…ぐっだぐだやで…。
巨大な円卓に、豪華な椅子が、四一席。
しかしそこにある影は…三つ。
「本当にお久しぶりです、ヘロヘロさん、それに
「いやー、本当におひさーです、モモンガさん、hematite。さん」
成人した男性の声が二つ。
そして声ではなく、文章で会話に参加する一人。
この文章は大抵誰かが読み上げ、そして返事をする、それが当たり前になっていた。
「えっと、長い間来れなくてすみませんでした…ってそんな、仕方ないですよ、仕事が忙しくなって来たくても来れないって以前言ってましたし…。そうだ、ヘロヘロさんはリアルで転職をされて以来ですから…」
ピョコン、と笑顔のマーク。そうして話は黒色のどろどろ…ヘロヘロへと移る。この時もし表情に変化があったら、hematite。はどんな顔をしていただろうか。例えDMMO-RPGの中で最高峰と呼ばれていたユグドラシルでも、表情の変化というのは字術的に不可能だった。
二人(人と言って良いのか分からないが中身は人間なのだから良いのだろう)の会話を聞きながら、椅子には座れないため床に伏せるキマイラ…それがhematite。だった。
久々にログインし、久々に訪れた愛しのギルド。
しかしそこには数人しか居らず、見慣れた仲間達は殆ど居なかった。今残っているのはhematite。、ヘロヘロ、そしてギルド長であるモモンガのみ。
…普段仕事で会っている友達は、今日も仕事なのだろう、それとも…最近話題に出していなかったがもしかしてもうユグドラシルを辞めていたのだろうか。そんな事を考えつつhematite。は話をしている二人に目を向ける。
仕事が忙しくて来れなかったのはhematite。だけではなく、ヘロヘロもだ。この御時世、働かなくては生きていけない、身体を壊していても休めない。ヘロヘロは愚痴をこぼしモモンガが聞く。hematite。は入っていけずにただ二人の話を聞いて、自分はまだ良い生活をしているんだ、等と考える。
このギルド、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは皆社会人であり、異形種を選択したプレイヤーのみで出来ている。中には高給取りも居たし、ヘロヘロやモモンガのように所謂ブラック企業に務めている会社員も…いや、寧ろこの時代にホワイト企業なんてあるのだろうか。そう考えるとhematite。の職業はまだホワイトな方なのだろう。この場に居る二人には、言えないが。
またhematite。が考え事をしていると、ヘロヘロはそろそろ…と切り出してきた。
「あぁ、確かにもう時間ですね…」
「すいません、モモンガさん、hematite。さん」
謝られるとhematite。は、お気になさらず、と打ち込む。話を聞いていただけではあったが、退屈ではなく寧ろ少し楽しかった、そう思っていたhematite。にとっては、あっという間だった。
久々に仲間の話が聞けた、それだけで心は満たされていた。
そしてまた考え事をしている中、ヘロヘロの言葉で、ハッとなる。
「…でも正直ここがまだ残っているなんて思ってもいませんでしたよ」
この時モモンガは何を思っただろうか。hematite。は暖かくなっていた心が途端に冷めていくのを感じていた。しかしヘロヘロの言葉に、また心が暖まる。
自分達がいつ帰ってきてもいいように維持してくれていたんですね、と、その通りだと聞いていて思った。モモンガのおかげでまたここに来れたのだ、本当に感謝してもしきれないだろう。
そして、ヘロヘロは去っていく。またどこかでお会いしましょうと言葉を残して。hematite。は思わず、どこで会うんだ、そう思ってしまった。
ふと、モモンガの方へ視線を向ける。モモンガはポツリと、hematite。の存在を忘れているかのように呟いた。
「今日がサービス終了の日ですし、お疲れなのは理解出来ますが、せっかくですから最後まで残っていかれませんか」
それが本音だったのだろう、ヘロヘロは
そしてモモンガは思い出したのか慌ててhematite。の方を向き謝った、気にしないでくださいと文字を打つ。どうせ最後なら喋ってしまっても構わないのかもしれないが、面倒事が起きるかもしれない、それは避けたい。
そしてモモンガは、文字を読むのも忘れる程に、何か思う所があったのだろう。
「どこかでお会いしましょう…か。どこで、何時会うのだろうね」
そうモモンガは呟き、次の瞬間、
「____ふざけるな!」
モモンガは両手をテーブルに叩きつける。椅子に座っていなくて良かったかもしれないとhematite。は思った。怖い。でも怖さよりも、そうなっても仕方ないという気持ちが大きかった。自分も思ったのだから。皆で作り上げたナザリック地下大墳墓、それをなぜ簡単に捨てられる、とモモンガは叫ぶ。
読まれないかもしれないが、とhematite。は文字を打った。分かってますよね、と。自分が言えたことではないが、みんな…簡単に捨てた訳ではない、と。
「あ…すいません、hematite。さん…そうですよね、誰も裏切ってなんかない。皆も苦渋の選択だったんですよね…」
冷静になったのか、hematite。に気が付きそっと近寄るモモンガ。美しい鬣に、骨の手が乗せられる。ギルドメンバーはよくこうしてhematite。の鬣を撫でていた。
また懐かしさが蘇る。
「私は最後まで居ます、居させて下さい…、勿論ですよ!そう言ってくれて、嬉しいです、hematite。さん」
文字を読みそう言うとモモンガは立ち上がる。そして向かった先には…皆で作り上げたギルドの象徴、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあった。
続きます。