上手な上司からの愛されかた   作:はごろもんフース

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幕間:九十九と愉快な仲間達 その1 ※文少し追加しました

「初めまして~九十九の一番の友達をしています」

 

 場所は、私塾内にある九十九の部屋の中。

その中で集まった五人の中で一人の少女が、開口一番ににこやかな笑顔でそう言い切った。

顔はにこやかであるが、言葉の一部分を強調しており、誰がどう聞いても仲良くする気がないことが分かった。

もはや牽制であり、さらっと九十九の腕を抱きしめている様子が周りを煽る。

 

 この少女の名は荀諶(じゅんしん)、桂花の妹の恋花である。

見た目はまんま長い髪をローポニーテールでまとめている桂花であった。

 

 恋花がそんな自己紹介をすれば、恋花を敵と判断したのだろう。

恋花の目の前にいた三人の人物が遠慮ない視線をぶつけて来た。

 

 一人目は、引き摺る位に長い黒髪を持つ小さな少女、その少女は九十九の寝床を占領しており気だるげに寝転がっていた。

しかし、気だるげながらも長い髪の毛の隙間から恋花を見る目は、隈のせいもあり怪しい輝きを放っているように見える。

 

 二人目は、青髪短髪の恋花よりも一部分が女性らしい女性、その女性は椅子に座り大人しくお茶を啜っていた。

のんびりとし、あなたに興味がありませんといった態度を取っているが、恋花を見る目は値踏みをしていた。

 

 三人目は、顔立ち整った見た目が良い男性、その男性は柱にもたれ掛かり恋花を鼻で笑った。

まさに傲慢不遜(ごうがんふそん)、完全に恋花を嘗めきり、見下していた。

 

「ふむ、自己紹介なのに肝心の名が分からぬ。何と言うのじゃ?」

「えっと、同期なのだから会話したことがなくても名前ぐらいは知っているでしょ?」

「知らん。今の今までずっと部屋から出ておらんでな。悪いが他の二人も名を名乗って貰ってもよいかのぉ?」

「えぇ……」

 

 暫くの沈黙の後、最初に動いたのは黒髪の少女であった。

その少女は、同じ私塾に通っていると言うのに恋花を知らないと言う。

その事に少しばかり唖然とするも、恋花は目の前の少女を入学してから今ままでの半年の間見たことがない事に気づく、そして引きこもりの生徒が居ると言う噂が有ったことを思い出す。

 

 恋花は、この子がそうなのかと納得すると同時に何故九十九は引きこもりの子と知り合いなのだろうと不思議に思った。

 

「はぁ……荀諶よ」

「うむ、それじゃ次は儂じゃな。名を司馬懿(しばい)と言う。病弱ゆえに九十九にはよう世話になっている。よろしく頼むぞ、一番の友達とやら」

「えぇ、これからは私もある程度あなたの面倒を見てあげるわ。異性同士だと大変な事もあるでしょうし」

「カッカッカ」

「うふふ」

 

 少女――司馬懿は、長い髪の毛を揺らし恋花を一番と認める発言をする。

しかし、恋花にはこれが牽制なのだと良く分かった。 

何故なら彼女が自慢気に黒い綺麗な髪の毛を揺らして見せたのだ。

病弱な上にお世話になっている発言の後のこの態度、どう見ても髪の毛の手入れをしているのは九十九である。

『一番の友達~?こっちは毎日髪を手入れをして貰える仲なんですけど、ウケるわw』と聞こえてくるようだ。

 

「はぁ……自己紹介ですか、特にあなた達に興味はないのですけど場が場なので……張勲(ちょうくん)です、以上。それよりも九十九さん、お嬢様の新しい情報とか思い出話とかありませんか?」

「……」

「……」

 

 司馬懿と恋花がばちばちと火花を散らしていれば、その横から呑気な声が掛かった。

そのお茶を啜っていた女性は、一言目で興味なしといい九十九に話かける。

どうも彼女――張勲は恋花と司馬懿と違い、九十九よりも『お嬢様』と言う人物の方が気にかかっているようだ。

これには、火花を散らしていた二人も唖然である。

正直、何故こんな奴をこの場に連れて来たのだと九十九に問い詰めたいぐらいである。

しかし、それよりも前にやらねばならぬ事が出来た為に放置した。

張勲よりも先に目の前の敵を排除しなければならないのだ。

 

 三人目の自己紹介を終えて、既に場は何とも言えない空気が漂う。

誰一人として合わせる気がないのだ、酷い有様であった。

 

「ごほん……先ほどの話の続きじゃが、よいよい、既にお風呂でも世話になっているのじゃ。おぬしの手はいらん」

「おふっ……だ、ダメでしょ!?」

「九十九さん!九十九さん!お嬢様の好きな物は蜂蜜でしたよね?私この間いい物を入手しまして送ってほしいのですが」

「儂は無問題(もーまんたい)じゃし、問題なかろう?」

「問題しかないじゃない。あのね、人をお風呂に入れるって大変な作業なのよ?聞いている感じ、あれもこれもと介護してもらってるようだし……九十九の負担になるでしょ?」

「あぁ……ついでにお手紙もお願いしますね!あと、卒業したらお嬢様の所に就職出来る様にぜひ一声を」

「うら若き乙女の肌を好きに触れるのじゃぞ?負担よりも得しかないじゃろ」

「まな板の何処で楽しむのよ?」

「あ゛?」

「はっ?」

 

 三人が三人好き勝手に動き始めればこうなる。

九十九と言えば『やっぱりこうなったかー分かってたわー』と思っていたりする。

しかし、止めようとは思わなかった。

 

「うん?」

「む?」

「えっと……?」

 

 暫くの間、きゃいきゃいと騒がしい会話が続いていた時であった。

ターンと軽快な音、太鼓の音が聞こえ始めたのだ。

流石の三人もこれには驚き、音の出処――最後の一人の男性へと視線を向けた。

 

 男性は三人の視線を集めると真剣な表情で、首から下げていた小さな太鼓を打ち鳴らす。

最初こそ、何だこいつ?と思っていた三人であったが、その男性が打ち鳴らす太鼓の音が美しいことに気付き静かになった。

 

「いい音色ね」

「そうじゃな。ここまで見事なのは聞いたことないのぉ」

「ふむ、お嬢様を楽しませるために習った方がいいかも知れませんね」

 

 これで場が収まるとそこに他の人が居たら思うだろう。

しかし、この男性をよく知っている九十九は『あぁ……始まった』と一人ため息を付いた。

先ほどから九十九が場を収めなかったのは、最後の一人の紹介が終わってなかったからだ。

あの場で収めた所で、最後のコイツ『禰衡(でいこう)』がやらかすと知っていた(信じていた)

 

「はぁ……九十九よ。友人はしっかりと選ぶべきだ。何で三人も揃ってまとも奴がいないのか、嘆かわしい」

「は?」

「まな板がまな板に何か言ってる時は笑いそうになったわ。あっ、もしかしてまな板でなく、洗濯板であったか?それなら、此方の勘違いだ。すまぬ」

 

 三人が太鼓の音に魅了されている時だった。

太鼓を叩いていた禰衡が真剣な表情から一変、先ほどの見下すような表情をしそんな事を言い放つ。

行き成りの事に唖然としていたが、時間が経つにつれて三人に怒りが沸いて来た。

特に怒りを露わにしたのが、男嫌いな上に名指しされて侮辱された恋花だ。

 

「あんたがまとも?太鼓の音色はいいけど、時折音が外しているあんたが?気付いてないふりをしてあげていたのに……着替えてきたら?」

「……」

 

 怒り心頭であった恋花だが、そこは桂花の妹、怒りながらも冷静にどうやったら相手に恥をかかす事が出来るかを考えて行動する。

この時代のしきたりでは、太鼓を打ち間違うと退出し別室で着替えてこなければならないという決まりがあったそこを恋花は突いた。

これは大変な恥をかく行為で恋花はしてやったとばかりにニヤっと笑った。

 

 普通の相手であれば、ここで顔を真っ赤にさせて怒って退出するだろう。

しかし、相手は悪かった。

相手は三国志の中でも上位の奇人変人の類の禰衡である。

 

「え?」

「ふんっ」

「ちょっと!?」

 

 禰衡は恋花の指摘に対して一切怒る事無く、その場で服を脱ぎ始めた。

行き成り目の前で服を脱ぎ始めた男に恋花は動揺する。

それはそうだ、まさかその場でしかも女性が三人も居る中で服を脱ぐという更に恥を重ねる行動に出るとは考えられる訳がない。

 

「!?!?!??!??」

「はっ!はっ!はっ!!」

 

 恋花が混乱していれば、禰衡はあっという間に裸になり、またもや太鼓を叩き始める。

しかも、今回は恋花が指摘した音色部分も完璧にこなすというおまけ付き。

だんだんとノリに乗ってきたのであろう。

禰衡は、反復横跳びを始めながら太鼓を叩き始めた。

 

 無論、禰衡は男性である。

男性であると言う事は、股間にはある物が付いている訳でそれで反復横跳びをすれば、当然の如く揺れた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぶはははははははははは」

「えっと……あはは」

「はーはっはっはっはっは」

 

 遅れて状況が理解出来た恋花は叫び、九十九に抱き着くとしくしくと泣き始め。

男が嫌いな恋花にとって男の裸など目が腐る拷問だ。

 

 逆に寝床で見ていた司馬懿は大爆笑である、寝床をばんばんと叩き最後には呼吸困難になりびくびくと痙攣した。

 

 張勲と言えば、ニコニコとした笑みで見ているものの腰に下げている木刀をぎゅっと力強く握っていた。

 

 禰衡は突っかかって来た恋花を退治出来て満足したのだろう、楽しいとばかりに高笑いである。

 

「つくも~……つくも~……」

「げほっげほっ、い、いきが~……」

「せいっ!」

「ふぐっ!?」

 

 最後の最後は、我慢出来なくなった張勲の木刀が禰衡の首を捉え強制的に終わらせる。

そして張勲は禰衡の髪の毛を掴むとそのまま外へと放り出しに行った。

ついで言えば、張勲はその後帰って来ず、九十九は恋花と司馬懿のお世話でその日が終わった。

こうして九十九の友人達の最初の顔合わせが終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てな感じの邂逅だった」

「なぜ、会わせようと思った」

「うんうん」

「……狭い私塾内で同期なんだ。早いか遅いかの違いかと思って」

 

 酒の席で正礼と千里に塾での思い出話を聞かせたら微妙な顔をされた。

 




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