上手な上司からの愛されかた   作:はごろもんフース

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九話:秋の空と甘いもの

 お酒の席から一週間後、九十九は休日と言う事で町へと降りて来ている。

服装は何時も通りの文官のゆるい服だった。

前に農民の服を来て出歩いていたのだが、目が鋭く無表情と言う事で何度か警邏していた兵士に呼び止められた事があったので身分を証明しやすいこの服になった。

そういったこともあり、次第に服を選ぶのが嫌になり着た切り雀となっているのが現状であった。

 

「さてはて、何か掘り出し物があればいいな」

 

 最近になって癖となってしまった独り言をこぼし、市場へと足を踏み入れる。

今日来た目的は新しい食べ物の調達であった。

未来の知識と優秀な楊修の頭のお陰で豊富な料理のレシピをすぐに思い出せるようになっている。

少し見ただけのレシピでも鮮明に思い出せるのだ、凄く便利であった。

 

 そんな九十九にも悩みがあった。

それはツンツンな上司ではなく、必要な食料が調達できない事である。

この時代に存在しない食料が多すぎて、代用しなければならないことが殆どであった。

その癖、何故か紙や服と言った物は現代並みなのが良く分からない。

未来の料理の味を知っている九十九でも美味しいと思う料理が出てくるので、料理自体も本来の時代と比べれば進んでいるのだろう。

しかし、食べ物自体だけはどうにも入手しにくかった。

 

 それでもちょこちょこと市場を覗いていれば珍しい物が流れ込むことが多かった。

文化が進んでいる影響で、この時代の割に西の方でも色々と文化が進んでいるのだろう。

 

「んー」

「おや、兄ちゃん久しぶりだな!」

「お久しぶりです」

 

 色々と見て回っていれば、お店を開いていた一人の商人に声を掛けられた。

その人は主に野菜などを売っており、九十九にとってはお馴染みのお店ある。

 

「仕事が忙しく、ここ最近は休日がないようなものだったので」

「お城勤めってのも大変だな。そうだ……兄ちゃんならこれ何か分かるか?」

「ほぅ?」

 

 相手に礼をし、現状報告をすまして会話を続ければ何やら店主が野菜を取り出して来る。

その野菜を見て、九十九は『はて、この野菜はこの時代にあった物であったか』と不思議そうに見つめた。

 

「何処でこれを?」

「西から流れて来たらしい」

 

 この答えに九十九は、またまた疑問が思い浮かんだ。

頭の中の記憶を辿ってもこれの発祥地は熱帯の辺りであった。

そこから西に渡り、更にそこから此方まで来たはずである。

 

「ふむ……ちなみに食べて見ました?」

「流石に売り物にするんだ。味見位はしたさ」

「どうでした?」

「あー……芋だと思う」

「だと思う?」

「すっごい甘かった」

「なるほど、ちなみに茹でですか?焼きですか?」

「焼きにして食べたな」

 

 それを手に取ってまじまじと見つつ、様々な話を聞いていく。

見た目がとある野菜と一致するものの、違うものかも知れないと疑う気持ちは忘れない。

しかし、こうして店主の話を聞いてみると同じ物であること確率の方が高い。

 

「買います。ちなみに茎は貰ってないですか?」

「あー、これだけだな。何だ欲しいのか?」

「えぇ、確かそれが種の代わりだったと思うので。入手出来たら買いますよ」

「そうか、なら見かけたら取っておいてやるよ」

「はい、よろしくお願いします。ちなみに全部下さい」

「ぜ、全部か……まぁ初めて見る物で買ってく人がいないからいいけどよ」

「頂きます」

「ちなみに美味い食し方とか分かったら教えてくれ」

「えぇ、お教えしますし積極的に話を流します。あと保管する時は土がついたままが好ましかった筈ですよ」

 

 両腕に抱える程度の物であったが、全てを買い占めて店主と別れる。

そして、この手に入れた物を何処で試そうかと悩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ……本当に美味しくなるの?紫色、シャンの髪と一緒」

「落ち葉を焼いて、その灰の中に水を湿らせた『甘藷(かんしょ)』を紙に巻いて入れます。そうするとゆっくりと焼けて甘みがますらしいです」

「紙を……とても高級な食べ物、民に回らない?」

「紙を巻かなくても焼けたと思いますが、今回作るのが初めてなので念の為に要らない紙を使用しています。あと芋よりかは傷みやすいですが、繁殖力もあるので作れれば出回ると思います」

「紙……手紙に見えるのだけど」

「要らない物です」

 

 あれこれと考えたが、結局はお城へと戻って来た。

厨房に行って流琉に渡すと言う手もあったが、やはり最初は自分で試して食べて見たかった。

しかし、甘藷――サツマイモを食べる方法で問題となったのが外で火を使う所である。

たき火をした後の灰の中に新聞紙を巻いて入れてゆっくりと焼く。

この調理法はよく知っていたが実際にはやったことないのでわくわくしてやってみたいと思った。

 

 この事を己の上司である桂花へと報告した所『あぁ……ならついでに庭の掃除もしなさい。それなら許可してあげるわ』と言われてしまった。

丁度季節が初秋となり、落ち葉も溜まって来ていたので丁度良かったのだろう。

休日なのに仕事となってしまい、少し落ち込むも焼き芋が食えるならおつりが来るものであった。

 

「それよりも庭掃除のお手伝いありがとうございました。徐晃(じょこう)将軍」

「別に構わない。シャンのお気に入りの場所も落ち葉まみれだったし……ついでに暇だったから」

 

 少し開けた場所を選び、穴を開けてから周りに石を積んで囲う。

そしてその中に枝と落ち葉を入れて火を付けて準備を整えて行く。

その間に九十九は、今回の掃除を手伝ってくれた少女――徐晃へとお礼を言った。

見た目は小さく流琉と同じぐらいだが、強さは段違いな上に都で役人をやっていたお人でもある。

 

「……ちなみにこの庭全部一人でやる気だったの?」

「……そう言われてましたので」

「桂花さま?」

「えぇ」

 

 綺麗に燃えきった、たき火を見ながら辺りを見渡す。

徐晃と共に掃除をした庭は綺麗になっていたが、かなり広かった。

昼から始めて既に夕暮れ時となっていた。

二人でこれなのだ、これを一人でさせようと思うのだから、桂花の男の扱いはかなり酷いものである。

 

「それにしても徐晃将軍はお掃除も出来るのですね」

「………………うん、まぁ」

 

 焼き芋が出来るまでに時間がある為、会話を続け掃除の腕前について褒めたのだが、だいぶ間が開いた返答が返って来た。

しゃがみ込んでたき火後を見ていた徐晃は、視線を逸らし何とも『聞いてくれないで』とばかりの態度で、九十九は色々と察した。

今回手伝ってくれたのは、奇跡だったのかも知れない。

 

「そろそろいいかも知れません」

「熱いよ」

「布を持って来ております」

 

 木の棒で突っついて外に出すとすっかり焼けてしまった紙を取り除き、甘藷を取り出す。

 

「おぉ~……中は黄色い、お日様見たい」

「出来てるみたいですね。食べましょうか」

 

 布を巻いて手を保護しぱっくりと半分に折ってみれば、中身から湯気と甘い香りが漂ってきた。

半分を徐晃に渡すと早速に食べに掛かる。

 

「……」

「本当だ。甘い……美味い」

 

 息を吹きかけて少し冷まして口に入れる。

食べた感想と言えば、隣で食べていた徐晃が美味しいと目を細めた。

 

 そんな彼女とは逆に九十九は無表情のままであった。

一口食べてみるも甘みが想像以上になかったのである。

店主がすっごい甘いと言っていたので現代と同じ味を期待してしまっていた。

しかし、あれは品種改良したのちの物であり、何もしてなければこんなもんかである。

 

「……美味しくない?」

「あぁ……いえ、美味しいのですが思っていた甘みと違う気がして」

「ほんのり甘くて……ホクホクで芋としたら物凄くおいしいと思うけど」

「……そうですよね。これはこれで十分に良い物ですよね」

「うん」

 

 色々と思うも美味しそうに食べる徐晃を見て、これはこれでいいかと思い直す。

期待していた味とは違うが、十分に美味かった。

むしろ、あの甘さに近付ける為に頑張ればいいかと考えなおす。

 

「……残りもいい?」

「はい、手伝って貰ったお礼です。そんなに気に入りましたか?」

「うん……他の人にも分けてくる」

「あぁ、なら私と一緒ですね。私も荀彧様達に渡そうと思ってましたので」

「……」

「どうかしましたか?」

 

 丁度夕暮れとなり、夕食を食べる人が出てくる時間帯。

その為、知り合いの何人かにあげようと思っているとじーと徐晃が見つめて来ていた。

 

「……風と稟に聞いた通りの人だったと思っただけ」

「知り合いでしたか」

 

 桂花については『さま』が付いていたが、風と稟の真名を呼ぶ時には付けていない。

何よりも親しみを感じる声に九十九は、徐晃が風と稟の知り合いであることを悟る。

 

「もしかして……今回手伝って貰えたのは」

「うん……どんな人か知りたかったから、そもそもシャンはお掃除苦手だし」

 

 そう言ってチラっと視線を自分の後ろへと香風は向けた。

そこには先ほどまで甘藷に巻いていた紙が散らばっていた。

本当に掃除が苦手だったのかと、九十九は心の中で苦笑する。

 

「そうでしたか。それで私は問題なかったでしょうか?徐晃将軍」

「んー……シャンでいいよ」

「え?」

「シャンの真名『香風(しゃんふー)』」

 

 これには、あまり動じない九十九も驚きを隠せなかった。

九十九としてみれば、彼女から風と稟に近づく悪い虫と思われないだけで御の字だったのだ。

それがまさか、真名を預けられるほどとは思いもしなかった。

 

「簡単じゃない。風と稟の話を聞いて……実際に見て会話していいと思った」

「……なら私は『九十九』で構いません。香風殿」

 

 驚き戸惑っていれば、此方の思考を読んだよう徐晃――香風が答えた。

それに対して少しばかり悩むも、しっかりと見ていいと言ってくれたならいいかと思い九十九も真名を渡した。

 

「むーっ……香風」

「……香風殿?」

「香風」

「……香風」

「それでいい」

 

 流石に相手が将軍の為、しっかりと敬称を付けていたが気に入らなかったらしい。

自分の真正面に立ち、ひたすら呼ぶまで見てくる香風に最後の最後は折れた。

せっかく此方を気に入ってくれたのだ、ここで粘って機嫌を悪くさせるのも悪いと思った。

 

「但し、他の方々が居る場所では香風殿でお願い致します」

「……わかった。ついでに喋り方も気楽でいい」

「善処します」

「それは、善処する気がない時に言う言葉だと思う」

 

 自己紹介も終わり、たき火後をしっかりと処理すると焼き芋を布に巻いて持つと二人並んで歩き出す。

 

「それと……桂花さまに渡しても食べないと思う」

「ですよねー……香風が渡して貰えますか?」

「分かった」

 

 色々と大変な一日であったが、蓋を開けてみれば最高と言っていい休日であった。

新しい食べ物と友人を得れた事に九十九は感謝した。

 

「ところで……空を飛ぶ方法知らない?」

「……」

 

 新しい友人は、少しだけ風よりも掴み所がないような人であった。


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