魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第98話 走力突破

「オイ御主人・・・アレハ・・・」

「魔力だ・・・少々歪ではあるが、魔力供給だ。詠唱していない不完全な物だが・・・それぐらいの使い方は身につけたようだな・・・しかし・・・」

 

美空は感卦法のように高等技術は使えない。現在使っているのは単純な魔力の供給による強化でしかない。

ましてやネギのようにちゃんとした詠唱による強化魔法ではない。だがそれは間違いなく大きな手助けとなっていた。

しかし・・・

 

「あの程度なら大した問題にならない・・・しかし・・・・」

「アア、・・・アノ美空ッテガキ・・・・アリャア何ダ?」

 

美空の魔力による多少の強化、しかしそんな物はエヴァ達にはどうでも良かった。

少し修行すれば魔法使いなら誰でも出来る技術であり、感卦法のように万能な究極技法には遠く及ばない。

だが彼女達は目を見開いた。

走るだけでなく、見えないはずの障害物を交わしていく美空に驚いた。

 

「アレは・・・なんと言ったか・・・そうだ・・・『デイライト』だ!」

「デイライト?」

「うむ、何かのスポーツにあった。立ちはだかる障害や壁などにある僅かな隙間を探す能力、それがデイライト。・・・奴は感覚で感じ取った障害物から、頭の中で正しい道のりを導き出している・・・」

 

障害物を減速するどころか加速しながら回避していく、美空のスピードだけではなく、正確な走り方がエヴァの予想を上回った。

デイライト。己の頭で描いたルートを信じて、美空は迷わず進んでいく。

 

(背後に迫ってる・・・でも直ぐそこに岩が・・・でも関係ないや・・・それをむしろ踏み台に飛べば、更に前へ進める・・・その先には・・・大木が・・・でもこの進路ならぶつからない・・・)

 

美空は数メートル先も見えない猛吹雪の中に居る。

 

「速い・・・もっと速く・・・もっと疾くなれる! そして見える! 景色は見えないのに、光の道筋が見える!」

 

しかし彼女は一度も減速するどころか加速していく。しかも途中に生えている木や岩などをしっかり感知して避けていく。

 

「そして・・・雪崩の勢いも速さも感じる・・・だけど抜かれる気がしない・・・まるで・・・私以外が止まった感覚・・・」

 

先ほどまでの絶望的状況が全て頭から抜け出した。いや、今の美空は一つのことしか考えられなかった。

 

(ああ、そうか・・・一つのことにガムシャラになる・・・それが集中するってこと・・・それが本気になるって事・・・)

 

迫り来る雪崩よりも速く駆ける。

 

(自分が信じる自分を信じる・・・だから、不安を感じる必要も無い・・・)

 

追いつかれれば死。

しかしそのギリギリの緊張感が美空を更に興奮させた。

 

「抜けるもんなら、抜いてみな!! 追い抜かれても追い越してやるさ!!」

 

氷の世界に来て、美空は始めて笑った。

 

(私の方が速い! だってそれが私だから!)

 

まるでこの勝負を楽しんでいるかのようだった。

 

「抜けないのなら、この雪山に私の背中のマークを刻み込め! お前より前を走ったこの背中を目に焼き付けろ!!」

 

デイライトを身に着けた美空は怖いものナシに視界ゼロのコースを走っていく。

しかしそれは矛盾があった。

 

「オイ・・・アイツ前見エネエンダロ? 何デ障害物ヲスピード落トスドコロカ、加速シテ回避デキルンダ?」

「それがデイライトだ」

「デモヨ~、ソレハ障害物ガ見エルノガ前提条件ダロ? 見エナイ障害物カラ、ドウヤッテ正シイ道筋ヲ見ツケラレルンダ?」

 

その疑問はもっともだった。

デイライトは簡単に言えばスポーツにおいての危機回避能力のようなもので、ディフェンスの穴、つまり壁を突き破ると言うよりは、壁の隙間を見つける能力である。

しかしそれを見ることが出来ない視界ゼロの状況でどうやって導き出すのか?

それがエヴァが震えた、美空のもう一つの力だった。

 

「奴は見ているのではない、むき出しに解放された奴の驚異的な集中力が・・・感じているのだ」

「感ジテイル?」

 

山を下りながらも加速して、決して美空は雪崩に追いつかせない。

 

「・・・これは・・・魔法使いの力でも・・・特別な力でもない・・・これは・・・デイライトと同じ人間の潜在能力だ」

 

エヴァは予想をしていなかった美空の辿りついた境地に身震いした。

 

「極限の集中力の世界だ。肉体を強化する感卦法などとはまったく違う力・・・研ぎ澄まされた感覚の世界」

「聞イタコトアルゼ、テニス漫画ニ書イテアッタ、無我ノ境地ッテ奴カ?」

「そんな言葉よりもっと有り触れた言葉がある。一流のアスリート達にしか踏み込むことの出来ない領域・・・・」

 

究極の集中力の世界に入った今の美空には全てがスローモーションに感じた。

 

「奴は今、・・・『ゾーン』に入っている」

 

この感覚は武道大会以来だった。

全てが自分の思い通りになる、自分だけの世界に美空は足を踏み入れた。

 

「驚いたな・・・今あの娘は、誰よりも研ぎ澄まされた究極の集中力の世界に居る・・・極限の状況と空腹によりむき出しになった神経、ギリギリの緊張感での高揚した心が成し遂げたか・・・」

「ハア? アンナ集中力散漫ノ代名詞ミテエナ奴ガカ?」

「だが少なくとも・・・奴の今の頭には、雪山というコースでどれほどのタイムで駆け抜けるかしか考えていない。死と隣り合わせのこの状況で一切の恐怖を感じず集中している・・・いや、楽しんでいる・・・」

 

エヴァ達の関心すら、美空には関係なかった。

雪崩の被害が及ばない地域、即ち雪崩が追いつけなくなるまで前へと進んだ。

美空は駆け出した。

 

その前を誰にも何にも譲らない。後続に続くものたちの瞳に、その背に映る燃えるドクロのマークを刻みつけながら、誰よりも速く走り出した。

 

(ああ・・・そうか・・・私・・・・走るのが好きなんだ・・・)

 

勉強も普通。

ルックスもクラスの中では普通以下。

自分が居ても居なくても世界は回る。それが自分に対する春日美空の評価だった。

 

(誰も私を抜かせない・・・誰も追いつけない・・・ああ、気持ちいい・・・)

 

そんな彼女が唯一クラスで誇れたことは、ただ速く走るということだけだった。

 

(前には誰も居ない・・・私が一等賞だ・・・)

 

そして雪崩の被害が届かなくなるほど遠くというゴールへ辿りついた。

それが光の道筋が途切れる場所だった。

そこにゴールテープは無いが、運動会のかけっこのように両手を挙げながら、美空は見えないテープを最初に切った。

 

「ふう~~~~、危なかった~~~、つうか・・・・・勝ったーーーーー!!」

 

自分に雪崩が追いつけなかった事を理解し、美空はガッツポーズをした。

 

「うっひょ~~~、興奮したーー! いいね~、雪崩とのレース、うっは~~~、世界を縮めたーーー!! 私は誰よりも速く走ることが出来まぁ~~す!!」

 

興奮が収まらない。

 

(スゴイ・・・光の道・・・そしてこの感覚・・・時間も距離も環境も全てを無視したような感覚・・・)

 

誰よりも何よりも速く駆け出した興奮が全身の血液を沸騰させ、全ての感覚と細胞を刺激した。

 

(これで・・・アーティファクトも使ったら・・・くう~~~、たまんね~~~!)

 

更なる領域の可能性に美空は全身が震え立った。次は今よりもっと速く走れるような感覚が美空の胸の中を刺激した。

 

「今の感覚忘れない内にもう一回! な~んか、体も暖まったし、アスナの居るとこ分かんね~し・・・・もう一回走ってこよ、また雪崩起きないかな~~?」

 

興奮状態の美空はジッとしていられず、寒さを忘れ、雪山を再び自由に走り出した。

次に競争する相手を探しに、美空は再び吹雪の中へと消えた。

一度の勝利が美空を更に高みへと押し上げた。

 

「ふっ、デイライト・・・そしてゾーン。いずれも魔法使いには関係のない能力だ・・・しかし・・・見事だ」

 

その背をエヴァは機嫌よく眺めていた。

 

「雪崩のスピードは100、200キロは軽く出ている。それを視界と足場の悪い状態で、しかも中距離走で加速して突き放したか・・・一芸だけの凡才が中々やるではないか」

「シカシヨォ、ゾーンナンテ簡単ニ入レルモンジャネエダロ? 意味アルノカ?」

「その領域に足を踏み入れたというのが重要だ。あの二つの力をを自由に飼いならせれば・・・化けるぞ・・・あの娘は・・・そう、流石は我が妹だ! わっはっはっは!」

 

それはエヴァンジェリンが才能や、人格やその人物の境遇などを抜きにして、初めて人を認めた瞬間だった。

 

(武道大会でもそうだった。周りとは時間の感覚が異なって見えるほどの力、あれは動体視力だけではなく、集中力の力でもあったのか・・・ふん、足掻くのをあきらめない凡才が、更なる可能性を見せたか・・・)

 

ただ誰よりも速さでは負けたくないという、ただの意地がエヴァの評価を変える事になった。

 

「だがそう都合よくは行くまい、飼いならすにはそれ相応に自身を追い込み、幾多の修羅場も経験せねばならん、今回はその片鱗を見れただけで満足だな。」

 

吹雪の中で笑うエヴァンジェリン。しかし今の美空はエヴァのことなどすっかり忘れて、次なる強敵を探しに未だに走り続けた。

 

「さて、キサマはどうだ、神楽坂アスナ? 資質に恵まれたお前はどうするのだ? お前はどうしてここに来たのか、教えてみろ」

 

そしてエヴァはこの極寒の地に居るもう一人の女に視線を向ける。

未だに洞窟から身動き一つ取らずに寒さに震える少女は、今何を思っているのだろうか、見ることにした。

 

 

 

 

そしてアスナは美空の居なくなった洞窟で一人寒さに耐えながら、これまでの事を思い返す。

美空の残した火は、まだ少し残っているが、燃やす物も徐々に無くなり、追い詰められてきた。

そんな中で彼女は自分の周りの友を頭の中で考えた。

 

ネギは教師と父親を探すという目的と、立派な魔法使いになるための修行を欠かさず、日々自分を追い込んでいる。

 

木乃香は自身の力と向き合い、魔法使いの道に進む決意と。愛する人に振り向いてもらおうと日々努力をしている。

 

刹那は剣と幸福、両方の道を進むと宣言した。

 

のどか、夕映などは魔法の力に関心を寄せると同時に、木乃香同様に自分の好きな人の傍に居るための努力をしている。

 

そして先ほど美空は誰でもない自分自身になりたいと言っていた。

 

そこでアスナは思った。自分は何のために戦うのかを。

 

「私は・・・ネギのために?」

 

だが、そこで気付いてしまう。ネギは一度も頼んできたことはない。いつもアスナが勝手に手を出しているだけである。

そして仲間と自分の違い。それは皆が己の目標のために努力をしていることを。

 

「皆自分自身で選んだ道のためにがんばってる・・・それに比べて私は・・・高畑先生にも振られて・・・ネギのためだなんて言って・・・自分自身のやるべきことを見つけられない・・・・」

 

誰かのためではない。

自分のために皆が自分の道を歩いている中で、アスナ一人取り残されてしまったような気がした。

そして自分は自分より遥かに力を持ったネギに向かって守るなどと偉そうに宣言したのである。

エヴァに口だけだと言われた事が、更に胸を締め付けた。

 

(何やってるんだろ・・・私・・・全然ダメじゃん・・・中途半端なのは・・・・ネギじゃない・・・一番中途半端なのは・・・)

 

もうダメなのか?

中途半端にココで終わるのか?

あきらめて幸せな日常に戻った方がいいのか?

だがギブアップの言葉が口から出る前に、頭の中に別の言葉が過ぎった。

 

――アイツをこの世でもっとも信じなくちゃいけないのは誰? シモン? それとも師匠のエヴァや古なの? 違う、アンタよアスナ! アイツのパートナーのアンタはこの世で誰よりもアイツを信じてやんなくちゃダメなのよ!!

 

誰かに言われた気がした。

たしかそれは格闘大会の時だった。

 

(そうだ・・・高畑先生とネギが戦ってるとき・・・目を背けた私はヨーコさんに言われたんだ・・・そしてあの後・・・ネギは私の言葉で立ち上がって勝った・・・)

 

ボロボロになったネギから目を背けた瞬間ヨーコに頬を叩かれて、目を覚ましたアスナはネギに向かって叫んだ。

 

(・・・何て言ったんだっけ? ・・・たしか・・・)

 

思い出せ、ネギは自分に何と言われて立ち上がったんだ?

シモンの真似をしてあの時は無我夢中で叫んだ。

・・・たしか・・・

 

――私はアンタを信じてる! だからアンタは自分を・・・そして・・・・

 

そして・・・その先は何だった?

アスナは凍えて動けぬ体でも、頭を必死に働かせて思い出す。

 

――アンタは私を信じなさい!

 

思い出した。

 

――アンタを信じる私を信じなさい!

 

ネギはその言葉を信じてくれたのだった。

 

(そういや・・・そうだったわね・・・)

 

思い返しただけで恥ずかしくなるセリフだった。しかしその言葉と自分を信じてくれ、ネギは見事勝利した。

 

「何・・・やってんのよ、私は!!」

 

その瞬間アスナの体に気と魔力が合成された感卦法が包み込み、凍った体を温めてくれた。

 

「言っちゃったのよ、・・・私を信じろって、言っちゃって・・・アイツは信じてくれるのよ・・・だから・・・」

 

感卦法は今のアスナでは長続きしないが、全く動かずに魔力を温存していたため、暫くは持ちそうだ。

そしてアスナは立ち上がり、ヨロヨロと洞窟の外へと進み出す。

 

「ネギのため・・・それは変わんない・・・でも・・・もうそれだけじゃないの・・・」

 

この雪山で生きるには当然寝床だけではなく、食料も確保しなければならない。美空が残した火を消さないためには燃やす物も探さなければならない。

感卦法が使える今のうちに、アスナは生きるための物を手に入れようと、初めて洞窟の外へ飛び出した。

 

「アイツは私を信じてくれる・・・今は口だけの私を全力で・・・だから・・・私は・・・」

 

感卦法で体を温めてはいても、完璧にこの寒さを防ぐことは出来ない。しかしアスナは止まることをやめ、前へと進むことにした。

 

「私はアイツが信じられる私になりたい!! これは自分の意思で決めたことよ! もう、文句言わせないわよ!」

 

アスナの答えは人のためではなく初めて自分も含まれた。

 

「そして私も、自分の道を進む皆に置いていかれないよう、ここであきらめるわけにはいかないのよーーーーーー!! だったらこれしきの無理ぐらい通してやるわよ!!」

 

全開の感卦法がアスナを大きく包み込み、大きな光を発した。

それに正直意味は無い。ただの魔力の無駄遣いでしかない。せっかくの魔力は温存して使い分けるべきである。

 

「強く・・・なってやる! 相手がエヴァちゃんの地獄の特訓だろうと・・・ヨーコさんだろうと・・・負けない!」

 

だが、想いだけは伝わった。

少なくともこの光の波動を見たエヴァには、アスナの本気を感じ取った。

 

「ハッハッハ、道は無限に広がるというのに、あえて困難な道を選ぶか? バカだ、本当にバカだ!!」

 

 

アスナの叫びと想いを見届けたエヴァは上機嫌に笑った。

 

「ウレシソウジャネエーカ?」

「何を言っている、私は考えなしのバカは嫌いだぞ?」

「アン? 考ナシノバカハ御主人ノ好ミダロ?」

「バカにも種類がある。一度で止めるバカはただのバカ。ただのバカは嫌いだ。しかしバカを何度も続ける大バカは嫌いじゃない」

 

果たしてアスナはどちらのバカかは、今の段階ではまだ分からない。

時間はまだまだタップリある。その間にエヴァは判断しようとしていた。

 

「キサマが姫ではなく・・・神楽坂アスナの道を選ぶのなら・・・とことんバカのまま道を掘りぬけて見せろ!」

 

前へと進む二人の新弟子を見下ろしながら、エヴァは面倒臭さなど無く、本気で二人の行く末を見届ける。

アスナも美空もギブアップはしない。

逞しく、着実に力を付けて、己の道を進み始めた。

 


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