魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第67話 真実の物語はお前が語り継げ

迫り来る超の動き、繰り出される拳、それはたしかにレベルが高かった。

さらに超には電流を流した強力な拳の一撃もある。

だが、それはあくまで通常レベルでの話しだった。刹那やネギに比べると見劣りした。

超は拳法を使用しシモンがそれを捌くような状況になる。

しかし超が攻めているもののシモンは一つ一つを冷静に見切っていく。

 

(たしかに強いが・・・このぐらいなら・・・)

 

シモンは超の拳を掻い潜り、狙いを定める。

 

(捕らえた!!)

 

完全に命中したと思った攻撃。

だが、突き出したドリルは虚しく空を切った。

 

「・・・・・・・?」

 

先程まで目の前にいたはずの超がそこにはいなかった。そして、

 

 

「どうしたシモンさん? 私を捕まえたと思たカ?」

 

「えっ?」

 

「遅いヨ!!」

 

 

振り向く寸前に超の拳がシモンのわき腹に入り、シモンは勢いよく飛ばされ壁に激突した。

だが思ったよりダメージはない、しかし身体に流れる強力な電撃が少し厄介だった。

 

 

「ぐうっ・・・これは・・・超の服に仕掛けがあるみたいだな・・・、でも今どうやって消えたんだ? ネギたちが使ってた技にも見えなかった・・・それに超が美空より速いとも思えない・・・」

 

「顔色が悪いヨ、怖気づいたカ?」

 

「・・・まさか・・・」

 

 

シモンは立ち上がり超に向かっていく。

とりあえず接近戦では超の動きの秘密が分からないと思い、シモンはドリルを地面に突き刺した。

その瞬間シモンの螺旋力が地面一杯に広がった。

 

 

「スパイラルガーデン!!」

 

「おっ!?」

 

 

シモンの螺旋力が行き渡った地面から無数のドリルが地面から生えて超に向かって襲い掛かる。

もちろん串刺しにしない様に威力は抑えているが、回避は不可能だった。しかし・・・

 

 

「チッ・チッ・チッ、甘いヨ♪」

 

「なっ!?」

 

 

気づいたら超は目の前にいた。

そして驚愕するシモンを軽く後ろに押して、シモンは尻餅をついてしまった。

現状認知に流石のシモンでもしばらく時間が掛かってしまった。

 

(バカな!? 俺が今適当に考えた技だぞ! いくら超が俺のことを知り尽くしていたとはいえ、今の技を完璧に回避するなんて不可能だ!)

 

そんなシモンのあせった顔が見れて超はかなり満足気に笑う。

 

 

「くっくっくっ、さすがのシモンさんでも対応できないカ? まあ、されても困るガ・・・」

 

「・・・・・くっ、フルドリライズ!!」

 

 

超が話を言い終わる前にシモンは全方位に向けて身に纏う螺旋力から無数のドリルを伸ばす。

さすがにこの距離で回避するのは不可能だ、と思っていたが、やはりすでに超はそこにはいなかった。

 

「伝説の技・・・堪能したネ♪」

 

シモンが繰り出したドリルの間合いの外から超は拍手しながら告げてきた。

さすがにこれは普通ではありえないとシモンも気づいた。

 

(超は目の前にいた、・・・なのに既にあんなに遠くに・・・。いくら俺でもそれほどのスピードで動けば気づく・・・)

 

高速で動けばその分空気が揺れる。

美空も目にも映らぬスピードで動いたときは、場に風を発生させるほどだった。

しかし超からはそれを感じない。

だがシモンはようやく気づいた。

超はネギや刹那たちとは違う、つまり・・・

 

「これが・・・科学と魔法の力か?」

 

それは勘だったが、超もニヤリと笑って肯定した。

 

「ふっふっふっ、気づくの早かったネ、・・・まあシモンさんには今日のお礼に特別教えてあげるネ。コレの力ヨ」

 

すると超はシモンに背中を向けた。

彼女の着ている強化服の背中にある窪みにネギが持っていた懐中時計のようなものが嵌まっていた。

 

 

「それはたしか・・・タイムマシン・・・・」

 

「その通り、これを少し工夫して使うネ。回避不能の一撃を喰らっても、別時間へ跳躍すればどんな攻撃も簡単に回避可能。つまり・・・」

 

「?・・・?・・・~~っスマン、頼むからもっと分かるように言ってくれ!!」

 

「・・・・さらに同時間・同空間への超高速連続時間跳躍を行うことによって擬似時間停止効果を発生させる。ナノ秒以下の精密操作と時空間の正確な予測が・・・・・・・」

 

「だから分かんねえって!!」

 

「・・・では簡単に言うと・・・・」

 

 

超が長い説明を止めたと思ったら急に目の前に現れた。

 

 

「私を補足するのは不可能ネ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 

大きな音を立てて、超の放った拳によってシモンが再び壁に叩きつけられた。

警戒を解いていなかったにもかかわらず、避けることが出来なかった。

さらに超の説明は一つも分からなかった。

だから、ここはもう開き直るしかなかった。

 

 

「ちっ、・・・もう少し簡単に教えてくれよ・・・・」

 

「ハッハッハッ、残念ながら気合でも愛の力でもないから簡単に説明は不可能ネ」

 

「はは・・・だが、やるべきことは分かった! ようするに気合じゃないんだったら、恐れるに足らずだ!!」

 

「・・・ほう」

 

 

起き上がったシモンが螺旋力を開放した。

するとシモンの周りに数十のドリルの弾丸が現れた。

それはまるでネギの魔法の射手(サギタ・マギカ)のようである。

そしてシモンは超だけを狙わずにところかまわずぶっ放した。

 

 

「いくぜ、螺旋弾!! 時間だか空間だかなんだか知らねえが、それなら全部ぶち抜いてやるぜ!!」

 

「はあっ!? ちょっ・・・ちょっと待つネ!!」

 

 

容赦ないミサイルの嵐が放たれた。

そのミサイルは相手をトレースする機能が付いているわけでもなく、超にロックオンしたわけでもない。

下手な鉄砲数撃てば当たるという言葉通りだった。

 

(こ、・・・これはマズすぎるヨ!?)

 

さすがの超もこれには焦った。

彼女の記憶によればたしかグレンラガンは時間軸を移動する物体への攻撃や確率を変動させるミサイルなどが使えていたはず。

別にシモンはそんなことを考えて攻撃しているわけではなかったが、不意に超は思い出し、カシオペアの能力を無効化されるのではと動揺した。

 

「のわあああ、あ、危ないネ!」

 

無差別の爆音が響き渡る。

この爆音は決勝中の会場まで聞こえたのではないかと思うほどの巨大な音だった。

その結果、

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・・・・・あ・・・危なかたヨ・・・・」

 

「・・・この技は・・・使いどころを考えないとな・・・・」

 

 

辺り一面シモンが破壊した残骸が散らばっている。

そんな中で超は膝と両手を地面について、肩で息をしていた。

シモンはシモンで京都以来に使用したミサイルの威力に驚いていた。

すると超が起き上がり目くじら立ててシモンに詰め寄ってきた。

 

 

「あ・・・アナタは私を殺す気カ!? 自力で避けなきゃ危なかたヨ!!」

 

「い・・・いや・・・大丈夫、ちゃんと峰を返したから! それに無事だったんだ、さすが超だ! 俺たちに喧嘩売るだけはある!」

 

 

親指を突き上げ笑顔を送るシモン、その瞬間超の頭から「ブチッ」という音がした。

 

 

「全然爽やかじゃないヨ! 大体ドリルの峰って意味あるのカ!?」

 

「うおっ、いきなり殴りかかるなよ!」

 

「これだからグレン団は根拠もなくアバウトすぎる、もうホントに大嫌いネ!!」

 

 

大嫌いと笑顔で叫ぶ超。

その姿にシモンも思わず笑ってしまった。

 

「そんな顔で嫌いって言われてもな……」

「うるさいネ!」

 

超は拳法による突きや蹴りで襲ってくる。

だが、強化服により身体能力も大幅に上がってはいるが、今のシモンが簡単にやられるほどではなかった。

シモンもこの大会で更に螺旋力の扱い方に長けてきたため、強化服に身を包んだ超にまったく引けをとらなかった。

 

(くっ・・・シモンさん、いつの間にこれほど強く・・・、いくらドリルを持ってるとはいえ・・・・)

 

超は舌打ちしながらシモンへ拳を繰り出す。

だが、シモンのドリルのほうが間合いが広く、うまく間合いを詰めることが出来ない。

しかしカシオペアを使うのも嫌だった。

なぜなら先程のように無差別ミサイルを出されては敵わなかった。

必然的に超は接近戦を余儀なくされた。だが・・・

 

 

「・・・強い・・・刹那さんに勝ったのはマグレじゃない!」

 

「どうした超! 顔が引きつってるぜ!」

 

「・・・そんなこと・・・ないネ!」

 

 

超が電撃を纏った拳を突き出す。

しかしその拳をシモンはドリルで突き、弾き返した。

 

 

(・・・これも破るか!? ・・・しかしまいったネ・・・戦闘するとは考えてなかったから武器がナイヨ・・・・・ん?・・・・戦闘するとは考えてなかった?)

 

 

通じた技がシモンには通じなくなる。刹那やネギが味わったことを超も体験した。

しかも超は元々この場で戦闘になるとは思っていなかったため、準備不足も明らかだった。

魔法先生が途中邪魔してくるときのために強化服を着ていたが、危なくなればカシオペアを使って逃げるつもりだった。

そのためこのような決闘をすること自体が明らかに計画からズレていることだった。

だがそれでも超は承諾してしまった。

そして今、そのことに気づいてしまい超はそのことについて今更考えてしまった。

 

 

(何で私は今シモンさんと戦ってるネ? そもそもこれは何の意味があるネ?・・・・・)

 

 

そう、意味などなかった。

シモンの口車に乗り大会主催者として決勝を見る義務まで放棄して、シモンと今戦うことに何の意味があるのか・・・・・・いや、なかった。

 

(あれ? ・・・・じゃあなんで私ムキになってるネ? ・・・・まさか私はバカカ?)

 

考えれば考えるほど後悔してきた。

しかも途中までかなり真剣に勝負をしていた自分に自己嫌悪してきた。

事の発端は自分が小娘のような心の苛立ちをシモンに八つ当たりしたのが原因であった。

それゆえシモンは大人の対応として超のストレス解消に付き合っていた。

しかしそれは徐々に激しさを増し、カシオペアという自分の手の内まで決戦前に見せてしまった。

それはあまりにもバカな行為だったと今更気づいた。

 

 

「・・・どうした? 怖気づいたのか?」

 

――ブチッ!

 

 

だが、シモンの軽い挑発に超の冷静さが再び失われ、肩が震えた。

いつもの彼女なら絶対にありえなかったが、シモンは特別だった。

そしてそれが徐々に大きくなり、

 

 

「・・・やはり・・・・ネ・・・」

 

「・・・・超?・・・」

 

「やはり今だけはバカになるネ! せっかくの機会だから精一杯元凶に八つ当たりさせてもらうネ!」

 

「おっ、開き直ったな! そうだそうだ、バカになれ! そっちのツラの方がよっぽどいいぜ!」

 

 

超は考えるのを止めた。今はただこの時間を楽しむことにした。

男と女の触れ合いにしては野蛮な行動であったが、少なくとも大グレン団のシモンは今自分を見ている。

決して口に出そうともしないし認めようともしないが、その想いで超の心は晴れていった。

 

この光景を見ているものが一人だけいた。超の協力者のハカセだった。

 

彼女は超に撤退を命じられて研究室から出てきた道の途中で偶然この二人の決闘を目撃した。

 

 

「超さん・・・シモンさん・・・なぜ・・・」

 

 

その答えは分からない。しかし最初驚きはしたが徐々に異変に気づいていった。

随分と派手な戦いではあるが、まったくドロドロとした空気が流れていなかったのである。

向かい合う二人は笑っているようにも見えた。

 

「なんでしょう・・・・じゃれあってるんでしょうか・・・この二人・・・」

 

そう見えてもおかしくなかった。

しかしそこには自分の心をいつも笑顔で押し殺し、クラスメートにも心の中を悟らせないように見えない壁を作ってきた超鈴音はいないように見えた。

今の彼女の笑顔こそ、超の本物の笑顔なのかもしれないとハカセは感じた。

 

外が騒がしい。おそらくクウネルとネギの決勝戦で皆盛り上がっているのかもしれない。

正直ハカセもこの勝負は生で見たいと思い、会場へ向かう途中だった。

だが今は超とシモンから目が離せなかった。

 

そして外の雑音など今の二人の耳にはまったく入らなかった。

 

 

「漢の魂燃え上がる~~」

 

「おっ! シモンさんもノッテ来たネ!」

 

「俺はいつでもノリノリだ!!」

 

 

こんな戦い無意味かもしれない。

シモンも超も自分のやるべきことは変わらない。

だがハカセには何かを感じた。

 

 

「変えられるのかもしれない・・・・シモンさんなら・・・」

 

 

ハカセはギュッと両手を握り、二人を見つめた。

 

 

「何を変えるかどうか分からない・・・・でも、シモンさんなら何かを変えてくれる!」 

 

 

ハカセですら感じた今日の超の心の戸惑い。それは実に超らしくなかった。

美空の背中のグレン団のマークや刹那の告白を切なそうに見つめた超。

そしてハカセはモニター越しで見ていた。会場に向かった超がコアドリルを受け取ったネギを悔しそうに見つめていたことを。

だが、今その心の闇を消して全て解き放っている。とても抽象的にしか言えない。科学者であるハカセには珍しい感覚だったが、そう感じた。

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・・疲れた~」

 

「はあ、はあ、・・・・やはり冷静に考えると私たちなにやってるネ、・・・」

 

「たしかにな~、あ~、疲れたな~~」

 

 

時間にすればわずか数十分だった。

しかしこの数十分の時間で超の心は軽くなった。

いつの間にかスタミナ切れした超とシモンは、その場で背中越しに座り合っていた。

先程までギラギラしていた二人だったが急に疲れて戦いを止めにした。

そこに勝敗も何も無かった。

だが愚痴を言いながらも超に不満があるような様子には感じなかった。

それが分かりシモンはニヤニヤ笑い出した。

 

 

「それにしても・・・はは、お前も結構バカになれるじゃないか」

 

「ムッ! それはどういう意味ネ!?」

 

「だって、意味がねえって分かっていながら、お前は今俺と喧嘩しただろ? お前は普段そういう奴じゃなかったんじゃないか?」

 

「そ・・・それは・・・ほら、シモンさん言ってたネ! 明日の本番のためにシモンさんを殴る練習の必要があたヨ!」

 

「はは、まあそういうことにしておくよ」

 

「むむむ~~」

 

 

いつも同年代相手ならどんな相手も論破できる自信がある超だが、口でシモンに勝てる気がしなかった。

正しいことも悪いことも、全部自分の理論で片付けてしまう男には口でどうにかできる気がしなかった。

だがそれが今、不愉快に感じない。まことに厄介な男だと超はため息をついた。

 

 

「まったく・・・シモンさんはずるいネ・・・分ってるカ? 私達は敵同士ヨ? こんなお節介無意味ネ・・・。私が心変わりすると思たカ?」

 

「ああ、分ってる。・・・でもずるくないさ、俺はただ無視できなかっただけだ」

 

「・・・本心でそう思ってるから・・・ずるいヨ・・・。自分でも知らなかた弱さが、シモンさんの所為で出てしまう・・・。シモンさんは無意識だから余計に悪いヨ・・・・」

 

「弱さなんて誰だって持ってるさ・・・・。俺だって自分で知らなかった弱さがあったんだから・・・・・」

 

 

天井を見上げてヨーコとの戦いを思い出すシモン。そしてニアの顔を瞼に浮かべる。

その様子に超もシモンの試合を思い出し、天井を見上げた。

 

「そう・・・だたネ・・・シモンさんにも弱さがあたカ・・・」

 

やがて息も整い落ち着く二人。しかし互いの顔を見合おうともせず、未だに背中越しで座りあっていた。

今互いがどんな顔をしているかは分からない、そんな時口を開いたのはシモンの方だった。

 

 

「超・・・今更お前を説得してどうこうなんて思わない。お前がそれで折れるタマじゃないってことは、何となくだけど分かるよ。でも、一つだけ答えてくれないか?」

 

「・・・何を?」

 

 

真面目なのか、それともギャグなのか、シモンはたまに判断不能な時があった。

しかし今のシモンの口調は超でも分るほど真面目な口調だった。

それに気付き超も心を落ち着けて構える。

 

 

「・・・なぜ計画を俺にバラしたんだ? ・・・それを聞いちまえば俺が手を貸さないで邪魔することぐらい分かってたはずだ、・・・お前は俺に・・・何を期待したんだ?」

 

「?」

 

 

最初から黙っていれば、何の邪魔もなく計画を達成できたはずである。

しかもあらゆる事態に対処できるように準備も入念にしている。

現にこの学園で超の企みに気づいている魔法関係者はほとんどいない。

これほど完璧な計画になぜワザワザ穴を作ったのか、それがシモンの疑問だった。

だが、超は今更そんな質問かというような態度で、ため息をつきながら口を開く。

 

 

「そんなの簡単ネ、科学と魔法の前に気合も魂も無力だと分からせるため、そしてグレンラガンと決別するためにアナタにバラした。言わなかたカ?」

 

 

以前と変わらぬ答えだった。

だがシモンにはそれが本心でないと気づいていた。

 

 

「じゃあ、・・・・今の俺はどうなんだ? 少なくとも負けたなんて思ってない」

 

「・・・・・ふっ、明日になれば分かるヨ。魔法と科学の兵器を導入し、シモンさんを完膚なきまで負かしてみせる」

 

「・・・・本当にそうか?」

 

「・・・どういう意味ネ・・・」

 

 

超は本当の気持ちは語らない。だが、シモンには少し分かったような気がした。

今何の意味もなくぶつかりあった超から、少しだけ彼女の本心に触れられた気がした。

 

 

「・・・俺はずっと・・・お前が俺を倒してグレンラガンとの決別を望んでいると本当に思っていた・・・」

 

「・・・・それが事実ヨ・・・」

 

 

超は少しムッとしながら口を開く。

だが、シモンは首を横に振る。

 

 

「たしかにそうだった・・・・お前は本当に自身でもそう思っていたんだろうな。・・・・でも・・・今お前と戦って行くうちに・・・おまえ自身でも気付いていない心に触れられた気がしたんだ・・・」

 

「な・・・・」

 

 

シモンが辿り着いた超の心の奥深くに隠された気持ち、それは・・・

 

 

「・・・ひょっとしてお前は・・・お前はグレン団の姿を見たかったんじゃないか?」

 

「・・・・なに?」

 

 

背中越しで超が振り返る。その表情はシモンには見えないが、声だけでもとても動揺しているように聞こえた。

だがシモンは気にせずに超の本心に触れていく。

 

 

「俺を倒すんじゃない、立ちはだかる壁をぶち壊していくグレン団の姿をお前は望んでいたんだ」

 

「・・・なっ・・・何を言っているネ!」

 

「だからお前はワザワザ俺に困難を提示した。ドリル禁止の大会もそうだ。あれは俺に恥を掻かせるためじゃない。不利な状況も立ち向かい、乗り越えていく俺を見たかったんじゃないか?」

 

「違うネ!!」

 

「そうだ・・・お前はグレンラガンの物語の真実を知りたかったんだ。・・・ガンメンや、強力な科学兵器じゃない、俺が言っていた人間が誰しも持っている気合と魂が、運命を変えることが出来るかどうかを・・・」

 

「違う! 違う!」

 

「俺やヨーコがお前の完全な計画を叩き潰すことによって証明してほしかったんだ。お前がかつて好きだったグレンラガンの物語は、決してメカの力だけではなかったということを・・・・。魔法だとか科学がどうのこうのじゃない・・・、無理を通して道理を蹴っ飛ばす俺たちを見たかったんだ・・・」

 

「――っ!?」

 

 

シモンの言葉に超は何も言い返すことが出来なくなった。

なぜならシモンの言っていることは的外れに見えて、決して否定出来なかったのである。

数年の歳月を賭けて望んだ今年の学園祭、過去を変えようとする気持ちに何の揺らぎもなかった。

だが、自分を邪魔する不撓不屈の男の姿に心が躍ったのも事実だった。

 

 

「そうだ・・・お前から・・・魔法をバラして過去を変えようという信念は感じても・・・・俺に対する嫌悪や憎しみっていうものが感じられなかったんだ・・・・・」

 

「ち・・・ちが・・・う・・・」

 

 

しかしそれを認めるわけにはいかなかった。

もし認めてしまったら、これまでの全ての出来事が無駄になってしまう。

だから超は震える口で首を横に振った。

 

 

「ちが・・・私は過去を変えるために来た。 ・・・そう・・・勝手な憶測は止めてほしいネ・・・・」

 

 

それが限界だった。認めるわけにはいかない。しかし強く否定できない。

自分でも気づかなかった心の奥底に封じ込められた本心。

その中身が超自身にも分からなくなっていたのである。

すると突然シモンが自分の背中にもたれかかって来た。

シモンの重さと体温が急に感じて超も一瞬取り乱しそうになるが、シモンは構わず超に語りかける。

 

 

「大丈夫だ・・・・超・・・」

 

「・・・シモンさん?」

 

「大丈夫だ超・・・俺が・・・俺たちは絶対に証明してやる。お前の知る俺たちの物語は捻じ曲がったかもしれない、その結果世界を変えちまったかもしれない、それは今この時代にいる俺にはなんとも言えない。でも俺たちグレン団は決して偽りじゃないって証明してやる! 科学でもない・・・魔法でもない・・・ガンメンの力でもない。本当の俺たちの姿を見せてやる! そしてそれを知るんだ」 

 

 

しかし超はその言葉に頷くわけには行かなかった。

 

 

「それがっ! ・・・・それが・・・アナタがこの世界で広めたグレン団の姿が・・・時を経て捻じ曲がるとは思わないカ?・・・明日・・・アナタが仮に勝ったとしても・・・魔法使いではないのにそれ以上の力を振るうシモンさんたちの物語が・・・・世界に影響を及ぼすとは思わないのカ?」

 

 

超は珍しく叫んだ。

 

そしてそれは今も顕著に表れている。

大会中に魔法という単語を世に広めようとしたのに、シモンが介入して結局魔法が広まることはなかった。

魔法に関心が行かない。進歩した科学の力なら魔法で出来ることは大抵再現出来るようになる。

そして徐々に魔法を極めようとするものも減り、いつしか世界から忘れ去られるようになる。

それが超のいた未来の姿だった。

 

だからこそ超はその元凶たるシモンたちに魔法科学の力で打ち勝つことによって、過去を変えようとした。

そうでなければ世界は同じ道を辿ってしまう。

だからこそ譲れなかった。

 

だがそんな超に向かってシモンは強い口調で言った。

 

 

 

「だったら・・・・だったら真実の物語はお前が語り継げ!!」

 

 

「・・・・なっ!?・・・・・」

 

 

「捻じ曲がった俺たちの物語の真実を・・・・お前が未来で正すんだ! そこから・・・そこからお前の戦いは始まる・・・・」

 

 

「――っ!?」

 

 

「そうだ・・・お前が本当に立ち向かう場所はここじゃない、未来だ! お前が立ち向かう明日はこの世界には無い! 過去を変えるな! お前の未来を変えろ! その手助けはしてやる、俺がお前の明日に連れてってやる! 明日俺たちがお前に打ち勝つことによってな!」

 

 

 

超は今これ以上ないほどシモンの言葉に動揺していた。

 

 

(こ・・・この人は・・・な・・・・何を言ってるネ? ・・・勝つ? 私を明日に・・・いや、違う!)

 

 

超を最も動揺させた言葉、それは・・・

 

 

(グ・・・グレンラガンの物語を・・・、わ・・・私が語り継ぐ? わ・・・・私がグレンラガンの真実を語る役目を・・・穴掘りシモンから?)

 

 

それは大好きだった物語の主人公からの頼みだった。

魔法などの異形の力を使わず、メカの力で困難を打ち破ってきた者達の真実を自分に語れと言われたのである。

 

 

「私に・・・・勝つつもりカ? 大量の兵器と魔法技術を導入させる私の戦力の前に、アナタが勝つつもりカ?」

 

「・・・当たり前だ」

 

「私は! ・・・私は卑怯な手も使うヨ! 反則のような手も躊躇わずに使うヨ! それでも・・・それでもアナタは勝てるのカ?」

 

「ああ!!」

 

 

すると超は歯をガチガチとならし、目元がどんどん潤んできた。

そして超シモンに確認するように、震えた唇を動かす。

 

 

「・・・真の物語・・・を私に託すのカ? 私の失望を・・・変えてくれるのカ?」

 

 

次々と言いたい言葉が超にはあった。

しかしそれらも含めて、超の言葉はシモンの次に言うたった一つの言葉によって救われた。

 

 

 

「俺を誰だと思っている」

 

 

 

背中越しから聞こえるシモンの声。

シモンに今の超の表情は分からない。

しかし超には分かった。

そのセリフを言うときのシモンの顔はいつだって自信に満ち溢れていたのだから。

 

充分だった。

超にはそれ以上の言葉など必要なかった。

その一言を聞けただけで満足だった。

 

気付いたら超は背中越しから振り返りシモンの背中に顔を埋めていた。

 

そしてシモンの背中にある大グレン団のマークに何度も何度も顔を擦り付け、嗚咽交じりで。顔を埋めていた。

 

シモンは黙って超のやりたいようにやらせた。

振り返って涙を見ようものなら、また殴られるような気がしたからである。

だから今は超の顔を見ないでやることが一番だと思い、振り返ろうとはしなかった。

 

すると超は掴んだシモンの服を離し、そのまま立ち上がった。

そして次の瞬間普段の彼女の口調で明るくシモンに告げる。

 

 

「ふふ・・・くく・・・くっくっくっ」

 

「超?」

 

「くくく、なんてネ♪ 私が泣いてると思たかシモンさん? 甘いネ、科学に魂を捧げた私を情で動かすのは不可能ネ♪」

 

「はは、なんだよそれ、・・・・目・・・腫れてるぞ・・・」

 

「うっ・・・こ・・・これは・・・そう、最近寝不足だたからヨ!」

 

「・・・・なんだそりゃ?」

 

「ふ・・ふんっ、だが今更真実の物語なんてイラナイヨ、なぜなら最後に勝つのは私ネ!」

 

 

相変わらず素直ではなかった。

先程までの弱々しい姿はそこには無く、今までと同じような何か企んでいる様な、いたずらめいた超らしい笑顔だった。

 

 

「それに、シモンさんにそこまで余裕あるなら、私は何の容赦もなくあらゆる手段を駆使するヨ。 どこまでも強大な壁を作り、壁の向こうで待ってるネ♪」

 

 

ニヤリと笑い明るい口調で超は宣言した。

 

 

「もう悩みなんか全部消えたネ。私の意地が通るか・・・アナタの信念が通るか・・・私は手加減なんてしない、・・・思いを通すものは力あるもののみ!」

 

 

シモンはその表情を見て、自らも笑みを返した。

結局シモンの行為は、相手を更に本気にさせてしまっただけだった。

だが、シモンは望むところだった。

 

 

「ったく・・・本当に素直じゃないな・・・お前は・・・。まあいい・・・じゃあ、待ってろよ! 俺の魂が必ずお前のところまで行ってやる! 過去は絶対に変えさせねえ!」

 

「・・・やってみるネ」

 

 

そこでようやくシモンも立ち上がり超と向かい合った。

 

そして、

 

 

『カウント10!! クウネル・サンダース選手、優勝ーーーッ!!』

 

 

武道会場から試合終了のアナウンスと歓声が聞こえてきた。

どうやらネギは負けたようであるが、それはもうシモンには関係なかった。

勝ったにせよ負けたにせよ、もうシモンがネギに対して何かをすることはなかったからである。

だからそれほど気にした様子もない。

 

「試合・・・終わったみたいネ・・・・。私は主催者の仕事があるから、もう行くネ♪」

 

それだけを告げ、超はシモンに背を向け、会場へ向かって歩き出した。

その態度はやけに上機嫌である。

そんな超に向けてシモンが声を上げる。

 

 

「終わった?・・・これからが本当の始まり・・・だろ?」

 

 

超は返事をしない、だが後ろ向きのまま手だけを上げて応えた。

 

 

こうして二人だけの時間は終わった。

ネギが決勝の表舞台で父の幻影と戦っていたころ、世界を左右させるかもしれぬ二人の戦いが行われていたことは、ハカセを除いて誰も知らなかった。

 


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