マサラタウン。
何色にも染まらない真っ白の町。
その町外れ、小さな家にその人は住んでいる。
「おぉ、よく来たな。君がナツメくんの居候か」
「初めまして。オーキド博士」
「コパッ!!」
「おぉ、このポケモンはコンパンじゃな」
「はい。ナツメさんからもらったポケモンです」
「おぉ、ナツメくんが。それは良かったのう」
なんだろう。この人。
話し始める時に絶対「おぉ」って言う。
「まずは、これをお返しします」
「おぉ、ポケモン図鑑か。ナツメくんから話は聞いておったが本当にいいのか?」
「はい。頂けるのはありがたいんですけど、やっぱり自分には荷が大きすぎる気がするので」
「おぉ、欲がないトレーナーじゃな。じゃが、それではこの先勝ち進むのは大変じゃぞ?」
「ご忠告、ありがとうございます。でも、ぼくは最強のトレーナーになるとかそんな気はないんです」
「おぉ、なぜじゃ?」
「僕はあくまでも楽しく過ごせればいいんです。バトルもそんなに好きではありませんし」
「おぉ、珍しいトレーナーじゃの。じゃが、ワシはそれも良いと思うぞ」
「ありがとうございます」
「おぉ、礼儀正しいのぉ」
「突然ですか、質問していいですか?」
「おぉ、なんじゃ?なんでも聞きなさい」
僕はすっと博士の後ろを指差して言った。
「なんで、さっきからレッドさんが後ろで隠れているんですか?」
「ヒッ‼︎」ビクッ
「おぉ、アレか。気にせんでもいいぞ」
「いや、物凄く気になるんですけど。初対面じゃないですよね?」
「おぉ、しかし最後に会ったのが3日以上前じゃろう?そうしたら、人見知りのレッドからしたら、初対面も同然じゃ」
「3日って・・・。ほとんどの人が初対面になるじゃないですか」
「おぉ、レッドのことをそこまで気にかけるなんて優しいトレーナーじゃな」
「いや、そういうことじゃなく・・・。いえ、もうなんでもないです・・・・・・」
あれでも、最強のポケモントレーナーなのか・・・・。
人見知りとかそれ以前に対人面で人生おわっt・・・・なんでもない。
「それでは、図鑑も返したんでそろそろ出発しますね」
「おぉ、分かった。気をつけるんじゃぞ」
「はい」
「おぉ、そうじゃ。ポケモン図鑑を受取らんでもこれを渡しておこう」
「何ですか?」
「おぉ、モンスターボールじゃ。これぐらいなら受取ってもらえんかな?」
「・・・・・・ありがとうございます」
マサラタウンの北。1番どうろ。ここを抜ければトキワシティにたどり着く。
トキワシティにはジムリーダーがいるらしいのでまずは打倒トキワジムリーダーを目指すとしよう。
あっ、目の前の草むらが物凄い勢いで揺れている。絶対なんかいる。
どうしよう。とりあえず、コンパンをボールからだすか?でも、ボールの開閉音でばれそうな気がするなぁ。
やっぱり、ここは見なかったことにして素通りしようかな。向こうも気づいてないし・・・・・・。
そうと決まれば、ともかく回れ右だよね。
「ラタァ~?」
「・・・・・・こんにちは」
ラッタと目が合った。
近い。10センチ弱ぐらいの距離。近い。
なぜだ。なぜこの至近距離にラッタがいる?
まぁ、恐らくは背後から近寄ってきたのだろう。忍び足的なもので。
でも近い。
こいつがここまで近づいてきた目的は何だ?
っていうかさっきから物凄い前歯ガチガチいわせてるんですけど。怖い。
「コラッ!」
「!?」
背後から声が聞こえた。
多分、草むらの中にいたあいつなんだろうけど鳴き声からして完全にコラッタだよね。
もしかして、これはラッタたちの罠かな?
こっちがコラッタに気をとられてる間に後ろからラッタが襲ってくるみたいな。
だとしたら怖いな。1番どうろ。いきなり戦略的なポケモンばっかりじゃないか。
名前は1番とか初心者向けみたいなくせに、こんなの聞いてないよ。
「コラ?」
「コラッ!コラッ!」
「コラァ?コラァ!」
まじか。周りの草むらから続々とコラッタが出てきたんだけど。
このままだと旅の終わりがラッタ家のご飯ルートでエンディングを迎えてしまう。
嫌だ。そんなエンディング、真剣に嫌だ。
ボムッ!!
「コパッ!!」
「コンパン!?」
コンパンがボールから飛び出してきた。
おいおいおいおいおおいおいおい。マジかよ。この数相手にする気かよ。
「やめろコンパン!!」
「コパッ!コンパン!!」
なんてこった。やる気満々だ。
こうなったらこっちも腹くくるしかないじゃないか。
「ラタァ~?」
「コパッ!」
「ラタタタタ!」
「コパッ?コーパッ!!」
「ラタッ、ラッタ!」
「コパ~!」
「・・・・・・会話は済んだか?」
「コパッ!コパァ!!」
「よし、じゃあいくぞ」
まずはラッタが突っ込んできた。ってはやっ!?
「ラタッ!」
「パァッ!」
「コンパン!」
コンパンが大きく突き飛ばされる。
『でんこうせっか』か。今のコンパンじゃかわしきれないし、防御もできない。
だったら・・・・
「ラタッ!!」
「また突っ込んできたな、芸のないやつめ!コンパン!『かなしばり』!」
「コパパパパ!!」
「ラタァ!?」
ラッタの動きが一時停止する。うまくいったようだ。
「コンパン!すかさず『たいあたり』だ!」
「コパッ!」
「ラタッ!」
「なっ!跳んでかわした!?」
「ラ゛ダ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」
「コパァ!?」
「なにっ?『こわいかお』だと!!」
すばやさを下げられた。ということは・・・・・
「ラタァ!ラタァ!」
「コパッ!コパッ!」
「コンパン!!くっ、ダメだ!逃げろ!」
『でんこうせっか』の餌食になってしまう。
「コンパン!ラッタから距離をとるんだ!」
「コパッ」
「コラッ!」
「コラッタ!コラッタ!」
「コンパッ!!」
「コンパン!!大丈夫か!!」
いつの間にかコンパンとラッタの周りを数十匹のコラッタが囲んでいた。
周囲を囲まれてしまっては逃げることも叶わない。
そしてコラッタたちはコンパンが近づくと『かみつく』を繰り出してくる。
このままではコンパンのHPがなくなってしまう。
本当にここ1番どうろかよ。最初のバトルからハードすぎる。
「くっ、どうしたらいいんだ・・・・・・」
「少年!コンパンを気合でボールにしまえ!」
「へっ?はっ、はい!戻れ、コンパン!!」
「コパ~」
「よし。ピジョット!『ふきとばし』!」
「うっ」
あまりの強風に思わず、腕で顔を隠し、大またで踏ん張る。
その視界の端で
「ラタァ~!?」
「コラァ~!?」
ラッタとコラッタたちが一匹残らず『ふきとば』された。
「うそだろ・・・・・」
『ふきとばし』はポケモンを強制的に交代させる技。だから普通は一体のポケモンぐらいしか吹き飛ばせない。
だが、今の『ふきとばし』は大量のラッタたちを一発で吹き飛ばしきった。
それだけで、放ったポケモンのレベルの高さが伺える。
「前はあんな奴、出てこなかったんだがな。全く。少年、怪我はないか?」
「はい・・・・・・!コンパン!」
「待て、ボールを見せてみろ。・・・・HPが残りわずかだな」
「どうしたらいいですか!」
「お前はトキワに行くつもりか?」
「えっ、そのつもりですけど」
「じゃあ、俺も一緒に行こう。俺もトキワに行こうと思っていたからな」
「ありがとうございます!ってあなたは!」
「ん?なんだ」
「トキワジムのジムリーダー、グリーンさんじゃないですか!!」
どたばたしていて気がつかなかったがこの凄まじいツンツン頭は見間違えるわけがない。
「あぁ、そうだが。お前、確か・・・見たことあるな」
「ユランです。ヤマブキジムでナツメさんにお世話になっていた・・・・・」
「ナツメのところの居候・・・・・・・・・・・・・・してたやつか」
「グリーンさん。うっかり、居候って言ったあとに「しまった」って顔でしばらく沈黙しないでください」
「お前、何でこんなところにいるんだ?」
「スルー・・・・・・今、僕旅してるんですよ」
「旅?なぜ?」
「ナツメさんは僕にポケモンマスターになって欲しいらしいんですけどね」
「その口ぶりだとお前はなりたくはないのか?」
「はい」
「お前自身は何で旅をしてるんだ?」
「何ででしょうね?」
「・・・・・よく旅する気になったな」
「本当ですね」
「まぁ、ナツメはあれでいて結構強引なところがあるからな」
「よくご存知で」
なんやかんやで話してるけどこの人と話すの初めてだなぁ。
ナツメさん以上にクールキャラをぶっ放してたから話しづらい印象だったけどそんなこともないな。
まぁ、この人の場合クールキャラなんじゃなくて本当にクールな性格なんだろうけど。
「ジムに挑戦はするのか?」
「一応そのつもりです」
「そうか。ところでこの後こっちに来るつもりなのか?」
「えぇ。そのつもりです」
「ところで今、バッジの数は?」
「ゼロです」
「・・・・・・何?」
「ゼロです」
「お前、それで俺に挑戦する気なのか?」
「だめなんですか?」
「・・・昔の話なんだがな」
えっ、この人急に昔話始めた。怖い。
何で語りだしたんだよ。怖いよ。
「俺の前のトキワジムリーダーはカントー最強のジムリーダーだったんだ」
「カントー最強?」
「あぁ、俺も戦ったが本当に強かった。今の俺でさえ勝てるか分からない。それほどの相手だ」
「そんな人がいたんですね・・・・・・」
「俺はトキワのジムを受け持つときに決めたことがある」
「決めたこと?」
「先代のジムリーダーよりも強いポケモントレーナーになる」
「それで?」
「どういうことか分かるか?」
「え?」
「最強だったジムリーダーを越えると言っているんだ」
「それは・・・・・・」
「そんな志を俺は持っている。お前は俺に勝てる自信があるか?」
「えっ」
「お前は俺に100パーセント勝てる自信があるのかと聞いているんだ?」
「いえ・・・・それは」
「ないんだろ?」
「・・・・・・はい」
「トレーナーとしてだけじゃなく人としても失格だな」
「!?」
「俺には覚悟がある。プライドがある。お前にはそれがあるのか?」
「ないです」
「俺はそんな奴と戦いたくない」
「・・・・・・・」
「もちろん、ジムとして挑戦者を拒むわけにはいかないから挑戦は受けるが
一人のトレーナーとしてお前と戦う気は全くないな」