魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第46話 お前が信じなきゃダメだろうが!

『トトカルチョでは高畑選手が圧倒的人気!! この試合は火を見るよりも明らかだと思いますが……』

 

 

向かい合うネギと高畑。

朝倉や解説者席にいる茶々丸や豪徳寺が何かを言っているが今のネギの耳には入らない。

ただ一言の試合開始の合図を集中しながら待つ。

 

(・・・僕は僕・・・たとえタカミチが僕をお父さんと重ねてみようとも・・・・僕は今の自分を見せる!)

 

向かい合うタカミチの目はどこか懐かしいものを見るような目である。

ネギには分かった。タカミチが自分を誰と重ねて見ているのかを。

それは不快なことではない。むしろ光栄なことだ。

サウザンドマスターを知るタカミチだからこそ、今の自分と父の差を明確に答えてくれるだろう。

今の自分を見せ、目指す世界のレベルを知る。そして勝利する。この三つがネギのこの試合におけるテーマのようなものである。

 

『それではFight!!』

 

朝倉の開始の合図が聞こえる。

ネギは目を見開きタカミチを見る。

タカミチは相変わらずポケットに手を入れたままの構え。

 

「戦いの歌(カントゥス ベラークス)!!(先手必勝!!) 」

 

その瞬間ネギの全身に魔力が行きわたる。

体全体に行き渡った魔力がネギの攻撃力を引き上げ防御力も引き上げる。

ネギは試合前にアドバイスを受けたとおりに顎をクロスガードで構え、タカミチに突っ込む。

 

「むっ」

 

その瞬間タカミチの顔つきが変わり閃光の様な柱がネギに向かって襲い掛かる。

ネギにはその攻撃が見えたわけではない。

しかし本能的に察して自然と防御魔法を展開する。

 

「風楯(デフレクシオ) !!」

 

その瞬間何かが弾け飛ぶ音がした。

何が起こったかは分からない。

分かっているのはタカミチとの間合いが詰まったこと。

 

(接近戦なら・・・タカミチもポケットから手を出す・・・・ならば後は普通の攻撃・・・・いける!!)

 

瞬動により間合いを詰められたタカミチは咄嗟にポケットから手を出し迎撃の拳を放つ。

しかしその拳もネギの高速の瞬動により空を切る。

 

「翻身伏虎!!」

 

強化され洗練された容赦なき手刀をタカミチは片手で受け止める。

常人ならば受けただけで骨を砕かれるかもしれないほどの威力である。

しかしネギは止められたことなど動じずに攻撃の手を休めない。

 

「硬開門!!」

 

フェイントによりタカミチの意識を上にもたせた瞬間に中段の肘打ちを決める。

その瞬間タカミチの足が一瞬浮く。

 

「魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 光の一矢(ウナ・ルークス)!! 」

 

即座に追撃するネギは右手に雷を集える。そしてその一撃をすかさず叩き込む。

 

「弓歩沖拳!!」

「ほう!?」

「これも防がれた!?・・・いや相手はタカミチ!簡単にいくはずなんて無いんだ!」

 

咄嗟に肘でガードしたタカミチだが威力に押されて後退する。

その顔は驚きの表情だった。

 

 

「こ・・・これほどとは!?」

 

「後のことなんて考えない!今ここに全てを出し切る!!」

 

『目にも留まらぬ攻防・・・しかし・・・子供先生が押しています!!』

 

「ふふ・・・そうだ、それでいい」

 

 

序盤から攻めまくるネギの姿にエヴァも上機嫌である。

 

 

「実力差のある相手に距離を置いても意味が無い。恐れていては何も出来ん。不確実な勝利へ自ら飛び込むわずかな勇気こそ最も重要なことだ・・・」

 

「「「・・・・・へえ~・・・」」」

 

 

暖かい目でネギを見守るエヴァに、いつものギャップを感じアスナたちは感心した。

 

「おやおや、中々いい師匠っぷりですね」

「ふん、当然だ!」

「しかし・・・・・まだ無理ですね・・・・ネギ君は・・」

 

クウネルの言葉にエヴァは「分かっている」というような少し不機嫌そうな顔をした。

そしてクウネルの言葉にアスナたちが食いつく。

 

「無理ってなんでよ!?ネギが攻めまくってるじゃない!?」

「せや!クリーンヒットはしてへんけど・・・・・ネギの攻撃も少しぐらい効いてんのとちゃうか?」

 

目の前ではネギ優勢の攻防が繰り広げられている、しかしエヴァもクウネルもネギ優勢だとは思っていない。

 

「たしかに・・・ですがそれで勝てるほどタカミチ君は甘くありませんよ」

 

次の瞬間巨大な爆音がリング状から聞こえる。

慌てて見ると、ネギの拳によりタカミチが交通事故に巻き込まれたかのごとく激しく吹き飛ばされていた。

 

「ちょっ・・・高畑先生死んだんじゃない!?」

 

あまりの惨状にアスナが慌てて身を乗り出した。しかしエヴァは鼻で笑う。

 

 

「・・・・ここからさ・・・お前たちも本当の力とやらを見るといい」

 

 

 

 

 

 

 

完璧な手ごたえだった。

今ネギの出来る最大の攻撃力を誇る技。しかしネギも確信していた。

タカミチがこれで終わるはずが無いことを。そしてそれはその通りだった。

 

「いや~、素晴しい!本当に驚いたよ・・・」

『なんと無傷!?激しくぶっとばされてケロッとしています!』

 

無傷ではない。しかしダメージらしいダメージも見当たらない。タカミチの表情にはまだまだ余裕がある。

 

「やっぱり効いてない・・・。ここから・・・・ここからだ!」

 

倒せたとは思ってはいなかったが、それでもダメージがあまり無いのは少しショックだった。

しかし勝負の最中に落ち込んで入られない。ネギはすかさず集中し直す。

 

(いや~少しは効いたんだけどね・・・・・しかしもう次の動きに集中している・・・・ふふ、本当に優秀だね)

 

タカミチはすぐに反撃には動かない。次はどう動くのか?何をしてくれるのか?まだまだ余裕は崩さない。

全神経を集中させているネギから見てまだタカミチは真剣には戦っているようには見えなかった。

それがネギにとっては焦りと・・・そしてそれ以上に少し屈辱を感じた。

 

(さて次は・・・・よしっ、少し意地悪をしようかな・・・)

 

タカミチは何かを思いついたかのようにポケットに両手をしまった。

その意味に気づいたネギは即座に先程のように間合いを詰めるべく接近しようとする。しかし・・・・

 

「つっ!?・・・・これは!?」

 

何かの衝撃が阻みネギの接近を許さなかった。

そればかりか次々とその衝撃はネギを襲いネギを後退させる。

その正面にはポケットに手を入れて微動だにしない・・・・いや、微動だにしていないように見えるタカミチから発せられる。

 

(見えない高速の拳・・・これがタカミチの・・・・)

 

タカミチの技はある程度予想していた。

しかし予想しておきながら全く回避できないほどの速度の攻撃だった。

 

 

「・・・・ネギの奴何やってるんだ?」

 

 

目の前の光景がよくわからないシモンは呟く。

 

「あれが高畑先生の肉眼では追えない、見えない拳・・・あの高速の拳を間合いの外から見極めるのは不可能です・・・」

「み・・・見えない拳・・・・・ダメだ・・・まったく見えないよ・・・・」

 

あまりにもハイレベルな高畑の技にはさすがのシモンも見極められなかった。

ハッキリ言ってリングの上にポケットに手を入れたまま立っているタカミチと、自分で勝手に吹っ飛ばされているネギにしか見えない。

 

「ネ・・・ネギ君・・・・」

 

先程まで優勢だっただけに今の状況に木乃香たちは不安の声を上げる。

 

「でも・・・だったらさっきのワープ見たいので一気に近づいちゃえばいいんじゃないか?」

「瞬動術(クイック・ムーブ)のことですか?無駄です、あの人に一度見せた技は通じませんよ・・・・」

 

シャークティはリングを指差す、

 

(全然近づけない・・・離れるのもダメ!・・・それにこの拳も速いだけじゃなくて重い・・・でも・・・耐えられない重さじゃない!)

 

完全に攻守交替してしまったネギ。しかしその目はまだ死んでいない。

序盤と同じ瞬動を使い接近戦に持ち込もうとする、しかし・・

 

 

「瞬動は方向転換が効かないのが弱点、一度見せた技は二度も通用しない、そんな甘え考えでは命取りだよ?」

 

「くっ!?」

 

 

ネギの直線の瞬動をアッサリ交わすタカミチ。ネギの全力の速度を簡単に見切った。

 

「それに・・・・瞬動なら僕も出来るよ」

 

今度はタカミチがネギの後ろを取る。

 

「くっ・・・速い!?」

「いい反応だが・・・遅い!」

 

極限の速度と拳速。実戦経験の乏しいネギに見切るすべは無い。

 

「ほら・・・・また後ろだよ」

「速すぎる!?・・・・でも・・・この攻撃・・・・」

 

加速するタカミチの拳の連打。しかしネギは未だに倒れていない。その意味をネギ自身が一番理解できた。

 

「ほら!もう一つだよ」

 

徐々にネギから体力を奪っていくタカミチの拳。

しかし今のネギにはそんなことなど気にならない、

 

(やっぱりだ・・・・静かな攻撃なのに・・・・・僕が見切れるはずも無いのに・・・・・・今でも僕は立っている・・・・)

 

ネギにとっては真剣勝負。

もはやネギにとってこの戦いは、ただのお祭りの中の腕試しではない。

己の短い人生の中での集大成を見せるつもりで望んでいた。

 

(タカミチは・・・・手加減している・・・・)

 

瞬動を使い急所を狙えば一瞬で決着は着く。

にもかかわらず長引くわけは、タカミチにとってのこの戦いは真剣勝負ではなく、ただ楽しんでいるだけ。

これはネギにとっては屈辱あった。

打開策があるわけではない。普通のものなら戦意喪失するかもしれない。

しかし今のネギはむしろ心の底から闘志が湧いてきた。

 

「心が折れていない・・・・まだ立ち向かうか・・・・さすがだね、なら・・・ネギ君、さすがに僕の憧れたナギの息子だ!君を一人の男と認め、僕の本気を少し見せよう!!」

 

するとタカミチはポケットから手を出し、光り輝く両手を重ねあわす。

 

 

「この技はね、ネギ君。ナギの仲間の一人、僕の師匠に当たる人に教わったんだ」

 

「父さんの?」

 

「ああ…、いい人だったよ……左手に魔力・・・右手に気・・・合成!」

 

 

その瞬間突風がタカミチの体から吹き出す。

 

「一撃目はサービスだ!避けろネギ君!」

 

避けろと言われた・・・どこに?分からない。

上空に飛び上がり見下ろすタカミチ。

その姿を見るだけで、とにかくこの場から離れなければと感じ取った。

ネギはまだ来ない攻撃を危惧して後方へ飛んだ・・・すると・・・

 

 

「・・・・・・・あっ・・・・」(シモン)

 

 

「「「・・・・・・・・・・う・・・うそ・」」」(図書館三人組)

 

 

「・・・なに・・アレ・・」(ヨーコ)

 

 

「は・・・・・え・・・・」(アスナ)

 

 

「「「「「はあああああ!?」」」」」

 

 

会場中が同じ反応をした。

ネギが先程まで立っていた場所が、タカミチの大砲のような一撃によって陥没していたのである。

タカミチの強さを初めて見るシモンたちにとっては衝撃の一撃だった。

 

 

『だああああ!何だこの一撃はーーー!?まるで大砲だーーー!』

 

 

朝倉がそう表現するのも無理は無かった。

そして今の一撃を間近で見たネギも背中から汗が吹き出ていた。

 

 

(これが・・・・タカミチ・・・・お父さんたちのレベル・・・)

 

 

会場中が高畑の一撃に盛り上がる。

もっともネギの知り合いであるシモンたちから見ればとてもハシャグことなど出来ないほどの衝撃であった。

シモンもドリルを使えば出来なくは無いが、完全な生身で顔色変えずに技を繰り出すタカミチの強さを圧倒的に感じた。

 

 

「ネギ君、今の僕でも彼らには全然届いていない…………これくらいでへこたれていてはあの人達と同じ舞台には立てないぞ」

 

 

その言葉が今後の刺激となればと想いタカミチは言った。

たしかにその言葉はネギの闘志に火をつけたかもしれない、・・・・しかし

 

「・・・・・・・それが一体何なの・・・・」

 

ネギの反応は違う。

 

 

「タカミチ・・・・僕がへこたれているように見える?・・・」

 

「ネギ君?」

 

 

ネギはタカミチを睨む。

その瞳はアスナやシモンたちだけでなく、子供の時からネギを知っているタカミチも初めて見る表情だった。

 

 

「タカミチから見たら僕は・・・弱いよ・・・・でも・・・それでも僕は今の僕を出し切るために全力で望んでいる・・・・だったら・・・少しなんて言わないで・・・全力で来いタカミチ!!」

 

「!?」

 

 

タカミチの表情が変わった。

臆するどころか格上のものに対してネギは吼えた。

この光景に観客たちは熱い声援を送る。

実力差の大きい相手にも果敢に立ち向かうネギの勇気と度胸に会場中のものが後押しされた。

小太郎、のどかたちもいつもより熱いネギに声援を送る。

 

「違うよ・・・・ネギ・・」

「そうじゃないわ・・・・ネギ・・・」

 

しかしいつもと違うネギの姿を見て、シモンとヨーコはそれぞれ違う場所にいながらも同じ言葉を呟いた。

 

 

「「誰でもない自分になるってことは・・・・・そういうことじゃない・・・」」

 

 

次の瞬間、先程まで笑みを浮かべていたタカミチが急に無表情になった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

音なしの構え、しかしその身に纏った空気が明らかに違った。

 

(・・・・・・・・うっ・・・・・・これは・・・・・)

 

その場にいるだけでネギは息苦しくなった。

背中から大量に汗が噴出して、彼自身初めてタカミチの冷たい瞳に飲み込まれていく。

気づいたら会場も一瞬で静まり返った。

 

「ちっ、バカめ・・・・調子に乗るからこうなるんだ・・・・」

 

エヴァが舌打ちをしながらこの光景を見る。

そしてアスナや小太郎はネギよりも多少離れた場所にいるにもかかわらず、タカミチから出される研ぎ澄まされた空気に当てられて冷や汗をかいている。

 

「な・・・・なによこれ・・・・高畑先生?・・・」

「マズイで・・・さっきまでと全然ちゃうやないか・・・・」

 

正直鳥肌が立っていた。

いつも優しい笑顔を見せてくれた男のその表情にアスナは肩を震わす。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

タカミチが無言のまま僅かに体を動かす。

 

(来る!・・・・)

 

ネギは全神経を剥き出しにして目の前の男の一挙一動に集中する。

しかし・・・・タカミチは一瞬で視界から消えた。

 

「消え!?・・・・・・・・・がっ・・・・はっ・・・」

 

何があったかは分からない。

分かっているのは自分の腹部に強烈な痛みが起きたこと・・・・・自分の体が後方に飛ばされていること・・・・そして仰向けに倒れそうになる自分の真上にタカミチがいること。

 

(痛っ・・・・・・・・あれっどうなって・・・・タカミチが目の前に・・・あれっ?・・・・・体が動かな・・・・)

 

ネギが一瞬でその三つに気づいたときすでにタカミチは攻撃を振り下ろしていた。

 

「!?」

 

それは一瞬の出来事だった。

会場中のものは決して目を逸らしたりはしていなかった。

しかし会場のほとんどの人間が今何が起こったのかは分からない。

 

「うっ・・・・がはっ・・・・あっ・・・・・」

 

仮定を通り越し、ネギが虫の息でリングの上を仰向けになって倒れているという結果しか分からなかった。

 

「ネ・・・ネギせんせ~・・・」

「・・・・・・ネギ・・・・・・」

「バカ弟子が・・・・根拠も無い強がりなど言うからそうなるんだ・・・・」

 

立ち上がらないネギ、この状況に皆呆然とネギの名前を呟くことしか出来なかった。

 

『うわあああ、一体何が起こった!?私にはまったく分かりません!?しかし・・・・しかし・・・倒れているのは子供先生・・・って・・・・ネギ君!?』

 

仕事を忘れ朝倉は慌ててネギの下へ駆け寄りネギの体を揺する。

しかしネギは起き上がる気配が無い。

 

「ちょっネギ君・・・・ま・・・マジくない?」

「ネ・・・・ネギせんせい・・・・・」

 

ハルナやのどかにも仮定は分からない。

しかし結果だけ見れば充分である。

ネギがタカミチによってやられたということを。

 

「ネギ君・・・・人に本気を望んで、その程度かい?」

 

倒れているネギを見下してタカミチは冷たく言い放つ。

その言葉にネギは何も言い返せない。

するとタカミチは観客席にいるシモンを見る。

 

「努力し・・・前を向き・・・・夢に向かう、そんな君が彼から学んだのは・・・彼の大口だけかい?」

「ッ・・・・・違う・・・・」

 

ネギは体を捩じらせて無理矢理起き上がろうとする。

その姿をタカミチはじっと眺めている。

 

「こうしている間に僕が何度君に攻撃できたと思う?・・・ネギ君・・・残念ながらこれが今の君との僕の差だよ・・・・」

 

いつでも自分はお前を倒せた、タカミチの言葉にそう感じた。

しかしネギも引けない。

 

 

「その差も・・・意地と気合で補うことが出来る・・・・僕はそれを知っている!」

 

「そうかい?・・・・でもそんなものだけで補えたら・・・・・誰も努力なんてしなくなるよ!」

 

 

ヨレヨレになりながらもネギは再び立ち上がる。

しかし冷たい瞳を崩さないタカミチは、容赦なくネギの体を痛めつけていく。

 

 

『うわああああ・・・連打連打!!再び拳の雨が降り注ぐ!デスメガネ高畑容赦無し!!』

 

「その意地と気合に何が詰まっているんだい!」

 

「うああああっ!?」

 

 

攻撃が止まない。

 

「何のために意地を張る?どこから気合が沸き起こる?」

 

見えない拳の連打が続く。

 

「何も中には入っていない、そうネギ君・・・・君はまだ何も成し遂げていない!」

 

どうすることも出来ないのは誰の目にも明らかである。

 

「ネギ君・・・・今の君は・・・根拠の無い・・・中身の無い、意地と気合という言葉を叫んでいるだけに過ぎないよ・・・・・」

 

もはや戦いと呼ぶには程遠い光景。

まるで大人が子供をイジメているようにも見えた。

もちろんタカミチは本気で攻撃しているわけではない。

もしそうだとしたらとっくにネギは死んでいてもおかしくない。

しかしそれでも容赦なくネギを叩きつける。

 

「ぁ・・・ネギせんせ~・・」

「ちょっ・・・・、まずいよ・・・し・・・・死んじゃうよ・・・・・・」

 

容赦の無いタカミチの連打。その一撃がネギを捉えてきている。

目の前の惨状にのどかは泣いてみているしかない。

ハルナも夕映も同じである。

 

「・・・シモンさん・・・ネギ君どうしたらええん?」

「・・・・・・・・・・・・・・中身のない・・・・か・・・」

 

シモンは答えずただリングの上を凝視している。

 

(ネギ・・・闇雲に強がることが気合じゃない・・・・意地を通すってそういうことじゃない・・・・「自分の答えを出せ」・・その意味をよく考えろ・・・)

 

しかしそれを理解することは今のネギには無理である。

タカミチの言うとおり、まだ何も成し遂げていないネギの言葉に根拠が無いからである。

そしてリングサイドにいるアスナも見る。

 

(ネギの目はまだ死んでない・・・・・アスナ・・・なんで目を背けてるんだ・・・・お前が見ていなくちゃ・・・・こういう時のためにお前がいるんじゃないのか?)

 

シモンがチラッとのどか達を見ると彼女たちも同じような表情をしていた。

 

「シモンさん!?」

「・・・木乃香?」

「このままじゃネギ君・・・・早く止めな・・・・・」

 

もう勝敗は決まっている。そう思い込んでいるようだ。

しかしシモンは首を横に振る。

 

「それでもネギはまだやる気だ・・・・・だったら見ていなくちゃ・・・・」

「シモンさん!?ネギ先生の行為はもはや無茶を通り越した無謀です!ここは大人のシモンさんたちが止めなくては・・・・」

「吐いたツバは飲み込めない・・・・あいつが口にして望んでいるんだったら・・・・」

 

シモンはもう一度リングの上で抵抗するネギを見つめて叫ぶ。

 

「ここで俺が止めたら・・・・ネギは本当に口だけになっちまう!」

 

自分には止められない。シモンはそう言う。

 

(だからアスナ・・・・・・・・アイツを信じろ!お前が信じなきゃダメだろうが!)

 

再びリングに衝撃音が聞こえる。

そこには大の字になって倒れるネギがいた。

 

「これで終わりかい・・・ネギ君?」

 

倒れるネギを見下ろしてタカミチは告げる。

しかしタカミチの拳を何発も食らい、リングに叩きつけられたネギはすでに虫の息で応えることが出来ない。

 

『ちょっ・・・これはやりすぎでしょ高畑先生!?ああもうアンタの勝ち!』

 

さすがにこの状況を見て仕事に徹することが出来ず、朝倉は素に戻って勝手にタカミチの勝ちを宣言する。

しかしどこか納得のいかないようなタカミチは再びネギを見下ろして。

 

「君の想いは・・・・この程度かい?」

「!?」

 

ネギはその言葉に反応するが、体を起こすことが出来ない。

 

(くっ・・・・・まだだ・・・限界ギリギリまで足掻いて・・・)

 

しかし頭の中で何度も奮い立たそうとしても心は徐々についていかなくなる。

 

(くそ・・・・これが僕なのか?・・・サウザンドマスターの息子ではなく一人のネギ・スプリングフィールドになった僕は・・・・)

 

体を微かに動かし立ち上がろうとするネギ、しかし瞳の力が無くなっている。

この姿にアスナは思わず呟いた。

 

「バカ・・・・もういいじゃない・・・・」

「アスナ殿?」

 

楓や小太郎たちがアスナを見る。アスナの目には涙が溜まっている。

 

「もう修行の成果は見せたわよ・・・・高畑先生だって驚いてたじゃない・・・・」

「姉ちゃん・・・くっ・・・・ネギ・・・俺以外に負けるなんて・・・」

 

エヴァンジェリンとクウネルは何を考えているかは分からない。

しかしもう会場中が戦いの中断を望んでいた。

 

(まただ・・・結局私は見てるだけ・・・・何やってんのよ私は!・・・アイツのパートナーって言っておいて・・・・結局何も・・・)

 

その時だった。

 

 

「よく見てるのよ!!あの子は立ち上がるわ!いえ・・・立たなくちゃダメなのよ!」

 

「ッ・・・・・ヨーコさん・・・・」

 

 

アスナの後ろにはヨーコが立っていた。

そしてヨーコはアスナの両肩を掴みながら叫ぶ。

 

 

「でもヨーコさん・・・アイツもう・・・・」

 

 

――パシンッ!

 

 

「「「!?」」」

 

 

乾いた音が響く。アスナは思わず頬を押さえた。

ヨーコの突然の行動にエヴァたちも目を見開く。

 

 

「シモンに聞いたわ・・・・・魔法使いのことは知らない・・・でもアンタがあの子のパートナーなんでしょ!だったらアイツのことを信じなさい!」

 

「ヨーコさん・・・・」

 

「昔・・・・ある男が言ってたわ・・・・・自分を信じるからあいつを信じられる・・・あいつを信じるから自分を信じられる・・・・それは同じことなんだって・・」

 

 

かつて敵を目の前にして何度も逃げ出そうとしたシモンを最後の最後まで信じた男の言葉。

 

 

「それが・・・相棒・・・それがパートナーってことでしょ!」

 

「!?」

 

「アンタはどうなの?アイツをこの世でもっとも信じなくちゃいけないのは誰?シモン?それとも師匠のエヴァや古なの?違う!アンタよアスナ!アイツのパートナーのアンタはこの世で誰よりもアイツを信じてやんなくちゃダメなのよ!!」

 

 

するとヨーコはリングの上で未だに立ち上がれないネギを指差した。

 

 

「手を貸すことも出来ない・・・・でも声なら届く!アンタは唯一出来る事もやらないの?」

 

「うっ・・・私は・・・私は・・・・あああああもうっ!!」

 

 

アスナは瞳からあふれ出る涙を勢いよく拭き、声を張り上げる。

 

 

 

「ネギーーーーいつまで寝てんのよこのバカーー!!さっさと起きなさいーーー!!」

 

 

 

アスナの声が会場中に響き渡る。

 


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