魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第49話 スペシャリスト

『さあ続いての試合を開始します!中等部きってのバカレンジャー、しかしその運動能力は桁違い!神楽坂明日菜!対するはいよいよベールを脱ぐ謎のシスター、クラスでも影が薄い彼女がいよいよ表舞台に現れた!春日美空!下馬評では神楽坂選手有利ですがはたして・・・・・」

 

「正体隠してたのに・・・気分はまるで、天下一武道会で正体がバレたグレートサイヤマンの気分・・・」

 

 

完全に名前を公表した朝倉を涙目で睨み、美空は諦めて顔のマスクを捨てて構えた。

 

<神楽坂選手が人気を集めていますが豪徳寺さんはどう見ますか?>

<はい・・実は気になることが・・・・春日選手の背中のマーク・・・シスター服には変なマークですが・・あれは・・・>

 

美空のことを、ほとんどの者が知らない、そのため実名を公表されようとも素顔を晒そうともそれほど観客に大きな反応はなかった・・・・背中のマークを除いて・・・

素顔を出し観念した美空を見るアスナ

 

 

「いくわよ美空ちゃん!悪いけど本気で行くよ・・・・アイツを守るために・・・・ここで負けるわけにいかない!」

 

「だあ~!もうやけくそだ!来いアスナ~~~~!」

 

 

リングサイドで見守るネギをチラッと見てアスナは美空に向けてアーティファクトのハリセンを構える。

それに対して美空もアーティファクトの靴を纏い両者の準備が整った。

 

 

(いいですか、明日菜さん? 自分を無にするのですよ?)

 

「うわ!?」

 

 

身構えていたアスナは急に自分の頭の中に響いたクウネルの声にビックリする。

 

 

(左手に世界を、右手に自分を。世界とあなたは一つです。自分自身をただの窓だと思えば……)

 

「いきなり話しかけないでよ!! そんな難しいことを言われてもわかんないわよ!!」

 

(ま、要するにぼうっとしろってことですね)

 

「そ、それなら得意だけど……」

 

 

クウネルの意図は分からなかった。

しかしアスナは言われたとおりにしてみた。

すると自分の体が急に軽くなっていくことに気づいた。

 

『それではFight!!』

 

開始の合図が告げられる。

 

「しゃあ!先手必っ!?」

 

美空がアスナに開始直後に攻めようとした瞬間、美空の目が大きく見開いた。

なんと自分が間合いを詰めようと思った瞬間にすでにアスナが目の前にいてハリセンが勢いよく振り下ろされる寸前だったからである。

 

「ぎょええ!」

 

反射的にバックステップで回避した。

すると自分がいた場所がアスナのハリセンで陥没した。

しかし驚いている暇は無い。

アスナは美空が回避したのに気づいた瞬間、一歩大きく前へ踏み出し横からなぎ払う形でハリセンを振る。

 

「ちょっ・・・ちょっと待ったーー!?」

 

追撃の手に驚いた美空はなりふり構わずアスナに背を向けその場から駆け出した。

 

 

「まてまてまてまて!そりゃあアスナが凄いのは分かってたけどありえなくねえ!?」

 

「美空ちゃん!逃がさないわよ!」

 

「!?」

 

 

駆け出した美空の横にはアスナがピッタリと横に張り付いていた。

アーティファクトを使っている美空のスピードにアスナがついていく。

これにはネギやエヴァたちも目を見開いた。

 

 

「アスナ!?ま・・・まじ?」

 

「ウソ・・・体が軽い・・・それにこの感じ・・いけるかもしんない!」

 

 

急激にアップした力にアスナ自身も戸惑っていた。

しかし刹那仕込みの剣術にさらにアップした自身の身体能力が徐々にアスナに自信をもたらす。

アスナのハリセンは逃げる美空の体を何度も掠めていく。

アスナの攻撃から美空は逃げ回ることしか出来なかった。

 

「な、何故だッ!? 何故神楽坂明日菜ごときにこれほどの身体能力がッ!? ただの体力馬鹿では説明が付かんッ!」

 

アスナ応援組みだが目の前の光景に納得できずにエヴァは叫ぶ。

それはこの場にいるネギやシモン、師匠の刹那も驚いていた。

 

「スゴイ!私との鍛錬の時よりも遥かに優れた動きをしている・・・一体何が・・・」

「アスナって・・・・あんなに強かったのか?」

「ええ、あれはアスナさんが元から持っている力ですよ」

 

笑みを浮かべてシモンの背後に立つクウネル。

 

「賭け・・・・・忘れてませんよね

「むっ!?そうだ・・・・このまま神楽坂明日菜が勝てば・・・いける!さっさとキメろ!!」

「あっ・・・・アカン!美空ちゃん!・・・う~でもアスナにもがんばってほしいし~う~」

「アスナさんがこれほどとは・・・・美空さんでは荷が重いかもしれませんね・・・・それにしてもアスナさんのあの力はまさか高畑先生と同じ・・・・」

 

完全なアスナペースの戦い。

 

『攻める神楽坂選手!春日選手イキナリ大ピンチです!』

 

しかし今はなぜアスナがこれほど強いのか?それがネギたちは気になっていた。

そんな中、クウネル以外にアスナの力を知る人物がもう一人いた。

タカミチは目の前で急激な成長を見せるアスナをうれしいと同時に、少し寂しそうな目で見ていた。

 

 

「やば・・・・やっぱり・・・これ『咸卦法』!やべえ・・・・つうかなんでアスナが?こんなの喰らったらマズイって!?」

 

「いける!分かる・・・体からどんどん力が溢れてくる!これなら・・・・あいつの力になれる!」

 

 

皮一枚、紙一重、一撃ではなく鋭い連激でアスナの攻撃が繰り出される。

今の自分に更に自信を持ったアスナは試合中でありながら立ち止まり、クルッと体を観客席のネギに向けて指をさした。

 

 

「いいネギ!ちゃんと私がアンタのパートナーとして守ってやれるってところを見せてやるわ!」

 

「えっ!?」

 

 

突如告げられたその言葉にネギは真っ赤になってしまった。

隣にいるのどかは慌て、ハルナの目はいやらしく光、シモンたちはあっけに取られてしまった。

 

 

『おお~と、試合中に告白です!やります神楽坂選手!先程の試合での励ましといい、どうやらラブラブです!いや~アスナやるね~~』

 

「・・・・・・・・・あっ・・・・ち・・・・・違がああああああああああう!」

 

 

アスナは慌てて自分の仕出かしたことに急に顔を真っ赤にして否定しようとしたが、冷やかしとブーイングの入り混じった声が上がる。

 

 

「また子供先生かよ!?」

 

「なぜだ・・・・年下がそんなにいいのか!?」

 

「ヒューヒュー!」

 

「ああ~もう違うって!そうじゃないのよ~~」

 

「アスナ・・・なんか私はもう眼中にないっつう感じだね~」

 

 

一人試合中でありながら置いてきぼりを食らった美空は呆れたように呟く。

 

「なっ!?そんなことないって!?・・・・と・・いけないけない、今ので乱れてる・・・え~と・・たしか左手に魔力で・・・・右手に気・・・」

 

取り乱しながらも冷静に立て直そうとするアスナはクウネルのアドバイスを思い出し集中する。

するとアスナの体が目で見えるほどの光に包まれる。

 

 

「あっ・・・できた・・・・」

 

「いや・・・・出来たってそれ・・・・やっぱ咸卦法じゃんかよ~~!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何があったんやあのねーちゃん!?」

「うん、スゴイですアスナさん!」

「バカな!タカミチでも習得に数年かかったんだぞ!?」

「ハハ、アスナ君はもっと前から出来ていたよ・・・」

 

タカミチの言葉の意味は分からなかった。

しかしネギたちはアスナの力を目の当たりにしとても興奮し声援を送っていた。

舞台では再びアスナの激しい攻撃が繰り出されている、もはや決着は時間の問題だと・・・・一部の人間を除き思っていた。

 

「美空・・・、逃げるな、逃げてるだけじゃ勝てないぜ・・・・」

「おやシモンさん・・・まだ諦めて無いようですね?」

 

両手を握り締め逃げ惑う美空にハラハラしているシモンにクウネルはいつもの笑みを浮かべて尋ねる。

シモンは美空が勝つと試合前に言ってみたものの、アスナの予想外の実力に不安になっていた。

 

「ああ~、そうそうアスナが勝ったらシモンさんマジでエヴァンジェリンさんに・・・くう~、見に来てよかった~!アスナ~、がんばれ~!」

「ふ・・・ふふ・・もう少しだ・・・この試合が終われば・・・・くくく・・・」

 

ハルナとエヴァンジェリンは賭けを思い出し、顔をニヤつかせよだれを垂らしていた。

エヴァは試合が終わる瞬間を今か今かと体をクネクネさせながら待っている。

その姿に木乃香は必死で美空を応援するが効果は期待できそうも無い。

 

「まずいわね・・・・あの子が負けたらシモン・・・アンタ・・・」

 

ヨーコが顔を引きつらせながらシモンと息の荒いエヴァを交互に見る、その先は・・・・考えるのを止めた。

 

「やばい・・・・このままじゃあ・・・・俺・・・・」

「ふふふ、濃厚なのをしてあげてくださいね♪」

「ハーッハハハ!キサマも稀にいいことを言うではないか!早く終わらせろ、神楽坂アスナ!」

 

シモンとヨーコもさすがに美空の勝利に不安を感じていた・・・美空が逃げ回っている以上勝ち目は無い・・・・そう思っていた・・・しかし

 

「まだ・・・試合は終わっていませんよ・・・」

 

リングを黙って見続けていたシャークティの言葉に皆が注目する。

しかしその言葉はもはやそれほど意味は無いと思っていた。

 

「シャークティ先生、さすがに今のアスナ君には美空君では・・・・」

 

美空では勝てない・・・・・高畑のその言葉をシャークティは肯定しなかった。

 

「高畑先生は美空の元担任でしたが・・・・どうやらあの子の力に気づいていないようですね?」

「なに!?」

「美空の・・・・力?」

「シャークティ・・・美空の力って・・・足の速さ?」

 

現担任のネギやシモンもヨーコも分からなかった。

しかし彼らより一番付き合いの長いシャークティの発言は決して嘘には感じなかった。

するとシャークティは一歩前出て一つ「コホン」と咳きをついて美空に向かって叫ぶ。

 

 

「少し失礼・・・・ふうっ~~、美空!!背を向けずに前を向きなさい!」

珍しく大きな声で叫ぶシャークティに少し皆驚き、言われた美空は急にビクっと肩を震わせ後ろを振り返る。

この時アスナも驚き思わず攻撃の手を止めてしまった。

 

 

「美空!思い出しなさい!背中のマークは飾りですか?もしそうなら今すぐ脱ぎ捨てなさい!しかしそうでないのなら・・・・・今目の前にある壁から逃げずに立ち向かいなさい!」

 

「つっ!?」

 

 

美空の表情が少し変わった、それを見てシャークティは後ろに下がった。

 

 

「シャークティ先生・・・今のは?」

 

「気づいていませんでしたか皆さん?たしかに神楽坂さんの力には驚きましたが・・・・・一撃でも・・・・ただの一撃でも美空に入りましたか?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「あの子の力は逃げるためのものではありません、あの子にわずかな勇気と気合があれば・・・・・あの子も開花するはずです!」

 

 

そう、それは、シャークティだからこそ知っている、美空本人は未だ気づいていない自分の才能。

 

『・・え~、どうも今大会試合中に叫ぶことが流行っていますが~、春日選手は果たして応えられるのか?』

 

シャークティにシンボルは飾りかと言われて少しガラにもなく美空は悔しそうに顔を歪めた。ネギやアスナに比べて今の自分の行動に後悔していた。

 

「美空ちゃん・・・悪いけど私は負けられない、・・・だから・・・・いくよ!」

 

アスナは再び高速で美空との間合いを詰める。

 

『神楽坂選手動いた!これは勝負に出たか!?』

 

すると美空は顔を上げて目の前を睨みつける。

 

「くっそ~~、・・・・・・・やってやるよ・・・・だって・・私は・・・・・グレン団なんだ!!」

 

叫ぶ美空は初めて逃げずにアスナを迎え撃つ。

しかしアスナはもう目の前にいる。

だが美空は逃げない。

 

(かっ~、もう目の前にいるよ!?アスナやっぱ強え~な~、あ~あ~せっかくやる気だしたのに結果はこれか~)

 

振り下ろされるハリセン。

リングサイドではシモンとヨーコが必死になって叫んでいる。

 

(グレン団・・・・兄貴に入れてもらった時スゲ~うれしかったけど・・・私じゃ無理すぎたか~、まぁ元々熱血キャラじゃなかったけど・・・兄貴たち私にガッカリするかな~、シスターシャークティも今度ばかりは呆れるかもな~)

 

刹那と木乃香も叫んでいる。

 

(あっ・・・そういえば試合前に変にかっこつけて・・・私が見せてやる的なこと言っちゃったんだっけ?あ~あ、こりゃあ刹那さんたちにも顔向けできねえわ・・・)

 

エヴァがガッツポーズしている。

 

(そっか・・あのクウネルとかいう奴と兄貴は賭けしてたんだっけ?・・・私が負けたらエヴァンジェリンさんとキスか~、兄貴スマン!・・・)

 

もう一度シモンを見る。

するとそこには未だに美空に向け何かを叫んでいた。

 

(何で私なんかを信じたんだろう兄貴は・・・・家族だから?それともグレン団だから?・・・・でも私は・・負け・・・!?・)

 

その瞬間美空はハッとした。

 

 

(賭けとかそんなの関係ないじゃん!?私が負けたら私は・・・・・私を信じてくれた兄貴を裏切る・・・・・兄貴を・・・口だけの男にしちゃう!?そんなの・・・・絶対だめだ!私が周りにどんだけ失望されようと・・・・裏切っちゃダメだ!そして兄貴を口だけになんて・・・・絶対にしちゃダメなんだ!だって私は・・・・兄貴の家族なんだから!)

 

 

美空は込み上げてくる悔しさと涙を交え賢明に抗おうとする。

アスナのハリセンが一発当たれば敗北は必至。

しかし自分の背負ったものに気づいた美空は懸命に前を向く。

そしてあることに気づいた。

 

 

(・・・つうか・・・さっきから私どんだけ心の中で独り言を言ってるんだ?これってあれか?死ぬ前に時間がゆっくり見えるっつう奴か?それよりアスナの奴まだ攻撃してねえよ・・・)

 

 

アスナは既に目の前にいる。

ハリセンも振り下ろしている。

しかしそれが一向に落ちてくる感じがしない。

この事態に美空も異変に気づいた。

 

 

(なんか止まって見えるような・・・・つうか攻撃できないか?・・・えっ・・・していいのかな・・?・・・・)

 

 

美空は戸惑いながらも右手を伸ばしアスナのハリセンを持ち振り下ろす両手首を、腕を伸ばし掴み取った。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

そしてそのままがら空きになっているアスナの腹部に膝蹴りを入れる。

 

 

―――ドスン!!!!

 

「うぐッ!?・・・えっ?・・・なん・・・で・・あっ・・・・うっ・・・・あっ・・・」

 

「えっ?・・・あれ・・・入った・・・」

 

 

両者何が起こったのかは分からなかった。

攻撃を当てた美空自身も驚いている。

しかしアスナはそれ以上である。

自分の勝利をほぼ確信した瞬間に突然腹部に強烈な痛みが襲い掛かっていた。

一瞬息が止まり、胃液が逆流するほどの衝撃を感じた。

どうなったかは分からない。

しかしアスナは襲い掛かる衝撃に耐えられずその場に倒れた。

 

「なっ・・・今・・・美空さんは・・・何を・・・」

「おい・・どういうことだ!?・・なぜ・・・春日美空が・・・・」

 

会場中が静まり返った。

九分九厘勝敗の見えた試合で突如相手が倒れた。

そのことにタカミチやクウネルすら顔色を変えていた。

しかしシャークティだけは違った。

 

「おい・・・シャークティ・・・」

「皆さん驚いているようですけど・・・・・あれがあの子の力です」

 

 

 

 

 

 

 

 

『え~・・・・何があったか・・・・え~と・・・とにかく春日選手の一撃により神楽坂選手ダウン!カウントを始め「まっ・・・・待って!」』

 

 

朝倉の声を必死に遮るアスナ。彼女は激痛に顔を歪めながらヨロヨロと立ち上がった。

気分は最悪に悪い。今でも呼吸がままならない。しかしそれでもアスナは意地で立ち上がった。

その姿に観客から拍手が送られるが、今のアスナにそれを気にする余裕は無い。

 

「なにがあったの・・・・美空ちゃんがイキナリ・・・・・やばい・・・凄くきつい・・でも・・・負けてられない!」

 

アスナは再び体中に覚えたばかりの気を流した。

戦う意志を消さずに再び武器を構える。

しかし美空は心ここにあらずといった感じで呆然としていた。

彼女は彼女で今の出来事にまだ整理がついていないでいた。

 

 

「美空ちゃん!はあ・・はあ・・・くっ、余所見は命取りよ!」

 

「あっ・・・」

 

 

歯を食いしばりアスナは戸惑う美空にハリセンを振り下ろす。

アスナの声に気づいた美空はチラッとアスナを見て紙一重のところでアスナの攻撃を避ける。

 

「まだまだーー!!」

 

一歩踏み込んで突きを美空に打ち込む、しかしまたもや美空は当たる寸前に真横に回避する。

 

 

「くっ!?やるわね~、でも横!」

 

 

真横に回避されてもアスナは体制を崩さずハリセンをそのまま真横になぎ払う。

だがその攻撃も美空はその場に屈んでやり過ごした。

 

「ウソッ!?・・・・くう~~!?」

 

当たらぬ美空にアスナは顔を顰め、ついには刹那に習った剣道の動きを忘れブンブンと無闇に剣を振るう。

 

 

(だんだんアスナの動きが単調に・・・これは振り下ろして横になぎ払うだけ・・・・・あれっ・・・アスナって・・・もっと速くなかったっけ?・・・)

 

(ウソッ・・・なんで?・・・・なんで一回も当たらないの?・・・)

 

『繰り広げられる神楽坂選手の連激!上下左右に一瞬の間も無く繰り出される高速の剣!しかし・・・・しかし・・・」

 

 

振り下ろす。振り上げる。なぎ払う。突く。ありとあらゆる乱れた剣。

しかしそれを美空は皮一枚、紙一重、ギリギリのところで回避していく。

この光景にさすがの観客も異変に気づいていた。

そして戸惑いながらも少し落ち着いてきた美空も、

 

(反撃・・・してみようかな・・・・)

 

雑になったアスナは更に守りの手がおろそかになり隙だらけである。

そのため美空は足を踏み出す。

 

「えっ!?消えた!?」

 

その瞬間アスナ目の前から美空が消えた。

しかし次の瞬間自分のわき腹に衝撃が走る。

 

「うぐっ!?」

 

衝撃にアスナは耐えられずにわき腹を押さえながらその場を飛びのく。

すると自分の真後ろにミドルキックの体勢で美空が固まっているのを見た。

その時自分の受けたダメージが美空によるものだということに気づいた。

 

 

「美空ちゃん・・・・・なんで・・・ウソ・・・見失った!?・・・なんで?さっきも一回も当てられなかったけど・・・・・さっきとは全然違う!・・・」

 

 

急にレベルアップしたかのような美空に手も足も出ないアスナ。

ただ呆然と美空を見ることしかできなかった。

そして美空は今の一撃で確信した。

 

 

(これがアスナのスピード・・・・やばい・・・・止まって見える!)

 

 

今度は美空がアスナに急接近する。

アスナもハリセンを掴み直線的に来る美空をなぎ払おうとするが、その瞬間再び美空が消えた。

先程と同じだと思いアスナは慌てて後ろを振り返るがそこにもいない。アスナがキョロキョロ辺りを見渡すと

 

 

「上だよ・・・・アスナ!」

 

「えっ!?」

 

「燃える女の魂キーック!(思いつき)」

 

 

アスナが上を向いた瞬間そこには美空の足があった。

美空はアスナの攻撃を上空に回避し、そのまま反撃の足を出していた。

気づいたときにはもう遅い。

避けることなど出来るはずもなくアスナは顔面を蹴り飛ばされ、リングの上を激しく転がった。

 

 

『なんだ~~!?なんと春日選手が急にレベルアップ?見違える動きで神楽坂選手の攻撃を回避し追い詰めました!』

 

「すげえ!なんだあのシスターの姉ちゃん?さっきから一発も当たってねえ!」

 

「あのハリセンの姉ちゃんもスゲエ速いのについて行けてねえ!」

 

「速すぎだぞ!あのシスターはまるで時空を司る神、クロノス・板垣学じゃねえか!?」

 

「いやあの驚異的なカットはアイシールド21だ!是非アメフト部に!」

 

<解説の豪徳寺さん、この事態をどう思われますか?>

 

<はい・・・急に春日選手の動きが優れてきました・・・そして分かるのは春日選手と神楽坂選手がお互いに体感しているスピード、言い換えれば体感している時間が違っているように見えます>

 

 

解説席から茶々丸と豪徳寺が意味不明な会話を始めた、しかし

 

 

「当たってます」

 

「「「「「「はあ!?」」」」」」

 

 

なんとシャークティが豪徳寺の解説を肯定した。

 

 

「美空のアーティファクト・・・足を速くするだけの地味なものにしか見えないですがとんでもありません!あの力があるからこそ・・・美空は我々でも目にも止まらぬ高速の世界を常に体感しています」

 

「こ・・・高速の世界?」

 

「はい、本来なら加速した自分の動きに自分の目がついていけません。しかしあの子はそれを苦もなく使い続けた結果、優れた動体視力と反射神経を手に入れました」

 

 

シャークティの解説に皆がゴクリと唾を飲み込む。

そしてその解説の意味が分かったものたちは口を開いてくる。

 

 

「拙者らが全力のスピードを出すのは戦闘中のほんの一瞬だけでござる。攻撃を避けるか当てるか、回り込むかだけ・・・・・しかし美空殿は日常生活で多くの時間に使用している・・・ということでござるか?」

 

「アスナの攻撃をギリギリで回避しているわけではない、アイツはアスナの攻撃を必要最低限の動きで回避・・・ということかい?」

 

 

長瀬と龍宮は冷や汗をかいていた、美空の力は彼女たちにとってそれほど衝撃に感じていた。

 

 

「あの~どういうことですか?」

 

「普通戦いでは相手の動きを読み取ることが重要アル。相手の視線や僅かな肩の動きなどを予測すること。しかし美空は予測しないで攻撃を見てから回避しているアル、つまり・・・・アスナのあの攻撃を完全に見切ってるアルヨ・・・・」

 

 

古の解説にシャークティは頷く。

 

 

「あの子は戦闘経験が乏しい上に元々好戦的な性格ではありません。そのため戦いでは相手を見ずに逃げることばかり考えていました」

 

「・・・・なるほど、しかし今シャークティ先生の激により、対戦相手のアスナさんに集中した美空さんはようやく自分の力に気づいたと?」

 

「はい、あの子も戸惑っていたようですけどようやく自分の高速の世界に気づいたようです」

 

「ちょっと待てや!たしかにあの姉ちゃんも速いが、遠目から見たら消えたなんて思うほどやないで?瞬動の方が速いで!」

 

 

小太郎の疑問をタカミチが否定する。

 

 

「瞬動は走るというよりも前へ跳ぶというイメージだ。そのため急な方向転換は不可能という弱点をネギ君との試合で言ったね?しかし美空君は本当に走ってる・・・・つまり常に大地を蹴っている・・・ということになる」

 

「?」

 

「つまりタカミチ君の言いたいことは常に大地に触れている彼女には急な方向転換が可能。スポーツで言うカットやフェイントなどをあのスピードで目の前で織り交ぜられたら本当に消えたように感じる・・・ということですよ・・・」

 

「走るだけの能力・・・しかし言い換えればその能力に特化したものと言える・・・それを逃げるためでなく戦闘に使用されれば手がつけられなくなる・・その上その動きに本人がついていけるだけの目も備わっている・・・バカな・・あの小娘にそんな力が・・・・」

 

 

相手が攻撃をしても簡単に見切り回避できる。

自身も簡単に相手の裏へ回りこみ攻撃をすることが出来る。

単純計算でキックはパンチのおよそ四倍。

さらに高速で大地を蹴り、本人の気づかぬうちに鍛えられあげた美空の脚力をスピードに乗せて蹴れば威力は絶大。

体を強化したアスナが生身の美空の攻撃に大ダメージを受けたのはそれが理由である。

 

「決してネギ先生や神楽坂さんのように向上心や努力をしてあの子は強くなったわけではありません・・・大した努力や志を持たずに、たった一つの出会いと勇気を持つキッカケだけで、あの子は才能を開花させてしまった」

 

シャークティはネギを、そしてシモンを見る。

そして衝撃の一言を。

 

 

「ネギ先生のような全ての才能に優れた『オールラウンダー』の天才とは違うタイプ、・・・それは高畑先生のような技を磨いた『達人』とも別のタイプ・・・・」

 

「まさか・・・美空は・・・・・」

 

「はい・・・・・、一つの分野のみなら天才を上回る『スペシャリスト』・・・・それがあの子の正体です」

 

「「「「えええええ!?」」」」

 

 

ついにベールを脱いだ本人も知らなかった美空の正体。

驚愕の事実を知った彼らの目に入ったのは、走りに迷いが無くなった美空の軽快な動きだった。

 

 

(やべえ・・・アスナの動きが手に取るように分かる・・・なんでも出来る気がする!)

 

 

美空はアスナの周囲をサークル上に回り囲む。

瞬動と違い目で視認できるため、自然とアスナは目で美空を追ってしまう。

しかし徐々に自分の周囲で加速する美空の動きについていけず、挙句の果てには美空が複数見えるようになってきた。

円の動きで風を発生させる美空、頃合を見計らい徐々に円を小さくしてアスナに迫り、そして

 

 

「紅蓮の炎の竜巻蹴り!!(思いつき)」

 

 

モーションの小さい蹴りを前後左右ほぼ同時に当てる美空。

どんな攻撃を受けたかは分からず、ただジワジワとあらゆる場所から同時に襲い掛かる痛みに耐え切れずアスナは倒れこむ。

そして倒れこむアスナの腹部を美空は屈んで一気に蹴り上げる。

 

 

「ラストーー!私の蹴りで天を突いちゃう蹴りーッ!!(思いつき)」

 

 

ドスンと鈍い音を響かす衝撃。

もはや咸卦法など関係なしにアスナにダメージが伝わっていく。

 

 

「ごほっ!?・・・うっ・・・・つ・・・つよ・・・」

 

 

蹴り上げられたアスナは宙に舞い地面に叩きつけられる。

一瞬の静寂を置いて天に向かって蹴り上げる美空の姿に会場が歓声を上げる。

 

 

『なんと神楽坂選手ダウン!一見地味なキャラかと思いきや豪快な高速の技を繰り出す春日選手に歯が立ちません!神速の美空ここに参上!!』

 

「やべえ・・・私・・・超かっこよくね?」

 

 

蹴り上げた体勢を崩さずに美空は自分の姿に感心してしまった。

しかし誰もそのことに異論を挟めずに開花した美空の姿を見ていた。

開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。

シモンもヨーコも美空の驚異的なアビリティに唖然としていた。

 


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