魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第65話 目指す天の向こうで待っている

「うっ・・・あっ・・・ああ・・・」

 

 

ネギは言葉を発せ無かった。

ネギだけではない。この場にいる全てのものが声を上げられずにいた。

今日の大会、どれほど常識を超える力が振るわれても盛大に盛り上がっていたが、星型のサングラスを装着した男の姿に、誰もが声を失っていた。

そしてネギは声を失い動揺しながらも、その頭は冷静に状況を判断していた。

傷が治り、これまで見たこと無いほどの強い光に包まれているシモン。その姿を前にして、

 

(か・・・・勝てる気がしない・・・・どうして?)

 

星型のサングラス越しから見つめる瞳、場を多い尽くす圧迫感、そして圧倒的な存在感。

先程までの自分の優勢を忘れてネギは気おされていた。

だが、言葉を失っても戦意まで失うわけにはいかない。

ネギは体中の魔力を振り絞る。

 

「うああああああああああ!!」

 

叫びとともに魔力の束を拳に収束させていく。

タメの時間はスキだらけだが、シモンの動く気配は無い。

ならばもう一度己の最強技をぶつけるのみ。

 

(分かる! 半端な技じゃダメだ! 何でかは分からない・・・でも、このままじゃ勝てない!!)

 

試合序盤にシモンに繰り出した技を、最大までタメる。

するとそんなネギの行動が読めたシモンはニヤリと笑って自分の腹を叩いた。

そう、シモンは体を差し出したのである。

それは試合開始直後と同じ行動だった

 

 

「いいぜ、・・・もう一度殴らせてやるよ!!」

 

「っ!?」

 

 

それはシモンの挑発と挑戦状だった。

先程自分に大ダメージを与えた力をもう一度ぶつけて来いと言っているのである。

だが状況は先程とは明らかに違う。

対峙するだけでも汗を掻いてしまうほど、今のシモンからオーラが出されている。

だが、その言葉に従うしかない。

ネギはもう一度己の技に全力を込め、シモンに向かって走り出した。

 

「桜華崩拳!!」

 

先程と同じようにネギはシモンめがけて拳を繰り出す。

いつもなら直撃と共に轟音を響かせる技。

しかし今回は不発に終わっていた。

なぜならその拳はシモンまで届かなかった。

螺旋力の光がネギの拳を阻んだ。紛れも無く現時点の最強技だった。

だがシモンは顔色一つ変えずにやり過ごした。

 

「そんな!?」

 

不発に終わる自分の技。

強力な螺旋フィールドを発生させるシモンの前に、もはやネギの技は全てを無効化された。

 

 

「当たり前だ! 今の俺にそんなものが・・・、そんなものが効いてたまるかァ!!」

 

「くっ・・・まだだ!! 弓歩沖拳!! 翻身伏虎!! 雷華崩拳!!!!」

 

 

無我夢中で己の技を次々とネギは繰り出す。そんなことなど認めないといった様子だった。

だがその攻撃は欠片一つもシモンまで届かない。

先程まで届いた全ての力が微塵も届かなくなる。

力が何一つ通用しない。その現状にネギはただ焦るばかりだった。

そしてとうとう不動だったシモンが拳を握り締めた。

 

「言ったろうが! 俺たちの想いが、そんなもんで破られてたまるかよ!!」

 

次の瞬間、思いっきり振りかぶったシモンの拳がネギの身体を捉え、ネギは言葉にならない衝撃を受けた。

 

「あ゛~っ!!」

 

ネギの腹に一撃が入りふきとばされた。

シモンが言った内臓が全て吹き飛ぶような衝撃、今まさにネギはその痛みを味わっていた。

だがネギがその痛みを自覚するころには、シモンは目の前に居なかった。

 

 

「き・・・消えた!?」

 

「後ろだ!!」

 

「っ!? は・・・速い!」

 

 

気づいたときにはもう遅い。後ろを振り向く前にネギはシモンにサーカーボールのように蹴り上げられた。

シモンの動きが美空より速いかどうかは分からない。しかし防御も回避も一切できない。

ただネギは人形のように力なく蹴り上げられた。そ

して上空に蹴り上げられたネギの真下でシモンが身体を精一杯捻り、拳を天に向かって突き上げる。

 

 

「いくぜ、超銀河大紅蓮パンチ!!!!」

 

「くっ風障壁(バリエース・アエリアーリス)!!」

 

 

迫りくる拳。全てがスローモーションに見えた。

だがそんな拳を回避するすべなどネギには無かった。

そこで無我夢中で風障壁を張る。

風障壁はタカミチの拳すら防ぐほど強力である。

だが、シモンの拳は障壁と激しい音を打ち立てて、なんと障壁を突き破ってしまったのである。

 

「そ・・・そんな・・・・」

 

アスナや委員長たちが叫んでいるのは聞こえたが、どうすることも出来なかった。

胃に突き上げるような衝撃だが、それほどの痛みを感じない。

なぜなら突き破ったとはいえ、障壁がシモンの力の勢いを大幅に減らしてくれたからである。

それゆえ強烈な一撃だったが、自分はまだ意識がハッキリしていた。

それは実に不思議なことだった。

まだ身体を起こせそうである。

しかし、だからこそ冷静に悟ってしまった。

自分と今のシモンとの圧倒的な力の差を。

 

(そ・・・そんな・・・つ・・・強すぎる・・・。か・・・勝てない・・・)

 

気づけばリングの上には、拳を高らかと突き上げるシモンと、それを横たわりながら見上げる自分が居た。

それが僅か数秒足らずの出来事だった。

いつの間にか、あれほど盛り上がっていたネギコールも無くなっていた。

少年の力を嘲笑うかのような圧倒的な力に、誰もが呆然とするしかなかった。

逸早く沈黙を破ったのは朝倉だった。

そして彼女の言葉と共に、会場には悲鳴が響き渡った。

 

 

『ネ・・・ネギ選手ダウン!! シモン選手の突然の力に手も足も出ず!!』

 

「「「「「ネ・・・ネギくーーーん!?」」」」」」

 

 

その叫びは木乃香たちのグループかまき絵たちなのか分からない。

ひょっとしたら両方かもしれない。

ただ彼女たちは涙を流しながら倒れる少年に向かって泣き叫んだ。

 

 

「そそ・・・そんな!! いくらなんでもシモンさんやり過ぎだよ!!」

 

「ひ・・・ひどいよ・・・いくら試合だからって・・・」

 

「~~~・・・・ぶくぶくぶくぶく・・・バタン!・・・・」

 

「い・・・いいんちょが倒れた~~!?」

 

 

裕奈やまき絵を始め、彼女たちは涙ながらシモンを非難する。

委員長などは失神しそうになってしまった。

だが涙を流しているのは、のどかや夕映も同じだった。

手加減無用の戦いだが、それでも傷つき倒れる少年に涙を流した。

 

「ゆゆ・・・ゆえ~~、ネギせんせ~が・・・」

「そんな・・・こ・・・こんなことが・・・」

 

スピード、パワー、そしてこれまで受けた傷すら癒したシモンの新たなる進化に、タカミチたちですら背中に汗を掻いていた。

 

「し・・・信じられない・・・こんなことが・・・か・・・彼は一体・・・」

「あの人は一体・・・どこまで強くなるというのですか・・・・」

 

刹那は試合中にシモンの成長速度を進化と捉えた。

それは間違っては居なかった。

単純な戦闘力なら昨日までの時点では自分たちに敵わないと思っていた人物が、たった一日でこの会場の誰よりも頭一つ飛びぬけた力を手にしたのである。

それはもはや脅威としか思えなかった。

 

「む・・・・・むきーーーーーー!!!!」

 

その時一瞬倒れた委員長が顔を真っ赤にしながら奇声を上げて飛び起きた。

そして息を荒くしながらシモンを睨む。

 

「ゆ・・・許しません・・・許しませんわ、シモンさん!!! こ・・・この私がお相手します!! ネギ先生の仇ですわ~~~!!」

「ちょっ、いいんちょ、それはマズイって!!」

「いいえ、マズイものですか!! シモンさんに10倍返しですわ!!」

「こら・・・そのセリフは中々旨いけど、やめときなさい」

 

シモンに今にも飛び掛ろうとする委員長を、周りが慌てて止めに入る。

ヨーコも委員長の襟元を掴んで止めるが、委員長は興奮状態で止まる気配が無い。

するとシモンが会場中に声を張り上げる。

 

 

「覚悟を決めた男の戦いを、甘やかしてんじゃねえ!! 俺たちを誰だと思っている!!」

 

 

その怒りは会場中の非難の声にシモンが逆ギレしたわけではない。

一人の男として認めたネギと自分との戦いを、周りの者たちが世間一般の常識を持ち出して非難するのが我慢出来なかったのである。

シモンの怒声に思わず委員長たちは黙ってしまった。

修学旅行から何度かシモンとは会ったことがあるが、これほどの激しさを持っているなどとは思っていなかったのである。

そして会場が静かになったのを見計らって、シモンは横たわるネギを見下ろした。

 

 

「どうだネギ、俺たちはスゴイだろ? たとえその命がすでに尽きようとも、こうして俺と共にある。これが俺たちの絆だ! 明日を手にするために最後まで立ち向かった者達だ!」

 

 

己の胸を指差し、シモンは誇らしげにネギに向かって語りかける。

 

 

「それでお前はどうすんだ? 続けるか続けないかはお前が決めろ」

 

 

だがそんな質問などしなくてもシモンが一番ネギの気持ちを理解していた。

勝ち目があるのか無いのか、相手が強いか弱いとかではない。

重要なのはあきらめるかどうかである。

そしてネギがどうするのかは聞かなくても分かっていた。

シモンの言葉を聞きながら歯を食いしばるネギ。

勝てる相手ではないと悟ったが、身体を起こさないわけにはいかなかった。

 

 

(そうだ・・・僕の見てきたシモンさんは、こんな状況で何度も立ち上がってきた。・・・あきらめない、・・・それがシモンさんから教わったことだ・・・。初めて会った日に教わったはずだ・・・)

 

 

シモンとの出会い、エヴァンジェリンの力に恐れて逃げ出した自分は、深い森の中でシモンと出会った。

その時にシモンは自分に向かって言ってくれた。

足掻くのをあきらめたら一歩も前に進めない、その言葉がネギの頭を過ぎった。

今立ち上がってもシモンには勝てないかもしれない。だが無理だとは決め付けない。

自分の生徒たちが涙を流しながら見つめる中、ネギは立ち上がった。

 

「・・・いいんだな?」

 

立ち上がったネギに確認するようにシモンは尋ねる。

するとネギは少し腫れた顔でムリヤリ笑顔を作った。

 

 

「はい、・・・足掻いて足掻いて、ジタバタします!」

 

 

その笑顔を見てシモンもうれしそうに笑みを返し、拳を突き上げ、会場中に聞こえるように大声で叫ぶ。

 

 

 

「続行だーーっ!! 文句は無いな、お前たち!!!! これが俺たちの常識だ!!」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

それはシモンの意思表示だった。

邪魔を出来るものならしてみやがれ! そう言っているように聞こえた。

その言葉と態度に会場の誰もがシモンを疑った。

常識的に考えて続行などありえなかった。

大人と子供の戦い、しかも子供は既にボロボロである。

だが、結局誰も文句が言えなかった。

常識を問うことが出来なかったのである。

そして彼らは、後から沸々と湧き上がる感情を抑えられずに。

 

 

 

「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」

 

『ネギ選手はあきらめない!! 試合は・・・試合はまだ終わっていません!!』

 

 

 

それは彼らがこの戦いを大人と子供ではなく、男と男のぶつかり合いだと認めた瞬間だった。

どちらの応援も関係なく、皆が雄叫びを上げて二人の決着を望んだ。

その声援を受けてシモンとネギは互いに笑顔を見せ合い、走り出した。

ネギはかなり身体が重そうである。だが自然に身体が前へ前へと行く感覚だった。

勝てるかどうかではなく、あきらめないと決めたネギの身体は自身が思っている以上に動いた。

 

 

「「いくぜ(きます)!!うおおおおおおおおおおお!!」」

 

 

しかし相変わらずネギの攻撃はシモンにはまったく届かなかった。

拳も蹴りもシモンの螺旋力に弾かれる。

そしてその度にシモンに振り払われた。

だがそれでもネギは何度も立ち向かっていた。

シモンはネギの攻撃を回避しようとはしない。どうせ全て無効化してしまうのである。

彼はただ、何度も向かってくるネギを迎撃した。

だが、それでもネギは何度も立ち上がった。

 

 

「まだ来るか!」

 

「はあ、はあ、・・・まだ・・・まだやれます!!」

 

 

何度も立ち向かっては殴られるネギの姿に相変わらず生徒たちは涙を流していた。

だが、もう止めようなどとは思っていなかった。

ただ純粋にネギを応援していた。

するとアスナがこの光景を見て呟いた。

 

 

「まるで、シモンさんみたいね・・・」

 

「アスナさん?」

 

「ほら、なんかボロボロでもムキになって立ち向かう姿、私たちがいつも見てきたシモンさんじゃない?」

 

 

アスナがネギを指差しながら少し笑った。

そしてその言葉になんとなく皆納得してしまった。

今のボロボロのネギの姿こそ、自分たちが憧れた男の姿なのであると。

するとアスナも目に溜まっていた涙を勢いよく拭い、大声を上げる。

 

 

「コラーー!! しっかりしなさいよォ、バカネギィ!!」

 

 

アスナの声を聞いて夕映たちも互いに顔を見合わせて一斉に声を上げる。

 

「ネギ先生!!」

「ネギく~ん! シモンさ~ん! どっちもがんばってや~!」

 

その声を聞いて今度は方々から声が鳴り響く。

 

 

「俺以外の奴に負けんなや、ネギ!!」

 

「兄貴ーー!!」

 

<ネギ先生の目はまだ死んでねえ! 油断するんじゃねえぞシモンさん!!>

 

 

そして今度はネギだけではない、シモンへのエール両方だった。

それはまるで一夜で伝説になった予選会を再現したような熱気だった。

ボロボロなのに殴られるたびに強くなる。

今のネギがそう見えたのである。

 

 

「最大! 桜華崩拳!!」

 

「効かねえつったろ!!」

 

 

今回三度目、タカミチと美空の試合を含めて五度目の桜華崩拳。

しかしまたもやその拳は欠片もシモンまで届かない。

シモンを包む強力な螺旋力の前に無効化され、シモンは目の前にいるネギを殴り飛ばした。

ゴロゴロとリング上を転がるネギ。

これで何度目のアタックか覚えていない。

だがやるべきことは忘れない。

たとえ殴られても何度でも立ち上がった。

 

「何度やっても同じだぜ!」

 

少し肩で息をしながら舌打ちをするシモン。

だがその表情は立ち上がるネギを少しうれしそうな目で見ていた。

そしてまたネギも笑顔を返す。

勝機など無い無謀な戦い。

だがネギにとってこの戦いの敗北は、力が及ばなかったときではない。諦めたときなのである。

だからネギは何度だって立ち上がった。

 

 

「ドリルと同じです・・・ジタバタすれば、少しだけ前へ進めます! 今の僕で進めるところまで進んでみます!!」

 

「いいぜ、トコトン付き合うぜ!!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 

戦いは終わらない。

シモンも勝とうとすればいつでも勝てるのだが、いつのまにかネギの意地に付き合うような形で戦っていた。

微妙な力加減でネギを返り討ちにした後、もう一度かかって来い、というような態度に見えた。

その甲斐あってか、ネギも気を失わずに何度でも向かって行った。

そして、試合制限時間が迫る中、ネギが再び桜華崩拳の構えをした。

 

 

「その技は効かねえぞ!!」

 

「それでも・・・それでも僕はこれに賭けます!! 老子とマスターの下で編み出したこの技で、壁を突き破って見せます!!」

 

「そうか・・・だったら乗った!! 俺たちの絆の壁を、突き破れるもんなら突き破ってみやがれ!!」

 

 

両者の言葉を聞いて誰もが理解した。

恐らくこれが最後の攻防になるのだろうと。

そしてネギはいつものように魔力を極限まで練りこむ。シモンはそれを邪魔する気は無い。

あくまで正面衝突が望みである。

そしてネギもこれまでの最大ではなく、限界に望んだ。

タカミチとの勝負で拳に乗せた魔法の射手(サギタ・マギカ)は九つだった。

しかし今は自分の拳に乗せられるだけの魔法の射手を限界まで搾り出した。

その結果ネギが搾り出した魔力は、

 

 

「光の精霊(セブテントリーギンタ)67柱(スピーリトゥス・ルーキス)!! 集い来たりて(コエウンテース) 敵を射て(イニミクス・サギテント)!!」

 

「なっ!? あの数は・・・67だと!? 今のボーヤでは9つで精一杯のはずだ!?」

 

 

限界を超える力を振り絞るネギ。その荒々しいが熱量を帯びた拳をシモンに向ける。

シモンもまた、その拳に乗る力にこれまで以上のものを感じた。

 

 

「これが・・・今の僕の・・・魂と気合です!! 限界突破!! 桜花崩拳!!」

 

「大グレン団をナメんなよ!! おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

湧き上がったシモンの螺旋力が再びネギの拳を阻む。だが・・・

 

「こ・・・・・これは・・・」

 

シモンが歯軋りする。

なぜなら今回は攻撃を阻んでも弾くことが出来ないのである。

そしてネギの拳は徐々に徐々に、シモンを覆う螺旋力の光を削っていく。

 

「まだだ、まだいける!!」

 

まだ闘志を捨てないネギ。

 

「やばい!?・・・このままじゃ超銀河モードでも・・・破られる!?」

 

そしてこのままではまずいとシモンは思った。

シモンの螺旋力とネギの魔力が反発しあい、強力な音を響かせる。

そしてネギの拳が少しずつだが前へと進んでいく。

その瞳はまだあきらめていない。

魔力全てが尽きるまで拳を収めようとはしなかった。

 

「そうだ・・・この目だ・・・」

 

その不屈の瞳を見たシモンは小さく笑って呟いた。

どこまでも自分を信じ立ち向かうネギの姿に、シモンは最後の言葉を送る。

 

 

「そうだ、それでいい・・・・それを忘れるなよ・・・ネギ・・・お前を信じろ!!」

 

「・・・シモンさん?」

 

 

拳を突き出しながらネギは顔を上げた。

 

 

「俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる・・・お前を信じろ!!」

 

「・・・シモンさん・・・・」

 

 

その瞬間閃光が走りシモンの顔が見えなくなった。

そして自分の身体がその光によって弾き飛ばされたのが分かった。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!! シモンインパクトォォーー!!!!」

 

 

シモンの雄叫びと共に発せられた閃光と衝撃波が、ネギの最後の一撃を吹き飛ばした。

その衝撃波を受け、ネギは力なくリングに転がった。

 

「はあ、はあ、はあ、・・・・僕の・・・負けか・・・」

 

そしてついにネギの口からその言葉が漏れた。

これが最後の攻防だと誰もが理解していた。

そのため誰もがこの結末を理解できた。

 

この勝負はネギの完敗であった。

 

この勝負に勝てば父親かもしれないクウネルと戦うことが出来た。

それゆえ委員長や他の観客たちも少し残念そうな顔をした。

だが、顔を起こしたネギの顔はとても晴れやかであった。

文字通り自分の全てを出し切ったと自負していた。

だからこの勝負はこれで満足だった。

 

だが、勝負は負けたが試合の結果は意外な結末を迎えた。

 

 

『ネギ選手が弾き飛ばされました!! しかし・・・・しかし・・・・』

 

 

そのことに気づいたのは朝倉だけだった。

そしてシモンの顔を見る限り、本人も恐らく確信犯であろう。

そして朝倉が口を開いてアスナたちやネギにもそのことが理解できた。

 

 

『シ・・・シモン選手の手には・・・ド・・・ドリルが握られています!!』

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

そう、最後の攻防を防ぎきれないと思ったシモンは、咄嗟にドリルを出してネギを迎撃したのであった。

そしてそれはこの大会のルールの違反対象だった。

シモンは苦笑して自分が持っているドリルを眺める。

すると朝倉が急ぎ足でシモンへ駆け寄り、ドリルを確認した。

 

 

『え~、あの~、・・・確認してみたところ・・・これは本物のようです。この試合のルールは刃物や飛び道具のほかに・・・その・・・ドリルの使用を禁止されています。ですから・・・・この試合は・・・シモン選手の反則負けです!! よってネギ選手の決勝進出です!!』

 

 

その言葉に、誰もどう反応していいのか分からなかった。

突如告げられたシモンの失格。そして当の本人は既に納得しているような表情である。

だが、ここでネギが慌てて口を挟み、異議を申し立てる。

 

 

「ちょっ・・・ちょっと待って下さい!! この勝負・・・この勝負は僕の完全な負けでした! だから・・・だから・・・・」

 

 

だがその言葉を言い終わる前にシモンが首を横に振った。

 

 

「・・・・シモンさん?」

 

「バカヤロウ、お前が勝ったんだ。だったら何も恥じることなんてねえ、胸を張れ」

 

 

倒れているネギに歩み寄り、シモンは手を差し出してネギの身体をムリヤリ起こした。

だが、ネギは納得しないような表情だった。

そんなネギの頭をクシャクシャとシモンは撫でた。

 

 

「お前の魂に当てられて、ドリル出したのは俺の責任だ。だから悪いのは俺だ。お前が気にすることじゃないさ」

 

「・・・でも・・・シモンさん・・・」

 

 

するとシモンはリングの外の一点に視線を逸らした。

そしてそこにはクウネルがいた。

シモンは顎でクウネルを指し、ネギに告げる。

 

 

「いいんだ、これで。俺はもう満足だ! ・・・・だからいけよ! 決勝でお前を待っている人が居る。ただありのままをぶつければいいさ、お前はお前だ!」

 

 

そしてシモンはいつものように笑った。当然ネギも納得できない部分もあった。

結局壁を崩して道を突き進むことは出来なかったと思っている。

だがしかし、今は道を譲ってくれたシモンの笑顔を見て、力強く頷いた。

 

 

『決勝進出はネギ選手です! よってこの、まほら武道会の最終決戦のカードはネギ・スプリングフィールド選手VSクウネル・サンダース選手になりました』

 

 

その瞬間ようやく大歓声が上がった。

そしてその歓声は勝者のネギだけでなく、失格となったシモンへも送られた。

 

3-Aの生徒たちも、始はシモンを非難していたが、この戦いの結末に涙を流しながら、ネギだけでなく、シモンにも盛大な拍手を送った。

 

それだけで満足したシモンは、ネギに向かってある物を差し出した。

 

 

「ネギ、これをお前に預ける・・・お守り代わりだと思ってくれ、・・・絶対無くすなよ?」

 

「シモンさん・・・これは・・・・」

 

「これは信念と希望の象徴だ。ちっぽけに見えるが、これ一つが銀河に匹敵するほどの価値があるんだ」

 

 

シモンはそう言って、ネギにコアドリルを差し出した。

それを受け取ったネギは、その大きさからは考えられないような質量を感じた。

 

(お・・・・重い・・・)

 

その重さこそが大グレン団の魂の重さだった。

ネギの想いを察してシモンは頷いた。

 

 

「もうお前に言うことは何も無い。明日はお前を対等だと思ってやるよ。だから言葉の代わりにそれをお前に預ける。明日・・・お前の答えと一緒に返してくれ」

 

 

ネギはその言葉から察した。

とうとう自分は、シモンや父がどうするかではなく、自分が何をすべきか決断するときが来たのである。

そしてそれはシモンと試合とは違って本当に雌雄を決するかもしれないのである。

これにはそんな意味が篭っているとネギはコアドリルを見て思った。

そしてシモンが言った、返しに来いという言葉は、自分を待っているというメッセージなのだと理解した。

 

 

「ネギ・・・俺もお前を待ってるぜ! そして今度は道を譲らない!! 俺の気合、愛、絆、そして魂と誇りに誓って!!」

 

 

シモンは脱ぎ捨てたコートに再び袖を通し、ネギに背中を向けた。

その背中には大グレン団のマークが描かれている。

そしてシモンはいつものように天に向かって指差した。

 

 

「今日が終わり明日になる。目指す天の向こうで待っている!!」

 

 

その言葉だけを残し、大歓声が上がる中シモンは後ろを振り返らずにリングを後にした。

後に残されたネギは受け取ったコアドリルを首にぶら下げ、シモンに向かって深々と頭を下げた。

森での出会い、橋の上での再会、修学旅行、そして悪魔との戦い、これまで何度も自分を助けてくれたシモンは、この瞬間からネギの元を離れた。

超鈴音の計画はネギにはまだ分からない。しかしもうシモンに頼るのではなく、自身で答えを導き出すと、首からぶら下げたコアドリルを弄りながら改めて誓った。

 

こうしてシモンの武道大会は幕を下ろしたのだった。

 


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