魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第52話 大人の女

「さて、エヴァと刹那はどっちが勝ったかな?」

 

超との談笑を終え駆け足で会場へ戻るシモン。

結局自分の試合の準備などまったくせずに試合に挑むことになりそうである。

息を切らせてようやく会場まで辿り着いた、しかしその時大歓声と朝倉の声が上がる。

 

 

『マグダウェル選手ギブアーップ!!途中劣勢だった桜咲選手でしたが見事逆転の一撃で勝利を手にしました!!』

 

「あっ・・・遅かった・・・・どうしよ・・・エヴァに怒られるかも・・・・」

 

 

まさにシモンが丁度たどり着いた瞬間に勝敗が決していた。

リングの上で倒れるエヴァ、そしてエヴァに慌てて駆け寄る刹那にアスナ、そしてネギ。

どういう結末だったかは分からないが大会前の沈んでいた刹那と比べるととても明るい表情をしていた。

すると彼女はエヴァの手を掴み何やら頭を下げてお礼を言っているような様子だった。

 

「刹那?・・・どうしたんだろ?そう言えばヨーコがエヴァに刹那をイジメろって言ってたけど・・・・そのわりにはいい顔してるな」

 

刹那の今の顔は何か満ち足りた表情をしている。

試合前に木乃香とわだかまりがあったようで気になっていたが、どうやらエヴァとの試合で彼女もまた何かを掴んだようである。

 

「まぁ、別にいいか・・・・・・それは刹那の問題だしな・・・・・。とりあえず俺の試合には間に合ったようだしな・・・・・」

 

一瞬あせったが自分の出番には間に合ったことを確認した、

 

「さて・・・行くか!」

 

笑みを浮かべシモンはコートを翻しゆっくりと戦場へと向かった。

 

(美空も勝ったんだし、俺も相手がヨーコだからって負けてられないな。・・・・・・・・・ヨーコ・・・・と・・・か・・)

 

その途中シモンは過去を振り返っていた。それはまだジーハ村にいた頃の話である。

あの時地上から落ちて来た女性、彼女との出会いが全ての始まりだった。

時にやさしく、厳しく、そしてたまに突き放したりもした。

それだけ彼女は自分と変わらぬ歳でありながら多くの悲しみを幼いときから乗り越え戦場で戦っていた。

 

(思えば・・・・・もう随分とメンバーが減ったな・・・・大グレン団も・・・・)

 

カミナを始め多くの英雄たちが戦いに命を落とした。その中には自分の最愛の女性もいた。

しかしヨーコは生き残った。

運命の旅へのキッカケを与えた女は今でも変わらずにいる。

それがうれしくもあり、当時を知るものがそれだけ少なくなったことに少し寂しくもあった。

もし今日戦う相手が戦友のヴィラルだったならこんな気持ちにはならなかっただろう。

しかしヨーコだけは違った。共に戦場を駆けながら、シモンがどん底にいたときも知っている。それが大きかった。

 

「・・・ヨーコ・・・・いつもお前は人前では強かった・・・俺はお前の弱かった姿を知らない・・・・でも・・・今日は・・・・俺が勝つ!」

 

拳を強く握り締め、彼は誓った。

 

 

 

 

 

 

場所は変わって選手控え室。

知らぬ間に激戦を終えた刹那とエヴァンジェリンをネギたちが囲む。

そんな中エヴァは少しつまらなそうに呟く。

 

「ふん、刹那をもっとイジメてやりたかったが・・・・」

 

大会前に腑抜けた刹那をイジメると公言していたエヴァだったが、どうやら自分が考えていた通りに行かなかったようだ。

その言葉を聞いて刹那は今の自分の心境を語る。

 

 

「今の私は・・・・たしかに中途半端です、剣も日常での暮らしも・・・・友達への態度・・・私と同じ様な・・いえそれ以上の過酷な生き方をして来たアナタから見れば不快に感じるでしょう・・・・」

 

「そうだ・・・・だから私はキサマに問いただしたのだ、剣と幸福どちらを取るのか・・・・・・」

 

 

すると刹那は力強い瞳で答える。

 

 

「はい、お嬢様と以前より心を近づくことが出来、最近の私はそのことに妥協し、タルんでいたと思います。あなたに言われてハッキリ気づきました」

 

「ほう、それで・・・・キサマはどうするのだ?半端に生きるのか?剣の道を進み大事なお嬢様を守るために強くなるのか?それとも・・・」

 

「・・・・言えません・・・」

 

「それとも・・・・・ん?・・・・・はあ!?」

 

 

なんと刹那はエヴァの質問に対して即答した。

その答えにエヴァを含め木乃香やアスナたちも驚いた。

そして次の瞬間エヴァはプルプルと怒りに震えながら口を開く。

 

「ほっほ~う・・・キサマ・・・あれだけ試合中でも私がクドクド説教をしてやったというのに・・・・その・・答えが・・・」

 

エヴァは人外の境遇にありながら最近の腑抜けた刹那を気に食わないと思っていた。

煮え切らない刹那に苛立っていた。だからこそ彼女は刹那の本心を引き出そうとした。

今の半端な生き方をする刹那はどうするのかを問いただそうとした。しかし

 

「その答えが・・・・今は言えないとはどういうことだーーーーー!?キサマそんなことで言い逃れを出来ると思っているのか!?」

 

刹那はエヴァの質問に決して答えることはなかった。「分からない」ではなく「言えない」それは答えがすでに出ていることを意味していた。

正直刹那の本心を木乃香やアスナたちも聞きたいと思っていた。

しかし刹那は言わなかった。それには一つの理由があった。

 

「今・・・この場で言っても・・・・いえ・・・今はまだダメです・・・・・」

「どういうことだ?」

 

刹那は誤魔化すのではなく、その意味を答える。

 

 

「私が今後どういう生き方をするのか・・・・・・当然教えます、むしろ知ってほしいです・・・・アナタにも・・・ネギ先生たちにも・・・そしてお嬢様・・・いえ、このちゃんにも・・・。ただ・・・まずはあの人に聞いてもらいたいのです・・・・」

 

「むっ!?」

 

「せっちゃん・・・・それって・・・・」

 

 

刹那の言葉にある人物を連想した木乃香は刹那に尋ねる、すると刹那は少し顔を赤らめて頷く。

 

「今日・・・ネギ先生や美空さんに踏み出した勇気が自分を変えることが出来ると教わりました・・・・・でも・・・本当はもっと前に教えてもらっていたんです・・・・あの人に・・・・」

 

刹那は修学旅行での出来事を思い出した。初めてシモンと向き合った日のことを。

そしてあの時、自分が一歩を踏み出していたことを思い出した。

今までずっと会話することすら出来なかった木乃香に勇気を出して自分から話しかけた日のことを。

 

「私はあの時一歩だけ前へ踏み出しました・・・・しかし二歩目を踏み出していなかった・・・、しかし今は違います・・・剣と幸福、私が選んだ道はまずあの人に言ってから私は・・・・二歩目を踏み出します!」

 

それが刹那の決意だった。

力強く答える刹那にエヴァは何も言うことが出来ずに呆れてそっぽを向いてしまった。

刹那自身がすでに答えを持っていることにネギたちも少し安心して、刹那が告げるその時を待つことにした。

 

 

「このちゃん・・・・それでええ?少しずつやけど・・・・ウチも昔みたいになれるようがんばるから・・・まずは・・・・・」

 

「ん!モチロンや!せやから、せっちゃんもちゃんとシモンさんに言うんやよ?」

 

 

少し不安そうに尋ねる刹那だが、木乃香は満面の笑みで頷いた。

その言葉を聞いて刹那も小さく「ありがとう」と呟いて微笑んだ。

 

『さあ続いての試合を始めます!選手の方はリングにお越しください!』

 

朝倉のアナウンスが響き渡る。その放送を聴いて彼らは顔を見合い頷きあった。

 

「行きましょう、シモンさんたちの試合です!」

「そうね~、どっちが勝つのか興味あるわね~」

 

放送を聞き全員が試合を見物するため移動しようと思ったら、今まで黙っていたハルナが口を開く。

 

 

「なんかさ~、さっきのエヴァンジェリンさんや桜咲さんの会話はよく分かんなかったけど、やっぱりシモンさんが絡んでんの?」

 

「えっ・・・まあ・・・半分は・・・」

 

―――キュピーン!

 

「ふ~ん(ニヤリ)」

 

 

刹那の言葉にハルナは妙な効果音を立てて目を光らせた。

するとまるでパズルが完成したかのような笑みを浮かべる。

この表情に全員が嫌な予感がした。

夕映やのどかも付き合いが長いだけにそのことを明確に感じ取っていた。

 

「ハルナ・・・どうしたですか?」

「ん~?いや~、相当大きな泥沼劇だな~ってね」

「・・・・何がですか?」

 

夕映は少し不安になりながらも、いやらしい笑みを浮かべるハルナに尋ねた。

 

 

「いや~だってさ~、のどかやアスナはネギ君にラブラブわけじゃ~ん?」

 

「へううううう」

 

「ちょっ・・・何テキトーなこと言ってんのよ!?私が好きなのは・・・・・(高畑先生・・・って本人の前じゃ言えないよ~!?)」

 

「ふふ~ん、でもネギ君はヨーコさんが好きなわけだ♪」

 

「「「「うおっ!?」」」」

 

「なな・・・なんで知ってるんですか~!?」

 

「くっくっく、私の嗅覚を舐めてもらっちゃあ困るよ~!そんでもってシモンさんもヨーコさんが好きだったわけだ~」

 

 

胸を張りながらハルナは面白おかしそうに語っていく。

タカミチや小太郎もネギがヨーコのことを好きだというのは初耳で少し興味深そうに聞いていた。

 

「で、木乃香とエヴァンジェリンさんに桜咲さんとシャークティ先生はシモンさんが好きなわけだ~♪」

「ウチはそやよ、せやけど・・・・・」

 

木乃香が刹那とシャークティを見る。すると顔を真っ赤に俯く刹那と少し呆れ気味のシャークティがいた。

 

「あの・・・その・・・私は・・・・」

 

言いよどむ刹那、それを見て木乃香は刹那の肩に手を置く。

 

 

「せっちゃん、せっちゃんがどういう道選ぶか知らんけど・・・・それぐらい教えてくれへん?せっちゃんはウチの好きな人知っとるのに、ウチだけ知らんのは嫌や・・・」

 

「うっ・・・このちゃん・・・・」

 

「はいはい!では桜咲さん!ちゃっちゃと答えよう!Do you love Shimon?」

 

 

刹那の口元に全員が注目する。タカミチですら口を挟まず注目する。

真っ赤な顔して何度も口をパクパクさせる刹那、傍らではアスナや木乃香が「がんばれ」と声を掛けている、そして・・

 

 

「うっ・・・・あの・・・・その・・・・・・・・・・・・・・イエス・・・アイドゥ・・・・・」

 

 

ほんの僅かな呟きだったがこの場にいた全員には理解できた。

木乃香は暖かい笑みで頷きハルナはガッツポーズをしている。

 

 

「うっしゃー!はいはい認めたね~、いや~可愛いね~桜咲さ~ん」

 

「せっちゃん、よ~がんばったわ!そやったんなら早く言ってや~」

 

「あはは、刹那さん可愛い~」

 

「ふん、色ボケ剣士が!だからキサマは半端なんだ!」

 

 

一人つまらなそうに舌打ちするエヴァだが、アスナたちは笑顔で刹那の肩を叩いた。

しかし一人大人の余裕でため息をつくシャークティがいた。

 

「まあ、桜咲さんは別として・・・・なぜ私まで入っているのですか?私は違いますよ・・・」

 

どうやらシャークティは自分がシモンを好きだと言われていることに納得していないようだった。

 

「え~、違うんですか~?」

「たしかに・・・私もそう思っていたんだがな・・・・・・」

 

エヴァもハルナ同様にシャークティはシモンを想っていると思っていた。

しかし以前そのネタでからかったときは、冷静さを忘れ顔を真っ赤にして動揺していたはずの彼女が今ではまったく動じず冷静に否定している。

そのことに少し違和感を覚えた。するとシャークティは今の自分の気持ちを説明していく。

 

 

「たしかに・・・彼と出会った頃はそんな気持ちがあったかもしれません・・・・どこまでも熱い心を持つ彼に惹かれました・・・・しかし彼は言いました。私や美空、そしてココネを友人ではなく家族だと言ってくれました・・・・」

 

「そういえば・・・美空君もココネ君も、彼のことを兄と呼んでいるね・・・そういうことだったのか・・・」

 

 

タカミチは納得したように呟く。シモンが来た当初、いつも冷静で厳しかったシャークティは明らかに丸くなっていた。

それが同僚のタカミチから見ても不思議に思っていた。おそらくその時はシモンに惹かれていたんだろうと想像できた。

 

「でも家族って・・・それで納得できるんですか?好きだったんですよね?」

 

アスナはシャークティの発言を疑問に思い聞く。これは木乃香たちも気になっていた。

好きだった男をそうやって割り切ることが出来るのか。しかしそれがシャークティと木乃香たちとの違いであった。

 

「当初は彼と二人で出かけたりなど、甘い想像に顔を赤くする自分がいました・・・ですが・・・・彼に家族と言われて、なんでしょう・・・それが一番うれしかったんです・・・そしてそれが一番の形だと自分で思ったのです・・・」

 

美空も以前シャークティにシモンへの想いの形を聞いたとき、同じことを言っていた。

そしてそうやって割り切れることが大人の魅力なんだと思った。

しかしアスナたちはシャークティの発言を聞いても納得がいかなかった。

 

「そなんかな~・・・せやけどウチは・・・・もっと・・・・・」

 

木乃香も少し納得がいかない表情だった。それはのどかも同じだった。

好きという気持ちをそんな簡単に割り切れるものなのか、それとも自分たちがまだ子供なだけなのか、判断できなかった。

 

 

「ふん、随分と日和ってるじゃないか?それが大人の考えのつもりか?まあ、キサマがそれでいいなら別にかまわんが・・・」

 

「僕は・・・・・シャークティ先生の気持ちは分かるかな・・・・」

 

「えっ!?高畑先生も~!?そんな~・・・・・」

 

 

タカミチがシャークティの意見に同意したことによりアスナは焦ってしまった。

割り切ることが大人になることだとしたら、あまりにもそれは寂しすぎると思っていた。

するとシャークティはやさしい笑みを浮かべた。

 

「ですが・・・あなたたちが違うと思うのなら、自分が思ったとおりにすればいいと思います。どんな大人になるかは自分たち次第です。それはシモンさんも言っていたでしょう?木乃香さん達がシモンさんと恋人のような時間を過ごしたいと思うならそうすればいいと思います・・・」

 

まるで子供に諭すかのように温かい言葉を送るシャークティ。その笑みに木乃香たちは少し顔を赤くした。

ヨーコとはまた別のタイプだが紛れもなく大人の魅力を兼ね備えた女性であると思った。

 

「さあ、そろそろ時間ですよ?」

 

クルッと背を向け「では試合会場へ行きましょうか」と告げるシャークティ。その背中から神々しさを感じた。

その言葉を聞いてアスナたちも後に続こうかと思ったが・・・・・

ハルナの一言に事態は一変した。

 

「なるほど・・・そういうことだったのか~・・・」

 

立ち尽くすハルナ、彼女は何か合点いったかのように顎に手を当て呟いた。

その様子に再び全員が足を止めて振り返る。

 

「何か?」

「いや~・・シャークティ先生からは木乃香たちのようなラブ臭を感じなかったんだけど・・・そっか~家族か~」

「・・・・ええ、そう言いましたけど・・・・・それが何か?」

 

―――ゾクリ!

 

 

その瞬間言い知れぬ悪寒が襲った。

それほどハルナの醸し出すオーラから不気味なものを感じた。

ふっふっふ、とあやしい笑みを浮かべるハルナ、その様子に皆一歩引いてしまう。するとハルナは・・・

 

 

「つまり・・・夫婦ってことじゃないっすか?」

 

「「「「「「「はっ!?」」」」」」」

 

 

ハルナの発言に全員キョトン顔になる。

 

 

「つ、ま、り、木乃香たちがシモンさんとデートしたりイチャついたりのラブラブな恋人関係を望んでいるとしたら!シャークティ先生はすでにシモンさんとはお互いを理解しあい共に暮らす長年連れ添った夫婦!どうっすかこれ!」

 

 

拳を強く握り締め熱く語るハルナ。全員呆然とする中、シャークティは夫婦という言葉を想像する。

 

 

(夫婦・・・・夫婦ですか?・・・それって・・・・)

 

 

 

 

 

緊急シャークティ脳内劇場

 

夫役 シモン

 

妻 シャークティ

 

娘 ココネ

 

 

 

 

「ただいま~」

 

少し疲れた顔をして、仕事から帰ってきたシモン。

それをパタパタとスリッパの音を響かせながら、笑顔で出迎えるエプロン姿のシャークティ。

 

「おかえりなさい!ご苦労様です、お夕飯はもう出来てますよ」

「ああ、それじゃあ先にいただこうかな」

 

仕事の鞄をシャークティに無言で渡しネクタイの紐を緩めるシモン、そこに駆け足で寄ってくる一人の娘。

 

「お帰り!」

 

ココネがシモンの腰元に抱きつく。シモンは笑顔でココネを抱きかかえる。

 

「ただいまココネ!ちゃんといい子にしてたか?」

「ウン!オナカ空いた・・・ゴハン・・・ゴハン」

「はいはい、今支度しますよ、ココネも手伝ってくださいね♪」

 

それはどこにでもありふれた家庭のありふれた日常の様子。

食卓に並ぶ食事を3人が囲んで同時に祈りを捧げながら箸を突付く。

 

 

「「「アーメン、・・・・いただきます」」」

 

「ああ~おいしいな~」

 

 

食事に手を伸ばし頬張るシモン。すると横にいるココネがシモンの裾を引っ張る。

シモンが見下ろすと、ココネが箸で突き刺した料理をシモンに向けていた。

 

 

「これココネが作ッタ・・・・ア~ン・」

 

「本当か?ア~ン・・・・・・・・うん!おいしいよココネ!」

 

 

笑みを浮かべてココネの頭を撫でるシモン。ココネも照れながらもその顔にかすかな笑みを浮かべる。

するとシャークティも顔を赤らめて箸を差し出す。

 

「あら、ココネの作った料理だけですか?・・・・あなた?・その・・・はい・・あ・・あ~ん・」

 

笑顔の絶えない一家団欒、それはどこにでもある日常だった。

しかし僅かな間にそんな妄想をしたシャークティは・・・・

 

 

 

 

 

 

 

(そ、そんな~~・・し、幸せすぎます~~)

 

イヤンイヤンと頭を振るシャークティ。

そこには大人な女性である先程までの姿は無く、恋する乙女の姿があった。

 

(・・・はっ!?)

 

しかし妙な視線を感じ、急にハッとなった。

慌てて妄想から現実へ戻ると目の前にはニヤニヤ笑うハルナがいた。

 

 

「うっひょ~マジすか!?カマかけてみたけど恋人より夫婦が想像できるんすか!?」

 

「あっ・・いいえ・・・・その・・・今のは少し驚いただけでして・・・その・・・」

 

「いや~確かに大人の考えっすよね~、まさか恋人跳ばして夫婦か~、こりゃあ木乃香たちの最大のライバルだね~」

 

 

完全に15歳の少女の手の平で遊ばれているシャークティ、もはや大人の余裕など微塵もなかった。

 

「あなたたちも、何とか言ってください!私は・・そんな・・・ことなど・・・、むっ!?・・」

 

シャークティはハルナに勝てないと思い咄嗟に援護を要求しようと他のものを見た。するとあることに気づいた。

 

「あなたたち・・・一箇所に固まって何を?」

 

ハルナの後ろで他の者たちは全員のどかの後ろに集まっていた。

そしてのどかは手に大きな本を持っている。彼女たちはのどかの持っているその本を全員で食い入るように覗き込んでいた。

少し・・・いや、かなり嫌な予感がした。

 

「宮崎さん・・・・その手に持っているのは・・・・・」

 

シャークティの声が震えていた。

いや、最悪の事態を想像してしまった。

なぜなら、もしのどかの持っている物が自分の想像通りのものだとしたら・・・

 

(まさか!?いえ・・・・そうだとしたら・・・あれは・・・たしか宮崎さんのアーティファクトは・・・・・)

 

のどかのアーティファクトは相手の心を読み取り本に写し出す。

のどかの後ろにいるものたちは顔を真っ赤にして唖然としている。

 

(ま・・・・まずい、まずい、まずい、まずい!!まさか・・・・今の私の妄想を・・・・・)

 

シャークティの動揺がピークに達する。

事情を知らないハルナは頭に?マークを浮かべて後ろを振り返る。すると次の瞬間・・・・

 

 

「「「「「「なんじゃこりゃーーーーー!?」」」」」」

 

 

一気に怒号が響き渡る。その声は会場まで聞こえるほどだった。

まず真っ先にエヴァが駆け寄りその後に他の者も続く。

 

 

「シャークティー!キサマ~日和った発言しておいて、この妄想は何だ!?しかもちゃっかり子供までいる設定で、一体どんな三流ママゴトだ!!この妄想シスターめ!!」

 

「あんまりや~!夫婦てそんなん、ずるすぎや~!しかも・・あなた・・・て・・・・あなた・・て・・」

 

「わ・・・・私たちが子供に見えるわけですね・・・まさかそんな先の想像まで・・・・」

 

「つうかココネが登場して私が出ないって酷過ぎじゃないっすかシスターシャークティ!?つうかやけにリアルな設定だなこれ!?」

 

「「「大人だ・・・・」」」

 

 

結局彼らが試合会場へ移動するのにはもう少し時間がかかってしまった。

 

 

 

 

 

 

この様子を外から眺めている一人の女が居た。

彼女は声を掛けることをせず、ため息をついていた。

 

「平和なもんね~、それにしてもあの子たちニアのこと忘れてんじゃないかしら?」

 

ヨーコはネギたちが繰り広げている恋愛話を少し離れた場所で聞いていた。

 

「なんだかね~、アイツがモテてるって意外ね~、まあ昔はニアが傍にいたからシモンもそれほど言い寄られたりしてなかったわけだけど・・・・・あの子達ちょっと美化しすぎなのかもね・・・。ただの熱血じゃないのよあいつは・・・・」

 

ヨーコは知っていた。

シモンのどん底にいた時期を。シモンの弱かったときを知っている。

敵から何度も逃げ出そうとした時、さらにカミナが死んだ時に荒れた心の弱さを。

だが木乃香たちは違う。シモンの良い所だけしか知らない。愛しかったニアの死を受け入れながらも一日を強く生きるシモン。それが彼女達のシモンに抱いているイメージかもしれない。

そのため少しシモンを美化しすぎている部分が多いとヨーコは感じていた。

 

「このままじゃ木乃香たちのためにならないわね・・・・しょうがない・・・私が教えてあげようかしら、シモンも同じ人間だってことを」

 

するとヨーコの顔つきが少し変わった。

 

(教えてあげるわ・・・・アイツだって弱さを持っている・・・・つらいことだってある・・ただそれに耐えてるだけ・・・それを知らずにシモンの傍にいることは無理なのよ・・・・)

 

ヨーコだけは知っていた。シモンの今は見せない心の弱さを。

だからこそ今日全てを白日にもとに晒そうと考えていた。

シモンの新たな家族、想いを寄せるもの達、そして友、彼らの中にしみ込んだ強い心を持ったシモンというイメージ。彼女はそれを今日壊そうと考えていた。

それを知って初めてシモンは誰かから支えられるだろうと思っているからだ。

 

(シモン・・・・・時には思いっきり弱音を吐きなさい・・・・今日は私が全部受け止めるから・・・・それが・・あの時・・何も出来なかった私に出来る唯一のこと・・・・)

 

二アが死んだ日、彼女は旅立つシモンを笑顔で送り出すことしか出来なかった。

決して涙を流すことはなく、笑顔で悲しみを覆い隠し、シモンは旅立った。

あの時ヨーコはシモンに何も言葉を掛けられなかったことに悔いていた。

だからこそ今日彼女は、一年前に出来なかったことをしようと決意した。

 


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