FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ

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3話:知恵袋

 

 みこーん知恵袋。

 質問者の質問に対し、世界の誰かが答えてくれるというシンプルなサイトだ。

 しかし、シンプルゆえに多くのマスター(ユーザー)が利用している。

 かく言う私もその一人だ。

 

【すいません。こんなところで聞く話ではないのかもしれませんが恋愛について相談があります。

 私には好きな先輩がいます。毎日ご飯を作りに行ったりしてアピールしています。

 ですが、先輩は他の人が好きなようで私のことを異性として見てくれません。

 もう、どうすればいいかわかりません。でも、このまま終わりたくありません。

 何とかならないでしょうか?】

 

 ペンネームである“デミサーヴァント”の文字を見ながら返事を待つ。

 リビングのソファーに制服のまま座っているが、緊張して着替える気すら起きない。

 そんなところへ、まず一つ目の回答が来る。

 

「ペンネーム、“HF劇場版見に来てね”さん、からですね」

 

【わかります、その気持ち!

 私も先輩が好きで毎朝、毎晩通っているんですが振り向いてもらえません。

 その先輩に好きな人がいるという話は聞きませんが、正直諦めかけていました。

 でも、最近ようやく女性として意識してもらえ始めたと思います。

 これから追い風が吹いてくるはずです。具体的には来年から。とにかく諦めないでください。

 終わらない冬はありません。必ず春は来ます。

 どこか遠くの世界から、あなたの人生に桜が咲くことを信じています】

 

 なぜでしょうか。この人とはすごく仲良くなれそうな気がします。

 とにかく、元気を分けてもらった旨を書き返事を返す。

 返事を終えたところで、別の回答が来ていることに気づく。

 

「ペンネーム、“世界一美しいのは妾”さん、ですか」

 

【バラの香水を体中に振りかけて、絨毯にくるまってプレゼントはわ・た・し。とやれば簡単よ。

 もっとも、これは妾の美しさがあってのもの。

 とにかく美しさを磨きなさい。それが最短かつ最良の方法です】

 

 無理です。色んな意味で。

 ですが、綺麗になるというのはいいかもしれません。

 化粧や洋服について、真剣に調べてみましょう。

 

「次の方は“コナハト女王”さん、ですね」

 

【その気持ちよーく分かるわぁ。

 私も大学に入って一目惚れした人がいるんだけど何度告白しても

 「うるせえ、チー鱈ぶつけるぞ」の一点張りなのよ。

 そろそろ既成事実でも作ろうかと思ってるんだけど、あなたも参考にしていいわよ】

 

 これは参考にはなりませんね。ええ、全く。

 いくらなんでも段階が飛び過ぎです。

 べ、別に先輩とそういう関係になるのが、嫌というわけではありませんが。

 

「と、とにかく次の人に行きましょう。“大江山の頭領”さん」

 

【ふふふ、デミサーヴァントはんは随分と初心やなぁ。

 そんなところも愛いけど、偶には大胆にいかんとあかんよ?

 勇気が持てんいうなら、酒でもあおったらええんどす。

 ほんなら、ええ気持ちになって、先輩特攻が手に入るんとちがいます?】

 

 お酒の力に頼る……なんでしょうか、すごくいけるような気がします。

 ですが、私も先輩も未成年です。飲酒はできません。

 仮に成人するまで待つとなると、先輩が他の誰かに取られているかもしれません。

 それでは意味がないのです。

 

「次は…! こ、この方はキャス狐さん!」

 

 みこーん知恵袋の代名詞と言っても過言ではない人の登場に、思わず力が入る。

 大きく深呼吸をして、ゆっくりとマウスをドラッグする。

 

【届いてほしいのに届かない恋心。タマモちゃんもよーく分かります。

 

 ですが、何もしなければ素敵な殿方は別の女性のもとに。

 天の岩戸で枕を濡らしてもなお、悔やみきれない結末になりかねません。

 ですので、あらゆる手を尽くしましょう。

 コメントを見るにデミサーヴァントさんは奥手のようですが、それではダメなのです!

 もっと、積極的に大胆に、迷惑をかけていいので異性として意識してもらいましょう。

 

 女性として意識してもらいたいのなら、やっぱり色仕掛け。

 胸元を大胆にはだけさせたり、ミニスカートから覗く太ももで先輩を悩殺、悩殺❤

 

 すでに胃袋を掴む作業に入っているようなので、そちらはオーケー。

 今度は少し距離を置いたりしてみてください。

 いつも傍に居るあなたがいないことで、先輩は寂しさを覚えます。

 そして気づけば、頭の中はデミサーヴァントさんのことだらけ。

 

 マジで恋に落ちる5秒前! あなたの大切さに気付き、そのままゴールインも夢じゃない!

 まとめると、まずは女性であることをアピール。そして押してダメなら引いてみろ! 

 この2つを意識して素敵な先輩をみこっとゲットしちゃってください☆】

 

 具体的な方法に、的確な指示。やっぱりキャス狐さんは凄いです。

 それにしても……。

 

「い、色仕掛けですか……」

 

 自分の胸に手を置いてみる。

 同年代の友人に比べても、大きさでは上の部類に入りますが……。

 先輩に満足してもらえますでしょうか?

 当面のライバルはジャンヌさん。私よりも上の可能性が高いです。

 

「でも、アピールしないと先輩がとられちゃいます」

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 多少恥ずかしくてもやるしかないです。

 そう決意を固めたところで新たに回答が来ていることに気づく。

 回答をしてくれた以上は返事をしないと失礼なので、しっかりと読み込む。

 

【初めまして、デミサーヴァントさん。

 私は女性ではないので、的外れな回答になるかもしれませんが、どうかご了承ください。

 あなたが慕う先輩がどのような方かは存じませんが、きっと素敵な方なのでしょう。

 そして、そんな素敵な方を好きになったあなたもきっと素敵な人です。

 ですので、自信を持ってください。

 

 男性というものは愚かなものです。

 誰かを大切に思っていても、そのことを自覚することができないことすらあります。

 そういった時は素直に言葉で伝えてもらうと自分の心に気づいたりします。

 告白でなくともデートなどに誘ってみるのはどうでしょうか?

 もしかすると、心の内にあるあなたを想う心に気づくかもしれません。

 

 長々とつづってしまいましたが、私はあなたの恋路を応援しています】

 

 不思議と勇気が湧いてくる回答に頬が緩む。

 応援されるというのは、こんなにも嬉しいものなのかと改めて感じる。

 お礼のために短いものの、しっかりと感謝の旨を打ち込み返信する。

 

 

 

【ありがとうございます。励まされて勇気が出ました―――匿名卿さん】

 

 

 

 

 お礼の返事を眺め、満足げに頷く。

 どうやら、うら若き乙女の力になれたようで何よりだ。

 これがもし自分の娘のことだとしたら、冷静な判断はできないだろうと、何となしに考えながらスマートフォンをしまう。

 

「ランスロット卿、今日は上がりですか?」

「ああ、今日は一足先に帰らせてもらうよ、トリスタン卿」

「そうですか、残念です。美人の人妻が経営する良いスナックを見つけたのですが」

「…ッ!」

 

 至極残念そうな顔のトリスタンの話に、思わず振り返りそうになるが、何とか踏みとどまる。

 今日はマシュからいい加減早く帰って休めと言われているのだ。

 なので、涙を呑んで家路につくことにする。……今度、場所だけでも教えてもらおう。

 

 そんな未練がましいことを考えながら、車を運転すること数十分。

 最近は寝るためだけに帰る場所と化している我が家が見えてくる。

 マシュはもう寝ているのだろうか? できればお帰りなさいの言葉だけでも欲しいのだが。

 最近はまともな会話がないからな……。

 

「ただいま……フ、寝ているか」

 

 静まり返った我が家に、自嘲気味に笑いをこぼす。

 私自身が先に寝ていなさいと言っているのだ。

 文句を言うのはお門違いだろう。

 そう思ってリビングに向かったところで、明かりが零れていることに気づく。

 

「起きているのか…? マシュ?」

 

 そっとドアを開けて中を覗くと、ソファーの上で静かに寝息を立てているマシュの姿があった。

 

「まったく、こんなところで寝て……」

 

 

 ―――娘の無邪気な寝顔プライスレス。

 

 

「さて、毛布はどこにあったかな」

 

 一体何年ぶりに見る娘の寝顔だろうか。

 無言でガッツポーズをしてしまったが、誰も私を責めることはできないはずだ。

 このまま写真を撮って携帯の待ち受けにしたいが、バレたら無視をされかねないので我慢する。

 しかし、可愛い。これは天使と言っても過言ではないだろう。

 

「よし、これで大丈夫だな」

 

 毛布を掛けて風邪をひかないようにする。

 最近は朝に会うこともできないが、毎日早起きして疲れているのかもしれないな。

 

「む、これは…?」

 

 机の上に見慣れない、新品の雑誌が置いてあることに気づき手に取る。

 

「ファッション雑誌か……そうか、マシュもそういうことに気を使う年頃だからな」

 

 娘の成長と共に近づく親離れの時を思うと、不思議と涙が出てくる。

 ギャラハッドとは最近連絡が取れていないが、あの子も騎士だ。

 きっと私の心配など杞憂で元気にやっているだろう。そう信じている。

 

「しかし、どれもこれも新品ばかりだな。今日買ってきたばかりなのか?」

 

 他にも様々な雑誌があり、しわができないように畳んで整理していきながら眺めていく。

 ファッション雑誌『THE ROMA』、美容雑誌『PTOLEMAIOS』、恋愛雑誌『Marie』。

 まるで恋する乙女が読むようなものばかりだ。

 …………む?

 

「ふう…落ち着け。落ち着くのだ、ランスロット。まだそうだと、決まったわけではない。全裸で森の中を駆け出したくなるが落ち着くのだ。マシュぐらいの年頃の子なら興味があって普通のことだ。私とて若いころは、ガウェインと共に背伸びをして成人誌を買っていたではないか。そうだ、何もおかしいことはない。何も焦ることはない」

 

 アイム・ヴェリー・クール。ソー・カーム。

 よし、これで問題はない。私は正気だ。

 

「手早く片付けて今日はもう寝よう。そうだ、それがいい」

 

 心に冷静さを取り戻しマシュの手から滑り落ちたであろう、最後の一冊を床から拾い上げる。

 そして、丁寧に付箋(ふせん)が張られているページを開いてしまう。

 

 

【先輩が好き! 妹扱いで終わりたくない女の魅せテクその7☆】

 

 

「……………ハッ!? 今、気を失っていたのか、私は!?」

 

 思考回路がオーバーロードして、一瞬意識が飛んでしまう。

 しかし、すぐに復活し持ち前の冷静さを取り戻す。

 冷静になった証拠として素数を数えてみせよう。1、2、3、……。

 

 

 

「むにゃ……せーんぱい…えへへ」

 

 

 

「MASHUUUUUU‼」

 

 ダメだ。こんな寝言を聞いたら、もう否定しようがない。

 膝下から崩れ落ちながら嘆きの咆哮を上げる。

 ショックで何をするべきか、まるで分らない。

 夢なら一刻も早く目を覚ましたい。

 

「ひゃ!? な、なんですか、急に大きな声が……お父さん?」

「マシュ、私の顔を全力で叩いてくれ」

「頭黒髭ですか、お父さん?」

 

 マシュの辛らつな言葉で、これが現実であることを理解してしまう。

 軽蔑するマシュの視線を浴びながら、フラフラと立ち上がる。

 

「大体なんですか、家に帰ってくるなり変な叫びをあげて。せっかくの夢が台無しじゃないですか。後、毛布ありがとうございます」

 

 流れるように文句を言いつつも、お礼を忘れないマシュは良い子に育った。

 そんな現実逃避をしながら押し黙っていると、マシュが雑誌がまとめられていることに気づく。

 

「……お父さんが片付けたんですか?」

「あ、ああ。マシュを起こすのも悪いと思ってね」

 

 そう答えると、何故かマシュの顔が赤くなる。

 

「なんでそういう変なところで気を使うんですか!? 起こして私に片付けるように言ってくれればいいのに! 恥ずかしいじゃないですか!! 片付けることは良いことですけど!」

「は、恥ずかしい?」

「男子高校生の母親が息子の隠しているエッチな本を整理整頓するようなものです!!」

 

 想像しただけで首を吊りたくなった。

 ああ、私はなんと残酷なことをしてしまったのだろうか……。

 己のあまりの情けなさに再び膝を折る。

 

「とにかく、今度からは先に起こしてください! それから、今日はお風呂掃除もしないでいいので、早くお風呂に入って寝てください!」

「な!? た、偶にはゆっくり学校の話でも……」

「どうせ、明日も私より早いんだから寝るべきです。話す暇があったら休んでください。では、おやすみなさい」

 

 怒涛の勢いで語り終えると、雑誌をもって自分の部屋に行くマシュ。

 そして最後にクルリと振り返り、一言言い残していく。

 

「言い忘れていました。キッチンに夕食の残りがあるので、明日までに食べておいてください」

 

 パタンと扉を閉め完全に姿を消す。

 私にはその後ろ姿を見つめ、呆然と佇み続けることしかできなかった。

 

「キッチンだったな……」

 

 悲しみを押し隠すために、独り言をつぶやきキッチンに行く。

 そこにあったのは、豚肉と玉ねぎをあえた炒め物と酢の物だった。

 そういえば、豚肉や酢には疲労回復の効果があると聞いたことがあるな。

 今は関係のないことだろうが。

 

「いただきます」

 

 炒め物を温めなおし、缶エールを開けて一人寂しく遅い夕食を取り始める。

 愛娘の料理のはずなのだが、衝撃の事実の前に味を楽しむことができない。

 精神を落ち着かせるためにとアロンダイトに目を向ける。

 マシュに好きな男性が…好きな男性が……。

 

「初めまして、さよオーバーロードでいくか……いやいや! 私は何を考えているんだ?」

 

 動揺のあまり、モルガン染みた考えに至るがすぐに否定する。

 どんな相手かもわからないのだ。なにより、恋愛は悪いことではない。

 むしろ応援するべきではないのか?

 

「……自分の娘となるとこうも難しい問題とは」

 

 しかし、理性と感情は必ずしも一致してくれない。

 自分の心にも関わらずどうしたいかが分からない。

 何か、何か背中を押してくれるものがあれば……。

 

「そうだ! こういう時こそ!」

 

 名案が思い浮かび、すぐさまスマートフォンを取り出して実行に移る。

 もう、これ以外に頼るすべはない。

 

 

 

 

“MIKOON!JAPAN知恵袋”

 

 質問者:匿名卿さん

 

【娘に好きな人ができたようなのですが、父親としてどうすればいいかわかりません。

 どんな対応をすればいいでしょうか?】

 





子供が寝た頃に家に帰宅し、夕食を温めなおして缶ビールを片手にニュースを見る。
これが円卓最強の騎士の日常です(涙)
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