ペルソナ4~真実を追う者~   作:メイプルメモリーズ

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~戦車の葛藤、女教皇の呪縛~
戦車のプライド


翌朝、いつもより早くに目が覚めた俺は、身支度を整え居間へ降りる。

 

 

「あ、おはよ。」

 

居間には既に菜々子ちゃんが座っており、少し近寄った。

 

「おはよう。…早いな。」

 

「お父さん、早起きだったから。だから、一緒に起きた。帰り、遅いって。」

 

「…そうか。」

 

 

大方、事件の捜査だろう。そこでふと気づく。

今自分が出たら、この子は1人だけになる。年齢の割にはしっかりしているようだが、まだこの子は幼い。

どうしたものか……。

 

 

「…出掛けるの?」

 

 

俺の様子に気が付いたらしい。菜々子ちゃんの声に沈んでいた意識を浮上させる。

 

「留守番、できるから。行っても大丈夫だよ。」

 

菜々子ちゃんはそう言ってリモコンを操作して天気予報を見る。予報を確認した彼女は洗濯物を干すために席を立つ。

 

 

「…冷蔵庫に、マドレーヌが入ってる。食べていい。」

 

「…いいの?」

 

 

菜々子ちゃんの問いに頷く。

 

 

「うん。行ってらっしゃい。」

 

「…ああ。」

 

 

少し後ろ髪を引かれるも、家を出てジュネスへ向かった。

 

 

 

 

~ジュネス・フードコート~

 

 

「鳴上ー!こっちこっち!」

 

 

指定地に到着した俺は、花村の姿が見えなかったため適当な席で文庫本の続きを読んでいた。物語が終盤に入ってきた所で花村の声が聞こえ、栞を挟んで花村の方へ顔を向ける。

 

 

「わり、お待たせ。バックヤードからいーもん見つけてきてさ。」

 

「…?」

 

「フッフッフ…。見てみ?どーすかコレ!」

 

 

花村の自慢げな声と共に後ろ手に隠されていた『ソレ』に、思考が止まった。

……刀と、鉈。どう見ても、そうとしか見えない。

 

「いくらペルソナあるからって、危ねーだろ?他のもあったけど、とりあえずコレ持ってきた!」

 

若干置いてきぼりな状態にある悠を余所に、花村はテンションを上げてアピールする。……刀と鉈を持って。

 

 

「………ソレ、どうした?」

 

なんとか思考を巡らせ、俺は状況の確認の言葉を出した。

 

 

「ジュネスのオリジナルブランド。刃はなし。」

 

「いや……。…何故、武器?」

 

「この前、お前刀振り回してたって、クマから聞いてよ。まあニセモンだけど、ないよりマシだろ?」

 

 

(アレか……。)

 

心当たりあり。ちゃんと説明するべきだったか……。

 

「んで、鳴上はどっちだ?やっぱ刀?」

 

「いや、花村―――」

 

「あ~~~……、でも俺コッチも捨てがたいな……。なあなあ、どれがいいと思う?」

 

「ま……っ、待て花村!早く下ろせ……、いや、早く元の所へ戻せ……!!」

 

 

花村がテンションに任せて刀と鉈を振り回し始め、慌てて立ち上がる。

今こんな所で、こんな物振り回したら――――……!!

 

 

 

 

「挙動不審の少年2人組を発見。刃物を複数所持、至急応援求む。」

 

 

 

機械的な声が聞こえ、嫌な予感がして振り向いてみたら、案の定通りすがりの警官が無線を片手にこちらに近づいて来た。

 

「は…?……あ、や、ちょっ……!?」

 

「2人組…。

………俺も…!?」

 

「い、いやいやいや!俺ら別に怪しいモンじゃ……!!」

 

花村が慌てて言い訳したが、すぐに増援の警官が駆け付け、俺達はあっという間に連行された。

――鳴上 悠、人生初の補導を受けた時だった。

 

 

 

~警察署~

 

 

「お前…、こういうバカをするタイプには見えなかったんだがな……。」

 

俺と花村は、偶然居合わせていた叔父に仲介してもらい、補導は免れたが呆れ半分、怒り半分の説教をくらっていた。

 

「すんません……。」

 

「…ごめんなさい……。」

 

「今、色々起きてるのは知ってるだろ?あちこちに警官が配備されている。

ったく…、俺が偶然いなきゃ今頃補導歴がついてたトコだ。」

 

「…申し訳、ありませんでした……。」

 

叔父の注意に深く頭を下げると、花村が弾けたように首を横に振って間に入り込んできた。

 

 

「な、鳴上は何も悪くないんですっ!俺、ジュネスのバックヤードでさっきの見つけて、ついイイ気になって浮かれちまって……鳴上はとばっちりなんです!

全部俺のせいなんです!だからその、ごめんなさい!!そんでお願いします!鳴上をあんま怒らないでください!!」

 

花村は一気に言い切って、深く頭を下げた。その勢いに押されたのか、叔父は困ったように頭をかいた。

 

 

「こっちぁ、今事件で忙しいって言うか……色々デリケートなんだ。まあ2人共反省してるようだし、これっきりにしろよ……じゃあ、帰って良し。」

 

「「すみませんでした!」」

 

 

俺達の反応を確認した叔父は、背を向けて去っていった。姿が見えなくなった所で、花村が気まずそうに声をかけた。

 

 

「鳴上…、マジでゴメン…。」

 

「…いや……、俺にも非はある……。とりあえず、ここを出よう。続きはそれからだ…。」

 

「おう…。」

 

 

お互い謝り合い、所から出るために歩いて行くと、刑事達の会話が聞こえてきた。

 

「え?じゃあいなくなったのって、天城屋旅館の…?」

 

「ああ。…まあまだ学生だ。家出ってのもあるだろ。」

 

「―――!!」

 

 

刑事達の会話に思わず顔を見合わせる。やがて移動したのか会話していた刑事達の声が聞こえなくなった。

 

 

「い、今……天城屋旅館って…!まさか、天城の奴…!」

 

「おっと―――…、ゴメンね。」

 

戸惑っている俺達の前に、コーヒーを持った若い刑事が現れた。

 

(…?この人、どこかで……?)

 

「あ、あのっ!ちっと聞いてもいいですか?天城…あ、天城旅館の天城雪子なんですけど……。もしかして、居なくなったんですか?」

 

 

花村に捕まった刑事は最初困ったようだが、俺達が天城の友人だと思い込んだようで前置きを置いて話してくれた。

話によれば、天城は昨日の夕方辺りから姿を消したらしく、家族が届けを出したらしい。ちょうど土曜日で旅館は忙しく目撃者は誰もいなかったそうだ。

まだ事件だと決まった訳ではないが、霧の日に失踪者が出ていたため内部も敏感になっているとか。

 

「一番疑わしい演歌歌手の柊 みすずも事件当時は、海外公演中でアリバイが固くてシロ。

旦那の生田目 太郎もいくら揺さぶっても特になし。むしろ山野アナの愛人問題と事件のせいで議員秘書をクビにされてる。ひょっとしたら一番の被害者だろうねぇ…。

…あ、君達何か聞いてない?例えば、本人が辛そうだったとか。」

 

「え…?辛そう……?」

 

刑事の問いに花村が?マークを浮かべるような表情を見せる。

刑事によれば、山野アナの事件の前、本人が天城屋旅館に宿泊していた。その山野アナが女将の接客態度の事で酷い言葉を浴びせたせいで、女将がストレスで倒れたらしい。

女将を母に持つ天城に、「何か都合の悪い事でもあって隠れてるんじゃないか」と言う者がいるそうだ。

 

「えっ、じゃあ天城の奴、疑われてるって言うんすか?」

 

「い、いや、そういう意見もあるってだけで―――」

 

だが突如叔父の怒鳴り声に遮られ、刑事は軽く謝って走り去っていった。2人は外へ出て移動しながら話し合う。

 

「やっぱ天城、向こうのセカイへ行ったって事だよな?早く見つけ出さねーと、マズくないか?」

 

「ああ…。天城は不安定な状況にある。早く救出した方がいい。」

 

「だな。でも丸腰なんだよなぁ…。鳴上、そもそもどこから刀出したんだ?」

 

「ああ…。それは―――」

 

 

俺は事前に考えていた推測を話す。ペルソナには召喚の他に使い方があり、その1つはペルソナの一部が武器化したのではないかと。もし花村が向こうのセカイで力を発動すれば、専用の武器が現れるのではないかと。

それを聞いた花村は先程の行動が無駄だったと落ち込んでいたが、警察の事もあるため一度解散して夕方のタイムセール後に実行する事にした。

それを聞いている人影がある事にも気づかず――――――

 

 

 

 

~テレビの中のセカイ~

 

 

夕方のタイムセール後、約束通りあのテレビの前に集まり人気がないのを確認して先にテレビの中へ入った。

辺りを見回してすぐにクマを見つけたが、なにかうんうんと唸って困っているようだ。俺に気が付いたクマはピコピコと近づいてきた。心なしか、表情が暗い。

訳を聞き出そうと声をかけようとするが、

 

 

「うおあぁっ!?」

 

どっしゃんっっ!!

 

 

花村の悲鳴と共に派手な音が響き、クマとの会話は叶わなかった。視界を移すと、目の前の光景に悠は見開いた。

何故なら――――

 

 

「んなっ…、里中ぁ!?」

 

「あんた等…、何か知ってるんでしょ!?」

 

 

うつ伏せに倒れた花村の上に乗っかかるように、里中がいたのだから。

 

 

 

……つまり、だ。

昨日の夕方から天城と連絡が着かなくなり、旅館へ掛け合ってみたら、天城の失踪を知って。

後日に警察が何か知っているのではと向かっていた所を所から出てきた俺達を見つけ、一部始終会話を聞いていたらしく。

俺達に何かあると踏んだ里中は、家電フロアで待ち伏せし、花村がテレビへ入ろうとした所を突進して。……今に至る、と。

 

 

「バッッカじゃねえの!!?」

 

「バカ言うな!!雪子、居なくなっちゃったんだよ!?ジッとしてらんないよ!!」

 

「遊びじゃねぇんだ!!今すぐ戻れ!!」

 

「今更引き返せないよ!!」

 

 

訳を聞いた花村は憤慨し、今すぐ戻るように言うが、里中は拒否し言い合いに発展する。まさかの展開に悠も内心頭を抱える。そこでクマが服の裾を引っ張った。

 

 

「セ、センセー…、ケンカを止めてクマー…。」

 

2人の様子にオロオロしていたクマが頼み込む。自分では止められないと思ったのだろう。ふう、と息を吐き、言い争っている2人に近づく。

 

 

「落ち着け…。」

 

 

一見、静かな言葉。しかしどこか心に響く声に2人は嘘のように静まり、悠を見る。この機会を逃さず悠は話を続ける。

 

 

「里中。花村の言った通り、ココは危険だ。…お前も、本当は分かっている筈だ。」

 

「でっ…、でも!雪子が消えちゃって、鳴上君は雪子を探すんでしょっ!?だったらっ!あたしも!!」

 

里中は声を張り上げて反論する。悠の静かすぎる雰囲気に飲まれそうだったからだ。

 

「…引き返す意思は、ないのか。」

 

「ある訳ないじゃん!!雪子を…、友達を助けたいだけなの!!」

 

沈黙が走る。そしてその沈黙を先に破ったのは悠だった。

 

「…絶対、俺達から離れるな。それが条件だ。」

 

「え…。」

 

「んなっ…!いいのかよ!?」

 

悠の提案に花村は悠を引き寄せて小声で反論する。

 

「アイツ俺らと違って、ペルソナがねぇんだぞ!?里中巻き込むのかよ!?」

 

「それは俺も反対だ。だが、里中が言葉で引き下がると思うか?」

 

「そ…、それは……。」

 

花村は気まずく言いよどむ。ついさっきまで里中と言い争っていたから。それに、自分自身小西先輩の事で似たような行動を取ったから、案外人の事を言えないのだ。

 

「それに、力づくで追い出してもあの様子じゃ外で騒ぐかもしれない。

そうなれば里中は勿論、俺達も不審に思われて身動きが取りづらくなる。」

 

「うっ…、スゲー想像できんな……。

じゃあ、逆に俺らの近くに居させて見張ってた方がいいって事か?」

 

花村の問いに肯定の意味を込めて頷く。暫く「でもなぁ…」と悩んだが、少しして花村も結論が出たのか、顔を上げる。

 

「………わかった。けどもし守りきれなかったら、元の所へ戻すからな。」

 

「ああ。」

 

「2人共何してんのー!?早く雪子探しに行くよー!?」

 

 

焦れた里中の声に2人は話を終了し、クマと共に先を進んだ。

 

 

 

 

昨日俺達が話した少し後、誰かの気配がしたと言う場所へ案内の元、しばらくして赤い空の下に聳える古城が見えた。

 

「な、何ココ……お城!?」

 

慌てて俺達は城の傍まで駆け寄る。

 

(…昨日の番組に映っていたのは、ココで撮影されたからなのか…?)

 

「おいクマ吉。あの真夜中の番組はココで撮ってたんじゃないのか?」

 

 

悠と同じ事を考えていたらしい。花村はクマに聞いてみるが、

 

「バングミ?サツエイ?……知らないクマよ。何かが原因でこのセカイが見えちゃってるって思うけど…。

そもそもココはクマとシャドウしかいないし、元々そーいうセカイクマ。」

 

「や、だからそれが分からないんだっつの!」

 

「じゃあキミ達はキミ達のセカイの事、全部説明できるクマ?」

 

「うぐっ!?まさかの正論…。」

 

 

とにかく、クマは知らないらしい。

 

 

「そもそも雪子が例のテレビに映ってたの、いなくなる前だよ?おかしくない?大体、あの雪子が逆ナンとかってありえないっつの!」

 

「逆ナン?」

 

「…クマ、どう思う。」

 

精神年齢が幼いクマにマズイ単語が出てきたため、悠はクマに意見を聞く。

 

 

「ん~…まだ色々と分からないけど……。キミ達の話を聞く限りだと、そのバングミっての、その子自身に原因があって生み出されてる……。

そんな気がするクマ。」

 

「雪子自身が、あの映像を生み出してる…?ちょっと待ってよ、あの雪子が逆ナンなんて絶対おかしいよ!

あーもーどういう事!?ワケ分かんない!てか意味不明だし!!」

 

「ク、クマに言われても……。」

 

「お、おい里中、落ち着けよ…。

…てかお前こそどうしたんだよ?お前、さっきから変だぞ…?」

 

イラついてる里中を宥める花村の言葉に、ハッと気づく。

確かに里中の様子がおかしい。天城の事で焦っているのかとばかり思っていたが…、それにしても、変だ。

全体的に、感情が攻撃的になっている。元々里中は感情が豊かだが、ここに来てから普段以上に感情の起伏が激しくなっている。

 

 

(…ココに、来てから……?)

 

 

ふと推測が脳に浮かぶ。

このセカイは、人の心を映すセカイ。この前の花村のシャドウも、花村の心の一部が映した存在。人の心……普通なら、決して見えない、その人自身の中にしか、存在しない。

だが、このセカイではその不可能を、可能にする。そしてそれは、1つや2つではないはず。

 

(…このセカイの人の心が、人の心を乱してる…?)

 

感情が、感情に影響を出している。もしそうだとしたら、里中の様子も納得できる。しかし――――

 

(だが花村は何ともない。花村だって影響が出てもおかしくないはず。それに、俺も……。

何故、里中だけ……?)

 

花村も里中と同様、感情の起伏が大きい方だが、今の里中と違い、落ち着いてる。それに俺自身もこうして今のように思考を巡らせている。

もし今の推測なら俺達も今のような状態を保てないはずだ。ならば、何故――――――?

 

 

「――――もういい!!あたし、先に行くから!」

 

「あ、おい里中!?待てって!!」

 

 

え、と花村達の方を振り向くが既に遅し、里中は花村の静止を振り切り風のように城へと走り去り、中へ入っていった。

 

「里中!?」

 

「――すまねぇ鳴上!里中の奴、天城を助けようと突っ走ろうとしてて……。止めようとしたら!!」

 

「……あ!!」

 

クマの大声が聞こえ、反射的に振り向く。心なしか、クマの表情が青ざめている。

 

「お城の中、シャドウが一杯クマ!オンナノコ1人は危ないカモ……!!」

 

「な、マジかよ!それ先に言えよ!!」

 

「…行くぞ!!」

 

「…ったく、言った傍から!!」

 

 

それぞれペルソナを武器化して、古城へと突入した。里中を置いた自分の愚かさを悔いて…。

 

 

 

~古城・1階~

 

チェス盤のような模様の床、赤で統一された絨毯とカーテンで西洋を表した通路の中、俺達は里中を追って走り抜く。

 

「チエチャンは、まだそんなに遠くには行ってないクマ!」

 

「あいつ、勝手に暴走しやがって!絶っ対捕まえる!!」

 

「クマ、里中の反応を探せ。」

 

「了解クマ!」

 

「後テレビの用意もな!いつでも外へ放り出せるように!」

 

「ク、クマ~…。」

 

「…!止まれ!」

 

悠の静止に慌ててクマと花村は止まる。手巻きして通路の曲がり角を覗き込むと、複数の黒い生物――シャドウが蠢いていた。

 

 

「シャドウクマ…!」

 

「あれがシャドウか…。この前のとなんか違うけど…。」

 

「…絶対に、油断するな。行くぞ!」

 

「え、ちょ!?」

 

 

花村の戸惑う声を余所に、俺は目の前のシャドウに襲い掛かり、攻撃する。

 

(先手必勝…!)

 

「フッ、ハッ!」

 

『ギイィ!?』

 

俺に気づいたシャドウは慌てて攻撃しようと爪を振るが、かわして腕、胴体へと刀を振るう。

 

「…セイッ!!」

 

『ギャオオォ……!』

 

勢いを殺さず、力を送り光を帯びた刃をシャドウへ突き刺す。突きに体制を崩した瞬間、すぐに蹴り飛ばした。シャドウは床へ倒れた途端、黒いモヤを吹き出し消滅した。

 

「ムホー!センセー流石クマ!!」

 

「すっげぇ・・・!」

 

 

悠の戦闘に見惚れていた花村。だがシャドウの赤い目に睨まれてすぐに我に帰る。花村を見つけたシャドウが空中を飛んで花村に襲い掛かってきた。

 

「げぇ!?」

 

「花村!」

 

悠が向かおうとするも、他のシャドウに阻まれて援護に行けない。マズイ、と悠は思ったが―――。

 

(…あれ!?)

 

 

花村は自分の感覚の変化に気づく。シャドウの動きがまるでテレビのスロー映像のように遅く見える。それに、体がとても軽い―――。

 

(もしかして、コレってイケるか!?)

 

己の感覚に驚きつつも、シャドウに襲い、懐へ入る。

 

 

「遅い!!」

 

『グオォ…!』

 

勢いに逆らわず、現れたクナイを突き刺し、横へ切り裂く。シャドウが花村を切り裂こうと右腕の爪を振り下ろすが、これも容易くかわして後ろへ回り込む。

 

「喰らえええ!!」

 

力を送り光を帯びた両方のクナイを振り下ろして切り裂く。その攻撃にシャドウは耐えきれず消滅した。

 

「いよっしゃあー!!」

 

「ホエー!ヨースケ、ビュンビュン!クマ!!」

 

(…速い……!)

 

 

シャドウの攻撃を防ぎながら始終見ていたが、花村の動きに少なからず驚いた。

風のように素早く動き、攻撃に転ずる。自分も身体の変化に気づいていたが、あれほどの動きはできない。

ペルソナを宿した影響かもしれない。そう考えながらもシャドウに攻撃し、消滅させた。

シャドウの姿が見えなくなり、捜索の声をかけて集まる。

 

 

「いや~…、マジビックリしたぜ。あれがシャドウで、これが俺の武器か……。

…けどマズイな。里中の奴、シャドウに襲われたりしたら…。」

 

「それはダイジョーブクマ!」

 

花村が自身の力と戦いにしみじみとするも、すぐに真面目な顔になり里中の事を心配した。そこにクマの言葉により悠達はクマに視線を向く。

 

「チエチャンなら、さっきからシャドウに襲われてる気配がないクマ。

きっと、チエチャンはセンセー達と違ってペルソナが使えないから、シャドウ達は見向きもしてないクマ。」

 

「不幸中の幸い…と言う事か。」

 

「なら、襲われる心配はないって事か。…けど、やっぱ急いでココから追い出さないとな。やっぱココは危ねぇ。」

 

「……すまない。」

 

悠の声に、花村はきょとんとした。

 

 

「…俺の判断は、間違っていた。」

 

「…へ!?あ、いや、そんなつもりじゃ…!」

 

「ヨースケ、イジメ、カッコ悪いクマ!」

 

「いじめてねーし!ってか、俺悪者かよ!?」

 

 

クマの非難に花村喰らいつく。けどすぐにクマから悠に顔を向けて、頭を掻きながら向かい合ってきた。

 

「…悪い、別に責めたつもりじゃないんだ。けど、言い方が悪かった。…ゴメンな。」

 

「…だが……。」

 

「それに俺だって里中を置いとくの、結局は賛成したんだ。俺だって同罪だ。

…あんま、自分を責めるなよ。」

 

「……センセー!ヨースケ!シャドウが来るクマ!」

 

花村の言葉に答えようとしたが、クマの警告に中断され、戦闘態勢に入る。すぐさま、先から湧き上がるシャドウに切りかかって進む。

しかし、それも長くは続かなかった。

 

 

「クッソ、キリがねぇ!」

 

「イサナギ!<ジオ>!」

 

「あわわわわ、敵、さらに増援!ピンチクマ~~!!」

 

 

どこからもなく、大量のシャドウが襲い掛かって来るのだ。そのシャドウの攻撃は常に重い。

次第に武器では追いつかなくなり、ペルソナを召喚して攻撃しているのだが、それでも進むペースが遅れてしまう。

先程の余裕は一瞬にして消え去り、緊迫とした空間が生まれた。

 

 

『…赤が似合うねって……。』

 

 

突然場内に声が響き渡り、一瞬動きを止めてしまう。そこにシャドウが襲うがすぐに我に返り、反撃する。

 

 

「この声って…、天城!?」

 

『私…、雪子って名前が嫌いだった……。』

 

 

花村が驚きの声を上げるも、天城の声はそれに無視して続ける。

 

 

『雪なんて…、冷たくて、すぐ溶けちゃう……。儚くて、意味のないもの……。

…でも私にはピッタリよね……。…旅館の跡継ぎって以外に、価値のない私には……。

だけど、千枝だけが言ってくれた。「雪子には、赤が似合うね」って。…千枝だけが……私に、意味をくれた……。』

 

どこからもなく聞こえる天城の声。その声は自嘲めいた、今にも消え入りそうな声だった。

 

 

『千枝は明るくて強くて、なんでも出来て……私に無い物、全部持ってる……。私なんて、千枝に比べたら……なんにも、ない……。

けど、千枝は私を守ってくれる…。なんの価値もない、こんな私を……。私、そんな資格ないのに……。

優しい千枝……。』

 

 

そこで、天城の声が途切れる。ただ俺達は、天城の声を聞いていた。

 

 

「お、おい鳴上!なんかマズくないか!?」

 

「…正面突破する!体制を崩せ!!」

 

「いよっしゃ!鳴上!!どっかに捕まってくれ!!」

 

 

反射的に近くの柱に捕まる。それに答えるように花村が、そしてジライヤがシャドウを睨む。

 

 

「吹き飛ばすぜ、ジライヤぁ!!<マハガル>!!」

 

 

花村の叫びを合図に、ジライヤが答えて緑色に輝く複数の魔方陣をシャドウの周りに配置する。光が一際強く輝いた瞬間、強風が吹き出す。

 

 

『ギャオオォーーーー!!』

 

 

強風に吹き飛ばされたシャドウ達は空中で消滅したり、シャドウ同士がぶつかって気絶して落下したり様々だ。その光景を、柱に捕まりながら見つめる。

 

 

「長くは持たねぇ!今の内だ―――!!」

 

「階段を見つけたクマ!早く行くクマ――!」

 

 

この機にクマが見つけたと言う階段を上がって行き、扉を閉める。追手の気配がないのを確認し、一息をつく。

 

 

「あ~~…。なんとか、なったな……。」

 

 

花村が一息ついて壁に体を預ける。シャドウの戦闘で魔法攻撃を悠より多く使用していたため、体力の消耗が激しいようだ。

そこで、クマが目の前の重厚な扉から里中の反応があると叫んだ。

 

「…花村、行けるか?」

 

「ああ。そう簡単にへばってられっか!」

 

 

悠と花村は2人がかりで扉を開け、中に飛び込んだ。

 

 

 

「無事か、里中!……っ!!」

 

 

一番先にいた花村の様子に覗き込んで見ると、悠とクマもはっと先を身構える。その先には……。

 

 

 

『雪子が、あの雪子が!?あたしに守られてるって!?自分には何の価値もないっさ!

ふ、ふ、うふふ……。そうでなくっちゃねぇ…?』

 

 

赤で統一された大広間のような空間で、2人の『里中千枝』が相対していた。しかし、一方の『里中千枝』は金色の瞳で邪悪な笑みを浮かべている。

里中の戸惑いの反応に、『もう1人の里中千枝』はおかしそうに話す。

 

 

『雪子ってば、美人で、色白で、女らしくって、男子にいつもチヤホヤされて…。まるでお姫様。

そんな雪子が、時々あたしを卑屈な目で見てくる…。それがたまんなく嬉しかった……。』

 

「あ、あれって…、里中の…?」

 

「ヨースケと同じクマ!抑圧された内面…、それが制御を失ってシャドウが出たクマ!」

 

 

(あれが…、里中のシャドウ……。)

 

 

『そうよ…。雪子なんて……。』

 

 

俺達が戸惑っている内に、里中のシャドウが一度言葉を止め、目つきを鋭くした。そして、突然声を荒げた。

 

 

『雪子なんて、あたしが居なきゃ何にも出来ない!なのに、周りは雪子ばっかり認められて!!それも全部、あたしがいたからこそでしょ!?

あたしの方が…、あたしの方が…、あたしの方が!雪子よりずっと上じゃない!!』

 

「ち…、違う!あ、あたし、そんな事…そんな事、思ってない!」

 

 

里中のシャドウの言葉に里中も声を荒げて反論する。しかし体は震えてその眼には動揺が宿っており、まるでその場にいるのが精一杯な状態だ。

 

 

「…花村、クマ。里中を確保する。」

 

「お、おう!」

 

「チエチャーン!」

 

 

俺の指示に花村は我を戻し、里中達へと走り出す。と同時にそれに気づいた里中は振り返るとぎょっとした顔を見せ、慌てて里中のシャドウを庇うように両手で隠す。

 

 

「い…嫌……、来ないで…見ないでええぇぇ!!」

 

「里中、落ち着け!コッチに来るんだ!」

 

「違う……違うの!こんなの、あたしじゃ……!」

 

「バ、バカ!それ以上言うな!」

 

 

花村が落ち着かせようとしたが里中は錯乱状態で耳に入ってない。

里中にかける言葉を考えるが、シャドウの方が早くに口を開く。

 

 

『ふふ…そうだよねぇ……。』

 

「え…?」

 

 

シャドウの言葉に里中が振り返る。その様子にしめた、と言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

 

『1人じゃ何にも出来ないのは……、

本当は、あたしだもん。』

 

 

「―――――――!!」

 

 

里中がその言葉に目一杯見開き、恐れるように後ざずる。その様子に俺と花村、クマは顔を見合わせる。

 

 

「人としても、女としても、本当は勝ってない。何にも出来ない雪子から何1つ勝ててない、どうしようもない、あたし……。

でも、あたしはあの雪子に頼られているの……。」

 

 

(…そうか……。)

 

 

何となく、分かった気がする。

里中は、天城を友達として大切にしていた。けど……、一方で差を見せつけられていた。

ましてや、女としては常に比べられ、プライドを失いかけてた。だけど……。

 

 

『だから、雪子が大事…。手放せない……。雪子は、トモダチ……。』

 

 

天城に頼られる事で、そのプライドを保っていられた…。

 

 

「そんなっ……あたしは…、ちゃんと、雪子の事……っ。」

 

『なぁに?今まで通り、見ないフリして、あたしを抑え付けるんだ?けど…ココでは違うよ。

いずれその時が来たら、残るのは……あたし。勿論、いいに決まってるよね?

あたしも、アンタなんだから!』

 

「黙れ!!アンタなんか……っ!」

 

「駄目だっ!里中!!」

 

 

 

「アンタなんかっ、あたしじゃない!!」

 

 

里中の、悲痛な拒絶が響いた。その拒絶に、里中のシャドウがニヤリと不気味に笑った。

 

 

『フ、フフフ…、アーーハッハッハ……!!』

 

 

高笑いと同時に禍々しいオーラが一際強まり、それに呼応して黒い靄が里中のシャドウの周囲に集まり、大きな核になったと同時に衝撃が襲ってくる。

 

「うあっ…!」

 

「チエチャン!」

 

 

吹き飛ばされた里中を早くに気づいたクマが間一髪受け止めた。

 

 

「ウソ…だろ……?」

 

(シャドウの…暴走……!)

 

「オヨ~~~~~!」

 

 

黒い靄が晴れた先には……先程とは打って違う、異形がいた。

黄色のボンテージを纏った人型が、肩車で支えている3人の女子生達を椅子のように座っており、こちらを見下すような目を向けていた。

よく見ると、人型の右手には女子生徒達を縛る鎖の先端を握っており、もう片方の手には鞭が握っている。

覆面から流れ落ちている黒い長髪は、それぞれ意思を持つように蠢いている。

里中のシャドウは見限るように里中を見下ろし、鼻で笑った。

 

『バカな女……。』

 

「…やるぜ!鳴上!!」

 

「ああ…。」

 

 

俺達は戦闘態勢に入る。

 

 

 

「…これが、プロローグだ。」

 

 

 

俺の言葉と同時に召喚したアルカナを、砕いた――――。

 

 

 

 

 




お…遅れました……。
もう完全に亀更新です。スミマセン。
もういっそのこと、亀更新ペースで投稿する事にしました。
読者の皆さん、申し訳ありません。そしてご了承ください。

話が変わりまして、この小説は、所々アニメ・オリジナル要素を混ぜています。
ペルソナの力を一部武器に変えたり、等これからオリジナル設定入れてきます。


『次回予告』

『キャハハ、ダッサ。もうバテバテじゃん!』

「う…くそぉ……。」

厳しい戦いに限界を覚える陽介。


『偉そうな事言った割には、無様ね…。所詮、それがアンタ達の現実よ!!』

「まだ…、終わっていない……!!」

窮地の中、悠に残っている可能性は――――!!


「あたし…、まだ、引き返せるのかな……?」

葛藤する千枝がたどり着く先は、果たして…?


次回、『戦車の葛藤の果て』。お楽しみに!

「これでエンディングだ!!」
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