上手な上司からの愛されかた   作:はごろもんフース

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ただイチャイチャ書きたいだけっす。


一話:かくしてフラグが立った

「此方を」

「それはあっちに」

「これは……」

 

 少し広い一室で数人の女性があちら此方に木簡や紙の書類を運んでいく。重要な内容は紙でそれ以外の用件は木簡を用いている。木簡は書いた部分を削り取れば再利用できる為に簡単な書類に適していた。逆に一度書いたら消せない紙は重要な案件を利用するのに向いており、重宝されている。

 

 そんな二つの書類を一つの長い机の前に座っている男性が目を通し、様々な色の紐で結んでいく。重要な案件なら赤でその次は橙色、次は黄色と……分かりやすいように分けているのだ。その手の動きは早く、目を通す速度も本当に見たのかと言うほどであった。しかし、他の文官は彼が間違いを犯すと思ってないのか組み分けられた書類を次々と運んだ。

 

「九十九さんが居ると楽でいいですね」

 

 そんな仕事熱心な男性を見て、一人の少女が声を掛けた。その少女は、部屋の真ん中に位置する一番大きな机を陣取っており、その上には赤い案件が山のように積まれていた。赤い紐の案件は重要な書類。それを処理していく少女はこの部屋で一番偉い人だと一目で分かる。

 

 少女は長い金髪が華麗に波打っており、小柄な体型と合わさってよく似合っている。しかし、それを眠たげな目と口のペロペロキャンディー、更には頭の変な置物がぶち壊していた。眠たげな目とキャンディーはまだいいが、頭の置物だけは常人には理解できない物である。

 

 そんなへんてこな置物を頭に乗せる少女は姓を(てい)、名を(いく)、字を仲徳(ちゅうとく)、真名を(ふう)と言う。

曹孟徳(そうもうとく)が治める魏の三大軍師の程昱(ていいく)である。

 

「ありがとうございます」

「むーっ、感謝してるなら顔を変えてくれるといいのですが」

「こういう顔なので」

「モテませんよ?」

「モテなくていいです」

「そうですか」

「そうです」

 

 風の言葉に対して男性は軽く会釈するだけで書類から目を離さない。手は止めず、顔も変えず只管書類に目を通す。出てくる言葉も風に合わせているものの、素っ気無いものであった。そんな男性に風は特に文句も無く、むしろ嬉しそうに薄く笑う。

 

「九十九さんは変わりませんね」

「風様こそ」

 

 風の笑顔に釣られたのか、呼ばれた男性も少し口元を緩めた。

その事が嬉しいのか風は、袖で口元を隠しさらに笑う。

 

「程昱様。楊修様と戯れるのもいいですが……そろそろ」

「おおぅ。こりゃ一本取られましたね。宝譿(ほうけい)

『すぐやっちまうからまってな!』

 

 他の文官の言葉に風は、置物の宝譿と腹話術で会話し書類へと手を伸ばし仕事を始めた。

 

「楊修様も注意をしていただかないと」

「……最終的には仕事を終わらせるからいいと思いますが」

 

 文官に注意され男性――九十九は首を傾げた。

彼は、姓を(よう)、名を(しゅう)、字を徳祖(とくそ)、真名を九十九(つくも)と言う。

キリッと釣り上がった目に表情が乏しい無愛想な顔。他の人から見れば怒ってるようにも不機嫌そうにも見える顔をしている。少しでも表情を変えればいいのだが、九十九は我関せずと言うばかりに貫いていた。

 

「早く出さないといけない書類もあるんですよ?」

「あぁ……それなら」

「終わりました。持って行って下さい」

「……」

「分かりやすく、赤い紐と黄色い紐を付けているので風様ならすぐに終わらせるかと」

「失礼しました」

 

 九十九が休憩とばかりにお茶を啜り、そう言えば風がポンと最後の書類を置く。

そんなある意味で息の合った二人に苦言した文官は苦笑しか出てこない。

 

「おや、鐘が鳴りましたね。休憩をとりましょうか」

「はい」

「やったー!」

「今日は何を食べようかしら」

 

 丁度先ほどの文官が終わった仕事を他の部署へと運ぶ際に昼を知らせる鐘が鳴った。その事に風が気付き、部屋内に居た己の部下に声を掛ければ皆が嬉しそうに手を上げる。この時代に時計などなく、部署の違いはあるが休憩を取るにも上司の一声が欲しい。風の部署では仕事をこなせば休憩を取っていいと言う事にはなっているが、やはり取り辛いのだろう。文官達は我先にと外へと出たり、その場でぐったりと倒れこんだ。

 

「九十九さん、九十九さん」

「はい、何でしょうか?」

「一緒に食事に行きましょう」

『おぅおぅ、上司の誘いは断らないよな?』

 

 風は九十九にとことこと寄って行くと服を掴み見上げる形でそう言う。

その宝譿と風の誘いに九十九は少し頭を悩ますも特に用事は無いのか、こくりと頷いた。

 

「はい、何処で食べましょうか」

「そうですねー……時間が勿体無いので食堂で食べて、残りは日向ぼっこに使いましょう」

「御意」

 

 ぐいぐいと服を引っ張り先導する上司に九十九は苦笑しつつも付いていく。これが二人の日常、何時もの風景である。そんな二人を残った文官は微笑ましいものを見るように見送った。

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「んーっ、いい天気ですね」

「そうですね」

 

 食事も終わり、二人は外へと出ると手ごろな芝生の上で寝転がる。

その際に風は九十九の足を枕にして寝るが、それを表情を変えず受け入れた。

 

 昼休みの休憩を使った日向ぼっこ。晴れていれば共に食事をし、共に外に出てこうやって寝転がる。寝転がるといっても風のみが寝ており、九十九は木を背に読書に励む。暇さえあれば、何時も行っていることであり、時折、風の親友の郭嘉(かくか)――(りん)が混じる。

 

 上司の付き添いのように見えるが九十九も別に嫌いではない。

この乱世の世の中、たまにこういった日常もありだと思っており、九十九なりに楽しんでいた。

 

「それにしてもいいんですかー?」

「……構いません」

「風としては助かりますけど」

「誰かの上に立つのは得意じゃないんです」

 

 暫く日向ぼっこをしていれば、風が思い出したかのように九十九を見上げながら聞いてくる。既にこの質問に対する答えが九十九の中で決まっており、何時ものように答えた。本来であれば優秀な人は、主君である曹孟徳に報告するのが定例だ。しかし、風は九十九の事を一度も口に出さず報告をしていない。

 

 別段風が意地悪しているわけでもなく、九十九がそう願い出ていた。そういった事情があり、風はそれを受け入れていながらもたまに聞いてくる。人の心は変わるもの、風なりに不安なのだろう。そんな風の気持ちを九十九は少々感じ取りながら何時もの言葉を口にする。

 

「俺はこれで十分です」

「そうですか……んー」

「……」

 

 何度目かの質問を答えれば、風は目を瞑りまたもや夢の世界へと入り込んだ。そのことを確認し、優しく頭を軽く撫で、九十九もまた本の世界へと入り込む。しかし時折吹く風が心地よく、九十九も少しばかり眠ろうかと目を閉じた。そうすれば、直ぐに眠気はやってきてそのまま眠りに就いた。

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「それで……今まで寝ていたと」

「いやーうっかり、うっかり」

「……」

 

 風の前で眼鏡を掛けた女性が呆れたように溜息を付いた。それを九十九は横目で見ながら、口答えせず只管に手を動かす。昼の休憩時間に寝てしまい、気付けば休憩時間を大きく過ぎてしまった。その事に起きて気付き、慌てて二人して戻れば、風の親友である稟が部屋に居た。どうやら風に見てもらいたい物があって来ていたらしく悪い事をしたと二人して謝罪をする。

 

 その後は風と稟は仕事の話に入り、九十九は目の前の書類へと目を移す。朝と同じように優先順に紐を付けて分け、少し時間が空けば簡単な書類をこなしていく。今日は少しばかりサボってしまった為か何時より速度を上げる。

 

華琳(かりん)様がですか?」

「えぇ、明日の昼にと」

「むむー……分かりました。空けときます」

「えぇ、お願いしますね。それでは」

 

 暫く経てば、二人の会話が終わり稟が去って行った。その際に九十九は軽く会釈し、己の上司へと軽く視線を送る。先ほどの会話が気になっていた。

 

 視線を向ければ其処には眉を顰め考え込む風が居た。

 

 それに少しばかり目を取られるも聞くのも野暮かと九十九は更に仕事に力を入れる。

風が言いたければ聞く、此方に関係あれば言ってくれるであろうという受身の姿勢だ。

 

「九十九さん、明日は一緒に日向ぼっこできないようです」

「呼ばれましたか」

「はい、何やら面倒事のような気がします」

 

 そんな態度でいれば、風がむすっとした不機嫌そうな表情で伝えてくる。そんな風に対して九十九は気にしてないと苦笑しつつ受け入れた。話の内容的に主君である曹孟徳に呼ばれたのだろう。明日の予定を風に確認取り九十九は恭しく頷いた。

 

「急ですね」

「何やら最近悩んでましたからね。多分桂花(けいふぁ)ちゃん絡みだと思いますけど」

「そこまで分かりますか」

「何しろ呼ばれたのが風と稟ちゃんだけですから」

「なるほど」

 

 その言葉に九十九は納得し頷いた。

そして同時に思い出す。魏の国には三人の軍師がいる。一人は程昱、風。二人目は郭嘉、稟。そして最後の一人が荀彧(じゅんいく)、桂花。三人の中で荀彧は二人を差し置いて筆頭軍師の地位についている。そんな彼女を抜きで行なわれるお茶会。そこから風は荀彧絡みの悩み事だと判断したらしい。

 

 風の推理に疑問が解け、九十九は心置きなく仕事へと集中した。

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「終わりましたね。……ご飯を」

「風、ちょっといいかしら?」

「……今度は何ですかー」

 

 仕事も終わり、風と九十九が食事に行こうとすると稟が呼び止めた。稟の言葉に風は稟と九十九の間に視線を彷徨わせるも、軽く溜息をついて稟の話を聞く体勢となる。

 

 九十九は少し待とうかと思うも稟と風に手を軽く払われたのでお辞儀をして去る。

時間が掛かる案件だったようだ。

 

「……」

「おぅ、ちょっと付き合え」

「……」

 

 廊下に出て少し歩くと曲がり角から手が伸びてきて、九十九の首を絞めてきた。本来であれば、このような事をされれば慌てるのだが、九十九は慌てず騒がずされるがままになる。この様な事をする人を、声の人物を知っているが為の行動だ。

 

正礼(せいれい)か」

「よぉ……飯食いに行こうぜ」

 

 九十九の首に腕を回し軽く締めるのは少し厳つい青年であった。その青年は髪を短く刈り上げており、髪の毛は重力に逆らい天を向いている。文官服を着ているもどちらかと言えば、兵士のほうが似合っていた。彼の名は姓を(てい)、名を()、字を正礼(せいれい)と言う。九十九の同僚で一番付き合いが長い友人であった。

 

「別に構わないけど、飲みたいだけだろ」

「はっはっは、介護よろしく」

「おう」

 

 首を決めたまま言ってくる友人に簡素に答えれば、手を放し大きく笑う。

 

「それでさ。お前は何時になったら結婚するんだ?」

「……戦乱の世が終わったらかな」

 

 正礼の言葉に九十九は己の過去を思い出す。九十九は簡単に言ってしまえば転生者であった。気付けば、赤ん坊からのやり直し。最初は慌てるも人生をやり直すチャンスだと喜んだ。しかし自分の事を分かれば分かるほど未来が暗くなっていく。三国志に出てくる楊修……その人だと気付いたのだ。

 

 三国志の楊修と言えば、鶏肋と呼ばれ、優秀が故の早とちりで処刑された人物だ。そんな人物になってしまい、将来自分もそうなるのではと思い落ち込んだ。

 

 それでも何とか持ち直し、今に至る。元々は曹操に仕える気はまったくなかったが、よく考えた結果、結局は魏が一番の安牌と悟った。そんな経緯があり、取り敢えずは自分の死亡フラグが折れる日まで地味に、それでいて目立たないように生きようと誓う。

 

 そんな経緯を親友とはいえ、喋る事ができず。九十九は今日も何とか誤魔化していく。

 

「……それで何処に」

「失礼します!!」

「なんだ?」

 

 二人で並び、これからの予定を確認していると目の前の扉が開き顔を真っ赤にさせた男性が肩を震わせ去って行く。そんな光景に互いに顔を見合わせ、次にそこの部屋が誰の部屋かを思い出し互いに納得した。

 

 男性が出てきた部屋は、男性の文官に恐れられる有名な部屋だ。魏の軍師であり、大の男嫌いの荀彧の仕事部屋。『難攻不落(なんこうふらく)極悪非道(ごくあくひどう)七転八倒(しちてんばっとう)―荀彧部屋』である。

 

「先ほどのは……」

「荀彧様の補佐をしてた奴だ」

 

 正礼の言葉に九十九は先ほどの人物を思い出した。荀彧様の補佐になったと食堂で自慢げに話していた人物だ。九十九をチラチラと見ながら直ぐに昇格してやるとか言っていたのをぼんやりと覚えていた。

 

「一週間、持たなかったか」

「そうみたいだ」

 

 開けっ放しの扉を見つめ、互いに頷くと近づき扉に手を掛け中を二人して覗いた。中を覗けば、複数の女性の文官と茶色いふんわりとした髪の毛をした少女が書類の整理をしている。補佐の机と思われる所には山ほどの書類や木簡が載っており、それを正面の机に運んでいるのだ。

 

「だいぶだな」

「だな」

 

 それを軽く見てから扉を閉めて、二人して歩き出す。一瞬九十九は手伝おうかと思ったが、他の部署の出来事。ここで手を出すのも不自然かつ問題になるかと即座に諦めた。

 

「次は誰になるかねー」

「正礼とかだったり?」

「やめろよ……俺あの人の所に一日だけ入った事あるけど、ありゃ無理だ」

「お前でもか」

「こう見えて繊細なんだ、俺」

 

 その言葉に九十九は軽く溜息をつく。一体どの口が言うのかという思いだ。酒を飲み、よく床で寝ていたり、地面でぐっすりと眠る奴は繊細とは言わない。

 

「まぁ……いいや。今は酒だ、酒」

「俺の部屋にもないし……街に繰り出すか」

「おう! そうだ、次はお前が荀彧様の補佐になったり」

「ないだろ、流石に」

「だよなー……程昱様が放さないよな」

「信頼は得ていると思ってる」

 

 お酒を求め続ける友人に付き添い、九十九も先ほどのことを忘れ互いに笑い、街へと繰り出していった。

 

 

 

 

 二日後、不機嫌そうな風に言い渡された事を聞いて九十九は『あれがフラグだったか』と正礼との会話を思い出す。そして夢ではないかと頬を引っ張った。

 




シリアスなしの日常物です。
重くしないように頑張ります。
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