魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第61話 告白剣

「奥義・・・斬鉄閃!!」

 

「怒涛大切斬!!」

 

 

互いの必殺技が繰り出されれば、一際激しい衝撃の嵐が吹き荒れる。

アナウンサーの朝倉もその衝撃に危険を感じ、いつの間にかリング下に避難を始めた。

その衝撃は当然観客席までも行き届く。

腕を顔の前に置き、しかしそれでも戦いを見逃さないように懸命に全員が顔を逸らさないようにしている。

 

「シモンさあああああん!」

「まだまだいくぞ、刹那ァ!」

 

刹那は技の出し惜しみはせずに、次々と一撃必殺の強力な技を繰り出していくが、シモンも一歩も引かない。

それは一部の人間から見て奇妙な光景だった。

なぜならシモンと刹那は単純なぶつかり合いで、まったくの互角の戦いを繰り広げているのである。

 

「神鳴流奥義・・・百烈桜華斬!!」

 

刹那も奇妙な感覚があった。

そしてそんな刹那が感じることを理解できたのはこの会場でタカミチ、エヴァ、シャークティ、龍宮、楓、そしてネギである。

 

「超時空烈斬!!」

 

刹那の技に負けずシモンも強力な力を振るい、再び互角のぶつかり合いをした両者の武器が互いを弾きあう。

この瞬間刹那も、そして他の者も、確信した。

 

(やはり・・・シモンさんは昨日より・・・先程までより・・・強くなっている! 一度打ち合うたびに・・・少し時が経てばその分強くなっている!?)

 

ドリル無しのシモンの力は正直なところ、自分やネギ達と比べて見劣りすると思っていた。

その証拠に昨晩の予選では、それなりの使い手とはいえ、自分たちよりも遥かに劣る豪徳寺に大苦戦の末に辛うじて勝ったぐらいのものだった。

しかし今は違う。自分と互角の戦いを繰り広げている。

しかも試合開始当時は互角とはいえ剣技のみにおいては自分が圧倒的に上回っていた。にもかかわらず今では自分と同等の動き・・・いや・・・徐々に力が増し、押されていくような感覚に陥っていた。

 

 

「どうした、もうへばってんじゃねえのか? まだあんまり語り合ってねえぜ! 」

 

「くっ・・・バカな!?」

 

 

当初は刹那のほうから攻撃を仕掛けていたが、少しずつシモンに形勢が傾き始めてきた。

 

「バカな・・・一撃の威力まで上がっている! これは・・・試合中に成長どころの話ではない、むしろ進化だ!」

 

これはもはや気合でどうこうのレベルではない異常事態だった。

裏の世界ではそれなりの実力者である刹那が、少しずつ、少しずつ圧されていく。

目に見えるほど急激に進化していくシモンに、戦っている刹那だけでなく、ネギやタカミチも純粋に驚愕している。

その答えを知っているのはこの会場ではヨーコ、そして超鈴音だった。

止まることの無い螺旋力の進化がシモンに力を与えていく。

そしてその力がやがてこの世界での戦士たちの常識という壁に風穴を開けていく。

 

 

「まだだぜ、刹那! まだ足りねえ! これじゃあ、俺は乗り越えられねえ!」

 

「まったく・・・本当に常識破りですね・・・、ですが・・・ですが・・・・私だって・・・・」

 

 

シモンからは一撃打ち合うたびにその熱い想いが伝わってくる。

だが、たとえシモンがどれほど進化しようとも、己も誓った言葉には嘘はつけない。

刹那は背中の羽にグッと力を込める。

 

「私も・・・このまま負けるわけにはいきません!! ネギ先生が、アスナさんが、美空さんが、その熱い想いを見せてくれたのです。 あの人たちの前で・・・お嬢様の前で・・・たとえアナタが相手でもこのまま終わりません!!」

 

そして刹那は翼を広げて再び上空へと高らかに飛んだ。

そして両手を広げて気の塊を飛ばし、これが数発当たり、シモンの体の体勢が崩れる。

 

 

「やべっ」

 

「好機!」

 

 

その瞬間を見逃さずに刹那は急降下し、シモンに向かう。

シモンも無我夢中でブーメランでなぎ払おうとするが、急降下したと思った刹那は翼を羽ばたかせピタリと空中で止まり、シモンの攻撃は空を切る。

そして刹那はスキだらけとなったシモンに容赦なく一撃を入れる。

 

「奥義・・・斬岩剣!!」

「ぐ・・・いっ・・・がはっ・・・・・」

 

その一撃は完全に直撃した。

シモンのわき腹が破壊されたかのような激しい音を立てて、シモンは激しく飛ばされる。

 

『桜咲選手の華麗なる舞による一撃がとうとうシモン選手を直撃~~! しかし桜咲選手は本当に翼が生えているのでしょうか? アナタの正体はひょっとして天使ですか?』

 

わき腹を押さえて表情を苦悶で歪めるシモン。

翼を開放した刹那の動きは実に鮮やかである。

そしてシモンが顔を前へ向けた瞬間、刹那は既に空高くに舞い上がっていた。

彼女が手にもつデッキブラシには実に激しい光がスパークして覆っている。

 

「ったく・・・それアリなのか? さすがにそれは誤魔化しきれないんじゃないか?」

 

空を見上げてシモンは呟く。

しかし刹那はニッと笑い、シモンを見下ろす。

 

「シモンさん・・・これが今まで私が死に物狂いで磨き上げた剣の道・・・即ち・・・私の魂です!!」

 

上空に舞う刹那は、静かに己の気を溜めて、目を瞑りこれまでのことを思い返しながらシモンに語りかける。

その手に持つ己の武器に溜まる光はとどまること無く激しさを増していく。

そして限界地点になった瞬間、刹那は目を見開いた。

 

 

「神鳴流決戦奥義!!・・・・」

 

 

大気を震え上がらせるほどの異常に高ぶった気を抱え、刹那はシモンに向かって攻撃しようとする。

 

「イカン!? 刹那君、それはやりすぎだ!!」

「こらーー! 刹那ーー、そんな大技やったら会場が吹き飛ぶぞぉーーー!!」

 

エヴァとタカミチが刹那の技の威力を瞬時に察して、慌てて叫んで止めようとするが刹那は止まらない。

タカミチとエヴァの声を聞いてネギたちも慌てて刹那に向かって叫ぶが、今の刹那には聞こえない。

今の刹那の瞳にはシモンしか写っていなかった。己の一撃でシモンを倒す。

しかしその瞬間、シモンはわき腹を押さえながら立ち上がった。

 

「すごくキレイだ・・・だがまだ足りない・・・なぜなら・・・魂、気合、俺にはもう一つ他の力があるからだ!」

 

傷つきながらも叫ぶシモンの体から、再び螺旋力が光りだす。

全身に輝く気合を覆ったシモンは下降してくる刹那に向かって腕を思いっきり伸ばした。

そしてその腕からシモンの螺旋力が刹那に向かって伸びた。

 

「なっ!? こ・・・これは!?」

 

シモンの腕から伸びた緑色の光は突如ロープ上の形になり、刹那の身体をぐるぐる巻きに拘束し、身動きを取れなくした。

 

(な・・・なんだこれは!? シモンさんには・・・こんな技もあるのか?)

 

翼ごと自分の身体を封じるシモンの力。

ありえないことをいつでもやり遂げるシモンだが、さすがにこの事態は予想もしていなかった。

拘束されて動揺する刹那に向かってシモンは叫ぶ。

 

 

「お前の魂と気合は中々だ・・・でも・・・それだけじゃダメだ・・・お前にはまだ欠けているものがある!」

 

「なっ!? 私に欠けているもの? ・・・修練の数? 潜ってきた修羅場の数? それとも・・・背負っている物の差? ダメだな・・・私は・・・ありすぎて検討もつかない・・・・」

 

 

シモンに指摘されて刹那は拘束状態でありながらも考え込んだ。今の自分に足りないものは何か。

上げればそれは限がない物だった。

だが、シモンの答えは自分のまったくの予想外のものだった。

 

 

「お前に足りないもの・・・それは・・・愛だ!!」

 

「「「「「「「愛!?」」」」」」」

 

「愛!? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

シモンは拳をグッと握り締め、自信満々に叫ぶ。

一瞬時が止まったかのように会場が静まり返る。

観客も、ネギたちもポカンと口をあけて呆けてしまった。

刹那も一瞬呆けてしまったが、シモンの言葉の意味が分かり大声を上げてしまった。

 

「・・・・えっ?・・・・・ええええええええ!? ちょっ・・・・シモンさん、イキナリ何を! だだ・・・だいたい愛は関係ないではありませんか!」

 

その言葉にリングサイドで頷くものと首を横に振るものも居る。

 

 

「いや~~、刹那さんの言うとおり関係ないでしょ・・・・」

 

「なに言うとるん、アスナ! シモンさんの言うとおり愛は無敵や!」

 

「さすがシモンさんです! 哲学者だったおじい様も言っていました! 愛を知らぬ者が本当の強さを手にすることは永遠にないであろう、それを知るシモンさんこそ真に強い方です!!」

 

「う~む・・・愛アルか~~、私そんな経験ないアルヨ~~、では私は強くなれないアルカ?」

 

 

夕映と木乃香は愛を叫ぶシモンに目を輝かせて、尊敬の眼差しを送る。

ネギもシモンの言葉だったため、真剣にメモをとっていた。

そしてリング中央で刹那を見上げながら、シモンは語る。

 

 

「刹那・・・覚えておけ、愛と気合の力は宇宙を・・・そして運命すら変える力になる。そして人はその力を抱えてどこまでも強くなる!」

 

 

そしてシモンは己の手から伸びる螺旋力で出来たロープを両手で掴み、勢いよく上空で大きな円を描くように回す。

 

 

「それをまだ知らないお前みたいなガキには、俺を超えることは出来ない! ヨーコと戦い・・・それを思い出した今の俺は誰にも負けない!」

 

「うあぁ!」

 

「くらえ!! 俺の嫁は~~~、宇宙一スイング!!!!」

 

 

学園の中心で愛を叫ぶシモン。

その叫びはまるで銀河の果てまで響くほどの大きさだった。

あまりにもバカ正直に叫ぶその姿はむしろ清々しく、多くのものを引き込んだ。

 

「そん、な、簡単にいかせません!」

 

だが、投げ飛ばされそうになった刹那はこのままでは終わらない。

彼女はなんと全身に気を集中させ、シモンの螺旋力の拘束から逃れた。

 

「なっ、逃れただと!?」

 

さすがに拘束を破るとは思わなかったために、シモンも一瞬驚愕して刹那を見る。

すると上空で自由になり羽ばたく刹那の顔は少し怒っているような表情だった。

 

「愛・・・ですか・・・ほう、シモンさんは私には愛が無い・・・・そうおっしゃるのですね・・・・」

 

その言葉には少しトゲがあった。

目じりを少しピクピクさせながら、刹那は出来るだけ穏やかな声で言おうとしている。

だが、その心は穏やかではなかった。

 

 

(この人は人の気も知らずに~~~! たしかにシモンさんにとって私は恋愛対象外なのでしょうけど、そこまで言うなんて酷過ぎます! たしかにシモンさんにはニアさんへの想いがありますし、ヨーコさんと比べても精神的にも肉体的にも私は子供ですが・・・・それでも・・・それでも・・・私は・・・・)

 

 

愛が足りない。そう言われた刹那だったがその言葉を考えれば考えるほど胸がムカムカして来た。

 

 

(確かに私は・・・・愛を知りませんけど・・・似たような感情なら現在進行形で・・・なのにこの人は私の気持ちを知るどころか・・・まったく愛が無いなどと・・・、たしかに私はこのちゃんのように告白はしていませんけど・・・少しくらい・・・少しくらい・・・察してくれてもいいではないですか!!)

 

 

ゆっくり地上に降り立った刹那は、この微妙な嫉妬とやるせない想いが今まで悩んでいた分、沸々と湧き上がってきた。

 

「・・・おい・・・・刹那?」

 

相変わらず鈍いのか鈍くないのかよく分からないこの男を、刹那は思いっきり睨みつけた。

 

 

「ええ・・ええ! たしかに失恋や結婚経験や告白されたりのシモンさんのような恋愛経験豊富な方から見れば私は愛も知らぬ子供に見えるでしょうねぇ!このちゃんの告白は断ったくせに・・・アナタは公衆の面前でヨーコさんに告白しますし・・・、いつもアナタはニアさんとヨーコさんばかり! 人に愛の重要性を語っておきながら、自分に向けられる好意は受け入れない、・・・そんなのあんまりです!」

 

「・・・・刹那?」

 

「まったくあなたという人は~~、柔軟な思考なのか、それとも頑固なのか・・・・愛を知りながら・・・恋に疎い・・・・本当にヤキモキさせる・・・」

 

 

少し涙目になりながら刹那は武器を構えている。

肩で息をしながらその瞳はシモンを見つめている。

だが一頻り子供のように叫んで心も少し落ち着いてきた刹那は、シモンの顔をジッと見ながら己の心と相談する。

 

(愛・・・か・・・たしかに私の想いは胸に秘めているうちはまだ・・・恋の領域・・・、シモンさんとニアさんに敵うはずも無い・・・ですが・・・それに少しでも対抗しようとするのなら・・・私も・・・土俵に立たなくてはならない・・・)

 

いつも自分の心を乱すのも落ち着かせるのもシモンは容易くしてしまう。

たしかにこれまで自分はシモンに対する感情を出来るだけ見せないようにして来た為、シモンが自分の気持ちに気づいていないのも無理は無かった。

だが、それではおもしろくない。

そこで刹那は木乃香の顔をチラッと見る。

そして木乃香に言われたことを思い出した。

 

(想いを押し殺して遠慮するのが嫌・・・そう言われたんだったな・・・私は・・・。でも私は今日誓った・・・剣の道も・・・幸福もあきらめないと・・・ならば・・・)

 

目じりに溜まった涙を軽く拭い、刹那はあることを思いついた。

それは考えただけでも恥ずかしい行為。

しかしこの程度を出来なくて自分がこの先進む道に立ち向かえるはずはない。

 

(このちゃん・・・ウチは言うよ・・・このちゃんにも遠慮はせん、自分の気持ちを正直に伝えるよ・・・)

 

刹那は二、三度ほど深呼吸をして自身を落ち着かせようとするが、それでも顔はどんどん赤くなる。

心臓の音も激しく鳴る。

それでも自分の成すべきことをするために、懸命な笑顔をシモンに向けた。

 

 

「分かりました・・・私に愛が足りないと言ったのはアナタです。ならばその欠けているものを今解消させます! アナタの所為なのですから責任とってもらいますよ!」

 

「えっ? はっ? おいおい、何する気だ?」

 

 

刹那のその笑顔にはほんの少しだけイタズラめいた表情が混じっていた。

 

(少しぐらい私の言葉に取り乱して欲しいものですね・・・ふふ・・・シモンさんはどんな反応をするのでしょう・・・。ですが・・・たとえどのように取り乱しても、最初から答えなど分かっている・・・。しかし・・・宮崎さんやこのちゃんのように・・・私も・・・。そうだ・・・・私は剣と幸せをあきらめないと誓った・・・・ならば・・・答えがたとえ分かっていても・・・立ち向かわねばならない!)

 

気を高め、刹那はシモンに向かって口を開く。

 

 

「今からアナタに見せる技・・・これは東大へ行って剣も勉強も恋も極めようとした伝説の神鳴流剣士の技・・・これを・・・アナタにぶつけます!!」

 

「はっ? トウダイ?」

 

 

一瞬訳が分からずに聞き返すシモン。

しかし今の刹那の態度と少し顔を赤らめている表情から、彼女の友はあることに気付いた。

 

 

「ま・・・まさか、せっちゃん・・・」

 

「ウソ・・・いくらなんでも刹那さんが・・・・だってこんな大勢の人前で・・・まさか・・・」

 

 

彼女の胸に抱いた想い、彼女達は皆知っている。

そして刹那は今その想いを剣に乗せて伝えようとする。

 

 

「シモンさん!! よく聞いてください!!」

 

「えっ?」

 

 

顔を真っ赤にしながらも刹那は武器を振り上げ物凄い勢いで向かってきた。 

 

 

「はあああああああ!! 私は・・・・アナタのことが!!」

 

「なっ・・・・・お前何イキナリ言い出す気だよっ!!」

 

 

シモンも反撃すべく武器を振り下ろすが、その強力な一撃を刹那は力づくで受け止める。

 

 

「なっ!?」

 

「気合と魂・・・そして愛、全てを補った私の剣は易々とは折れません!!」

 

 

今にも折れそうな刹那の武器。

しかしどれほどの衝撃を受けようとも決して折れずに今でも刹那の想いを宿し闘う意思を捨てない。

 

(言うんだ・・・言うんだ・・・このちゃんにも誤魔化さないと言った・・・何も恥じることなど無い・・・この気持ちを・・・この気持ちを言うんだ!!)

 

そして鍔迫り合いの中、ゆっくりと刹那は顔をシモンに近づけていく。

 

 

 

「す・・・・・好きですーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

震える唇、沸騰する顔、しかしそれでも募り募った想いを止めることは出来ずに、今・・・全てをぶちまける。

 

 

「なっ、○×A□B~~~!?」

 

「「「「「「いっ・・・・・・言った~~~~~~!」」」」」」」

 

『な、・・・・なんと衝撃の展開! 桜咲選手による必殺告白剣!! シモン選手が一瞬で石化した~~~っ!!』

 

 

完全に石化して固まってしまったシモン。

予想したものの刹那の行動にアスナたちも固まる。

余りにも大胆に告げた刹那の告白に観客も顔を赤くして固まる。

 

「あっ・・・・あの・・・・え? え~と・・・・あの・・・・(えっ? 好きって・・・・俺のことを? 刹那が・・・いや・・・そんなそぶり全く・・・いやいやいや、そんなことは在り得ない、だいたいアニキと違って俺が女にもてるなんて・・・はっ!? まさかここは多元宇宙か!? だって・・・こんな・・・)」

 

木乃香から告白された時それほどシモンは取り乱したりせずに冷静だった。

それはあの場の雰囲気というか、そのような空気が流れていたため自分の心の準備も出来ていたため、冷静に対処できたからである。

しかし今はまったくの予想外の事態に頭が混乱してしまった。

これまで微塵も恋愛対象として見ていなかった少女が顔を真っ赤にしながら自分を好きだと叫んだ。

そして想いを叫んだ刹那は再び武器を振り上げ石化状態のシモンに襲い掛かる。

 

 

「ふふ・・・とうとう言ってしまいました。私だって・・・私だって女ですよ! シモンさん・・・これもアナタの所為なんです。アナタが私を変えてしまった・・・異性に惹かれるということも生まれて初めて経験しました!! これでも私に愛が足りないと仰るのですか?」

 

「ちょっ・・・・・ちょっと落ち着け、刹那! 俺には・・・その・・・・ニアが!」

 

 

襲い掛かる刹那を見て慌てて正気に戻ったシモンは、間一髪のところで刹那の攻撃を受け止める。

そしてニアの名前を口にする。

だがその瞬間刹那の目から涙が溢れ出す。

 

 

「知っています・・・だから・・・だから言うつもりなんてなかったのです! 答えなんて最初から分かりきっていたから・・・しかし・・・しかし・・・・・・それでも好きなんです!!」

 

「!?」

 

「苦しかったです・・・なぜなら・・・アナタはこのちゃんの想い人・・・それだけではなく・・・今でも一人の女性のことを想い続けている・・・私の心など入る隙間が無いほどに・・・」

 

 

剣を打ち合いながら己に溜まった感情を涙ながら明かして行く刹那。

 

『おお~っと、何やら色々とあったようですが再び戦いが再開されました! しかし常に冷静な桜咲選手が物凄いぶちまけ度です! シモン選手が後退していきます』

 

それは周りのものは顔を赤くしてしまうぐらい切なく、単純な感情だった。

 

 

「もしアナタが無自覚なのだとしたらヒドイです! 修学旅行の日から行き場を失った私の想いを・・・アナタはとるに足らぬものとして見ている・・・ 奥義・・・斬鉄閃!!」

 

「くうっ!」

 

 

いつもの刹那らしからぬ暴力的な剣。

しかしそれは荒々しい言動とは裏腹に、実に洗練された動きだった。

シモンもかろうじて直撃を防ぐものの、刹那の攻撃の手は止まらない。

だが、シモンも打たれっぱなしではない。

 

 

「刹那、確かにお前の想いを知らなかったのは本当にすまないと思っている・・・だけど・・・その想いに負けるほど・・・俺の想いだって弱くねえんだよぉ!!」

 

 

シモンも反撃をする。

これで何度目の攻防かは分からない。

しかしそれでも二人は疲労を見せることなく互いの想いをぶつけ合う。

 

「ですがアナタも少しは・・・人の気持ちも察してください!! 神鳴流決戦奥義!!・・・・」

 

再び大気を揺るがす強大な気。先程は不発に終わったが直撃すればひとたまりも無いほどの力が刹那を覆う。

対してシモンは先程と同じ手は使わない。

何を思ったのか正面から受ける構えである。

 

「察しろ・・・か・・・本当にそうだな・・・でも・・・そいつは無理だ・・・、今のお前みたいに周りが見えなくなるのが恋・・・。それが進化した姿が愛だ!! そして・・・その究極の姿こそ俺のニアへの想いだ!」

 

その瞬間今日一番の螺旋力の光がシモンを包み込み、強大な光の柱となり天を突く。

 

「私だって・・・勇気をくれたアナタが・・・誰よりも勇敢で・・・・誰よりも熱く・・・例え弱さを持っていても・・・その弱さに負けずに何度でも立ち上がるアナタが・・・ずっと・・・ずっと好きだったんです!! 私は・・・私はヨーコさんと比べたら子供ですけど・・・本気なんです!!」

 

途中から涙を流しながら胸に秘めた想いを明かす刹那。

観客も、そして木乃香たちも、恥も外聞も捨てて叫ぶ少女の切ない想いに涙が湧き上がってきた。

だが、それでも答えは決まっている。

それは刹那自身が言っていたことである。

刹那の想いが真剣だからこそ、シモンも己の想いに嘘を付くわけにはいかない。誤魔化す訳にもいかない。

天を見上げて自分を好きだと叫ぶ少女に自分の気持ちを伝える。

 

 

「悪いな・・・俺の想いは今でもこの無限の銀河を包み込む! 刹那・・・お前の気持ちは理解した。だが受け入れるわにはいかない! 愛の大きさじゃあ俺はまだ誰にも負けない!!」

 

 

強大な雷を覆った刹那に向かってシモンも螺旋力を全開にして飛び掛る。

 

 

「刹那ぁ! ・・・・ゴメン!!」

 

「ううっ・・・シモンさんの・・・・シモンさんのバカーーーー!!」

 

 

そして両者にとって現時点最強の一撃がぶつかり合う。

 

 

「真・雷光剣!!!!」

 

「超銀河大切断!!!!」

 

 

二人の想いが膨大な光と音を発生させ、二人の姿を包み込んだ。

会場のものが目を覆う。

まさに全てを出し尽くすと呼ぶにふさわしいほどの熱量がぶつかりあった瞬間だった。

 

「刹那ァァーーー!!!!」

 

魂と気合と愛がぶつかり合う。

そしてこの勝負を制したのはその全てが上回った方であった。

胸に宿す魂、湧き上がる気合、秘めた想い、その全てが交わり己の振るう武器に捻じ込んだ者が、この最後のぶつかり合いを勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・くっ・・・・・・こ・・・・・ここは?」

 

意識がハッキリしない。体に力が入らない。当然である。

あれほど巨大な力を出し切ったのである。

体が言うことを利かなくても不思議ではない。

そんな彼女にとって唯一正常に働いている器官は瞳だけだった。

その瞳に写るのは自分の額に手を乗せながら魔法で自分に治療を施している木乃香の姿だった。

 

ここは大会控え室。

どうやら自分は技を出し終わった後に気を失い、木乃香に膝枕をされながら治療されているようだ。

 

膝枕?

 

その瞬間意識が完全に覚醒した。

 

 

「お・・・おお・・・・お嬢様!?」

 

「あっ、せっちゃん目ぇ覚めた?」

 

 

ニッコリ笑って自分を見る木乃香。どうやら自分は木乃香に看病されていたようである。

自分の周りを見渡すと、そこにはネギやアスナたちもいる。

皆自分の側にいてくれたようである。

少しずつ意識がハッキリしていった刹那は、あることを思い出した。

 

「あの・・・・試合は? ・・・・・その・・・・シモンさんは・・・・・」

 

その言葉を聞いてエヴァがニヤニヤしながら目の前に現れた。

 

「くっくっくっ、フラれたキサマの負けだ。あれだけ大勢の前でみっともない姿を晒すとはな、傑作だったぞ」

 

意地の悪い笑みを浮かべながら結末を告げるエヴァ。

その言葉を聞いてアスナが咄嗟にハリセンを出し、問答無用でエヴァを殴り飛ばし、二人の口論が控え室に広がる。

だが、エヴァの言葉だけが頭に入り刹那は苦笑しながら軽くため息をついた。

 

 

「あの方は本当に私の予想などを遥かに上回る方だ・・・想いも・・・魂も・・・そして強さでも・・・、私などが太刀打ちできる相手ではなかった・・・」

 

 

ガックリと肩を落とす刹那。

自分が決して譲れなかった強さにおいてもシモンには敵わなかったのである。

・・・・だが・・・刹那の目は失意の目ではなかった。新たなる決意が宿っていた。

 

 

「また・・・明日から気を引き締めねばなりませんね。このまま腐ってはあの人に申し訳ない」

 

「せっちゃん!」

 

「お嬢様・・・・いえ・・・このちゃん、ウチは大丈夫。もう・・・自分を押し殺したりなんてせん、強くなる・・・・そして・・・このちゃんたちといる今の幸せも絶対に守る!」

 

 

決意は既に述べた。あとは行動するのみである。

たとえ敗北しようとも刹那はすぐに立ち上がり前を見る。

その瞳と笑顔を見て、木乃香も歓喜の余り飛びついた。

一瞬頬を赤くした刹那だが、黙って自分の胸に飛びつく木乃香の腰に腕を回した。

そして、今ある幸せを噛み締め、絶対に守り抜くことを誓った。

皆暖かい目で二人を見守る。

すると刹那があることに気付いた。

それはシモンの姿がこの場にいなかったことである。

 

 

「あの・・・シモンさんは?」

 

「兄貴ならもう行っちゃったよ~。刹那さんと顔合わせづらいんじゃない?」

 

「えっ・・・・・・あっ!! ・・・そそ・・そうでした・・・・・私は・・・い・・・勢いに任せてあのようなことを・・・・」

 

 

美空に言われて刹那は思い出した。

自分が思わず告白してしまい、子供の様なみっともない姿を見せてしまったことを。

 

 

「あのような子供じみたことを・・・シモンさんも私に幻滅されたでしょうね・・・」

 

「でも、せっちゃんも可愛かったな~。あれぐらいストレートのほうがシモンさんにはええと思うな~」

 

 

思い出しただけでも頬が沸騰しそうだった。

別に後悔はないのだが、冷静に考えると自分はとても大胆なことをしてしまったのだと、急に恥ずかしくなった。

シモンが自分と顔を会わせづらいのは仕方のないことである。

 

「たしかに・・・本屋ちゃんや木乃香にも負けないぐらい大胆だったわよ、刹那さん♪」

「フン、だがフラれたのだから恋の道はあきらめることだな」

「それを言ったらアナタもですよ、エヴァンジェリン」

「なぁっ!? シャークティ~、私はフラれたわけではない! まだ保留だ!」

 

告白などせずともシモンの答えなど分かっていた。

しかしそれでも立ち向かう木乃香に今日自分の気持ちも同じであることを教えた。

そのことに対して木乃香も何のわだかまりも無く頷いてくれたことに、刹那もかなり恥ずかしかったが、今では妙に清々しい気持ちであった。

 

「そんで~、桜咲さんはどうすんの? 木乃香同様あきらめないの?」

 

ハルナが興味心身に聞いてきた。

とりあえずフラれたわけだから、このまま自分の想いはあきらめるのは普通なのだが、シモンの場合は独り身のため、この先まだ可能性がゼロでないことは明らかだった。

 

「さあ、・・・どうでしょうね・・・・・・」

 

すると刹那は少し目を瞑り考えた。

だが、今はこれ以上どうしようという気にはならなかった。

思いっきり告白してフラれたため、まだ先のことは考える気にはならなかった。

 

「まあ、・・・・私は自分のペースでやっていきます。まずは未熟な己を鍛え上げることが重要ですから・・・。あそこまでキッパリとフラれたのですから、今は自分を磨くことに集中ですね」

 

そう言って刹那は笑った。

まだ恋の道はどうするかは分からない。それでも刹那は成長することを誓った。

ハルナも最初はからかうつもりで聞いたのだが、刹那があまりにも真剣な目で答えたため、それ以上聞くことはしなかった。

木乃香やアスナ、そしてエヴァも刹那の答えに納得して頷いた。

 

 

「ほかほか、せやけどウチらもとんでもない人に惚れてもうたな~~せっちゃんは『ゴメン』・・・で、ウチの告白には『ヤダ』・・・やった人やからな~~」

 

「そうね~、木乃香たちも生半可な気合じゃあ勝てないわね~、まあどっかの天才少年みたいに、シモンさんは告白の答えを有耶無耶にしなくていいんじゃない?」

 

 

そう言ってアスナはチラリとのどかとネギの二人を見た。

 

 

「えう~~、そう言われましても・・・僕にはまだ分からなくて・・・・」

 

「あう~~、わた・・・私もまだ答えは・・・・それに・・・・」

 

 

一斉に視線が集まり狼狽する二人。そしてのどかは告白を断ったシモンの一言を思い出す。

 

 

(もしネギせんせーに・・・・あんなハッキリと断られたら・・・・生きていけないよ~~~~。でもネギせんせーはシモンさんに影響されてるし・・・もし『ヤダ』なんて言われたら・・・う~~~~。)

 

 

涙目になる二人を見て、そして今この場にいない男のことを思い、皆笑う。

もうここには刹那にも木乃香にも何のわだかまりは無かった。

そしてシモンがこの試合で進化したのなら、刹那自身もこの試合を経て大きく成長したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々とあったが激戦の末、シモンは準決勝進出を決めた。

これで大会もいよいよ終盤に差し掛かりベスト4が決まった。

そしてこれがその組み合わせである。

 

 

長瀬楓 VS クウネル・サンダース

 

ネギ・スプリングフィールド VS シモン

 

 

だが戦いを忘れて談笑する彼らは、この時はまだ誰も気付いていなかった。

本人も気付いていなかった。

今共にこの場で笑う少年、彼は次の試合でシモンと戦うことを、すっかり忘れていた。

 

 


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