魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第63話 俺を殴らせてやる

試合前の選手控え室、しかし大会の試合もほぼ消化し、既にここを使用する者もいない。

ネギは思う存分瞑想して気分を落ち着かせようとした。

だが、それでも彼は集中しきれていなかった。

 

「父さん・・・楓さんとの戦いも・・・それに僕に話しかけてきた時の声も間違いなく父さんだった・・・」

 

集中しきれない原因は一つしかない。

しかしそれが分かっていてもどうしようもなかった。

 

「ネギ君大丈夫なんかな~?」

「やはり先程の試合が気がかりのようですね・・・」

 

部屋を覗きながら木乃香と刹那が口を開く。

他のものも口に出さないが同じ気持ちのようだ。

だがエヴァとタカミチは違った。

 

 

(アルのアーティファクト・・・たしかにアレを使えばぼーやはナギと会うことが出来るだろう・・・時間限定だがな・・・しかし今のままではそこまで辿り着けないぞ・・・)

 

(ネギ君・・・次はシモン君じゃないのか? 彼は彼で君の目指したもう一人の男じゃないのかい? 今のままで彼と戦う気なのかい?)

 

 

考え方は違うが想いは一緒だった。

クウネルの力は幻術と少し似たようなものである。

それゆえ、限りなく本物に近くても本物ではない。

しかしシモンは違う。間違うことなく本物である。

だが今のネギは父の幻影を追い求める余り、現実にいるシモンを考えることが出来なかった。

不安そうにネギを皆が眺める中、勢いよく扉を開けてネギにズカズカと歩み寄る少女がいた。

 

「えっ・・・あっ・・・アスナさん・・」

「何やってんのよ、もう名前呼ばれたわよ。・・・次・・・シモンさんとでしょ・・・」

 

アスナに言われてようやく気付いたネギはハッとした。

 

「そ・・・そうでした・・・マスターに勝った刹那さん・・・その刹那さんに勝った人です・・・「何言ってんのよっ!?」」

 

アスナは急に声を張り上げてネギの胸倉を掴み上げた。

 

 

「アンタ・・・どうしてか分からないけど・・・私は刹那さんたちと違って戦いのことで口を挟めないけど・・・アンタ・・・今のままで勝てるの?」

 

「えっ?」

 

「えっ、じゃないわよバカネギ! アンタがお父さん以外に憧れた人と今から戦うのよ? 高畑先生の時のような目はどうしたのよ!?」

 

 

アスナの声が控え室に響く。

こういう時にまだうまいことを言うことが出来ない。

しかしシモンは道に迷ったネギを助けるのはアスナの役目だと言った。

だからアスナは今のままネギを送り出すことは出来なかった。

そしてその想いは十分に伝わった。

 

(そうだ・・・次はシモンさんが相手じゃないか! 僕は・・・初めて会ったあの日からあの人の背中を見てきた・・・それなのに・・・)

 

自分の父とは違って、己の目の前にその姿を現し、常にその魂を熱く振るっていた男。

ネギはいつしか憧れ、この男に笑われないようになりたい。そう心に誓っていた。

絶望の時に、何度も自分達に魂を吹き込んでくれた男。

その男を前にして自分は今何を考えているんだとネギは後悔した。

 

 

「アスナさん・・・その・・・」

 

「決勝に行けば分かるんでしょ?・・・だったら今は考えてないで・・・あの人と戦ってきなさいよ、そうじゃなきゃ・・・ガッカリされるわよ・・・」

 

 

アスナはそう言ってネギの胸倉を離した。

ネギは少し俯きながら考えているような様子だったが、直ぐに顔を上げた。

 

 

「アスナさん・・・そうでした・・・僕・・・なんてことを・・・次は・・次はあのシモンさんなのに・・・」

 

「いいわよ・・・ったく」

 

 

今目の前にいる自分のパートナー、そのストレートな叱咤が身に染みた。

その様子を見て少し安心した面々が部屋に入ってくる。

 

 

「ネギ先生、シモンさんは試合中にも強くなっていきます。強敵ですよ」

 

「刹那さん・・・・」

 

「まあ、兄貴に気合負けしないようにね♪」

 

「美空さん・・・・」

 

 

一人一人がネギの肩を叩き声援を送る。

シャークティや美空やココネ、木乃香たちもシモンに対する想いがあるが、今はネギに激励の言葉を贈る。

その一つ一つが心に響き、ネギ自身、ようやく心が落ち着いてきた。

 

「ネギ君・・・」

「・・・タカミチ・・・・」

 

そして最後にタカミチがニッコリ笑ってネギの頭を撫でる。

 

 

「この戦いに勝利すれば・・・少し形が違うかもしれないが君の望む物がある。その最後に立ちはだかる壁に・・・おもいっきり、ぶつかってみなさい」

 

「うん!!」

 

 

ネギはローブを翻し、魔法の杖を抱えて皆に背を向け、男の待つリングへと向かって行った。

最後にはこの場にいる全てのものに激励を貰い、一層気持ちが高ぶる感じがした。

 

 

『さあ、まほら武道会も残すところ後2試合になりました!! 決勝進出をかけた最後の戦いはこの二人です!!』

 

 

大詰めを迎えた大会で、もっとも大会の盛り上げに貢献した二人の選手がリングに現れた。

 

 

『一回戦でデスメガネと大熱戦を繰り広げ、2回戦ではニューヒーロー、神速の美空を倒した脅威の子供先生、ネギ選手!!』

 

 

途端に黄色い大歓声が巻き起こる。

 

「とうとう来た~~、ネギく~~ん!!」

「んまあああ、なんと凛々しい!! ネギ先生! わたくし感動ですわ!!」

「い・・いいんちょ達が来てるわ・・・」

「ほんまや・・・いつのまに・・・」

 

大いに盛り上がる3-Aのクラスメート。

この広い学園祭の一つのイベントにしか過ぎないこの大会に、すでにほとんどの3-Aの生徒達が集結していた。

そのことにネギも礼儀正しく深々と頭を下げると、そのかわいらしい姿に別の女生徒からも歓声が飛んだ。

 

 

『超絶人気に伴う実力を持ったネギ選手、立ちはだかるのはこちらもニューヒーロー、どんな壁をも突き破るシモン選手!!』

 

 

ネギに対してシモンには野太い男の声が上がる。

 

 

「「「「うおおおお、ア~ニ~キ~!!」」」」

 

<この豪徳寺、アンタを待ってたぜ! シモンさんよぉ!!>

 

「ネ・・・ネギとはエライ違いね・・・」

 

「そ、そうですね・・・」

 

 

女生徒に大人気なネギに対してシモンは男達に人気があった。

うれしいかどうか微妙だったが、シモンも拳を突き上げて歓声に応え、再び会場が盛り上がり出した。

 

「へ~、大した人気ね~。でも・・・どんな形で勝負が決まるのかしら・・・」

 

そう言ったのは委員長達とこの戦いを見物する。

この超絶な人気を誇る二人のうち片方から告白され、片方には穂のかに想われている、ある意味最強の女が口を開く。

彼女は彼女で戦いの行方を気になっていた。

 

「アナタはどう見るんだい?」

 

龍宮は腕を組みながら隣にいるヨーコに尋ねる。

それに連れられて他の生徒達もヨーコに注目する。

 

「どうかしらね~、シモンに負けて欲しくないけど、ネギにも勝たせてあげたいしね~」

 

ヨーコはそれほど深く考えずに言う。

 

「モチロン勝つのはネギ君!! いけーネギ君!!」

「ネギ先生! 我々も応援しますわ! 是非ともシモンさんを倒し、栄冠を勝ち取ってください!!」

「・・・となれば私達の出番!!」

「よっし、それじゃあチアリーダーの名にかけて・・いや・・・3-Aのクラスメイトの名にかけて・・・・」

 

「「「「ネギ先生を応援よ!!」」」

 

 

チアリーダー三人組の桜子たちを先頭に、クラスの生徒達が一丸となりネギに声援を送っていく。

遠くはなれた場所でその様子を眺めるアスナたちも苦笑して、改めてネギの人気を理解した感じがした。

そしてシモンとネギ、両者がそれぞれの場所に立った。

 

『会場が二つにハッキリ分かれて応援していますが、勝者は一人!! では・・・いきます・・・Fight!!』

 

戦いのゴングが鳴り響き、ネギとシモンの初めての決戦が始まった。

向かい合う二人の男。年の差は実に倍は離れている。

そんな大人と子供が今から戦おうとしている。

それは道徳的に問題があるが、そのことを問う人間は今いない。

シモンもネギもそれぞれの想いを抱えて今ここに居る。

 

(シモンさん・・・アナタに憧れていました・・・。戦うことが出来て光栄です。・・・だからこそ・・・)

 

ネギはシモンに向かって指を指し、己の決意をぶつける。

 

「全力でいきます、シモンさん!!」

 

その子供ながら勇敢な姿勢に観客は大盛り上がりである。委員長辺りも大声を上げている。

だが、今のシモンは珍しく静かな反応だった。

いつものシモンならここから言い合いが始まって、少しやかましいが熱い戦いが始まる。

しかし今のシモンは違った。

ネギの宣誓に対してあまり反応を示さなかった。

その様子にネギやアスナたちも何か異変を感じた。

それは当然だった。今のシモンはタカミチと同じような気持ちだったのである。

初めて会ったときは未熟だった少年が今目の前に居る。それは少し妙な感覚だった。

 

(これがちょっとした・・・親心って奴なのかもな・・・心がなんだか温かいや・・・)

 

だがそれでも戦わなければならない。

明日にはもうこの少年と道を違えるかもしれないのである。

ネギに兄貴面して言葉を送るのは最後になるかもしれない、だから・・・

 

「ああ・・・そうだな」

 

それだけを告げシモンは前を向いた。

構える少年の前に立ち、その顔を睨みつける。

まだまだ発展途上だが、自分と同じように成長していく少年。その力の底はまだ分からない。

そんなネギに対してシモンが最初にとった行動は会場中を驚愕させたのであった。

シモンの最初にとった行動は・・・それは逆に動かないことだった。

 

「・・・シモン・・さん?」

 

これまでは開始と同時に初回から果敢に攻撃を仕掛けていたシモンが動かない。これはネギにとっても予想外だった。

ネギは自分が先に動いていいのかどうか少し悩んでいたら、シモンはとんでもないことを言い出した。

 

 

「ネギ・・・お前に殴らせてやる」

「えっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

腕を組み仁王立ちするシモン。

その突然の言葉に全員が動揺し始める。

しかしこれは何の戦術でも罠でもない。シモンのただの思い付きだった。

 

 

「高畑さん、それにウチの美空・・・この大会を経てお前も強くなったんだろ? だったらその全力を今見せてくれないか?」

 

「ええっっ? シモンさん・・・一体何を・・・た・・・戦わないんですか?」

 

 

シモンの真意が分からずに混乱するネギに、シモンはニッと笑い口を開く。

 

「覚えているか? 初めてお前と会った日を・・・」

 

ネギは黙ってコクリと頷く。

それは忘れることなど不可能な、自分にとっての運命の日と言えるものだった。

 

「あの時、情けない面で下を向いて歩いていたボウズに俺は昔の自分と重ねた・・・。そのボウズの今の全力を俺に見せてみろよ!! 腹でも顔でも構わない、最強の一撃を打ち込んで来い!!」

 

シモンは叫び螺旋力を身に纏い始めた。力強く、何処までも大きな光だった。

 

 

「シモンさん・・・でも・・・」

 

「来ないのか? うまくいけばその一撃で俺を倒せるかもしれないぜ? そうすれば一気に決勝進出だ」

 

「!?」

 

 

決勝、その言葉にネギは大きく反応した。

考えないようにしていたがやはり気になり始めた。

 

「・・・・分かりました・・・なら・・・遠慮なく行かせて貰います!!」

 

少し考えたがネギは誘いに乗った。

拳を握り締め魔力を練る。

ネギの今の最強技、それは拳に魔力を纏った桜花崩拳。あのタカミチを倒した技である。

これが直撃すればいくらシモンでも立っていられる訳がないとネギは思っていた。

だが、それを簡単に覆すのもシモンであるというのも理解している。

 

「シモンさん・・・これが当たればアナタでも保障できませんよ? それでも・・・いいんですか?」

 

シモンの螺旋力に負けぬほどの光がネギの拳に集中していく。

だが、シモンは汗一つ流さずに笑う。

 

「俺を誰だと思っている?」

「わかりました、では行きます!!」

 

シモンは組んでいた腕を崩し、何も構えずにネギの前に立つ。

ネギはシモンの一言を聞いて決心した。

 

「ちょっ・・・シモンさん何考えてんのよ!?」

「そ・・・そうです、高畑先生を倒した技を・・・正面から受けるつもりなのですか?」

 

シモンの行動が分からないのは彼女達も同じだった。

アスナと刹那の声に皆頷く。その答えは誰にも分からない。

だがシャークティは少しだけ何か分かった。

 

 

「多分・・・何も考えていないでしょう・・・純粋にネギ先生の力を知りたいだけかも知れません・・・・」

 

「バカな、いくらシモンでもぼーやの技を受ければ・・・・」

 

「たしかに・・・直接喰らった僕も・・・これはバカな考えだと思う・・・」

 

 

だがシャークティは首を横に振り、シモンを見つめた。

彼女には分かっている。

シモンの考えを予測するのは至難の業、仮に答えが分かったとしても他愛のないことかもしれない。・・・だが・・・

 

「まあ、見てみましょう。考えなしのバカな行動も・・・シモンさんの場合必ずどこかに繋がるものだと思います」

 

その瞬間リング上に居たネギがシモンに向かって走り出した。

手加減などない全力の一撃を、狙いを定めて打ち抜く。

 

 

「これが僕の全力です! 桜花崩拳!!」

 

 

大量の風が吹き荒れる。

だがその時だった、不動のシモンの口元が微かに動く。

シモンは顔色一つ変えずに小さく呟く。

 

「・・・それじゃあ俺には響かないぜ・・・ネギ」

 

シモンの呟きはネギには聞こえない。

ただその全力の一撃をシモンの腹にぶつけ、強烈な爆音と水しぶきで会場全体を覆った。

 

 

『衝撃波が吹き荒れる~~~!? 最早定番となったこの展開! しかしこれを受けるのは無謀だ~~! シモン選手は生きているかっ!?』

 

 

ネギは拳に残る感触を確かめた。自身でも文句のつけようがないぐらいの一撃だった。

だが・・・会場を覆う埃と水しぶきの中、シモンの声がした。

 

 

「これがお前の全力か?」

 

「!?」

 

 

それは何の変哲もない声だった。

だが、それゆえネギには信じられなかった。

自分の一撃は間違いなく直撃したはずである。

 

「そ・・・そんな!?」

「ば・・・・バカな!?」

「あっ・・・有り得ない!」

 

無傷など有り得なかった。だが埃が晴れて視界が明るくなったとき、ネギは、そしてエヴァやタカミチたちも信じられないものを見た。

 

『シ・・・シモン選手健在だ~~!? あのデスメガネを葬ったネギ選手の一撃にノーダメージです!!』

 

微動だにせずそこに立つシモンの姿を確認し、会場全体がざわめき出す。

だが、今もっとも混乱しているのは他ならぬネギ自身だった。

 

(そ・・・そんな!? い・・・いくらシモンさんでも・・・これをまともに受けて・・・)

 

ネギは自分の力に自惚れたりはしない。しかし僅かながらの自信はあった。

修行中の身の自分が考えた程度の技かもしれないが、タカミチに勝利した力を受けてまったくの無傷など信じられなかったのである。

 

(こ・・・これがシモンさん・・・僕は今まで何を見ていたんだ!?)

 

強くなったと調子に乗っていた自分が恥ずかしかった。

シモンから見れば自分など道端の小石にしか見えない存在なのだと感じてしまった。

 

「シモンさん・・・あの・・・」

 

未だに身動きしないシモンをネギは見る。

シモンを失望させたのかもしれない。

なんと声を掛ければいいか分からなかった。

 

だが事態は一変する。

 

 

「シモンさん・・・・・ん?・・・?」

 

 

ネギは何かに気付いた。会場を覆っていた埃が晴れてシモンが完全に姿を現した。だが・・・・

 

 

「お・・・・おう、・・・・うっ・・・・ぐっ・・・」

 

シモンは唸っていた。

その肩は小刻みに揺れて、額には汗をかいている。そしてネギに殴られた腹は真っ赤に腫れ上がっていた。

 

 

「あ・・・・あれ?」

 

『こ・・・これは・・・シモン選手・・・一体?・・・』

 

 

他の者も異変に気付いた。明らかにおかしいシモンの様子。

するとシモンは突然そのままリングに倒れこんだ。

 

「えっ? ちょっ・・・シモンさん、どうしたんですか!?」

 

突然倒れたシモンにネギが慌てて駆け寄った。するとシモンは震える唇で・・・

 

 

「い・・・いっ・・・痛てえ・・・・・」

 

「・・・・・・・えっ?」

 

「「「「「「「「・・・・・・・・・はっ?」」」」」」」」

 

 

より一層混乱が深まった。

倒れて悶えるシモン・・・その姿に呆気にとられてしまい、そして・・・

 

 

「「「「「「な・・・・なんだそりゃーーーーーっ!?」」」」」」

 

 

どちらのファンだとかそんなのは関係なかった。

 

『シ・・・シモン選手・・・ただのやせ我慢だった~~~!? しかし耐え切れず沈没!』

 

一瞬静まり返った会場は全員一丸となり驚愕の声を上げてしまった。

 

「なにやってんのよ、シモンさん!?」

「あなたは一体何がやりたいんですか!?」

「シャークティよ・・・シモンの奴は・・・」

「何も言わないで下さい・・・・」

 

余りにも馬鹿げた展開にシモンの友もシャークティたちも頭を抱えてしまった。

まだ自分達ではシモンの考えを理解できないのだと感じてしまった。

 

『ええ~~と・・・とりあえず・・・カウントを取ります。1・・・2・・・3・・・』

 

シモンの真横で朝倉が呆れたままカウントを取り始めた。

だがそれが全て言い終わる前に、シモンがヨロヨロと立ち上がった。

 

「くっ・・・はあ、はあ、はあ・・・」

 

悶絶するような一撃を喰らい、すでに大ダメージのシモン。

だがそれでも精一杯自分の体に鞭を打ち、歯を食いしばりながら起き上がる。

 

『おっと、シモン選手・・・シモン選手立った~! 凄い執念です!!』

 

さすがにあのまま終わればカッコ悪すぎた。

ボロボロだろうと立ち上がったシモンに観客は苦笑しながら拍手を送る。

だがシモンの体調は悪そうである。

 

(な・・・なんて威力だ!? これが十歳のガキの力か? ・・・本当にすごいや。・・・これが魔法の力・・・。だけど・・・)

 

腹を撫でながらシモンは目の前の少年を見る。

十以上も離れた少年の力を受け止めながら。

 

「うっ・・・げほっ、げほっ」

 

呼吸が整わないシモン。

さすがにネギもこのまま追撃することも出来ずにシモンを心配そうに見つめる。

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

 

するとシモンは口元に笑顔を浮かべて答える。

 

 

「痛いよ・・・確かに痛い・・・内臓が全部ぶっとびそうなぐらい痛かった・・・すごい力だよ・・・ネギ・・・大したもんだよ・・・」

 

「あ・・・その・・・ありがとうございます」

 

 

素直な賞賛にネギは少し戸惑いながらお礼を言った。

だが、シモンの笑顔が急に真剣な表情になる。

 

 

「・・・でも・・・それだけだ・・・。・・・まだ・・・負ける気がしない・・・」

 

「えっ?」

 

「たとえ骨が何本折れようとも・・・、これじゃあ俺の心は・・・」

 

 

シモンが両拳をグッと握り締め唸り、雄たけびを上げる。

 

 

「俺の心は・・・決して折れない!!」

 

「――っ!?」

 

 

走り出したシモン、その力強く握り締めた拳をネギに振るう。

ネギも咄嗟にガードをしたが、何の変哲もないパンチの威力に押されて後方まで飛ばされる。

 

 

『た・・・立ち上がったシモン選手の反撃だ!! 子供先生ふっとばされる!!』

 

「ネギく~~~ん!?」

 

「なななな、なんてことを!? シモンさんに一体何の権限があってネギ先生にあのようなことをっーー!!」

 

 

会場に悲鳴が響き渡る。だがシモンはそんな声など気にしない。

殴り飛ばされたネギに向かって指を指す。

 

「お前の力は見せてもらった・・・今度は・・・俺の番だ!」

 

気を落ち着かせるシモン。それでも傷の痛みが響くが関係ない。

 

 

「いくぜ、ボウズ! 今からグレン団の力、見せてやるぜぇ!!」

 

 

ネギは自分の全身の毛が逆立つような感覚だった。

シモンの叫びだけで圧倒されてしまうような気がした。

自分の一撃は間違いなくシモンに大ダメージを与えたはずである。

しかしシモンの戦意にはヒビ一つ入っていなかった。

だが感心している場合ではない。

タカミチが言っていた、最後の壁に思いっきりぶつかれと。

その壁は容易ではない。だが、負けるわけにもいかなかった。 

向かってくるシモンにネギは真っ向から立ち向かう。

 

「ならば僕は・・・アナタを超えていく!!」

 

ネギは立ち上がり、己の拳と魔法使いの杖を持ち向かっていく。

シモンも拳とブーメランを手に持った。

今、二人の男が初めてぶつかり合った。


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