魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
並んで歩く二人は決して不自然には見えなかった。
魔法薬の効果もあり、シモンと木乃香が二人で並んで歩く姿は普通のカップルに見えなくも無かった。
きっと周りの者にもそう思われているかもしれない。
(さて、・・・・どうしよう・・・・でも周りの人もチラチラ木乃香を見てる・・・・やっぱ美人なんだな~・・・って余計なことは考えちゃダメだ!)
(うう~・・・シモンさんと・・・シモンさんとウチが並んで歩いとる・・・・う~ニヤけてまいそうや~、・・・今のウチの姿なら・・・シモンさんとカップルに見えるんかな・・・・)
互いに無言のまま互いをチラチラ見ながら黙って歩く二人。
木乃香はもとより、今のシモンも少し余裕が無かった。
少なくとも隣にいる美人は自分にプロポーズまでしているのである。
そのことを考えると再び緊張してきた。
(ああ~もう、何やってるんだよ俺! こんなんじゃ最低だ! ちゃんといつものように振舞わないと・・・・)
(アカン・・・ウチも緊張してきた・・・それに・・・シモンさんも難しい顔しとる・・・やっぱウチなんかとデートは嫌なんかな~・・・・)
それぞれの心の中で思いが重なり、次第に空気が重くなる。
(ダメだ・・・無理に意識しちゃダメだ! それに大人の俺がしっかりしないでどうするんだよ! 自然体だ! そうだ・・・)
(せっちゃんも勇気だしたんや・・・・ウチはウチの想いをぶつけなアカン! 積極的にや! せや・・・)
((気合だ(や)!!))
心の中で決意した二人は立ち止まり、同時に互いの顔を見合った。
「木乃香!」
「なんなんシモンさん!」
「あっちに人だかりがある! 行ってみないか? おもしろそうだよ!」
「せやな! ウチも行ってみたいわ~、ほないこか!」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
上辺だけの会話だった・・・・・・・。二人とも笑顔だがその顔は引きつっていた。
(俺のバカ・・・・明らかに不自然じゃないか・・・・)
(う~、せっかく計画建てとったのにいきなりズレてもうた~)
シモンは空を見上げて自己嫌悪して、木乃香は必死で作った予定表をこっそり握りつぶし、二人はとりあえず人だかりのある場所へと向かっていった。
ただ偶然シモンの適当な提案で立ち寄ってみた場所、なにやら舞台が設置させられて、黄色い声援があがっていた。
「なんだろう・・・」
「なんかのイベント見たいやけど・・・・・」
『さあ~、盛り上がって参りましたベストカップルコンテスト!!』
「「・・・・・なっ!?」」
突如舞台から聞こえたアナウンスに二人は肩を震わせた。
そこで行われていたのは言葉どおりのコンテストで、男女のペアが舞台で仮装したりして競い合っているようである。
優勝商品は豪華商品らしいが・・・・
(こんなものやってるなんてな・・・・危なかった・・・・)
(お・・・惜しい・・・・もうちょい早ければ・・・・う~、シモンさんと出たかったな~・・・・)
既に始まっているため二人の出場は無く、ホッとするシモンと横で物凄く残念そうに落ち込む木乃香。
しかし二人の顔は司会者の声で顔を上げる。
『さ~て続いてのペアはナギ&亜子ペア~! おお~っと、これはクオリティの高い美形の登場です!』
「「えっ?」」
呼ばれた名前に驚きの顔を浮かべる二人。
すると舞台にはタキシード姿を来た大人バージョンのネギと生徒の和泉亜子がウエディングドレスを着て、結婚式スタイルで現れた。
その余りのレベルの高さに会場が息を呑んでしまった。
「な・・・・あのボウズは何をやってるんだ・・・・・」
「はは、ネギ君も魔法の薬飲んだんやな~」
「ったく・・・・武道会は決勝で負けたのは知ってたけど・・・・・なにやってるんだよ・・・・・」
ネギとクウネルの決勝戦をシモンは結果だけしか知らなかった。
ネギの父親の問題が絡んだようだが、詳しく聞こうともしなかった。
どのみち今の様子だと何も問題は無かったことだけは分かり、ため息だけをついた。
(それにしても・・・・結婚式・・・・か)
二人の姿を見つめ、シモンは何か昔を懐かしむかのように二人を見た。
「あ~ん、亜子羨ましいわ~、ウチもシモンさんと出たかったな~」
隣では木乃香が目を輝かせてウエディング姿の亜子に見惚れていた。
その輝きはただ見惚れているだけではなく、憧れているようにも見えた。
(ウチもいつか・・・・)
チラッと木乃香はシモンを見上げ、また直ぐに顔を真っ赤にして舞台に視線を戻した。
(あ~も~、気ぃ早すぎるわ~、・・・せやけど・・・・海の日にプロポーズするてシモンさんにも言うたし・・・・)
舞台の二人とシモンを交互に何度も見て、木乃香は益々顔を赤くしていった。
(あっ・・・・・せやけどうちの場合はウエディングドレスは着んかもしれんな~・・・・もし京都で式なら着物・・・・って・・・・シモンさんはどっちがええんやろうな~)
一人勝手に将来の妄想を広げていく木乃香。
それ以前に超えなければならぬ困難があるというのに、今の彼女には頭になかった。
「なあ~、シモンさんはドレスと着物、どっちがええ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・シモンさん?」
木乃香は相変わらず大胆な発言をしていくが、なぜかシモンは舞台に目が集中していて、木乃香の言葉が耳に入っていなかった。
舞台にいるネギと亜子の姿をどこか複雑そうに見ていた。
(シモンさん? ・・・・どうしたんやろ・・・・真剣にネギ君と亜子を見て・・・・はっ!? シモンさんもウチとの未来を!? ・・・・・・なわけないか~・・・・)
ただ黙って舞台を見つめるシモンに木乃香は首を傾げる。
すると舞台にいるネギがパフォーマンスの一貫として亜子をお姫様抱っこし出した。
『おお~っと、伝説のお姫様抱っこです!』
ネギのパフォーマンスに観客達が沸きあがる。
「キャー、ネギ君スゴイわ~! ウチもあんなん好きな人にされたいわ~! なっ、シモン・・・・・・さん?」
木乃香は隣にいるシモンにハシャギながら声を掛けようとした。
すると舞台を見つめるシモンの表情が複雑そうな表情から、一気に寂しげで切なそうな顔になった。
周りから見れば気付かない程度の変化、しかし曲がりなりにもシモンを見てきた木乃香には気付いた。
(シモンさん・・・・なんで・・・・そんな寂しそうな・・・・・)
『これは素晴らしい! シンデレラを迎えに来た王子様! まさに王道の最強結婚式です!!』
(結婚式・・・・・・結婚・・・・・・・・あっ!?)
そして木乃香は全てを理解した。
シモンが今何を・・・・誰のことを想い、その様な表情をしているのかを理解してしまった。
そう、今シモンが思い出しているのはあの日のことだった。
(・・・・二ア・・・・・・)
結婚式の日、互いに永遠の愛を誓った日。
そして永久の別れの日である。
木乃香はそのことを知らない。
だが、シモンが誰を考えているのかは直ぐに分かってしまった。
それは自分が本当に超えねばならない相手だった。
思わずスカートの裾をギュッと木乃香は握り締めた。
さっきまでの心の高鳴りが一気に落とされた気がした。
だが、それでも前を向かねばならない。
(っ・・・大丈夫や・・・・そんなんずっと前から知っとったことや・・・・・・。ウチは・・・・この人を振り向かせるて決めたんや・・・、こんなんで落ち込んでたらアカン!)
そして木乃香はギュッとシモンの腕を掴み取った。
それに気付きようやくシモンもハッとして木乃香を見る。
すると木乃香はいつものように柔らかい笑みをシモンに向けた。
「ほな、シモンさん、ウチらは出られんみたいやし、次いこか~」
「・・・・木乃香・・・・」
「ふふ~ん、ウチな、今日のために色々と調べたんや! 今日はウチがシモンさんをエスコートしたる! まずは図書館島ツアーからや!!」
木乃香はそう言って自分の両手でシモンの腕抱きしめるように引っ張り、イベント会場に背を向けた。
(せや・・・ウチもがんばらなアカン・・・この人を・・・・ウチが幸せにするんや!)
しがみ付いた腕を放さぬように握り締め、木乃香は上を向いた。
シモンも木乃香はきっと自分に気を使ってくれたのであろうことに気付いた。
(木乃香・・・・ごめんな・・・・今日はお前を正面から見るって決めたのに・・・・・・・。・・・・・俺もまだまだだな・・・・ヨーコとの戦いで弱音を吐いたのに、ガキに気を使われてる・・・・・・、いや、木乃香は俺が思ってるほどガキじゃないのかもな・・・・)
自分の腕を引っ張り前を歩く木乃香を見て、シモンは頭を振って雑念を取り払った。
そして空いているほうの手で自分の頬を数発叩き、目を覚ます。
その音が木乃香にも聞こえて何事かと振り返ったらそこにはいつもと変わらぬ笑みを浮かべたシモンがいた。
「よしっ! じゃあ今日は木乃香に任せる! 俺を楽しませてくれよな!」
ニッと笑うシモン。それだけで木乃香も再び心が高鳴った。
腕を抱きしめながら笑みを浮かべて力強く頷いた。
この状況を影で除く複数の人影。
「気を使われるようじゃまだまだね」
「デモ木乃香さん美人・・・・・」
「たしかにヨーコさんほどじゃないけど胸も結構成長してるね。アイツは家事全般も得意だし、いい物件なんじゃないの?」
「ぶ~う」
「その前に後をつけるのは止めません?」
何だかんだで教会からずっと尾行していたグレン団のメンバー。
シモンと木乃香の様子を温かく見守っていた。
ヨーコはシモンとニアの親友として。美空は妹とクラスメートとして、と言っているが、案外暇だったのである。
「なに言ってるんすか、シスターシャークティ! 私たちの家族の戦いを見守るのは私たち家族の役目っすよ!」
「・・・・その割には随分と楽しそうですね・・・・」
ビシッと親指を立ててウインクする美空を呆れた目で見るシャークティ。
と言いつつ彼女も結局来ているのでお互い様である。
そしてこの場にいるのは彼女たちだけではなかった。
「まあまあ、美空殿の言い分は間違ってないでござる。やはりここは見守ることは大切でござる」
「そうです。私もお嬢様の初デートは影から見守りたいと思います」
「・・・・・・そもそも何故アナタたちまでいるのですか! 桜咲さん! 長瀬さん!」
シャークティはビシッと二人に向けて指を指した。
元々刹那は学園の仕事の告白防止の仕事のために学園を見回り、その際に楓に助力を頼んでいたのである。
しかし途中で実に怪しいグレン団の女たちの尾行を目撃してしまい、気づいたら合流していたのである。
「むっ、そう言っている場合ではないでござる! 木乃香殿は無理矢理シモンさんの腕に手を回しているでござるよ!」
「うっひょ~、やるね~木乃香! 身体だけじゃなく度胸もデカクなったか?」
「お嬢様とても幸せそう・・・良かったですね。シャークティ先生、あまり騒ぐと気づかれますので、もっと静かに行動しましょう」
「いえ・・・そもそも尾行する意味など・・・・」
しかしそう言っておきながら結局帰らないのが、シャークティに女性としての心があることを証明していた。
隣で木乃香を自分たちのように面白半分とは違って、温かい眼差しで見守る刹那。まるで母親のようである。
だが、刹那の気持ちも既に学園の中で周知の事実なのである。
それが少しヨーコも気になった。
「でも刹那、アンタはいいの? アンタもシモンを好きなんでしょ? さらに親友の木乃香が目の前でシモンと一緒にいて何とも思わないの?」
「えっ・・・まあ、たしかにうらやましいですけど・・・・お嬢様がとても幸せそうなので今は・・・・」
「あっでもでも~、よくよく考えりゃ三角関係っすか?」
「美空、何故うれしそうなのですか?」
「と言っても二人ともフラられているのでござるがな~」
話が急に自分に振られて戸惑う刹那。
今更自分の気持ちを隠す必要は無いが、今の木乃香を温かく見守りたいと思うのも事実である。
(このちゃん・・・・がんばってな・・・・)
心の底から親友を応援する刹那。そこにシモンと木乃香への嫉妬やわだかまりもなかった。
その気持ちを感じ取り、ヨーコもそれ以上は聞こうとはしなかった。
影で尾行されているとは知らずに、木乃香とシモンは純粋に学園祭を楽しんでいた。
木乃香の事細かに記された計画表どおり、図書館島ツアーや、遊園地顔負けのアトラクション、何個かエヴァと初日に行ったものと被ったりもしたが、木乃香には言わなかった。
「それにしても本当に広いよな~、この学園って・・・」
一休みのためにベンチに座り身体をグッと伸ばすシモンは改めてこの学園の広大さを感じ取った。
正直学校の中を未だに全て把握し切れていないのは驚きだった。
「せやろ、さすがに全部は無理やけど、まだまだこれから行く場所がいっぱいあるえ」
そう言って木乃香は手に持っている予定表を確認した。
それをチラッと覗き込んだが、字が小さくなるまで細かに書かれている予定表を見て、まだまだ終わらないことにシモンは口には出さないが、少し心が重くなった。
正直シモンはかなり疲れていた。
今日一日ずっと武道大会でボロボロの試合を繰り返していたのである。
怪我は癒えたものの、精神的にかなりマイッテいた。
だが隣でウキウキしながら計画表を眺めている木乃香を見ると何も言えなかった。
だがそれでも限界は訪れる。
自分の意思とは関係なく、自然に欠伸がこみ上げてウトウトしてきた。
(やばい・・・クラクラしてきた・・・・)
そうとは知らずに予定表の確認を終えた木乃香はポケットに紙を仕舞い込み、シモンを見る。
「ほなシモンさん、次・・・・・シモンさん?」
木乃香の言葉に返事は無かった。
そのとき既にシモンは夢の中へと旅立ってしまった。
最初呆然としてしまったが、木乃香も慌てて頬を膨らませながらシモンを揺らす。
「もうシモンさん! デート中に居眠りなんてアカン! まだまだ行くところが・・・・・」
だが全てを言い終わる前に木乃香は揺らすのを止めた。
シモンも起きる気配は無く、とうとう寝息まで聞こえてきた。
木乃香も最初怒りそうになった。しかしシモンの今日一日を思い出し、何も言うことなど出来なかったのである。
(そか・・・、シモンさんも疲れとるんやな・・・、ウチは知らんとはしゃぎ回って・・・・まだまだやな~)
木乃香は黙って隣に座りなおし、シモンの寝顔を見ながら自分の至らないところを感じ取った。
そもそも半ば強引に今日の約束をこじつけて、それを疲れた身体を押してまで今日一緒に回ってくれたのだから、自分が文句を言うのは筋違いなのかもしれない。
(せやけどウチも欲張りやな~。もっと・・・・まわりたかったな~。・・・・こうゆうとこが子供なんかな~・・・)
だが残念だという気持ちも捨て切れなかった。
すると木乃香はシモンとの座る距離を少しずつ詰めていった。
そして少し顔を赤らめながら手を震わせながらシモンの手に重ねようとしていく。
(せやからこれぐらいは許してもらわんとな~)
眠るシモンの手に自分の手を絡めようと思ったその時、シモンの頭が倒れてきて木乃香の肩に乗った。
「シ・・・シモンさん!?」
急に自分の肩に倒れてきたシモンに木乃香は動揺しまくってしまった。
「う~、かかか、肩ズンや~・・・・・シモンさん・・・・驚いたわ~、・・・・ホンマに疲れとるんやな~・・・・」
自分に寄りかかり寝息をたてるシモン。しかし重さは気にならなかった。
今はこの状況だけしか木乃香は気にならなかった。
普通は女が背の高い男の肩に寄りかかるのだが、大人の姿になった木乃香との身長差はあまりなく、シモンにとっても無理な体勢ではなく、むしろより深い眠りを誘った。
だが木乃香は逆に興奮が収まらずに心臓が高鳴っていた。
(なんかええな~・・・こうゆうん・・・)
気づいたらベンチを通り過ぎる多くの人たちがこの光景を見ながらクスクス笑っていた。
木乃香も急に周りの視線に恥ずかしくなり身を竦めた。
しかしその瞬間シモンの頭が木乃香の肩からずり落ちて、・・・・
「あっ・・・・シモンさん・・・・・・」
「「「「「「おおおおお~~~~!!!!」」」」」」
シモンの頭が木乃香の太ももにダイブした。
俗に言う膝枕である。
既に絶滅したと思われた恋人たちの王道に思わず周りから歓声が上がった。
これだけ歓声が上がってもシモンは一向に起きる気配は無かった。
木乃香一人、シモンの頭を膝の上で撫でながら、軽く会釈をして観客に応えた。
(アカン・・・・とろけてまいそうや・・・・・)
シモンの頭をサワサワと撫でながら木乃香はシモンの寝顔をずっと眺めている。