これはゾンビですか?~純白の翼は飛翔する~《完結》 作:nightマンサー
「歩!!」
俺は立ち上がって居間に入ってきた歩を支える。
肩には何かに抉られたような跡があり、血が多量に出ている。
「おい、歩!しっかりしろ!」
『飛翔、歩を』
いつの間にかユーが隣に来ていて右のアーマーを外している。
「!ユーそれは!」
『大丈夫』
そうしてユーは歩の肩に右手で触れようとするが俺はそれを止める。
「駄目だ!それに歩はゾンビだからこの程度じゃ死なないよ、
敵は俺が倒すから…」
俺はユーが力を使おうとするのを必死で止める。
前にユーの力をすべて聞いていたので俺にはわかる。
ユーの手には傷を癒す力があるけど、それにも言葉の力と同じようにデメリットがある。
傷を癒す代わりにユーがその傷の痛みを受けてしまうんだ。
俺は真っ先に俺に対してこの力を使わないよう言った。
ユーを守るために戦った傷をユーに受けさせたら意味が無いからだ。
だからこそ、ユーにこの力を使わせてはいけない。
「ユー、なんだか知らんが俺は大丈夫だ」
そう言って歩が1人で立つ。傷はまだ回復しきっていなかったが、
とりあえず大丈夫なようだ。
「おやおや、往生際が悪いですね…相川さん」
玄関から声が聞こえる、恐らく歩に攻撃した奴だろう。
俺は〔天翼〕を出現させ戦闘態勢にはいる。
「諦めて死んでください」
そう言って声の主が居間に…………って
「ケルさんじゃないですか!」
「おや、これは…飛翔様にユークリウッド・ヘルサイズ様!
道理で最近見ないと思ったら、こんな所に…」
「え、何?飛翔、コイツと知り合いなの」
ただいまケルさんを含め、状況を確認中。
ちなみにケルさんとは犬型のメガロである。
名前がケルベロス・ワンサードだからケルさんと俺は呼んでいる。
んで、状況を確認すると歩は一回冥界に来たのにこの世界に戻ってきたから、
連れ戻そうとケルさんが来たようなんだけど、ユーの仕業ならOKらしい。
でもユーが伝えるのを忘れてたから…………現在の状況に至るというわけだ。
「もう、それならそうと一言言っておいてくださいよ」
ケルさんは少し呆れた声でユーに言う。
『ごめん、忘れてた』
そういう大事な事は忘れちゃいけないと思うけど…
「でも危なかったんだよケルさん。
ユーが歩に治癒の力使おうとしたんだから…」
「なんと!そうでしたか…誠に申し訳ない」
ケルさんはそう言うと頭を下げてきた。
「別にケルさんを攻めてるわけじゃないって!」
俺はそう言ってケルさんにお茶を渡す。
「そう言っていただけると、私としてもありがたい」
そう言ってケルさんは受け取ったお茶を飲む。
「つーか飛翔。誰なんだこの犬は?」
歩はお茶を飲むケルさんを指して言う。
「あぁ、ケルさんはメガロだよ。
俺とユーが前に一緒に居た時期に何度か会ってたんだ」
「んじゃ、いい奴なんだろ?」
「そうだけど…なんでそう思うんだ?仮にも歩を殺そうとしたのに」
「飛翔の知り合いに悪い奴なんかいないだろ?」
歩はさも当然のように言ってくる。
〔ホント、歩はこういう時かっこいいよな…〕
俺の中で歩の好感度が上がった所でケルさんが立ち上がった。
「それでは、私はこれでおいとまさせていただきます。
ヘルサイズ様には飛翔様がついているようですし、問題ないでしょう」
ケルさんはそう言うと帽子を被って玄関へ向かう。
「駄賃代わりと言っては何ですが、近くで人の殺されているようなので、
その魂でも持って帰るとします」
「ちょ!待ってくれ!」
歩は行こうとするケルさんを呼び止める。
俺も正直驚いてる。近くで人が殺されてるって…
「たぶん…俺を殺した奴だ!」
歩はケルさんの後を追って、殺人現場に向かっている。
俺も行こうとしたのだが、
「悪い飛翔、これは俺の問題なんだ」
そう言われたので俺はついて行かなかった…いや、ついて行けなかったんだ。
殺された歩本人にとっては自分で解決したいんだろう。
そんな思いが目に込められていたんだ。
『心配?』
隣にいるユーがメモを向けてくる。
「確かに心配だけど…大丈夫だっても思ってる」
『?』
ユーはわからないって顔してるな、無理ないか…
「俺は歩が無事に帰ってくるって信じてるんだ…
なにより、歩が犯人なんかに負けやしないさ。強い奴だよ、歩は…」
コクッっとユーは首を縦に振る。
〔!〕
『どうかした?』
「いや、なんでもないよユー。
そうだユー、ちょっとコンビニ行ってくるけど何か食べたい物ある?」
『プリン』
「プリンね、わかった。じゃ、行って来るね」
『いってらっしゃい』
「いつまで隠れてる気なんだ?
家の外から俺だけにわかる殺気出しやがって…」
コンビニへ歩き出して近くの公園で俺は後ろを振り返り言った。
コンビニに行くというのは建前で戦う場所を変えたかったのだ。
あそこにはユーやハルナがいる。セラは戦えるかもしれんが庇いながら戦うのでは不利だ。
だからこそ、人気のないこの公園にやってきたんだ。
すると1人の女の子が出てきた。俺はその姿に見覚えがあった。
「まさかお前だったとはな………」
紫色の短髪をなびかせ、手には前回の2倍はあると思われる斧が両手に握られていた。
「ユーに聞いたが名前はヘレだったか…また懲りずにユーを狙ってきたのか?」
俺はヘレに喋りかけるがヘレは返事を返そうとしない。
「もしそうなら今度は遠慮なく「ぎャしャァァァ!!」…!」
いきなり奇声を上げたかと思ったら次の瞬間一気に距離を詰めてきた。
両手に持っている巨大な斧を振りかぶる。
「ったく、皆奇襲が好きだなおい!?」
ガキィィィン!
俺は〔天翼〕を出現させて斧を防ぐ。
ヘレは追撃せず、一旦後ろに下がった。
「ウァウァウァたたたたしししし……」
なんか知らんが様子がおかしい。
いつもは独特な話し方で喋ってくるのにそれがない。
身体は異常なほど震えているし、言葉にならない声を発している。
だが、
「ネクロ………マンサーを…よこせぇ!!」
そう言いつつ再び突っ込んでくる。
「上等だ、何があろうと………
ユーに手出しさせねぇぞぉ!!」
俺は〔天翼〕を広げ空中へ飛び、ヘレの攻撃をかわす。
その隙に俺は温度変化を行う。
〔温度変化を早急に開始…モード、フレア〕
相手の武器が刃物類ならフレアモードで熱断切させるのがいいと思ってのフレアモードだ。
俺はヘレに向かって急降下、ヘレに向かって〔天翼〕を振るう。
ヘレは受け止めるつもりでいるようだ。
〔掛かった!〕
俺は確信した。これで相手の武器が使い物にならなくなる。
魔装錬器が無くなれば、魔装少女の力はほとんど無いに等しい。
それはハルナを見ていてわかっている。
これでだいぶ戦いを有利に進められる、そう思った………が、
ガキィィィン!!
「なっ!!?」
なんとヘレは…いや、正確には斧が俺の〔天翼〕を受け止めた。
温度変化で高温にしておいたのに…だ。
「死ねェェェェ!!」
ヘレは両手に持っている斧をこれでもかと言わんばかりに振り回す。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!
〔クソッ、どうなってんだ!?前に戦った時とは比べ物にならんほど強い!〕
俺はヘレの攻撃を〔天翼〕で受け止めているがかなりキツイ。
確かに斧が違うのからかもしれないが、
それでもこの力は異常だ。とても彼女が出せるような力じゃない!
「ちぃ!」
ブワッ!
俺は〔天翼〕をヘレに振るうが、
ガキッ!
ヘレは攻撃していた斧をまるで棒切れのように巧みに操り、
〔天翼〕の攻撃を受け止め、再び攻撃に移る。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!
ヘレの攻撃は勢いが落ちるどころか、さらに速く、強くなっていく。
このままでは俺も危ない・・・・
〔どうやったら彼女に…!〕
そう思って彼女の腕に視線を移すと、
そこには血が多量なんて言葉では表しきれないほど噴出していた。
「お、おい!お前何やってんだよ!」
俺はヘレに話しかけるが返事は返ってこない。
代わりに返ってくるのは凄まじい力で振るわれる斧だった。
〔クソッ!どうなってんだ!?〕
いくらなんでもあの量はやばいの限度をとっくに超えてる。
普通なら、こんな巨大な斧を持つことさえも無理なはずだ。
しかし彼女は、今この瞬間も凄まじい勢いで斧を振るっている。
「ちぃ!」
俺は一旦下がって、ヘレと距離をとる。
ヘレはすぐに追撃しようとはせず、その場に佇んでいる。
その足元には…大量の血で地面が真っ赤に染まっていた。
「クソが!そこまでしてユーの力がほしいのかよ!
ユーは…ただ普通に暮らしたいだけなんだよ!
そのために、周りに迷惑掛けないように感情を押し殺してるんだぞ!!
そんな彼女の日常をお前に奪う事なんて…俺が許さねぇぞ!!!」
俺は駄目元でヘレに声を掛ける。
しかし…返ってきたのは意外な言葉だった。
「……たす…け…て…!」
「!」
俺は予想外な言葉に度肝を抜かれた。
彼女の顔を見ると、彼女の瞳には涙が流れていた。
彼女は消え入りそうな声で続ける。
「もう…何も……いらない…から…手出し…
しない、から………たす…けて…」
ヘレは前に聞いたときの口調ではなく、
ただただ…か弱い、何処にでもいる女の子そのものだった。
「お前…一体何が「うわぁぁぁぁぁ!!!」…!」
再び奇声を発しヘレが突っ込んでくる。
俺は〔天翼〕で彼女の攻撃を防ぐ。
再び一進一退の攻防。しかし、
ガキッ!
一瞬だが腕の動きが止まった!
俺はすかさず〔天翼〕を振るう…
〔「……たす…け…て…!」〕
〔!〕
さっきのヘレの言葉が頭をよぎる。
それによって動きが一瞬止まってしまった。
それがいけなかった…
ザッ!
その隙にヘレは一気に俺の懐に入り込み、
「!しまっ!?」
ザシュッ!!
「ぐっ!ぐあぁぁぁ!!」
俺の横腹から血が噴出する。
その痛みで俺はその場に倒れそうになるが、何とか思いとどまる。
不幸中の幸いは真っ二つにならなかったことだろう。
「ぐっ!がはっ!」
今まで骨折のような大怪我なんてした事なかったから、
これほどの痛みを感じるのは初めてだ。
しかし、
〔何で…追撃、して…こない?〕
今なら俺は怪我に意識がいっているから、確実に殺せるはず…
なのに彼女は斧を下ろしたまま、俺の前で静止している。
「もう………やめ……て…」
彼女は再び喋りだした。
「痛い………いた、い…」
見ると彼女の腕はもう血で真っ赤に染まっている。
動かせるのが奇跡なくらいに…
「わた、し、は………操り……人形…なんて…いやぁ」
〔操り…人形?〕
よく見るとヘレの腕や足、頭の後ろから何か光るものがある。
〔あれは…糸、いや……針金か?〕
傷を手で抑えつつ、俺は見る。
確かに…針金だ。細くて今まで見えていなかったが、確かにある。
「う!…うァァァァァァ!!」
針金が動いたと思ったら、再びヘレが動き出した。
〔あの針金が…ヘレを操ってるのか…なら〕
俺は一気に空へ上昇した。
ヘレも俺の後を追う。巨大な斧をヘレは俺に向かって振るう。
〔よし、これを試すに…この身体だと少しヤバイけど…
そんな事、言って………られな、い〕
息も荒く、血もドンドン出てくる…正直飛ぶのさえ苦しい。
それに…まだ数回しか試した事のない技だ、失敗するかもしれない。
だが…
「俺は……大切なものを守らなくちゃいけないんだよぉ!!」
俺のその声を合図に俺の〔天翼〕を構成している羽一つ一つが、
ヘレに向かって飛来する。
これが俺の開発した新しい技だ。と言ってもセラのパクリだけど…
「きャァァァァ!!」
既に斧を振りかぶっていたヘレに回避する方法は無く、
無数の羽が襲いかかる………と思われた。
…が、
プチンッ!!
何かの切れる音がした瞬間、ヘレは地面に落ちていく。
俺はそれをギリギリの所でキャッチする。
今の攻撃はヘレに対してではなく、その後ろにある針金を切断するためだ。
「な…ぜ?」
ヘレは驚いた表情で俺を見てくる。
「…俺は、どうしようも…ない、ほど…お人よしなんだよ。
人を、殺す、事、なんて…出来ないような、な」
俺は息も絶え絶えに続ける。
「それに、ユーなら…殺す、事は、望んで…ない、から、な」
俺の言葉を聴いてヘレは…笑った。
「やっぱ、アンタ…偽善者、だわ…」
その言葉を最後に彼女は気絶した。
ガクッ!
俺はそれで気が抜けてしまったのか、肩膝をついた。
〔こりゃ、本格的に…マズイ、か…〕
ヘレを地面に置き、一先ず持っていたハンカチを自分の横腹に当て止血する。
今すぐヤバイと言うわけではないが、時間が経てば大惨事だ。
「でもコイツをおいて行く訳にも…」
正直、俺よりコイツの方が危ない。
腕はもう使い物にならないかもしれないが、命が助からないわけじゃない。
死にそうな奴を見捨てるなんてユーはしない、例えそれが敵だとしても…
ユーはそれほど優しい子なんだ。
〔でも、こいつを運ぶ力は残ってないし「すみません」…!〕
どうしようか迷っていると、綺麗な声が響いた。
振り返ってみるとそこには緑の短髪を綺麗に整えてある髪形の女性が立っていた。
「単刀直入に申し訳ありません。私の名前はエルスと申します。
マテライズ魔法学校の受付をやっております。今日はその子を捕らえにきました」
礼儀の見本のような言葉で自己紹介をする女性。
〔マテライズ魔法学校…おそらくハルナの通っている学校か…
とりあえず、敵の襲撃とかじゃなくて良かった〕
そうして俺は地面に横になっているヘレを指差す。
「あの子の…事ですか?」
「そうです。彼女は私達の世界の法を破る事をしました。
よって、拘束するのです。この世界の住人である貴方にまで危害を加えて…」
そう言ってエルスと名乗る女性はヘレの元へより彼女を抱き上げた。
俺は咄嗟に聞いた。
「その子…どう、なるんですか?」
女性は一旦考えるような素振りをして口を開いた。
「そうですね…まず、100年は牢屋入りでしょう」
「なぁ!?」
それって事実上終身刑じゃないか!
「この世界で一般の人に危害を加えてはいけないのに、
彼女はそれを破りました。当然の処置かと…」
女性は淡々と語る。
俺は…
「俺は、危害なん、て…加えら、れて、無い」
息も絶え絶えに言う。
「何を言っているのですか?」
女性は少し驚いた顔をして聞いてきた。
それでも俺は
「加え、ら、れて…無い」
そう言った。
「…」
女性はしばらく俺を見たのち
「わかりました。それでは、失礼します」
ボウンッ!!
その言葉を最後にその女性とヘレは消えてしまった。
〔ホント俺って…
お人よしだよな〕
〔『飛翔の帰りが遅い…』〕
私は時計を見ながら彼の帰りを待っていた。
歩が帰ってきて、私の力のことを聞きたいと言ってきたので、
私は少し迷ったが、全部話す事にした。
話を聞き終わった歩は、
「そんなこと気にしないよ、それにユーには飛翔がついてんだろ?」
と言ってくれて嬉しかった…
それが既に10時をとっくに回っていて、今は12時にさしかかろうとしている。
〔『まさか、飛翔の身に何か「ただ…いま」…!』〕
玄関から飛翔の声がした。
〔『良かった、少し遅くなっただけなんだ』〕
そう思って私は玄関に向かった…
でもそこにいたのは
血を流している飛翔だった。
〔なんとか、帰ってこれたな〕
歩の家の前で何とか辿り着いた。
正直もう限界だ。足はフラフラしっぱなしだし、意識も朦朧とする。
それでも何とか玄関のドアを開ける。
「ただ…いま」
何とか声を振り絞って出した。正直歩に出てきてほしい…
ユーにこんな姿見せたら、絶対に自分を責めるから…でも現実はそううまくいかない。
でてきたのはユーだった。
ユーは俺の姿を見るとすぐに駆け寄ってきた。
『飛翔!その傷!』
ユーは必死にメモを突きつけてくる。
〔マズイな…もう意識が…それでも……〕
『すぐ手当てするから!』
「ユー…心配ない、か……ら………」
そこで俺は意識を失った。