そろそろ起きるってばねー。と居間のほうから声が聞こえる。
もぞもぞと布団から這い出ると大きな欠伸をしつつボテボテと声のするほうに向かう。
「おはようナルト」
目の前の赤い髪の女性がにこやかに声を掛ける。「おはようだってばよ」とこちらも返す。
昔を思えば絶対にありえない風景だった。何せ目の前にいる女性は本当ならば自分が生まれてすぐに亡くなったはずの母なのだから。
「だいぶ無理したみたいだけど大丈夫?」
「問題ないってばよ。この体が必要以上のチャクラに耐えられないのが原因なんだってばよ(それと女性化クラマモードのショックがでかいってばよ)」
そうなのだ、演習場でいろいろやってみた結果、体がチャクラの負荷に耐えきれなくなったときなど、恐らく子供になってしまったが為に突然電池切れのように倒れてしまうのだ。
それでも流石は元七代目というべきか。チャクラ量などは同年代のそれとは比較できない程である。
また仙術モードや九喇嘛モードなどでの強化はもとより、転生以前につかえていた忍術や幻術などは全て使用できることが分かった。体術に至っては子供の筋力ではまだ限界があるためか使用が制限されてしまうが一応の限界値を知ることはできた。
「って幻術は苦手なんだけどなー」
「何か言ったってばね?」
「べつになんでもないってばよ」
そういいながら居間に並べてある物を見つめた。朝食だろうか?
「有り合わせの材料でご飯をつくってみたってばね」と母はいう、意外と料理上手なのかもしれないとナルトは思った。
初めての母の料理に「どうおいしい?」と子供のような目をしながら聞いてくる。
一口食べて(めっちゃ普通の味だってばよ)と思ったが「うん、なんか母ちゃんの味って感じがするってばよ」と素直な感想を述べる。
いや、決してまずくはないのだが、記憶の中のヒナタの作る料理が美味しすぎたのが原因だった。
ナルトはこれ以上コメントしづらいと感じてすぐさま話題を切り替える。
「そ、そういや。父ちゃんはどこにいったってばよ?」
「なんでも根回しをするため?とかで空区に行くって朝出かけてったってばね」
空区とはどの国や里にも属さない土地のことだが、その地には忍専門に武器を供給する闇商人一族がひそかに店を営んでいる場所でもある。
「ふーん、それで母ちゃんはどうするってばよ?ずっと家の中に居てもすることもあんまり無いんじゃ」
「あーそれなんだけどね、私は隠遁って苦手だから結局何もしないほうが里の皆にはばれにくいってばね」
「変化の術とか使っても無理そう?」
「あはは、性格的になぜかバレる自信があるってばね…orz」
「(かあちゃんどんだけ隠遁下手なんだってばよ…)でも変化の術で姿を変えたうえで子供に化けてたら結構平気だと思うってばよ?」
「! その手があったってばね !」
「まぁ母ちゃんの好きにするといいってばよ。俺は今日ヒナタに逢いに行ってくるってば」
「うんうんありがとうナルトー、これで買い物に行けるから今晩は美味しいごはんつくってあげるってばね。いってらっしゃいナルトー」
そう送り出してくれる母クシナ。子供時代に”いってらっしゃい”などと声をかけてもらったことなどほとんど無かったなぁなどとにやけ顔で外へ飛び出しているナルトだった。
「子供時代を思い出しつつ子供っぽくするのも実は精神的に辛かったりもするんだけどなぁ」
『でも体に少しは引っ張られるのか?、ナルトちょっと子供っぽく感じるな』
「それは実は俺も思ってたってばよ。精神が肉体に引っ張られるってこういうことなのかもしれないってばよ」
そんなことを思いつつ、街中や雑踏を避け遠回りするようにヒナタの家に向かう。念のためというのもあるが少年時代にあった自分に対しての非難を避けるためでもある。
少し急ぎ足で走り、屋根から屋根へととびうつりながら暫くすると木の葉でも古参のとある一族が暮らす区画へと景色が変わる。日向家だ。
「(昔も思ってたけど日向の屋敷はやっぱりでかいってばよ。さてヒナタの家に来たのはいいけどどうやってヒナタを呼びだそうかな)」
『忍びらしく普通に忍び込めばいいんじゃないのか?』
「(ダメだってばよ、流石に初対面で義父さんに変な印象は与えたくないってばよ)」
『なら考えるな普通に正面から行けばいい、臨機応変上等だろが』
まあいつものことか、とおもい普通に正面口から入ることにした。すると「まてっ」と声が掛かる。
声のする方を向くと記憶の中ではヒナタの付き人をしていた日向コウがいた。
「あ、コウさんだってばよ。お早うございます。ヒナタいるってばよ?」
「お、おはよう…ってなんでおまえが俺の名前とヒナタ様をしってるんだ」
「??(あー!そっか俺ってばまだコウさんとは出会ってすらなかったってばよ。どうしよう、えっとそうだごり押しで誤魔化すってばよ)」
つい昔の癖で普通に会話をしてしまったナルトは、この時代この時点では初対面の筈だったとおもい出したのだ。そこでナルトはこう答えた。
「に、忍者の卵として、情報収集は基本だってばよ。日向と言えば宗家のヒアシ様と弟のヒザシ様の二人を筆頭に。たしかコウさんの名前と写真も上位に記載されてたってばよ」
「上位に…ほんとか?」
「え、うん。俺ってば三代目のじいちゃんの家に厄介になってるから、そんときこっそり覗き見たからまちがいまいってばよ」
「三代目様の、おまえ波風ナルトって名か?」
「(あれ、うずまきじゃないの?波風?転生の影響なのかな?ともあれ、間違いではないってば。よし)そうだってばよ。四代目火影、波風ミナトとうずまきクシナの息子。ナルトだってばよ!」
このときはじめて自分の名前が波風ナルトと知ったのだが、現時点ではなぜ”うずまき”じゃないのかは知る由がなかった。
「そうか、おまえがナルトか」
「でカッコいい。きっとすぐ上忍かもしれないコウさんはヒナタを呼んできてはくれないってばよ?」
「ま、まってろ今みてきてやる(そうかこのまま努力すれば俺も上忍に推薦されるのも数年のうちだな)」
コウはそういうと母屋に入ってヒナタの名前を呼び始めた。どうやら中にいるようだ。
「(チョロいってばよ。日向一族の中じゃたしか上位に位置付けされてたはず)」
『ナルト、詐欺師ぽいな』
「(これも立派な忍術の一つ。風の術だってばよ)」
そうこうしてるうちに母屋のほうから駆けてくる少女がいた。
「ナルトっ」
そういうと、ナルトにぎゅっと抱きつく。ナルトもヒナタの頭に手を乗せて撫でてやる。
※ちなみにヒナタはこの時代ナルトのことをナルト君と言っていたが夫婦になり時がたつにつれて名前で呼ぶようになっていたため転生した後も昔同様に呼び捨てである。
「またせてごめんだってばよ。なにか変わったこととかないってば?」
「うん大丈夫。ナルトも平気だった?」
「へへ、ヒナタに会えなくて寂しかったってばよ」
「私も…」
そういって流れるようにごく自然にピンク空間を作り出す二人に対してコウは
「ちよーっとまったーーーー!ヒナタ様お離れ下さい。こいつはえっと、あのですね」
「大丈夫よコウ。ナルトは九尾でもないし、化け物でもないから」
「九?あっ…いやしかし、だからといっていきなり抱きつくなどと…宗家の嫡子としても…ですね」
「門の前で何を騒いでおる。おや?君はたしか」
そんなやり取りをしていると騒ぎに気がついたのか当主であるヒアシがこちらへやってくる。
「あ、お義父さんお早うございます。元気そうで何よりだってばよ」
とつい声を掛けてしまうナルト。その言葉にピクリとヒアシが反応する。
「おとうさん…だと?あぁそうか。自分の父親と間違えてつい言ってしまったんだな。ビックリしたぞ」
「ん。もしかしてヒザシさんだった?」
「?私の父上の日向ヒアシであってるよ」
「ならやっぱりお義父さんであってるってばよ!」
「おまえにお・と・う・さ・んと言われる筋合いはない。子供だからと多目に見ていたが許さん。というか貴様ヒナタから手を離せ、離れろ」
「父上!愛に歳は関係ないです」
「あ、愛…いやしかしお前は二歳と十一か月だろう」
「(そういえばナルト、この世界で父上とお合いするのってこれが初めてじゃない?)」
そこでナルトはコウと同じでこの時代ではまだ出会ってすらいないことに気が付く。
「(あー、またやっちまったってばよ、どうしよヒナタ。でもまぁ勢いってのは大事だってばよ。よし男は度胸)」
「なにをこそこそ話している、貴様のような…」
「お義父さん、俺はヒナタを愛してるってばよ。だからヒナタとお付き合いを前提とした結婚を認めてほしいってばよ!」
「(ナルト///、凄く嬉しいんだけど逆だよ逆)」
「逆?」
『あのなナルト、普通は結婚を前提にお付き合いしてください。とかだろが、そもそもそんな話をするときは正装してくるもんだバカもん』
と心底呆れたように九喇嘛がぼやく。死んでもバカは治らないというが本当だったなと。
「(ってお義父さんなんかプルプルしてるってばよ…むっちゃ怒ってる?)」
その言葉を聞いたヒアシは目元に血管を浮き滾らせ全身にチャクラを巡らし始める。
「よーしそうかそうか、血痕を前程とした殴り愛と言う名のお突き欸がしたいか。よかろう覚悟しろ」
「ちょっと順番が逆だっただけだってばよお義父さん。それからなんか意味合いが違う気がするってばよ」
「問答無用。ミナトの忘れ形見と思って庇護していたが今日これまでだ。一人娘は貴様なんぞに渡さんっ」
「ちょっ、ヒアシ様、子供相手に本気を出さなくても」
「黙れコウ。まだ足掛け三歳の娘にもう虫がついたのだぞ。虫は取り払わねばならぬ。そこをどけぃ」
「俺はヒナタが大好きだってばよ!お義父さんが障害になるなら俺は戦ってヒナタを奪うってばよ」
「よく抜かした。こい相手をしてやる」
「あわわ(でもうれしいよー///)私も大好きー頑張ってナルトー」
「なぬっ、ヒナタお前は父を応援しないのか…ナルトよ、もはや手加減などできぬ」
ヒアシはいきなり全力全開のチャクラで八卦空壁掌を繰り出す。対してナルトはかろうじて瞬身の術で攻撃を避ける。避けた背後では形態変化させたチャクラの塊が門壁を破壊する。しかし回避が不十分だったため、続けざまに放たれた八卦空掌による追撃を受ける。
「あぐっ、ぃってー(ガードはしたけど流石にこの体はハンデ過ぎるってばよ)」
「まさか、瞬身の術をその歳でつかうとはな黄色い閃光の忘れ形見なだけはあるか、しかし日向は木の葉で最強。逃げ足だけでは勝てぬぞ」
ヒアシの連続で繰り出される柔拳をナルトはチャクラではじくように防御し、時にチャクラで包み込むようにしてかわしていく。これはナルトが火影時代にヒナタと訓練するために考案した対柔拳組手で。微細なチャクラコントロールを必要とする高等格闘術ではあるが、仙人と尾獣のチャクラを操ることのできるナルトはほとんど感でこなす。
「勢いで口走ったが、後悔はまったくねぇ。俺はまっすぐ自分の忍道はまげねぇ。お義父さん覚悟するってばよ」
「まだいうか貴様ー(とはいえいい一撃がきまらぬ、ほんとにこいつはヒナタと同じ三歳児か…)」
ヒアシは攻撃をしながら驚きを覚えていた。多少冷静になって(最初の一発は本気に近かった)手加減をしていたが、それでもナルトの体捌、チャクラコントロール、何より柔拳を裁く観察眼に対して感嘆を覚えていた。どこでここまで鍛えたのか…と考えていた時。
「いくってばよ。多重影分身の術&風遁・大突破ぁー」
数人のナルトが出現し影分身三人係で忍術を発動させる。しかしそこは流石ヒアシ、八卦掌回天を使い上手く技をいなしダメージを最小限に留める。
「ま、まさかまだ下忍にもなっていない子供がこんな術を使えるなんて」
目の前で繰り広げられているナルトとヒアシの攻防に目を離すことなく見入るコウ。眼前では攻防が続いていた。
手裏剣影分身で無数に増えた手裏剣をさらに風遁・烈風掌で追い風を起こし攻撃に幅を持たせ攻撃を仕掛けるナルトに対し八卦掌回天を部分展開するかのごとく歩幅を進めて攻撃を繰り出すヒアシ。
「ナルトの実力はまだこんなんじゃないよ、コウ」
「今度はこっちから攻めるってばよ」
いうやいなや、数人の影分身達が再び瞬身の術を使い距離を縮め波状攻撃を仕掛ける。しかし相手も手練れ。体さばきと八卦によるカウンターで次々と影分身を消していく。
「たしかにチャクラの量は大したものだがまだ未熟」
「それは重々わかってるってばよ、くらえ螺旋丸」
波状攻撃すらも囮にした螺旋丸を頭上より落としに掛かり勝負は決したかに見えたが
「油断はしていない」
こちらも攻撃を見抜いていたのか八卦掌回天を利用した妙技で螺旋丸を弾き滑らせ容赦ない突きがナルトに深々と突き刺さる。
「暫くは起き上がれまい」
「お義父さんならそう来ると思ってたってばよ!仙術風遁螺旋丸乱れ撃ち!」
「な、仙術だとー、ぬわーーーー」
「ヒ、ヒアシサマー」
勝利したと気を抜いた瞬間の一撃。つい”ひ、ヒアシダイーン”と叫びたくなる見事な一撃だった。
最後は瞬身の術ではなく、飛雷神二ノ段をつかい先ほど放った手裏剣の内の一枚より近距離に出現しての一撃だったため回避不能であった。
「二シシ、忍者は裏の裏をかくべし。愛は勝つってばよ!これで堂々とヒナタといちゃいちゃてきるってばよ!!」
「もう、ナルトったら///でもちょっとやり過ぎ、父上結構危ないかも」
「ヒアシ様、ヒアシさまーー」
「わ、私が…まさか…」
「父上すこし動かないで下さい。治療忍術で応急処置をしますから」
「治療忍術?ひ、ヒナタお前まで…どこでこの知識を。あぁ、そうか夢だなこれは。昨日父上大好きとか言われたからな。そうに違いない…」
そしてヒアシは現実逃避した。 まだ続きがあるとも知らず気を失ったのだった。