FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ

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ジャンヌ√・ジャンヌ・オルタ√どちらにも入らずに
十話のオープンスクールイベントに参加するとモードレッド√フラグが立ちます。
まあ、特に確認しなくても読めます。


~モードレッド√~
11話:彼の秘密


 それはうだるように暑い日のことだった。

 溶けて消えてしまうのではと、大真面目に考えてしまう暑さの中、俺は荷物運びをしていた。

 

「パイプ椅子は後20個だな。気張れよ、ぐだ男」

『暑い…せめて校舎の中を通れたらいいのに……』

「しょーがないだろ。あっちの通路は今工事中なんだからよ」

 

 モードレッドにパイプ椅子を渡しながら愚痴をこぼす。

 靴を履き、体育館倉庫からパイプ椅子を取ってくる。

 文字にすれば一行で済むが、実際のところは苦行だ。

 

 直射日光に照らされ、さらには地面からの照り返しもある。

 まるで干物にでもされたかのように、水分は奪われていく。

 さらに汗で手が滑り、いつも以上に力を消耗するのだ。

 

『オアシスが欲しい……』

「何言ってんだ、お前? たく、ほらよ。こいつで汗拭いて、もうちょい頑張れよ」

『これはモードレッドのハンカチ?』

「後で返せよ。じゃないと母ちゃんに怒られるからな」

 

 それだけ言い残して、パイプ椅子を受け取り会議室にまで運んでいくモードレッド。

 俺は受け取った、柄の入っていない白のハンカチを少し眺めてから顔を拭く。

 そこからは消毒液の匂いと、ほのかに甘い香りがした。

 

『毎日消毒されてるんだろうなぁ……』

 

 消毒、殺菌と叫びながら衣類を洗う、ナイチンゲール先生を想像し呟く。

 でも、この花のような匂いは何だろう。

 先生もちゃんと柔軟剤は使っているのだろうか?

 

「何をボーっとしているのですか? 熱中症なら急ぎ保健室へ」

『いや、大丈夫ですよ、ニトクリス先輩』

「そうですか。ならば、作業に戻りなさい。勤めを怠ることがないように」

 

 立ち止まって考えていると、メジェド様の頭にパイプ椅子を乗せて運んでいくニトクリス先輩が現れる。

 その姿に思わず、ああやって自分も運べば楽だろうと思うが、すぐに首を振る。

 あれはファラオに許された特権だ。平民が行っていいものじゃない。

 

『というか、メジェド様って一応神様だよね』

 

 それを頼んでいるとはいえ、使役できるファラオはやはり凄い。

 というか、汗一つ流していないのが驚きだ。

 

『さて、俺ももう一頑張りしようか』

 

 負けじと頬を一つ叩き、気合を入れなおす。

 そしてアリの行列のように、規則正しく歩いていくメジェド様に続き、倉庫に向かうのだった。

 

 

 

 

『ぷはぁ、やっぱり暑いときのコーラは美味い!』

 

 荷物運びも終わり、食堂の自販機で買ったコーラをグビっと飲む。

 喉を通る冷たい感触に、汗を乾かす清涼なクーラーの風。

 まるで天国のような快適さだ。いっそこのまま眠ってしまいたい。

 だが、それは叶わない。

 

『モードレッドにハンカチを返してこないとな』

 

 ポケットから折りたたんでおいたハンカチを取り出す。

 借りた物は返さないといけない。そこには確かな信頼関係があるのだから。

 鉛のように重く感じる足を無理矢理動かし、ゆっくりと立ち上がる。

 

『さて、モードレッドは今どこにいるかな?』

 

 むわっとした熱気を感じる廊下に出て、顔をしかめながら考える。

 ナイチンゲール先生のいる保健室にでも行ったのだろうか。

 それとも別のところか。

 

「あれ? そんなところに突っ立ってどうしたの? もしかして瞑想中だった?」

『あ、お師匠様。そんなに目を輝かせて言わないでください』

「えー。やっと仏門に入る気になったかと思ったのに……ま、いいわ。それでどうしたの?」

 

 ちょうど、職員室に向かう途中だったのか三蔵ちゃんが声をかけてくれる。

 ああは言っているが、本当のところは自分のことを心配して、声をかけてくれたのだろうと思うと少し心が温まる。

 

『モードレッドを見ませんでしたか?』

「モードレッド君? それならさっき教室に居たわよ。着替えるらしいから私は出てきたけど」

『ありがとうございます、お師匠様』

「お安い御用よ。他にも困ったことがあったら何でも言うのよ?」

『はい』

 

 三蔵ちゃんと別れて教室へと向かっていく。

 着替えているらしいが、別に入っても問題はないだろう。

 何せ、男同士(・・・)なのだから。

 

『モードレッド、ハンカチを返しに来たよ』

 

 駄菓子の袋を開けるような気軽さで、扉を開ける。

 そこでは三蔵ちゃんの言葉通りに、モードレッドが服を着替えていた。

 ―――上半身裸で。

 

「ちょ…おま…!」

『モード…レッド…?』

 

 男性と女性の中間にあるような綺麗な体に、大人し目ではあるが膨らんだ胸。

 おかしい。モードレッドは男性のはずだ。だというのに、どうして。

 

『胸が―――』

 

 あるんだ。と言い切ることはできなかった。

 なぜなら、豹のように跳躍したモードレッド襲い掛かってきたからだ。

 

 背中を蹴り倒され地面に押さえつけられる。

 そしてのしかかられ、声が出せないように口を押えられる。

 完全に警察に制圧された犯人の姿だ。

 

「おい……忘れろ。今のことは忘れろ」

『……?』

「何の事って顔してんじゃねえよ! なんでお前はこの状況で平然としてんだよ!」

 

 ドスの利いた声で脅しをかけられるが実感がわかない。

 というか、分からないことだらけだ。

 モードレッドは女性だったのか、ただ単におっぱいがあるだけなのか。

 それが気になってしょうがない。

 

「ちっ……よく聞いとけよ」

 

 他人に聞かれないように、モードレッドが耳に口を近づけてくる。

 獣のように荒い吐息が耳に当たり、全身の毛を逆立たせる。

 

「オレが……性別を隠してるのを忘れろって言ってんだよ」

 

 モードレッドの言葉を聞き取るが、やはり分からない。

 彼が彼女だったのは分かった。だが、その理由が分からない。

 ないない尽くしだ。

 

「もし誰かに言いふらしたら殺すからな?」

 

 だが、現状ではとても説明してくれる様子ではない。

 一先ず、了解の意を示すように指でOKマークを作る。

 

「よし、じゃあ放してやる。……叫んだりすんじゃねーぞ」

 

 手を退けて俺の上から降りるモードレッド。

 それを確認して、俺は彼女の方を振り向かないようにして教室から出ていく。

 

「おい! 逃げるつもりじゃねえだろうな?」

『いや…その…ふ…く…』

「ああ? ハッキリ言ってみろよ」

 

 逃げて言いふらすつもりかと、食って掛かってくるモードレッド。

 その虎のような気迫に臆しながら、俺はぼそりと呟く。

 しかし、それでは聞こえないようだったので、少し大きい声で告げる。

 

『服を着てくれないと……ま、丸見えで』

 

 一瞬だけ見えた白磁の肌に、甘い果実のような乳房。

 今のモードレッドは思春期の男子が直視できるような格好ではないのだ。

 

「な、なな…! とっとと出てけッ!!」

 

 蹴り飛ばされるように教室の外に出る。

 最後の瞬間に見えたモードレッドの顔はトマトのように赤かった。

 そんなことを思いながら、別の場所に行くこともできずに待ち続ける。

 すると扉が開かれて、まだ顔が若干赤いモードレッドが姿を現す。

 

「………着替えたぞ」

『うん………』

 

 男物の制服に、男らしい口調。

 普通に見れば男にしか見えないモードレッド。

 だが、先程見た女性の体がそのイメージを邪魔する。

 

「……もう、今日は準備も終わりだな。一緒に帰るぞ、話があるからな」

『分かった』

 

 その後は無言のまま歩いていく。

 沈黙が針となって心に突き刺さる。

 今までの友達らしい気軽な空気は残っていない。

 

「ここなら……もう人も来ないだろ」

 

 帰り道にある、寂れた小さな公園。

 昼間であれば子どもが遊んでいるが、日が沈んだ今は人影がない。

 そこのブランコに腰かけてポツリポツリと話し始める。

 

『それで、どうして…?』

「父上を越えたいからな」

『アルトリアさんを?』

 

 モードレッドは大ブリテン財閥の重鎮である、アルトリアの血を引く者だ。

 因みに、アルトリアは複数人存在する。

 何を言っているのか分からないかもしれないが、実在するものは実在する。

 

「父上の跡を継いで、今以上にすげー会社にする! その為には男の方がいいんだよ」

『やっぱり男じゃないと跡は継ぎ辛いの?』

「今でも頭が固い奴はいるからな。極度に女嫌いな奴もいるし」

 

 手にした缶ジュースを飲みながら、愚痴るモードレッド。

 あまりそういう風には見えないが彼女も相当苦労しているらしい。

 

『このことはナイチンゲール先生も…?』

「そりゃ知ってる。まあ、あんまりいい顔はしないけどな」

 

 何かを思いつめるように、星を見上げるその瞳はどこか寂しげだった。

 星に手を伸ばすような孤独な道。

 理解されない人生を歩もうと決めている。そう、思えた。

 

『……それで、俺はどうしたらいいのかな?』

「黙って俺の秘密を言いふらさなきゃいい。それだけだ」

『いや、そうじゃなくて』

「はぁ? 言いふらすならお前でも殺すぞ」

 

 脅すような目を向けられるが、我慢して受け止める。

 俺が言いたいのはそういうことじゃない。

 

『何かモードレッドの力になれることはないかなって』

「……は?」

 

 信じられないバカを見るような目を向けられる。

 いや、実際にモードレッドからすれば、その通りなのかもしれないが。

 軽く咳払いをして、もう一度言い直す。

 

『いや、モードレッドの力になりたいって思ってさ。何だか迷惑もかけたみたいだし』

「……それでチャラにしろってことか?」

『違う違う。純粋にモードレッドの夢の手助けがしたいだけ』

「本気か…?」

『俺にできることなら何でも言っていいよ』

 

 胸を張ってそう宣言する。

 そんな俺を何とも言えない目で見つめてくるモードレッド。

 しばらくの間お互いに無言だったが、遂に彼女がため息を吐く。

 

「たく……それなら、今まで通りに頼むぜ」

『今まで通り?』

「今まで通りに……と、友達としてさ」

 

 恥ずかしそうに噛みながら告げる、友達と。

 彼女にとってはそれだけでも恥ずかしいようだ。

 

「い、今はこれぐらいで許してやるよ!」

『分かった。そうだね、俺達友達だもんね』

「お、おう。恥ずかしいから、何度も言うなって」

 

 照れ隠しに砂を蹴り飛ばしてくるモードレッド。

 こうしていると、普通の男友達にしか見えない。

 色々とハプニングはあったが、何とか今まで通りに付き合っていけるだろう。

 

『オープンスクールが終わったら遊ぼうか』

「お、ならお前ん家でゲームしようぜ! 漫画も用意しとけよ」

『それぐらいなら自分の家でもできるでしょ』

「うるせえな。……ゲームはやり過ぎると母ちゃんに止められるんだよ」

『ああ……』

 

 恐らくはゲームの初めに出てくる、一定時間が経ったら休憩しましょうなどを守らされているのだろう。

 

「コントローラーは毎日消毒しねえといけねえし…寝転びながらやってたら、ちゃんとした姿勢でしろって言われるし……」

『それは……辛いね』

「菓子は決まった時間にしか食えないし…夜更かしは基本できねえし…とにかく厳しいんだ」

 

 軽く涙ぐみながら語っていくモードレッドに同情する。

 ナイチンゲール先生にかかれば、どんな不健康な人間でも一週間で叩きなおされるだろう。

 

『逃げたりしないの?』

「はぁ? なんで逃げるんだよ」

『いや、モードレッドだから盗んだバイクで走り出しそうだし』

 

 他にはキャメロットのガラスを割って回ってそうである。

 

「するわけねえだろ。父上ですら反抗できねえんだぞ。

 ……ああ、いや、一回だけ家出したことあったな」

『え、いつ?』

「ガキの頃だよ。家出っつってもほんの数時間だし」

 

 どこか遠い昔を思い出すような目で、モードレッドは語っていく。

 心なしか、嬉しそうな表情に見えるのが印象的だ。

 

「雨の中、傘も差さずに探し回ってくれてさ……。

『風邪をひきますよ』ってだけ言って抱きしめてくれた。

 あん時はなんつーか……嬉しかったな」

 

 やっぱり、良い母親なんだな。

 実際、ナイチンゲール先生が怒るのはその優しさからだし。

 まあ、暴走気味で怖いときもあるけど。

 

「……て、やっぱこそばゆいな。この話は忘れてくれ」

『えー、こんな良い話なのに』

「うっせえ! お前からかってるだろ! 殴るぞ!!」

 

 ギャーギャーと喧嘩をしながら笑い合う。

 やっぱり、このぐらいの距離感が俺達にはちょうどいい。

 そう、一方的に殴られるぐらいが。

 

『痛っ、ちょ、そろそろ本気で痛いって…!』

「おう、痛くしてやってるからな」

『ごめん。もう、からかわないから許して』

「……しゃーねえな」

 

 ポカスカ殴られた肩の辺りを擦りながら平謝りする。

 顔面は許してくれる辺り、まだ優しい対処だろう。

 まあ、そこまで怒らせたらこっちが全面的に悪いだろうが。

 

「とにかく、話は終わりだ。絶対にバラすんじゃねーぞ」

『モードレッドからバラさない限りは大丈夫』

「ハ、なら永遠にねえな。じゃあな、気をつけて帰れよ」

『モードレッドもね』

 

 軽く手を振り、歩き去っていくモードレッド。

 そんな、どこか凛々しい後ろ姿が見えなくなったところで、ポツリと呟く。

 

 

『でも……生おっぱい初めて見たな』

 

 

 やっぱり、そこだけは衝撃的だった。

 

 




お互いに意識してない状況から恋に落ちる√の予定。
それにしてもマシュ√最終章前に急いで終わらせて良かった。
エドモンとか色々とネタ被りしそうでしたし。

後、クリスマスに「女装男子×ボーイッシュ」の恋物語書いたんでよろしければどうぞ。
作者からのプレゼントです。

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