魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル! 火精召喚(エウォカーティオー・スピリトゥアーリス)」
この舞台に向かっている少年に気付かないまま、二人は構わず戦いを続ける。
ネギの言うとおり無理やり魔法を使う超はその度に激痛が体中に広がる。それを必死に耐えながら、最後まで闘う意思を止めない。
しかし流石にシモンも超に異変を感じた。
(おかしい、超の動きが鈍っている・・・これは・・・何かリスクがあるんじゃないのか? もし無いんだったら最初から魔法を使っているはずだ・・・)
既にボロボロの超。
だが、彼女の目は本気だ。
進む道は違っても、その類の目を前にして、先に折れるわけにはいかない。
「全てを・・・命まで・・・・か・・・・もう、止まれないのか?」
「当たり前ヨ! 道が違うから私達は話し合うことを止めた! 止まれないからこそ、こうして向かい合っている! 止まれるものカ! これが私の全てだ!!」
そう、そんなことは分っていた。
自分達も同じだから、超のことはよく分った。
だから揺らいではいけない。
この少女に、自分達の姿を伝えるのなら、この程度で揺らいではいけないと、シモンは心に決めた。
「いいぜ・・・受け止めてやるよ!! そして知れ!! 俺達が、誰なのかを!!」
「そうだ、言葉などいらない! 言葉では止まれない! 私の失望を取り消したいのなら、完膚なきまでに叩きのめしてみろ!!」
シモンは無数の螺旋弾を具現化させ、超の炎の精霊に真っ向からぶつけていく。
「槍の火蜥蜴29柱(デ・ウンデトリーギンタ・サラマンドリス・ランキフェリス)!!」
「超銀河螺旋弾!!」
無数のドリル状のミサイルと、炎の魔法がぶつかり合う・・・その時だった。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 風精召喚(エウォカーティオー・スピリトゥアーリス)、戦の乙女(デ・セプテンデキム・ウァルキュリース)、17柱(モルティフェリス)!!」
「なっ!?」
「これはッ!?」
超とシモンの放つエネルギーの塊に、突如横から現れた17体の風の女戦士に斜めからの衝撃を加えられ、両者の攻撃が同時に爆発する。
突如入った自分達に対する横槍。
しかし二人共その人物が誰なのか、確かめる前に分った。
「ネギ・・・お前・・・」
「グッ・・・邪魔するな、ネギ坊主!! この決着を邪魔する者は神であろうと許さないヨ!!」
シモンと超が同時に攻撃の来た方向へ振り向く。
そして超は宙に浮かび、こちらを見下ろしているネギに激昂する。
だが、ネギの様子も違う。
そのことに少し妙だと感じると、ネギの肩がワナワナと震えだした。
「・・・も・・・・やめ・・・・・くだ・・・・さい・・・」
「・・・・ネギ?」
俯きながら何かをボソボソと呟くネギ。
するとネギは突如顔を上げ、涙を流しながら大声で叫んだ。
「いい加減にしてくださいッ!! なんで・・・なんでアナタたちがここまで争わなくちゃいけないんですかッ!!」
「・・・・・・・・・」
「ネギ・・・坊主?」
「今の攻撃だって・・・どっちかが死んでもおかしくなかった・・・なのに・・・お二人ほどの人が・・・なんで・・・こんなになるまで・・・・」
二人の争いに割って入り、涙を流しながら叫ぶ少年。
この光景は地上でも映し出されていた。
アスナたちもその様子を心配そうに見守っている。
シモンと超も突然のネギの乱入と涙に一時戦いを止めて、ネギへ振り向く。そして超はため息をつきながらネギに語る。
「命を賭けるとはそういうことネ。私は命がけでこの人達を否定する。その上で己の成すべきことをする。・・・それだけヨ。だが、それは何にも変えられない物」
超の言葉に頷きながらシモンも前へ出る。
「そして俺は・・・否定された誇りを本物だと証明するために戦っている。俺の・・・命に匹敵するほど重要なことだ。グレン団に命を賭けた仲間達、そして今でも戦う仲間のためにも、俺は戦う!」
「そう、ネギ坊主・・・これは余計なお世話ヨ・・・私達は二人共・・・好きでやっているネ」
シモンと超の間で決められた強固な決まりごと、「決着」という言葉は何よりも重い。
だからこそ、たとえ相手がネギでも邪魔をするなら容赦はない。
「「これが全てだ!! 邪魔をするんじゃない!!」」
同じ気持ちを言葉に込めて、シモンと超は同時に叫んだ。
誰にも邪魔はさせないという二人の姿、その姿を見て、ネギはまた涙が流れた。
「ほら・・・ずるいですよ・・・こんな時だけ・・・お二人は協力する・・・」
「・・・何?」
それこそネギがどうしても耐えられないことだった。
ネギの悲しみ・・・それはこの二人の強さだった。
「地上で、お二人が手を組んで僕達と戦ったとき・・・僕は・・・震え上がりました。超さんの言うとおり、お二人は・・・最強のコンビでした・・・」
それは二人の舞台へと向かうため、立ちはだかる壁を共に手を組んで駆け出した時の話だった。
「・・・お二人が組めば・・・僕達どころか・・・タカミチだって勝てなかった・・・・なのに・・・そんな二人が・・・なんで戦うんですか?」
「・・・・・ネギ・・・・」
「ネギ坊主・・・・」
最強タッグと呼び、その名に相応しい力で自分達やタカミチを圧倒的な力で蹴散らせた超とシモン。
そんな二人の力を身をもって知ったからこそ、ネギは我慢がならなかった。
「超さん・・・たしかに僕達は完全じゃありません。超さんの計画通りになれば、多くの人が救われるかもしれません・・・。ですが・・・犠牲もあります・・・この学園に住む関係者もそうです。・・・でも・・・でも・・・今のままの世界でも・・・」
ネギはギュッと拳を握り締め、己の想いを大声で打ち明ける。
「シモンさんと、超さんの二人が力を合わせれば、何だって出来るのにッ!!」
「「!?」」
「最強の二人が力を合わせれば、それこそ今よりもっと大勢の世界中の人を救えるのにッ!! どんな困難だって乗り越えられるのに!! どうしてッ・・・・うっ・・・ぐすっ・・・どうして・・・」
地上で二人と戦ったとき、ネギは脅威のほかに、高揚感を感じた。
二人並んで歩くシモンと超、その堂々とした姿に見入ってしまった。
だが、そんな二人が向かった道の先にある姿が、今の二人の互いを傷つけあった末のボロボロな姿である。
共通の目的のためならば力を合わせ、それこそ困難を軽々と越えていった二人が今、自分だけの捨てきれない意地とプライドのためだけに戦っている。
それは二人にとって命より大切なものかもしれない。
しかしそれが悲しかった。
「どうして・・・どうしてそれほどの力を、意地の張り合いに使うんですか!! どうして死にそうになるまで傷つけ合わなくちゃいけないんですか?」
まだまだ未熟な自分では出来ないことはたくさんある。
しかし二人で組んで戦ったシモンと超ならば何だって出来ると思ってしまった。
だから、言わずに入られなかった。
「アナタたちは・・・アナタたちは大馬鹿者です!!! だから僕はあなた達を止めます!! 何度だって邪魔します!! それが僕の選んだ道だ!! 僕を誰だと思っているんですか!!」
ネギの叫びは、地上で様子を見守るアスナたちや事情の知らないほかの生徒達の耳にも届いた。
「ネギ・・・」
「そか・・・ネギ君は・・・それであんなに怒ってたんやな」
「はい、今の私達では及ばない力と心の強さを持つ二人が・・・、こうして傷つけ合うのが・・・納得できなかったんですね・・・」
少年の悲痛な叫びに彼女達はいつしか持っていた武器を下ろし、静まり返っていた。
そしてその声は、シモンと超の心にも響いた。
言葉では止まれない。そう決めていたはずだ。
しかし二人は少年の想いに、止まってしまった。
「たとえ今のままでも・・・私達が力を合わせれば・・・」
「・・・どんな困難も越えられる・・・か・・・」
ネギの言葉を自分で呟きながら、行き場を失った拳を宙ぶらりんにさせながら、少しの間、超とシモンは黙っていた。
二人ともネギの言葉が理解できた。
決着のためとはいえ、共通の目的のために手を組んだ自分達は何でも出来る気がした。負ける気がしなかった。
それを知ったからこそ少年は、どちらかが死ぬかもしれないこの戦いに我慢がならなかったのだった。
そしてそれを誰よりも理解していたのは、他ならぬ超自身だった。
「・・・でも、・・・それは無理ヨ・・・」
「超さん!?」
「大馬鹿者で結構!・・・私の・・・失望は変えられない・・・」
少し俯きながら超は呟いた。
「嘘です! 何で認められないんですか? いえ、どうして意地を張ってシモンさんたちを認めようとしないんですか? 超さんに何があったかは・・・知りませんけど・・・でも・・・」
「知らないなら黙ってるネッ!!」
「っ!? ・・・・超・・・さん?」
一度ネギの言葉に大声で怒鳴った超、すると今度は超自身の肩が震えてきた。
「だって・・・仕方ないじゃないカ・・・私は・・・木乃香さんや刹那さんみたいになれないッ! な・・・・ぜなら・・・」
必死に堪えようとする超。だがその瞳からは止まることなく涙が溢れ出していた。
ネギはおろか、クラスメートのアスナや木乃香たちですら一度も超の涙を見たことが無い。
科学に魂を売ったなどと言っていた超が、初めて涙を見せた。それは彼女達に衝撃を与えた。
そして徐々にひび割れた心の意地の隙間から弱さがあふれ出した。
「なぜなら・・・私の世界に・・・私の時代に・・・シモンさんはいない!!」
「・・・・超・・・」
「だから・・・私は! いないハズのこの人に・・・すがる事など出来ないヨ・・・・」
木乃香が人目も憚らずにシモンにアプローチをしているのが気に食わなかった。
刹那が人外という枠組みに囚われずに告白したのも気に食わなかった。
ネギがシモンに頭を撫でられ、コアドリルを預けられたのが気に食わなかった。
自分の方が詳しいのに、美空たちがグレン団のマークを何の気兼ねも無く背負うのが羨ましかった。
それはシモンに対して素直になれなかったからではない。
素直になってはいけなかったのだ。
たとえどれほどシモンたちの真の姿を知ろうとも、本人達は自分の居る未来にはいないのである。
だからこそ超はシモンに心の壁を作るしかなかった。
「シモンさん・・・どうしてこの世界に来た・・・どうしてこの時代なんだ?」
超は自分でも言っていることが矛盾していることは分っていた。
しかし崩れた壁から次々と言葉があふれ出した。
「もし・・・あなたが・・・私の時代に現れたのなら・・・私だって・・・アナタとともに・・・どこまでも戦えた・・・」
心の壁がついに崩れた。
ネギの言葉に超の強固な壁が一斉に崩れ始めた。
粉々に砕かれた意地を修復することは出来ず、超は膝をつきながらその場で涙を流した。
ネギは、シモンは、そして超の仲間として一緒にいたハカセも、超が話した本音の言葉にどう応えて良いのか分らず、その場で立ち尽くしていた。
だがこの時、彼らは誰も気付いていなかった。
高みの見物をしている学園長とエヴァも気付いていなかった。
最後の脅威が刻一刻と近づいていることを。
徐々に近づく大発光の瞬間、それは最も魔力が満ちる瞬間。
『・・・・私は・・・そうだ・・・ブータさんに敗れて・・・』
湖に横たわる巨大ロボット。
そのコクピットの中で茶々丸は目を開けた。
そして自分が今いる機体の異常事態に気付いた。
『これは・・・学園結界が復活しようとしている・・・これは・・・千雨さん?』
中にあるコンピューターに映し出される情報、それは自分が破ったはずの学園結界が元に戻ろうとしていることだった。
慌てて茶々丸はその犯人である千雨に通信を飛ばす。
『千雨さん・・・聞こえますか? 千雨さん・・・』
目の前の光景ばかりに気を取られ、警戒心の薄れていたハカセたちは気付かなかった。この争いの最中、儀式を止めようと千雨が動いていることに。
それは千雨には好都合だった。
戦いの映像に皆が気を取られている中、千雨は己の仕事をしていた。
『なんだよ・・・今更出張ったのかよ、茶々丸さんよ』
通信越しから千雨の声が返ってきた。それと同時にパソコンのキーボードを激しく叩く音も聞こえる。
『・・・超さんと、シモンさんは?』
『へっ、さあな。相変わらず場を混乱させまくってるよ。それにあの女にも涙があったんだな・・・』
『・・・涙?』
『ああ、だがよっ、どんな理由にせよこの世界のこの時代に住んでるのは私達なんだよ。その一人として、私は私の日常を守るために、この手は止めない!』
『千雨さん!』
己のアーティファクトの能力と技術を最大限にして千雨は超の計画の要である学園結界を復活させようとする。
そうすれば残り一体の鬼神も消えて、儀式に必要な魔力の増幅が出来なくなり、計画自体が完全にストップするのである。
気付いた時には遅い。いかに茶々丸とはいえ、今から止めることは出来ない。
そしてついに最後の瞬間が来た。
(間に合わない・・・・負ける・・・私が・・・)
この時、茶々丸は思い返した。それは昨晩のシモンと戦ったときの別れ際。
―――明日は最後までやろうぜ!!
それが茶々丸のコンピューターの頭脳を過ぎった。
(最後・・・これが私の・・・限界・・・?)
その時だった。
それは茶々丸の意思ではない。
しかしそれは起こった。
突如機内が真っ赤になり、サイレンの音が響き渡った。
『・・・この・・・反応・・・・そ、そんな!? ・・・いつの間にリミッターが・・・解除されている!?』
倒れたグレンラガンモドキのコクピットの中で茶々丸は慌て出した。
『機体を制御できるように仕掛けていた装置が・・・外れてしまった・・・』
『おい、どうした!? なんか聞こえるんだけど、何の音だ!?』
茶々丸が画面に映る映像に見入っていると、狭いコクピットの中に異変が起きた。
『そんな、このロボット・・・まだ・・・起動できると言うのですか? いえ、それどころか・・・魔力の蓄積量が膨大に上がっている! 傷が・・・物凄いスピードで修復されていく!?』
『おい、聞いてんのか!? おいっ!』
モニターが真っ赤な警告表示で映し出され、サイレンのような音が機内に鳴り響いた。
『まずい!? 世界樹の魔力を際限無しに吸収しようとしている。このままでは・・・』
火花が機内に飛び散る。それだけでなくブータが貫いた胴体部分に世界樹から吸収された魔力が集中していく。
巨大ロボットは世界樹の魔力によって駆動している。だが、その動きにも制限を持っていた。
しかし・・・
『そうか、ブータさんの一撃でリミッターが外れてしまい・・・私が意識を取り戻したと同時に・・・世界樹の魔力に反応して・・・』
そして今日は世界樹の魔力がもっとも溢れる日。
それを際限なく吸収しようとしたら・・・。
『き・・・機体がオーバードライブしてしまっ、・・う・・、このまま・・・では・・・私マデ・・・私ガ・・・イナク・・・・」
無限に吸収し続ける魔力の光を受けて、同じ機械であり、魔力で駆動する茶々丸にまでその力が流れ込んできてしまう。
そしてグレンラガンモドキがその巨体でリミッターを外したことにより、吸収する魔力の処理を茶々丸にも出来なくなっていた。
それどころか徐々に流れる魔力に茶々丸という人格の意識が飲み込まれてしまった。
『・・・マスター・・・ガガガ・・・ネギ・・・せん・・せ・・・シモ・・・・ピーーーーーーーー』
『おい! いいのか? 結界は元に戻るんだぞ? おい!』
千雨の言葉には誰も答えない。その後、通信が一方的に途絶えた。
そして突如茶々丸自身が音を立てて力なくうな垂れた。
すると再びゆっくりと首を起こして呟いた。
『・・・動力冷却作業・・・冷却後起動開始・・・リミッター解除・・・魔力吸収率・・・制限解除・・・』
戦いの終えた湖を見ている者は誰も居なかった。
だから風穴開けたはずの巨大ロボットがその傷を治したことを、まだ誰も知らなかった。
そして茶々丸という少女が飲み込まれたことに、誰も気付いていなかった。
千雨は茶々丸の返答が聞こえなくなったことに胸騒ぎを覚えたが、構わずに結界を復活させた。
それにより最後の鬼神が世界樹の広場に辿り付くことなく姿を消した。
それは勝利の合図だった。
生徒達は互いの顔を見合わせて、大歓声を上げる。
だがそれは、ほんの束の間に過ぎなかった。
『グレンラガンオーバーロード・・・・起動シマス・・・』
一つの鬼神の消失と共に、真の脅威が立ち上がった。
その巨大な足は一歩ずつ、光り輝く大木の下へ近づいていった。