これはゾンビですか?~純白の翼は飛翔する~《完結》 作:nightマンサー
「…………んっ…」
目に朝日がしみる。俺は重たいまぶたを何とか開けることに成功し、
辺りを見回す。
すぐに目に入ったのはユーだった。
俺が寝ているベットに寄りかかったまま寝息をスヤスヤたてて寝ている。
俺は意識があったときのことを思い出す。
〔確か…あの魔装少女と戦って、怪我して帰ってきて…
駄目だ、そこから気絶しちまったのか〕
俺が頭の中で思い起こしていると、部屋のドアが開いてセラが入ってきた。
「…!飛翔、起きたのですね」
セラは起きていた俺に声を掛けてくる。
「あぁ、今さっきな…」
「それで…何があったのですか?」
セラはユーを起こさないように毛布をかけ、問いかけてきた。
「…以前ユーを狙っていた奴がまた襲ってきたんだ」
「そうでしたか。しかし、飛翔ほどの者があそこまでの怪我をするとは思えないのですが…
それに、一度撃退した相手なのでしょう?」
「あり得んほど力が上がっていた…でもそれはソイツ自身をも苦しめていた」
「自身も?」
「操られていた、と言うのが正しいかな。実際その子には戦う意思が無かった…」
俺はあの時のヘレの顔を思い出した。
ただどうしようもなく、戦い続けるだけ…
それがどれだけむなしい事か、
「とりあえず、ヘルサイズ殿に感謝しておいてください。
飛翔が気絶してからずっと起きて看病していたのですから」
そう言ってセラはユーの方を向く。
ユーの瞳の下には薄っすらと隈ができていた。
俺は眠っているユーの頭を撫でる。
「心配かけて、ごめんな。守るって約束したのにな…」
すると俺の声に反応したのかユーが瞳を開ける。
ユーは俺が起きているのを見るとメモを突き出してきた。
『起きても大丈夫?』
「あぁ、大丈夫だよ…
それとユー、少しだけど治癒の力、使ったでしょ」
『…』
俺がそう言うとユーは俯いた。やっぱり…
そう思って俺は患部に手を当てる。
〔天翼〕以外は普通の人と変わらない俺にしては、傷の治りが早すぎる。
完全に治せばばれると思って少しでとどめてあるけど、俺には分かる。
「全く、俺は情けないな。その力は使わせないって思ってたのに…」
『情けなくなんか無い!』
ユーにしてはらしくない、強気な態度でメモを突き出す。
『飛翔は、いつも私を守ってくれてる』
「ユー…でも俺は」
『飛翔が…』
ユーは俺の言葉を遮り、メモを突き立ててくる。
『飛翔が死ぬのは…嫌』
ユーはメモを突き出してから俺があげたネックレスを握り締めていた。
〔バカか俺は、いつもユーに心配かけてよ…〕
そうしてまた俺はユーの頭を撫でる。
「ありがと、ユー。おかげで助かったよ…
怪我治ったら、ユーの好きなもの作ってあげるよ」
するとユーは安心したみたいでいつもの調子でメモを見せてきた。
『カレー』
「それでいいの?遠慮しないで、なんでも良いんだよ?」
俺がそう言うがユーは首を横に振る。
『飛翔のカレーがいい』
俺は少々呆気に取られたが、ユーがそう言うならそうするまでだ。
「わかったよ、ユー。約束ね〔ニコッ」
俺は何故か顔を赤くしているユーの頭を撫で続けた。
「……私はお邪魔のようですね」
「い、いやセラさん!これはその…!」
ユーとカレーを作る約束をした後、俺は歩にここ最近の出来事を聞いた。
俺は気絶してから丸一日寝ていたとユーから聞いたからんですけどね…
なんとハルナが探していたアーティファクトが京豆腐だったらしい。
キョウフって名前違うじゃん…
それでその京豆腐、前に歩がお見舞いに行った織戸の友達の京子ちゃん〔?〕が用意してくれたらしく、
今夜9時にハルナの先生である大先生に渡しに行くらしい。
そして現在時刻は8時20分。
「んじゃ、飛翔。病み上がりで悪いけど、皿洗い頼むな」
歩は立ち上がりながら俺に言う。
「大丈夫だよ。ユーのおかげでだいぶ良いから」
「そっか、じゃ俺行ってくるから」
そう言って歩は、京豆腐の入ったビニールを持って家を出て行った。
その後をハルナがついて行くのを見たことはスルーしておいた。
俺が皿洗いをしているとセラが台所に入ってきた。
「どうしたんだ、セラ?そんな慌てて…」
「ヘルサイズ殿が歩の元へ行ってきてくれと…」
見るとセラの手にはミストルティンが握られていた。
「歩が戦ってんのか!?」
「えぇ、そのようです。私は行きますが飛翔は此処で待っていてください
今の飛翔では戦場に立つには身体が持たない…」
俺が行こうとするのをセラはそう言って止める。
「心配いりません。では私は行きます」
そう言ってセラは無数の葉っぱに囲まれたかと思うと、消えていた。
「…まぁ、歩とセラなら大丈夫かな」
俺は自分に言い聞かせつつ、皿洗いに戻った。
「ふぅ~終わった」
さすがに5人分全員の皿の量は結構あった。
お茶でも飲もうと居間に俺が入ると、いつもそこでお茶を飲んでいるはずのユーの姿が無い。
「あれ、トイレかな?」
そう思ったがちゃぶ台に視線を移すと一枚のメモ。
『少し行ってくる』
そうメモには書いてあった。
数十分前…
俺は大先生との待ち合わせ場所である墓場に来ていた。
〔やっぱり此処は静かで良いな〕
ゾンビになってから妙に静かなのが気に入っている。自分でも分からんが…
そんな事を考えていたが、不意に看板の所に人影が見えた。
こんな時間にこんな所に来るのは、ゾンビか待ち合わせだけだろう。
そう思って俺はその人影に声を掛けた。
「大先生ですよね?頼まれていた物を「グシャ!」…え?」
俺はいきなり取られた行動に驚くしかなかった。
大先生だと思ってたのに、そこにいたのは…
今俺を刀で刺した京子ちゃんだった。
「しぶといですね~、相川さん」
お前かよ…
「貴方はあと何回殺せばいいんですか?」
俺を殺したのはお前だったのかよ!
「ノモブヨ、オシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」
最近では聞きなれた呪文を京子ちゃん、いや、京子が唱える。
呪文が終わると同時に京子はコスプレ衣装に包まれた。
右手には剣、左手には木刀〔仕込み刀〕が握られていた。
ヤバイッと思ってはいるが、何故か身体が動かない。
「そんなちっぽけな魔力で私と戦おうなど笑止です。結界1つで動けないんですか?
記憶操作が効かなかったのには多少驚きましたが…まぁ、もう関係ないですよね~相川さん」
そうして京子は俺の心臓に剣を突き立てた…が、
俺は横腹に衝撃を受け、その場に転がる。
「アユム!アユム!」
どうやらタックルしてきたのはハルナらしい。
俺を心配してくれているのか、ありがと、と口を動かす事もできない。
「なるほど、ハルナが…道理で記憶操作が出来ないわけです」
京子の言葉を無視し、ハルナは呟く。
「なるほど結界か、なら…えい!」
ハルナが俺にチョップすると次の瞬間俺は動けるようになってた。
「で、アユム。コイツ誰?」
「俺を殺した魔装少女様だ」
「アユムの敵?…だったらあたしの敵だな」
ハルナと俺は構える。
「ふふ、たった2人で私に勝てるとで「いいえ、3人です」…!」
そう言うと辺りに葉っぱが舞い、セラが現れた。
「ヘルサイズ殿に言われて来てみれば…敵は人間ですか」
「心配すんな。アレは人の皮を被った化け物だ」
「そうですか…貴方も大変ですね、この町は私がいた里よりも殺し合いが多いようです」
そう言ってセラは戦闘モードに入る。
「あれ?その目…私と同じじゃないですか」
そう言った京子の目も真紅に染まる。
「どういうカラクリだ?」
「分かりませんが…関係ありませんね!」
そう言ってセラが京子に向かって走る。
「秘剣、燕返し!」
セラの必殺技が放たれる…が、京子は簡単に弾き返す。
「これが秘剣?なら、私の秘剣を見せてあげましょう!」
京子がそう言った途端、2つの竜巻が出現してセラを襲う。
セラもこれには耐え切れず、後ろに弾かれる。
「セラ!大丈夫か」
「何とか…歩、貴方も手を貸してください」
「あぁ、わかった」
俺はセラが持ってきたミストルティンを持ち、セラと並ぶ。
最初に飛び出したのは俺だ。
「おらぁぁ!」
〔250パーセント!〕
ゾンビの力で振るうが京子はあっさりとかわす。
それでも俺はミストルティンを振るって京子に迫る。
ガキッ、ガキッ、
京子は俺の攻撃を受け流すようにしてかわす。
力の差が歴然だなこりゃ…
そう思っているといつの間にか竜巻が俺の両側から襲ってきた。
「ぐ、あああああああ!」
身体がすり潰される…
「あははは!バカですね~。
さて、このまま刻んであげましょうか?」
「それは困るな!」
そう言って俺は残っている力で京子に抱きつく。
攻撃から逃げれないように…
「秘剣、燕返し!」
凛とした声が響き、俺と京子の身体を葉っぱの剣が貫く。
俺はゾンビだから死なんが、京子は別だ。
「そん、な…」
京子はそのまま地面にひれ伏した。
竜巻も消えている。何とか勝てたみたいだ。
「終わったようですね」
そう言ったセラがこちらに歩いてきて、俺の胸に飛び込んだ。
「おいおい、何---」
俺は目を疑った。セラの背中には剣が突き刺さっており、
それを持っているのは今殺した少女---京子だ。
「お前…なんで」
「残念でしたね。私は後10回ほど死ねますので…」
「生体の宝珠…」
ハルナが何か呟く。
「死んだ者を生き返らせるアーティファクトだ。
生きてる者に使うと死を一度無効に出来る…」
「ふふ、その通りです。ハルナ」
〔なんだよ、じゃあと10回も殺さないといけないのか!?〕
そう思っている俺に京子は剣を向けてきた。
「今度は消し炭なんてどうでしょうね!」
そう言って火の玉が飛んでくるが…俺達に届く前に消滅した。
「あは!やっと来てくれましたね…ネクロマンサーさん」
見ると京子の視線の先にはユーがいた。
京子はユーを確認すると大量の魔法弾のようなものをユーに飛ばす。
しかしユーは手を払うだけでそれを消してしまった。
京子は魔法が駄目とわかるやユーに突っ込んでいった。
ガキッ!
ユーは京子の剣をガントレットで防ぐが、一撃の重みに耐え切れず膝を崩す。
続いて京子は蹴りを入れユーは避けられずに後方に飛び、ユーはフラフラしながら立ち上がっていた。
「なるほど、その防具は魔力を消す力がありますが…扱う人間が弱すぎです」
京子はそう言ってため息をつく。
〔もしかして、ユーの戦闘能力は低いのか?〕
確かに考えてみれば、飛翔がユーを守るなんて事しないはずだ。
ユーに自分の身を守る力が無いから、飛翔が守っていたのか?
再び視線をユーに向けると、ユーは落ちていたミストルティンを拾い上げていた。
〔まさか…!?〕
ユーが何かを呟いたと思ったらユーはピンクのコスチュームに変わっていた。
〔そうか!俺がハルナの魔力を奪ったんじゃなくて、ユーが奪っていたんだ!〕
そう思っているとユーは魔装少女の姿で京子と打ち合っていたが、
ユーがこちらに飛んで来た。
「魔装少女になってまだこの程度ですか」
京子は物足りないっと言った表情でユーを見ている。
でも、戦力が増えた事は確かだ。
俺はユーの隣に立つ。
「ユー、俺も一緒にたたか---」
するとユーは地面を指差す。そこには砂利で文字が書かれていた。
『逃げろ、邪魔』
「でもユー、アイツは10回も殺さないと---」
そこでユーはまた地面をさす。
その目には大きな決意が込められているようで、俺は頷くしかなかった。
「本当に大丈夫なのか…」
大木の方へ戦場を移したユーと京子を見て、俺は心配だった。
そして俺はユーの所へ行こうとするが、セラが袖を掴む。
「待ってください、貴方が行っても足手まといです」
「でも、もしユーに何かあったら…俺は飛翔になんて言えばいいんだよ」
セラもそれを感じ取ったのか、少し目を伏せていたが言葉を続ける。
「しかし、今行っても逆にヘルサイズ殿の力の邪魔になるだけです」
「ユーの力って…言葉のか?」
「そうです。見てください」
そうしてセラが指差すと、京子は膝から崩れ落ち、
ユーはチェーンソウを地面において両手で頭を押さえている。
昨日の夜ユーから力のことは聞いていた。
魔力、不老の血、治癒、そして言葉。
ユーの言葉は絶対実現する…
「ユーの言葉は対象者を選べないのか…」
「その通りです。そして今、ヘルサイズ殿はこう言葉にしているのです」
『死んで』
その言葉一つで人が死ぬ。
それを知っていたからユーも飛翔も〔死〕って言う言葉に反応してたのか…
激しい光が墓場に瞬いた。
見ると何かが空から落ちてくる。
コスプレの衣装が消えてしまっているユーだ。
〔まずい!〕
俺は急いで落下地点に入る…が
ブワッ!
ユーは地面に届く前に空で静止した。
いや、静止したのではなく受け止められたのだ…空で。
「まったく…何が『少し行ってくる』だよ」
そこには夜中には一層光り輝いて見える純白の6枚の翼…
「心配かけさせるなよ、ユー」
藍色の髪を靡かせた飛翔がいた…