4月12日。
目が覚めた。
ふと辺りを見回すと、まだ段ボールがいくつかある自分の部屋。
(・・・夢、か。)
あの青い部屋の時といい、さっきのといい、どうも最近変な夢を見る。
さっきの夢の余韻のせいか、二度寝する気力もない。
仕方ないので、制服に着替えてリビングに向かう事にした。
「おはよ・・・。
朝ごはんできてるよ。」
一階に降りたら、奈々子ちゃんと会った。
奈々子ちゃんによると、叔父は朝早く仕事に出かけたらしい。
奈々子ちゃんが用意してくれた朝食を食べて、「途中まで道が同じだから」と一緒に家を出た。
しばらくして奈々子ちゃんと別れ、新しい高校へと雨の中歩いていく。
(・・・今度から、食事作ろうかな。)
そんな考えが思考に没頭してた悠は、傍で派手な音を出して電柱に激突した自転車の男子がうずくまっている事など気づかなかった・・・・・。
八十神高校、2年2組。
今日から俺が入る事になるクラス。
「席につけーーー!
不本意ながら、転校生を紹介する!」
諸岡、と名乗る担任につられ、教室に入り黒板に自分の名前を書く。
「ただれた都会からへんぴな地方都市に飛ばされてきた哀れな奴、
いわば落ち武者だ。」
不快を思わせる紹介だったが、口を挟む気も起きずにスルーする。
担任が自己紹介を促してきた。
「鳴上悠で「貴様ぁ!今窓際の女子生徒に色目を使っただろう!!」
・・・まだ途中だったんだが。
そう考えている間にも諸岡はほぼ理不尽な言いがかりを浴びせてきた。
「腐ったミカン帳」とか妙な単語が出てきたようだが、完全に聞き流してスルー。
(・・・そういえば、この髪の事でもなんか言ってたな。)
職員室に入った時、諸岡の出会いがしらの言葉が「転校早々、染めておるのか!」だった。
一応校則自体は割と自由なのだが、派手な色の髪は違反対象らしい。
このアッシュグレーの髪と目は、ドイツ人のハーフである父親の遺伝。
染めている訳ではない。
むしろこの17年間、このお方今まで髪を染めた事がない。
地毛だと答えたらしぶしぶ納得したようだが、この担任の中ではまだ不本意らしい。
「センせー、転校生の席が空いているんでここでいいですかー?」
担任の言いがかりも長引いた所で、上半身緑のジャージを着た茶髪の女子生徒が隣の席に指を指して質問してきた。
目的を思い出したらしい担任は説教を中断し、女子生徒の隣の席に座るよう指示してきた。
「うあ・・・。
転校生来て早々モロ組かよ・・・。」
「目ェつけられると、停学とかリアルに食らっちまうもんなぁ・・・。」
「転校生も可哀そうに・・・。」
「つか、転校生髪派手だな・・・。
よくモロキンが許したよな・・・。」
「つか、目灰色?
カラーコンタクト?」
どうやら、モロキンごと諸岡教師はあまり好かれていないらしい。
「最悪でしょ?モロキンのヤツ。」
さっきの女子生徒が小声で声をかけてきた。
「あ、あたしは里中 千枝。ヨロシク!
まー、このクラスになっちゃったんが運のツキ。
1年間がんばろ。」
里中 千枝と名乗った女子生徒はほぼ一方的に話しかける。
ひとまず相槌を一つ打った。
今授業が始まろうとした途端、校内放送が流れてきた。
緊急会議が行われるので、指示があるまで教室を出るなと言う内容だ。
諸岡が出てすぐ、それぞれが動き出す。
暇になったので、文庫本を取り出して読む事にした。
5ページほど読んだ所で、再び放送が鳴る。
学区内に事件が発生したからすぐに帰れ、という内容だった。
サイレンの音に反応した生徒たちが興奮していたが、興味がない。
(・・・買い物して本読むか。)
そう決めて支度を終えて席を外すと、悠の様子に気づいたらしい里中が、黒髪の女子生徒を連れて話しかけてきた。
「あれ、帰り一人?
良かったら、一緒に帰んない?
あ、こっちは天城 雪子ね。」
「あ、初めまして・・・。
何か、急でゴメンね。」
天城雪子、と言う女子生徒の言葉に否定の意味を込めて首を振る。
団体で帰る、という形に変わっただけで不満はない。
「のぁ、謝んないでよ。
あたし、なんか失礼な人みたいじゃん。
ちょっと話聞きたいなーって、それだけだってば。」
この外見に興味を持った人間。
今までもその事で声をかけられた事は珍しくない。
恐らく里中もその一人なのだろう、と頭に浮かんだ時一人の男子生徒が近づいてきた。
「あ、えーと、里中・・・さん。」
茶髪でヘッドホンを首にかけた男子生徒がやけにどもりながら話す。
よく見れば、男子生徒の手に何か持っている。
あれは・・・DVD?
「この前借りたDVD、スゲー面白かったです。
技の繰り出しがさすが本場っつーか・・・。
・・・申し訳ない!事故なんだ!バイト代入るまで待って!
じゃっ!!」
男子生徒はそう言うなり教室を出ようとすぐに離れる。
だが不振を感じたらしい里中は、
「待てコラ!
アンタ貸したDVDに何した!?」
男子生徒に飛び蹴りを炸裂した。
「どわっ!・・・・おごぅっ!?」
男子生徒は蹴られた勢いで近くの机に股間を強打した。
・・・これは・・・・・、痛そうだ・・・・。
「・・・うわっ、何これ!?
信じらんない、ヒビ入ってんじゃん!!
あたしの・・・・・・、あたしの『成龍伝説』がああぁぁあ!!」
DVDの中身を確認したらしい里中が、悲痛な叫びを上げた。
少し覗いてみたが・・・確かにヒビが入っている。
それも、致命的なレベルで。
「お・・・、俺のも割れそう・・・・。
机の角が、直に・・・・っ、ううぅ・・・・。」
「だ、大丈夫・・・?」
気になった天城が男子生徒に声をかけた。
「おお・・・、天城・・・・。
心配してくれんのか・・・・・。」
「いいよ、雪子。
花村なんか放っておいて、早く帰ろう!」
怒りが静まらないらしい里中が天城を連れて教室を出た。
自答自得とはいえ、さすがに不憫に感じた悠は花村と呼ばれた男子生徒の腰を優しく叩いた。
「お・・・、サンキュな・・・。」
「いや。
・・・・じゃあ。」
自分も教室を後にした。
校門前で妙な男子生徒が天城に声をかけてきたが、警戒した天城はハッキリと断ってイラついた様子で去っていった。
・・・気味の悪い男だった。
「・・・そっか、親の仕事の都合なんだ。
もっとシンドイ理由かと思っちゃった、ハハッ。」
帰り道、2人から話しかけては答えていく。
まぁ転校生となると、大体この反応が普通なのだろう。
「ここ、ほんっとなーんもないっしょ?そこがいい所でもあるんだけど・・・。
余所の人に言えるようなモンは全っ然。
あ、でも八十神山から採れる・・・染め物とか、焼き物とかはちょっと有名だよ。
・・・ああ、後雪子んちの『天城屋旅館』は普通に自慢の名所なんだよ。」
「え・・・」
話に振られたと気づいた天城が目を見張った。
「・・別に・・・、ただ古いだけだよ・・・・。」
・・・天城屋旅館・・・・?
・・・そうだ、確か雑誌で・・・。
「・・・隠れ家温泉?」
頭に浮かんだ単語をそのまま口に出した。
「なぁんだ、知ってんじゃん!
この町で一番立派な老舗旅館でね、雪子はそこの時期女将なんだ!
雪子んち目当ての観光客とかも来るし、この町それで保ってんよね、実際。」
「・・・そんな事、ないけど・・・。」
・・・気のせいだろうか?
自慢げな里中とは対照的に、本人は複雑な表情。
むしろ、不機嫌に見える。
「それよかさ、雪子って美人だと思わない?」
「ちょっと、またそんな事・・・・・・」
里中が唐突に話題を変えてきた。天城も急に自分の話題になって戸惑っている。
「・・・、黒髪が似合うとは、思ってる。」
とりあえず第一印象で感じた事で答える事にした。
「でしょ!?」
「な、鳴上君も何言って・・・。
それを言うなら、鳴上君の髪だって・・・。」
「・・・・っ。」
天城の反論に、一瞬心臓が強く脈打った。
地雷を掘ったようだ。
「確かに、男子の髪とは思えないほどにキレーだよね・・・。
よくモロキンの奴、許したよね。
なんか手入れとかしてんの?」
「・・・いや、何も。」
「そうなの?いいなぁ・・・。
そのカラーコンタクト?もそんな色があるんだね・・・。」
「・・・・・・。」
どうやら2人もこの見た目が遺伝によるものとは思っていないらしい。
だが、この事に訂正を入れるべきなのだろうか・・・。
目立つ容姿の事で何か言われてるのは今回に始まった事じゃない。
自分もその事は既に納得しているつもりだ。
だが・・・やはり言われると、何かが心に残る。
「・・・あれ?なんだろ、あそこ・・・。」
里中が何かに気づいたらしく、俯いた顔を上げる。
次の交差点の所で人だかりができており、数台のパトカーや警察官もいた。
近づくにつれ、主婦達の噂話が聞こえてくる。
どうやらアンテナにぶら下がった状態で死体が発見されたらしい。
状況を知るにつれ、里中を始め2人が動揺している。
「ん・・・?
おい、ここで何してる?」
突然かけられた聞きなれた声。
(・・・叔父さんっ?)
人だかりから現れた叔父に、内心動揺した。
しかし、すぐ冷静になる。
「事件ですか?」
「ああ、まあ・・・ちょっとな。
ったく、あの校長・・・。ここは通すなって言っただろうが・・・。」
「・・・鳴上君、知り合い?」
悠達のやり取りを見て、疑問に感じたらしい里中が聞いてきた。
「コイツの保護者の堂島だ。
あー・・・まあその、仲良くしてやってくれ。」
叔父が悠に代わり説明した。
2人は堂島が悠の叔父だと理解したらしい。
「とにかく3人とも、ウロウロしてないでさっさと帰れ。
家にいた方が安全だ。」
「・・・叔父さん、奈々子ちゃんは・・・。」
「ああ、奈々子なら小学校の方で集団下校してもらって、先帰ってる。
悪いが、気にかけてやってくれんか。」
「・・・はい。」
いとこの事が気がかりで聞いてみたが、先に帰っていると聞き安心する。
ちょうどその時若い刑事が急いで脇を走っていき、側溝辺りで嘔吐した。
・・・新人だろうか。
その様子を見ていた叔父が男に怒鳴っていたが、相手の方はまだ吐き気が残っているのか返答になっていなかった。
「ったく、すぐ顔洗って来い!地取りに出るぞ!」
地取り・・・、確か警察用語の一つ。
確か・・・聞き込みの事、だったか?
(・・・叔父さん、刑事だったのか。)
悠が今更身内の職業に気づくつかの間、叔父は先ほどの男を連れて去っていった。
2人がこの状況に顔色が蒼くなっている事に気づき、2人を家まで送る事にした。
(・・・材料、買ってくか。)
2人を送った帰り際、『ジュネス』というデパートに寄って夕飯の材料を買って帰宅した。
早めに作って味を染み込ませた筑前煮は、意外にも奈々子ちゃんには好評で「おいしい!」と言ってくれた。
夕飯を終え、先に入浴して部屋で読みかけだった文庫本を読み始める。
一冊読み終えた時、肩がこったのを感じて早めに寝ることにした。
その日は、妙な夢を見る事はなかった。
4月12日、転校早々授業なしで下校。
怪奇な事件との出会い。
この時の悠は、これから降りかかる事になる運命を、まだ知らない。