FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ

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12話:お泊り会

【どうして死んだの…?】

 

 一人の女が呆然とした声で呟く。

 目の前には血塗れになった少女の死体。

 一見すれば愛する者を失った悲劇に見えるだろう。

 だが、これはそんな生易しいものではない。

 

【ほんの数百万回殺しただけじゃない?】

 

 血と脂で切れなくなったナイフを、少女に突き立てながら女は涙を流す。

 まるで、少女が別の誰かに殺されたかのように嘆く。

 深く、深く、海の底に沈みこむような絶望の声で。

 

【僕はただ、君を殺したかっただけ(・・・・・・・・・・)なのに】

 

 己が惨たらしく殺した(・・・)少女の前で女は慟哭の声を上げる。

 心底悲しげに、殺した者に憎しみを籠めるように。

 女は叫び続ける。

 

【死んで欲しくなんてなかった! 僕はただ君を殺したかっただけなんだッ!!】

 

 ―――狂気。

 一体、それ以外の何で女の叫びを表せるだろうか。

 己で殺しておきながら、死んで欲しくなかったとほざく。

 手が届くのならば、この手で殴り飛ばしてしまいたいと願うほどに、女は狂っていた。

 

【バルバドス…? 君の心臓(ハート)は僕だけのものなんだよ?】

 

 抉りだした心臓があった場所に手を入れ、体内を掻き回すが既にそこには何もない。

 それに気づいた女はゲラゲラと笑い始める。

 この程度ではまるで満足できないのに、どうして死んだのだと。

 

【バルバドス……目を開けてよ。じゃないと君を殺せないじゃないか】

 

 塵すら残さないとばかりに、女は少女の体を解体し始める。

 骨を奪い、目を抉りだす。とてつもない価値がついた宝石扱うように丁寧に。

 そして、傍と気づく。自らの様子を窺う―――俺の存在に。

 

【やぁ、こんばんは。君は……良ぃー爪を持ってるねぇ。まるで混沌が見えるようだ】

 

 ニタリと女の口が大きく歪む。

 乾いた血と肉片が顔の表皮からこぼれ落ちていく。

 それを勿体ないとばかりに舌で舐めとり、女はバルバトスの体をゴミのように投げ捨てる。

 死んだ体に興味はない、今欲しいのは新鮮な生き血だと言わんばかりに。

 

【今夜は月が綺麗だ。きっと君の冷たく青白くなった肌に良く映える】

 

 狂気に満ちた満面の笑みに思わず気圧され、一歩下がってしまい小枝を踏む。

 パキリ、そんな耳を澄まさないと聞こえないような小さな音が立つ。

 でも、虐殺開始のゴングにはそれで充分だった。

 

【お願いだから死なないでね? 僕は君を殺したいんだから―――永遠にねぇッ!!】

 

 数えきれないほどの人間に増殖したように、女が嬉々として襲い掛かってくる。

 

 ―――死。死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!

 

 女の腕が、足が、口が俺の体を蹂躙していく。

 爪を剝ぎ取り、体内の結晶を引きずり出していく女に、俺は全く反抗ができない。

 コントローラーを動かすはずの指は、凍り付いたまま動いてくれない。

 

【ヒャハハハッ! 死なないで! もっと生きてね! 僕は君がもっともっと欲しいんだッ!】

 

 言葉とは矛盾するように、画面の中の俺は殺されていく。

 一秒たりとも休まることなく、何百もの死を体験する。

 殺してくる。欲望のままに、ただひたすらに殺してくる。

 

 これを悪と呼ばずに、罪と呼ばずに何と言えばいいのだ。

 間違えようがない。女の存在は―――人類の悪性そのものだ。

 

 

【あれ…? 噓でしょ。もう、動かなくなっちゃうなんて…嫌だよ。僕、嫌だよ!

 君が死んじゃうなんてイヤだ!! まだ、3万回しか君を殺してないのにィ!!

 ねえ…目を開けてよ。まだまだ、全然、爪を剥ぎ取れてないんだよ?

 死なないで、僕のために生きて。もっと―――殺させてよ(楽しませてよ)?】

 

 

 赤髪の女の顔がドアップで映ったところで、俺は耐えきれずにゲームの電源を落とした。

 モードレッドは、漫画を取り落としたまま硬直する。

 最近男と判明したアストルフォは、大して効いていないはずの冷房にガクガクと震える。

 ラーマはあまりの残酷さに静かに目を覆っている。

 

 夜の闇に覆われた部屋に居る誰もが、凍り付いたまま動けない。

 

「寝る前のホットミルクが入ったぞ」

『うわぁあああッ!?』

「ぬぁあああッ!?」

「うひゃあああッ!?」

 

 その硬直を打ち破るようにドアを開けるエミヤ。

 全員が恐怖でビクッとなりながら叫び声をあげる。

 飲み物を持ってきたエミヤもビクッと震える。

 要するにみんなビビリまくっていた。

 

『ノ、ノックがぐらいしてよ、エミヤ』

「あ、ああ、すまない。少し考え事をしていてな。しかし、なぜこうも驚いたのだ?」

『マジンハザードってホラーゲームが怖すぎて、みんなでビビってた……』

「べ、別にオレはビビッてねーからな! ただ、単に驚いただけだ!」

 

 エミヤに説明すると、モードレッドが反論をしてくる。

 だが、声が震えているため、みんなに温かい目を向けられるのだった。

 

「へ、変な、目で見るんじゃねーよ。バーカ! バーカ!」

 

 怒って首筋を赤くして、罵倒してくるモードレッドをあやしながら、改めてゲームパッケージを見る。

 

『“襲い来るマスターから魔神柱として生き延びろ!”……いや、無理ゲーでしょ』

「魔神柱が女の子になってるから、かなりキツクなってたねー」

「なんでも、魔神柱を可愛くして欲しいと要望があったらしいが……ロマニ・アーキマンとやらは今回は下手を打ったな」

「確かに見た目はグロくはねーけど……その分マスター側が酷いことになってたな」

 

 ゲラゲラ笑いながら魔神柱(美少女)を殺していく様は正直引いた。

 ラフムだってあそこまで残酷にはなれない。

 どう考えてもマスター側が悪役だ。それも超極悪の。

 

「まあ、ホラーゲームなのだから、涼しくなれてよかったじゃないか」

『他人事だと思って……こっちは冬のテムズ川に落とされた気分だよ』

「あれは涼しいとかそういうレベルではない! こう、魂の底から凍るような怒りの方が……」

『エミヤ、何言ってんの?』

 

 何やらトラウマを引きずり出されたのか、頭を抱えるエミヤ。

 今度、ジャガーマン先生かイシュタルさんに聞いてみよう。

 もしかしたら、何かわかるかもしれない。

 

「ゴホン、とにかくだ。そろそろ寝る時間ではないかね?」

 

 そう言われて時計を見ると、夜の11時を過ぎていた。

 確かに寝る時間ではあるが、今日は男友達で泊まり込みの遊びだ。

 正直言って、オールするぐらいの気持ちである。

 

「……因みにだ。ナイチンゲール殿からもしっかり言うように釘を刺されていてな」

「やべぇ! おい、お前ら今日はもう寝るぞ! 続きは早く起きてやろうぜ」

 

 ナイチンゲールの名前に、即座に寝支度を始めるモードレッド。

 その姿から普段の生活が透けて見えるようで、何故だか涙が零れてきた。

 肝っ玉母ちゃん、怖い。

 

「そーだねぇ。今日は寝て明日にしようかー」

「まあ、仕方あるまい。さて、シータにお休みのメールを送るか」

 

 机を片付け、雑魚寝の準備を始めるアストルフォ。

 シータとメールをするラーマ。

 各々が一日の終わりの行動を取り始める。

 因みに今日は俺も床で寝る。だって、ベッドで寝たらお泊り会感がないじゃないか。

 

「む、『浮気じゃないですよね?』とはな。フ、シータも心配性だな。そなた達、悪いが証拠の写真を撮らせてくれないか」

『いいよ、記念の写真としても残るしね。エミヤ、お願い』

「ああ、了解した」

 

 ラーマがお泊り会と称して、浮気をしていないか心配らしいシータのために写真を撮ることにする。

 スマホをエミヤに渡し、寝間着姿のまま写真を撮ってもらう。

 こういうのは、修学旅行以来なのでワクワクする。

 

「ふむ、これでいいかね? 私はそろそろ戻らせてもらうよ」

「ああ、ありがとう。恩に着る。さて、後はこれをシータに送ってと」

 

 写真を添付し、送信するラーマ。

 そして、スマホをしまおうとするが、何故か瞬く間に返信が来る。

 シータは一体何を思ったのだろうか?

 

「……『男性…なんですよね? 男性なんですよね? ラーマ様を信じていいんですよね?』とは……いや、確かに男のはずなのだが」

 

 困ったようにアストルフォを見るラーマ。

 そういうことかと頷いてアストルフォを見るモードレッド。

 チラリとモードレッドに目をやり、やっぱりアストルフォを見る俺。

 

「もう、みんなして酷いなぁ。ボクはオトコノコだよー!」

 

 プリプリと怒りながら頬を膨らませるアストルフォ。

 ごめん、どう見ても女の子にしか見えない。

 

「とにかく、ただの誤解だ。我らは皆男だからな」

「お、おう、そうだよな」

「? モードレッド、なんか顔が赤くない?」

『気のせいだよ、きっと』

 

 ぼろが出そうになるモードレッドをフォローしつつ電気を落とす。

 女性だったことが判明したモードレッドではあるが、この程度のことで意識するタマではない。

 何より全員友達なのだ。彼女のことだから一緒に寝ても欠片も意識しないだろう。

 

『じゃあ、おやすみ』

「おやすみー」

「ああ、おやすみ」

「ふぁ……おや…すみ」

 

 そして、全員が瞳を閉じ、夢の中へと旅立っていくのだった。

 

 

 

 

 

 やっぱり、無理だった。

 ギンギンに冴えわたった目で、天井を見つめながら大きく息を吐く。

 

 モードレッドは予想通り意識することなくいびきをかいている。

 アストルフォはカービィのように涎を垂らしながら寝ている。

 ラーマは威風堂々と枕を高くして眠っている。

 

 問題は俺だ。なんか、色々と目に毒で眠れない。

 

『……なんでそんなに薄着なんだ』

 

 横目でチラリとモードレッドを見る。

 熱いのか布団をはぎ、太ももとお腹をむき出しにしているのが酷く扇情的だ。

 夏という季節を考えれば別におかしくはない恰好だ。

 

 おかしくはないのだが……それでも女性であることを隠しているんじゃないのか?

 あんなにスラリとした足に、ムチっとした太ももが男に見えるはずがない。

 

「えへへ…ヒポグリフぅ…」

 

 寝言を言いつつ、ゴロリと転がってきたアストルフォの太ももが見える。

 ……おかしいなぁ、ムチムチとした女性の太ももにしか見えないよ。

 そう考えるとモードレッドの性別がバレないのもおかしくないのか?

 

「う…うぅ…ゲイザーの焼ける匂いがする…」

 

 悪夢を見ているのか、うめき声をあげるモードレッド。

 可哀そうだが俺にはどうすることもできない。

 きっと、夢の中にベディヴィエールが来ているのだろう。

 

「よく見ると…美味しそうだね…キミ…」

「おい…やめろ…目玉だけは…勘弁しろ」

「じゃあ…足…食べてもいい…?」

「ふざけんな…ポテトのマッシュでも…食べりゃいいだろ…!」

「よーし…いただきまーす」

「やめろぉ…!」

 

 なんだ、この嚙み合っているようで噛み合っていない寝言は。

 ここまで混沌とした会話が成立するとか、何気に凄くないだろうか。

 

「……シータ…すぅ…」

 

 そして、至って普通の寝言を呟くラーマ。

 良かった。ラーマまで会話に参加したらどうなることかと思った。

 

「……ハッ! 良かった…夢だ。…ああ、小便小便」

 

 やはり悪夢だったのか、目覚めてトイレに行くモードレッド。

 俺は寝言を聞いていたことがバレないように、寝たふりをしておく。

 そして数分ほど経ったところでモードレッドが戻ってくる。

 何故か、俺の布団の中に。

 

『…ッ!?』

「父上ぇ……」

 

 混乱する俺をよそに、モードレッドは安らかな寝息を吐き始める。

 どうやら、寝ぼけて布団を間違えたらしい。

 目の前に来たモードレッドの顔を思わず観察してしまう。

 

 整った顔立ちと猫のような瞳は、今は年相応のあどけなさを出している。

 そして普段は気づかないが、長いまつ毛とふっくらとした唇が色っぽさを醸し出す。

 ヤバい……理性が保ちそうにない。

 

 モードレッドの布団の方に移動させてもらおう。

 そう考えて動き出そうとするが、背後から何かにがっしりと掴まれてしまう。

 

「ヒポグリフ……まだ…死んでないよね…? まだ…食べられるよね…?」

『パンケーキになった奴じゃないんだから、もうやめてあげてよ…!』

 

 声を押し殺してツッコミを入れながらもがくが、ビクともしない。

 なぜ、こんな時に限って怪力を発揮してしまうのだろうかこの子は。

 

「父上ぇ…」

「ヒポグリフぅ…」

「シータぁ…」

 

 本当にぶれないな、ラーマは。

 

『く…! 本当に動けない……』

 

 アストルフォに拘束されたまま動けなくなる俺。

 後門のアストルフォ、前門のモードレッド。

 要するに挟み撃ち状態に陥ってしまった。

 

 動けない状態の俺の首筋に、アストルフォが息を吹きかけてくる。

 体に小さな電撃が走り、鳥肌が立つ。

 正気を保て、アストルフォは男だ。男の子だ。男の娘なんだ! ……あれ?

 

「食べちゃいたい……」

 

 よし、落ち着け。ついついムラムラしてくるが相手は男だ。

 そっちの道に落ちたらダメだ。モードレッドを見よう。

 紛うことなき女性である彼女を見ればこの邪気を祓えるはずだ。

 

 モードレッドの綺麗な髪。モードレッドのスベスベとしたうなじ。

 モードレッドの健康的なお腹。モードレッドのスレンダーな脚。

 ……ふう。別の方向でムラムラしてきた。

 

「父上…おんぶ……」

 

 可愛い。寝ているモードレッドがどうしようもなく可愛い。

 思わず襲いたくなるが、我慢する。

 いや、アストルフォのせいで動けないんだけどね。

 

『我慢だ…我慢…』

 

 とにかく、今は耐えよう。

 覚者さんだって性欲が一番抗いがたい欲求って言ってるんだ。

 苦しいのは当たり前だ。でも、お互いの信頼のために俺は乗り越えないといけないんだ。

 この長い夜を…!

 

 

 

 

 

 朝日が俺の勝利を祝うように差し込む。

 やった。俺が勝ったんだ! ……一睡もできなかったけどさ。

 

『アストルフォ、モードレッド朝だよ』

「うぅん……後、五時間……」

「ふぁぁ…朝か……」

 

 日が昇ったので容赦なく二人を起こして、久しぶりの自由を手に入れる。

 ふう、清々しい。まるで正月に新しいパンツを履いたような気分だ。

 

『ラーマも朝だよ』

「シータ…? いや、ラクシュマナ…?」

『俺だ』

「なんだ、お主だったのか」

 

 暇を持て余したやり取りをしながら、大きく伸びをする。

 そう言えば、昨日のゲームを途中で切ってしまったが、どこまでセーブができているだろうか。

 何となく気になり、確認のためにゲームの電源を付ける。

 すると、画面に女の顔と文字が表示される。

 

 

 

【よかった。また、バルバドスを―――いっぱい殺せるんだ】

 

 

 

 早朝の住宅地に悲鳴が4つ響き渡るのだった。

 




ゲーム内のバルバドスちゃんは所長顔です。
そしてリセットする度に初めからに。つまり、所長と同じで永遠に……。
よし、これでみんなの願いは叶うな(愉悦)

さて、除夜の鐘でも聴いてガチャ欲を消しましょうか(108回で収まるとは言ってない)
それでは皆さん良いお年を。

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