魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
十字架の光と巨大な雷の交錯は、湖の上からも見ることが出来た。
『今のは・・・。いずれにせよあまり時間を掛けてられませんね・・・』
ラガンモドキのコクピットから茶々丸はこことは別の戦いに意識が行った。
そして自身もそろそろ動き出すべきだと判断した。
だが、そうはさせまいと巨大な拳が向かってきた。
魔道グレンの拳である。
ブータとエンキの二人の意思に動かされ、茶々丸に襲い掛かる。しかし・・・。
『無駄です・・・』
茶々丸は拳を避けようとはしない、むしろ軽々と片手で掴み取ってしまった。
「ぶう!?」
エンキの肩に乗るブータが思わず声を上げた。
するとスピーカーから茶々丸の淡々とした声が聞こえてきた。
『底が見えました・・・。ブータさんの螺旋力には驚きましたが、シモンさんから比べれば想定の範囲内です』
グレンラガンモドキは掴み取った魔道グレンの拳をひねり取った。そして巨大なミシミシと捻れる音が響き渡る。
ブータの螺旋力を浴びてエンキはなんとか逃れようと抵抗しようとするが、想像を超えるグレンラガンモドキの力が魔道グレンの片腕を捻り取った。
「ちょっ、あの鬼みたいなロボットの腕が取れたーーーッ!?」
「茶々丸さんスッゴ!?」
「しかしどっちが本当に味方なんだ? 鬼のほうに乗っているのは田中さんだが、さっきのドリルの兄さんと仲間みたいだし、どうなってんだ?」
未だに続くロボットバトルに観客は大盛り上がりだった。しかしその戦況は明らかに傾いていた。
「ぶう!?」
「片腕損失、戦力40パーセントダウン。科学制御サレテイルタメ、再生能力ハ遅イ・・・・」
ブータに対してエンキは淡々と述べるが、言葉の内容は明らかに窮地を示していた。
『終わりです、ブータさん、そしてT-ANK-α3。最終日の最も魔力の満ちるこの時間帯ではこの兵器に勝つのは不可能です・・・』
「ぶみゅうう! ぶふッ、ぶふっ!!」
世界樹の力を使い動いているグレンラガンモドキには付け焼刃の魔道グレンでは敵わないという茶々丸の言葉。
しかしエンキの肩の上でブータはその小さな体から大きく叫んだ。
ブータが何を言っているのかは分らない。しかし茶々丸にもエンキにも、ブータが何を言いたいのかよく分った。
「あきらめない」その言葉が瞳に宿っているからである。
『・・・T-ANK-α3、アナタならこの状況、互いの戦力差から結果を導き出せるはずです・・・それでも退かないのですか?』
同じ機械として計算で導き出してしまう悲しさ、それは茶々丸もエンキも同じだった。
「ブータサンカラノエネルギー供給率、最高テンションノ状態ノ時デモ覆ラナイデショウ、・・・片腕ノ損失ガ無クテモ勝率ハ・・・・30パーセントホドデシタ」
「ブミュウ・・・」
『そうです、そしてそれがたった今ゼロになりました。・・・退いてください・・・』
茶々丸とエンキの二人の会話、それは未だに闘志を燃やすブータを悲しませるような内容だった。
こんな時シモンがいたならきっと言い返しただろう。しかし自分にはそれが出来ない。
そして機械であるエンキにも言えない・・・ハズだった。
「デスガ・・・私ハリーダーニココヲ任セルト命ジラレマシタ・・・」
「!?」
『!?』
相変わらずの温かみの無い機械声。
しかしその言葉にブータと茶々丸は顔を上げた。
「私ガT-ANK-α3デハナク、田中エンキデアル以上、一度決定シタコトヲキャンセルデキマセン・・・」
それは命令を忠実にこなすだけのロボットなのか、それともエンキが進化しようとする力、螺旋力を受けたゆえの変化なのか分らない。
しかしエンキの言葉には茶々丸と同じような彼自身の感情をブータは感じた。
本来ならバグである。
しかし茶々丸は理解できた。
論理的に説明することは不可能だが、彼女はエンキの言っていることが分った。
『分りました・・・ならばT-AN・・・いえ、田中エンキよ、アナタを敵として排除します』
だからこそ、手加減は無用だった。
何をしでかすか分らないグレン団である以上、茶々丸は全力でエンキを破壊することを決めた。
そしてその証として茶々丸はグレンラガンモドキの腕を変形させた。
その形こそまさしくグレン団に対する最大の皮肉かもしれない。
『アーム部分変形完了。メガドリルを改め、ギガドリル装備完了』
グレンラガンを真似た姿で巨大なドリルの形に腕を変形させた。
その姿に生徒達は大いに興奮し、「漢の魂だ!」などと騒ぎ出す。
しかしこれがただの冗談ではすまないことはエンキにもブータにも理解できた。
魔力で強化された鉄のドリルは激しい音を立てて回転し始めた。触れれば確実に磨り潰されることなど目に見えていた。
『あなた方が望んだ結果です。では・・・いきます。ギガドリルブレイク、発動!!』
シモンのようにドリルを巨大化させないものの、ただでさえ巨大なロボットの腕に装着されたドリルである。
それを魔力で強化させ、助走をつけて走り出した。
「いいのか!? アレいいのか!?」
「あのロボ死ぬぞ!?」
湖の上を激しい波を立てて走り出すグレンラガンモドキ。
そしてその腕に装着したドリルの回転は激しい風を巻き起こし、あたり一面に突風が吹き荒れる。
だが、エンキはインプットされた己の使命から逃げ出さなかった。
「超螺旋シールド、展開」
「ブミュウゥゥ!!」
エンキは魔道グレンの頭上で正面から向かってくるグレンラガンモドキに両手を広げて迎え撃つ。
そのエンキの動作を真似して魔道グレンも片腕を伸ばし、巨大なシールドを張った。
巨大な緑色のオーラに包まれる魔道グレン。そのオーラに巨大なドリルがぶつかった。
シールドに衝突したドリルから強烈な削り音が響き渡る。
だが、その行く手をシールドがたしかに防いだ。
『やりますね・・・しかし・・・時間の問題です・・・・』
ドリルが防がれはしたが、茶々丸に慌てている様子は無い。
それどころか防いでいる魔道グレンのもう片方の腕に徐々に亀裂が入っている。
「超螺旋シールド・・・破損・・・展開率・・・90・・・85・・・70・・・」
いかに強大なシールドを張ろうともその衝撃を完全に防ぎきれるものではない。
それどころか衝撃に耐え切れずグレンの腕が徐々に破損していく。
そして・・・
「ぶうううう!?」
ブータが悲鳴のような鳴き声を上げる。
それは共に戦うエンキの両腕にも亀裂が入っていくからである。
「展開率・・・60・・・・50・・・」
その瞬間何かが壊れた音がした。
人間が傷ついたときに出来る音ではない。
これは物が壊れる時になる音である。
「展開率・・・45・・・機体田中エンキ・・・上腕部分・・・損傷・・・」
魔道グレンだけではない。
エンキの鉄の腕が片方飛んだ。
「ぶひィ!?」
肩に乗るブータが徐々に焦り出し、何度も悲鳴のような鳴き声を上げる。
徐々に壊れていく仲間を助けるために、自身の奥底から気合を振り絞る。
しかし・・・
「展開率低下・・・30・・・・」
現実は残酷だった。
ブータが気合を振り絞れば振り絞るほど、衝撃が増し、その力にエンキは耐えられず、ボディの損傷が余計に早まった。
どうすればいいかブータには分らなかった。
ただ、螺旋力と共にその小さな瞳からは茶々丸とエンキには流せない、涙がとめどなく溢れ出した。
「ブータサン、今スグ飛ビ降リテ退避シテクダサイ。数秒ダケナラコノ機体デ持チ堪エマス」
計算できるからこそ分ってしまう結果。
だが、一度決めたことを止めることが出来ない矛盾。
エンキはこの場で命を終わらせるつもりである。
そんなことは出来ない。
ブータは何度も首を横に振ってその場を動こうとはしない。
だが、そうしている間にも確実にシールドは削り取られていった。
ブータの涙、そしてエンキの損傷は茶々丸の目にも入った。
茶々丸はドリルを廻しながらもう一度エンキに告げる。
『・・・大量生産型とはいえ、機体が大破すればハカセでも直すことは出来ません・・・・・そのボディは限界です・・・・それでも・・・戦いますか?』
同じ同胞としての最後通告だった。
もしこの相手が人間だったなら茶々丸は命令に逆らってでも攻撃を中断しただろう。
感情が芽生え始めた彼女は、時には少しだけ命令に逆らうこともある。それが茶々丸の優しさだった。
しかし、エンキには容赦しなかった。
同じ同胞だからこそ、仕える主のためにその力を使うのが彼女達の使命。それが理解できるからこそ、茶々丸は全力でエンキと戦う。
だからこそ、茶々丸の最後の警告にエンキが応じなければ、彼女は容赦なく薄くなり今にも壊れそうなシールドごと、魔道グレンとエンキを貫くつもりである。
するとエンキは己のボディの欠片飛び散る中、最後の最後までシールドを張り続け、口を開く。
「コノ状況デ発スルベキ言葉・・・新生大グレン団ノメンバーガ発スルベキ言葉ヲ検索・・・。・・・一件照合・・・」
何を思ったのかエンキは頭の中で何かを検索し始めた。
その間にサングラスまで飛んだ。
するとその下に隠れていたエンキの瞳が検索を完了し、目がチカチカ光りだした。そして茶々丸に向かって告げる。
それは気のせいだったかもしれない、エンキは機械。
言葉に変化があるはずはない。
しかしそのときのエンキの言葉はいつもより強い口調に感じた。
「検索結果・・・・田中エンキハ・・・本望デス!」
「!?」
その瞬間、エンキは力ない人形のようにバランスを崩して倒れそうになる。
そして完全にシールドが解けた。
目の前には巨大なドリルが勢いを止めることなくエンキに振り下ろされようとしている。
エンキの肩から落ちるブータには全てがスローモーションのように見えた。
数秒後、高速回転したドリルはエンキと魔道グレンを同時に粉々にしてしまう。
だが、それを止める術は無い。
零れる涙もスローだった。
しかし自分には、偽者のグレンラガンのドリルによる攻撃を防ぐことは出来ない。
新たな仲間も守ることが出来ない。
その時ブータは昔を思い出した。
それは走馬灯なのかもしれない。
しかし懐かしく・・・悲しい光景だった。
エンキが言った言葉、「本望」これと同じ言葉を似たような状況で言った男がいた。
あの男も敵だった。
千年もの間機械のように己の本能を封じ込めた男だった。
しかしその男は本能を取り戻し、最後はその命を使い、自分達のために道を作ってくれた。
男は言った。
―――螺旋の命の明日を作るならば、本望だ!!
シモンも認めていた。
彼も自分達の仲間だった。
そしてあの戦いで光の中へ消えていった仲間は彼だけではない。
―――コイツはシモンの! 大グレン団の! 人間の……いや、この俺様の魂だぁぁあ!!! てめぇ如きにッ! 食い尽くせるかァ!!!
そうだ・・・思い出せ、
自分達が信じたドリルは・・・大グレン団が信じた螺旋の力は目の前にある形だけ真似した紛い物ではないはずだ。
一番側で、一番多く本物をシモンの側で見てきたのだ。
本物を証明するのは誰だ? シモンか? ヨーコか?
いや、自分にも出来るはずだ。何故なら自分もグレン団なのだ。
そして何より、同じ悲しみを何度も繰り返しはしない。
そう、あの時と同じ・・・。
―――アバヨ・・・ダチ公・・・
何度も繰り返してなるものか!
「ブータ・・・サン・・・」
エンキは見た。倒れる寸前に確かに見た。
『ブータさん・・・こ・・・この光は・・・』
茶々丸も見た。
ブータの体を覆う螺旋力の光が徐々に変化し始めた。
「ブゥゥゥゥッ、ブミュウゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
それが学園祭の起こしたもう一つの奇跡だった。
ネギたちがカミナと出会ったように、一匹の小さな生命が、その小さな体では収まりきらないほどの想いと魂を爆発させ、その身を進化させた。
「・・・もう、誰も死なせたりはしない!!」
この場で人の言葉を発することが出来るのは茶々丸とエンキだけだった。
しかし叫んだのは彼らではない。
叫んだのはブータを包み込んだ緑色の螺旋力の光の中からである。
光の中から現れた者、男? 女? いや、それ以前に人間ですらない。
だが、その者が誰なのかは直ぐに分った。
『これは一体・・・ブータさんが・・・・人間型に・・・』
目を疑いたくなるような光景だった。
いつもシモンの肩に乗っていた小さな生物が、人間の姿へと変わったのである。
茶々丸も発する言葉が見つからず、答えが出なかった。
ブータにも螺旋力がある。
それは突然変異か、シモンに感化されたために生まれた力かは謎のままである。
だが、個体の成長エネルギーを全て螺旋力に変換していたため、本来大型のブタモグラが小さいままだったのである。
しかし今、成長エネルギーを種の進化エネルギーに変換したのである。
いや、その説明は無粋である。
ブータが進化した理由、それは仲間を死なせたくないという魂の叫びだった。
「下がれ、茶々丸! 偽りのグレンラガン! ・・・エンキを・・・仲間を・・・もう二度と失ったりはしない!!」
全身を毛に覆われて人型となったブータは勇ましくその両腕を思いっきり前へ伸ばし、己の螺旋力を全開に解放する。
その力が魔道グレンに再び息を取り戻し、寸前のところでドリルをシールドで妨げた。
シモンでもないヨーコでもない。
グレン団最古参のメンバーがついにその魂を叫ぶ!!