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1話:マシュと立香
「藤丸立香……」
『呼んだ、マシュ?』
「あ、いえ、なんでもないです、先輩」
台所でお茶を沸かしていた先輩が、呼ばれたのかとひょっこり顔を出す。
慌てて否定すると、特に気にした様子もなく再び消えていく。
その姿に少しの罪悪感を抱きながら、今度は聞こえないように小さく呟く。
「……立香先輩」
それが私の大好きな先輩の名前だ。
『マシュ、紅茶に砂糖は入れる?』
「はい、いただきます」
先輩がマグカップを二つ運んでくる。
一つを受け取ると、冬の寒さでかじかんだ手のひらにじんわりと温かさが広がる。
『でも、久しぶりに名前を呼ばれて驚いたよ。みんなぐだ男としか呼んでくれないからさ』
「あだ名というものですね。みなさんが先輩に親しみを持っている証拠です」
『そうだと嬉しいんだけどね』
先輩は笑いながら語る。
先輩のあだ名は本名よりも先に広まってしまい、名前で呼ばれることが少ないのだ。
「先輩は……どんな風に呼んでもらいたいですか?」
『ん? 俺はどんな呼ばれ方でもいいよ。“りつか”って外国の人には呼びづらいみたいだし。“りっか”でもわかるし、それこそ“ぐだ男”もすごく馴染んでる』
「そうですか。それでは、私も好きなように呼ばせてもらいますね」
ゆっくりと息を吸い、胸に込めた想いと共に吐き出すように名を紡ぐ。
「―――立香先輩!」
すこし勇気を込めて発した言葉。
先輩は意表を突かれたように目を丸くして、若干顔を赤くする。
『……なんだか新鮮な気分だな。でも、なんで急に変えるの?』
「それは……私の意識が変わったと言いますか、色々と変えたくなったと言いますか」
『俺が何か変なことした?』
「いえ、先輩は何もしていません! 本当に個人的なことですから!」
少し不安そうな顔をする先輩に、慌ててフォローを入れる。
「え、えっと、紅茶美味しいです」
『んー…まあ、エミヤには遠く及ばないけどね』
無理矢理にではあるが話題をそらす。
先輩の方もその不自然さに首をひねるが、気を使って話を合わせてくれる。
その優しさが先輩の素敵なところの一つだ。
「そんなことないですよ。十分美味しいです。それに……」
『それに?』
「いえ、なんでもありません」
藤丸立香という人間がマシュ・キリエライトのために淹れてくれた。
それだけで私は幸せになれる。
……恥ずかしいので口には出せませんけど。
『とにかく、満足してるならそれでいいや。外は寒いし、しっかり温まっていってね』
「はい。心配をかけてすみません」
『それにしても急に家に来てどうしたの? なにか急ぎの用でもあったっけ?』
「理由と言いますと……すいません。ただ、立香先輩の顔が見たくなって、つい」
理由などないことを伝えると、先輩は目をぱちくりとさせる。
しまった。あんな説明だと先輩に変な子だと思われてしまう。
慌てて訂正の言葉を入れる。
「あ、あの、今のはその……論理的な理由が見つからなかったと言いますか。嘘ではないんですが、少し言い方が!」
『ははは』
必死に言い訳をする私を見て、先輩は声を上げて笑う。
そのことが恥ずかしくて思わず俯いてしまう。
『マシュは可愛いなぁ』
「……へ?」
今、先輩は何を言ったのだろうか?
予想外のことにフリーズする頭に大きくて温かい手がのせられる。
『俺もマシュの顔が見れて嬉しいよ。あ、勝手に頭を撫でてごめん』
「い、いえ、私は大丈夫です。……むしろ、もっと撫でていただいても」
『ん? 最後なんて言った?』
「な、なんでもありません!」
首を傾げながらも先輩は手を引っ込めてくれる。
思わず、勿体ないという言葉が口から零れそうになるが、恥ずかしいので飲み込む。
つくづく、自分の引っ込み思案な性格は嫌になる。
『そっか。なら、いいや』
でも、先輩はそんな私でも笑って受け入れてくれる。
だからだろうか。私は最近あることに気づいた。
「立香先輩」
『なに?』
「私、そういう先輩のことが好きです」
冗談めかして好きだと伝える。
『ははは、ありがとう』
LOVEではなくLIKEだと思い、笑う先輩。
私も笑う。でも、本当は冗談なんかじゃない。
先輩が他の人のことが好きだとしても、必ず振り向かせてみせます。
だって、私は先輩のことが。
―――本当に、本当に、大好きだから。
先輩に好きな人がいる。そんな噂を聞いたのは夏休みが終わり新学期に入った時でした。
お相手はジャンヌ・ダルクさん。まだ付き合ってはいない。
でも、初めて聞いたとき私は勝てないと思った。
ジャンヌさんは美人で、スタイルが良くて性格も良い。
無意識に負けを認めてそこで初めて気づいた、先輩のことが好きだという想いを。
―――私の方が先輩のことを知っているのに。
そして、どうしようもなく醜い嫉妬。
自分のことが嫌いになってしまうほどの負の感情。
―――私は先輩のためならなんだってできる。
何の根拠もない自信だけは持っていた。でも、それだけでは何の意味もない。
先輩に振り向いてもらえるように、何か行動を起こす前から諦めていた。
誰だって知っている。行動をしなければ何も起きないことぐらい。
―――このまま、ただの後輩として変わらない関係で終わっていいのか?
だから、私は自分の心に問いかけた。
先輩は優しいから、きっと今のままの関係でも変わらず接してくれる。
私の本当の気持ちに気づくことなく。
―――嫌だ!
胸に激しい衝動が駆け抜けた。
ごまかせない。一度気づいてしまった以上は無視することはできない。
―――先輩のことが好きだ。
この想いをなかったことになんてしたくない。
例え、先輩が私を選んでくれないのだとしても好きだ。
好き、大好き。初めて会ったあの日からずっと恋をしている。
―――先輩。先輩が望むのなら私は命だって惜しくはないんですよ?
心の中でそっと呟いて、先輩を見つめる。
ああ……胸が張り裂けそうになるほどの鼓動が、先輩の耳に届かないか心配です。
いえ、聞いてもらった方がいいかもしれません。
―――きっと、この鼓動は言葉よりもなお雄弁に愛を語ってくれるだろうから。
そうすれば先輩だって今までとは違う目で私を見てくれるはず。
でも、それはできません。まだ、そこまでの勇気は持てないから。
だから、今は別の方法で先輩に私を見てもらう。
―――いつの日にか、先輩の胸の中で愛を囁いてもらうために。
マシュ・キリエライトの恋物語は進んでいく。
『ふわぁ……まだ眠い』
温かく柔らかな布団から抜け出し、冬の冷気に肌を晒しながら目をこする。
昨日はマシュが帰った後にゲームをやってしまったために、寝不足になってしまったのだ。
まあ、完全に自業自得なのだが。
『ん…良い匂いがする』
廊下を歩いていると味噌の芳潤な香りが鼻孔をくすぐってくる。
きっとエミヤが作ってくれているのだろうと思い、キッチンに続くドアを開けるが、その予想は外れていた。
「おはようございます、先輩」
『おはよう、マシュ。今日はマシュが朝ご飯を作ってくれたの?』
エプロン姿の後輩が可愛い笑顔を向けてくる。
「はい、エミヤ先輩の代わりに、今日からは私が先輩の朝ご飯をお作りします」
フンスと胸を張り、はりきった様子で語るマシュ。
その姿は非常に可愛らしいのだが、一つだけ気になる点がある。
『代わりって、エミヤはどうしたの?』
「少し忙しくなるそうなので頻繁には来れないみたいです」
『そっか、わかった』
それならば仕方がない。むしろ、今まで自分がどれだけ彼に頼っていたかがわかる。
今度恩返しに何かプレゼントでもしよう。エプロンなんかがいいかもしれない。
「……本当は私が言って代わってもらったんですけどね」
『マシュ、今なんか言った?』
「い、いえ! それよりも早くしないと冷めてしまうので食べましょう」
何やら慌てた様子で首を振るマシュだが、気にしても仕方がない。
今はマシュが作ってくれた朝食の方が大切だ。
『いただきます』
「ど、どうですか?」
『待って、まだ箸も持ってないから』
初めての料理に緊張しているのか、すぐに感想を求めてくるマシュ。
そんな彼女を宥めすかしつつ、味噌汁を一口飲む。
そして、少し崩れ気味な卵焼きを頬張る。
『……うん、美味しいよ』
「……先輩、エミヤ先輩のと比べるとどうですか?」
『それは……まあ、エミヤの料理はプロレベルだからさ』
「美味しくないんですね?」
普段からトップクラスの食べ物を食べているからかそれよりも劣ったように感じてしまう。
マシュは目ざとく気づき悲しそうに肩を落とす。まずい、すぐに励まさないと。
『いや、本当に美味しいよ。エミヤには劣るけど、美味しいことには変わりないよ』
「ですが、先輩に満足してもらえないというのは……」
『大満足だよ。少なくともマシュの料理は俺の好きな味だし。それにしても、よく俺の好きな味が分かったね』
「いえ! それは普段の先輩を観察していただけですので」
元気が出たのか、少し笑いながら答えるマシュ。
そのことにホッと胸をなでおろすのと同時に、そこまで観察されていたことに照れを覚える。
「先輩が調味料をどれだけ使用したかや、食べ物を食べた際の表情の変化まで全て観察してきた結果です!」
『マシュは勉強熱心だなぁ』
勤勉なことは悪いことではないので何も問題はないだろう、おそらく、きっと。
「もっともっと気に入ってもらえるように、これから毎日頑張ります」
『毎日は悪い、マシュだって忙しいでしょ?』
「私は大丈夫です。それよりも先輩の方こそ私がいなくて大丈夫なんですか?」
そう言われて押し黙る。
今まで人に頼りっぱなしだったことに改めて気づく。
やっぱりこのままじゃいけないな…よし。
『俺もちゃんと自分で朝食を作るようにするよ』
「え?」
『その日はマシュはゆっくり寝てていいからさ』
「ま、まってください!」
マシュを気遣って自分でやると伝えるが、何故か慌てた様子で止められてしまう。
一体どうしたというのだろうか?
「ほ、本当に料理ができるんですか、先輩?」
『一応、調理実習とかでは普通にできてるから』
「ダメです! もし包丁で指を切って、そこから破傷風になったら死ぬんですよ!?」
『ちょっと大げさすぎない?』
確かに破傷風は怖いが、料理中になった人はそうそういないだろう。
「とにかく私に任せてください! 私が先輩をお守りします!」
『料理ってそんな危険なものだっけ?』
「キッチンは戦場です。エミヤ先輩もよく言っていました」
流石は一流シェフ100人とメル友になった男だ。心構えからして違う。
『うーん、でも任せっぱなしってのも悪いし。なら、2人で一緒に作る?』
「え、先輩と一緒にですか?」
目を大きく見開き驚くマシュ。
『嫌なら、別に断っていいけど』
「とんでもないです! ぜひご一緒させてください!」
『わ、わかった』
ズイと身を乗り出してくるマシュに、気圧されながら頷く。
理由は分からないがマシュが喜んでいるのならそれでいいか。
『ところで家の方は大丈夫なの?』
マシュの実家はどうなっているのかと聞くと、途端に笑顔が消える。
なにか不味いことに触れてしまったのかと、身を固くしてマシュの様子をうかがう。
「……お父さんは家に居ることの方が少ないので知りません」
『マシュのお父さんってランスロットさんだっけ?』
そこまで言ったところで、マシュが珍しく他人に対し不満をこぼす。
「はい。毎日仕事で遅くまで帰らないくせに、朝は私よりも早く起きて出て行ってしまうダメな人です。あんな生活を続けていたら、倒れても文句は言えませんよ、本当」
毒を吐いているように見えて、相手のことを心配しているマシュに少しだけ和む。
しかし、口に出すと不機嫌になりそうなので、それを伝えることはしない。
『お兄さんもいるんだよね?』
「ギャラハッド兄さんはこの前“ちょっと聖杯探索してくる”と言って出て行ったきりです」
『待って、お兄さん昇天してないよね?』
「大丈夫です。そのうちお父さんみたいに、フラっと帰ってくると思います」
マシュは気にしていないようだが、ギャラハッドさんの安否が非常に気になる。
だが、深く突っ込むには朝の時間は少々短かった。
「あ、時間です、先輩! 早く食べましょう!」
『わかった』
時計の針を見てお互いに食べる手を早めるのだった。
「おはようございます、ぐだ男君、マシュさん」
『おはよう、ジャンヌ』
「おはようございます、ジャンヌさん」
二人で登校しているところで、同じく登校中のジャンヌと出会う。
今日も笑顔が眩しい。まさしく聖女だ。
「…………」
「あ、あのマシュさん。じっと見つめてきて…私の顔に何かついているのでしょうか?」
「あ! い、いえ、なんでもありません!」
そんな俺の横では、マシュが何とも言えぬ顔でジャンヌを見つめていた。
普段のマシュからすると想像できない行動に首を傾げるジャンヌ。
そんな仕草の一つ一つに、目が奪われてしまうのは仕方のないことだと思う。
「先輩! そう言えば私、今日は日直でした!」
『え、じゃあ急がないとね』
「はい、ですので急ぎましょう!」
『あれ? なんで俺も走って……ま、いいか』
突如思い出したように叫ぶマシュに、引きずられるように駆け出していく。
一瞬なんで俺も走るのかと思うが、マシュが遅れたのは主に俺のせいなので考えるのをやめる。
だからだろうか、去り際にジャンヌの言葉を聞き取れなかったのは。
「マシュさんの出席番号だと今日ではないような……いえ、きっとやり方が違うのですね」
主人公の名前が変わった?
ほら、これは一人称で書いてるからさ。
つまりリニューアルしたのだから変わっていても問題はない、いいね?
さて、マシュ√は真面目に書きます。というかマシュが立香を攻略する感じ。
ジャンヌ√で好感度が上げられず夏を終えるとフラグが立ちます。
ギャグよりも妬きマシュマロや塩マシュマロ、病みマシュマロをメインにします。
ところで―――ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィって攻略しないとダメですかね?