魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第91話 これが俺の十倍返しだッ!

湖に浮かぶ二体の巨人。

その荒々しい成り立ちだが、今この瞬間は静寂が続いている。

ド派手なロボット対決かと思いきや、辺りに緊迫した空気が流れる。

あれほど騒いでいた生徒達も、向かい合う両雄から醸し出される空気に当てられて、今は黙って見守っている。

その静寂を先に破ったのはシモンだった。

シモンはラガンのスピーカーから、茶々丸に向けて語りかける。

 

『茶々丸、覚えているか? あの時も夜だった』

 

通信機の回線からシモンは話し掛けるが、相変わらず茶々丸の返事は無い。しかしそれでもシモンは話し続ける。

 

『俺が初めてこの世界に来た日・・・その夜に俺達は出会い、そして戦った』

 

忘れるはずは無い。

あの満月の日の夜。シャークティたちと出会った日、シモンは桜並木の通りで夜空に浮かぶ吸血鬼とガイノイドと遭遇し、戦った。

そしてそれが魔法との出会いだった。

 

『この世界での最後の夜に最後の相手がお前なんてな、奇妙な縁じゃねえか』

 

この世界での戦いの歴史は茶々丸から始まった。たしかに奇妙な縁だった。シモンは思わず笑ってしまう。

 

『昨日の夜の約束どおり、最後までやるぜ!!』

 

だが、茶々丸は何も返してこない。

それが今の彼女だと思うと寂しくなるが、こうして向かい合うことになったのだ。やることは一つ。

 

『シモンさん、・・・準備はいいカ?』

『ああ、いくぜ!!』

 

超とシモンは操縦桿を握りグレンラガンを走らせる。

感知したモドキも向かって走り出す。

再び両者が拳を繰り出す。今度は互いの拳同士がぶつかり合った。

伸ばした拳をしまうと同時に両者はもう片方の拳をまたもや突き出した。

 

『威力・・・互角・・・更ナル魔力強化』

 

魔力で強化されている拳にグレンラガンの拳はまったく引けを取っていない。

しかしその威力を目の当たりにしても茶々丸は相変わらず冷静に巨大ロボットに指令を送る。

 

 

『強化強化、芸が無ぇんだよ! 本物の力は強化される物じゃねえ、湧き上がるものだ!!』

 

『回避スピードアップ、超絶魔力光弾充電』

 

『シモンさん、レーザー砲が飛んでくるヨ』

 

 

グレンラガンから距離を置き、モドキは胴体のグレンモドキの口からレーザー砲を放つ。

するとグレンラガンは背中のブースターと胸のサングラスを取り外した。

 

『面倒だ! 正面から破壊するぞ!』

『命令カ?』

『命令じゃなくて、提案だ』

『だったら異議なしネ!!』

 

ブースターとサングラスを重ね合わせてグレンラガンは思いっきり投げつける。

 

 

『『ダブルブーメラン・スパイラル!!』』

 

『超絶魔力光弾射出!!』

 

 

ブースターが火を噴きブーメランが大加速し、巨大なレーザー砲に正面からぶつかり、切り裂いていく。

そして一直線にモドキに飛んでいく。

 

 

『威力計算、速度、回避不可能。絶対防御システム起動』

 

 

しかし茶々丸の操縦技術も伊達ではない。回避できないと分かると、瞬時に機体から無数のドリルを伸ばす。

フルドリライズである。

 

『またそれか!』

『シモンさん、ブーメランが弾かれるヨ』

 

フルドリライズのドリルを高速回転して生み出した竜巻の防御の風がモドキを守り、加速したブーメランを弾き飛ばす。

だが一度見た技に驚くことはしない。

弾かれたブーメランを空中でキャッチして、グレンラガンは竜巻に正面から突っ込んでいく。だがそこで超が何かを感知した。

 

『シモンさん、竜巻の中に何かが光っている! 無闇に突っ込むのは危険ネ!』

『なに?』

 

超の警告でグレンラガンを一旦止める。

するとモドキは竜巻を止めて姿を現し、シモンと超を驚かせた。

モドキの周りには螺旋の形をした魔力のミサイルが無数にこちらを向いているのである。

竜巻に隠れていたために、モドキが攻撃を溜めていたことに気付かなかった。

 

『超絶穿孔ドリル弾・連続射出!!』

『まずいヨ、あの数は!?』

 

世界樹から無限に近い魔力を補充するモドキは魔力を溜めてからの攻撃が異常に早かった。

そして射出されたミサイルが周囲360度全てを囲んだ。

一発一発が相当な破壊力を持っているはずである。

全弾喰らえばグレンラガンとはいえ保障は出来ない。

すると慌てる超はグレンラガン全体に行き渡る、温かく力強い光を感じた。

それはシモンの螺旋力だった。シモンが膨大な螺旋力を溜めて何かをしようとしている。

 

『茶々丸、こういう技があるのも覚えておけよ!!』

 

迫り来るミサイルの雨の中、シモンは叫びながら操縦桿を前に押し倒す。

するとグレンラガンがフルドリライズ形態になり、そこで止まらずに、フルドリライズのドリルの一本一本が、ギガドリルの大きさに進化した。

 

 

『ギガドリル・マキシマム!!!』

 

『!?』

 

 

大爆発が起こった。

それは世界の終焉を思わせるほどの爆音と衝撃を生み出していた。

 

『ぬうう、これは・・・・』

『うろたえるな超! テメエの夢見たコイツは、この程度の爆発なんて物ともしない!!』

 

もはやこの戦いに近づく者など居ない。

少し離れた世界樹の広場に居ても、その威力が伝わってくるほどなのである。

 

『ふう、ふう、・・・』

『流石シモンさんネ、まさかあれを無傷で乗り切るとは』

 

爆炎が晴れて、無数のギガドリルに包まれたグレンラガンは無傷で現れた。

その光景を黙って見ていることなど出来はしない。

 

「す・・・・・」

「スゲー・・・・・」

 

一人、また一人とポツポツと目の前の光景に呟いていく。

 

「ねえ、・・・シモンさんも、超りんも・・・それに茶々丸さんも、あんなノリのいい人だったの?」

「これって・・・エキジビションみたいなものかな・・・?」

「いや・・・もう細かいことは抜きにしてさ・・・とにかく・・・」

「ウン・・・・」

 

世界樹広場から眺める裕奈、美砂、円、桜子たちはしばらくは呆然としていたものの、次の瞬間周りの生徒達と同時にとにかく叫んだ。

 

 

「「「「「「スゲええーーーーー!!!」」」」」」

 

「生きてて良かった!!」

 

「感動をありがとう!!」

 

 

イベントなのか本物なのかはどうでもよかった。

一人一人がこの際細かいことを抜きにして、目の前の熱戦に大声を上げる。

超もその光景をグレンのコクピットから眺めて、気分が良かった。

 

『まったく、やはりここは特等席ネ!』

『それは何よりだ! はあ、はあ、・・・ところで超』

『?』

 

その姿に超が感心すると、通信から息を切らしたシモンが思わぬ言葉を告げる。

 

『ふ~う、少し疲れた。しばらく休むから交代してくれ』

『はあ!?』

 

するとモニターに映るシモンは操縦桿から手を離して座席に深く座り直した。どうやら本当に休む気である。

 

『ちょっ、シモンさん!? 交代するといっても、どうすればいいネ!?』

 

慌てふためく超。しかしその間にもグレンラガンを感知したモドキは迫ってくる。

すると突然グレンのコクピットに貫かれているラガンのドリルが口を開き、中から滑り台のようにして、上からブータが落ちてきて超の膝に座った。

 

『ブータ、何を・・・』

『ブミュウゥゥ!!!』

『なっ、これは・・・・』

 

突如ラガンのコクピットからやって来たブータは、超の膝の上で螺旋力を解放する。

ブータの螺旋力が超を包み、グレンラガンをも包み込んだ。

 

『超、・・・俺が休んでいる間、この時だけはグレンラガンはお前の物だ! 好きなようにしろ!』

 

聞こえるシモンの声に超はまた興奮した。

 

『まったく・・・しかしブータ、感謝するヨ! これで百人力ネ!!!』

 

シモンの言葉に甘えて超はグレンラガンを己の手足のように動かしていく。

そう、この時だけは彼女だけの時間だった。

 

『茶々丸、スマナイ・・・私の意地のためにお前をこんな目に合わせてしまった・・・・』

『ターゲット・・・機体内デ静止中・・・操縦者変更・・・』

『相変わらずお前はシモンさんが目的カ? それは私の指令・・・それとも茶々丸の意思なのカ? だが・・・済まないが・・・もう少し付き合って欲しい!』

 

それは残酷な光景かもしれない。

自分が作り出した茶々丸と、偽りのグレンラガンが、生みの親である自分に向かってくる。

だが、超は自身の生み出した二人に一度謝ってから、前を向く。

超が己のやりたいようにグレンラガンを操作する。

茶々丸も反応する。

奇しくも二人が選んだのは同じ行動だった。

 

『『グレンブーメラン!!』』

 

ブーメランの刃で互いに斬りかかり、鍔迫り合いになる。

その巨大さと威力のぶつかり合いに火花が飛び散るほどだった。

 

『流石ネ! しかし・・・・』

『敵機ノ武器・・・破壊シマス』

 

一度間合いを取り、再びモドキが斬り掛かって来る。しかし超が動かすグレンラガンは飛んだ。

そしてロボットらしからぬ柔軟な動きで跳び蹴りを炸裂させる。

 

『私を誰だと思ってやがるキック!!』

『グッ!?』

 

蹴りを真正面から受けたモドキ。しかし即座に立ち上がり、再びブーメランで襲い掛かる。

だが、

 

『少し痛いが我慢するネ!!』

 

超が操縦桿を強く握り締めてコクピット内で手を振り上げる。その動作と想いがグレンラガンに伝わったのか、グレンラガンの拳となって繰り出される。

そしてグレンラガンの拳から二本のドリルが突き出して、モドキのブーメランを受け止める。

だが受け止めただけではない。

高速回転しだした二本のドリルがモドキのブーメランを粉々に砕いた。

 

『ッ!? 武器・・・破損・・・修復作業・・・』

 

粉々に砕かれた武器に対して、僅かに茶々丸の表情に変化が見られた気がした。

だが、すぐに元の機械の表情に戻り、魔力を流して壊された武器を修復しようとする。

 

『させないヨ!!』

 

グレンラガンが拳のドリルを出したまま、走り出す。そしてその拳のドリルが、障壁も、モドキの機体も貫いていく。

 

『機体損壊・・・貫通ダメージ・・・』

『状況把握する暇あるなら、その目で少しでも前を見るネ!!』

 

突き刺したドリルが高速回転し、モドキの機体内から竜巻を起こして、機体を内部から抉り取っていく。

 

『スカルブレイク!!』

『ブースター出力最大! 緊急離脱!』

 

だが茶々丸はそこから最善の対処法で、ギリギリの所で逃れる。

背中のブースターに火を吹かせて、突き刺さったドリルから強引に逃げ出した。

 

『やるじゃないか、お前も・・・茶々丸も・・・そしてお前の作った過去の夢もな・・・』

『当然ヨ、私を誰だと思っているネ?』

『はは、たしかにな』

 

本物相手に茶々丸もモドキも粘っている。

だが徐々に握り締めた拳の中にあるものの差が見られてくる。

そして、

 

『理解不能・・・』

 

モドキのスピーカから声が漏れた。

それは紛れも無く茶々丸の言葉である。機体への指令以外で彼女が初めて言葉を発した。

 

『茶々丸!? 意識が戻ったのか!?』

『いや、まだヨ。しかし私の作ったメカの魔力による修繕の力も無限ではない。機体自体が徐々に魔力の力に耐えられなくなっている。そのお陰で、茶々丸の自我が少し戻ったネ」

 

強力な魔力を吸収しすぎないようにリミッターまで取り付けたのである。

それを解放すればたしかに一時的な力を得られるものの、その力に機体はいつまでも耐えられることは無い。

気付けばモドキの機体は超が付けた傷も僅かに残り、完全には修復されないでいる。

 

『気合・・・以前ニモ検索履歴アリ・・・シカシ明確ナ答エハナシ・・・』

 

それは初めてシモンと戦った次の日。気合が無いと言われた茶々丸は気合について考えた。「気合」というものをプログラム出来ないかとハカセにも聞いた。

だが、それが叶うことは無かった。

 

『気合トイウ付加価値ガ勝率モ計算モ狂ワセル。気合トイウプログラムガ無イ限リ・・・勝機ハ・・・』

 

それは見ようによっては冷静に状況判断をしようとしているロボットに見える。

しかしシモンにも、超にも、溢れ出す言葉から、茶々丸の漏れ出した感情を僅かに感じ取った。

だからシモンは語りかける。

 

『茶々丸、あれから俺達は何度も会った。そして修学旅行ではお前と背中を合わせて戦った』

 

シモンと茶々丸はネギたちの道を作るために100を越える鬼を相手に共闘した。

 

『最初会った時に、俺はお前に気合がないって言った。でも鬼と戦ったときのお前は限界ギリギリまで力を出して戦った。あの時俺はお前の中にある気合を感じた』

 

命令ではなく、己の身を省みずに彼女は戦った。

一度は拳を交え、共に戦ったからこそ、シモンは茶々丸をよく理解しているつもりだった。

 

『気合ってのは、無いから付け足すって言うモノじゃない。人間だからあるってモノでも、機械だから無いってモノじゃないと思う。グレンラガンがその証拠だ』

 

自分達の気合をいつだって具現化したグレンラガン。だったら機械に気合があってもいいとシモンは思っている。

 

『俺はお前の気合を知っている。そこから引きずり出して、思い出させてやる!!』

 

その瞬間、コクピット内の螺旋ゲージのメーターが振り切れた。

シモンの気合が最高潮に達する。

 

『超・・・決めるぞ・・・いいな?』

 

シモンは超に最後の確認をした。

目の前の偽者に風穴を開ける。しかし偽りといっても、超が目の前の物を作っていた時の気持ちは、紛れも無く本物だった。

その詰まった過去の夢を打ち砕くのだ。

すると超は小さく笑いながら頷いた。

 

『もう、夢は十分見させてもらったよ。そしてこれのお陰で本物と出会うことが出来た・・・、友を救い、・・・そろそろ昔の夢とも見切りをつけて・・・私も・・・明日へ向かうヨ』

 

過去を変えようとしていた超の告げた「明日」、その言葉からシモンは超の覚悟を感じた。

 

『分かったよ、超。お前の明日に連れて行ってやるって言ったのは俺の方だ。だから・・・一緒に行くぞ!!』

『心得た!!』

 

超とシモンが同時に動き出した。するとグレンラガンの腕には巨大なドリルが現れた。

 

 

『そして超、お前も忘れるな! たしかに俺はお前の世界にはいない。でも・・・仲直りした俺たちは、もう敵じゃない・・・』

 

『・・・ウム』

 

『たとえ時代と次元の違いがあっても、今ここに居る俺は・・・お前の味方だ!』

 

 

グレンラガンは唸る。

それはもはや説明不要。

幾多の強敵と困難を突き破ってきた本家本元のあの技である。

 

『私ノ・・・使命ハ変ワラナイ・・・』

 

だが茶々丸はその技に正面から向かってくるようである。

 

『魔力最高値、超絶ギガドリルブレイク、スタンバイ』

 

魔力の渦がモドキの機体を覆い尽くしていく。

そしてその渦が次第に螺旋状へと変わって行き、モドキを覆った魔力自体が巨大なドリルと変わった。

機体がその力に耐え切れずに徐々にヒビが入っていくが、それを構うことなく茶々丸は技を発動させる。

それは最早真似でも、パクリでもない、一つの技として完成していた。

紛れも無く、超の作った偽りのグレンラガンも、茶々丸の腕も進化していた。

その膨大な魔力から危機を感じ取った学園長。だが、行く手をエヴァに阻まれた。

 

「むっ、これはマズイぞい!」

「手を出すな、・・・心配無用だ。奴らを誰だと思っている」

 

ネギたちも遠く離れた場所で見守っている。

 

「シモンさん、超さん・・・茶々丸さん」

「何と巨大な・・・」

「でも・・・あの人達が・・・このまま終わるはずが無いよ!」

「せやな、負けるはずが無い!」

 

告げる言葉に偽りは無い。瞳が全く揺らいでいない。

新生大グレン団も、ヨーコも、美空達も、信じている。

 

 

『なんと・・・悲しい力・・・中身がスカスカに見えるヨ・・・』

 

『威力も大きさも、パイロットの腕も満たされている・・・だけど・・・グレンラガンに一番必要な物が足りなかったな・・・』

 

『気合・・・あれほど否定した物が勝敗を分けるとは、やっぱり皮肉なものネ』

 

 

巨大な魔力で練り上げたギガドリルを前にしても、超もシモンも驚かない。むしろ切なそうに眺めていた。

気合という言葉の重要性を、超は本物を知ったことにより、ようやく理解した。

 

 

『限界値、超絶ギガドリルブレイク発動!!』

 

 

巨大な螺旋の渦が、矛先をこちらに向けて飛び込んでくる。

 

『シモンさん、アナタが私の味方なら・・・どんな理由にせよ、今は同じ世界に居る・・・だから・・・』

『ああ、だから今だけでも、一緒に行くぞ、ダチ公!!』

 

彼らは既に、この戦いの結末が分かっていた。

そして最後の一撃のために力を溜める。

 

『超、茶々丸はラガンモドキに乗っている・・・風穴開けて爆発する前に掴み取れ』

『随分難しいことをアッサリ言うネ。だが、私にはそれぐらいの責任があるネ』

 

そして目前と迫った巨大な螺旋を前に、グレンラガンもようやく動いた。

 

『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』

 

両者が雄叫びを上げてギガドリルを片手に、巨大な螺旋の矛先に向けて突き返す。

攻撃の大きさで言ったら間違いなくモドキの方が上である。

しかしグレンラガンは耐え切る。

質量が目に見えて違うはずのドリルに対して突き返し、それだけでなく・・・

 

 

『超絶ギガドリル・・・押シ返サレ・・・・』

 

『まだ分かんねえのか! 掘り抜けようとする気合のねえ紛いモンのドリルで、コイツを打ち破れるはずがねえだろうが!! 限界を出すことが気合なんじゃねえ! 限界を超えようとする想いこそが気合だ!』

 

『最大出力・・・維持・・・』

 

『それが間違いヨ、茶々丸。グレンラガンにもグレン団にも、・・・いや、不屈の気合を持った者に限界は無かった・・・自分でソレを最大といっている時点で既に負けている・・・』

 

 

魔力は未だに無尽蔵に溢れ出し、茶々丸とモドキに力を与えている。

しかしそのドリルは一歩も前に進まずに、むしろ目の前のドリル相手に後退していく。

 

 

『計算外・・・計算外・・・計算不能・・・計算・・・』

 

『その時点で計算違いだ!! 無限の壁を突き破る俺達に計算を当てはめようとした時点で!!』

 

 

茶々丸のコンピュータの頭脳が乱れ始めた。

 

 

『たとえ絶望の明日が阻もうと、無理を通して明日を掴む。計算して突き進むのではない。己を信じて突き進むのだ。私はそれを学んだヨ! 茶々丸、思い出せ! お前はもっと早くに学んでいたはずネ!』

 

『超・・・私ハ・・・・』

 

 

光り輝き突き進むことを止めないドリルが徐々に茶々丸を覆った壁をも突き破る。

 

 

『コイツが・・・俺たちがッ、今までどんな壁を打ち破ってきたと思ってやがる! どれほどの気合を振り絞ってきたと思ってやがる! どれほどの想いを背負ってきたと思ってやがる!』

 

『・・・・シモン・・・サン・・・・』

 

 

茶々丸の口が小さく呟いた。

 

『さあ、最後だ・・・私の明日を見せてくれ・・・・』

 

超が目尻に僅かな涙を浮かべながら、己の昔の失望した夢との別れに浸る。

 

「見せてやりなさい、シモン! その物語が捻じ曲がろうがどうなろうが、今のアンタが私達の魂を、この世界に見せつけてやりなさい!!」

「ぶみゅうう!!」

 

ヨーコ、ブータ。

 

「兄貴・・・超・・・茶々丸・・・・」

「兄貴・・・・」

「見せてください! 私達が信じたアナタの魂を!!」

 

美空、ココネ、シャークティ。

 

「シモンさん・・・超さん・・・・」

「私達は目を逸らさないわ!! だから・・・」

「はい、私達にも・・・・・」

「シモンさん、ウチらにも見せてや!」

 

ネギ、アスナ、刹那、木乃香。

 

「「「「リーダー!!」」」」

「「「「シモンさん!!」」」」

「ゆけ! 天も次元も魔法も突破して! どこまでも高く突き進め!」

 

グレン団も学園の生徒達もエヴァもその瞬間を見守った。

 

 

『見せてやる、これがグレン団! これがグレンラガン! これが本物のギガドリルブレイク! そして・・・これが・・・・』

 

 

全ての壁を突き破り、この世界で出会った家族、友、仲間、敵、全ての者に向けてシモンは叫ぶ。

 

 

『これが俺の十倍返しだァァァァーーーーーーーーーー!!!!』

 

 

グレンラガンは突き進んだ。

夜空に輝く星に向かって、この世界での最初で最後の天に向かって突破する姿を見せ付ける。

巨大なドリルによって紛い物のドリルは回転を止め、砕け散る。そして超のかつての夢と共に風穴を開けられる。

巨大な風穴が開き、行き場を失った魔力が暴走し始める。それは数秒後の爆発を示唆していた。

だがその前に、天に登り、降り立ったグレンラガンが、空中に投げ出された爆発寸前のロボットに向けてもう一度飛び、手を差し出す。

 

 

『『茶々丸―――――ッ!!』

 

 

超とシモンは叫ぶ。友に向かって思いっきり叫ぶ。

すると言葉を返す前に、風穴開けられたモドキのラガン部分が機体から切り離なれ、離脱した。

グレンラガンはそのラガン部分に手を伸ばし、空中で掴み取った。

その一瞬後に大爆発が起こった。

なんとも荒々しい祭りを締めくくる花火となった。

 

『茶々丸・・・・』

 

爆煙の中から、グレンラガンは夜空に突き抜けた。

そして大事そうに手に抱えたラガンモドキのコクピットに向かって話しかける。

すると・・・

 

『シモンさん・・・超・・・・』

『『茶々丸!?』』

 

声がようやく返ってきた。

 

『ありがとうございます。・・・受け取りました、十倍返し。・・・また明日から・・・気合を入れ直してがんばります・・・』

 

自分達の知っている茶々丸だった。ロボットでありながら、人間臭い女。

シモンも超も、コクピットの中で拳を力強く握り締める。

友を救い、超にグレン団を証明し、一人も欠けることなく全てに決着を着けた。

やることは全てやった。だから迷うことなくシモンは叫んだ。

 

『俺達の、勝ちだッ!!』

 

シモンの言う俺達の中に誰が含まれているかは分からない。

しかしその声を聞いた者たちが、所属するチームに関わらずに声を上げた。

誰が何に勝ったのかは分からない。しかし超も含めて、そこに敗者の顔をする者は一人も居なかった。

 

『終わったヨ・・・何もかも・・・・』

 

突き抜けた先から、歓喜の渦に包まれる生徒たちを眺めながら超は苦笑しながら呟く。

 

『終わった? なに言ってやがる、お前の明日も・・・俺たちの明日も・・・ここから始まるんだ!』

『・・・そうネ、なら・・・この光景を今日のうちに味わいながら・・・私は明日へ向かおう』

 

夜空に浮かぶグレンラガンは手に茶々丸を乗せながら、ゆっくりと飛行した。

地上では生徒たちがお祭り騒ぎで盛り上がっている。今から後夜祭の準備に入るのだろう。

その光景を見ながらシモンはラガンのコクピットの中で肩の力を抜いた。

 

 

『・・・勝ったよ、みんな。・・・誰も失わずに・・・誇りも穢したりはしていない・・・・』

 

――そうね、シモン。だって、みんながんばったもの。

 

『!?』

 

 

愛する者の声が聞こえた気がした。

だがそれは幻聴だった。

だがシモンは慌てて辺りを見渡してしまい、思わず苦笑してしまった。

 

『ったく、・・・待たせすぎたな・・・でも・・・安心しろ。すぐに会いに行くよ』

 

グレンラガンは地上にそのまま降りずに、進路を別の方向へ向けた。

それはシモンのこの世界での家、教会だった。

シャークティと美空とココネ、そしてヨーコはそれの意味をよく分かっていた。

グレンラガンは元の世界での希望の象徴。それをこれ以上この世界に置いたままにしては、ロシウたちに心配させてしまう。

そして元々、言っていたことだった。

学園祭が終われば自分たちは元の世界に帰る。

愛する者の眠る地へ。

だからシモンは最後に家に立ち寄ることにした。それは「サヨナラ」を言うためではない、「いってきます」と言って必ず帰るという誓いをたてるためである。

ヨーコは黙って教会へ向かう。

そしてシャークティたちはシモンに「いってらっしゃい」を言うために自分たちの家へと向かった。

 

「シモンさん・・・・」

 

グレンラガンが教会へ向かうのを見て、木乃香は寂しそうな表情をした。彼女にも理解が出来たのである。

そんな彼女の肩にアスナは優しく手を置く。

 

「いこ。シモンさんに、早く帰ってくるように言わなくちゃね♪」

「アスナ・・・」

「そうです。だから、私たちも行きましょう」

「・・・うん、せやな・・・・」

 

ぎゅっと唇を噛み締めて胸の中の寂しさを押さえながらネギたちはグレンラガンの後を追う。

 

 

全ての壁を突破して、今ここに完全決着。

 

 

そして暫しの別れの時がやって来た。

 


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