転生した彼は考えることをやめた   作:オリオリ

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お待たせしました!
ちょいと長くなりましたが、ようやく完成!
今回は戦闘描写もあります……が、期待してはいけません。
私に、戦闘描写は無理だったよ……(白目)


第十七話 朽木家で過ごす夜

「ルキア叔母様!!」

 朽木家の門を潜ったとたんに聞こえた声に、私はすぐさま身構えた。

 すると、案の定というべきか。

 声がした方から姉様によく似た黒髪の少女が、瞬歩を使って飛んできた。

 いつもの事とはいえ、やめてほしいのだが……

 既に私と体格は変わらない桃花を受け止め、衝撃をその場で回転することで逃がしつつ抱きしめる。

 

「おー、いつもながら良く衝撃を逃がせるもんだな」

 恋次が少し後ろの方で呆れたような声を出している。

 桃花が瞬歩を覚えてから、来る度に同じことをしているからな。

 慣れたものだ。

 そんなことを考えつつも、姫抱きしている桃花を軽くしかる。

「桃花、危険だから普通に抱き着けばよいと、いつも言っておるだろう?」

「ふふふ、ごめんなさい♪」

「…………まぁ、良いか」

「いいのかよ」

 

 楽しそうに言う桃花の顔を見ると、何故か許せる。

 何故だ?

 首を傾げていると、桃花が私の首に手をまわしてギュッとくっついてきた。

「桃花?」

「ふふふ、ねぇ恋次叔父様。うらやましいです? うらやましいですか?」

 どうやら抱き着いたのは後ろの恋次を煽る為だったようだ。

 

「おー、相変わらず生意気な対応だな。おらおら」

「きゃあ!! やーめーてーくーだーさーいー! 髪が乱れますーーー!!」

 ぐりぐりと頭を撫でられているらしく、私にまで振動が伝わる。

 というか、私が抱きとめている時に暴れるな、落とすだろう。

 

「桃花!!」

 私が困っていると、奥から目を吊り上げた姉様が歩いて来た。

 桃花はビクッとして、器用に私の腕から逃げ出すと、すぐさま恋次の後ろに隠れた。

 私の後ろじゃないのは、恐らく体の大きさの所為だろうな。

「お、お母様が来ました!! 恋次叔父様! お母様をやっつけてください!!」

 恋次の後ろで、姉様を指さす桃花をみて、恋次は呆れたような声を出した。

 

「はいはい。緋真さん、桃花一人お持ちしました」

「きゃああああ! 恋次叔父様の裏切り者ーーー!!」

「いつもこのやり取りやってんだけど、いつになったらこれやめるんだ?」

 ひょいと首の根っこを掴みあげるように桃花を持ち上げて、目の前まで来た緋真に捕まる桃花。

「とーうーかー? 貴女、また瞬歩を使ってルキアに突撃したわね? 見えてたわよ?」

「ナンノコトデショウカ、ワタシ、ワカリマセン」

「…………そんなこと言うのはこの口からしら?」

 グイッと桃花の両頬を引っ張りながらも笑顔を浮かべる姉様は、何というか、うむ、怖いな。

「いひゃいいひゃい!!」

 

 桃花が涙目になりながら、姉様の手をバシバシと叩いているのを見ながら、恋次がぽつりと呟いた。

「いつもと同じ笑顔なのに怖え……」

「同感だ」

 母親になったらあのような技が身に付くのだろうか?

 

「ところで、なんで桃花はいつもルキアに突撃してくるんだろうな?」

「さてな、桃花に聞いてもはぐらかされるから、私も理由は知らぬ」

「その理由教えてあげるわ、ルキア」

「お母様!?」「姉様?」

 私が疑問の声を上げるとの同時に、桃花の驚いた声が響いた。

「お、お母様!!私が悪かったです!!ごめんなさい!!」

「この子が貴女に迷惑をかけるのは「ま、待って!!待ってくださいお母「おう、悪ぃな。ちょっと静かにしててくれ」むぐううううう!?」ありがとう、恋次君」

「そ、そこまで無理矢理話さなくてもいいのでは?」

 姉様が話をしようとして、桃花がそれを遮ろうとしたら、恋次に後ろから口を塞がれた桃花が哀れでならない。

 桃花から助けてと言う視線が送られてくるのだが……

 

 だが、姉様はどうやらやめるつもりはないらしい。

 頭を横に振って桃花を見た。

「ちょーーーっと、おいたが過ぎる子にはお仕置きが必要よねぇ?」

「そうですね」「そうっすね」

「むうううう!?」

 許せ、桃花。

 顔は見えてないが、姉様から感じる怒りの気が恐ろしいのだ。

 桃花から目を逸らす。

 

 私達の返答に満足した姉様は、桃花が突撃してくる理由を教えてくれた。

「この子はね、貴方達の事が大好きなの。だけど、普通に甘えるのは流石にもう恥ずかしい……けど、甘えたい。だから勢いに任せて突撃しちゃおう。みたいなこと考えてるのよ。現にルキアと恋次君にくっつくのは最初だけでしょ?」

「そういや、そうだったな」「言われてみれば……」

「ね、桃花?」

 姉様が普通の笑顔で桃花を見た。

「……当たり見たいっすね、こいつ後ろからでもわかるくらい真っ赤ですよ」

「………………」

 うむ、すごく赤いな。

 首まで真っ赤になっている。

 

「恋次君、もう離してもいいわよ」

「はい」

「っ!」

「はーい、逃げちゃだめよ?縛道の六十一 六杖光牢」

「お母様のばかああああああああ!!」

 恋次に解放された桃花はすぐさま逃走を図ったが、姉様の縛道によってあっという間に捕まってしまった。

「縛道の六十番台を詠唱破棄……だと……?つか、六杖光牢使うか普通」

 姉様……詠唱破棄で六十番台を軽く使いますか。

 

 桃花も必死に抵抗していたが、私達が近くに来て諦めたように項垂れた。

「うぅ……お母様のばかぁ……」

「知りません。おいたが過ぎる子にはお仕置きです」

 若干涙目になって姉様を睨んでいるが、うむ、まったく迫力がないな。

 しかし、こうしてみると姉様がしっかりと母親をやっているのだと再認識するな。

 …………しかし、私と全く変わらない体形だと言うのに、なぜこうも母性が感じられるのだ?

 私も子ができたら、こうなるのだろうか?

 

 そんなことをしている間に、姉様が縛道を解いた。

「…………」

 桃花は逃げるのは諦めたらしく、顔を赤くしてそわそわとしている。

「いつも突撃したり、煽ってくるからお転婆な奴だなと思ってたんだが……そうか、甘えたかったのか」

「あ……う……うぅぅぅ……」

 意地悪そうに笑いながら桃花の頭を撫でる恋次に、顔を真っ赤にする桃花。

 先程の考えはいったん置いといて、今は桃花を甘えさせてやらねば。

「悪かったな、桃花。 ほら、おいで」

 頭を撫でられている桃花に向けて、腕を広げる。

 さぁ、来るがいい桃花よ。

 

「うぅ……ルキア叔母様ぁ……お母様が意地悪します」

「む、失礼な子ね」

「いや、俺も結構意地悪だったと思いますよ」

 恋次と姉様から私の方へ歩いて来た、桃花を抱きしめて頭を撫でる。

「よしよし、だが私は桃花の心の内が知れて嬉しいぞ」

「お、叔母様までぇ……」

 恥ずかしいのか、先程よりもギュッと強い力で抱き着いて来る。

 

「ならもっと意地悪しちゃおうかしらぁ?」

 腕の中の桃花がビクッと震えた。

 そんな様子を見て姉様は楽しそうに笑っている。

「ね、姉様。流石にこれ以上は……」

「ふふふ、冗談よ。……桃花がこれ以上おいたをしなければ、ね?」

「…………もう悪いことは絶対にしません」

 

 桃花の小さな声を聞き逃さなかった姉様は、満足そうに頷いた。

「はい、よろしい」

「緋真さん、外堀から埋めてったな」

「むしろ最初から本丸を包囲された状態だったな」

「……刀を突き付けられて降伏勧告を受けた気分です」

「クッ!」「ぶはっ!」

 桃花のその言葉に、私と恋次は思わず噴き出した。

 

 確かに、恋次に身柄を確保され、精神的に討たれ、六杖光牢で拘束され、のちの降伏勧告……戦で例えたら確かに首を切られる寸前の降伏勧告だったかもしれんな。

「全く、失礼な子ね」

 と言いながらも、姉様は苦笑していた。

 

 

 

 ひと段落して、私達は客間へと移動した。

「おぉ! よく来た! 久しぶりだな二人とも!」

「やぁ、いらっしゃい。恋次、ルキア」

 客間には既に銀嶺お爺様と蒼純お父様が、お茶と羊羹を準備して待っていた。

 …………相談役と朽木家当主がすることじゃないと思うのですが……

「お久しぶりです、銀嶺さん、蒼純さん」

「お久しぶりです、銀嶺お爺様、蒼純お父様」

 そんなことを内心で思いつつも、私達が挨拶すると二人は嬉しそうに笑う。

 本当に優しい人たちばかりだな、朽木家の方々は。

 

 そういえば、銀嶺お爺様にも養子の件を謝っておかねばならぬな。

「銀嶺お爺様、養子の件は……」

「うむ、既に白哉に聞いておる。なに、気にすることはない。響が死神になる時にもう一度提案してみようと考えていただけだ。まぁ、ちょっと……いや、結構……かなり残念だとは思うが……」

「お父さん、二人の前でそんなこと言わないでください。気にしちゃうじゃないですか」

「む、すまんな蒼純。やはり残念で「だから言わないでください。いいね?」……響殿と飲むようになって蒼純も強くなったのぅ」

 銀嶺お爺様と蒼純お父様のやり取りを見て、私と恋次は顔を見合わせ苦笑した。

 いつもかわいがって頂いているが、そこまで残念がられると悪いことした気になる。

「まぁ、ワシはいつでも良いぞ。養子になっても良いと思ったらいつでも私達の家族になると良い」

 優しく笑って言い切る銀嶺お爺様に、静かに頭を下げる。

 

 響兄様が養子にならない限り、そうはならないと思うがその気持ちは素直に嬉しかった。

 

 

 

 

「んで、今日はどうするんだ?」

 銀嶺お爺様たちと少し話をした後、私と恋次、桃花は客間の外に出ていた。

 ある程度話した後は、桃花と遊ぶ。

 それが私達が来た時の流れだった。

「うぅん……あの、良ければなんだけど、私の部屋でお話しませんか?」

「私は構わんぞ」

「あー……まぁ、桃花がいいならそれでもいいぞ」

 私達が了承すると、ぱぁと花開くような笑顔を浮かべた。

「では、いきましょう!! お聞きしたいお話があるんです!!」

「桃花、そのように急いではまた姉様に怒られるぞ」

「っていうか、話すのは俺達かよ」

 

 そんなことを話しつつ、桃花の部屋へと入る。

 桃と同じようにチャッピーの人形が飾られている……!

 かわいらしい部屋だ。

「んで? 何の話が聞きたいんだ?」

 座布団に腰かけながら、恋次が胡坐をかいた。

 私は座布団の上で正座する。

「実は、噂を聞きまして……」

「噂?」

「はい、響伯父様が現世での実習で虚の大軍をあっという間に全滅させた。その虚の大軍は大虚だった。など聞いたのです。ルキア叔母様と恋次叔父様なら何か知っているのではないかと思いまして」

 

 その言葉を聞いて、やはり噂というのはかなり尾ひれがつくものだなと思う。

「あー、あの実習の事か」

「知っているのですね?」

「まぁ、私達は当事者だからな」

 私がそういうと、桃花は目を輝かせた。

「ではお話してください! 響伯父様がどのように戦っていたのか、私、気になります!」

「あー……どうする、ルキア?」

「箝口令が敷かれている訳ではないから、話してもかまわないだろう」

 恋次は大きくため息をつくと、眉間を抑えた。

「話は任せていいか? 俺だとうまく話せねぇ気がするからよ」

「うむ、任せておけ」

 

 一度頷いて、桃花を見る。

 若干身を乗り出しており、楽しみにしているのが傍目に見ても良く分かる。

 その姿に思わず笑みをこぼしながら、私はあの実習を振り返った。

「今から話すことは、私が見たことと響兄様に直接話を聞いた事だ。私の主観で話す故に、些かわかりづらいかもしれぬが……」

「構いません!」

 非常に楽しみといった顔で私の話を待つ桃花に苦笑しつつ、あの日の事を話し始めた。

 

 

 

 

「そうだ、刀の柄を霊の額に押すと魂葬ができる」

「こうだろうか」

 私は上級生の檜佐木修平殿の言葉に従って、魂葬の教授を受けていた。

 霊の額にポンッと、柄を上げると霊は静かに尸魂界へと送られた。

 特に何もなかった故に、思わず首を傾げた。

 

「へぇ、初めてなのに上手だな。最初は結構失敗するものなんだが」

 檜佐木殿の言葉から察するに、私はうまく魂葬を行うことができたらしい。

 しかし、失敗するとどうなるのだろうか?

 というか、何をどうしたら失敗になるのだ?

 

「どのようなことをすると失敗になるのですか?」

「そうだな、力を入れすぎたりすると「いでででで!?」魂魄が痛みを感じる。ちょうど、あんな風にな」

 説明している最中に、他の上級生が受け持っていた霊が悲鳴を上げていた。

 その周りでは院生があたふたとしている。

 檜佐木殿が声のする方を親指で指して、軽く笑った。

 それにつられて、私も思わず笑ってしまった。

 

「実習の練習台となる魂魄が少し、不憫ですね」

「クックック、違いない」

 私達はそんなやり取りをしつつも、実習を続けていた。

 

 

 ん?響兄様か?

 響兄様は、この実習では護衛として着いていたのだ。

 故に、響兄様は教習していたわけではないのだ。

 私達の実習はつつがなく進行していたのだ。

 

 

 

「全員一か所に集まれ!!」

 突然、響兄様が大声をあげたと思ったら、姿が消えたのだ。

「うわああああ!?」

 悲鳴を上げたのは上級生の一人である、中村殿だった。

 悲鳴が聞こえた方を見たら、そこには自らの朱槍を構えて立つ兄様の姿と額の部分が吹き飛んで崩れ落ちる巨大な虚だった。

 

「中村六回生、怪我はないか?」

「あ、あぁ。だ、大丈夫だ」

「ならすまんが、院生を一か所に集めてくれ」

 響兄様は巨大な虚を倒したというのに、いまだ警戒を解かずに空を睨みつけていた。

 中村殿は響兄様に言われた通り、院生を一か所に集め始めた。

 

 響兄様がこうして警戒していると言う事は、危険が迫っているのだろう。

 私は恋次と合流すべきと判断して、恋次の元へと向かった。

「恋次」

「ルキア、虚が来るのか?」

 未だ警戒を解かずに空を睨みつける響兄様を見つつ、恋次が訪ねてきた。

「わからん。だが、響兄様があれほど警戒しているのだ。何も起きぬわけが……!?」

 パキンッバキンッと何かが壊れる音がした。

 

「嘘……だろ……!?」

 誰かが声を上げた。

 その気持ちもわかる。

 なぜなら、空に無数の亀裂が開き、そこから虚が飛び出してきたのだ。

 それと同時に、空があっという間に雷雲に覆われたのだ。

 

 

 これは後から響兄様に聞いたのだが、天候操作は響兄様の斬魄刀の力らしい。

 そこから発生した雨、風、雷を自在に操るのが兄様の斬魄刀だと言っていた。

 

 

 私も屋敷の周辺に現れた虚を何度か相手にしたことがあったが、数えきれないほどの虚を見たのは初めてだった。

 情けないが、正直恐怖に震えてしまったのだ。

 そんな私の様子を察したのか、響兄様が私達の名を呼んだ。

「ルキア!恋次!こい!」

「は、はい!!」「お、おう!!」

 私は、響兄様を見た時、目を疑った。

 響兄様は不敵な笑みを浮かべていたのだ。

 

「案ずるな。この程度、物の数ではない」

 次いで、耳を疑った。

 既に虚の数は100を超えるであろう。

 その数を目にして、なお大したことではないと響兄様は言ったのだ。

 

 私は自分が情けなくなった。

 響兄様は、恐らく震えていた私のためにこう言ってくれたのだろう。

 だが、私とていつまでも守られているだけの存在ではない!!

 そのために死神となったのだ!!

 隣を見れば恋次も拳を強く握りしめて、強い覚悟を秘めた目をしていた。

 

「兄貴、俺もやるぜ!!」

「響兄様、私もやれます」

 響兄様は私達の様子を見て、軽く笑った。

「ならば、守りは任せたぞ」

「っ!あぁ!!行くぜ!咆えろ『蛇尾丸』!!」

「任せてください。舞え『袖白雪』」

 

「一回生が斬魄刀の解放を!?」

 私と恋次が斬魄刀の解放をしたことに、驚きの声が上がった。

 だが、私にそれを気にする余裕はなかった。

 守りだけでも、響兄様は任せると言ってくれた。

 ならば、その期待に応えるのみ!!

 

「一回生はその場を動くな、結界を張る火雷大神『天恵陣(てんけいじん)』」

 響兄様がそういうと、彼らの周りに嵐の結界が現れた。

「その雨と風がお前たちを守ってくれるだろう」

「響さんは……?」

 結界の中にいる桃が不安げな声を上げた。

 響兄様は一度視線を向けると、不敵に笑った。

 

「案ずるな」

 そういって、響兄様は槍を握っていない方の手を、天に向かって伸ばした。

 雷雲はゴロゴロと言う腹の底に響くような音を生み出し、稲妻が走っているのが見えた。

「私達がいる限り、お前たちには指一本触れさせん」

 

大雷神(おおいかづちのかみ)一の型『天雷(あまのいかづち)』」

 響兄様が手を下した瞬間、世界に雷光が走った。

 次いで、思わず動きを止めてしまうほどの雷鳴が轟いた。

 

「……稲妻が?」

「すげぇ……!」

 雷雲より幾つもの稲妻が落ちてきて、虚を貫いた。

 稲妻に撃たれた虚は、身を炭化させて霊子へと分解されていく。

「この天気も……雷も……全部兄貴が操ってんのか……!?」

「信じがたいが、そう言う事なのだろう」

 全く、響兄様は本当にでたらめな兄だ。

 

「この程度なら、なんの問題もない」

 そうして、響兄様の姿がまた消えた。

 稲妻は遠くにいる虚を狙い、今も落ち続けている。

 響兄様は近くまで来た虚は直接片付けることにしたらしい。

 

 一瞬だった。

 本当に一瞬で、比較的近くにまで来ていた虚の額に穴が開いた。

 それも一体ではない。

 気が付けば、近づいてきていた虚20体が額に穴をあけられたのだ。

 私の目では、響兄様が移動している姿も、虚に槍を突き立てている姿すらも見えなかった。

 

 ただ、速い。

 まるで不可視の領域があるかのように、虚はある距離から近づくこともできずに倒されていく。

 だが……なぜだ……なぜ、他の虚が倒されてもまったく気にせず近づいてくる?

「……妙じゃねぇか?」

「……あぁ、なぜこうも動じないのだ?」

 今まで見たことある虚は知能がある。

 虚になる霊魂はどうしても人だったものが多い。

 まれに動物の霊魂からも虚となるが、それも数が多いわけではない。

 だと言うのに、ここに現れている虚は一切しゃべることなく、悲鳴を上げることもなく攻めてくる。

 

 まるで自我を持たない自動人形の様だ。

 そこまで考えて、ふと視線を感じた。

 見てみれば、響兄様が動きを止めて私達を見ていた。

 そして、私達の背後の方に視線をやると、再び姿を消した。

 今のは……?

 

 響兄様の今の動作に何の意味があったのか考えていると、ある気配に気が付いた。

「オイ、ルキア」

「うむ、わかっておる」

 どうやら響兄様があえて見逃した虚が近づいてきているようだ。

「霊圧は感じねぇが、気配はあるな」

「どういうことかはわからぬが、ここより先へは通さぬ」

 解放した刀を持って、気配がする方へ向かう。

「しっかし、兄貴はよく気が付いたな」

「私達はここまで近づかれるまで気が付かなかったというのにな」

 小さくつぶやきながら、後方へ視線をやる。

 

「俺は前の奴をやるか」

「では、私は上だな。ちょうどいい」

 恋次はルキアよりも前へ移動し、ルキアは恋次から数歩後ろへ下がった。

 

「では」「じゃあ」

「やるとしよう」「やってやろうじゃねぇか」

 恋次は気配がする前方へ蛇尾丸を振った。

 連結刃が伸びていき、下から顔を出した虚の顔面を穿つ。

「ちっ、霊圧が消せてもとんだ雑魚じゃねぇか」

 蛇尾丸の勢いは虚の顔面を吹き飛ばして、なお止まらない。

 蛇の様に動き、吹き飛ばした虚の左右から出てくる新たな虚の頭を食い散らかす。

「蛇牙襲咬。蛇に喰らい付かれたら丸のみにされちまうぜ?」

 

 

「初の舞・月白神楽(つきしろかぐら)

 私は円を描くように、袖白雪を振るうと地面から空へ向かって、一瞬で氷の柱が出来上がった。

「一体捕らえれば十分だ」

 私の目には上空で凍らされた一体の虚が見えた。

 そしてその虚から、今度は横方向に氷の柱が形成された。

 

「神楽とは、鎮魂の呪術。近くに迷える魂があるのならば、その罪を払い、黄泉へと送ってやろう。まぁ、黄泉と言っても尸魂界の事なのだがな」

 氷の柱は新たな虚を捕らえ、また新たに柱を増やす。

「これでも死神なのだ。見習いとはいえ、虚の罪を祓うのは私の仕事だ」

 そうして、氷の柱は上空にいた虚を全て捕らえ、カシャンと言う音を残して、小さな氷の破片へと変わっていった。

「次の生では、迷うことなく逝くがいい」

 警戒は解かずに、他に近づいてくる気配がないか探る。

 

 どうやら、響兄様があえて見逃したのはこれだけの様だ。

「あっけなかったな」

 私と同じように虚を蹴散らした恋次が近づいてきた。

「響兄様があえて見逃しただけだからな。今いる中でも弱い奴らを通したのだろう」

「それもそうか。けど、どうやったら霊圧消してた虚の気配に気づけんだよ」

「さてな、響兄様はどうも普通ではないからな」

「………遠いな」

「…………」

 恋次の言葉には答えず、ひたすらに落ちていく虚の群れを見る。

 

 気が付けば、虚が出てきていた穴は閉じており、見える虚の数もあっという間に減っていく。

 響兄様と私達では比べるのが、おこがましいほどの差があるのだな。

 遠くにいた最後の虚が稲妻に撃たれて、霊子に代わっていくを私達はただ見ていた。

 

「これで終わりだな」

「あぁ」

 だが、私達の言葉をあざ笑うかのように、再び空に亀裂が走った。

 そして、今まで現れた虚とは桁違いの霊圧を感じた。

「な、なんだあの虚は……!?」

 

「ギィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 咆哮、恐ろしく巨大な身ゆえか、その声も体にひどく響く声だった。

 周辺の建物が奴の足首ぐらいの大きさしかないと言えば、その巨大さがわかるだろうか。

「大虚まで現れるか、やってくれる」

「大虚……?」

 気が付けば近くにいた響兄様が、目を鋭くして何かを呟いた。

 

「長引くと面倒だ、これで終わらせる」

 そういって、響兄様が天に手をかざすと、その身に稲妻が落ちてきた。

「響兄様!?」「兄貴!?」

 思わず声を上げるが、その心配がないことはすぐにわかった。

 落ちた稲妻が、響兄様の手に収束していた。

 稲妻は何度も兄様の手に落ち続け、稲妻はやがて巨大な雷の槍へと変貌していた。

 

 バチバチと凄まじい電気の音をさせ、込められる霊力も非常に大きなものとなっていった。

 響兄様はその槍を握り、全身に力を籠めたのがわかった。

「『雷神罰(いかづちのしんばつ)』」

 それもまた一瞬だった。

 投げた軌跡もまったく見えず、気が付いたら大虚はその身を蒸発させていた。

 

 後から響兄様に聞いたのだが、雷の槍は大虚の仮面に当たると、膨大な雷のエネルギーでその体を一瞬で霊子へと分解したらしい。

 私には響兄様が言っていることはよくわからなかったが、消し飛んだと言う事だろう。

 

 

 

「というのが、私と恋次が遭遇した出来事だ」

 話し終え、桃花を見ると呆けたように口を開けていた。

「大虚の軍勢っていうのは流石に尾ひれがつきすぎだよな」

「まぁ、それに負けないくらいの虚の軍勢ではあったな」

「兄貴曰く521体の虚が現れたらしいけど、本当かどうかはわかんねぇよな」

「……響兄様なら倒しながら数えるくらいやってのけそうだ……というか、その具体的な数が怖い」

「……やめろよ、笑えねぇ」

 

「よ、よく生きてましたね?」

「ようやく復活したと思ったら第一声がそれかよ」

 桃花が絞り出した一言に、恋次が呆れたようにため息をついた。

「だ、だってだって!予想外も良い所ですよ!?響伯父様が強いと言うのは、曽御爺様や御爺様から伺ってましたけど!まるで物語の様なお話ではないですか!!」

「……いいか、桃花……世の中には嘘のような本当の話があるんだぜ」

「あぁ、霊術院に入る前から卍解を会得しているような人がいるとか……な」

 恋次と一緒に遠い目をしてしまう。

 あの響兄様が帰ってこなかった嵐の4日間。

 まさか、あの嵐が響兄様の卍解修行の所為だとは思いもしなかった……。

「ば、卍解!? ど、どういうことですか!? ねぇ!? ルキア叔母様!? 恋次叔父様ー!?」

 桃花に揺さぶられながら、今回の訪問はなんだか疲れたな……と思いながら、空に輝く星を見る私だった。

 

 




……ど、どうでしたか?
正直、戦闘描写はもうダメダメだと思います。
本当になんで他の作者さんは書けるんでしょう……
もう、しばらくは戦闘描写は書きたくないです。

あと、ちょろっと桃花ちゃんの設定公開
朽木桃花 身体年齢14歳くらい 年齢?矛盾が出てくるから皆様の想像でお願いします(白目)
白哉と瞬歩を、他の一家に鬼道を習ってます。
見た目はほとんど、緋真さんと同じですが髪が長いです。
イメージ的には隊長ルキア?
目元は白哉さんに似てますが、性格は誰に似たのやら……なかなか愉快な性格になってしまった。
何故だ?

ではでは、今回も皆様が楽しんでくれたら嬉しいです!!
また次のお話で!

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