魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「うわ~、シモンさんもヨーコさんも凄かったですね~、それにお二人が使っていた力、あれが魔法でも気の力でもない螺旋力・・でしたっけ?」
ヨーコとシモンの試合が終わり、2回戦の準備までの幕間の時間、ハカセは感心したような声を上げて超を見る。
「うむ、努力云々ではなく遺伝子的に秘められた力。気合とは実に理不尽な力ネ!」
言葉の内容は批判だった。
しかし言葉を告げる超の顔は実にうれしそうである。
ハカセは少し気になったがもう少し機嫌のいい超の様子を見ていたくなり、あえて何も言わなかった。
そもそもシモンが立ち上がったとき超が拳を握り締めながら目を輝かせていたのにも驚いた。
もっともハカセ自身も研究の成果などとは別に生身の人間相手に感動してしまった経験はそれほどなかったため、超の気持ちが分からなくもなかった。
「最初から強い天才相手ならよかったネ・・・・・」
「超さん?」
途端に超の表情が少し寂しそうな笑みになった。
「最初から強い人が相手なら私は、その人物に何を言われても靡かない・・・・強い人間に弱い人間の気持ちは分からないネ・・・だが・・・」
「だが?」
「ボロボロになり、どれほどみっともない姿を晒そうとも、最後には立ち上がり、あきらめずに立ち向かう・・・・・。魔法でも科学でも立証できない気合・・・魂・・・・この力に否定されると・・・・胸が痛むネ・・・」
超は自分の胸をさすりながら呟いた。
彼女は少し複雑な感情の板ばさみに苦しんでいた。
ハカセも察したが、人一倍人類の感情に疎い彼女にはどうすることも出来なかった。
少し戸惑っているハカセだが、超は少し作り笑いで「大丈夫」と呟いた。
「それを否定するために私は過去まで来たネ、心配ないハカセ・・・・・私は私の成すべきことをするだけネ!」
「超さん・・・・・」
背を向ける超。彼女はそのまま歩き出した。その背中を少し寂しそうに思いながらハカセも続いた。
「ハカセ、最終日前の準備を整えておくネ!ネギ坊主はどうするか分からないが当面の敵はグレン団、ならばロボット兵器も惜しみなく使うネ・・・・それと・・・」
「はい?」
「あの出来損ないの巨大ロボットの準備をするネ・・・・茶々丸にもそう伝えてほしい・・・・・」
再び超は会場から離れた。
超がどんな思いでその言葉を告げたのかはハカセには分からなかった。
「シモンさん本当にええの?魔法で怪我治さなくて・・・」
「ああ、これはこのままでいい」
試合が終わり控え室に戻ったシモンたち。
シモンのヨーコから受けた傷は相当だったが、シモンは木乃香の魔法による治癒を拒んだ。
「これは俺の弱さで受けた傷だ、甘んじて受け入れるさ。そうじゃないと心を痛めて戦ったヨーコに申し訳ないよ。目に見える傷ぐらいならなんてことないさ」
「シモンさん・・・・ですが私たちは・・・・・」
「そんな顔するなよシャークティ、俺はもう大丈夫だ」
痛みを抱えながらこのままいくとシモンは告げる。
ヨーコとの戦いで目に見えぬ心の傷が治ったかどうかは分からない。
しかし「俺は俺だ」と胸を張って言えたことにより、心が少し救われた気がした。
そのためにヨーコは己の心を痛めながらシモンと戦ってくれたのだから、受けた傷は受け入れるとシモンは木乃香に告げる。
しかしその言葉に少し木乃香の表情が曇った。
「目に見える傷・・・・せやな~・・ウチは怪我しか治せへん・・・シモンさんの心の傷なんて気づきもせんかった・・・・」
少しネガティブな思考になっていた。
彼女は彼女で自分の幼さに嫌悪感を感じていた。
ヨーコを見てそのことにすごく悔しく思っていた。
少し慌ててアスナたちがフォローしようとするが益々木乃香は暗くなる。
するとシモンが自分の指を木乃香の額まで持っていき、
――ピンッ
「あたっ!?」
「まったくお前たちは、すぐに暗くなったりするのは悪い癖だぞ!」
デコピンではじいた。木乃香が額をさすりながらキョトンとした目でシモンを見る。
「木乃香・・・お前とヨーコの違いって何だと思う?」
シモンは木乃香に対してした質問だったがこの場にいた全員が考え込んだ。
自分たちとヨーコの違いは一体何なのか?おそらくその違いこそがシモンがヨーコを信頼できる理由なのかもしれないと思い、皆真剣に考えていた。
すると直接質問を受けた木乃香が自分の身体のある一部をさわりながら答える。
「ウチとヨーコさんとの違い・・・・・・おっぱい?」
「その通り!ヨーコのおっぱいはグレン団の・・・って違う!?」
思わず乗りツッコミをしてしまうシモン。
木乃香の答えが否定されたことにより他の者たちもホッと胸を撫で下ろした。
「あっ・・・そうなん?よかったわ~」
「「「「「(私たちもよかった~)」」」」」
どうやら真剣に答えていたらしい。
木乃香は決して対抗できないものが自分とヨーコとの差ではないと分かり安心した。
するとシモンは木乃香の的外れな答えに少し呆れながら頭をぼりぼり掻きながら答えを言う。
「まったく・・・確かにそれもあるけど・・・・簡単に言えばヨーコはヨーコで、木乃香は木乃香ってことだ」
「・・・・・・ウチは・・・ウチ?」
「そう、ヨーコと木乃香が違って当たり前、俺が・・・アニキじゃないようにな。俺だって穴掘りを取っちまえば何にも出来ない、人の怪我を魔法で治すことも出来ない、だったらそれでいいじゃないか。ヨーコができることを木乃香が無理にする必要はない、木乃香ができることをすればいいじゃないか」
シモンの言葉は木乃香たちには理解できた、しかしそれでも複雑な部分もあった。
「う~・・・せやけど・・・・・」
「さっきはヨーコにしか分からない俺の弱さをアイツのやり方で活を入れてくれた、それだけのことだ!だからこの話はこれで終わりだ、だからいつまでもお前もそんなこと気にするな!」
シモンはその言葉とともに立ち上がり木乃香の頭を軽く手で叩き。指を天井に向かって指した。
「下向きな時は上向きに!後ろ向きな時でも前向きに!暗い時でも明るく生きる!それでいいじゃないか!」
「シモンさん・・・・」
それだけ告げてシモンは会場の外へ向かった。
「どちらへ?」
「ヨーコのとこに行ってくる、帰ってくるまでに明るくなっていてくれよ」
シャークティの問いに簡潔に答え、シモンは控え室を後にした。
後に残されたネギたち。木乃香はシモンの言葉を少し真剣な表情で考えていた。刹那も同じような表情だった。
シモンは今では試合中の自分の弱さに対して引きずっている様子はなかったし、自分たちもそう感じたため、もうそのことについて話題に触れるものもいなかった。
しかしやりきれない思いもあった。
そして試合中にニアについて初めて知ったハルナもそうであった、
「そのさ・・・・木乃香も桜咲さんも・・・・その・・・ニアさんって人のこと・・・・知ってたんだよね・・・・」
「・・・はい・・・・修学旅行のときに私たちは知りました・・・・」
ハルナはいつものように饒舌ではなく、言葉の抑揚もなく少し暗かった
「いや・・・あのさ~、私も面白半分でからかってたけど・・・・・二人とも・・・・いやエヴァンジェリンさんも・・・・そのことを知ってても・・シモンさんを・・・その・・・・」
今まで木乃香たちのシモンへの想いをからかっていた節があったため、少し自己嫌悪に陥っていて柄にもなく少し黙り気味だった。
もっとも少し時間がたてば元に戻るのだが。今はそのことが気になっていた。正直試合でのシモンの豹変振りを見る限り、相当シモンはニアという女を愛していたことが痛いほど分かった。
もしそうだとしたら木乃香たちはどうなのか気になっていた。
「ウチも最初あきらめよう思っとったんよ・・・・・・シモンさんは絶対にウチを見てくれへん思て・・・・・せやけど・・・・」
木乃香はチラッとネギとのどかを見る。
「まだまだ片思いやけど・・・・・あきれめられんくて・・・・・シモンさんに告白したんや・・・・・まだニアさんどころかヨーコさんにも敵わんけどな~」
頬を人差し指で掻きながら、懸命に笑顔を作る木乃香。
しかしその笑顔はとても儚く今にも崩れそうな切なそうな笑顔だった。
その様子に夕映やのどかは涙を浮かべながら木乃香の手を掴み取った。
「私は・・・私は応援します木乃香さん!」
「私も!」
「はは、ありがとな~夕映、のどか~」
「僕もです木乃香さん!」
「当然私もよ!」
「うむ、がんばるでござる!」
「シモンさんを振り向かせるアル!」
「まあ、私は立場上応援せんが、せいぜいがんばることだな」
「このちゃん・・・でも・・・私は・・・う~・・どうすれば・・・」
まさに青春と呼べる光景が目の前で繰り広げられていた。
そのことに教師であるタカミチもシャークティも笑顔を浮かべていた。
「シモンさんは自分で不幸ではないと言っていました・・・・・」
「シャークティ先生?」
「ですが私は違うと思っていました・・・・ですが今・・彼女たちを見ているとその言葉に納得できました。」
この世界の住人でないのに僅かな間にこれほどシモンを慕うものが出来た。
それが不幸であるはずがない。
「幸せものですね・・・・彼は・・・」
「僕もそう思います。彼の言う明日へ向かうということは・・・そういうことなのかもしれませんね」
目の前の若者の強い想いにタカミチとシャークティは笑みを浮かべて見ていた。
控え室を後にしたシモンはヨーコを探すが、盛り上がった会場は人ごみで溢れているため見つけるのは困難な状況だった。
「やれやれ、昔っからアイツは勝手にどっかに行くんだな~」
八年前の螺旋王との戦いの後、ヨーコは新政府に残らずに「水に合わない」と言って勝手に消えてしまった。それはそれで彼女らしいと思った。
ヨーコに会いに行くとは言ったものの、会っても今は特に用事も無いし、正直少しどんよりとした空気から逃げ出したい口実だった。
ヨーコと少し話したいことも無くはなかったが、ヨーコはヨーコで独りになりたいのだろうと察し、無理に探そうとはしなかった。すると・・・・
「2回戦進出おめでとうございます」
後ろから声が掛けられた。振り向いてみるとそこにいたのはクウネルだった。
「クーネルさん?・・・・・アンタの試合は直ぐでしょ?小太郎と・・・。準備しなくていいんですか?」
「はい、特に準備も必要ありません。小太郎君では私に勝てませんから」
少し気に入らない物言いだがハッタリには微塵も聞こえなかった。
するとクーネルが小さく笑みを浮かべた。
「少しお話をしませんか?試合開始までもう少し時間があるようですし」
「何の話ですか?」
「世間話です♪」
正直クウネルの笑顔に胡散臭さを感じた。
しかしこの人物はネギの父親の仲間という噂もあるため、悪い人でもないだろうとも思った。
そしてシモンはあることを思い出した。それは美空とアスナとの試合の賭けだった。
結局有耶無耶になったが、勝てばサウザンドマスターの情報をもらえることを思い出した。
するとクウネルも最初からそのつもりで来たような様子だった。
「シモンさん、貴方はサウザンドマスターについてどこまで知っていますか?」
「エヴァ、学園長、あと詠春さんから大まかには、・・・・・・・似てないでしょ?俺とは全然・・・」
「ッ!?・・・・・・そうですね・・・・・たしかに・・・・似ていませんね」
クウネルは少し驚いたような表情をした。
どうやらクウネルの感じたことを、エヴァンジェリンや友の詠春までもが感じていたということになる。
おそらくタカミチもそうなのだろうとクウネルは思った。
そしてシモンの言葉も正しかった。正直シモンとナギは似ていない思う。しかし何故か重ねてしまう。
それがクウネルの感想だった。
それはおそらく多くのものを惹きつけるカリスマのようなもの。シモンがあれだけリングの上で弱さを露呈したにもかかわらず、立ち上がったシモンに多くのものが見入っていた。
自分もその一人だった。
出会ったときの直感が正しかったと思い、クウネルはこうしてシモンの前に現れたのだ。
「正直俺は魔法使いじゃないからな・・・・あまりネギのお父さんのことを聞いてもしょうがないけど、これだけは聞いておくよ。ネギは生きているって思っているみたいだけど、実際はどうなんですか?」
異世界の英雄、それがシモンのサウザンドマスターへの認識だった。完全に興味がないわけではない、会えるものなら会ってみたいという気持ちもあった。するとクウネルは頷いた。
「ええ、生きています。それは確実です」
「そうですか、それならいつか会ってみたいですね・・・・・」
「学園祭が終われば私のところへ来ていただけませんか?お茶会の場で彼について話します」
クウネルの誘い。どうやら詳しい話は全てが終わった後でネギたちを交えて教えてくれるようだ。
だがしかしシモンはこの誘いを断る。
「それは出来ない」
「?」
予想外の答えにクウネルは首を傾げるが、シモンにはどうしても外せない用事があるのだ。
それは一度元の世界に帰ってニアに会いに行くという予定だった。
結婚記念日に帰ることが出来ず、一年以上も墓をほったらかしにしていたシモンは、この学園祭が終わったらどうしても会いに行かなければならなかった。
「学園祭が終われば、しばらくある女に会いに行くつもりなんです。だからせっかくの誘いですけど俺は行けません。だから・・・もし教えてくれるのなら今教えてください。ネギたちには話さないから」
サウザンドマスターに興味もあるがニアと天秤にかけるまでもなかった。
もしこの場でクウネルが拒めばシモンは別にそれでもかまわないという態度だった。
クウネルにもシモンのその気持ちが伝わり、少し考え込んだがネギたちには話さないというシモンの言葉を信じて、話していくことにした。
「分かりました・・・・ではお話しましょう。まず彼は生きている、それは私が保証します」
断言するクウネルは数枚のカードを取り出した。
「これが証拠です」
持ち出したのは見覚えのある形のカードだった。
それはアスナや美空も持っているパークティーオのカードだった。
一冊の本を持ったクウネル本人と彼を螺旋状に取り囲むたくさんの本。
「これはサウザンドマスターと私のカードです。カードが死ぬとこうなります」
そう言って、もう一枚のカードをシモンに見せる。
もう一枚のカードはクウネル本人が描かれているが、螺旋状に取り囲む本が無くなり、簡単なものになっている。
「これが・・・「いやちょっと待って」・・・・?」
少し難しい顔をしてシモンがクウネルの話を止めた。
「俺は魔法使いじゃないからカードの機能とかよく分からないけど、今アンタはネギのお父さんとのカードって・・・・たしかカードって・・・・・キスしないと・・・・・」
「ふふふ♪」
――ゾクッ!
その瞬間シモンの体に悪寒が走った。少し気になるがこれ以上は知ってはいけないという直感が働いた。
「ごめんなさい、なんでもないです。話の腰を折ってすいませんでした・・・・・」
「おや、お聞きにならないのですか?残念です」
ニッコリと笑うクウネルの笑みに全身の鳥肌が立ってしまった。
とにかくこの男は危険だと察知した。
慌てふためくシモンを見て楽しむクウネルだった。
「まあそれはもういいから・・・・・、それでどこにいるんです?ネギの親父さん」
「そこまでは私も・・・ですが手がかりがあるとすれば・・・魔法世界、ムンドゥス・マギクスへ行くといいでしょう」
「魔法世界!?」
その言葉に聞き覚えがあった。
それは超が言っていた魔法使いたちが所有している異界にある国だと言っていた。
まだ見ぬ新たな世界。その言葉はシモンの好奇心を突付いた。
「いずれネギ君たちも行くはずです・・・・あなたもご一緒しては?」
「・・・・なぜ俺にそのことを?魔法使いでもないのに・・・・・」
「さあ、・・・・自分でもよく分かりませんが・・・・・そうしてほしいと思ったのです」
どうやらクウネル自身もなぜシモンにそこまで言うのか分からなかった。
しかしなぜかそんな気持ちになってしまう、不思議な感覚だった。
するとシモンはクウネルに背を向け歩き出した。
「まあ、そんな先のことより俺は今日と明日とその次の予定しか考えていない。魔法世界のことは・・・・手のかかる意地っ張りなお嬢さんと、俺を待っているお姫様との約束を終えてからだ」
そう、超とニア、決着と再会しか今のシモンには考えられなかった。
興味はあるがそれより先のことはその後考えるというのがシモンの気持ちだった。
「だがまあ、いつか行くかもしれませんね、決着をつけたい相手は他にも居ますから・・・・」
付け足すようにシモンは告げる。その言葉に少し興味を持ったクウネルはその相手について尋ねる。
「決着をつけたい相手・・・・・魔法使いですか?」
その言葉にシモンは頷く。この世界で二度戦い、魔法の脅威を見せ付けたあの白髪の男。
「フェイト・アーウェルンクス」
「なっ!?」
フェイトの名を告げたシモン。するとクウネルが珍しく驚いたような反応を見せていた。
シモンもその反応を意外に思い振り向くと、なにやら考え込んでいるクウネルがいた。
「アーウェルンクス・・・・それはまた・・・懐かしい名前ですね・・・」
「知ってるのか!?」
もっとも、あれだけ強かったのだから有名でも不思議ではなかった。
しかしクウネルの表情はそれだけではなかった。
するとクウネルは少しあごに手を置き何かを思い出しているかのような様子だった。
「昔・・・色々ありましてね・・・そうですか・・・・・やはりアナタは普通とは違うのかもしれない」
「?」
クウネルの言葉にどんな想いが含まれているかはやはり分からない、しかしどうやら自分のライバルは只者ではなかった事を証明されたような感じだった。
『では2回戦第一試合を始めます!村上選手!クウネル選手!リングまでお越しください!』
不意に朝倉の声が会場に響いた。その言葉を聞いて観客が歓声を上げる。
クウネルはローブをなびかせてシモンに背を向けた。
「それでは私は行きます、シモンさん・・・・・・またゆっくり話せるときを楽しみにしています」
「ああ、また」
ニッコリと笑みを浮かべてクウネルは一瞬で姿を消した。
結局肝心なことは何も分からなかったが、今はそのことを追及するのをやめた。
自分でも言ったとおり、まずはやるべきことをやってから今後のことは考えようと思った。
「さて・・・ヨーコもいないし、皆のところに戻ろうかな」
シモンも試合を観戦すべく、皆のところに戻ろうかと思ったが、後ろから急に声をかけられた。
「今のはどんな方法だ?人が一瞬で消えるなんてアリエネーだろ」
「?」
シモンが振り返るとそこにはメガネをかけた女生徒がそこに居た。
名前は思い出せない。しかしその顔には見覚えがあった。
そう、修学旅行のときに見たことのある顔、つまりネギの生徒だ。
「え~と・・・ごめん・・・確か名前は~・・」
「長谷川千雨です、まあ覚えてなくても仕方ないですよ、あの超人クラスではいたって普通の生徒ですからね。まあ久しぶりですねシモンさん」
名前を覚えていなかったことに特に咎めるような様子もない。
すると千雨は手元に持っているパソコンを開きおもむろにシモンに突き出した。
「修学旅行以来の人にイキナリこんなことを聞くのは変でしょうけど、もはやこの大会ツッコミ所満載すぎて・・・・・・、とりあえずこのパソコンを見てくださいよ」
千雨の言葉どおりパソコンの画面を見ると、この大会の一回戦の様子が映し出されていた。
この大会を映像に記録することは禁止されているはず。にもかかわらず、ネギや美空や自分の闘っている姿などが映し出されていた。
「これは?」
「ちょっと前から出回ってましたよ。今この映像に関しての話題がネット上で溢れてるんですよ・・・・それと同時に魔法という言葉まで話題となる掲示板で頻繁に使われているんです」
「!?」
「魔法」というキーワード、それで全てが理解できた。
超が魔法を公開する準備として打った手の内の一つであることがシモンにも予想できた。
すると千雨は全ての疑問を解消すべく、シモンに探りを入れる。
「正直この大会は皆スゴ過ぎて私は信じられません。大体子供のネギ先生があんなに強いのも・・・・何か秘密があるんですか?」
千雨はいたって真剣な表情だった。
今更CGや作り物と言っても納得しないであろうが、シモンにとっては今更だった。
むしろなぜ他の人間は気づかないのかと思えるぐらいだった。
千雨のこの世界では珍しい常識的な反応がむしろ新鮮に感じた。
「少し気になって私も魔法という単語を調べてみたんですが、出るわ出るわ『魔法』という単語の山!そう、よくよく考えればこの学園自体何かがおかしい!超巨大な世界樹や異常に多い留学生!ロボットまでクラスにいるし、そのことに誰も突っ込まないのが更におかしい!今まであえて黙っていましたが、もう我慢の限界だ!常識人の私はごまかせない!この学園はやはりおかしい!」
一気に熱くなり捲くし立てる千雨。
この学園の生徒になってから常に思っていた疑問を全てこの場で千雨はぶちまけた。
「・・・・・・大丈夫・・・・言いたいことはよく分かった・・・だから少し落ち着け・・・」
千雨のむしろ当然の疑問にシモンは簡潔に頷いた。その様子を見て千雨は軽いため息をついた。
「・・・・さらに今日の大会・・・・・こうなると『魔法』ってのもあながち・・・・・」
シモンの反応を伺うように千雨はシモンを見る。
もっともシモンは魔法使いでないためそれほど慌てることはなかった。
もし千雨が自分でなくネギあたりに聞いていれば疑惑がより深まっただろう。
シモンの反応に変化が無いことを感じ、千雨は自分の考えを否定しようとした。
「ふ~、まあ、こんなバカな考えは忘れてください、でも確かに今ネット上では大騒ぎですよ。まるで誰かがわざと「魔法」ってのを流行らせようとしているようで・・・」
「なあ、俺の試合についてはなんて書かれている?」
「え?当然魔法の単語のオンパレードですよ、変な光の渦がヨーコさんとシモンさんを包み込んで戦ってるシーンなど抜き出されてますよ」
「へ~・・・・」
映像を見せられると大声で叫びながら拳を交えあうシモンとヨーコの姿が映し出されていた。
特に最後の互いの螺旋力を解放して殴りあうシーンに、『魔法キター!』という単語がずらりと並べられている。
だが千雨の言葉を聞いてシモンは少し考えた。
少し常識から外れた力にせよ、自分の力もヨーコの力も魔法ではない。ならばこれを利用できないかと考えた。
このまま最終日までに超を泳がせておくのもつまらない。こっちも少しずつ攻撃を仕掛けようかと考えた。
「なあ長谷川、お前はパソコンを使えるのか?」
「はい?・・・・・まあ・・・・人並み以上には・・・かなりの腕前だと・・・」
「そうか、だったらこれから俺の頼みを聞いてくれないか?」
「は?・・・・頼みって・・・・・」
超の地道な作戦にシモンも動くことを決意した。
まずは超の「魔法」という単語に攻撃を仕掛けることにした。
だが今からこの話題を否定してもおそらく収まらないだろう。だったら「魔法」という話題をすりかえればいい。それがシモンの考えだった。
そこでシモンは千雨に協力を申し出た。
「俺の試合が一番新しいだろ?だったら俺の試合が話題になっている掲示板とか言うところである言葉を頻繁に使って書き込んでほしい」
「ある言葉・・・『魔法』じゃないんですよね・・・・」
「ああ・・・その言葉は―――だ」
「はあ!?そんな言葉打ち込んで意味あるんですか?まあ・・・・それぐらい構いませんけど・・・・」
シモンの言葉を聞いて少し首を傾げながら千雨はキーワードを打ち込んでいく。
すると千雨の表情が一瞬で驚きに変わった。
「なっ・・・・おいおいマジか!?」
シモンは千雨のパソコンを覗き込み現状を確認する。すると
「一瞬でその言葉が広がりやがった・・・すご・・・。私がどれだけ火消しをしてもすぐに話題が復活したのに・・・・」
シモンの作戦はうまくいったようだ。
たった一瞬で状況に変化が訪れたことに千雨は驚きを隠せないでいた。
「さっきの試合での観客の反応や、最近のクラスの奴ら見てて思ってが・・・・・シモンさんは本当に影響力のある人なんですね」
「そうかな?だが、これが反撃の合図だ!ここからは好き勝手にはさせないぜ」
千雨はシモンの顔をじ~と見ながら呟く。
一見特徴のある顔立ちではない、しかしその姿に多くのものが心奪われ影響されているのは千雨も気づいていた。
今時流行らないような熱血でダサくて、試合ではボロボロになり、挙句の果てにはリングの上で醜態晒していた。
その理由については分からないが、それでもあまり良い印象ではない。
しかし天に向かって指を指し、名乗りを上げたシモンに見入ってしまっていたのも事実である。
そして最後の攻防に自分も気づいたら手に汗をかいていたのも事実だった。
それゆえ最近の自分のクラスメートや担任がやけにシモンを慕っていることに分からなくもないような気がしていた。
「長谷川、また何かあったら教えてくれ!俺も少し色々動くことにするよ」
「ちょっ・・・なんで私なんですか?大体魔法なんて単語広がろうと私はなんとも思いませんよ・・・」
「どんな説明でも納得できないならお前は自分の考えを否定するよりも信じるほうを選べばいい、魔法が在るのか無いのか、お前の頭ん中での比率が大きいほうを信じればいい!」
シモンの頼み。そして言葉のうらに千雨は、魔法という言葉の肯定のようなものを感じていた。
シモンはハッキリとは言わないが、シモンの言うとおり自分の考えでは魔法肯定の比率が大きくなっているのも事実である。
「シモンさん・・・・じゃあこれだけは答えてくれ・・万が一、億が一、兆が一、魔法が本当に存在するとして、アンタは一体どっちなんだ?」
箒で空を飛んだり杖で呪文を唱えたりするのが千雨の魔法使いへのイメージである。
しかし目の前の男は人並みはずれた力を持ちながら明らかにかけ離れた存在だった。するとシモンは
「いいや違う。俺のは、気合!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
自信満々に言うシモンを見て、本当にシモンを信じて協力していいのか悩んだ。