転生した彼は考えることをやめた   作:オリオリ

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ま、待たせたな!
いや、本当にお待たせしまして申し訳ありませんorz
しかもあまり長くないです……こ、こんな作者ですが見捨てないで頂けると嬉しいです!



第十二話 朽木家の大騒動

「……大丈夫か、緋真」

「……あまり、良くはありません……」

 床に伏せている緋真の手を握り、声をかけるが、緋真の声は弱々しい。

 その姿に心が痛くなるのを感じる。

 

「やはり、私もそばに……」

「いけません……白哉さんは兄様に報告にいかなくては……」

「……ぬぅ……」

 緋真の言葉に思わず唸る。

 確かに、このことを報告しない訳にはいかない。

 だが、今緋真のそばを離れたくない。

「……もぅ……それは嬉しいのですが、兄様にはたくさんお世話になったではないですか。ですから、早く知らせてあげたいんです」

「…………」

 

「白哉、我儘いって緋真ちゃんを困らせたら駄目だよ」

「……父上」

 背後を振り返ると、そこには父と使用人の吾妻が居た。

「白哉様、緋真様の事は私にお任せください。こう見えても筆頭女中ですよ」

「……わかっているが……」

 こんなことは初めてなのだ。

 緋真が床に伏せているだけでこうも不安になるとは……。

 

「白哉様、緋真様に心労をかけてはいけません。今の緋真様は大事な時なのですから」

「そんな……私は大丈夫ですよ、吾妻」

「今の緋真様が白哉様を甘やかしてはいけません。大切な母体なのですから心労は少しでも取り除いておくべきです」

「吾妻の言う通りだ。だから白哉、早く響に知らせておいで。子供ができるまで相談に乗ってもらったりで、かなり世話になったでしょ?」

「……はい、では行ってまいります」

 二人に諭されて、私はゆっくりと立ち上がった。

 

 あぁ、緋真よ……私は離れたくない……父上が行ってくれないだろうか……。

「では緋真……………………行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「凄い間でしたね」「凄い間だったね」

 父上、吾妻……五月蠅い。

 緋真の普段浮かべる事のない儚げな笑顔に見送られつつ、私は部屋を出た瞬間から瞬歩を使って兄上の家へと向かった。

 

 

 

 

「……そんなに汗だくになってどうした? 急を要することか?」

 兄上の自宅に着くと、そこには斬魄刀を腰に差して門の前で待っていた兄上の姿があった。

「報告があります」

「聞こう」

「緋真が、懐妊しました」

 兄上は一瞬瞠目したかと思えば、すぐに笑い出した。

 

「はっはっはっは!! 何事かと思えば目出度いことだったか! 急いで来たのも緋真の傍を離れたくなかったからだろう?」

 兄上に心の内を言い当てられて、フイッと視線を逸らす。

 その私の行動すらも兄上の笑いを引き出すだけだったらしい。

 

「仲が良く結構なことだ。しかし、それにしては些か急ぎすぎではないか? 緋真に何かあったか?」

「緋真の具合が良くないのです」

「……なるほど、悪阻が酷いのだな……」

「はい、今は寝台からも身を起こすことすらも辛そうです」

 私の一言に兄上の顔が曇る。

 

「優秀な乳母である吾妻殿が居るとはいえ……心配だな……」

「はい」

「わかった。そちらに伺うのは緋真の体調が少し安定してからにしよう。その方が緋真の体に負担が少なくなるだろう……白哉も今の緋真に心配をかけてはいかんぞ?」

「…………承知しております」

 私がそういうと、兄上は苦笑いしていた。

「既に吾妻殿に指摘されたな? 今の緋真は大変な時期だ。こういう時こそ頼りになる姿を見せてみよ。緋真が選んだ男に、それができぬ訳がない」

「……わかりました」

 

 兄上の言葉に、少し顔が熱くなる。

 兄上からもこうして信頼されているのだと思うと、緋真が私を選んでくれたことが誇らしくなる。

「では、道中気を付けて戻るように……といっても白哉には必要ないことか」

「いえ、ありがとうございます。では」

「あぁ、緋真によろしく伝えておいてくれ」

 腕を組んで見送る体勢の兄上に、頭を下げて私は再び瞬歩を使った。

 その場から離れる直前に兄上の言葉が耳に届いた。

「緋真が愛されているようで何よりだ」

 

 

 兄上の言葉を聞いて、緋真に早く会いたくなった。

 既に息は上がっているが、そんなことよりも緋真に会いたい。

 その思いは屋敷に近づくとどんどん膨れ上がっていく。

 

 私は屋敷の門を通らずに、最短で緋真の部屋へと辿り着き、戸を開いた。

「緋真っ!」

「ひゃぁ!?」

 瞬間、私の顔に熱が集まった。

 着物を脱いで、吾妻に汗を拭いてもらっていた様だ。

 緋真の裸体は何度も見ているが、いつ見ても綺麗だ。

 驚いた悲鳴を上げた緋真は、私を見るとすぐさま掛布団で体を隠した。

 

「……うぅ~……」

「……やはり綺麗だ」

「白哉様」

 真っ赤になった緋真を見て、思ったことを口にした瞬間、傍に居た吾妻が恐ろしい形相で怒りを宿した声を発した。

「…………緋真が心配で、兄上に急いで報告して戻ってきた。声をかけずに戸を開けてすまない」

「分かっているのなら、さっさと出ていきましょう?」

 般若の顔になっている吾妻の言葉に、即座に反転して戸を閉める。

「……終わったら……」

「声をかけますのでそこで大人しく待ってなさい!」

「……はい」

 

 吾妻は怒らせると怖い……いや、完全に私が悪かった。

 追い出されて少し頭が冷えた。

 兄上に言われた『頼りになる男の姿』からあまりにかけ離れた先程の醜態に頭を押さえた。

 

 兄上……申し訳ありません……未だにすぐ熱くなる癖が抜けていないようです。

 内心で兄上に謝罪する。

 

 しかし、この戸が再び開かれた時は今度こそ『頼りになる男の姿』を見せねば……。

 どうも、頼りになる男の姿と言われると兄上の姿が浮かぶ。

 先程も全く動揺せず、落ち着いて行動されていた。

 やはり、ああ言った男の姿こそが『頼りになる男の姿』というやつではないだろうか?

 …………私にできるか?

 

 そんなことを考えているとスーっという音が聞こえ、緋真の部屋から吾妻が出てきた。

 出てきた吾妻は半目で私を睨んでいる。

 兄上にも言われたが、一番最初に注意を受けたのは吾妻だ。

 言いたいことは沢山あるだろう。

 大人しく立っていたらため息を吐かれた。

 

「……ハァ……二度は必要ないみたいですね」

「あぁ」

 兄上とも約束したのだ。

 先程は我を忘れてしまっただけだ……それが一番致命的だが……。

 

「ではもう言いません。ですが、緋真様には謝るように、顔を真っ赤にされてかわいらしかったですが……」

「当たり前だろう、緋真はかわいい」

 私がそういうと、呆れたように笑いながらも優しい目で私を見てきた。

「全くもう……夫婦仲が良いのは実にいいことです……フフフ、あの白哉坊ちゃまがこうもお変わりになられるとは、やはり長く生きるものですね」

 そう言いながら吾妻は去っていった。

 

 ……吾妻には幼い頃の事をよく言われるから苦手だ。

 

「緋真、大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」

 緋真の許可を得てから、私は戸を開けた。

 緋真を見ると、出た時とは違う浴衣を着ていた。

 寝巻用の着物を着ていてもかわいいものだ。

 

「そういえば、白哉さん。この子の名前は考えているのですか?」

「……すまない……まだ決めておらぬ」

 しまった……子の名を考えねばならぬな……。

「……あの……よろしければ兄様にお願いしませんか?」

「……兄上にか……」

 ……何故かは知らぬが兄上に名付けられた子は、恐ろしく強くなりそうな気がするのだが……。

 それと同時に、良い男になりそうな気もする。

 何故こうもそんな予感がするのだ。

「それも良いかもしれんな、次の機会に頼んでおこう」

「はい、お願いしますね」

 

 緋真の笑顔に癒されつつも、子はどのように育つだろうか……。

 ……兄上に似るというのも良い事ではあるのだが……私としては緋真のような女子になって欲しいと思うのは些か嫁馬鹿すぎるだろうか……。

「この子の性別がどちらかはわかりませんが、白哉さんに似た男の子だったら嬉しいです」

「……私は緋真に似た女子が良いな」

 私がそういうと、緋真は目を丸くして小さく笑った。

「ふふふ、でしたら双子でも良いかもしれませんね」

「……ククッ、そうだな。双子なら私も嬉しい」

 双子の兄妹というのは非常に珍しいだろうが、そうであったら私も嬉しいな。

 

 私達の愛し子だ。

 どちらであっても、私にできる最大限の愛を注ごう。

 御祖父様や父上が私にしてくれたように……ただし、黒猫……貴様の愛し方は許さん。

 

 緋真の腹を撫でつつ、新しい命に祝福を願う。

 

 

 

 

 それからは正直な話、生きた心地がしなかった。

 緋真の体調は、日を追うごとに悪くなり、まともに食事を取れぬ日もあった。

 吾妻曰く、緋真の悪阻は非常に重く、心労を出来るだけ取り除き、食べられる時に出来るだけ食べさせるようにしているらしい。

 そうでもしないと、子や緋真への栄養が足りないらしい。

 兄上が持ってきた滋養強壮に良い山菜なども使っているらしい。

 

 

 私は緋真に何度も励ましの言葉をかけた。

 兄上に言われたように、緋真が心配しない様に心掛けた。

 

 その甲斐あってか、ようやく緋真の悪阻が改善した。

「うぅ……本当に辛かったです……」

 と、流石の緋真も弱音を暴露していた。

 兄上にも緋真が落ち着いたと言う報告をしたら「……そうか……良かった……」と心底安心された様子だった。

 

 私も安心した。

 緋真の前では不安に思う心を隠し続けるのは、本当に辛かった。

 このまま死んでしまうのではないか、と思ったのも一度ではない。

 

 だが、その辛さを乗り越えた。

 お祖父様と父上、吾妻にも感謝している。

 私と緋真を支え続けてくれたのだから。

 

 安心すると、子が産まれてくるのが待ち遠しくなった。

 子の成長は順調なようで、緋真の腹も大分大きくなってきた。

 緋真の腹を撫でれば、反応するかの様に動くのだ。

 

 緋真と違い、私はこうした事でしか実感が湧かない。

 反応があると思わず笑みが浮かんでしまい、様子を見にきていたルキア達に驚かれたのは記憶に新しい。

 兄上には「早く会いたい、そんな顔をしているぞ」と楽しそうに笑われた。

 

 あぁ、そうか。

 私は、既にこの子を愛しているのだな。

 

 兄上に言われて、私は自分の気持ちに気づいた。

 緋真にそれを言うと「白哉さんは、この子の反応があるととても嬉しそうに笑われてますよ。 私、ちょっと妬いちゃいそうです」と、可笑しそうに笑われてしまった。

 

 しかし、私はどんな表情をしているのだろうか?

 鏡を見ていて、嬉しそうに笑う自分が想像できない。

 緋真と婚姻する前の私もどんな表情をしていたのか……。

 

 

 あぁ、そう言えば兄上に子の名前候補を聞かせてもらった。

「男子ならば、朽木桜花。 女子ならば、朽木桃花(とうか)。 単純ではあるが、白哉の『白』と緋真の『緋』を混ぜた色から考えさせてもらった。 名付けとは難しいな」

 兄上は単純で悪いと言っていたが、私は素直に良い名だと思ったのだか……兄上は納得いかなかったのだろうか?

 

 

 そうして月日は瞬く間に流れ、遂に緋真の陣痛が始まった。

 吾妻を筆頭に女衆が、緋真についてくれている。

 男は厳禁だと言われ、部屋の前で待っているのだが……落ち着かん。

 

 緋真の苦しそうな声が聞こえる。

 吾妻達の励ましの声が聞こえる。

 

 だが、まだ子の声は聞こえない。

 落ち着かず、部屋の前を行ったり来たりしているとお祖父様に笑われてしまった。

 父上も私が産まれる時は同じ様な事をしていたらしい。

 

 しかし、心配で落ち着かないのだ。

 そんな時、子の泣き声が聞こえた。

 吾妻達が声を上げている。

 

 

 私は、ただ戸の前で待っていた。

 少しすると吾妻に言われて、部屋の中へと入った。

 緋真が体を起こして子を抱いている。

「……緋真」

「白哉さん」

「よく……やった」

「はいっ……白哉さん、抱いてあげてください」

「あぁ」

 

 吾妻に子を抱く時の注意を聞きつつ、言葉の通りに首を支えて我が子を抱き上げた。

 

 小さくも、暖かい……私達の愛し子。

「……白哉さん」

 緋真に呼ばれ、そちらを向くが何故か緋真の顔がぼやけて見えた。

「ふふふ、白哉さんを泣かせるなんて、すごい子ですね」

 楽しそうな声で指摘されて、私は涙を流している事に気付いた。

 

 小さな子の重みに、私は父になったのだと感じた。

 涙の理由はわからない。

 だが、この内からこみ上げる気持ちは……緋真を思う気持ちに似ている。

「緋真」

「はい、何でしょうか?」

「私を、父にしてくれてありがとう」

「ッ! はい、私も母にしてくれてありがとうございます」

 

 緋真の顔はよく見えないが、声は震えていた。

 私は、腕の中にいる我が子をもう一度見る。

 

 

 産まれた子は女子だ。

「お前は桃花。 朽木桃花だ」

 桃花は小さく「ぁぅ」と声を出した。

 まるで返事を返したかの様だと、自分の思考に小さく笑った。

 

「逢いたかった……産まれてくれてありがとう」

 




化けの皮が剥がれてきましたね(白目)
というわけで、オリキャラが産まれてしまいました。
これから先出番は……多分ないんじゃないかなぁ……

さて、次の話ですが一気に時間が飛びます。
ようやく他の原作キャラと出会えますね。
また時間がかかってしまうと思いますが、これからとよろしくお願いしますm(__)m

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