それ往け白野君!   作:アゴン

65 / 65
次回に合わせて今回はやや短めです。


“槍”

 

 

 

 

 

 お客様の為に初めて焼いたお好み焼きはお客様の口に入る事はなく、焼いた張本人である自分にIN。寂しさと切なさをお好み焼きと共に呑み込んだ自分は戻ってきた店長と共にいつもと変わらず店の経営の為に働いた。

 

そして夜、バイトの終了時間となって“ふらわ~”を後にし、帰路に付こうと歩き出す。

 

行き交う人々と擦れ違い、賑わい始めた夜の街の中を歩きながらふと思う。あれから響ちゃんと翼さんはどうなったのだろうか。

 

弦十郎さんからも連絡は来ていないから余計に心配だ。……だったら自分から連絡を入れるべきなのだが、昨夜の撤退の仕方がアレなだけにとても連絡する勇気が出ない。

 

何せあの場の事は全て響ちゃん一人に押し付けてしまったのだ。手を取って協力しようと言った手前、何ともしょうもない話だ。

 

『そうでしょうか? 私としてはこのまま連絡も寄越さないで勝手にやっててほしい所なのですけど?』

 

愚痴をこぼしていた自分の耳に聞き覚えのある声が届いたから携帯を取り出してみると……案の定、BBが呆れ顔でディスプレイに映っていた。───なんか、メルトリリスやパッションリップがリアルを満喫している為か、最近彼女ばかり自分の携帯にいる気がする。

 

『そもそも、あちら側の要求はあの歌姫気取りの女が復帰するまでの合間だけ、風鳴翼がシンフォギア奏者として復活した以上、先輩が連中に手を貸す義理はないと思いますけど?』

 

 確かにBBの言うことは正しい、弦十郎さんの言った約束は翼さんが戻ってくる合間協力体制をとる事、その翼さんが戻ってきたのなら自分が出来ることはもうないのかもしれない。

 

けれど、そもそも翼さんを病院送りにしたのは此方の所為だ。此方に非がある以上最低限の筋は通した方がいい。

 

というか、罪悪感で自分の胃がヤバい。ただでさえ翼さんはウチの問題児がトラウマになっているっぽいし、AUOもアイドル業にまだ飽きていないみたいだし、近いウチにまた出演が被りそうだし、そうなった時の翼さんの心労がマッハでヤバい事になりそうだし。

 

『先輩も苦労が耐えないですね』

 

ケラケラと小悪魔風にBBは笑うが、自分としては笑い話なんて処じゃない。弦十郎さんも本当に困っていたから自分達という不可解な輩を頼りにしているのがら、それに応えるのが最低限の礼儀だろう。

 

……よし、ここはやはり此方から連絡を入れることにしよう。向こうも自分の事について訊きたい事があるだろうし、説明も兼ねてもう一度話し合いの場を設けてもらうとしよう。

 

あの後の翼さんの事も気掛かりだし、響ちゃんにも謝らなければならないし、早いところ二人の蟠りを解くように協力しよう。

 

そういって携帯の電話ツールを起動した時……周囲の空気が異質なモノに変わった。

 

 ……人の気配がない。街灯は照らされ、店を開いている所は数多く見受けられるのに、肝心な人の姿が何処にも見当たらない。

 

異質な空気に背筋から悪寒が押し寄せてくる。頬に冷たい雫が垂れた時、ソイツは現れた。

 

「こうして近くで見てみると、色々感慨深い所があるな。あのじゃじゃ馬の嬢ちゃんと上手く宜しくしている所をみると、結構仲良く出来ているみたいだな」

 

 街の路地裏から現れる一人の男、気安い口振りとは真逆に男から発せられる空気は此方を呑み込むばかりのオーラを発している。

 

武人特有の気迫を前に自分の細胞が最大限の警邏を鳴らしてして自分に言い放ってくる。

 

“逃げろ”そう本能が呼び掛けてくるが、逃げた所でどうにもならない。寧ろ背中を向けたら最後、自分の心臓は背後から男の持つ武器に串刺しになる事だろう。

 

男の放つ気迫に呑み込まれないよう懸命に足を踏ん張らせていると、男はフッと口角を吊り上げ、不敵に笑い出す。

 

「ヘッ、この程度では臆さなくなったか、やはり成長しているなお前、成る程、嬢ちゃんが気に掛けるのも納得だ」

 

肩に担いだ獲物を手に持ち替え、男は自分に狙いを定める。その目には一片の揺らぎもなく、目の前の敵を排除する猛犬に見えた。

 

『チッ、まさかよりによってコイツですか! 先輩、逃げて下さい!』

 

携帯から聞こえてくるBBの声を耳にしながら、礼装である“鳳凰のマフラー”と“錆び付いた古刀”を装備し、男と相対する。

 

……先程も言ったが、この男から逃げる事は不可能だ。僅かでも隙を見せたらその瞬間に自分の命は呆気なく摘み取られる。

 

いや、本当はいつでも彼は自分を殺せた。彼の俊足を以てすれば自分程度の命位は易々と摘み取れる。今彼がそうしないのは……そう、彼にはまだその気がないからだ。

 

……BB、昨日の今日で申し訳ないが君は今からアーチャー達を呼びに行ってはくれないか?

 

『正気ですか先輩』

 

BBの自分を案じる言葉に頼むと返す。彼女の声から普段の余裕さがない事から、今の状況がどれほど危険な状態なのかが伺える。

 

だが、ここで二人してこの場にいてはそれこそ拙い事になる。BBは電子の存在だ。ここから皆の所には瞬間移動の如く早く行けるだろう。

 

事態を伝えれば皆の応援が来てくれる。自分はその間、死ぬ気で自身の身を守らなければならない。

 

『……すぐに戻ってきます。いいですか、絶対に無茶しないで下さいよ! 先輩にはまだ言いたいことがあるんですからね!』

 

強気な口振りでそんな事を言うと、BBは自分の携帯から姿を消す。そして次の瞬間、男の圧力が先程とは比にならないほど増した。

 

……これが、男の本気の気迫。これが英霊の本気。

 

嘗てあの月の戦いで何度も味わってきた感触に自分の手足が震えるのを感じる。

 

これが、彼等が戦ってきた者の圧力。改めてウチの問題児達の凄さを思い知ったと同時に、自分の手足の震えが収まるのが分かった。

 

……呼吸を整えろ、相手を見据え、次の行動の準備に移れ、アーチャーとの組み手の際に何度も言われた言葉を思い出しながら相手を見た時。

 

「いい面構えだ。そうでなくちゃ面白くねぇ。────行くぞ」

 

低く、唸る様な声と共に男の姿が光となる。

 

────“ランサー”嘗て月の聖杯戦争に於ける遠坂凛のサーヴァントである男は、赤い槍を手に蒼い閃光となって自分に襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ハッ!」

 

「ど、どうしたのよセイバー、いきなり大声だして」

 

「今、奏者がすこぶる拙い状況に陥っている気がする」

 

「セイバーさんもですか? 実は私も先程から尻尾の逆立ちが収まらないのです」

 

 控え室。もうじき収録の出番を控えたセイバー達は突然感じた己の第六感に敏感に反応していた。

 

マスターである岸波白野の安否をこうも過敏に察知するサーヴァントに遠坂凛は嘆息するが、対照的にセイバーとキャスターの表情は暗い。

 

「まさか、またノイズが現れたのでしょうか」

 

「考え過ぎよ。ノイズが現れたのなら普通警報の一つするものでしょう? ホントアンタらは白野君に対しては敏感ね」

 

「当然です。私の尻尾と耳は常にご主人様に関するレーダーとなっております。御主人様がフラグを建てればその度にみこーんと反応し、その都度私の乙女ゲージMAXによる超秘奥義が炸裂するのです!」

 

胸を張って主である白野に対する想いを口に出すキャスターに遠坂凛はお腹一杯の様子でゲンナリしてそうですかと返す。対してそのようなシンパシーを感じ取れなかったメルトリリスとパッションリップはそれぞれ悔しそうにぐぬぬと唸っていた。

 

「のう、真面目な話、本気で奏者の様子を見に行かなくてもよいのか? 余の癖っ毛も先程から奏者がヤヴァイとこれでもかと主張しているのだが……」

 

いつもとはらしくなく、心配そうに訴えてくるセイバーに全員の視線が集まる。鬼○郎張りのアンテナ感を見せるセイバーの癖っ毛、その様子に敢えて突っ込む真似はせず、遠坂は淡々と二人の説得を開始した。

 

「だとしても大丈夫よ。先程アーチャーに連絡を入れたら晩ご飯の買い出しの途中にアイツの迎えに行くって飛び出したわ。今頃は白野君と合流している筈よ」

 

「あぁ、先程から姿を見せないでいたのはそう言う事でしたの」

 

「流石はアチャ男、バトラーのサーヴァントでないのが悔やまれる」

 

「皆さん、そろそろ出番です。準備をお願いしますね」

 

アーチャーの名前を出した途端に先程までの不安だった皆の顔が安堵へと変わる。それを皮切りに出演の出番だと呼びに来た桜によって全員が控え室を後にする。

 

そう、アーチャーが一緒なら心配はいらない。そんな思い込みが後の波乱になる原因だと知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんのつもりだ英雄王」

 

 夜の街、ネオンの光が夜空を照らす中、ビルの屋上で赤い外套を身に纏うアーチャーが目の前の王を睨みつける。

 

彼を囲うのは無数の刀剣、一歩でも動けば一斉に発射される武具の弾幕を前に、アーチャーはその眼に怒りを滲ませる。

 

「そう逸るな贋作者、貴様の出番はまだ先だ」

 

「……以前もこんな事があったな。英雄王、一体今度は何を企んでいる」

 

武具の弾幕の奥で立つ黄金の王はアーチャーの質問に答えず、望遠鏡らしき筒を覗き込んでいる。

 

まるで面白いものを見ているかの様な彼の表情に、アーチャーは遂に我慢の限界に達し、その両手に愛用の夫婦剣を投影させる────が。

 

「もうすぐだぞ」

 

「…………何?」

 

「もうすぐ、我が雑種は貴様との鍛錬の日々に実を付ける頃合いだ」

 

「……何の話だ」

 

「惚けるなよ、何の為にアイツを鍛えた? 何のために今日まで奴を叩いて来た? 全ては一人でも困難へと立ち向かえる様、貴様等が決めた事ではないのか?」

 

「……………」

 

「我は唯そんな貴様等の道理に付き合ってやっているだけの事、もし本気で助けにいくつもりなら……好きにするがいい」

 

そう言ってギルガメッシュが腕を横に払うと、それに合わせて刀剣達も光の粒となって消え失せる。残されたアーチャーは先程のような剣幕はなく、ただ一握りの迷いが残されていた。

 

「……しかし、もしマスターに何かあれば」

 

「知るか。ここで散れば所詮はそこまでの男という訳だ」

 

英雄王の一言にアーチャーは何も言い返せなくなる。ここで見守るのが正しいのか、助けに駆け付けるのが正しいのか、迷ったアーチャーが決めた選択は……。

 

「……もし奴の槍がマスターの命に触れた時、私は躊躇なくこの矢を奴と貴様に放つ、いいな」

 

「好きにするがよい」

 

そんな捨て台詞と共にアーチャーはその場から離脱、姿が見えなくなったのを見計らってギルガメッシュは再び遠見の筒を覗き込み……。

 

「さぁ我が雑種よ、そろそろ次へと進もうではないか」

 

そう、愉悦に笑みを深まらせるのだった。

 

 

 




次回は遂に覚醒回!?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。