魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「む~~~~、・・・う~~~~む・・・・」
会場近くの薄暗いラボ、ここで超鈴音は大会の映像とパソコンの画面両方を見ながら唸っていた。
「うわあ、凄いことになってますね~~、最早ネット上で魔法が全く相手にされてません・・・。美空さんの試合から気合の単語の嵐です・・・」
ハカセがむしろ感心したような声を上げる。
当初気合という単語をシモンがネットに広めようとした時は、それほど脅威に思っていなかった。
自分達のプログラムを信じていれば盛り上がりも一時的、直ぐに魔法の話題が復活すると思っていた。
しかし一般参加者の興味はすでに気合に移っていた。
そもそも魔法とは世間一般から考えて、ひ弱な者が小さな杖から魔法を使う、というイメージである。
ゲームにおいても魔法使いはそれほど熱血な部類には入らない。
そのため美空やシモンの姿は魔法使いとはかけ離れていたため、魔法という言葉を人々は連想しなかった。
「う~~む、しかし刹那さんはどうネ? 彼女は魔法使いではないガ、翼を出したり雷を出したりで、到底気合と呼べる部類ではないネ」
先程の戦いにおいて刹那もそれなりの反響を呼んだ。
人並み外れた力を持ちながら、美空とは違い気合と呼べるほど熱血の少女ではない。
一種の期待を込めて超はハカセに尋ねる。しかし・・・
「あの・・・桜咲さんの力は・・・ネット上の意見によると・・・魔法でも・・・気合でもありません・・・・」
「なに!? では一体何カ?」
するとハカセは少し顔を赤らめた。
人の心を科学に売ったマッドサイエンティストだが、この単語を口にすることの恥ずかしさはまだ残っていた。
「あの・・・あ・・・愛の力・・・だそうです・・・・」
「・・・・・・・・・は?」
さすがの超も固まってしまった。
「あ・・・愛? ・・・いや・・・たしかにシモンさんも愛がどうとか叫んでいた上に、刹那さん告白までしたガ・・・・・」
またもやここに来て予想外の事態に陥ってしまった。
この学園祭を迎えるまでに、今日まであらゆる妨害に対応できるほどの準備をしてきた。
特にこのネットによる世論の浸透は、魔法公開に欠かせない役割を秘めている。
しかし自分の仕込んだプログラムがまったく意味も成さずに、気がつけば魔法という言葉が忘れられている。
さすがの超も空いた口が塞がらなかった。
「す・・・スゴイですね~~、シモンさんの気合がオンラインで感染してます・・・魔法の単語を掲示板に打ち込んでも・・・」
ハカセがパソコンに単語を打ち込んでいく。すると・・・
「え~~、すぐレスが来ました・・・人の力は愛と気合が源・・・だそうです・・・。どうします?」
「ぬぬぬぬぬ~~~~、腑抜けた人間の多い現代社会でなぜ今更気合が普及するネ!?」
まるでお手上げといったような表情で画面を超に見せる。
超も唸りながら考える。
別にまだ手が無いわけではない。これはあくまで自分の計画のための下準備にしかすぎない。
だが、だからこそ超も不安に駆られる。
シモンとの決戦は明日。言うなればこれはほんの前哨戦にしか過ぎないものである。
しかし入念な準備を重ねて実行した自分の行動が、いとも簡単に追い詰められている。
別にシモンをナメていたわけではない。
彼女が見誤ったのは、美空を初め、観客や、ネット上でも蔓延するグレン団の影響力だった。
超は爪を噛みながら少し苛立っていた。
だが、この状況がうれしくもあるという複雑な感情もあった。
「とりあえずネギ坊主とアルビレオ・イマの二人がまだ残っている。アルビレオはサウザンドマスターの仲間・・・ならばネギ坊主の経歴を公開して世論の関心を向けさせるネ・・・」
「わかりました。・・・でも・・・次の試合でシモンさんが勝ったら意味なくなっちゃいますよ?」
「それでも何もしないわけにもいかないネ」
超の少し弱気な姿だったが、ハカセは黙って頷き自分の仕事をしていく。
一方その頃、会場から少し離れた場所。
会場へ繋がる通路の天井に、二人の女と一匹の小動物が片方の女の胸の谷間に座り込んでいた。
「誰も来ないわね~~~」
「ぶう~~~」
欠伸をしながら座り込むヨーコ、彼女はネギたちともシモンとも一緒に居ないで、少し会場から離れた場所にブータといた。
ヨーコがシモンたちと一緒に居ないのには大した理由など無い。別にシモンと顔が合わせづらい訳でもない。
ただの何となくだった。ここらへんの自由奔放な性格は昔から変わっていなかった。
いつもシモン共に行動しているブータも、この時ばかりは一人でいなくなったヨーコが少し心配で、一人だけ彼女の後を追っていた。
それはいらない心配だったのだが、今は彼女と共にこの場に残っていた。
そんな一人と一匹を見てもう一人の女がため息をつきながら口を開く。
「まあ、私は仕事が無い分楽でいいが・・・、それより・・・いつまでココに居る気だい?」
「別にい~いでしょ~、お互い一回戦敗退同士邪険にしないの」
「まったく・・・まあ、仕事の邪魔にならなければ・・・、しかし妙だな・・・本当に誰も来ない・・・」
龍宮は仕事が無さ過ぎることに少し首を傾げた。
龍宮の仕事はチケットを持たない者が進入することを防ぐ役割だった。
それを指示したのは超。
ネットで魔法を騒がせておけば、当然魔法先生たちの耳にも入る。
会場は入るまで長蛇の列。しかもチケットは入手困難。
魔法先生たちが会場に辿り付くとしたらこの道を通過するはずだった。
しかし大会が終盤に差し掛かっても一向にその気配を感じられなかった。
だが彼女は知らなかった。
すでに大会へのネット上での関心は魔法から気合に移っているということを。
それゆえ魔法先生たちが目くじら立てて、ただでさえ人員が少ない上に、会場にはすでにタカミチやシャークティも居る場所に増員を送る理由など無かったのである。
それゆえ龍宮は完全に暇を持て余しており、唯一来たヨーコと談笑していたのである。
「まあ、いいじゃない、観客席は騒がしいけど、ココは特等席よ」
会場は人が多く少し騒がしかったうえに、この大会で自分にも多くのファンが付きまとい有名人になってしまったヨーコは、それから逃れるために当ても無くブラブラしていてココで龍宮と会った。
「たしかに・・・しかし刹那がシモンさんに負けるとはな・・・。まさかあの人があれほどとは・・・」
先程まで眺めていた戦いを思い出し、龍宮は少し意外そうに答えた。
彼女は予選会でシモンの力量はある程度理解していた。
しかし戦いの中で急激に進化していくシモンに脅威を感じていた。
「アイツはいつでもあんなもんよ。私としては刹那の告白のほうが印象的だったけどね~」
「ぶ~う」
ヨーコとブータは違った。
なぜならそれがシモンなのだと骨身に染みて理解していたからである。
むしろ彼女達にとっては進化しないシモンの方が有り得ないのである。
「あれが・・・当たり前・・・ふふ、超もとんでもない人達を敵にしたものだな・・・」
シモンのあの急激な進化を当たり前と言ってしまう目の前の女も、龍宮から見れば脅威に思えた。
龍宮も暇だったためヨーコとブータ遠ざけるようなことはしなかった。
他愛の無い雑談をしながら時間を過ごしていく。
しかしその時だった。
「むっ」
「ぶう?」
「誰か・・・相当の人数がここに向かってくるわね」
突如迫り来る複数の気配に三人が反応した。
もし大会を妨害しようとする魔法先生が複数現れたのだとしたら少し面倒になりそうだった。
しかし一瞬間を置いてすぐに龍宮は警戒を解いた。
「大丈夫だよ、彼女たちは主催者から通行許可されている子達だよ・・・」
「ん・・・あの子達って・・・たしかネギの・・・・」
気配の主を視認出来るようになり、ヨーコと龍宮はすぐに肩の力を抜いた。
気配の主は龍宮の顔見知りだった。
それも当然、ほぼ毎日顔を合わしているものたちなのである。
大会へ続く長蛇の列を避けて不法侵入しようとするものたちは、自分のクラスメート、つまりネギの生徒達であった。
「おっ、会場見えたよ」
「あ、ホントだ、よーし皆の衆・・・」
会場が近づき生徒達がお互い顔を見合わせ、本当に忍び込むつもりがあるのかどうか分からないほどの大声を一斉に上げる。
「「「「「ネギ君の試合を見るために、GO!!!!」」」」」
その姿に龍宮とヨーコは苦笑するしかなかった。
「ちょ・・・ちょちょちょっとお待ちなさーーい!! やはりクラス委員としてこのような不正は許すわけにはいきませんっ!!」
ここまで来てから今更の発言だった。
完全なるネギ信者の委員長だが、根はいたって真面目なため、ネギの試合の見たさと違法行為に心を板ばさみに合い、相当悩みながら言っている。
しかしそれで退くネギの生徒達ではない。
「うんうん、委員長は真面目だね~、分かった、委員長の犠牲は無駄にしないよ!」
「その通り! ネギ君の試合は私達が責任を持って見ておくよ!」
「えっ・・・いえ・・・その・・・」
抜群のコンビで委員長を看破しようとするまき絵と裕奈。
あくまで自分の言葉を逆らって試合を見に行こうとする彼女達に、委員長も再び悩んでしまった。
そんな彼女達のやり取りを見たヨーコは後ろから彼女達に声を掛けた。
「悪戯っ子がいるわね、先生に告げ口しちゃおうかしら?」
「えっ?」
「「「「あっ・・・ヨ・・・ヨーコさん!?」」」」
手を振りながら笑顔で彼女達に挨拶するヨーコ、それに連れられて龍宮も姿を現した。
「ヨーコさん・・・それに龍宮さんまで、何故こちらに?」
「ん~~、お祭りで悪さをしようとする子達を取り締まるためかしら?」
「え~~、そんな~~、見逃してくださいよ~~」
ヨーコは少し冗談めいた口調で言うが、彼女達は信じてしまい、ここまで来て帰らなければならないのかと一同に不満の声を上げるが、すぐに龍宮が訂正した。
「冗談だよ。3-Aのクラスの生徒には特別な許可が下りている。君達は特別待遇だ」
「と、まあそういうことよ。よかったわね♪」
その瞬間彼女達は一斉に花が咲いたような笑顔とガッツポーズをして盛り上がった。
先程まで不正との板ばさみに合い苦しんでいた委員長も、そういうことならと一緒に手を上げて喜んだ。
「それならば話は早いですわ! 皆さん、さっそくネギ先生の応援に向かいますよ!!」
「「「「おーーう!!」」」」
懸念が解消された委員長は先頭に立ちクラスメートを先導して会場まで走って向かう。
その後ろ姿をヨーコたちは苦笑しながら見送った。
そして彼女達が離れたのを見計らい口を開く。
「ネギ・・・次はシモンと・・・か・・・。ねえ、私達も行かない?」
その言葉を聞いて龍宮も少し悩んだ。
自分が評価している二人の男がぶつかるのである。
「そうだね・・・、色々とあったが、ようやく魔法と気合がぶつかるからね・・・魔法側の人間として見るに越したことは無い」
龍宮も頷き、二人とブータは生徒達を追って会場へ向かう。
この場を放棄してでも見る価値がある。
仕事人である龍宮にもそれほどの期待が胸の中で広がっていた。
その頃、もう一つの準決勝が会場で繰り広げられていた。
楓とクウネル、両者共に桁外れの力を持った実力者のため、会場から期待の視線が注がれていた。
だが戦況は一方的なものであった。
強烈な爆音と共にリングに叩き付けられた楓。
ボロボロになりながら彼女は呟く。
「・・・これは勝てる気がせぬでござるな」
常に戦いの時でものほほんとしている彼女らしからぬ後ろ向きな言葉である。
しかし常に自分を見失わない彼女だからこそ力の差を理解していた。
戦況がこうなったのはたった一つの出来事が原因だった。
当初は外野から見て互角の戦いを繰り広げているように見えたが、突如クウネルが出した一枚のカードによって全てが決まった。
ネギたちにはそれが何なのか一瞬で理解できた。
それはアーティファクトだった。
そしてクウネルがアーティファクトを発動した瞬間、楓は、そしてそれを外から見ていたネギやアスナたちは驚愕の表情をした。
クウネルはフードを被っている為にその素顔を完全に見ることは出来ない。
しかしアーティファクトを使用した時のクウネルは完全に別の人間の姿をしていた。
そしてその姿の人間が楓を圧倒した。
その姿を見てネギは思わず口を漏らした「父さん・・・」と。
クウネルの能力を知っているエヴァもその言葉を聞いて少し舌打ちをしていた。
だがその能力の正体をエヴァも、そしてタカミチも話す気は無い様である。
ゆえにネギの混乱だけが加速していった。
「・・・今のは・・・英雄とまで言われたというネギ坊主の・・・」
体をヨロヨロと起こし楓はクウネルに呟く。
しかしクウネルはあいかわらずその口元の笑顔は崩さずに本心を悟らせないような表情だった。
「ふふふ、さあ、どうでしょう・・・」
「・・・なるほど・・・お主の目的が理解できたでござるよ・・・」
楓なりにクウネルの能力、そしてその目的を察したようだ。
目的も分かり勝てる気のしない相手に彼女がこれ以上足掻く理由もない、
「あいわかった、拙者の負けでござる」
『おお~っと長瀬選手ギブアップ! しかし無理もありませんボロボロだ! これによりクウネル選手の決勝進出が決定ーっ!!』
勝敗は決した。終わってみればクウネルの圧勝だった。
しかしそれでも楓の並外れた力への賞賛も大きく会場は大いに盛り上がっていた。
「クウネルさん・・・アナタはいったい・・・・」
今の戦いを間近で見ていたネギの肩は震えていた。
思えば控え室でクウネルと初めて話をした時もそうだった。
突如クウネルの声と雰囲気がとても懐かしいものへと変わった。
そしてその正体が自分の中でどんどんと気になり始めた。
(お父さん・・・そんなバカな・・・でも・・・)
そんなネギの動揺をアスナたちも声を掛けられずに見ていた。
彼女達もネギの心の不安が分からないでもなかったからである。
すると今戦いを終えたばかりの傷だらけの楓がその足でネギに向かって歩いてきた。
「か・・・楓さん!? ・・・あ・・・あの・・・惜しかったですね。 それで・・・その・・・」
「はっはっはっ、落ち着くでござるよネギ坊主、拙者は大丈夫でござるから」
動揺するネギの頭を楓は軽く撫でる、そして
「クウネル殿から伝言でござる・・・決勝で待つ・・・と」
「ッ・・・・はい」
別の場所でも動揺が走っていた。
戦いを観戦しながらパソコンを常にチェックしている千雨は再び盛り上がり出した話題に目を見開いていた。
「これは・・・どういうことだ・・・」
彼女が現在開いているページにはこう書かれている。「涙の過去話、噂の子供先生の生涯プロフィールと大会出場の理由」と書かれていた。
行方不明の父親を探すために日本へ、今回の大会の出場も25年前の同大会での優勝者が彼の父親だと書かれている。
「あのガキに・・・そんなことが・・・それに・・・」
そして千雨はもう一つの驚愕な情報に辿りついた。
それはクウネルがネギの父親ではないかという情報である。
「おいおい・・・これが本当だとしたら・・・」
「俺が勝ったら非難される・・・かな?」
「・・・ってうおっ!? シモンさん・・・いつからそこに?」
後ろからの声に振り返ると、そこにはパソコンの画面を、首を伸ばして覗き込むシモンが居た。
「さっきから居たけど、随分集中してたみたいだからな、・・・そんなに衝撃な事実だったか?」
「ん・・・そりゃあまあ、・・・担任ですし・・・それに今では魔法や気合どころか先生の話題で今度はネットが溢れてますよ?」
千雨はそう言ってパソコンの画面をシモンに向ける。
本当はネギの話に気になっていたのだが、素直な態度を見せずに、すぐに話題をシモンとの共同の話しに戻した。
「ったく・・・まあ、シモンさんもウチのクラスの奴に告白されたりと色々忙しそうですが・・・」
「ははは・・・まあ、その話は置いておこう・・・今はコッチだ」
画面を見せられシモンも少し考える。
この話題をネギが自分で大々的に公表するわけは無い。
公表するとすれば一人だけ。
大会を盛り上げ、さらにシモンを勝ちにくい雰囲気にもっていこうとする人物。
「超・・・か・・・。まあ、これで次の試合から皆ネギを応援するんだろうな・・・」
顎に手を置きシモンは考える。だが、考えたところで答えは変わらない。
たとえ非難の声が上がろうとも、シモンは常に自分の思ったとおりにしてきたのである。
そもそもクウネルはネギの父親ではないのである。しかしそれでも妙な引っ掛かりがあった。
「あの・・・負けてやる気はないんですか? その・・・あのガキが親父と会えるかもしれないんですよ?」
千雨が少し不安そうに答えた。
素直じゃない彼女だが、本心ではこの話が事実だとしたらネギの願いを叶えてあげたいという気持ちだった。
その気持ちはシモンにもよく分かった。
「そうだな・・・それはネギと相談して決めるさ・・・拳を交えてな・・・」
「ちょっ・・・おいおい・・・アンタあのガキとマジでやり合うつもりか?」
「どうだろうな・・・本当にガキなら俺も無理をしなくていいんだが・・・、アイツはどうなんだろうな・・・」
シモンは空を見上げて呟いた。
この世界に来てネギと出会い、それなりに長い日々が経った。
見守り、叱咤し、共に戦い、語り合い、顔面を殴り飛ばした時もあった。
そんな少年の追い求めていたものがシモンの戦いの先にあるかもしれない。
「舞い上がってるかもな、アイツは。・・・今頃動揺しまくって俺のことは眼中に無いんじゃないかな?」
もしそうだとしても気持ちが分からないでもなかった。
どれほど大人ぶろうともシモンから見ればやはりネギは子供、そうなっても仕方のないことだった。
「でもクウネルさんのことを抜きにしても・・・もう時間がないからな」
この大会が終わればいよいよ超との決戦が始まる。
その時はネギたちとは別行動になる。
そして超のことに対してネギがどう動くのか、その答えはネギたち自身に委ねた。
その時ネギがどんな答えを出そうが、道に迷おうが自分は何もしない。
その時ネギを助けるのはアスナたちの仕事だからである。
つまりシモンがネギに対して言うことがあるすれば、これが最後の機会なのである。
「ならこれで最後だ・・・俺がアイツに出来ることは・・・」
ネギとの初めての出会いは森の中。泣きながら俯くネギの姿にかつての自分を重ねた。
かつて自分が奮い立たされたカミナの言葉の数々をシモンはネギに送った。
だが、それはいつまでも続いた日々ではない。
カミナは死んだ、その瞬間からシモンは自身の力で立ち上がるしかなかった。
ネギも同じである。
いつまでもシモンが側にいるわけにも行かない。
そろそろネギも自身の力で己の信念を貫かねばならないとシモンは思った。
だからこれを最後にしようと思った。
「シモンさん・・・アンタ・・・・なにをする気だよ」
「心配しなくていいよ、ネギがガキで居るのか・・・それとも男になるのか・・・お前はそれをしっかり見ていろよ」
『さあて、いよいよ武道会も残すところあと二試合!! 準決勝第二試合を開始します!!』
「・・・さて・・・行って来るか・・・」
「あっ・・・おい・・・」
大会のアナウンスを聞き、シモンは千雨に背を向けリングへ向かおうとした。
だが急に何かを思い出し立ち止まった。
「そうだ・・・長谷川・・・」
「ん? なんですか?」
「色々と協力ありがとうな、お前のおかげで助かったよ」
「なっ・・・あっ・・・いやまあ、別にかまいませんけど・・・」
シモンの素直なお礼に、人の感謝に慣れない千雨は少し顔を赤くして両手をパタパタさせた。
するとシモンは急に真剣な表情になった。
「それで最後に頼みたいことがあるんだ・・・聞いてもらえるかな?」
「・・・・何をです?」
シモンの言葉から何か重要なものを感じ取り、千雨も真面目な顔になって聞いた。
「次の試合・・・俺が勝っても負けても試合が終わったらこの大会の掲示板に、この言葉を打ち込んで欲しい・・・それが・・・俺の最後の頼みだ」
千雨はゴクリと唾を飲み込み聞く。・・・だが・・・シモンの言葉を聞いて一瞬呆けてしまった。
シモンの言葉は真剣なのだが、あまりにも意味不明な言葉に訳が分からず呆然としてしまった。
そんな千雨にシモンは「じゃあ頼んだぞ」と笑顔で別れを告げてこの場を後にした。