とある日曜日、店には1人の客しかいなかった。
その人はパソコンを使って何かをしていた。それだけならまだいいのだが、もう3時間も店に居座り続けている。迷惑もかけてないので別に構わないが、あの客はまだ何も注文をしていない。
八千代さんが何度かご注文は?と聞きに行くが、大丈夫です。と言うので3度目で聞きに行くのをやめたと言っていた。
「あの客、なにしてるんだろーな」
五十嵐が皿を洗いながら小鳥遊に問いかける。
「詮索は良くないですよ。別にいいじゃないですか」
小鳥遊は客を気にしていなかった。それもそうか。
「相馬さんはどう思います?知らない客だけどまさか秘密を知ってたり……」
「さすがにお客のことは知らないよ?けど注文したらなんとなくはわかりそうだけどね」
「……は?」
また相馬さんは意味深なことを言っている。当然五十嵐には何が何だかわからない。
「まぁ…いっか。仕事を済ませよう…」
五十嵐は足早に去っていった。
その後、例の客は2時間たっても注文をすることはなかった。
さすがに違和感を感じた五十嵐は店長に聞いてみることにした。
「店長、例えばですけど何時間も何もしないお客のことをどう思います?」
「別に、なんかしなきゃどうでもいい」
小脇にポテトチップスを抱え、五十嵐を見ることなく目の前のお菓子をひたすら見ながら食べる店長の姿は、普通の店ならありえない光景だった。
「……そうですか。何となくわかってたけど」
「なんだよ。文句でもあんのか?」
「ないです」
即答するしかなかった。
「あのお客さん、まだいるね」
種島さんも全く興味が無いわけでもないらしく、五十嵐と休憩室でお茶をしながらこうして会話をしている。
「そうですね。なんかの習い事をサボりにここに来てるんですかね。俺も昔やりました」
「そ、そんな嫌なことをやってたの?」
「ええ、昔格闘技をやってて、痛いのがイヤでサボるときに近くの本屋でずっと本読んでました」
「痛いのはイヤだよね!」
「あ、そろそろ休憩交代ですね。行きましょうか」
「そだね。行こっか!」
元気よく種島さんはホールに向かうが、五十嵐はのそのそと遅めにホールに向かった。
「おや、どうしたんですが五十嵐さん。考え事ですか?」
「いや……本の話してたら最近発売された本買ってないな…って思い出して、今日買いに行こうか迷ってるんだよ」
「どんな本読むんですか?」
「基本的に面白ければなんでも読む。恋愛小説とか、時代劇的なものとか、ライトノベルとか。最近は恋愛小説でこの人が面白いんだよ………」
(あ、泉姉さんのこと言ってる。五十嵐さんでもこーゆーの読むんだ)
「そうなんですか、結構意外ですね」
「まぁね。趣味なんて人それぞれだし」
◇◆◇◆◇
五十嵐が仕事に戻って30分後、呼び出しボタンを使うことなくお客が店員を呼んだ。
今現在ワグナリアにはこの客しかいないからやったのか、種島さんがその卓へと向かった。
「種島さん。どうでした?」
戻って来た種島さんに五十嵐は声をかける。
「……あの人の注文、多すぎてなんども聞いちゃった」
「は?多すぎてって…?」
「チーズ風ドリアにスパゲティ3つ、ステーキにその他諸々……」
「普通の人にしては食べる量が多すぎやしませんか?」
「さとーさん、これお願い!」
「おう。それにしても多いな」
「やっぱり多いよね!大食いさんなのかな?」
さすがに量が多いので、作る時間もかかるので、簡単なものから出してお客を待たせないようにはした。
のだが、全部食べ終わると客はまた注文をする。
「いや……食べ過ぎですよあの客。俺も注文を何度も聞き直しましたもん」
「そうだよね!多すぎるよね!」
「なに?また注文か?俺も疲れてきたんだが…」
「いや、俺も疲れたよ!?佐藤くん、もしかして、俺に全部仕事押し付ける気?」
「それ以外になにがある」
「ひどいよ……」
相馬さんはそれだけをいうと、黙々と調理にかかった。
それから再注文をしては食べ、再注文をしては食べ……と繰り返していると、皆流石に違和感を感じた。
すでにお金は何万もかかるほどになっているにもかかわらず、平気で注文する客。
これは怪しい匂いしかしない。
この状態は間違いなくアウトだ。そう。無銭飲食、というやつだ。
無銭飲食は代金を払う意思がないのに注文をし、お金を支払うことなく店を去る犯罪行為だ。
店員側はお金を持ってること前提で注文を受けるのでそれを騙して料理を食べてることは、詐欺罪に当たるとのことらしい。
そんな法律的なお話なぞどうでもいいのだ。
問題は客が本当に無銭飲食する気なのかどうか。
「……もしかしてあの客、お金持ってない?」
「え!?それって」
「タダで店の物を食うだと……!?許せん」
「店長、鏡見ます?」
小鳥遊は鏡のある部屋を指差すと、店長は小鳥遊の首を締めあげようとする。
「いだだだだだ!嘘です!嘘じゃないけど」
「ただ、店のものを食うのは許せん」
「それは客の存在を否定する事になるような気がするんですが」
「とにかくだ。怪しくないように払う意思があるかを聞きに行ってこい。五十嵐」
一番やりたくない役だというのに、店長からの命令とならば仕方がない。
「はぁ……絶対バレるわ」
トボトボと歩いて行くと、また例の客の席が注文をしてくる。
「はい。ご注文は」
「これと…これと、あとこれも」
「お客様、申し訳ございませんがこれ以上のご注文はご遠慮いただきたいのですが……」
「あぁっ!?何でだよ!俺は客だぞ?お前に言われる筋合いはないっての」
「だとしてでもです。今現在の金額を見ていただいても普通ではあり得ないような状態なのです」
「お前!まさか俺が無銭飲食するとでも思ってんのか!?」
「誰もそんな事言ってないですよ」
なんという誘導尋問。そうしたつもりは無いが勝手に自爆してくれた。
「まさか、無銭飲食するつもりでは無いでしょうか。間違ってたら申し訳ありませんが」
「てめぇ!!」
客は五十嵐の胸ぐらを掴み、五十嵐は持っていたおぼんを落とす。
周りには誰もいないが、店長達がこの状況を見ていた。
心配しているようだが、相変わらず店長は腕を組んでいるだけだった。
「殴るんですか?俺は別に構わないですが、これ以上罪を重ねるのはどうかと思いますよ。どうせ、俺を殴った後店を出るつもりだったのでしょう。なんなら今ここで大声をあげて店長に報告してもいいんですよ。どうします?」
これだけカマをかけるのは、この客が完全に無銭飲食をしていると確信しているからである。
無銭飲食してるだなんて一言も言ってもいないのに勝手に自爆している時点で怪しいとは思っていたが、これだけ怒っていたらもう事実なんではないのかと思うのも無理はない。
そして客はキョロキョロと周りを見る。どこに店長がいるのかを気にしている。
残念ながら店長はあの客が来てからホールに出たことはない。だから客はまだ店長の顔を知らない。
「くそッ…!!!」
客は掴んでいた手を離し、店の入り口まで逃げる。が、
「店のものをタダで食うなど許さんぞ」
店長が入り口のドアの前で待ち構えていた。
店長としてのセリフなら完璧なのだが、この店長のセリフなら飯を大量に食べてることに怒ってるだけの人に見えてしまう。
「くそッ!店長か!ただ女なら好都合。ボコボコにしてや………!?」
ボコボコにされるのは、無銭飲食の客だった。
それもそのはず、店長は元ヤンで過去にギリギリのことをしたらしく、その強さは計り知れない。その辺の無銭飲食客など、返り討ちにされてしまう。
「な、なんだこいつら……!怖気づくこともなく、戦う気満々じゃねぇか!こんな店……二度と行かねぇぞ!!!」
「待て、有り金全部出せ」
◇◆◇◆◇
客が持っていた金額は100円で、何も頼めないのにあんな威勢良く頼んでいたのかよと思うと、なんだか悲しくなる。
今客は何をしてるかというと……。
「どうぞ。『貴方』が食べた皿です。さぁ、洗ってくださいな」
「ひぃいいい〜〜〜!こんな店二度と行かねぇぞ……」
果てしない量の皿を洗っていた。
こんなに重労働させてかわいそうとは思わないし、むしろ優しい方だと思う。普通なら警察を呼んでもいいレベルなのに、これだけで済ませる店長は結構いい人だ。それまでの過程はひどかったが。
「……お疲れ様です」
従業員用入り口から、ある女性の声がした。
客はその声の元へ向かい、挨拶をしに行った。
だが、
「きゃぁあああああ!!!男〜〜!?」
店長よりも強烈なパンチを浴び、客は倒れてしまった。
「もう……勘弁…して、くだ……さい」
そう言うと、男は気絶してしまった。
「……この人、大丈夫?」
「やったことを考えれば、当然の事なんじゃないですか?よくわかりませんけど」
「……??」
何日か経つと、例の客は代金を全て支払い、二度と店に来ないと誓い姿を消した。
なんか面白いことないかなと思いwikiでWORKING!!のことを検索したら、どうやら食い逃げ犯のお話がドラマCDかなんかであったらしく、それをベースに書きました。
大まかなストーリーしか知らなかったので結構誇張したりしましたけど、なんとなくはあってるはずです。
今週からテスト1週間前で忙しくなるんですけど、人間忙しい方が充実してるもので、今週中にもう1話出せそうな予感がします。ただ過度な期待は……って、する人いないか。
またのご来店、お待ちしております!