征海魔王   作:カンジョー

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二十三話、まつろわぬ水天

 まつろわぬ水天が右手を掲げる。すると海人と水天を中心とした周囲が隆起した。

 水は膜となり、海人の頭上で閉じようとしている。海人が動けないのをいいことに、海人を水の膜に閉じ込めようというのだ。

 

「くそッ、なんだこれは!」

 

 海人は必死にもがいた。足には粘土のような質感の、透き通った水が張り付いていたのだ。

 ようやく海人は足を引き抜く。しかし、周囲は風呂場、湯が張られていた。仕方なしに宙ぶらりんだった足を前に下ろすと、足にまた水が絡みつく。うじゃうじゃと絡みつく水はむず痒かった。

 どうこう迷っている間に、水の膜が海人の頭上まで覆い隠し、海人は閉じ込められてしまった。

 

 海人は、田植えをしている時の気分を思い出した。田んぼから足を引き抜いては行きたい方向に突っ込み、今度は反対の足を引き抜いたらまた突っ込む。それに似ていた。

 だから海人は前に進んだ。前に進んであの優雅に舞い踊る水天の脳天に、槍を突き入れればいい。船の上でひとつでを殺す時の力加減でやれば簡単なことだ。海人は槍を握りしめた。

 まつろわぬ水天は青く透けた布をはためかせ、見たこともない舞いを踊っていた。口からは歌を兼ねた聖句を紡ぎながら、見る者を魅了する踊りだ。

 

 紡がれた聖句のとおりに、水の膜の内側から水が触手のように伸びた。水が鞭のようにしなり、海人の背中を打ち付けた。

 

「ぐはっ」

 

 死角からの攻撃の直撃を受け、たまらず海人は胃の空気を吐き出した。

 一撃だけでも海人が悶絶する強かな水の鞭。水天の口から聖句が紡がれると、その指示通りに鞭が、一つずつではなく同時に、それも四方八方から襲いかかってきた。海人でもこの時は捌ききれなかった。

 一対多の戦闘は、海人も何度か繰り返した。水の鞭だけだったら対処できたかもしれない。しかし今は足場が最悪、体の向きを変えるだけでも一苦労。その場で足を固定しながら、攻撃の応対しなければいけなかった。

 

 体の至る所に赤痣を作りながら、必死に身を守る海人。

 対して水天は舞い踊るばかり。まつろわぬ神の宿敵、命を脅かすであろう神殺しがいるというのに、目をつむって自分の世界に入っていた。海人のことも認識しているかすら疑わしかった。

 

「あいつ……」

 

 その余裕の態度に一矢報いようと、海人の心に火がつく。一歩、また一歩と着実に足を進め、水場を一息に駆け抜けた。

 水の膜まで近づくと、持つ槍で膜を食い破る。水の鞭からの防御は最低限、背中を多く打たれてしまった。

 

「こっちを……向きやがれッ!」

 

 舞いに集中する水天の脳天に、海人は槍を突き入れた。海人の言い放った言葉に反応し、水天がようやく目を開く。

 刹那、槍は狙い通り脳天を貫き、水天の顔は粉々に飛び散った。

 だが海人は成果に笑みを浮かべるのではなく、唖然とした。槍を刺された水天の頭は水風船の如く破裂し、破片は海人の顔にも飛び散ったからだ。

 顔に飛び散ったそれは、水滴だった。

 

 次の瞬間、頭を失った水天の体はどろりと透明な水に溶け変わった。水は宙を移動し、水天の頭を形作ると、それが水天の頭となった

 水天の頭は完璧に再生した。

 再生した顔の目で水天は、唖然としている海人を見た。予想通りの反応を確認し、水天はうまくいった、としたり顔で笑みを浮かべた。

 

 突き出された槍を、水天が掴む。細腕からは想像できない強い力だ。

 よく見ると手のひらと槍の間に水が挟まっている。この腕力は水を操作しての強さだった。

 

「叶わないというのが良く理解できたでしょう」

 

「何……!?」

 

「私を討滅するということがです。あなたの槍が私に届いたとしても、かすり傷ひとつつけることはできない」

 

 海人が必死に槍を引き離そうとするも、水天は涼しい顔をして目前で挑発を続ける。

 

「あの愚かな七つ頭の蛇とは違うのです。七つも考える脳があっても、脳の回転は愚鈍な獣と同じ。無尽蔵の生命力を持っていながらあなたに負ける、その程度の者だったのですよ」

 

「お前……ッ!?」

 

 ようやく手を振り払った海人は、大きく後ろに距離をとった。

 岩場の上だ。また水場に戻るという間抜けな失敗はさすがに犯さなかった。

 

「あいつを知っているのか?」

 

「当たり前でしょう。あの湖は地脈の集中点、あの蛇が湖にいる限り、お互いに傷を負わせることはできない。あの七頭の竜は、目の上のたんこぶでした」

 

 水天と七頭の竜、八郎太郎はにらみ合い、均衡を保っていた。もっとも八郎太郎にとっては住処を荒らす外敵を排除していたに過ぎず、水天には目もくれていなかったのだが。

 

「この山まで誘い込めれば私の有利は揺らぎなかったのですが、あいにくあの蛇は湖を動きませんでした。……しかし、あなたが蛇を討滅してくれた。そのことにだけは感謝せねばなりませんね、安東海人」

 

 水天は有難く受けて取れとばかりに言い放つ。全く感謝しているようには感じない尊大な態度だった。

 

「ありがとうございます。そしてさようなら。あなたのおかげで我らが大願への成就に一歩を進めることができる。この島国を掌握し、私を唯一神と崇める宗教をこの地から広めましょう!」

 

「その大願とやらは今日ここで終わる。おれがお前をここでぶっ殺す!」

 

「そっくりそのままお返ししましょう、あなたの人間としての生より短い神殺しの生がここで終わるのです。……目を見開き周囲をご覧なさい、この水の楽園を! あなたが勝つ可能性など、一片たりともありません!」

 

 水天が両腕を大きく大の字に開いた。海人と水天を取り囲む様に水柱が湧き上がった。

 水天の言う通り、周囲は沸かされた湯でいっぱいだ。恐山の上流で溜まっており、下流には行き届いていない。

 まつろわぬ神が浴びるほど水があるのに、下界の民は水を求めて雨乞いを行い、神にすがっているのだ。

 

「私の体は周囲の水を集めて再生します。周りに水がある限り、私の体が朽ち果てることはない。……私は神力の源である水を手に入れ、民草は水を求めて私を崇める。これらすべて、私が付近の大地から搾取したとも知らずにね!」

 

 雨乞いをしていた民は、川が枯れた元凶を知らずに、その元凶に祈りを捧げていたのだ。

 先ほどまでいた老人たちがそうだ。海人は彼らのことを考えると、腸が煮えくり返る思いだった。

 

 水天のせいで飢餓に苦しんだ者の無念を晴らしてやりたい。だが水天の言う権能の力が真実ならば、海人は勝ち筋を失くしてしまう。

 海人が傷を負わせても、水天は水を集めて傷を治してしまう。周囲を見渡せば温められた湯、水には事欠かない。

 ならば水のない枯れた地に誘い出そうにも、それに水天が間抜けにも乗ることは考えられない。

 

 水天が圧倒的有利になる戦場に誘い込まれたこと。水天の仕組んだ策で、数歩先で一足飛びで届く勝利が、一瞬で暗闇に消えていく。

 

 だが海人に元々選択肢などなかった。仁実の安否を心配すれば、一時でも早く敵陣に飛び込まねばいかなかった。ここでまつろわぬ神を止めなければ、仁実を捜索する時間が稼げない。

 

 何かないか!? 水天の神力を削ぎ、奴に決定的な一撃を与えられる手は!?

 

「いくら考えたとしても、私に勝つ手立てなどありません。私を殺すことなどできないのですから。大人しく尻尾を巻いて逃げるのであれば、あなたの命までは取りません。その際、あなたの義妹はどうなるかは分かりませんけどね」

 

 水天の降伏勧告も右から左に聞き流し、必死に頭を回転させる海人。

 干ばつにより、民が苦しめられている……?

 何かに思い当たった海人は、聖句を唱えながら槍を天に掲げた。

 

「我は厄災。民草に禍いを齎す者也!」

 

 すると水天の右側から突風が打ち付けた。

 草木を巻き上げる強烈な風に、水天は吹かれる髪を抑えながら両目をつむる。風がやみ目を開けた時見たのは、風の鎧を身に纏う海人の姿だった。

 風が轟々と音を立てて周りにある水をはじき飛ばす。張られていた湯に波紋が広がる。

 その様子を見てもまだ水天は余裕の表情を崩さない。

 

「まだ戦うのですか? 獣でも分が悪いと悟れば退散するというのに、引き際において神殺しは獣より愚かですね」

 

「うるせえ! お前は不死身かもしれねえが、俺はまだ死んでねえ。勝負はこれからだッ!」

 

 

 確かに、勝負はこれからだ。神殺しに挑発を繰り返し、待ちに待った権能を認識し、まつろわぬ水天は警戒を強めた。

 水天は試しに水の鞭を仕掛けてみるも、海人の周りを旋回する強風にはじかれ、接触した場所から水を散らされてしまう。

 即興で思いついたようなのに、なかなかに強固な鎧だ。突き出された槍を体をひねって避けて、水となって散らされる脇腹を見ながら思う。

 だが私を滅するには至らない。まつろわぬ水天は周囲から水を呼び寄せて、己の有利を再確認した。

 痛みは感じない。削り飛ばされてしまった脇腹は再生し、服も元どおりになった。

 

「ちっ」

 

「だから言ったでしょう! あなたに私を滅することは不可能だと!」

 

 そして私は、神殺しに死を与える手立てを持っている。水天は大地に潜っている水も操り、海人の足元から出てくるよう指示した。

 海人の風の鎧の弱点は、足元だ。海人が踏みしめなければいけない足場をさすがに削るわけにはいかないため、足元の防備は留守となっているのだ。

 海人の足元から吹き出た水は海人の足を蛇のように這い上がり、海人の四肢を締め上げた。

 

「うっ……ぐっ……」

 

 圧迫感に海人はうめき声を上げ、槍を握る力を弱め、ほんの一瞬だけ身を守っていた風の力も弱めてしまう。

 その一瞬の隙をついて、水天は風がない海人の懐へと潜り込んだ。そして海人の胴体に手を当てた。

 

「吹き飛びなさい!」

 

 水天の手の平から大量の水が勢いよく発射される。海人は水天の狙い通り、岩場から水が張られた場所まで押し飛ばされてしまう。

 槍は手を離れ、海人たちから少し離れた湯の中に落ちる。

 

 盛大な水飛沫を上げて、湯に落とされる海人。当然、水天の操る水のため、湯が泥のように体中に纏わりついていく。

 だがここで水天は、水の力をさらに強めた。簡単に足が抜けた時のように、力を込めただけでは引き離すことができぬように。

 かくして海人は、地面に水の力で磔にされてしまったのだ。

 

「こっちを向いてくださいな」

 

 四肢を磔にされて身動きが取れなくなった海人。水天が右手を前に差し出すと、手で丸い物を掴む動作をした。海人の顔を挟み込むように水を操作し、水天は力づくで海人の顔の向きを正面固定する。

 水天としては、これから何をされるか分からない、といった海人の怯えた表情を見て、優越感に浸りたかったのだ。

 さぞかし絶望した表情を浮かべていると考えていたが、しかし水天の予想外れてしまう。こんな状態になってもなお、海人は睨みつけてきたのだ。

 

 すると背中から鎌鼬の風が襲いかかってくる。だが水天は水で壁をつくり難なく威力を削ぐ。

そよ風が吹いた。

 

「……いったいどうしたら、あなたは恐怖の感情を見せてくれるのでしょうね」

 

「怖がるわけねぇだろ。お前みたいな神もどき相手に」

 

 水天の突き出された右手が力んで鉤の手となる。海人の顔を挟む力も思わず強くなってしまう。

 

「……どういう意図があったのか聞かせてもらっても? まつろわぬ神は、神に非ずと?」

 

「違う。人質をとったり、罠に誘い込んだり、小細工をするところが神らしくないっていうんだ」

 

「武よりも智略に秀でている神も存在します。策を弄すること決して恥などではありません!」

 

 知らずのうちに水天の言葉にも力がこもり、感情が露わになる。神もどきという言葉は、水天の触れてほしくない逆鱗だった。

 

「策を立てないのは悪いことだとは思わねえ。俺も策に助けられたことがある」

 

 海人もその点は同意した。いまこの時、場の流れは海人が握っていた。

 

「だがあんたは人間臭い。策を用いると楽、じゃなく、策を用いなければ勝てない、って聞こえるんだよ」

 

「黙れ!」

 

 海人の指摘は図星だった。水天は今まで使っていた丁寧な口調すらかなぐり捨てて、仰向けの海人の腹を踏みつけた。

 槍が目前に迫っても余裕の態度を崩さない、優雅さを備えた美女はそこにはいない。顔の皮が暴かれて、中からは真っ赤に顔を染めて怒りに身を任せる女がいた。

 

「あなたに何がわかるというのですか!」

 

 何度も何度も沸き立つ怒りのままに踏みつける。その姿に気品さはどこにも見当たらなかった。

 だが海人に効いた様子はない。真顔で水天を見つめ続けている。それがまた水天の気に障った。

 

「私が! どれだけの、どれだけの苦労を重ねて、ここまで力を取り戻せたと!」

 

 水天は若干息切れしながら、しかし口から出る言葉は脈絡のないことばかり。

 

 まつろわぬ神は、顕現した時代によって権能も容姿も大きく変える。時代が下るにつれて、神として信仰されていたものが全く信仰されなくなってしまうことがある。

 そんな神はまつろわぬ神として顕現し現世に影響を及ぼすことができす、神祖という身に堕落してしまう。

 水天はまさにまつろわぬ神と神祖の瀬戸際にいたのだ。

 

「どうやら相当な苦労があったみてえじゃねえの。人に話せば少しは楽になるかもしれねぇ。どうかな、ここはひとつ俺に話してみねえか?」

 

 海人のその言葉がきっかけとなった。プツンと、水天の中で切れてはいけないものが切れる音がした。

水天は無言で足を退ける。

 

「……終わりにしましょうか」

 

「な、なに!? ちょっとまッ……ガッ、ゴボォ! ……ゲホッ、ゲホッ……」

 

 喋ろうとした海人の口に湯が入りむせてしまった。先ほどまで喋っていた時は問題なかったが、それもそのはず。水天が操り、海人の沈んだ浴槽は水位が明らかに上がっていた。

 水天の思惑は明白で、終わりにしようと言った通りに窒息させ、海人の息の根を止めようとしているのだ。

 

 海人は縛られた四肢を動かしてじたばたともがき、湯を飲み干しながら懸命に言葉を繋げた。

 

「……俺はッ、ゴホッ……こんなんじゃ、死なねぇぞ!……」

 

「それが辞世の句ですか?  なんと素質がない……」

 

 水天はダメ押しに水位を引き上げた。海人の頭は完全に沈み、新たに酸素を取り込むことができない。

 溺死、窒息死は最も苦しみを味わう死に方だ。心臓に酸素が送られなくなり、肺に水が入り引き裂かれるような熱さを感じる。そして体の酸素もなくなり考えることもできなくなり、意識にだんだんと靄がかかって、ついには死に至るのだ。

 

 海人の抵抗する力が、徐々に弱まっていく。激しかった手足の動きも衰えを見せており、水天は神殺しの死を確信した。

 その時、事態は変化した。

 

 

 

 

 脳に酸素が回らなくなり、朦朧とする意識の中、海人は最後まで諦めることはなかった。意識が途切れる寸前まで、ひとつの勝ち筋に賭けていた。どんなに低い確率でも力づくで勝ちをもぎ取る神殺しの性質が、そこには表れていた。

 

 海人は賭けに勝った。

 

「ガホッ! ゲホッ、ゲホッ……」

 

 海人は水を吐き出し、意識を取り戻した。ゆっくりと上体を起こすと、右手で槍の感触を確かめながら辺りを見渡した。

 わなわなと震える水天を傍目に見ながら。

 

「そ、そんな……水が……」

 

 見渡せる光景と水天の反応を見て、海人は賭けに勝ったと実感した。何より心の音が聞こえることが、あの状況で生き残れたと伝えてくるのだ。海人は水の鞭に打たれて痛みを訴える体に喝を入れ、槍を杖がわりにしながら勢いよく立ち上がった。

 

 海人とまつろわぬ水天の周囲の大地は一変していた。

 水がない。

 二人がいる巨大な浴槽に張られていた湯は姿を消し、岩盤の底が露出していた。大地を覆っていた水が、海人が窒息し失神する前に突如として消滅してしまったのだ。

 

 これこそ海人が、水天に唯一勝てると考えて賭けた手段だった。

 海人の権能は、人間が神の神罰だと恐れる自然現象を起こし、それを自在に操ること。民衆が恐れるものであれば力の限り起こせるが、民衆が恐れなければどうやっても起こせない。

 海人はこの場所で、干魃を起こしたのだ。

 恐山への道中で出会った民が雨乞いをしていたことから、干魃を起こせる自信はあった。だがそれでまつろわぬ水天の力を削げるかどうかは不安なところだったのだ。

 

 だが不安は杞憂に終わった。

 まつろわぬ水天は権能の大部分が水に関係するものであり、水に頼り切っていた。体を液体に変え再生することもできないし、水を自在に操って攻撃することもできない。権能のない水天は戦闘において、平均より腕力の弱いただの女性だった。

 水を失ったことで力のほとんどを削がれ、今の水天はまさに陸に上がった魚も同然だった。

 

 現実を認められずうろたえる水天に焦点を合わせ、海人はゆっくりと歩み寄る。

 槍を携え近づく鬼を見て水天は、ついさっきまでの冷徹で触るだけで人を殺しそうな態度はどこに行ったのか、恐ろしいものでも見るかのように後ずさる。

 

「ま、待ってください。話、話し合いましょう。私達は良き隣人になれます」

 

「そうして俺が油断したところで、背中から刺すのか」

 

 窮地に陥ったと思えば、真っ先に命乞いをする。逆転の策を思い浮かばないのであれば理解できるが、海人は水天をますます神だとは思えなくなった。

 

「あいつは……八郎太郎はもっと潔かった! 命尽きるまで足掻こうとは思わねぇのか!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃッ!」

 

 まつろわぬ水天は情けない悲鳴を上げてその場でうずくまる。

 これ以上は見ていられない。水天に容赦なく槍を突き刺し、胴体を貫く。海人は念じると槍から鎌鼬の風が発されて、水天の体を切り刻む。

 爆発四散し、水天は物言わぬ水滴となって飛び散った。

 海人の顔にも飛び散る。その水天だった水滴は海人が拭う前に大気に溶けた。それは超常現象でもない、ただの自然現象だった。

 

 ドクン、と海人の心臓が大きく跳ねる。

 海人は己の体に、何かが流れ込む感覚を覚えた。おそらくこれが権能なのだろう。

 人間のような感情を持ってはいたが、水天は確かにまつろわぬ神だった。この流れ込む権能がその証だ。それと同時に、この感覚はまつろわぬ水天が討滅された証となる。

 

 海人ははっきりとした手応えと共に、ここに来た第一の目的を思い出す。

 即ち、仁実の救出。

 海人はここに来るのに通った道を、全速力で駆け戻って行った。

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