魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
ヨーコの行動により一時荒れた空気になったが、それでも選手控え室に戻ると惜しみない拍手がネギに送られた。
「いや~すっかりネギ君も有名人になっちゃったね~」
「まったく無茶ばかりして・・・・高畑先生の怪我は・・・」
「いやいや鍛え方が違うから大丈夫さ、それより大人気なく本気になってしまってアスナ君にも心配をかけたね・・・」
「いえ・・その私は別に・・・」
高畑を前にして先程の勇猛ぶりも吹っ飛び、一気に乙女に戻ったアスナは顔を真っ赤にする。
ネギもあれから目が覚めて、今はエヴァにクドクドと説教を受けている。
しかし叱られていながらもネギは自分の試合での手ごたえに満足しているようだった。
「ふふふ、まったく末恐ろしい少年ですね」
クウネルがエヴァに踏みつけられているネギを見ながら呟く。
「・・・・・・一つに気になっていたんだが・・・・なぜあなたがここに?」
高畑がタバコを咥えながらクウネルを見る。その言葉を聞いてエヴァも思い出したかのように詰め寄る。
「そうだキサマ!約束どおりぼーやが勝ったんだから全て教えろ!!」
「ええ・・・まあ、あなたが死んだなんてこれっぽっちも思っていませんでしたが・・・これでも心配していたんですよ」
二人の様子にネギも体を起こし、クウネルを見る。
「あの・・・クウネルさん・・・ですよね?タカミチやマスターの知り合いなんですか?」
「ふん、知ってるも何もこの男は・・・「コホン」」
エヴァの言葉にクウネルが口を挟む。
「まあ、私にも色々ありました、しかしその話はまた今度ゆっくりということで・・・・・、とりあえず私の目的ですが・・・アスナさんの成長と・・」
「えっ私!?」
タカミチはその意味を知っているのか、少し肩を動かした。
クウネルはアスナの次にネギを見てニッコリと笑う。
「ネギ君、君の成長にはとても満足です」
「えっ・・ありがとうございます」
「ふふ、もし決勝まで勝ち残れたら・・・そちらの女性に負けないご褒美をあげましょう・・・」
クウネルは一度ヨーコを見た後もう一度ネギを見る、そして少し屈んで
「俺と戦わせてやる」
「「「「「えっ!?」」」」」
その声はクウネルの声ではなかった。
それはこの場にいる全員が感じ取ったことである。
そして今のクウネルの言葉にネギ、そしてエヴァとタカミチが大きな動揺を見せる。
「えっ・・・い・・・今の!?・・・ウソ・・・だって・・・」
今のクウネルの声に聞き覚えがあったのか、ネギは信じられない様な瞳でクウネルを覗く。
しかしフードの下に隠れているクウネルの顔は、いつのまにか元に戻っていた。
「そうか・・・キサマ・・・・それが目的だったのか・・・・」
「アル・・・・あなたは彼との約束を・・・・」
エヴァとタカミチは理解した。
アスナたちは未だにクウネルの目的どころか正体も分からないが、この二人は分かったようである。
するとクウネルは人差し指を口元へ持っていき、二人には内緒にするような態度を見せる。
「あの・・・ク・・・クウネルさん!あなたは・・・・」
ネギは自分の中で思っていることが上手く言えないほど動揺していた。
しかしその時賑やかな声が場に入ってきた。
「ネギく~ん!スゴかったよ、さっきの試合!」
「ネギ君、怪我大丈夫やった~?」
観客席にいたハルナたちが控え室まで入ってきた。
「ちょっとアンタたちここは関係者以外・・・」
「いいじゃんアスナ!それよりすごかったね~ネギ君!」
クウネルの行動により一瞬固まった空気が彼女たちの登場により一気に溶けた。
ハルナやのどか、夕映や木乃香にもみくちゃにされ、空気が一気に和んでしまった。そして
「ヨーコ、随分とご褒美奮発してたな?」
「あらシモン、ひょっとして・・・羨ましかった?」
――ピクッ!?
「いや~・・・そんなわけ・・・ないよ」
ヨーコが少し意地の悪い笑みを浮かべた。
その言葉を聞いてネギやのどかも思い出し、急に顔が真っ赤になり、そのことを皆にからかわれていた。
シモンはシモンで否定はしたが、内心では違っていた。
「まあ、その話は置いといて、高畑さんも惜しかったですね」
「いや~、でも僕は大満足さ、君と戦えなくなったのは残念だけどね」
「はは、あんなの食らったら死んじゃいますって」
高畑と話すのは久しぶりである。
当初不審者として警戒されたままの出会いだったが、今日は特になんのわだかまりも無く、普通に話すことが出来、内心安心した。
するとシモンは一つの視線を感じた。
その気配の方向に振り向くとフードを被った男がシモンをジッと見ていた。
「あの・・・・・」
シモンが男に声を掛けると向こうから近づいてきて手を差し出した。
「初めまして、クウネル・サンダースと申します。よろしくお願いします」
「あっどうも、俺はシモンっていいます」
差し出された手に少し戸惑いながらシモンは握手をした。
しかしその後はお互いに一言も口を開かない。
お互い無言のまま何かを探り合っているような感じだった。
シモンの勘が言っていた。目の前の男は少し普通と違うということを。
そしてそれはクウネルも同じなのかもしれない。ジッとシモンの目を見て、何も話そうとはしない。
その理由にタカミチとエヴァは気づいた。
ひょっとしたらクウネルもシモンから何かを感じ取ったのかもしれないと。
そしてそれは自分たちと同じ印象なのかもしれないと思った。
「ふふ、あなたとは・・・いずれまた・・・・」
するとクウネルは何も言わず軽く会釈だけしてシモンに背を向けアスナの下へ歩み寄る。
「ではアスナさん次はあなたの試合ですね・・」
「えっ・・はい・・・そうですけど・・・」
「心を無にして戦いなさい、そうすればアナタならきっと勝てますよ」
特に明確なアドバイスとは言えなかった。だが、その言葉は何故かアスナの頭の中に残った。
しかしその言葉を聞き逃せないものがいた。
「そいつはどうかな?」
「シモンさん?」
「アスナのことは認めるけど、対戦相手を誰だと思ってるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・美空ちゃんよね・・・・」
シモンの自信満々の笑みに対してアスナたちは微妙な表情を浮かべる。
「いや・・・美空殿では・・・・・」
「う~む刹那ならまだしも美空じゃアスナに勝てないアルよ」
「この謎のシスター(春日美空)ってなっていて私たちも驚いたけど・・・・やっぱアスナでしょ~」
「まあ・・・今回ばかりはコイツらの言うとおりだな」
美空はどうやら相当過小評価されているようで、修行を始めてまだ2ヶ月足らずのアスナの勝ちだと皆予想していた。
しかしシモンは違う。
「ナメんなよ?俺の妹で・・・アイツは新生グレン団を名乗る女だぜ?」
「―――とシモンさんは言っていますが・・・・大丈夫ですか?」
「ふふ、あの人は本当に、・・それでどうなんだ?」
刹那と龍宮はシモンたちの話を別の場所で聞いていた。
そして彼女たちが見下ろす視線の先には一人のシスターが落ち込んでいた。
「兄貴~、プレッシャ~だっつうの~、ああ、逃げちゃおっかな~」
「むっ・・・ヨーコさんも何か言っているようだ・・・何々?・・・あの子は・・・シモンが認めた子なのよ!・・・だそうだ・・・」
「だ~~~!ヨ~コさんまで~、あ~~~ど~うするっすかね~」
「まあまあ、美空さんも落ち着いてください」
シモンの自信とは裏腹に当事者はまったくと言っていいほどやる気が無かった。
どのようにしてこの場をやり過ごすか、美空の頭の中にはそれしかなかった。
すると、その時だった。
「その通りです美空、情けない!」
「「「!?」」」
そこにはシャークティとココネがいた。
「美空・・・・気合を入レロ」
「ネギ先生の試合を見てあなたも何かを感じたはずです、それにあなたも・・・・その場の雰囲気でグレン団を名乗っているわけではないでしょう?」
的確な注意に美空はさらに難しい顔になった。
やはり最初はその場のノリでグレン団を名乗っていた気がしないでもなかった。
しかし徐々にそれを許されなくなってきた。
すると美空のプレッシャーを感じてかシャークティがあるものを取り出した。それは・・・
「シスターシャークティ・・・・それ・・・」
「はい、シモンさんに言われて作っておきました。これを背中に貼り付けて戦いなさい」
シャークティが持ってきたもの。
それはサングラスを掛けた紅蓮のドクロのマーク。
グレン団のアップリケだった。
「こ・・・・こんなの夜なべして・・・・作ったんすか?」
「ココネも付けテル」
ココネはクルッと背を向けた。すると美空より一回り小さいグレン団のマークが黒衣の服に張り付いていた。
これには刹那と龍宮も噴出して笑ってしまった。
ちなみにシャークティは恥ずかしいので小さなワッペンにして胸に張っていて、普通にしていれば気づかないような大きさだった。
この状況に美空は頭をポリポリ掻きながら、観念したかのようにシャークティからマークを受け取った。
「やるしか・・・ないっすね・・・」
「ええ、やるしかないです。大丈夫です、あなたを信じる私たちを信じなさい」
その言葉を聞いて先程まで逃げ腰だった美空の表情が変わった。
美空は何も言わずに頷いて、親指を突き上げた。
いつもの美空と違うその表情に感心した刹那たち。
彼女たちも内心はアスナが勝利すると思っていたが、美空の健闘を祈ろうと声を掛けようとした。
すると龍宮が何かに気づいた。
「むっ・・・・控え室でシモンさんがモメてるな・・・何々?」
「残念ながら勝つのはアスナさんですよ・・・シモンさん・・」
「そんなこと・・・アンタが決めることじゃないぜ・・」
未だに一歩も引かないクウネルとシモン。二人とも互いの意見を曲げない。
エヴァたちも本当はアスナが勝つと思っているが、シモンの性格も知っているために口を挟めずにいた。
するとこのままでは埒が明かないと思ったクウネルは……
「では賭けをしましょうかシモンさん?」
「えっ?賭け?」
突然の提案にシモンは首を傾げる。
するとクウネルは怪しい笑みを浮かべて・・・
「はい、当然私はアスナさんに賭けます、もしアスナさんが負けるようなことがあれば・・・・・皆さんにサウザンドマスターの情報でもプレゼントしましょう・・・」
「!?」
「な・・・なんだとキサマ!」
「お父さんの!?」
「アル・・・あなたは・・・」
その発言に全員が過剰に反応する。
しかしシモンにとっては微妙な内容であったため取りやめようとしたら、エヴァとネギが詰め寄った。
「別に俺が知っても・・・・・」
「なに言ってるんだシモン!あのバカの情報だぞ!こうなったら是が非でも美空を勝たせろ!」
「そうですよ!こうなったら美空さんに・・・・「アホーーー!」」
思わず美空を応援してしまいそうになったネギだったが、当事者のアスナに思いっきりぶん殴られてしまった。
その様子をやれやれという感じでシモンも見ていたが、エヴァたちの気持ちも分からなくも無かったので了承した。
どちらにせよシモンは美空が勝つと信じているからである。
するとクウネルはニヤリと笑い
「そのかわり、あなたの妹さんが負けたときは・・・・・・ふふ」
邪悪な笑みを浮かべるクウネルはエヴァをチラッと見て、
「では会場のど真ん中でエヴァンジェリンにディープキスでもしてもらいましょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・!?」
「・・・・・・・・えっ!?」
「「「「はああああああ!?」」」」
クウネルのとんでもない条件に一瞬石になってしまったシモンたちだが、全員噴火したかのように声を上げる。
「ふふ、そこまで自信があるならこれぐらい簡単でしょう?ふふ・・・もし負けたら予選であれほどの漢を見せ感動を生み出したあなたも一気に・・・ふふふ」
「ちょっと待て!?勝っても負けても俺に全然得が無いじゃないか!!」
「どちらにせよ美空さんという方が勝つと思っているのでしょう?」
あくまで笑みを崩さないクウネル。どうやら相当性格が悪いようだ。
すると賭けをする当事者や戦うアスナたちの意思を無視して他のものが盛り上がった。
「はあ・・・はあ・・・・神楽坂アスナ!」
「は・・・はい!」
エヴァンジェリンが息を切らしながらも強烈な殺気を放ちアスナの両肩を掴んだ。
その迫力にガタガタと足を震わすアスナ。
どちらが勝ってもエヴァにはおいしい展開である。しかしこの場は
「いいか・・・・・死んでも勝て!!負けたら・・・・殺す!・・・いいか、・・相手を殺すつもりでいけ!・美空は少し足が速いだけだ、キサマなら勝てる!」
「ぜぜ・・・・全力を尽くします・・・」
さらには、
「ごめんな~アスナ、・・・・・今日は・・・・美空ちゃん応援してくるわ~」
「あっ!?木乃香~~~~!?」
木乃香は親友を裏切り背を向け、美空を応援すべく探しに行った。
ネギはネギで父の情報を知りたいがアスナも応援したいという葛藤の中で迷っていた。
のどかと夕映は仲の良いアスナを応援。
ハルナに関しては面白い方を、つまりアスナの勝利を顔をニヤけさせながら願っていた。
タカミチや楓はあくまで中立な立場。
ヨーコはヨーコでこの状況にくだらなさを感じため息をついた。
「おやおや、予想通り相当影響力がありますね・・・シモンさん?」
クウネルは一人不気味に笑っていた。
そしてこの裏側では。真剣な表情をした刹那が美空に何かを語りかけている。
「美空さん・・・アスナさんは私が剣を教えてまだ2ヶ月足らずです・・」
「はい・・・」
「とても熱心で才能もあります。しかしこのままトントンと成長してもいずれ壁にぶつかります、その挫折は早いほうがいいです」
クドクドと回りくどく言っているが刹那の言いたいことは一つだけである。
刹那は美空の肩を力強く掴み
「いいですか?絶対に負けてはダメです!エヴァンジェリンさんにそんなうらやま・・・ではなくアスナさんの今後の成長のために!」
「が・・・・がんばります・・・」
刹那は美空の応援組みになった。
その真意を知る龍宮は必死に笑いを堪えていた。
シャークティも当然美空応援組。
そして……
「あ~、ここにおったん?美空ちゃん」
「あっ、木乃香・・・」
「美空ちゃん、次の試合がんばっ・・・・・せっちゃん・・・」
美空の激励に来た木乃香は刹那の姿を見て固まった。
両者の間に気まずい雰囲気が流れる。
シャークティと龍宮はお互いを見合いどうなっているのかと首を傾げ合っていた。
少し躊躇いがちに木乃香が口を開く。
「美空ちゃん負けたらシモンさんが・・・・せやから美空ちゃんの応援来たんやけど・・・・せっちゃんも?」
「いえ・・・私はただアスナさんの剣の師匠として今後の成長を願って・・・」
刹那の言葉を聞いた木乃香は突然悲しい顔をした。
「なんで・・・なんでまたウソつくん?」
「ウソでは・・・」
「ウソや!!」
木乃香の声が響き渡る。
その声は控え室にいるアスナたちにも聞こえていた。
しかし木乃香は気にしない。そして
「せっちゃんはウチの一番の友達や・・・一番大切な友達って思とる・・・なのに・・・なんでウソばっか・・・せっちゃんはウチのことなんとも思ってないん?」
「そんなことありません!私もお嬢様を・・・・ですがシモンさんのことは・・・・・」
「そのことやない!ウチそのことで怒っとるんやない!せっちゃんがウチにウソばっか言うんが嫌なん!誤魔化したりするんが嫌なん!」
木乃香の気持ち。シャークティと龍宮にはようやく二人の間のわだかまりの正体に気づいた。
「修学旅行でせっちゃんの秘密知ったけど・・・これでようやくせっちゃんと昔みたいに戻れたと思っとった。せやから学校もいつもより楽しくなった・・・せやけどまだせっちゃんは一歩引いとる・・・ウソついたり誤魔化したり・・・今だってそうや・・せっちゃんはウチを信用しとらん・・・」
昨晩、木乃香は刹那の想いを知った。
しかしあの場では怖い顔をしていたが怒る気など無かった。
ただどうして今まで黙っていたのか、自分に遠慮していたのか?それを問いただしたかったのである。
しかし刹那は本心を語ろうとせずに頑なに拒もうとした。
昨晩もそれが言い合いの発端となり二人の間に気まずい雰囲気を作り出してしまった。
そして今も刹那は誤魔化している。
親友だと思っていたのにいつも本音を語ろうとしない。
それが木乃香には耐えられなかった。
刹那のずっと隠していた背中の翼。そのことにどれほど刹那が苦しんでいたか木乃香は知らない。
木乃香に嫌われると思ってずっと隠していたものだ。
木乃香に嫌われないような行動を常にとろうとしていたが、それが逆に木乃香を傷つけるハメになった。
「せっちゃん・・・」
「このちゃん・・・」
冷たい空気が流れる。
刹那は木乃香に何も言うことが出来なかった。
シャークティたちもそうである。
その時、ようやくアナウンスが聞こえた。
『さ~て会場の準備が整いました!それでは次の試合の選手の方お願いします!』
朝倉の声が響き渡る。
控え室にいるアスナやこの場にいる美空にようやく集合が掛けられた。
気まずい雰囲気の刹那と木乃香。
すると美空がグレン団のマークを背に二人に後ろ向きのまま語りかけた。
「わずかな勇気が本当の魔法・・・ネギ君そう言ってたね・・・・刹那さん・・、あのさ・・・兄貴にも同じ様なこと言われたこと無い?」
「・・・・・はい・・・あります・・・」
修学旅行のときに刹那はシモンに諭されて少し前へ進むことが出来た。
そしてその時に彼女はシモンを意識しだした。
「今の刹那さんさ・・・・なんつうか・・・かっこわり~っすよ・・・」
「!?」
言われなくても刹那は分かっていた。
のどかや先程のネギの姿を思い出すと自分が恥ずかしく感じた。
しかしイキナリ性格を変えることも出来ない。
ましてや何年も嫌われたくないと思い続けていた相手なのだ、だから刹那が木乃香に対して一歩遠慮してしまうのは仕方が無かった。
自分に背中の翼がある限りどうしようも出来ないと彼女は思っていた。しかし
「勇気を出せば私だって変われる、それが本当の魔法!私が見せてやるっすよ、踏み出した勇気と気合が無限の力となるグレン団の女意地!春日美空を見届けろ!」
美空はその場に背を向けリングへ向かった。
その背中には彼女が生まれて初めて手にした誇りのマークが揺れていた。
「美空・・・ようやく・・・ようやくあなたも・・・」
シャークティは目頭が熱くなった。
いつもやる気がなくメンドクサイなどと言って、争いごとにも我関せずだった教え子がようやく自分の意思で前へ進む決意をしたからである。
修行も不真面目でイタズラ好きの劣等生。しかしシモンと出会い大きく成長した後姿を見せていた。
その姿に感激していた。
「美空・・・・ガンバッテ・・・」
ココネも同じだった。
いつも一緒にいる自分のパートナーが初めて見せる頼もしい姿を誇らしく感じた。
「見届けるよ・・・がんばってくるんだね」
特に親しいわけではない、そしてアスナたちと比べると龍宮にとってそれほど美空は印象深いクラスメートではない。
正直言われるまで魔法関係者だとは気づかなかった。
しかし今初めて春日美空という女を龍宮は認めた。
「踏み出した勇気がどれだけ人を変えられるか・・・・・見せてもらいます・・・美空さん!」
「美空ちゃん、がんばってな!」
美空はその言葉に振り返らずにただ拳を高らかに上げて応えた。
その姿にシャークティたちは微笑を浮かべてリングサイドへ彼女の勇気を見届けるために向かった・・・。
しかし・・・当の本人は・・・・
完全に焦っていた。
(だああ~~~~!?どうすりゃいいんだ~~~!?兄貴の真似してカッコつけたのはいいけど、私が勝てるわけ無いじゃんか~~!?そりゃあさ~ああ言ってみたものの、ちょっと考えれば分かることじゃないっすか~、大体アスナは修学旅行の時点で既に私より強かったんすよ~?つうかシスターシャークティ涙流してたし・・・・どうすりゃいいんすか~~!?)
ちょっとカッコつけただけで「な~んてな、兄貴ならそう言うんじゃない?」で終わらそうかと思っていたが、シャークティを始め彼女たちは真剣に感動してしまったようで今更撤回することは出来なかった。
(・・・・瞬殺されたら・・・どうしよ・・・・)
人は変われるが・・・・・そう簡単にはいかなかった・・・。