魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第97話 特訓突破

「あきらめない! あきらめない、あきらめない!!」

「そそ、そうそう! さささ、寒さは熱血で暖める!! ここまでやっちゃったんなら・・・」

 

一面が吹雪のみの極寒世界に二人の少女が不屈の叫びを上げていた。

 

「「あきらめるもんかーーーー!!」」

 

突き刺さる寒さ、リアルに体感する死への直面。

だがアスナと美空の二人はこの未知なる世界でも、変わらぬ気合を叫んでいた。

 

「ほう、流石に根性だけはあるようだな。二人共口だけというのは訂正するべきかな?」

 

エヴァの課した修行。それはこの極寒地獄の世界で一週間生き延びるというものである。

 

「くっくっく、初めは二人まとめて直ぐに音を上げると思っていたんだが、そこまでして平穏を捨ててでも強くなりたいか?」

 

エヴァは上機嫌になりながら、弱音を吐かない二人の少女を見て呟く。

アスナはネギを守るため。

美空は無理を通せる力を手に入れるため。

その理由で二人は中学最後の夏休みを過ごしていた。

 

「ふん、バカな奴らだ。無理しないであきらめれば、それこそ平穏な幸せを送れるというのに・・・特に・・・神楽坂アスナの方はな・・・」

 

美空はある意味仕方がないとエヴァは思っていた。

美空がグレン団を誇りに思ってしまった以上、彼女が中途半端で居ることは彼女自身が許さなかった。

シモンとの出会いが美空をそうさせてしまった。

だがアスナの方は違う。

 

「ケケケ、ダケドヤケニ機嫌イイジャネエカ」

「ふっ、そうか? だが・・・これも奇妙な光景だと思えてな」

「奇妙?」

 

体を襲う寒さに必死に耐えながらも、何度だって強気な言葉を叫ぶアスナと美空。

エヴァから見てそれは奇妙な光景だった。

 

「生まれも・・・育ってきた境遇も全く正反対の二人が、理由は違うが、共に高みを目指して突き進んでいる。妙な巡りあわせではないか」

「アア、ソウイウコトカ・・・」

 

エヴァはアスナの境遇を知った上で話していた。

アスナと美空はまったく別の境遇にいた。そんな二人が唯一重なったのは、魔帆良学園の生徒であるということだった。

しかしそれだけだった。

美空は見習い魔法使い。

アスナはただのバカレンジャー。

しかし二人共シモンとネギに出会ってしまったがゆえに、こうして同じ世界の住人となってしまった。

そして今ではそれを自分の意思で決めた。

それがエヴァには面白かった。

 

「見せてみろ、・・・それがキサマらの自分で選んだ道ならば」

 

二人の新弟子の行く末を、離れた場所で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

心は耐えられたが、体力まではそうはいかなかった。

徐々に疲れ始めた体が、美空とアスナのテンションを下げていた。

 

「だああ・・・・死にそう・・・普通修行ってアレじゃね? 腕立て伏せとか腹筋とかランニングとか・・・」

「ふ・・・ふふ、ここここ、これぐらいはエヴァちゃんなんだから・・・・」

 

極寒の大地でアスナと美空は壁に洞窟を作り、必死に体を小さくして、寒さをやり過ごそうとする。

だが、そんなものは気休めにしかならない。

 

「うう~、感卦法もうまくいかないし・・・このまま一週間はマジで死ぬかも・・・」

「へへ、そうゆう選択肢があるだけでうらやましいっすよ。そもそも私は感卦法なんて全然使えないんっすから・・・」

「美空ちゃん、もっと強い火を出せないの?」

「無茶言うなって、見習い魔法使いにはこれが限界っす!」

 

目の前で美空が出した初級魔法の火が頼りなく燃えている。

アーティファクトを二人共エヴァに修行前に没収されたために、アスナは感卦法がうまくいかなかった。もっともエヴァはそれを見越してカードを取ったのだが、今のアスナはまだうまくいかないようだ。

一方で美空にとって感卦法などという高等技術は、まだ選択肢に入っていなかった。

とにかく二人ともアーティファクトのないこの状況でどうやって生き延びるのかを考えていた。

 

「しかし・・・こんなんで強くなれるんっすかねえ? 速さとなんにも関係ねえじゃんって思うんすけど・・・」

「わわ、私も不安になってきたわ・・・」

「そだよね・・・・それに・・・」

「うん・・・」

 

そして二人は同時にお腹を押さえた。

 

「「お腹すいたよ~~~」」

 

修行終了まで時間はまだまだある。

体力の低下と状況を打破できない展開に少しずつ不安になってきた。

 

「ねえ、・・・美空ちゃんは・・・・なんで頑張るの?」

「どうしたの?」

「ただの話題づくりよ。このまま黙ってたらそれこそ死ぬし、それに少し気になったからね・・・」

 

このまま無言で居れば本当に死んでしまうかもしれない。アスナは当たり障りの無いことを聞いてみた。

 

「美空ちゃんってそーゆうキャラじゃなかったじゃん。・・・やっぱシモンさんの影響?」

「う~ん・・・まあキッカケはそうなんだろうけどさ・・・」

 

美空は悴む手をギュッと握り締めながら考える。

何故自分はここに居るのかを。

 

「私さ・・・学園祭の戦いは・・・本当にマジだった。多分・・・今迄で一番マジだったよ・・・」

「うん、そうだったよね・・・」

「でもね、私・・・・実は楓に・・・・ガチで負けちゃったんだ・・・」

 

自身の限界ギリギリまで振り絞った気合が、クラスメートにすら敵わなかった。それが美空を締め付けた。

 

「そりゃあさ、楓に勝つなんて・・・無謀だろうけど・・・負けたらやっぱ・・・・悔しかったんだ! これが私の限界なのかってね・・・」

 

あの時自分のパートナーと誓った言葉を思い出す。

共に涙を流したココネを思い出す。

 

「強くなりたいって・・・思ったんだよ。無理を通せる強さが欲しいって・・・背中の誇りを守れるぐらい強くなりたいって・・・思ったんだ・・・。誰でもない・・・自分になりたくて・・・」

「美空ちゃん・・・」

 

ずっと同じ学年で、おちゃらけた少女はここには居なかった。

誰でもない自分のために、道を真っ直ぐ突き進もうとする美空を見てアスナは考えた。

それでは自分は一体誰なのかと?

ネギのため?

しかしそれだけのために平和な夏休みを台無しにして、ここにいるのかと。

急に美空が胸に抱いた想いに比べて、自分が弱いように感じてアスナは少し黙ってしまった。

すると・・・

 

「って、わきゃ~~~、な~に私は似合わないセリフを言ってんすか~~!?」

「み、美空ちゃん?」

「似合わねえ、マジで似合わねえ~~っす!!」

 

急に立ち上がった美空は、顔を真っ赤にして今言った自分の発言に耐え切れず恥ずかしがっていた。

 

「だあ~、忘れて忘れて、今のなし!! こんなの私じゃねえ!!」

「な、なんでよ~? ちょっと見直したよ?」

「見直されちゃダメ! ユルくて、ヌルくて、楽な道を行くのが私だよ~、こんな体育会系の発言は忘れて!」

「そんなことないって、美空ちゃんはもう立派な熱血少女よ!」

 

思わず言ってしまった自分の臭いセリフが、自分自身の全身を駆け巡り、身悶えてしまった。

 

「う~~~、こうなりゃ・・・・走ってくる」

「はあ?」

「こ~んな恥ずかしい話して、ジッとしてられるか~~!! こうなりゃこの寒さで汗をかくぐらい走ってやるよ~~~!!」

 

そう言って美空は顔を赤くしながら洞窟の外に出ようとする。

それをアスナは必死にしがみ付いて止める。

 

「そんな恥ずかしがらなくったっていいじゃん!? ちょっと感動したよ?」

「ダメダメダメ! 私のキャラが許さん! こうなりゃジッとしてないで死ぬほど走ってやる~~~!!」

 

恥ずかしさに耐え切れずに悶えた美空は、振り払おうとヤケクソに走ろうとする。

アスナも必死で止めようとするが力が入らない。

 

「うりゃああああああああ!!」

「ちょっ、この吹雪の中でどうやって帰ってくんのよ~~~!?」

 

そして美空は一メートル先も見ることの出来ない白い地獄の世界へと姿を消した。

 

「・・・ホントに行っちゃった・・・・」

 

後先考えずの行動は実にグレン団らしいが、限度がある。

アスナは消えた美空に少し唖然としてしまった。

 

「・・・はあ~、・・・誰でもない自分になりたい・・・ネギもそう言ってたわね・・・」

 

残されたアスナは美空の言葉を思い返す。そして以前ネギに言った言葉も思い出す。

 

「じゃあ・・・・私は・・・どうして頑張るんだろ・・・・」

 

一人になったアスナに美空の言葉が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、イイノカヨ? 遭難スルゾ?」

「さあな、だが、ゴールがどこかにあるわけではない。美空よ、たとえ迷っても自分の目指す先は見失うなよ」

 

駆け出した美空の背中をエヴァは子を見守るような親のような目で見つめる。

そして洞窟に再び戻ったアスナにもである。

 

「どうした? 止まっているだけでは道の先には進めないぞ? キサマの選んだ道は立ち向かうのではなく、生き延びる道か? 神楽坂アスナよ、キサマは何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてテンションに身を任せて飛び出した美空は・・・・

 

「・・・はっはっは・・・・・やべえぜ・・・」

 

一分で自分の暴走に後悔した。

 

「遭難した~~~ぁ!?」

 

当然であった。

 

「やべえ・・・暴走は木乃香の一件以来止めとこうって思ったのに・・・・なんで私って冷静になれないんっすか~~!?」

 

後悔先に立たずという言葉の教訓を活かせない美空だった。

そしてそんな後悔を容赦なく追い討ちをかけるように寒さと吹雪が美空の体を襲った。

 

「ププ、プラクテ・ビキ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)・・・・ってダメだ~~! 直ぐ消えた~~~!!」

 

初級魔法の火などは瞬く間に消え去ってしまった。

アーティファクトもない。そして魔法も通用しなくなれば、ただの女子中学生に戻った美空に容赦なく大自然の驚異が襲い掛かる。

 

「寒い・・・しまったな~、・・・視界も何も見えないし・・・腹も減ってるし・・・こりゃあマジで死んだかな・・・」

 

息も凍るような世界で涙も出ない。

 

出るのは情けない言葉と、腹の音だけである。

 

「うがあーー!! 死ぬのはマジ勘弁! 速さを誇りにしても早死にすんのは嫌だ~~~~!! エヴァさ~~ん! この際お姉さま~~~!!」

 

美空の咄嗟の叫びに一瞬エヴァの肩が揺れた。

 

「むっ、お、お姉さま・・・・」

「御主人・・・ナンデウレシソウニ反応シテルンダ?」

「ハッ、しまった・・・つい・・・」

 

茶々ゼロに止められて正気になったエヴァ。

美空の叫びは吹雪の中へと消え、誰も返事を返さなかった。

 

「ああ~~、・・・なんか気分が楽になってきた・・・綺麗なお花畑が見える・・・その向こうでストレイト・クー○ーのアニキが手を振ってる・・・・」

 

もはや精神状態もやばい方向に向かっていた。

 

「そうだね~、速さがこの世の理だよね~・・・そうだ、一緒に競争しよう、・・・ってイカンイカン・・・・」

 

絶対零度の世界で美空の心が折れかかる。そして美空はとうとう倒れてしまった。

体力もなく、このまま寝れば120パーセント死ぬであろう。

だが今の美空は強がりどころか、弱音を吐く体力も無い。徐々に意識が遠のく。

 

(なんで・・・私が・・・こんなことやってんだろ・・・華の中学生最後の夏休みが、雪山で凍死って・・・笑えねえ・・・)

 

力が全身から抜けていく。

だがなぜか、拳だけは握り締めたままだった。

それは凍ってしまったからではない。

この状態でも美空はまだ何かを手放せないのだった。

 

(楽なモンじゃないね~・・・グレン団って・・・・でも・・・分かってる・・・)

 

そして意識が遠のく中で兄を思い浮かべる。

 

(ったく・・・・分かってるってば・・・・忘れてないよ、そんなこと・・・)

 

美空は凍った口の中で歯を食いしばりながら、もう一度立ち上がろうとする。

 

(居ても居なくても・・・こうして力をくれるんだね・・・)

 

凍った唇にヒビが入り、血が滲み出る。

痛くてたまらない。

しかし美空は立ち上がる。

 

「いつまでも心配してんじゃないっての・・・兄貴の信じる私を信じろっての・・・・」

 

立ち上がったからといって何が出来るわけでもない。しかし美空は一歩一歩足を踏み出していく。

 

「あきらめるな・・・足掻いて足掻いて・・・でしょ? そんなもん、忘れたくても忘れらんないっての」

 

どこに向かっているか分からない。

視界も方角も分からない世界。しかしそんな世界を立ち止まらずに歩き出す。

 

「誰かに褒められたいわけじゃないよ・・・力が欲しいのは自分の意思だ・・・止まりたくないのは自分の意思だよ・・・ココネを二度と泣かさないためにも・・・そして自分のためにも・・・そこに兄貴は関係ない・・・」

 

涙も凍る世界で美空は見えない前へ向かって歩いている。

 

「見えないゴール目掛けて走ってやろうじゃねえの・・・・」

 

するとその時だった。

どこからか分からない。

しかし、どこからか唸るような音が聞こえてきた。

そして地響きが起こり、大地が音をたてて揺れ出した。

巨大な音をたてて何かが近づいてくる。

 

「オイ、御主人!」

「むっ、雪崩だ!?」

 

自然の猛威は止まらない。

止まらぬ吹雪により積もり積もった雪山が、その重みに耐え切れずに一気に崩れ出した。

氷系の魔法使いのエヴァにはこの雪山でも景色は見えるが、美空は一メートル先も見ることは出来ない。

 

「アイツ・・・気付いていないのか?」

 

突然の出来事にエヴァは少し顔を顰める。

もちろん、雪崩も修行の想定の範囲内なのだが、今の美空は危険状態だった。

意識が朦朧としている美空はこの事態に気付いていないのかもしれない。

もしこの状況で巻き込まれれば死は免れないかもしれない。

しかしエヴァはギュッと拳を握り締めてその場から動かない。

 

「私は助けないぞ。・・・キサマもグレン団の看板を背負っているのなら・・・自分で何とかして見せろ!」

 

エヴァは動かない。

見捨てたのではない。

口には出さないが、あのお調子者で、逃げ腰だが、シモンが信じた美空を心の中で信じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

(感じる・・・見えないけど・・・スゴイのが近づいてくる・・・こんな物まで私を追い抜こうって言うの?)

 

美空は目を閉じながら、迫りくる脅威を実感した。

 

「本気なんだ・・・私は本気になったんだよ・・・・だから・・・だから、あきらめたりしない」

 

美空はその場で立ち止まった。そして見えない方角から来る自然の力を体で感じた。

 

(このスピード・・・大きさから感じる威力・・・範囲・・・、横に避けても間に合わない・・・来る方向へ向けて走るしかない)

 

そして口を開く。

 

「だから・・・逃げるんじゃない、走り抜けてやる! 誰よりも速く遠くに! だからお前の勝負を受けてやる!」

 

美空は雪崩が進む先を感じ取る。そしてその先にあるものを集中して感じ取る。

 

(木・・・崖・・・岩・・・障害物は結構あるけど・・・見える・・・感じる・・・頭の中に正しい道のりが・・・光のルートが・・・)

 

口に出す言葉とは裏腹に美空の心の中は実に冷静に状況を把握していた。

完全なる集中力の世界、それは武道大会でアスナと戦った時と似たような感覚。

時が止まって感じるほど集中した世界。

自分の居る世界を一瞬で把握するほどの研ぎ澄まされた感覚。そしてその感覚が頭の中で一本の光の道筋を作り出した。

途中で曲がったり、脇道にそれたりするが、それは美空が感じたコースの形だった。

 

(この光の道筋が、このレースのコースだ! このコースを・・・コイツより速くに駆けるんだ!)

 

そして美空は再び現実に戻り迫り来る雪崩に宣戦布告する。

 

「私の速さに勝てるモンなら勝ってみな!! 一位は誰にも譲んないよ!! ゴールに着くのは私が先だ!!」

 

迫り来る雪崩にどちらが先を駆け抜けるかを美空は勝負を挑んだ。

そして指を白く埋め尽くされた空に向かって真っ直ぐと突き刺した。

 

 

「速さの力で駆け抜ける! スタートこけても立ち上がり、全員ぶち抜きゃ一等賞!」

 

 

そして叫ぶ。

自分は誰なのか。

いや、誰になるのか。

 

 

「私を誰だと思っている、私は新生大グレン団の、かけっこ美空だ!!」

 

 

美空は走り出す。

背後に迫る雪崩に追いつかれぬように走り出した。

頭の中で作り出した光の道筋に従って、ただひたすら走った。

 

(前へ、前へ、前へ!!)

 

そしてただ走っているだけではない。目に見えない障害物すらも避けていく。

アーティファクトの無い美空の速度は常人より少し上程度・・・とエヴァは思っていた。

しかし・・・

 

(見えないゴールまで・・・前へ!)

 

美空は意識してやったかどうかは分からない。

しかし自身の僅かな魔力が全身へ流れ、美空の凍えた手足に熱が帯びていった。

温かい、温かい、光だった。

 


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