上手な上司からの愛されかた   作:はごろもんフース

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あと、誤字脱字直してくださる方、毎回ありがとうございます。
そして、すみません。


幕間:上手な部下からの好かれ方 その1(風)

「今から飲みに行くわけ?」

 

 仕事も終わり、夕食を食べ終え目的地へと歩いている時であった。

荷物を持って歩いていれば、横から声が聞こえた。

 

「こんばんは、荀彧様。飲みに行くわけではありません。お風呂に入るところです」

「お風呂?」

 

 声の主は、九十九の上司である桂花であった。

横の廊下から歩いてきたらしく、横切った九十九を見つけ声を掛けたらしい。

 

 そんな桂花の問いかけに九十九は、手に持っていた桶を見せてこれからの予定を述べた。

述べるものの、桂花はその答えに眉を顰めて首を傾げる。

この答えに満足していない事が、丸分かりであった。

 

「開放日ではないわよ?」

 

 現代と違い、お風呂に気軽に入れるものではない。

湯を張るために、水を汲み入れ、薪を割りくべてお湯にする。

時間も人もお金もそれなりに掛かる為、入れる頻度は多くない。

 

 といっても、城に仕え、ある程度位が高ければお風呂に入れる頻度は多い。

華琳に仕える人は女性が多く、華琳自身が綺麗好きなため、良く湯船にお湯を張る。

その為、軍師や将といった人物達はお風呂に入れるのだ。

 

 しかし、今日は特にお湯を張ったという報告はなく。

それなのに九十九が、お風呂に入るといった事が疑問に思ったのだろう。

桂花は、九十九に対して少々不躾な視線を向けた。

 

「お城でなく、屋敷のほうですね」

「あぁ、なるほどね」

 

 その不躾な視線に、慣れた様子で視線を合わせ疑問を解消する答えを述べた。

この答えには、桂花も納得できたのだろう。

視線を改め、小さく頷いた。

 

「男の癖にお風呂ねー……」

「お風呂が好きなもので、出来れば毎日入りたいぐらいです」

「毎日……汚いよりはましね」

 

 現代で過ごした経験がある為、出来れば毎日入りたい。

しかし、九十九は屋敷を持たず、お城の兵舎を住みかにしているため叶わなかった。

それでも極たまに、許可を貰い自腹を切って城のお風呂を借りる事もある。

それほどまでに、この時代に生まれてからお風呂が好きになった。

 

「それでは、待たせるのも相手に悪いので……」

 

 話していれば、時間も忘れてしまいそうになり、話を切り上げようと会釈をして歩く。

 

「……って待ちなさい」

「おっと……」

 

 歩くも、その行動は桂花に服を掴まれ、妨害された。

 

「どうかしましたか?」

「相手に悪いのでって……何処で入る気してるのよ。自分の屋敷じゃないの?」

「あぁ……風様の屋敷です。ありがたいことに、湯を張った時は誘ってくれるんです」

「誘ってくれるって……」

 

 桂花の問いに、九十九は慣れきった様子で答える。

いや、実際に九十九は慣れきってしまっているのだろう。

おかしなことを言ったかなと不思議に思い首を傾げ、桂花を見つめる。

 

「……」

「えっと…………行っても宜しいでしょうか?」

 

 何やら険しい表情でぶつぶつと呟く桂花に九十九も困り果てた。

先ほども言ったとおり、お風呂を沸かすというのはお金も人もかかる。

時間が経てば当然お湯は温度を失い、冷めてしまったらもう一度沸かす手間が掛かってしまう。

そのため、桂花に九十九は恐る恐る問いかけた。

 

「……そうね。行っていいわよ」

「それでは」

 

 問いかければ、眉を顰めたままであったが、服を放してくれた。

九十九は、ほっとしつつも会釈をして足早に桂花の前から去る。

その去っていく後姿を桂花は大きく溜息を吐き、険しい表情で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風は、お風呂場で目的の人物が来るのを辛抱強く待つ。

既に湯船には、湯が張っているものの入る気はない。

暫く待っていれば、扉が開き、目的の人物である九十九が姿を現した。

 

「待ってましたー」

「……」

 

 九十九の姿を見て、風は待ってましたとばかりに呼びかける。

呼びかけると静かに扉が閉められた。扉を閉められても風は、焦らない。

九十九の事はよく理解しており、この後の彼の対応も分かりきっていた。

 

「……戻ってきましたね」

「案内されたのですが……」

 

 九十九のお風呂好きは、良く理解している。

先ほどと違い、腰に手拭いをしっかりと巻いて九十九は扉を改めて開き姿を現した。

 

「ご覧の通り、一緒に入ろうと待ち伏せしてました」

「……よろしいので?」

「ふふふ……待ち伏せして待っていたのに、よろしいも何もないですよー」

 

 何時ものように、眠たげな目で手を口に当て風は答える。

 

「……お邪魔します」

「相変わらず、好きですねー」

 

 風を見て眉を顰めるも九十九は扉を閉め、お風呂に入ることを選択する。

悩む暇もほぼなく選択した九十九に、風は内心で自分の策が上手くいった事を喜ぶ。

 

 九十九がお風呂を好きだと言うことを知って以来、ずっとずっと風は策を練っていた。

自分の屋敷でお湯を張れば、九十九を誘う。

誘うも、ぐっと堪え一緒に入らない、断られるのが目に見えていたからだ。

まだ慌てるところではないと、ただ只管に自身の屋敷でお風呂に入ることに疑問がわかないほどに刷り込む。

 

 そして刷り込んだ結果が、これだ。

日常化としてしまったものを諦めるという行為を、人間は中々に出来ない。

それを利用し、ちょっとやそっとの障害があろうと日常化したことを優先するように思考を誘導した。何よりだ、普段からお世話になっていて、親しい風が相手となれば、断る確率は更に減る。

 

「それでは、体を洗ってもらえますか?」

「……自分がですか」

「はい、お願いしますね?」

 

 念願の混浴が叶ったお蔭で風の機嫌は物凄く良く、椅子に座り、冗談めかして九十九へとそんな問いかけをする。

 

「失礼します」

「あれ……?」

 

 冗談で告げた風に対して、九十九は静かに行動した。

桶に湯を入れ、風の前に跪き手を取る。

そこには迷いがなく、きめ細かい手拭いを濡らし丁寧に優しく、垢を擦って行く。

 

 右手を洗われる様子を見て、風は理解が追いつかず、不思議そうに首を傾げる。

しかし、両方の手と両足が終わり、風が体に巻いていた手拭いに九十九が手を出した時に、自分の状況を理解した。

状況を理解し、慌てるも既に時遅く。

九十九は、呆気ないほど簡単に風の手縫いを取ってしまう。

 

「あっ……」

「っと」

 

 取れれば、正面の九十九に対して風は真っ裸。

全てを晒した状態、生まれた姿のままとなる。

そのことを理解し、反射的に風は腰を若干引いてしまう。

 

 しかし、この行為がいけなかった。

倒れると判断したのか、九十九は空いている手を風の腰に回し受け止め、ぐっと近寄らせる。

そして、その状態で九十九は、風の首から手拭いで拭いて行く。

 

「あぅ」

「……」

 

 首から肩、そして胸へと手拭いが伸びる。

風の体型は、それほど素晴らしいというものでもない。

それでも胸は、胸。

異性に――好意を抱いている相手に触れられれば、声が出るのは無理もない。

 

(自分から攻めるのと……相手から攻められるのがこんなにも違うとは……)

 

 普段は、自分から攻めている風であったが、今まで相手にされたことはない。

何より、九十九から積極的に迫ることも初めての経験だ。

それゆえに、喜びよりも驚きが上回り、頭が混乱する。

 

 空いている手で、九十九の手を止めようか?

否、この状況はある意味で自分が望んだ状況なのだと思考が空回る。

 

 万の敵を相手にしても、取り乱さない軍師。

そんな軍師がたった一人の男性の前では、普通の少女のようにうろたえる。

 

「ひぅっ」

「擽ったかったですか? ……もう少しゆっくりしますね」

 

 うろたえていれば、胸が終わり、脇とお腹へと移る。

その事に気付き、声を更に出してしまう。

既に手と視線は下へ下へと向けられている。

自分の大事な部分まで見られ、お風呂に入ってもいないのに体がカッカと火照った。

涙が出るぐらいの、嬉しさと期待と恥ずかしさが混ざった複雑な感情を味わう。

 

「っ」

「……」

 

 そして遂にその時が来た。

お腹もわき腹も終わり、残りは一箇所。

既に出来上がり、息も熱い物へと変化している。

風は、目をぎゅっと瞑りそのときを待つ。

 

 

(このような状態で触れられたら……)

「……」

 

――待つ。

 

(期待させておいて、それはないんじゃないでしょうか)

 

 待つもその時は、やってこない。

お腹とわき腹を洗い終わった九十九は、さっさと後ろに移動して風の髪をかき上げ、背中を拭いていく。

ここまで高まっていった期待感は、何処へやら。

火照った体も、真冬の山に放り出されたように冷え切る。

結局、九十九が積極的であったのはそこまで……残りは淡々と背中と頭を洗い終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……あそこは無理ですって」

 

 体も洗い終わり、風と共に九十九は湯船に浸かる。

念願の湯船であったが、風が不機嫌になり、先ほどから九十九を睨む。

 

「……むーっ」

「あれが限界です。むしろ、頑張りました」

 

 そう言って、目を瞑れば九十九の脳裏に先ほどの風の体が思い浮かぶ。

きめ細かい綺麗な白い肌、体系こそ子供に近いものの、色気はあり、しっかりと大人であった。

首から下まで、しっかりと見てしまったせいか、暫くは夢で見るなと九十九は苦悶する。

 

『期待させといてひでぃ野郎だ』

「宝譿は、脱衣所ですよ」

「そうでした」

 

 何時もの癖か、宝譿がいない事を忘れるほど思考が回らないのか、風は腹話術で声を出してしまう。

 

「ぶくぶくぶく」

 

 そして、風は口まで湯船に浸かるとぶくぶくと泡を立て始める。

蟹の様だと思いつつも、このままではいけないと九十九は考え始めた。

 

「失礼します」

「……おろ」

 

 考え、しょうがないとばかりに溜息を吐く。

自分の手拭いを腰にしっかりと巻き直し、睨む風のわき腹に手を入れ、運び後ろから抱き着く形で収めた。

 

「今は、これでご勘弁を」

「……しょうがないですねー。上がるまでこの体勢ですよ?」

「あー……はい」

 

 背中をぴったりと貼り付け、見上げてくる風に九十九は、苦笑する。

風の機嫌も若干良くなった。

 

「そういえば……やけに風の体を洗うのが手馴れてましたけど?」

「手馴れてるかもしれません」

「誰か洗ってたんですか?」

「……級友に、病弱を盾にして動かない奴が居まして」

「その子のお世話を?」

「しないとお風呂にすら入らなかったので……」

 

 風の問いかけに九十九は、昔を思い出し苦笑する。

 

「どんな子だったんですか?」

「どんな子……ですか」

 

 会話の流れを変えるためだろうか、九十九を気遣ってだろうか、風が先ほどの病弱という級友について尋ねた。

その問いに九十九は、懐かしいとばかりに微笑む。

 

「名を司馬仲達(しばちゅうたつ)と申しまして司馬家の娘さんです」

「司馬家の麒麟児ですか」

「はい……よく倒れたり、寝込んだりとする娘でした」

「……華琳様の仕官を断るのも頷けるほど弱いですね」

「やはり誘いましたか」

 

 昔の級友を思い出し、九十九は微笑む。

 

「華琳様は、諦めてないですし……そのうち九十九さんに話が行くかも知れません」

「可能性はありますね」

「風から進言しますか?」

 

 風の言葉に九十九は少し黙り込み考える。

病弱である仲達を仕官させるべきか、させないべきかと。

 

『熱が出たと聞いたのだけど……』

『面白い本が送られてきてな。読みたいから、仮病じゃ』

 

『倒れたけど大丈夫か?』

『寝るの忘れとった』

 

『どうした?』

『ぐふっ……もう無理じゃ。歩けん』

『ほれ、背中に乗れ』

『はぁ……歩かなくて楽』

『……』

 

 次々に思い出す仲達との思い出。

それらを思い出し、九十九は一つの結論を導き出す。

 

「……ただのニートだ、これ」

「似萎人?」

「病弱ではありますが、命に関わるほどではなかった筈です。無理をさせなければ、問題ないでしょう」

 

 だんだんと思い出し呆れる。

病弱と言うよりも、面倒臭がり屋の面が際立つ。

今回のことも面倒になり、華琳の誘いを断ったのだろうと判断した。

むしろ、これからの事を考えたら働かせた方が本人のためになるだろう。

 

「そうですか、なら風は特に言いません」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「いえいえ、いつも気遣われてますからね。これぐらいでしたら……」

 

 先ほどの騒ぎは何処へやら、気付けば和やかな空気が二人を包む。

 

「あと……」

「はい?」

「これからお風呂に入る際は、毎回混浴で体も洗ってくださいねー」

「……え゛」

 

 最後の最後、風の言葉に九十九は表情を引き攣らせた。




黒髪長髪病弱ロリばばぁ(口調のみ)

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