いよいよ大会が開戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっシモンさん?」

「シャークティ、ココネ、ここにいたのか」

 

シャークティとココネと観客席で合流した。

本当なら大人気のチケットを入手しなければ入れないのだが、シモンたち本戦選手がいるため難なく入手できた。

 

「はい、超鈴音をマークするにはこちらがベストだと判断しました・・・・それよりその・・試合前にデートですか?」

 

こめかみを少しピクピクさせてシャークティはニッコリ微笑む、その視線の先にはシモンの後ろにピッタリついている木乃香。どうやら勘違いをしているようだ。しかし彼女にはいつものような元気が無い。

 

「ごめんな~、シモンさん・・・ウチの心配してくれたんやろ?」

「うん・・・まあそうなんだけど・・・」

「「?」」

 

シャークティたちも気付いた。今の木乃香は酷く落ち込んでいる。

シャークティもこの事態に首をかしげている。シャークティは元凶であろうシモンを睨む

 

「(・・・シモンさん・・・彼女に何が?)」

「(知らない・・・刹那と何かあったみたいだけど・・・)」

「おおっーーーす!木乃香~、それにシモンさんも~!」

 

突如声がした。

振り返ってみるとそこには手を振り上げてこちらに近づいてくるハルナ、のどか、夕映がいた。

のどかと夕映も軽く会釈をする。どうやら彼女達もネギに誘われて応援に来たようだ。するとハルナはシモンと一緒にいる木乃香を見てニターっと笑う。

 

「あれれぇ~~、木乃香~~~やるじゃない!見直した!」

 

ハルナはグッと親指を突き上げ木乃香へ向ける。

 

「えへへ~、でもまだまだ、ウチは相手にされてへんけどな~」

「ひゃー、い~ね~!シモンさ~ん?・・・・むむむ?」

 

ハルナが突如顎に手を当て考える仕草を始めた。

夕映ものどかも昨夜と違う木乃香の態度に少し変だと感じていた。そしてハルナは

 

(うぬぬ・・・シモンさんからはラブ臭を感じない!?・・今日の木乃香も迷いを感じる・・・・、・・・むっ!?アッチのシスターのお姉さんからは・・・しかしこれはラブ臭では無い・・・これは・・・)

 

恋愛経験が無いわりに、恋愛に関する嗅覚が超人的なハルナはこの場一目見ただけで状況を把握した。

 

(のどかとネギ君は分かりやすいけど・・いやネギ君はヨーコさんを最近気にしている・・・アスナも意地張ってるけど・・・そういえば桜咲さんとエヴァンジェリンさんは修学旅行見る限りシモンさんに・・・)

 

その時ハルナはふっと大会の組み合わせ表を見る。

 

(って今上がった全員参加しとる~~!?へ~~~~、これは楽しみだね~~)

 

何かがありそうだ、そんな期待を込めた笑みをハルナは浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、参加者控え室にて今一人の少年がウォーミングアップで汗を流している。

 

「ふっ!ふっ!ふっ!」

 

中国拳法の型を先程から何度も繰り返している。

もうじき試合があるというのに汗が溢れんばかり飛び散っている。

気合の入りすぎなのか、もしくはそうでもしないと落ち着けないのか、たしかにそれもある。

彼の対戦相手は子供の頃から目指していた目標の一つ、今の自分を見て欲しい一人なのである。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ、いよいよタカミチと戦う・・タカミチは強い、今の僕なんかじゃ相手にならないかもしれない・・・でも・・それでも!」

 

中段突きを誰もいない空間に放つネギ、

 

「僕だって負けるもんか!」

 

覚悟は決まっている。

ネギの一番の恐れは何も出来ずに瞬殺されることである。何かを見せる前に負けることである。

それだけは絶対に避けたかった。

 

「いい目をしてるわね・・・でも少し煮詰まりすぎね」

「あっ・・・ヨーコさん・・」

 

控え室に入ってきたヨーコは汗だくのネギを見てタオルを放り投げた。

 

「小太郎は勝ったわよ・・・今アンタの師匠と真名が戦ってるわ、・・・次がアンタの試合ね・・」

「はい・・」

「・・・強いの?・・相手・・」

「はい・・強いです・・・凄く・・そして・・・僕の目指す人の強さを知る人です」

 

ヨーコはタカミチを全く知らない。そのためネギのこの熱の入りように只者ではないことは感じ取っていた。

一方ネギは、いつもならヨーコと二人きりになったら緊張してしまうのだが、この時ばかりは妙に落ち着いていた。

 

「あの・・一ついいですか?」

 

ネギは顔を上げてヨーコに少し戸惑いながらも口を開く。

 

「あの・・・ヨーコさんは・・・その・・・あの・・」

「ん?」

「カ・・・カミナさんのことを好きだったんですよね?」

「へっ?・・えっ・・・ネ・・ネギ?」

「あの・・昨日の話を聞いていて・・・そうなのかなって・・・」

 

ネギはシモンからそうだと聞いていたが、本人の口からは聞いていなかった。

それが少しネギは気になっていた。

ヨーコもネギの質問に少し驚いたものの、少しだけ考えるそぶりをして頷く。

 

「・・うん・・好きだった、私は無理を通して新たな道を見せてくれたあの人が・・・好きだった・・」

 

もう7年前の話。

今では大切な思い出の一つとして胸を張って語ることが出来る。

ネギはその表情に少しズキンと来た。しかしもう一度ヨーコの顔を見る。

 

 

「僕は・・カミナさんを知りません・・でも僕は・・・僕達の前に立って無理を通した人を知っています・・・僕はその人に父さんと同じように憧れました・・・」

 

「・・・シモン・・のことね・・・」

 

 

ネギはコクリと頷く。そしてもう一つネギの気になったこと。

 

 

「シモンさんとカミナさんって・・・似ているんですか?」

 

「えっ・・・シモンとカミナ?・・・そ~ね~・・・」

 

 

ヨーコは少し顎に手を置き二人を思い浮かべる。そしてその結論は、

 

 

「確かにたまに似ている所もあるわね・・・・シモンはカミナの影響受けまくってるし・・・カミナの言葉をよく使う・・・でもやっぱり・・・二人は違う人間ね・・・」

 

「そう・・・なんですか?」

 

「そう、カミナの方はもっとバカ丸出しで・・・・誰かに言われるでもなく無茶をして、その力が運命すら変えることを最初から分かっていた・・・・」

 

 

今のシモンはカミナがいたからこそ成り立っている。

しかしカミナは違う。カミナはいつだって変わらない。いつだって自分の意思を貫いていた。

その生き方こそ、カミナがカミナらしく生きるということだと思っている。

 

「でもシモンはカミナじゃない、シモンはシモンよ!」

 

カミナが居なければ今のシモンは無い。しかしそれでもカミナはカミナ。シモンはシモンなのである。そう・・・

 

「そう・・・あなたがサウザンドなんとかって奴じゃないようにね・・・・」

 

サウザンドマスターという存在があってこそ、今のネギは成り立つ。

しかしネギはサウザンドマスターではない。ネギはネギである。

 

「そう・・ですね・・・」

 

ネギは昨日から少し考えていた。

シモンに「お前の答えを出せ」と言われたことについてである。

超とシモンの問題はまだ知らない。しかし「自分で考える」その意味を考えていた。

それは友達や周りがどういう答えを出すかではなく、自分がどうするのか?自分はどう思っているのか?という意味である。

 

『自分が選んだ一つの事が、自分にとっての真実だ!』

 

シモンは昨日言っていた。これもおそらくカミナの言葉であるとネギは思った。

しかしシモンは自分の答えを出している。そして覚悟もしている。

そしてそれはカミナではなくシモンの答えである。

ではネギはどうなのか?彼はまだその答えはまだ分からない、しかし

 

(僕は・・・・僕・・・・シモンさんは・・・シモンさん・・・)

 

憧れた二つの背中を頭の中に浮かべる。

最近身近に現れた男。

6年前の雪の日から追い続けている男。

どちらの存在も無くして今のネギはない。

しかし今ヨーコは言った。ネギはサウザンドマスターではないと・・・

 

 

「ヨーコさん・・・・僕・・・分かりました・・・」

 

「ネギ?」

 

「僕は・・・今からタカミチと戦います・・・でもその時はサウザンドマスターの息子ではなく・・・・」

 

 

一度呼吸を整えて、己の決意を述べる。

 

 

「ネギ・スプリングフィールドとして戦います!!」

 

 

ネギはようやく全ての準備が整った。

気構えも十分、気合も十分に入った。

ヨーコもその強い少年の姿に、暖かい笑みを浮かべて頷いた。

 

 

『苦韮選手勝利!!龍宮選手を下し2回戦に進出です!!』

 

 

朝倉のアナウンスが聞こえる、

 

 

「へえ~、真名負けたんだ~・・・、いよいよね、ネギ!」

 

「はいっ!」

 

 

ネギは力強い笑みを浮かべリングへと向かう。

 

 

「ネギ!」

 

「は・・はい?」

 

 

ヨーコに急に呼ばれて慌てて振り返る。するとヨーコはニッコリと笑い人差し指を唇に持っていった。

 

 

「もし勝ったら・・・ご褒美上げる・・」

 

「・・・・・・・・・・・・えっ!?」

 

「いや?」

 

「よ・・・・よ・・・よおおおおし!行ってきます!!」

 

 

顔を真っ赤にしながらネギは思わぬご褒美に気合を入れなおしてリングへ向かって駆け出した。

ネギが年の割りに賢く大人びていることはシモンから聞いていたが、やはりまだまだ子供であることにヨーコは微笑んだ。

しかし・・

 

「ふふ、・・・・シモンが認めた子供ではなくて・・・認めた男・・・か・・」

 

誰も居ない控え室でヨーコは一人呟いた。

 

(ネギ・・アンタはすごいわ・・・・カミナを失って・・・ヤケを起こして・・・仲間からも失望されて・・・ニアと出会い諭されてようやくシモンが分かったことに・・・アンタはもう分かってしまった・・・)

 

「自分らしく生きる」その答えに辿り付くのにシモンがどれだけ時間が掛かったのかはヨーコが一番よく知っている。

だからこそ、今のネギの姿に感心すると同時に、教師という職業をしている彼女から見て、10歳でありながら大人びたネギに少し寂しさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「次はネギか~、相手は高畑先生・・・・どうしよう・・どっちを応援すれば・・・」

 

「やはりネギ坊主でござるな・・・あの高畑先生との実力差は明らか・・・」

 

「いや~、わからんで~、タカミチさんも強いようやけど今日のネギは気合入っとる!昨日の兄ちゃんとの話が効いてんのかもしれね~」

 

 

昨日はシモンがネギたちを少し敬遠気味だったことにネギたちは悲しんでいたが、今日のネギはとてもやる気に満ちた瞳をしていることに全員が気付いていた。

 

 

「う~む、しかし高畑殿の技は強力でござるからな~、とにかく一撃に気をつけねばな」

 

「ふん、どうせ実力差は明らか思いっきりぶつかって玉砕すればいい!」

 

「ふふふ、そうとは限りませんよ」

 

「「「「!?」」」」

 

 

突如第三者の声がした。

振り返ってみるとそこには本戦選手の一人。

先程一回戦を難なく勝ち上がったクウネル・サンダースがいた。

その体はフードに覆われて素顔をハッキリ見ることは出来ない。

 

「なっ・・・キサマ・・・まさか」

 

しかしエヴァンジェリンだけは違った。

明らかにその人物に対して驚きの表情を浮かべた。

 

「キサマ・・・いままで何処にいた!?お前のことも探したんだぞ!?」

「エヴァちゃん・・・この人・・」

「ぼーやの父親の昔の仲間だ。名をアル・・・・」

「クウネルで結構ですよ。トーナメント表どおりクウネルとお呼びください」

 

ぺこりとその場で一礼するクウネル。するとアスナの目の前まで近づき、優しくなでる。

 

 

「ちょっ、ちょっとイキナリ何するんですかー!?」

 

「ふふふ、驚きましたよアスナさん、人形のようだったあなたがこんな元気で活発な女の子に成長してしまうとは・・・、友人にも恵まれているようですし、ガトウがあなたをタカミチ君に託したのは正解でしたね」

 

 

柔らかに微笑むクウネル。

 

 

「お・・おい、何故キサマが神楽坂明日菜を知っている!?」

 

「ふふふ、それは今しばらくヒ・ミ・ツということにしておきましょう」

 

「くっ・・・キサマは相変わらず~~~!」

 

 

歯軋りしながらクウネルを睨みつけるエヴァ。

クウネルはその視線を軽やかに交わしながらリングの上を見る。

 

 

「本当はネギ君にアドバイスでもと思ったのですが、その必要も無くなりました。今の彼はとてもいい表情をしています」

 

「ぼーやに・・キサマ一体何が目的なんだ!?」

 

「そうですね・・・ではネギ君がタカミチ君に勝てたらということで♪」

 

「ハッハッハ!甘く見るなよな!未熟といってもこの私の弟子だぞ?」

 

「・・・さっきと言ってること違わない?」

 

「ふふ、そうですね・・・ネギ君のやる気は十分のようですね・・・なぜならこの試合に勝てば好きな女性からご褒美をもらえるようですし・・」

 

「「「「はあ?」」」」

 

 

クスクス笑うクウネル。その底は図れない人物である。するとクウネルはリングへ注目し呟く。

 

 

「さあ、見せてもらいましょうかネギ君」

 

 

その言葉と共にタカミチとネギの姿が現れた。

タカミチの表情はとてもうれしそうである。

対するネギも緊張しているのかと思えばとても逞しい表情をしながらリングへ近づく。

この様子にアスナたちは少し驚いていた。

 

 

『さあ、注目の一戦が始まります!!』

 

 

朝倉のアナウンスが始まる、二人共この学園の知名度は最高に高い者同士の戦いのため、観客からも大きな声援が巻き起こっている。

 

 

「本気でいっていいんだね?」

 

「うん!」

 

 

リングへ向かうタカミチとネギ、ネギの強い瞳にタカミチも少し驚いている。

 

(てっきり緊張してると思ったけど・・・・血は争えないのかな・・・ナギ・・・今日僕はあなたの息子と戦えることを光栄に思うよ)

 

ネギの強い眼差しにかつての友と重ね、タカミチ自身のテンションが上がっている。

それはネギも同じである。

今のネギの心は強敵や大観衆にまったく動じていない。

 

 

(不思議だ・・ちっとも緊張していない・・・相手はタカミチ負けて当然だから?・・・違う!今の僕を満たしているのは気合だけだ!!)

 

『片や学園の不良に知らぬ者なき恐怖の学園広域指導員タカミチ・T・高畑!!一方は去年赴任してきた噂の子供先生ネギ・スプリングフィールド!!両者共に学園の誇る名物教師!!注目の一戦です!!』

 

 

リングへ向かう二人を見ながら観客席にいるシモンはシャークティに聞く。

 

「高畑さんって強いの?」

「ええ強いです、この学園最強と言ってもいいほどの実力者です」

「へえ~、じゃあネギも気合入れないとな~」

「シモンさんはネギ先生が勝つと?」

 

シャークティの予想では下馬評どおり高畑の圧勝だと思っている。

しかしネギもまたシモンが認める人物である。

 

「そうだな・・・俺が信じたアイツを俺が信じてやらなきゃダメだからな、それがダチってもんだ!・・・・まあ、今アイツを一番信じている奴は別にいるけどな・・・」

 

シモンはチラッとリングサイドにいるアスナを見た。

そしてシモンの言葉に少し俯き気味だった木乃香が顔を上げる。

 

「信じるのがダチ・・・・せっちゃんは・・・ウチのこと信じとらんかったんかな~」

 

しかしその呟きはリングの上に集中するシモンたちには聞こえなかった。

ネギ、タカミチ、両者がリングの上に立ち、お互いを睨みあう。そして・・・

 

 

『それではみなさまお待たせしました・・・・Bブロック第一試合・・・FIGHT!!』

 


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