魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「それじゃあ皆、コイツも今日から俺達の仲間になった奴だ」
シモンが皆の前でそう告げると、一人の屈強なガタイをした男が現れた。
金髪のオールバックに黒いサングラス。ハリウッド映画に出てきそうな男。
そして背中にはグレン団のマークを貼り付けている。
そしてその人物は人ではなかった。
だが全員その人物に見覚えがあった。
それどころか昨晩死闘を繰り広げたばかりの者である。
あまりにも意外な人物にメンバー達はボケッとしてしまった。
しかしそんな呆然とするメンバー達の中、現れた男は無機質な機械声で自己紹介を始めた。
「田中エンキデス。ミナサンヨロシクオネガイシマス」
「「「「田中さんだーーー!?」」」」
現れた人物はなんと昨晩教会を襲撃したロボット、田中さんの一体だった。
「どういうことっすか、リーダー!?」
「そうですよ、何故昨日戦った田中さんが?」
騒ぎ出したメンバーを代表して豪徳寺と山下がシモンに尋ねると、シモンは笑いながら答えた。
「昨日一体だけ無事な奴が居てな、説得して仲間にした!」
「「「「はあッ!?」」」」
昨晩の戦いでほとんどの田中さんは倒したと思っていた。
しかし一体だけほぼ無傷で倒れているのを発見した。
シモンたちに機械の専門知識は無いが、その一体は壊れて動けないというよりも、細かいシステムが戦いの衝撃に巻き込まれてストップしてしまったように見えた。おそらくシャークティの技の影響だろう。
そしてその一体を見てヨーコがあることに気付いた。
シモンはこの世界で進化した螺旋族の力を用いてグレンラガンの技だけでなく、ラガンの特殊能力でもあった螺旋界認識転移システム、即ちワープの力をコアドリル無しで使用したのである。
つまりやろうと思えば、ラガンの目玉と呼ぶべき能力も使えるのではないかということである。
ラガンインパクト。
この世界ではシモンインパクトと呼んでいた。
この世界では相手を倒すための必殺技として使用していた。
しかし元の世界でのラガンインパクトの使い方は、接続したメカの傷を完全に修復し、自分の支配下に置いてしまうという能力である。
その結果、
「昨晩ハ申シ訳アリマセンデシタ。今日カラグレン団トシテ気合ヲ入レテガンバリマス」
新たな仲間が誕生したのである。
田中さんのシステムを回復させ、シモンの螺旋力を使い田中さんは、田中エンキと名付けられ、新たに生まれ変わったのである。
他の田中さんにも試したのだが、損傷が激しかった上にドリルとの接続を放すと傷が元に戻ってしまうため、生き返ったのは一体だけだった。
そしてその一体こそが、この田中エンキなのである。
「「「「・・・・・・・・・」」」」
まだメンバー達は呆然としている。それはある意味当然の反応であった。
今日戦う相手の仲間だった上に、ロボットである。それにシモンの説明も実に中途半端である。
もしこれがネギたちだったなら、螺旋力やラガンインパクトなどについて事細かい説明を求められたかもしれない。
だが、彼らは違った。さすがに最初は驚きこそしたが、彼らは既に細かいことを気にしないグレン団に染まっているのである。
静寂はすぐに歓声へと変わった。
「おうよ! 細けえことは気にすんな!!」
「よろしくな、エンキっち!!」
「新たな仲間、歓迎しよう!!」
「「「「そうだ、脱げビーム万歳だ!!!」」」」
男達は拳と大声を上げて新た仲間を皆盛大に歓迎した。
わだかまりも何もそこには存在しなかった。
あまりにも簡単に受け入れられてしまう現状に、ヨーコたちは笑うしかなかった。
「いいわね~、これが男の友情かしら?」
「そうですね。昨日の敵は今日の友・・・・ですね」
騒ぎの中心から少し離れた場所でヨーコたちはこの光景を眺めていた。
「ふふ・・・それにしても田中エンキね~」
「はい、確か・・・ヴィラルと言う獣人のガンメンでしたね」
「ええ、そうよ。宇宙一打たれ強い奴よ」
目覚めた田中さんに他と見分けがつくように、シモンは新たな名前を与えた。
それは何度も自分達の前に壁となって現れた男のガンメンの名前だった。
敵だった者が新たな仲間になる。そして田中さんのビーム。シモンはそれを見てヴィラルを思い出した。
大グレン団だけでなく、自分達を何度も苦しめたあのガンメンに敬意を表して、シモンはこの世界にその名を残そうと思い、この名前を与えたのである。
ヨーコにもその気持ちが理解できて、思わず苦笑してしまった。
「おい、・・・・シモンの能力といい、その獣人もガンメンも私は知らんのだが・・・・」
苦笑するヨーコたちの傍らでエヴァは少し拗ねたような口ぶりで言う。
どうやら未だにシモンについて知らないことがあるのが相当不満なようである。
ヨーコが知っているのは仕方がないことである。
しかし一緒に暮らしているとはいえ、自分の知らないことをシャークティたちは当然のように知っているのが相当苛立っているようだ。
そんな頬を膨らませるエヴァに対してヨーコとシャークティは少し意地悪な表情を浮かべた。
「あら、意外と知らないのね、シモンのこと」
「そうですね、私や美空もココネも随分前から知っていましたけど」
「むっ!? キサマら~~、私の許可無く色々知りおって~~~」
ヤキモチを妬いてギャ―ギャー騒ぐエヴァをからかいながら、ヨーコたちは、すでに仲間達に囲まれて祝福されているエンキを暖かい眼差しで見守った。
そして自分と同じようにエンキを見守っているシモンに向かって目で合図を送った。
(よかったわね、きっとヴィラルも喜ぶんじゃない?)
ヴィラルのエンキがどうなったかは知らない。
すでに政府に廃棄されているかもしれない。
それは新政府が樹立してから何度もゲリラ活動してきた兵器なのだから仕方の無いことかもしれない。
しかし自分達が地上に出る前からヴィラルはエンキと共に地上を駆け巡っていたはずである。
敵ではあったが、せめてその名前だけでも残そうというシモンのヴィラルへの想いをヨーコも理解できた。
ヨーコの視線に気付き、シモンも苦笑しながら笑みを返した。
「・・・・おい・・・・」
しかし今のこのチビッコには目で会話し合う二人のそんな些細な仕草も嫉妬の対象でしかなかった。
「キ・・・キサマら・・・何イチャついてる」
当然イチャついてるわけではない。だがある意味この世界でもっともシモンを理解している女として、ヨーコはエヴァにとっては間違いなく宿敵でもあり、僅かな行動も警戒対象だった。
当然ヨーコにその気は無い。だが自分より実例年齢は遥かに上のくせに、普通の女の子のように可愛らしく睨むエヴァを少しからかいたくなり、ヨーコは少し大げさにため息をつきながら前髪を掻き揚げた。
「しょうがないじゃない。だって私・・・・・」
「・・・・・なんだ?」
「シモンに告白されてるんだし♪」
「――うっ!?」
人差し指を唇に当てて大人の余裕の笑みを浮かべながらヨーコ告げた。
その言葉に言葉を詰まらせたエヴァだが直ぐに立ち直ってヨーコに掴みかかった。
「きき・・・キサマはフッたんだろうが!! それにアイツは私の物だ! 今更キサマにやらんぞ!!」
「あら、私・・・・フッたかしら?」
「・・・えっ?」
大会でのシモンの告白。
フッていると言えるが、明確な答えは出してないとも言えた。
もっともシモンもヨーコもそういうつもりでお互い口にした言葉ではなかったのだが、エヴァはそのシーンを思い出し、ワナワナと震えだした。
「うおぉぉーーい!! ふふ・・・ふざけるなー!? あれはフッたのと同じことだ! それよりも本気じゃないだろうな!? 本気だったら許さんぞ!」
「でもね~、今生きてる男の中で私にとって一番いい男はシモンだしね~」
「うう~~、ダメだぞ! ダメだからな! (まずい!? やはり一番の強敵は木乃香や刹那でもシャークティでもない、この巨乳女だ!!)」
ヨーコの冗談を真に受けて涙目になりながらエヴァはヨーコの胸を睨みつけた。
その様子はとても推定年齢600歳には見えない小娘の姿だった。
エンキの歓迎やエヴァの嫉妬が場に広がり、そこはとてもじゃないが今から喧嘩をしにいくような風景には見えなかった。
笑いの声が響き渡り、実にほのぼのとした光景だった。
だが、時間は確実に迫っていた。
「リーダー!!」
突如声が聞こえた。
息を切らせながら此方に向かって走ってくる者がいる。
「達也、ポチ、偵察ご苦労だったな。それで、何か変化あったか?」
戦いの前の最後の確認として学園に様子を見に行かせた二人が息を切らせて帰ってきた。
その手には一枚のチラシとなにやら魔法使いの杖のようなものを手に持っていた。
「ああ、なんかでかいイベントをやるみたいだぜ」
達也はそう言って手に持っていたチラシをシモンに渡した。
ヨーコたちも気になってシモンの肩越しからその紙を覗き込むと、中には意外な事が書かれていた。
「注目注目ー!」
「最終日学祭全体イベントのお知らせだよー!」
大勢の人が行き交う世界樹広場にて、ネギと同じ魔法使いの様な仮装をした裕奈やまき絵たちが広告を配っている。
「あれ? 何で今更、学祭全体イベントの宣伝なんか・・・」
「去年の鬼ごっこが凄過ぎたんで今年はかくれんぼでいくとか言ってなかったっけ?」
「どうぞ」
「お、こりゃどうも」
興味を示した生徒達が広告を受け取って目を通す。するとそこには大人バージョンで魔法使いの姿をしたネギやローブを羽織ったクウネルのような人物が描かれており、火星軍団vs学園防衛魔法騎士団というタイトルがデカデカと書かれていた。
「―――以上のようにリニューアルした最終日イベント! 皆様の御参加をお待ちしておりますわ!」
同じく仮装してローブと杖を持った委員長が言うと、まき絵らが実演を見せることになった。
「こちらが騎士団に入団すると支給される装備の数々! 他にも色んな種類があるからねー♪ 尚、このローブは安全装置も兼ねてるから参加する人は必ず着用するよーに!」
ローブを着たまき絵が前に出て、裕奈が説明する。
「そして、これが武器。魔法使いの杖!」
そう言って取り出したのはとても可愛らしい小さな杖。しかし実はこれは見る人が見れば分る、本物の魔法の杖である。
しかし何も知らないまき絵たちはノリノリで観衆の前で実演を始めた。
「可愛いとバカにするなかれ!! 一言呪文を発すればこの通り・・・」
「敵を撃てーーーっ(ヤクレートゥル)!!」
まき絵が呪文を唱えて杖を振ると、パシュッと光が弾けた。
「この光に人体への影響はありません!! 更にバズーカタイプなど、様々な武器を用意! 自由に選べます♪」
本物の魔法だとは微塵も疑わず、むしろ凝った仕掛けと充実した内容に、ほとんどの生徒達が関心を抱き、次々と支給される武器に群がり始めた。
続々と集まる参加者達をネギたちは離れた場所で眺めていた。
「これで2500のロボットには対抗できるってわけだな、しかし兄貴も大胆な作戦を思いつくぜ。まさかイベントに催して生徒達に協力させるとはな・・・」
カモが感心したような口ぶりでネギを見上げた。
するといつの間にかこの場に加わっていた朝倉と同時にイヤラシイ顔つきに変わっていった。
「うん、確かに悪くない作戦だね。でもこの作戦、超りんが一般人に危害を加えないことが大前提だよね?」
「超が本気で堅気に手を出すようなコトがありゃすぐ引かせるさ。その場合、奴はそこまでの女だってこったな。逆にそんな小悪党ならば与し易し、と学園長や魔法先生は考えてるだろうぜ」
「・・・この作戦、立案したのはネギ君だよね。ネギ君もそう考えてたと?」
そう朝倉が尋ねると、カモはニヤリと笑みを浮かべ、大笑いした。
「それよそれ!! いやー、俺っちも、まさか兄貴の口からこんな作戦が出て来るとは思わなくってよー!」
「ネギ君、一皮剥けちゃったかなーっ。他人様の迷惑まで勘定に入れて動けるよーになれば、リーダーの素質充分だよねぇ!」
「いやもー、おっちゃん嬉しくなっちゃってよぉー! 兄貴は甘ちゃんの良い子ちゃんで真面目過ぎなのが心配の種だったんだが……」
「ちょっとアンタたちいい加減にしなさい!! 何、不気味な笑い声出してんのよ?」
「そ・・・そうですよ~、僕はそんな・・・」
今までのネギとはかけ離れた提案にカモたちは笑いが止まらずに朝倉とともに不気味な声を出していた。
アスナたちもそれに顔を引きつらせながら突っ込みを入れた。
そして一頻り笑いが収まったカモはもう一つの事を尋ねた。
「それでシモンの旦那はどうするんだ? 超に関しては居場所の予想もついてねえし・・・」
「それも大丈夫だよ。シモンさんが目指すのは超さんの居るところ。シモンさんならきっと相手が何人居ても辿り付くはずだよ。つまり片方を見つければ自然に・・・・」
「両方そこに居るというわけね。簡単でいいわね」
学園祭のイベントの衣装に身を包み、ネギたちは作戦を確認した。
ネギの立てた作戦。それは魔法具を使い、一般人の者達と協力し大量のロボット達へ対抗するという大胆なものである。
五月が事前にタカミチに報告したのが幸いして、ネギたちが学園長室についた頃にはすでに話は他の魔法先生、生徒に知れ渡っていた。
そこでネギは話を聞き、今回の作戦を思いついたのである。
彼を知るものならば、今回の一般人を巻き込む作戦はネギらしくないような気がした。
しかしネギの目が非常に頼もしく感じ、さらにこの作戦も実に効果的だと感じ、魔法先生たちは全員ネギの話に乗った。
「はい、そして二人を捕まえて・・・・・」
「捕まえて・・・・?」
アスナたちはゴクリと唾を飲み込み、ネギの言葉を待つ。すると実に爽やかな笑みで・・・・
「お説教です♪」
それがネギの答えである。
二人の大義も道も関係ない。
多くのものを巻き込み騒ぎを起こした二人に、この学園の教師として叱る。それが教師としての行動であった。
アスナたちもそれで納得したのか、笑顔で頷いた。
元々一部を除いて彼女達も歴史の改変だの魔法による救済など、細かいことは分からないし、考えない者たちである。
しかし今のネギの答えは実に単純明快なもののうえに、実に納得できるものであった。
「よっし、それじゃあ次にシモンさんだけど・・・・・」
「アスナ~、ネギく~ん!!」
話を遮るように木乃香が駆け寄ってきた。その隣には刹那も居る。
「木乃香さん、刹那さん、どうでした?」
「ううん、シモンさんも、美空ちゃんたちも教会におらへん」
息を切らせながら木乃香は告げる。
「シャークティ先生たちが学園長の呼び出しを無視したので、もしやと思ったのですが・・・・。超さん同様にシモンさん・・・・いえ、グレン団の方々も既に動き始めているようです」
木乃香と一緒にシモンを探しに教会まで行った木乃香達だが、既にそこはもぬけの殻だった。
刹那の言ったとおり、シャークティと美空、そしてココネは今回の学園長の緊急の呼び出しに応じなかったのである。
そのことについて他の魔法先生も何かあったのではないかと心配したが、緊急事態のため、今は見過ごすことにした。
しかし美空はともかく真面目なシャークティが現れないことに、ネギは確信した。
それがシャークティたちの答えなのだと。魔法使いや教師としてではない、グレン団の誇りと仲間を彼女達は選んだのだと。
そのため、ある程度予想していたことなので刹那の報告も冷静にネギたちは受け止めることが出来た。
「とにかく、グレン団の方々がどう行動しようとも、当面の目的は我々と同じはずです。彼らも2500対以上のロボットを警戒しているはずです」
「つまりシモンさんたちがどう動いても、私達はロボ共と超に集中すればいいってことか?」
「そうすればきっとシモンさんは自然に現れるから・・・・」
「そこをみんなで取り押さえる。私達は見つけたら連絡をすればいいってわけだ♪」
夕映、千雨、のどか、ハルナ、非戦闘員の彼女達は直接ロボット達と戦うことは出来ないが、シモンと超の両名を探すことなら出来る。
それぞれのアーティファクトを手に持ち、自身が出来る最大限のことをしようとした。
「怪我してもウチが治したるえ」
「お嬢様も気をつけて下さい。戦闘と取り押さえる仕事は私達に任せてください」
「ウム、中々難儀でござるが、これくらいやらねば・・・・」
「そう、あのアニキさんに笑われるアル!!」
古の言葉を聞いて皆、ネギの首にぶら下がっているコアドリルを見つめて笑った。
古の言った人物はシモンのことではない。自分達を助けてくれたあの男のことである。そのことを全員理解し頷きあった。
すると一人の女教師が駆け寄ってきた。その手には刹那と同様の剣が握り締められている。
彼女も魔法先生の一人で神鳴流の剣士の葛葉刀子である。
「ネギ先生、一応周囲を軽く見渡したのですが、シスターシャークティも例のシモンという方もいませんでした。」
「そうですか・・・・タカミチもシャークティ先生の携帯は電源が切られてるって言ってたし・・・・」
出来ることならシモンだけでも早めに捕らえておきたかったのが、学園側の意見である。
さすがに戦いが始まれば、自分達も超たちとの戦いに集中しなければならない。その状況で二人を同時に捕まえるのは困難であった。
「逃げ出した・・・というのは・・・」
「「「「「「それは絶対ありません!!」」」」」」」
戦力差も明らかなため、シモンたちが逃げ出したのではと刀子は思ったのだが、その考えは全員に即効で否定されてしまった。
味方ではないが、絶対にシモンたちは逃げ出したりなどしないという確信を秘めた目をネギたちはしていた。
しかしシモンたちが見当たらない。
それが少し不気味に思えた。いつもどこにいても争いの中心となっている男が、今の所音沙汰無しなのである。
そもそもシモンたちにも今回の作戦は予想外だったはずである。
シャークティたちが魔法先生たちの作戦会議に参加しなかった以上、まったく予期せぬ事態のはずである。
しかし自分達が取り押さえる前にシモンたちは姿を消した。まるでこちらの作戦が筒抜けになっているように思えてならなかった。
「随分と可愛い家じゃない」
「ほんとだ、やっぱりエヴァも女の子なんだな」
「ふん、・・・・まったくドカドカと人の家に上がり込みおって・・・」
少し不機嫌そうに頬を膨らませるエヴァ。しかし当然であった。
学園から少し離れた場所にあるエヴァの家。先ほどまでネギたちが居た場所である。
しかし今はシモンを始め、50人以上の男達が家の前で屯っているのである。
エヴァの家のメルヘンさを完全に損なわせるほどのむさ苦しい場所と化していた。
「しかしネギ先生たちもまさか私達がここに居るとは思っていないでしょう。これで戦いの前にシモンさんを捕らえられるという心配もなくなりましたね」
「一時とはいえ場所を提供してやったんだ。感謝することだな」
エヴァはさも当然のように言う。
「でもまさか他の生徒を巻き込んでの騒動になるとは思わなかったわね。ネギも随分とやるわね」
達也が持ってきた魔法の杖をクルクルと回しながらヨーコが呟いた。
エヴァによれば、この杖は本物の魔法具であり、自動人形やゴーレムと言った非生命型の魔力駆動体を活動停止にする専門の道具である。
細かいことはよく分らないがようするにロボットにはこれ以上ないほどの効果を持っているそうである。
つまりこれを使って2500のロボットに対抗しようというのが学園側の作戦である。
「そうっすね~、それにまさかアニキと超の両方を捕まえようだなんてね~」
「でも、そう簡単にはいかなかったみたいだな。これもココネのお陰だ!」
シモンはココネの頭を撫でながら笑う。ココネも表情こそ変わらないが、実に嬉しそうにしてシモンの腰元に抱きついた。その際エヴァの目つきがピクッと動いたが、ブツブツと自分自身に「あれは兄妹のスキンシップだ・・・」などと言い聞かせていた。
たしかに今回のネギたちの作戦は予想外であった。超どころかシモンまで捕まえようとしていたのである。
当然召集を無視したシャークティたちはその内容を知ることは出来ない・・・はずだった。
「美空同様にココネの力を学園側は知りませんからね・・・。まさか自分達の作戦や現在行なわれている念話が全て筒抜けになっているとは思わないでしょうね」
そう、シモンたちには全て筒抜けだったのである。
シモンたちも先ほどまでは知らなかったが、ココネにはどんな微弱な念話も感知出来るという特技を持っているのである。
携帯電話だと超に妨害されると予測した魔法先生たちは現在学園内で念話を何度も使用している。
しかしその結果、ココネの力によってもう一つの勢力に作戦を気付かれるというミスを犯してしまったのである。
ネギの作戦通りにするなら、共通の敵を持っているとはいえ、できればシモンは戦いが始まる前に捕らえたかった。そうすれば後は超だけに集中できるからである。しかしそれももはや敵わない。まさかシモンたちが学園から少し離れたエヴァの家にいるなど、誰も予想できなかったのである。
そして筒抜けなのは学園側の動きだけではなかった。
「作戦決行時刻間近、ソロソロ第一部隊ガ学園ノ湖カラ出現シマス」
「リーダー、エンキも言ってるぜ。そろそろ田中さんの群れが現れるってよ」
エンキの言葉を聞いて豪徳寺はシモンに告げる。
その言葉を聞いて他の者も、準備を整え始めた。
学園側の動きが筒抜けだが、実は超たちの行動もある程度シモンたちには筒抜けなのである。
それはエンキのお陰である。
仲間になったエンキは自身にインプットされている作戦のデータを全て公表してくれたのである。
これにより作戦決行の時刻、狙いの世界樹、またはその周辺ポイント。さらに学園結界に封じられた巨大兵器の存在などを知ることが出来た。
「周辺ポイントや先発部隊のロボット達は学園側に任せればいい。心配はいらないんだよな?」
本来なら既に全員で世界樹の広場や、出現場所で待機するべきなのだが、学園側はシモンも探しているために、あまり下手に動くことは出来なかった。
しかし学園側の作戦通りなら今自分達が危険を押して出る必要は無いと感じ、シモンたちは今此処にいるのである。
「はい。現在支給されている武器と生徒達のポテンシャル、さらにイベントに便乗して魔法先生たちも力をフルに使うでしょう。エンキさんの情報どおりなら、問題はないです・・・・ただ・・・」
「わかってるわ、エンキの言ってた学園祭限定の特殊弾ってやつね」
「はい、攻撃された者はレベルに関係なく全てが終わった後夜祭まで強制的に時間跳躍させられるという反則技。これは最も警戒しなければならないものです」
シモン、ヨーコ、シャークティたちは最後の話し合いに入った。
他のメンバー達に細かい説明はしない。
当然魔法に関してのことは豪徳寺たちは知らない。
この三人が出来るだけ細かく考えて、出来るだけ作戦を簡単に仲間に伝える。それが目的である。
「封じられた巨大兵器。そして茶々丸さんの動かすグレンラガンモドキ。これが出てくれば魔法先生達も苦戦を強いられます」
「ああ、そこで俺の出番だな・・・・」
シモンはニヤっと笑って口を挟んだ。
その言葉にヨーコとシャークティも笑みを浮かべて頷いた。
シモンたちが最後の作戦を立てている中、他のメンバー達も徐々にやる気が顔にみなぎって来た。
「よ~し、もうすぐ俺らの出番ってわけだ!! ヤロウ共、準備はいいか!」
「おう! ってなんで豪徳寺が仕切ってるんだ?」
「そうだそうだ! リーダーはシモンさんだろ!」
「バカヤロウ! リーダーが今作戦会議中だから、ここは副リーダーの俺が・・・・」
「「「「「異議あり!!!!」」」」」
男達は全員口を揃えて、突然の豪徳寺の副リーダー宣言に異議を申し立てた。
「薫ッち、それはないんじゃねえか?」
「そうだよ、やはり副リーダーはこの僕が・・・・」
「山下も待て、やはりここは武道会の本戦に出場した俺が・・・・」
「待ってよ、ポチっち!! それなら私なんて準々決勝まで行ったんだよ? さらにグレン団としては私のほうが先輩!!」
「おおい、いくら美空ちゃんでも譲れないぜ!!」
豪徳寺の発言により戦いを前にして、なんと副リーダーの座を皆で争い出した。その中には美空も含まれている。
あまりにもバカらしい光景にヨーコとシャークティにエヴァはため息をついて眺めていた。
すると黙っていたココネが再び何かを感知してそれを告げる。
「・・・倒した田中さんの数にポイントがついてランキングが作られるミタイ・・・・」
ココネが感知したのは生徒達のやる気を更に盛り上げるために学園側が演出した一つのアイディアだった。
するとこの言葉を聞いて全員の目が光った。
「よっし、じゃあこうしようぜ! 一番ランキングが上だった奴が新生大グレン団の副リーダーだ!!」
「ちょっと、達也。これは遊びじゃ・・・「「「「異議なしだーー!!」」」」・・・」
達也の発言に不謹慎だと口を挟もうとしたヨーコだが、その提案に全員が賛成してしまった。
「それでいこうぜ、たっちゃん!! だが副リーダーの座は俺のもんだ!!」
「何を言う、ここは俺だ!」
「薫っちも、ポチッちも何言ってんのさー!? ここはこの私が・・・」
「私ハドウスレバ・・・・」
「エンキも参加したまえ。グレン団全員に資格ありだ」
「アリガトウゴザイマス、山チャンサン」
いつの間にか旧グレン団のメンバーの意見は無視して、この戦いの目的が副リーダー決定戦のようなものに変わってしまった。
ヨーコたちは呆れてため息をつくが、そんな物の座を本気で手にしようとしている仲間達の姿がうれしくもあった。
「ムッ」
「どうしたエンキ?」
「予定時刻ヨリ少シ早イデスガ、第一部隊ノ出現ヲ感知シマシタ」
「「「「「!?」」」」」
全員の笑いが止まり真剣な顔つきへと変わった。
ついに自分達の戦いの時間がやってきたのである。
シモンが立ち上がり皆の前に立った。そして一人一人の顔を見渡す。その誰もが実にいい表情をしていた。
そして豪徳寺が口を開く。
「そろそろだ、勝とうぜ、リーダー!」
シモンだけでなくシャークティやヨーコも含めて全員が頷いた。
「当たり前だ!! 教えてやろうぜ、俺たちが一体誰なのかをな!!」
グレン団のコートを靡かせて背を向けたシモンの後に仲間達は黙って続いた。
向かう場所は戦場。
自分達を超鈴音に証明するために彼らは向かった。