魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「ヨーコ・ザ・トルネード!!」
「なんだい、それは? 大して変わらないじゃないか・・・」
上空で高く宙返りしながら電動ライフルをヨーコは連射する。
龍宮はそのアクロバットな動きには惑わされずに、冷静に弾丸を潜っていく。
「ノリが悪いじゃない。でも・・・甘い!!」
ヨーコは掻い潜る龍宮の動きを先読みし、その行く手にピンポイントに撃ちぬこうとする。
しかし、その直前に龍宮は姿を消した。
「き、消えた!?」
消えることまでは予想外だった。
それは高速で動いたため見えないわけではない。本当に龍宮が消えたのである。
すると突然背後から気配と火薬のにおいがした。
「!?」
慌ててその場から飛びのき、振り向きざまにヨーコは乱射する。
さっきまで自分の居た場所には龍宮が立っていて、二人の間合いの丁度中心地点で龍宮の放った特殊弾とヨーコの弾丸が誘爆しあった。
「真名・・・今のは・・・・」
「ふっ、転移魔法符さ。一枚80万と高価だが惜しくはない」
一枚の札を自慢気に龍宮は見せる。
言っている内容はよく分らないが要するにワープみたいなものを龍宮も使えることだけは理解できた。
難儀なことだと舌打ちをする。
永遠と続く鬼ごっこと、かくれんぼの連続だった。
姿を互いに消し、一瞬静寂になったかと思えば、次の瞬間強烈な銃の音を響かせまた消える。
建物が多い分二人共隠れる場所には困らない。
時には接近戦になりそうな場面もあったが、互いに銃の戦いに拘っていた。
「・・・シモンさんもそうだが・・・アナタたちはいつもそうやって余裕の無い戦いをするのかい?」
「あら、私はまだピンピンしてるわよ? それに余裕が無いわけじゃなくて、いつだって全力を尽くしているだけよ」
物陰に互いに隠れながら相手の声の位置を特定しようとする。
しかし言っている言葉は互いの本心でもあった。
「そういうアンタはどうなのよ? まさかお金のためだけに私と戦うのかしら?」
「ふっ、当然・・・いや、ここまで来たら嘘を言うのは止めよう。私は・・・仕事を抜きにして超の計画に共感を持っている・・・とでも言っておこう・・・」
龍宮は不意に胸元にあるペンダントを握り締めた。
その中には一人の男性が映っていた。それを大事そうにもう一度戻し、再び銃を構える。
「何でも壊して解決するアナタたちの単純なやり方も嫌いじゃないが、世界は複雑に出来ている・・・。これは仕事ではなく私の意思による行動だと思ってくれ・・・。アナタなら・・・私の考えも理解できるんじゃないか?」
ヨーコと龍宮は互いに会ったときから感づいていた。同類の自分には隠すことの出来ないほど染み付いた戦場の匂い。
他人からは想像できない世界を幼い時から駆け巡り、色々な悲しみを見てきたはずだ。
そうでなければ女がこんな瞳を出来るはずが無い。
だからこそ今回の彼女の行動もきっと重い考えの末の結論なのかもしれない。
だが・・・
「そうよ、私達のやり方はいつだって単純・・・でもね・・・命を張ってるのよ!!」
叫びながらヨーコは声のした方向にライフルを構える。
だが既に龍宮は移動している。
読みが外れたヨーコが思わず舌打ちをすると、上から気配を感じた。
これは殺気。
その瞬間連射される拳銃の音が響き渡った。
ゾクリと鳥肌を立てながら無我夢中で飛び出した。すると自分が今いた場所は本物の弾丸によって撃ちぬかれていた。
飛んできた方向を睨みつけるとそこには少し悲しい目をした龍宮が真下に向けて銃を構えていた。
「命を張ってるのは私達も同じだよ・・・でもね・・・私達の命がいくらあってもまだ足りないんだよ・・・」
龍宮のペンダントに写されている男。それこそ彼女のパートナー・・・だった男。
彼は既に死んだ。
それを知るのはごく僅かな人間のみ。
だからほとんどの者が龍宮のことをよく知らない。
当然ヨーコも知らない。
だが、龍宮を知らないヨーコに、龍宮は初めて本音を漏らしたように感じた。
ヨーコにもそれが理解できた。
彼女も多くの仲間を失った。
好きだった男も無くした。
だが、龍宮の言葉に筋が通っていようと、それが超鈴音のやり方によって変えられる世界なら、肯定するわけには行かなかった。
そして・・・
「一つだけ・・・分かったことがあるわ・・・」
「・・・何をだい?」
「私とアンタは似てると思ってた・・・昔の私も・・・少し冷めてた所があったしね・・・でも・・・違った・・・」
龍宮と話、そしてこうして戦い、ヨーコは気付いた。
同じように幼い時から戦い、大切な人を失った者同士でありながら、決定的に違うことを。
弾丸を避けたヨーコはニヤリと笑みを浮かべながら立ち上がる。そして命を散らした大グレン団の男達を思い出した。
誰だって死ぬのは怖い、彼らもそうだったはずだ。
だが、彼らは死ぬ時一人でも怯えていたか?
「命を賭けざるを得ない戦い・・・でも私達も死ぬのは嫌よ・・・。やっぱり怖いもの・・・でもね・・・」
一年前、自ら死に立ち向かい、自分達を救ってくれた男を思い出す。
シモンが大グレン団を上から引き上げたのなら、彼は下から押し上げてくれた。
その男は言った。
―――どこに死ぬのが怖くねえ人間がいる。でもな、仕方ねえんだ。これしか能がねえんだ。俺達ゃ――――
だから彼を止めることは出来なかった。
死ぬと分っていても止められるはずが無かった。
本気の想いを止めることなど出来なかった。
「私達は・・・好きでやってるのよ!! 足掻いて足掻いてジタバタしながらちょっとでも前へ進む! 怖くても・・・怖いからこそ尚のこと前へ進むのよ!!」
――そうでしょ・・・キタン・・・
戦う環境に身を置かされたのは仕方がなかった。
しかし単純で馬鹿正直な戦い方は自分の好きでやっている。
そして超を止めようというのも、シモン同様自分の意思。
過去を変える行為。その原因を自分達にされるわけにはいかない。
己の信じた道のために、ヨーコは龍宮を否定する。
「好きでやっている・・・か・・・。たしかに私とは違うかもしれないね・・・。だったら・・・心置きなく倒せるよ!!」
再び闘志を解放した龍宮の殺気と弾丸がヨーコに襲い掛かる。
ヨーコは再びそれを交わして物陰に隠れる。
だが、その様子はいつもとは違う。
(そう、・・・これしか能が無いのよ・・・だからこそ命を賭ける・・・死ぬより辛い思いは・・・したくないから・・・)
この時ヨーコはシモンでもない、カミナでもない。銀河に散った男達を思い出す。
「大グレン団の底力、見せてやろうじゃない! だから・・・みんな・・・・キタン・・・私に・・・」
「むっ!?」
「もう、死ぬより辛い思いはしたくない! 見せてやるわ、私の魂を!!」
物陰に隠れたヨーコが飛び出した。
だが、その様子はいつもと違う。
その姿に龍宮は目を見開いた。
体の奥底から燃え上がるような緑色の光に包まれるヨーコ。
これがヨーコの魂。
ヨーコの螺旋力の覚醒だった。
「自分の命なら喜んで懸けようじゃない! でもね、これだけは許せないのよ!!」
ヨーコが叫ぶ。
(ゾクゾクするわね・・・シモンはいつもこんな感じなのかしら・・・。キタンもあの時こんな感じだったのかしら・・・体中の全てが震え上がるこの感じ、これが螺旋力・・・いえ、本当の気合なのね!)
ヨーコのライフルが緑色に包まれ、その輝く銃口を巨大化させた。
弾丸は別名スパイラル、即ち螺旋。
ヨーコはこれから起きることが直ぐに分った。
(剣やレザー砲とか色々武器があったのに、私がコレを武器に選んだのは、やっぱり運命だったのかしら? でも、シモンとは少し違うかもしれないけど・・・これが私のドリル! 立派な大グレン団のドリルじゃない!)
形は違うかもしれない、でも同じ螺旋という名を持つのなら、「やってやる!」ヨーコの瞳が告げていた。
「なんていう光・・・あんなのが当たったら・・・死ぬよ・・・」
その巨大なエネルギーから龍宮はその威力を予想した。
だが、それを避ける動作も、今のうちに隙だらけのヨーコを撃とうという行動も起こさなかった。
それはなぜか?
その姿に目を奪われたという理由もあるが、最大の理由は・・・・
「しかし・・・一体どこを狙っているんだい?」
そう、ヨーコは龍宮を狙ってはいない。
その銃口はまったく別の方向を見ている。
そして龍宮がヨーコの銃口の向く先を見る。そしてその先にあるものに気付いた。
「ま、まさか!?」
気付いた時には遅い。
ヨーコはその先にあるものに向けて引き金を引く。
「喰らえ!! ギガドリルブレッッッッッドッ!!!!」
ヨーコの叫びと共に巨大なギガドリルがミサイルのように発射される。
ヨーコが狙っていたもの、それは龍宮ではない。
螺旋力を今の弾丸に全てを込めたのだ。この後龍宮と戦っても勝てないだろう。しかしそれでもよかった。
自分が負けても、シモンたちはきっと勝ってくれる。
自分の役目は果たした。
そんな彼女の今の想い。
それはもう二度と仲間を失いたくないという想いだった。
ヨーコの想いを乗せて飛ぶギガドリル、その先には湖があった。
湖には巨大な二体の兵器の戦いが終わりを告げようとしている。
『ブータさん・・・アナタは一体・・・いえ、それよりも危険です。アナタは退避してください!!』
茶々丸の放った巨大なドリルが人間型になったブータの螺旋フィールドに阻まれる。
流石の茶々丸もブータの進化には混乱したものの、今の魔道グレンの張るシールドでは持たないことが察知できた。
エンキや魔道グレンには容赦しないが、ブータは別である。
急いで退避するように茶々丸は告げるが、ブータは首を横に振る。
「ふざけるな・・・グレン団は・・・仲間を見捨てたりはしない! 大グレン団の気合は・・・偽りのドリルなんかに負けはしない!!」
再び損傷していくシールド。
しかしブータは魔道グレンの頭上で必死に伸ばした腕を引っ込めることなく、耐え続ける。
だが、それでも押されていく。
茶々丸も発動させたドリルを引っ込めるということはしない。
『偽り・・・ですか、しかしこれは超さんの昔の夢が全て込められています。本物ではないにせよ、偽りと呼べる代物ではありません』
「しかし・・・彼女はあきらめたんだ! 夢に失望し・・・ドリルの回転を止め・・・前へ進むのをあきらめた。・・・それが本物なのだとしたら・・・決してそんなことはしない!!」
――そうでしょ、シモン? だから皆も命を懸けたんだよね?
ブータは目の前に立ちふさがる巨大なドリルから逃げ出さない。
後ろで倒れる仲間を守るために、そして戦うからには、逃げねえ、退かねえ、悔やまねえ、前しか向かねえ、振りむかねえ。
その言葉どおり前へ進もうとする。
『・・・私も退けません・・・命令ではなく・・・それが私の意思なのですから・・・・』
茶々丸は戸惑いながらも操縦桿のレバーを握り締める。
命を賭ける敵に、こちらも全力を込めて戦うと自分で決めたのである。
「うっ、ぐううううううう!!」
ドリルの回転が止まらない。
そしてついに魔道グレンの残りの腕が吹き飛ばされた。
『これで終わりです!!』
「くっ、くそおお!」
シールドが完全に貫かれた。
巨大なドリルが振り下ろされる。その勢いは今更止まらないだろう。
しかしブータは倒れるエンキの前に立ち、両腕を伸ばして庇おうとする。
このままではブータが死んでしまう。
それはやはり出来ない。
茶々丸がついに折れてドリルを止めようと思った瞬間だった。
『巨大なエネルギー反応!? コレは!?』
気付かなかった。
目の前ばかりに意識していた茶々丸にもブータにも予想外だった。
それは突如飛んできた巨大なドリルが、グレンラガンモドキのドリルを粉々に砕いたのである。
ブータと茶々丸は直ぐにドリルが飛んできた方向を見る。
するとここよりかなり離れた場所で、一人の女がライフルをこちらに向けていたのである。そしてその人物が直ぐに誰なのかは分った。
「あれは・・・・」
『ヨーコさん!?』
ヨーコが放ったドリル、それにはヨーコの全ての力が込められていた。
ヨーコは敵を倒すために撃ったのではない。
ブータと同じで仲間を失わないためにその力を使った。
ブータは流れそうになる涙を堪えて、ドリルを失い驚いている茶々丸よりも一瞬早く動いた。
そして魔道グレンに突き刺さったシモンの残していったドリルを抜き取った。
シモンがそこに居ないにもかかわらず、未だに強く姿を残している巨大なドリル。ブータはそれを目の前の巨大ロボに向けて掲げた。
(出来るはずだ・・・これがシモンの・・・そして・・・)
己の螺旋力がシモンの残したドリルに伝わり、更に巨大な螺旋に進化した。
「これがシモンのッ!!・・・エンキの・・・そしてヨーコの・・・いや、新生大グレン団のドリルなんだァ!!」
そしてシモンと共に困難を打ち破ってきたあの技をする。
本物とまではいかないが、正真正銘グレン団のドリルである。
「アナタに・・・これを止めることは出来ない!!」
『くっ、機体の強化・・・間に合いません。魔力シールド・・・』
茶々丸は慌ててシールドを流そうとするが、反応に遅れた。
巨大なドリルの槍を掲げてブータ自身の回転と共に飛び込んできた。
「これが新生大グレン団の、ギガドリルブレイクだァァ!!!!」
ブータは咆哮した。
激しい衝撃音と共に偽りのグレンラガンの胴体を貫いていく。
グレンの口に飛び込んで、今その機体に風穴を開ける。
突き抜けた先には空が見えた。
あの日、地上でシモンと共に初めて見た夕日に似ている。
その景色を眺めながら、回転の止まったブータは湖に落ちた。
『・・・これが・・・これこそが・・・螺旋の・・・』
そして立ち上がると胴体に穴を開けた巨大ロボットと両腕を失い、体も傷だらけの魔道グレンの両方が倒れて巨大な水しぶきを上げた。
(勝った・・・そうだ・・・これが螺旋の力だ!!)
貫いたのは胴体部分である。
茶々丸は頭のラガン部分に乗っていたので彼女は心配いらないだろう。
しかし、自分の仲間は違うはずだ。
ブータは慌てて走り出す。
「エンキー! エンキー!」
湖に沈んだ仲間の名を、ブータは声が枯れるまで叫び続けた。
そして・・・
「・・・機体・・・・損傷激シク戦闘不可能・・・歩行・・・可能・・・」
湖畔に横たわる一体のロボットが己のコンディションを冷静にチェックしている。
腕が片方取れているうえに、その顔、そしてボディにも多くの傷が残っている。
だが、そんな状況をなんでもないかのようにロボットは呟く。
「私ハ・・・水ニ落チタ・・・ヨウナ・・・」
そして自身に記憶された記録を思い出そうとする。
いくらロボットとはいえ、この状態で水の中に落ちたら浮かび上がらないはず。しかし陸に居る自分に不可解に思っていた。
するとそんなロボットの顔を舐める一匹の小動物が居た。
「ブゥ~」
「・・・ブータサン・・・」
その鳴き声は弱々しく、とても心配そうにエンキの顔を舐めている。
ブータを見てエンキは何かを思い出そうとする。しかし思い出せない。
「・・・ブータサン・・・データニ傷ガ入リ記録ヲ読ミ込メマセン・・・ドウヤッテ倒シタノデス」
一度倒れたエンキは倒れた後と、その直前のことを思い出せなかった。
ブータがどうやって湖に浮かぶ巨大ロボットを倒したのか、そしてその直前にブータに何かがあったような気がしたが、データが壊れて思い出せなかった。
するとブータは誇らしげに鳴いた。小さな足を自分とエンキを交互に指差しながら胸を張った。
「ブウ」と鳴いているだけだが、なぜかエンキにはブータの言っていることが分った。
「ソウデスカ・・・ブータサンダケデナク・・・我々全員・・・デスカ・・・」
「ブウ!!」
横たわるエンキの顔の横でブータは「そうだ」と鳴いた。
だが、ほのぼのとしているわけにはいかなかった。
突如湖に倒れた巨大ロボの片方が起き上がった。それは魔道グレンである。
「ブヒッ!?」
そして起き上がった魔道グレンは両腕を失ったまま、ゆっくりと勝手に歩き出し、一歩一歩前へ進み出した。
突然のことにブータが首を傾げると、
「マズイデス・・・我々ガココニ居ル所為デ、魔道グレンノ制御ガ出来ナクナリ、元ノ鬼神ニ戻リマシタ・・・」
「ブヒッ!?」
そう、ブータは魔道グレンに突き刺さったドリルを抜き取ったのである。だから魔道グレンは元の鬼神に戻ってしまった。
「私ハ大丈夫デシタガ、ヤハリ生命体デアル鬼神ヲ完全ニ制御ハ無理ダッタ用デス」
元の鬼神となった魔道グレンはその頭の制御装置に記録されている指令を思い出し、傷ついた体でゆっくりと世界樹広場へ向かっている。
「歩行ナラ可能デス。我々モ・・・」
「ブウ!!」
戦闘にはもう参加できないかもしれない。
しかし二人共この場にいつまでも居るわけには行かない。
ブータを肩に乗せ、エンキもゆっくりと仲間のいる世界樹広場へと向かった。
だが、この時、倒れたグレンラガンモドキと茶々丸に異変が起こったことを、誰も気づいていなかった。
「誰だったんだい? 茶々丸を倒した奴は・・・」
「私も見たことなかったわ・・・でも、直ぐに分かったわ。アイツは小さいくせに大きい奴よ。まったく、シモンは知っているのかしら?」
湖に沈んだ二つの巨大兵器を眺め、龍宮は不思議そうにつぶやいた。
ドリルを持って自分の仲間を倒したのは一体誰なのかと。
ここからではハッキリとその姿はよく見えなかった。
ヨーコにもハッキリとは見えなかった。しかし誰がいたのかは直ぐに分かった。それは自分の仲間に間違いはなかった。
話し合う二人はいつしか互いに武器を下ろして戦うのを止めていた。
「いいの? トドメをさすならチャンスよ?」
螺旋力を全開に使ったヨーコはその場で腰を降ろして観念したような態度を見せる。しかし龍宮は銃をしまい、ゆっくりと近づいてくる。
「いいさ、もう私達の決着など問題にはならないだろう。終わりは・・・徐々に近づいている・・・」
龍宮は座り込むヨーコに向かって手を差し出した。それは敵意も何もない素直な行動だった。
「主役は既に舞台に向かっている。ならばアナタの言うドリルとやらが、壁を突き破るかどうか見せてもらおうじゃないか。アナタはあの人に賭けたんだろ?」
徐々に日が沈み夜へと近づいていく。
龍宮は空を見上げて主役がいるであろう舞台に目を向ける。
空にあるのは一隻の巨大な飛行船。自分の共感した女もきっとそこにいる。全てに決着をつけるために。
「ええ、だったらしっかり見ておきなさい。銀河の運命に風穴を開けた男の生き様を・・・」
ヨーコも龍宮の視線を追って空に浮かぶ飛行船を見送った。
「茶々丸・・・・」
夕焼けの雲を突きぬける一隻の巨大な飛行船。その飛行船の上からメガネを掛けた少女が呟いた。
「大変です、超さん! 茶々丸が・・・負けました・・・」
ネギの生徒、ハカセは信じられないかのように手に持つノートパソコンを眺めながら叫ぶ。
しかしその話を聞いた超はそれほど驚いた反応は見せなかった。
「そうか・・・まあ、茶々丸は無事だろう・・・」
「えっ~!? なんでそんな冷静なんですか!?」
自分達の切り札とも言うべき巨大兵器が敗退したのである。
この非常事態になぜ何事も無いかのように振舞えるのかとハカセは問いただすが、超に変化は無い。
「やけに冷静じゃねえか。お前達の切り札も倒した、こっからどうやって挽回する気だ?」
遥か上空を移動する巨大飛行船。その頭上に今、三人の者がいた。
超、ハカセ、そしてシモンである。
上空を移動する飛行船に居る以上シモンにも地上の戦いの様子は分らないが、茶々丸の敗退を聞いてその表情に余裕が出てきた。
だが、それは超も同じだった。
「問題ないヨ、ここまでは予想の範囲内ネ」
「はは、めげない奴だぜ」
「そうでもないヨ。むしろ偽りの夢を壊してくれたんだ、これで何の未練もなく計画を実行できるネ」
超の笑みは人から見たら本心を悟りにくいほどの底知れないものに感じる。
だからシモンにもそれが本心かどうかは判断が出来ない。
するとその笑みを浮かべながら超は続ける。
「それに結果的に巨大生物兵器は我々の支配下に戻った。・・・アレが世界樹広場を支配したら魔方陣が完成する。そうすれば私の勝ちネ」
タカミチを始め多くの魔法先生や生徒達は既に退場している。
そのため6体の巨大生物兵器は封印されることなく、次々と己の持ち場を占領して行った。
そして残るは先ほどまでグレン団の手の内にあった魔道グレン。
茶々丸とグレンラガンモドキを倒したことを引き換えに、再び敵の手の中に戻ってしまった。
「だからそのためにメンバー全員を世界樹広場に集中させたんだよ。たとえ他が落ちても一箇所を守ればいいと思ってな。まあ、他の生徒達たちもいたのも幸いしたけどな」
ここからは見ることは出来ないが、シモンは多くの仲間が戦い続けているであろう、世界樹広場の方角へ向けて指差した。
「でも、それは全て無駄に終わるヨ?」
「無駄じゃねえ。こうして俺はお前に辿りついたじゃねえか。真正面からな! お前をここで倒せば、全てが終わる」
「終わらないヨ、ここから新世界が始まるネ」
「・・・無理だな・・・」
「無理じゃない、私は必ずうまくいくネ」
「そうじゃねえ、新世界を作れても・・・俺を・・・俺達を倒すことは出来ねえよ!」
その言葉と共にシモンはドリルを構える。
ゴーグルも装着し、首からはコアドリルがぶら下がっている。
その姿を見ただけで超は顔には出さないものの、胸が高鳴った。
そして超も応える様に構える。
「それも・・・乗り越えてみせるネ! 私に真の物語を語らせたいのなら・・・その魂を見せてみるネ!!」
もはや出し惜しみも何も無い。
今の自分にある全てを最初から解放するつもりである。
「良い気迫だ。相手にとって不足ねえな」
互いの覇気がぶつかり合う。
それは格闘大会決勝の舞台裏で人知れず行なわれた戦いの時とはまったく別の重い空気を感じた。
それを唯一目撃したハカセも今から始まる二人の戦いに恐怖を感じ、少しでもその場から離れようとする。
日は完全に沈み、夜のイルミネーションが地上で輝き始めた。
「遥か上空・・・天に最も近い場所・・・俺達の決着の場に相応しいじゃねえか」
シモンは地上のイルミネーションに代わり、夜空に輝く星を見上げながら超に告げる。
するとその意見には賛成だったのか超も頷いた。
「ウム、・・・では・・・始めよう、シモンさん。 私がかつて憧れたアナタと・・・最高にロマンチックな舞台で・・・最高のデートの時間を!!」
「ああ!!」
これが螺旋の男と時を駆ける少女の最後のぶつかり合いだった。
二つの重ならぬ道がぶつかり合い、その決着が着く。
だが、道は二つだけではない。
この少年と少女達の道も、まだ途切れていない。
木乃香の治癒により目を覚ましたネギ、アスナ、刹那、そして駆けつけた楓、生き残った木乃香、夕映、千雨、ハルナ、カモは手短に現在の状況を説明した。
するとその間にも光の柱が上った。
「くっ、どんどん魔方陣が完成していく・・・・僕達が負けたばかりに・・・」
術式の力の増幅のために場を占拠していく六体の巨大生物兵器。
生徒達も善戦しているが、残りは世界樹広場のみとなってしまった。
「でも落ち込んでる暇はないわよ。こうなったら超の奴を見つけ出して全部ぶっ壊すしかないわよ」
「アスナさんの言うとおりです。しかし超さんの側にはシモンさんがいます。シモンさんが勝てば問題ないかもしれませんが、負ければパアです。更にシモンさんは邪魔を許さないでしょう・・・」
「しかしそれでは意味がないのです! シモンさんも超さんも、二人を止めてこそ私達の勝利なのです。仮に超さんだけを倒しても、シモンさんが自分で超さんと決着を着けるために超さんを助けるでしょう。超さんも同じです、何があったかは知りませんが二人には奇妙な絆のようなものを感じました」
二人だけの決着を望んだからこそ、超はネギたちのカシオペアに罠を仕掛けた上に、一時とはいえシモンと手を組んだのだ。
そこに二人の決着をつけようという強固な意志を感じた。
だが、それを指を咥えて黙ってみているわけにはいかない。
その結果次第では世界をひっくり返すことになるのである。
「だが、その計画自体を今おじゃんにしてやるよ」
「えっ? 千雨さん?」
すると千雨はパソコンと自身のアーティファクトを取り出した。
「ロボ子が戦ってたのが幸いした。今なら結界とか言うのを復活させてあの鬼を消せばいいんだろ?」
茶々丸が居ない今こそ、学園結界を取り戻す絶好の機会と千雨は判断した。
その考えにネギたちは感心したように手を叩いた。
「「「「それだあァ!!」」」」
「千雨ちゃんスゴイ!」
「ひゃ~、んなことも出来るのかい。千雨の姉さんが仲間になったのは正解だったな」
「感心してる場合じゃねえよ! たとえ結界とやらが戻ってもあの兄さんと超を止めなきゃ意味ねんだろ?」
「分ってます。今度こそ必ず止めてみます!」
ゆっくり作戦を立てている暇はない。とにかく結界は千雨に任せて自分達はシモンと超を同時に捕まえるしかない。
そして千雨の失敗も考えて、最後の世界樹広場の防衛にも手を出さねばならない。
「今朝倉さんに連絡して二人の行方を皆にも捜してもらうようにしました。賞金賭けて学園生徒全員の力を合わせれば時間の問題です」
「せやったらそれまではウチらも・・・」
「はい。世界樹広場に向かいましょう! いつの間にかあのスクナに似た鬼も世界樹に向かおうとしています。急ぎましょう!」
「そうね、あそこにはたしか・・・ゆーなたちがいたけど・・・退場してなければいいけど・・・」
先ほど広場で別れたクラスメート達の安否をネギたちは気にしていた。
だが、忘れてはいけない。
世界樹広場には不撓不屈の魂を持った男達が戦っているのである。
それを忘れたままネギたちは世界樹広場へ向かう。
学園全土に広がっていた戦いも、徐々に範囲も狭められていき、終わりが近づいていた。