魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
シモンが負けて会場から姿を消した。
勝者のネギも、その傷を木乃香に癒してもらい、準備を整えている。
決勝の時間は刻一刻と迫る。
その間ネギの生徒たちは・・・・
「俺の心はゼッタイ折れないゼ~~!」
「友の想いをこの身にキザム~~~!・・・っだけ?」
「そうそう、そしてなにより~~~」
「「「「目指す天の向こうで待っている~~!」」」」」
流行っていた。
鳴滝姉妹やチアリーダーの桜子は休憩時間の合間、先程のシモンの言葉が耳に残り、彼女たちはポーズをとりながら真似をしていた。
「ひゅ~~、なんかシモンさんもスゲ~かっこよかったよね~~~」
「そうそう、ネギ君をボコボコにした時はどうかと思ったけど、なんつうの? あれが男の世界って奴かな? それにあんな熱いセリフとかよく言えるよね~、」
「でも~、かっこよかったよね~、木乃香がアタックしてるのは知ってたけどさ、シモンさんポイント高いんじゃない?」
裕奈や美砂達も試合中こそ涙を流していたものの、無事に試合が終わるや否や今まで知らなかったシモンを知ることにより、株が急上昇していた。
「まったく見っとも無いですよ皆さん! 簡単に人に影響されるのはよろしくありませんよ!」
しかしそこで彼女達を批判する人物がいた。
それは究極のネギ信者の委員長だった。
だが委員長がそう言うのも、無理はなかった。
「ん~・・・まあ、ネギ君をボコボコにされて委員長がシモンさんを嫌うのも無理はないけどさ~・・・」
「うん、でもアレをネギ君が望んでたことなんだったら、シモンさんは悪くないんじゃないかな~? 以前茶々丸さんとも似たようなことがあったし・・・」
裕奈とまき絵はネギのエヴァンジェリンの弟子入りのテストの時を思い出した。
自分達もさっきはシモンを非難しようと思ったが、ネギがそれを望んでいたのだとしたら、シモンはそれに応えただけである。
だからシモンを非難すべきではないと思った。
しかし委員長は別に嫌ってなどはいなかった。
「・・・別に嫌ってなどいませんよ、たしかに試合中は取り乱しましたが・・・・」
「え~、ホント?」
意外な言葉に一同が驚く。
すると委員長は落ち着いた口調で想いを告げる。
「シモンさんは私たちでは出来ないことをして、ネギ先生の壁として立ち続けました。ネギ先生の憧れの人だからこそ、ネギ先生の望むように強い姿であり続けたのです。その結果非難があったかもしれませんが・・・。私も試合中怒鳴られて見っとも無かったですわね・・・」
シモンに試合中に怒られて委員長もハッとしたのである。
自分達にネギの成長のためとはいえ、あんなことが出来るはずもない。
だがシモンはネギの本気に本気で応えたのである。
だから責められるはずもないと委員長は感じたのである。
クラスメートがその言葉を聞いて感心した表情を見せる。
そして一人大人びた考えを持つ委員長にヨーコも感心した。
「へ~、見直したわ、アンタ随分と大人ね。 委員長って呼ばれるのも分かるわ」
少しシュンとなっていた委員長だが、ヨーコの言葉に再び自信満々な態度を取り戻し、胸を張り高笑いをする。
「ふふ、当然ですわ! この私を誰だと思っているのですか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・」」」」
伝染した。
「へ~、シモンさんがこれを・・・ドリルの形してホントにシモンさんっぽいわね~」
「ええな~、ネギ君、ウチもシモンさんからなんか欲しいわ~」
木乃香の治療を受け、ネギは試合の後シモンから預かったコアドリルを皆に見せた。
その用途はいまいち分らないが、シモンらしいその形に皆好印象だった。
「でもこれは一体何に使うんでしょう・・・先程シモンさんはこれで見違えるほどのパワーアップをしていましたから、何かのアイテムでしょうか?」
「それは僕にも・・・でもシモンさんはこの小さなドリルは信念と希望の象徴だって・・・・」
「ふむ、・・・ぼーや、私によこせ!」
「ええ~!? だだ、だめですよ!? シモンさんに絶対無くすなって言われたんですから!?」
「ふん、シモンは私の物なのだから、シモンの持ち物は私の物だ。ふっふっふっ、嫌だというなら・・・・・」
邪悪な笑みを浮かべてコアドリルを奪おうとするエヴァからネギは必死にコアドリルを握り締め抵抗しようとする。
それを見てシャークティが口を開く。
「お止めなさい、それはシモンさんと大グレン団の共有魂です。グレン団ではないアナタがシモンさんの許可無く手にすることはなりません」
「なに~~?」
「シャークティ先生はこれを何か知っているんですか?」
ジト目で睨むエヴァを置いて、何かを知っていそうなシャークティにネギが尋ねるが、シャークティもうまく説明できなかった。
魂、象徴、希望、抽象的な言葉しか思いつかなかった。
すると美空が何かを思い出したかのように口を挟む。
「あっ・・・そうそう、たしかそれでグレンラガン動かしたって・・・・」
「えっ!? じゃあこれ、凄いものじゃないですか!? なんでシモンさんはこれを僕に・・・・」
かなり意外なものだったらしく、皆がコアドリルを今一度注目する。
夕映やのどかも歴史的なものだと分り、興味心身に眺める。
ハルナは事情をよく知らないが、またもや自分の知らないことがあったのだと分り、不敵な笑みを浮かべていた。
そして皆がコアドリルを見つめる中、シャークティは口を開く。
「おそらくシモンさんからのメッセージでしょう。 どれほど道に迷っても、どんな答えを出そうとも、必ず俺まで辿りつけ、という・・・」
「!?」
待っているとシモンも言っていた。
そして自分が辿り付くことを信じてこんなものまで預けたのである。
ネギは今一度それを握り締め。心の中で、何かを誓った。
そして
『さあ、まもなく最終決戦を始めたいと思います!! 選ばれし両選手、準備をお願いします!!!』
いよいよ時間がやって来た。
それは決勝まで辿りついたネギだけのご褒美、ネギだけの時間が今からクウネルにより与えられる。
その内容を知るのはタカミチとエヴァンジェリンだけである。だが二人は何も教えずに、アスナたちと同じことだけを言う。
「ネギっ!」
「ネギ君」
「ネギ先生」
「ぼーや」
「ネギせんせ~」
「ネギ坊主」
全員から名前を呼ばれ、ネギは振り返り、いつもの笑顔で、一言を告げる。
「皆さん、・・・・いってきます!!」
そしてネギは最高の舞台へと向かっていった。
その頃、
「ああ、・・・ハカセはもうそこから退散するといいネ、そろそろ大会も終わる、私は主催者の仕事を全うしてから後で合流するヨ」
超の研究室から大会へまで続く道の通路。
シモンとネギの試合に無我夢中で飛び出した超は人目のつかない所で、携帯で自分の協力者へ連絡をしていた。
「ふう、・・・シモンさんは・・・負けたか・・・まあ、当然ネ・・・」
携帯を閉じてため息をつきながら呟く超。
彼女は先程の試合の光景が頭に焼き付いていた。
そしてこれまでのシモンの試合を頭の中で思い出していた。
「負けた・・・か・・・あれを負けと呼べるのカ?・・・・」
どん底から這い上がった姿。気合をどこまでも叫ぶ姿、友の力を身に宿した姿。そしてコアドリル。
結果的にシモンは準決勝で敗退した、それはむしろ出来すぎだと思っていた。
当初はシモンに身の程を知らせるために、このハイレベルな大会でドリルまで禁止をしたというのに、シモンは試合に負けても、誰の目からも敗北者だとは思われなかったのである。
どこまでも自分の予想を裏切ったシモン、しかし本当に裏切られた気がしなかった。
そのことに超は自分の心に戸惑いを感じていた。
(本当に予想できなかったのカ? 私は・・・本当は最初からこうなると分かっていたのではないカ?)
彼女は自分の予想がことごとく裏切られたこの大会の結果に満足しているような気もした。
そしてそれが妙に腹立たしかった。
そして予想外の出来事が本当に予想できなかったのか疑問だった。
それはシモンとヨーコとの戦いが何よりそうであった。
ボロボロに打ちのめされたシモン。
しかしあの場でシモンが立ち上がることを予想できたのはヨーコとブータを除いて超だけしかいなかったのである。
ここに来て自分の心が分らなくなり、思わず超は唇を噛み締める。
その時だった。
「随分と不機嫌そうじゃないか、超!」
「!?」
自分以外誰もいるはずもなかった通路で声を掛けられた。
その声はよく知っていた。先程まで会場を盛り上げて、自分の心を乱した男だった。
彼はクスリと笑いながら自分に近づいてきた。
「・・・なぜここに?・・・シモンさん・・・・」
いつの間にか側にいたシモンを超は睨みつけた。
その表情にこれまでの余裕は無く、かなり不機嫌そうだった。
「さあ、・・・分からない・・・ただ・・・なんとなくお前に会わなくちゃならない・・・そう思った。・・・気づいたらここまで来ていた」
「ふっ、相変わらず勝手ネ、シモンさんは・・・・」
無理に笑おうとする超。だがそれが作り笑いだというのは誰の目にも明らかだった。
「だが、結果は結果、シモンさんの負けネ! シモンさんはネギ坊主の力の前で負けた! これでシモンさんは・・・シモンさんは・・・」
その続きの言葉が超には思いつかなかった。
あの試合を生で見て、どうやってシモンを中傷できるのか、天才の彼女でも思いつかなかった。
「俺が・・・俺が何なんだ? ・・・グレン団の名を汚した・・・か?」
「っ!? ・・・微塵も思っていないクセに、そういうことは言わないほうがイイヨ」
「あはは・・・そうだな・・・ありがとう」
シモンはそう言って笑った。その笑顔がやはり心地よく、超の心を乱した。
そう、複雑だった。
超のほうがグレン団について何倍も知っているのに美空たちがグレン団を語る。
シモンという男の歴史を自分のほうが知っているのに、彼に言い寄る木乃香たち、そして何よりその魂であるコアドリルをアッサリとネギに預けたこと。
それに比べて自分は何なんだと思った。
『会場へお越しの方々!! 大変、お待たせいたしました!! これより、まほら武道会、決勝戦を行います!! 最強の座を手にするのはクウネル選手か、ネギ選手か!?』
決勝戦のアナウンスが流れ始めた。
学園祭で最も盛り上がったイベントの最後を飾るに相応しいカード、会場も大いに盛り上がっている。
しかし超とシモンは互いに見合い、動く気配が無い。
「見に行かないのカ? 決勝戦はおもしろいことになりそうヨ?」
「・・・お前はどうするんだ? 俺は・・・目の前で悲しそうなツラしてる女を残して行く気は無い」
「!?」
シモンは冗談めいた口調で言うが、その言葉に超の体がビクッと跳ね上がった。
その体はプルプルと震えている。
「黙る・・・ネ・・・・」
震えながら微かに呟く。
そして次の瞬間に目元に何かが込み上げるような気がした。
それは自身でも信じられなかった。
自分が未だにそれがあったとは信じられなかった。
だがそれを流すわけにはいかなかった。
そして超は自分を容易く乱す男に、気付いたら感情が抑えきれなくなっていた。
「・・・超・・・」
自分の顔を覗き込んでくるシモン。
もう限界だった。
常に冷静であり、その心の内を誰にも悟らせないように冷静に振舞っていた彼女だったが、もう抑え切れなかった。
次の瞬間行動に移っていた。シモンとの間合いを一気に詰めて拳を振り上げる。
「黙れと言っているネ!!!!」
「うおっ!?」
魔力で強化した素振りは感じられなかった。
だが、防いだにもかかわらず、威力を纏った拳はシモンを軽々と後方へ弾き飛ばした。だが、壁に叩きつけられるには至らなかった。
大会を経て、シモンもある程度の力ぐらいなら耐えられるようになった。
しかし、身体に電流のようなものが流れて体が痺れた。
(こ・・・これは魔法じゃない・・・と思うけど・・・なんかタネがあるのか?・・・)
突如取り乱した超。シモンは穏やかな声で語りかける。
「お前も強かったんだな、・・・でも、デートは明日だろ? せっかちなお嬢さんだな」
「・・・黙れと言ったヨ・・・」
超はシモンの余裕の態度にカチンと来て、再び悪態をつく。
だがシモンはそれでも笑顔を崩さない。
殴られても微塵も怒った素振りを見せずに、シモンは立ち上がり埃を少しポンポン叩きながら、超に声を掛ける。
「超・・・そんなツラでデートしたってつまらないぜ。自分には何にも思い悩むことなんて無いってぐらいじゃなきゃな。悩みがあるうちは、やめといたほうがいいぜ」
その言葉に再び超はシモンを睨みつける。
超には計画実行に対する迷いも躊躇いも無い。
しかしシモンの言った言葉は悩みという単語だった。
たしかに悩みが無いわけではない。
それは未だに整理できない個人的な複雑な感情だった。
しかしだからといって頷くことなど出来なかった。
「・・・では・・・どうしろと? 明日は中止にしろとでも言いたいカ? ・・・残念ながら私はそこまで甘くないヨ」
無論シモンも承知である。
そもそも超がその程度の意思だとしたら苦労は無かった。
だが、今の超鈴音を無視するわけにも行かなかった。
そこでシモンが思いついたことは、とても不器用なお節介だった。
「そうか・・・だったら今日の内にその悩みは解消した方がいい」
そう言ってシモンはなんと、ドリルを取り出して超に向けて構えた。
「・・・シモンさん・・・何する気ネ?」
いきなりドリルを向けられては超も驚くしかなかった。
するとシモンはニヤリと歯を見せて笑い、とんでもないことを言い出した。
「俺が受け止めてやる。お前の悩みも、不満も全て今のうちに受け止めてやる。全部吐き出して、明日は最高のデートをしよう! そうじゃなきゃ俺達が困る。お前のデートの相手はグレン団だろ?」
「はっ!?」
呆然としてしまったが、すぐに理解した。
そのシモンのあまりにも不器用だが真剣な想いに超は笑うしかなかった。
「・・・・・ぷっ・・・クク・・・・フフ・・・流石シモンさんネ・・・やり方が古臭い、だが・・・それでこそ・・・ネ」
ドロドロとした想いが急にバカらしくなった。
笑いを堪えることが出来ずに超は刹那とシモンの戦いを思い出した。
シモンの言葉一つでうれしそうにしたり、我を忘れて子供のように叫ぶ刹那。
その気持ちが自分にも分かった気がした。
(まったく・・・私も単純ネ・・・これしきのことで・・・胸が高鳴る・・・)
すると超も着ている上着を脱ぎ捨てて構える。
それはネギや古の拳法の構えに少し似ていた。
そして脱ぎ捨てた服の下に、彼女は強化服を身に着けていた。
拳の部分に電流が走っているのが見える。どうやら先程の攻撃はそれが原因のようだ。
もっともそんな仕掛けなどシモンは見ていなかった。
今シモンが見ているのは超の目だけだった。
「では、木乃香さんや刹那さん達には申し訳ないが、今は私がシモンさんを独り占めするネ!」
「ああ、光栄に思えよな!!」
笑いながら睨みあう二人、それと同時に会場から声が聞こえた。
『それでは注目の決勝戦・・・Fight!!』
その言葉と同時に超とシモンは動いた。ここは観客もレフェリーも何も無い空間。
しかしそこは今だけは超とシモン、二人だけの世界だった。
「いくヨ!」
「ああ、来い!」
こうして二人だけの戦いが、人知れずに行なわれた。