上手な上司からの愛されかた   作:はごろもんフース

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幕間:上手な部下からの慕われ方 その1(桂花)

「はぁぁぁぁ」

 

 九十九が桂花の補佐官になる少し前のこと。

久々に郊外にある自分の屋敷に戻って来た桂花は、寝台の上で大きなため息を付いて倒れこむ。

補佐官が役に立たず、仕事は溜まるばかり。既に限界で、精神的にしんどかった。

それでも仕事を通常的にこなしているのは最後の意地だ。

 

 そのうち華琳は天下を取るだろう。

傍に居て仕えていれば、そのような事をひしひしと感じる。

軍師としてまだまだ成長する桂花と共に彼女もまた覇王として成長していた。

そんな華琳に桂花は、感嘆と共に焦りを感じる。

最近、新しい軍師が入ってきて余計にだ。

 

(更には……アレよね)

 

 寝巻きのまま転がり、寝台の横にある机の上に手を伸ばす。

手を伸ばしてとったのは一つの竹簡。

紐を外し、中へと視線を向け読み進める。

この手紙は実家からの手紙であり、既に何度も読んだ物。

 

(元気かーって話だけど……内容的に孫を見たいって催促よね。これ)

 

 親から届いた物はどう見ても結婚の催促だ。

元気にやってますか? ところでいい人は――

仕事は順調ですか? ところで男性に興味は――

同僚とは、特に男性の人とは――

孫早く見せろ。

 

 そのような内容が延々と書かれている。

正直な話、仕事よりもこの手紙の方が精神的に辛かった。

ここまで育ててくれて、援助もしてくれる両親。

そんな両親に感謝はしているし、親孝行したいと思ってはいる。

しかし――

 

「無理!」

 

 男性と一緒になるなんて、桂花には地獄の拷問を受けるようなもの。

受け入れることなんか出来るわけがなかった。

 

 それでも親に何か文句を付けるようなことはしない。

あちらも必死だと分かっている為。

 

 荀家の長女は桂花であり、跡継ぎが欲しいのだ。

しかし桂花が男性を愛せない為、跡継ぎは絶望的。

なら妹のほうに期待をと思っても、妹の恋花自身も桂花同様の有様。

ここで荀家は滅びるのかと親は嘆く。

 

 嘆かれても男性と一緒になりたくない。

桂花にとって男性はこの世で一番いらないもの。

そんなことを思う桂花も、昔は男性嫌いではなかった。

しかし、年齢が上がる毎に近寄って来る男性の負の面を幾度となく見た結果、嫌悪感しか残らなくなった。

 

 桂花の家の荀家は、荀子十一世の血を受け継ぐ名門の家柄。

そんな家柄の長女が才能豊かな子であれば、それに縋ろうと思う人は多い。

桂花を利用しようとする者、単純に格を上げようと思う者、金目当て……と様々な理由を抱える人ばかり。近寄ってきた人は幼い桂花を子供と侮って、懐柔しようと笑い近づく。

しかし、幼いものの賢い桂花はそれを見抜き軽くかわす。

 

 かわせば終わりと、身の程を知るだろうと幼い頃の桂花は思った。

しかし、ここで彼女の考えは大きく外れる。

彼らは避ければ避けるほど子供のようにムキになり、あれやこれやとお粗末なことを仕出かす。

そのような醜い男性達を見て桂花と恋花は、『男性とは醜く、馬鹿で汚らしい者』と判断した。

ある意味で男運が壊滅的になかったのである。

 

(補佐官も男に変えられるし、親はこれだし……男共滅びないかしら?)

 

 寝たまま手を胸の前で拝むようにし、幾度となく願う。

勿論叶うわけがない。仮に叶ったとしたら間違いなく桂花は世界中の敵となる。

 

「何か親が納得するような策は――」

 

 結局は無駄な時間だと悟り、改めて親への手紙の内容を考える。

 

「荀彧様」

「どうしたのよ。こんな時間に」

 

 考えていると扉の前で名前を呼ばれた。

その声は桂花付きの女中のものであり、こんな夜更けに何の用事かと首を傾げる。

 

「お休みのところすみません」

「別にいいけど……用事は?」

「此方を――曹操様からです」

「華琳様!?」

 

 女中は軽く挨拶をしてから恭しく一つの竹簡を荀彧へと渡す。

その竹簡の主の名を聞き、桂花は驚きと共に喜びを感じる。

華琳――桂花の主にして心を一色に染め上げる人物。

もしも華琳が男性であれば両親は喜んだろう。

しかし、華琳は女性であり、桂花はそんな彼女を愛していた。

 

 そんな愛しい人からの竹簡を、桂花は急いで受取ると封を見る。

竹簡が他の者に開けられた時に分かるように特殊な封をすることがある。

今回のもそれであり、その封は華琳しか使えない物で本物と判断出来た。

 

「何かし……ら……」

「ご愁傷様です」

「……はぁ」

 

 嬉々として開けてみて内容を読めば、気持ちが萎んだ。

中に書かれた内容は、補佐官の交換の説明。

この間消えた男性の代わりに、新たな補佐官を入れる旨が書かれていた。

 

 華琳なりの愛情だとは桂花も分かっている。

この先、華琳は大陸を取るだろう。

大陸を制覇して終わりではない。

そこからが文官達にとっての始まりである。

今までの国のように腐らないよう、一年でも長く国が残るように奮闘する。

 

 その中心となるのは桂花であり、ほかの軍師達。

勿論国を動かすのに彼女達だけでは足りない。

他の女性文官、男性文官、共に一団となって経営していかなければならない。

その時に男性と言うだけで目の仇にする桂花は問題にしかならなかった。

 

(表舞台を降りて影から支えればいいと思うのだけど……)

 

 そう思うも華琳がそれを許さない。

 

「はぁ……次はどの位持つかしら」

「……たぶん、だいぶ持つのではと」

「うん?」

「楊修様ですし」

「楊……修?」

 

 ため息を吐きつつ気だるげに呟けば、そのような答えが返ってくる。

女中の口から出た楊修なる人物。

その人物の名前を聞いて、桂花の頭の中で何かが引っかかる。

 

「楊修……楊修……何処かで聞いた覚えが」

「程昱様の補佐官をずっとしてる人ですよ」

「風の……?」

「気立て良く、真面目で有能な方と聞いたことがあります」

「ふ~ん……まぁ、男だし噂は当てにならないわね」

「あははは……」

「ありがとう。明日も早いのだから、あなたも休みなさい」

「ありがとうございます」

 

 女中を下がらせると、足早く棚に行き、その中で幾つかの竹簡を手に取り寝台の上に広げた。

風の補佐官だと聞いた瞬間、少しだけ思い出したのだ。

 

「これじゃない、こっちじゃなくて……」

 

 広げた竹簡の内容を読み漁り、微かな記憶を頼りに探していく。

幾つもある竹簡を素早く読み進めて数十分ほど経った頃。

 

「あった!」

 

 先ほどの引っかかるものを確信に変える文を見つめた。

 

「……えっと、これね」

 

 探していた物は双子の妹からの手紙。

その中に目的の物があった。

 

 内容的に言ってしまえば、友達を家に連れて帰るからねと言った簡素なもの。

それでも当事の桂花にとってこの手紙が驚きの連続であったことも思い出す。

自分同様男性嫌いの妹が男性の友達を作り、剰え家に滞在させる。

何の冗談だと本気で考え込んだものだ。

 

「……名前が楊修。うん、確かにこいつね」

 

 楊修が滞在した期間は案外短い。

一ヶ月も経たない内に旅に出てしまった為、桂花とは入れ違いとなり会っていなかった。

会ったとしても罵倒しかしなかったので問題はないが。

 

(お母さんもあの時は物凄く喜んでいたわよね)

 

 確認が取れればある程度思い出すことが出来た。

家に帰れば、両親も祖母も親戚も上機嫌。

家で働いていた女中も皆が皆、喜び泣く。

今まで男性を寄せ付けなかった姉妹の一人が男性の友達を家に連れて来たのだ、まさに狂喜乱舞であった。

 

 桂花自身も両親同様に喜ぶ。

妹が後を継いでくれれば、自分は好き勝手できるのだ。

恋花自身、弱みを握られた訳でもなく、納得しているならなおさらだ。

 

(あの日から催促がなくなったのに最近また催促されるようになったのは、これか)

 

 しかし最近になり、また催促が忙しなくやってくるようになった。

その事に不思議に思っていたが、原因が分かりぐったりと倒れこむ。

 

(互いに一緒の陣営でなく、別の陣営に居て進展なし。それを知ったお母さん達がまた危機を感じたと……)

 

 これには桂花も頭を抱える。

何をやっているんだと、妹の恋花に問いただしたい気分だ。

 

(というか思い出したけど……こいつって風とかなり仲良いわよね)

 

 更に追い討ちとばかりに新しい記憶が掘り出され、苦悶する。

朝、鏡の前で髪の手入れをさせていた所を何度か見ている。

お昼時や食事の時も常に一緒でお昼寝も一緒だ。

更には朝方に風の部屋から出てきたところを目撃したこともある。

 

(あれ……恋花詰んでない? 私詰んでない?)

 

 だらだらと冷や汗が流れ出す。

恋花の男性嫌いが治ったわけではないのだ。

唯一、この楊修だけが恋花と気が合っただけであり、偶然。

この偶然を取れなかったら、新たに良い人は出来るだろうか?

出来るわけがないと桂花は断言出来た。

容姿も思考も似通った妹なのだ、それぐらい分かる。

 

(恋花が結婚出来なかったら……私よね。長女だし……やばい、すっごくやばい!)

 

 ポタリ、ポタリと汗が垂れ、シーツを濡らす。

今はまだ、寛容に接してくれているからいいだろう。

しかし両親の我慢にも限界がある。

これまで以上に催促される手紙から読み取るに、限界が近いのだろう。

このままでは何処かの豪族の息子を宛てられる可能性がある。

 

(……何か、何か方法は)

 

 頭を抱え、シーツの上で苦悶し続ける。

仕事だけでも頭を抱える事態なのに加え、親からの催促、長女としての責任。

桂花の頭の中をぐるぐると回っていく。

 

「……」

 

 どれだけ悩んでいただろうか。

暫くシーツに顔を埋めて動かなくなり、息苦しくなった頃。

桂花は顔を勢いよく上げて、思いつく。

 

「遠いから進展がないのよね」

 

 起き上がって、今の状況を確認する。

 

「傍にいないから気軽に話せないし、関われない。つまりは――」

 

 寝台の上に座りなおし、近くにあった竹簡を手に取る。

その竹簡には桂花の実行した、あるいは考えた策が書かれている。

それを手に取り、中身を見つつ桂花は口元を歪め笑う。

 

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 閃いた策がそれであった。

陣営が一緒でない? 遠くて関われない?

相手滅ぼして引き込めばよくね? である。

 

(そもそも風とは仲良いけど、別に付き合ってないし婚約もしてない。つまりはまだ機会がある!)

 

 よく三軍師で集まった時に風が愚痴る事がある。

曰く、まったくもって靡かないと。

 

(風の補佐官から私に移ったのも幸運ね。これで前よりも接触が少なくなる)

 

 桂花としては恋花が此方にやってくるまで耐えれば良い。

しかもだ、袁紹との開戦の時に風を軍師として推薦すれば時間を更に稼げる。

 

(問題はその場合、私が残らないといけないのよね)

 

 チッと軽く舌打ちをして考え込む。

戦場に行ける軍師は他の陣営のことも考えて二人が限界だ。

桂花が行けば、風か稟のどちらかと一緒になる。

そうなってしまえば、戦場という事もあり、普段よりも親密に相談し合う。

そもそも離す為の策なのに一緒に居たら意味がない。

 

「しょうがないか」

 

 墨を擦り、新しい紙を出し考えを纏めていく。

 

「……」

 

 しかし、途中で筆が止まる。

あれこれと今後の事を考えている時に一つの項目で思考が停止した。

 

(私の部下になるということは、私との交流も増える訳で)

 

 結婚するにあたって家族関係はとても大事な要素の一つ。

特に家柄がよければよいほど気を使わなければいけない要素。

そんな大事な要素の中に男性嫌いの姉が居るというのはマイナス要素になるだろう。

 

(……態度を改めないといけない? 無理ね。そんな事が出来てたらこうなってないし。嫌われない程度でいいわよね?)

 

 普段の自分の態度を顧みて無理だと判断する。

 

(男に嫌われない程度ってどのぐらいかしら……)

 

 判断したのはいいが、次の問題はどのような態度で接すればいいのか。

そもそも男性に対して気遣った覚えなど皆無であり、誰であろうと態度は私生活においては変えてこなかった。故に男性に嫌われないような態度が分からない。分かるのは、普段の態度で行けば間違いなく失敗するであろうと言う事。

 

「ふぁ……」

 

 そんなことを考えていれば大きな欠伸が出た。

元々夜遅く、疲れて帰ってきていたところに頭を働かせたのだ、既に限界である。

ぼーっとしだす頭とまどろみを感じ、桂花はそこで深く考える事を諦め寝ることにした。

 

(……あまり関わらなければいいわよね)

 

 そう結論付け、灯りを消してそのまま眠気に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この半年後、桂花はもっと深く考えていればと後悔する。

目の前には少々怒った恋花と眉を顰め睨む風。

それと驚きの表情で桂花を見つめる他の面々。

 

 認めないだろうが、深く考えていれば、或いは疲れがなければ理解していただろう。

自分で言ったとおり、恋花とは思考が似ており、その思考が似ている人物が気に入った人物を自分が気に入らないわけがなかったのだと。




ツンツン桂花はもう少し後で、数ヶ月ほど経てば前作同様の関係になるかと……
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