プロローグ
キーンコーンカーンコーン・・・。
本日最後のチャイムが鳴り、先生の解散と同時にクラスメート達が席を立つ。
それぞれが行動する中、「鳴上 悠」は荷物を片付け、教室を出る。
今日は悠が通う学校・私立銀杏高校の終業式だ。
悠は周囲に構うことなく、周りも悠に気づく事なく、校舎を出た。
一人で家へ続く桜の並木道に通る途中、ふと足を止めて桜を見上げる。
4月からは、自分は高校2年生となる。
周りはその事に何かしら反応するのだろうが…
自分はあまり実感がない。
敷いて言うならば、1年の月日が経った事に気づくだけ。
そもそも、自分はこの17年間、ただ月日に任せて生きてきた。
良く言えば平穏、悪く言えば退屈の毎日。
周りに刺激される事なく、静寂な日々。
退屈だと思った事はない・・・と言えば嘘になるが、どうも自分は周りへの関心が薄い人間らしい。
『何のために生きているのか』。
そう聞かれたら、・・・きっと自分は答えることはできないだろう。
ただ月日に任せ、世界で生きていく…。
平和なのに越した事はないが・・・
まるで、『人形』のようだ。
きっとこれからも、静かな毎日が続くのだろう・・・。
桜の中、悠はそう思いふけっていった…。
「・・・ただいま。」
「おかえりなさい、悠。」
家に帰宅した悠は、リビングで両親がテーブルを挟んで座っていた。
「悠、こっちに座りなさい。」
母と並んで座る父、 鳴上 水月が、悠を見て席に座るように言ってきた。
(・・・またか・・・・。)
そう考えたまま、悠は言われたとおりに席に座る。
両親は仕事上、転勤が多く、悠自身も両親に付き合って多くの場所に越してきた。
その時、必ずこのパターンで引っ越しを告げられる。
「・・・悠、父さん達は次の仕事のため、ここを出る事になった。」
お決まりのパターン。
慣れている展開に、悠は特に動じる事なく「そう。」と続ける。
「次はどこに?」
これも慣れたパターン。
悠は特に何気なく、聞いたつもりだった。
「・・・それが、だな・・・・。」
「・・・?」
違和感を感じた。
父・水月は無口な人間だが、意外と言う事はハッキリと言うタイプだ。
今回のように、父が言いよどむ事は珍しい。
予想と外れた展開に、悠は半分浮上した意識が戻った。
「悠、よく聞いて。
・・・お母さん達、外国に行く事になったの・・・・・・。」
「・・・
・・・・・は?」
父に代わって切り出した母・鳴上 奏の言葉に、悠は完全に思考が停止した。
・・・つまり話によると。
父さんと母さんは、仕事の都合で出張先のアメリカに行く事が決まったらしい。
遅くても、月末には向こうに行くとか。
しかも今回は1年間の長期で。
引っ越しは今までもあった事だが・・・
流石に外国は初めてのケースだ。
「それでだな、悠。
・・・もし日本に残りたいなら、それでもいい。
好きな方を決めなさい。」
父さんが、言い聞かせるようにそう告げる。
流石の両親も、俺を海外に連れて行くのに抵抗があったらしい。
父さんの問いに、少し考える。
「・・・父さん。
日本に残るよ。」
「・・・そうか。」
一応、日常会話レベなら英語は話せるが・・・流石に今回は抵抗がある。
できるなら、日本に残りたい。
「わかったわ、悠。
それならね、提案があるの。」
俺の答えに少しホッとした母さんが、意見を出す。
「お母さん達が向こうにいる間、遼太郎の所で暮らしたらどう?」
・・・遼太郎?
聞きなれない名前に首を傾げる。
「あら、忘れちゃった?
遼太郎は、お母さんの弟。
つまり、あなたの叔父さんよ。」
「・・・叔、父?」
・・・そうだ、思い出した。
確か、母さんの故郷でそのまま暮らしている・・・。
「八十稲羽って言う所でね、田舎なの。
退屈かもしれないけど・・・、きっとゆっくりできると思うわ。」
母さんがそう答える。
母さんは、昔から表情が少ない俺に何かと気にかけてくれた。
恐らく、今回の事もそれに便乗しての案なのだろう。
「・・・わかった。
じゃあ、それで。」
母さんの魂胆は特に興味なかったが・・・それで日本に残れるのなら、それでいい。
「決まりね。
じゃあ、遼太郎には私が話しておくから。」
それがきっかけで、2人共席を外した。
それに合わせ、俺も席を立ちリビングを出る。
「ああ、そうだわ。」
自分の部屋に続く廊下を渡る途中、母さんが思い出したかのように声を上げる。
「悠、向こうにはあなたのいとこがいるの。
仲良くしてやってね。」
母の思わぬ爆弾発言により、悠が二度停止したのは言うまでもない。